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遼州戦記 保安隊日乗 今日から僕は 20

 それから誠の『歓迎会』と称する5日連続の饗宴が仕事が終わるたびに開かれた。
 2日目はマリアの警備隊のウォッカ攻め、理性が崩壊するのに30分とかからなかった。
 次の日は明華の技術部のイッキ強要、気がついたときには下士官寮の自分の部屋に裸で寝かされていた。
 次の管理部はシンがイスラム教徒と言うこともあって、山盛りのカレー攻めにあった。少なくともこの日が休養になる筈だったが、調子に乗って胃腸が壊れかけているところに馬鹿食いして腹を下した。
 そして最後が酷かった。誠はリアナのリサイタルで繰り返される電波系演歌に付き合わされて徹夜した自分を偉業を成し遂げたように褒めてあげたいと思った。そしていつの間にか夜中には消えていたブリッジクルー達を恨みながらハンガー前まで来た。
「出たな!怪人!」 
 仮面ライダー一号の格好をしたシャムがいきなりそう言うと襲い掛かってきた。
「ライダー切りもみシュート!」 
 シャムの飛び蹴りが誠の顔面に入った。誠はぶっ飛ばされてハンガーにしたたか頭をぶつけた。音を聞きつけて整備員と機体のチェックをしていたカウラが駆けつけてきた。
「大丈夫か!神前少尉!」 
 カウラの悲しげな叫びが心地よく聞こえるのを感じながら誠は意識を失っていった。

「ごめんなさい……」 
 シャムがすまなそうに詰め所の応接用ソファーに横になっている誠に向かって頭を下げた。隣に立っている要は軽蔑するような視線を目覚めたばかりの誠に向けてくる。そのまま穴にでも隠れてしまいたい。誠はそう思いながら目を腕で覆った。
「ったくだらしのない奴だぜ。どうせシャムの飛び蹴りなんてまっすぐしか狙ってないんだから簡単にかわせるはずだろ?それを直撃食らってのびましたーなんて。それでよくウチに来たもんだな」 
 心配そうな顔を誠に向けていたカウラが要をにらんだ。
「西園寺!言いすぎだぞ!」 
「へいへい、隊長さんは部下思いでいらっしゃること」 
 そう言うと要は不満げに自分の机のところにまで戻ると椅子に乱暴に腰掛け、机の上に足を乗っけた。椅子のきしむ音が響く。誠は自分がいる場所がわかって安心すると、そのまま上体を起こした。
 そして誠は詰め所の中を改めて眺めてみた。
 時代遅れの事務机、書棚には『始末書・西園寺要』と書かれたファイルが並んでいるのが目に入る。シャム以外の第一小隊の面々は明石が難しそうな顔をしてクロスワードパズルを解いている。その隣の吉田は要と同じく足を机の上に乗せて、風船ガムを膨らませながら貧乏ゆすりをしていた。
 まったくこれが遼州系最強の機動実働部隊の詰め所の風景とはとても思えなかった。
 せめて自分くらいは……そういう思いが誠を奮い立たせて痛む首筋をさすりながらソファーから起き上がらせた。
「大丈夫か?」 
 心配そうにカウラがよろける誠を支える。
「なんだ、心配することないじゃん。それにしても暑いなあー……こういう時、新入りなら何かしようって思うんじゃないのかなあ……」 
 暑さで不機嫌な要が大声を上げる。
「西園寺!貴様!」 
 立ち上がろうとする誠を制するとカウラは要の席の隣に立ち机を叩いた。
「良いんですよベルガー大尉。食堂に行ってアイスとって来ます」 
 そう言うとカウラの心配そうな顔をこれ以上曇らせまいと誠は立ち上がった。
「そりゃ無理だ。どこかのチビが昨日全部食っちゃったからなー」 
 そんな要の言葉に明石と吉田も顔を上げてシャムの方を見つめた。
「えー!あたしが悪いのー?」 
 シャムが不満そうにそう叫んだ。
「そうだ、お前が悪い。もう一回明華の姐さんのところ行って謝って来い」 
 足を机から下ろして吉田がそう言った。隣で明石が腕組みをしながら頷いている。
 シャムはそのまま潤んだ瞳で誠を見つめる。どう見ても子供にしか見えない彼女にそんな目で見られることは誠には耐えられなかった。
「分かりました!工場の生協まで行けばいいんですね!シャム中尉、カブ借りますよ」 
「それなら俺はカキ氷……出きれば着色料バリバリの奴で」 
 すかさず吉田が叫んだ。
「じゃあワシはモナカ。小豆じゃなくてチョコだぞ」
 そう言うと明石はクロスワードパズルを再開する。
「アタシはチョコの奴ー!」 
 鳴いたカラスと言う風に、すっかり元気になったシャムが元気良く答える。カウラはオロオロとそんな様子を見ているだけだった。
「カキ氷とモナカとチョコアイスですね。西園寺さんは何にしますか?」 
 誠は半分むきになってきつい調子でそうたずねた。しばらくの沈黙の後、眼を伏せるようにして要はつぶやいた。
「イチゴ味の奴」 
 カウラはぶっきらぼうな要の言葉に肩をすくめた後、財布から一万東和円を取り出して誠に渡した。
「じゃあ私はメロン味のにしてくれ。これで間に合うはずだ」
 誠はなぜか釈然としない空気を抱えたまま詰め所を後にした。

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遼州戦記 保安隊日乗 今日から僕は 19

 シャムは嬉しそうにリアナからもらった一口を食べるとそのままビールを飲み始めた。
「ったく卑怯者め。いざとなったらお姉さんを頼りやがって……そうだ、新入り!注いでやったからこれ飲めよ」 
 要がいつの間にか掠め取っていた誠のグラスにビールを注いだものを差し出した。
「すみません。気がつかなくて……」
 頭を下げながら焼けた豚玉にタレを塗り青海苔と鰹節を散らす。
 要はそんな誠を見つめながら満面の笑みで誠を見つめていた。 
「良いってことよ!今日はお前が主賓なんだから……ほらぐっとやれ!ぐっと!」 
 誠の酔った舌ではその液体の異変は気づくことも出来ず、ビールらしきものは誠の胃袋の中に納まった。
 そこへ遅れてきたシンが書類ケースを抱えたまま座敷に入ってくる。シンは手前のテーブルでアイシャに愚痴を言いながら泣きはじめているパーラに絡まれないように部屋の端を歩きながら嵯峨や誠のいる上座までやってきた。
「相変わらず修羅場ですねえ。そうだ隊長!印鑑持ってますか?いくつか決済が必要な書類があるもので……」 
 そう言うとシンは書類ケースの開けて書類の束を取り出した。
「今じゃなきゃだめなの?」 
 春子の笑いを取っていた嵯峨がめんどくさそうにシンを見つめる。
「昔の人も言ってますよ。今日できることは明日にのばすなと。持ってるんなら三枚ほど書類に印鑑押してもらいたいんで……シャム!邪魔だからちょっとどいてくれ」
 先ほどの豚玉のお礼にとリアナにビールを次に来ていたシャムに声をかける。
「シン君は本当にまじめね。でもせっかくのこう言う機会に仕事の話は無しにしましょうよ」
 そう言いながらリアナは仕事の話を始めた二人に呆れたような視線を送るが、まじめなシンはそれを無視してそれぞれの書類を纏めて印を押す場所を指差した。
「はいこれでおいしくなるよ!」
 シャムはそう言いながらリアナのお好み焼きを叩き始めた。 
「シャムどいとけよ。主計大尉殿を怒らせると次のボーナスどうなるかわらんぞ?」
 吉田が茶々を入れたのを合図にシャムはそのまま名残惜しそうにリアナを見つめると、彼女からもらったたこ焼きを持って自分の席に戻った。
「それと隊長ちょっと良いですか……」 
 書類を渡しながらシンはそういうと一言二言耳打ちをした。
 誠はそんな様子を見ながら、次第に周りの世界が回りはじめるのを感じていた。ゆがんだ誠の視界の中でも時折シンから目を反らして嵯峨が複雑な表情を浮かべながら自分を見ているのが分かった。
 そして要から受け取ったビールのようなものを飲み干すと、はじかれたように誠は立ち上がった。
 回る世界。焼けるような喉。誠の意識はまったく朦朧として、自分でも何をしているのか、なぜここにいるのかわからなくなる。
 そして中で何かがはじけた。
「一番!神前誠!脱ぎます!」 
 手を上げて宣言する誠を座敷にいる全員が注目した。
「脱げー!早く脱げー!」 
 下座で様子を伺っていたアイシャが叫んだ。
 要も待っていましたとばかりに口笛を吹いてあおってみせる。
「西園寺!貴様、さっきのビールに何か細工したな?」
 リアナは誠を座らせようと立ち上がりながら要をにらんだ。 
「そんなこともあったっけなあー。それより新入りが脱ぐって言ってるんだ。上司として関心あるんじゃないの?」 
 ラム酒を口に含みながら満足げに要はカウラを振りほどこうとする誠を眺めていた。
「何を馬鹿なことを。やめろ!シン大尉。あなたからも言ってください!」 
 カウラは懇願するように淡々と書類を確認しているシンに向って言った。
「馬鹿だなあ、こういう時は……」 
 そう言うとシンは立ち上がって誠のそばまで行った。そして誠が何かを言おうとするまもなく鳩尾に一撃をかました。ズボンに手をかけようとしていたそのまま誠は意識を失っていくのが自分でも分かった。
 カウラとアイシャの叫び声が彼の消え行く意識の中に響いていた。

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遼州戦記 保安隊日乗 今日から僕は 18

「はいお待たせしました。小春!シャムちゃんの豚玉は3倍盛のだからね」 
 お好み焼きの具とたこ焼きを乗せた盆を持ったまま器用にすり抜けて歩いていく。誠はそれにどことない色気を感じて眼を伏せた。そんな誠に微笑を浮かべてお春は誠の隣に座った。
「あら、ビール空いているのね」 
 そう言うとお春はビールの瓶を持つ。照れながら誠がコップを持つと彼女はゆっくりとビールを注いだ。
「神前君でいいのよね。うちは本当に新さんにお世話になりっぱなしで……」 
 微笑んだ目元に泣きぼくろが見える。
「そう言えば何で隊長は新さん何ですか?」 
 誠が言葉をかけるとお春は楽しげに嵯峨の方に視線を飛ばした。
「昔ね、世話になった時に椎名新三郎って名前で自己紹介したのよ。どうもその時のことが忘れられなくて……。ああ、そう言えば私達の紹介もまだだったわね。私が家村春子、この店の女将をしているの。それであの子が小夏。中学二年生だったわよね?」 
 そんな春子の言葉に小夏は口を尖らせた。
「お母さんだったわよねじゃ無いでしょ?」 
 小夏にそう言われると春子も右手で軽く自分の額を叩いた。
「ごめんね、小夏」 
 そう言いながら今度は烏龍茶を手に春子をにらみつけていたカウラに向かう。
 カウラは戸惑いながらもコップを差し出した。
「おい新入り!おめえロリコンだけじゃなくて年上好みなのか?」
 そのままビールを持って明華達のテーブルに向かう春子の背中を見ながら要は誠の首根っこを押さえてその耳元にささやいた。 
「聞こえてるわよ要ちゃん。じゃあ要ちゃんは烏賊玉で……」
 その言葉を聞くと小夏が嬉しそうにお好み焼きの入ったお椀を要の前に置いた。 
「やめろ!アタシは軟体動物が苦手なんだ!」
 そう言うと要はそのお椀を誠の前に置きなおす。 
「そうだよ。要ちゃんたらこの前せっかくクレクレタコラの着ぐるみ作ってあげたのに全然着てくれないんだから……」 
 シャムは豚玉を鉄板に乗せながらそう言った。
「シャム……お前、やっぱ病院行って来い!蛸じゃなくてもアタシは着ぐるみなんて着ないんだ!」 
 その二人の光景を見るためか、それとも春子に近づく為か、嵯峨は不意に立ち上がると小夏の隣に置かれたお好み焼きの具の入ったお椀を乗せた盆を要の前に置いた。
「要坊。先輩にそんな口の利きかたないだろ?さあ誠。ウチの隊じゃあ遠慮は厳禁だ。豚玉、烏賊玉、ミックス、野菜玉、好きなの選べや」 
 嵯峨がテーブルに置いた盆の上のお好み焼きの具を誠に見せて勧める。誠は特に嫌いなものは無いので、手前にあった豚玉を取るとこね回した。カウラは烏賊玉、要は誠の豚玉をモノ欲しそうに一瞥した後、野菜玉を手にした。
「神前少尉。ここのお好み焼きは関西風だが、特にタレが秀逸なんだ。春子さんの手作りだからな」 
 ようやく話題をつかめたというように、カウラは豚玉を鉄板に拡げるのに熱中している誠に話しかける。
「そうなんですか。それは楽しみですね」 
 誠はカウラが自慢げに鉄板の隣に置いてあるタレの中につけてある刷毛を取り上げて見せた。誠はそれを見ながら具材を満遍なく鉄板の上に拡げ終わると春子が注いでくれたビールを飲み干した。
「そういやカウラ。テメエなんでいつも烏龍茶なんだ?付き合い悪いよなあ……この女は」
 要が絡み酒でそう言ってくるのを無視してカウラは烏賊玉をひっくり返した。そのタイミングを見計らったようにコテを持ったシャムがひょいと現れ、ぽんぽんとその表面を叩いた。カウラは鋭い目つきでシャムを睨み付ける。
「こうやって叩くと美味しくなるんだよ!知らなかった?」 
 あっけらかんとした調子でシャムは今度は要の野菜玉を叩き始めた。
「テメエ!お好み焼きを叩いたら歯ざわりが悪くなるじゃねえか!お前のはこうしてやる!」
 怒り出した要が立ち上がるとシャムと吉田の座っているテーブルまで出かけて、自分のこてで力任せにシャムの巨大な豚玉を叩いた。シャムの豚玉がちぎれて吉田の烏賊玉にくっついた。その瞬間吉田はコテを器用に使って自分の烏賊玉と一緒にした。
「あー!俊平!それアタシのだよ!」 
 自分の席に急いで駆けつけたシャムが何事も無かったように烏賊玉を焼いている吉田に詰め寄った。
「要を怒らせたお前が悪い。自業自得だ」
 そう言うと吉田はこてで焼き加減を確かめると自分の烏賊玉と豚玉の集合体に軽く刷毛でタレを塗った後、鰹節を振りかけて完全に占有した。悲しそうな眼でシャムがその様子を眺めている。そんなシャムを見かねたのかリアナが出来上がった自分の豚玉をひとかけらさらに乗せてやってきた。
「かわいそうにねえ。これあげるから泣かないでね?」 
 袖に手を回した落ち着いた手つきでシャムの巨大な豚玉にタレを塗りながらリアナがやさしく声をかける。シャムはそんなリアナのやさしさに嗚咽しそうになるのをやめて満面の笑みを浮かべると海苔も鰹節もかけずにもらった豚玉を一口で平らげた。

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遼州戦記 保安隊日乗 今日から僕は 17

「そういえばシンの旦那はどうしたい?また残業か?」 
 嵯峨がそれとなく明華に尋ねる。明華は几帳面に手を拭いたお絞りを半分に折りながら顔をあげる。
「05式納入の書類が溜まってるんですって。先にはじめてて下さいって言ってましたよ。ただ三十分くらいで終わるからそのころにはコーヒーとアンキモを用意してくれって……」
 誠は耳を疑った。コーヒーとアンコウの肝と言う組み合わせがどう考えても理解できなくてそのまま隣の要を見た。 
「あの旦那の舌、絶対狂ってるぜ?コーヒー飲みながらアンキモ突くんだからなあ・・・・」
 ようやく彼女の話題が途切れたことに安心している要がそう言って誠の視線にこたえる。誠はそのタレ目ながらも鋭い目線で見つめられて思わず視線を落とした。
「おい新入り!お前までアタシのことガチレズだと思ってるんじゃないだろうな?」
 おどおどとした誠の態度に苛立った要の声が誠の耳に響く。誠は一瞬カウラに助けを求めようかと思いながらも、それではさらに事態を悪化させると要の目を見つめて言った。 
「いえ!そんなつもりじゃあ……」 
「よせ要。今日は歓迎会のはずだ。お前が暴れていい日じゃない」 
 カウラは静かに要をたしなめる。カウラと要の間に流れた緊張をほぐすように、タイミングよくお春と小夏の親子が飲み物と箸、そしてお通しを運んできた。誠はほっとしたように小夏から受け取ったお通しのきんぴらごぼうに箸を伸ばした。
「お待たせしました、はい要ちゃんマイヤーズ。くれぐれも飲みすぎて店を破壊しないようにしてね」
 そう言いながらグラスと瓶を要に手渡した。嬉しそうに要は瓶のふたを取ると、琥珀色のラム酒を手の中のグラスに注いでいく。
「お母さん、そのど外道に何を言っても無駄だって。どうせなら塩水入れて持ってくればよかったのに……」 
 吉田のテーブルにお通しを並べながら小夏がつぶやく。
「何か言ったか?小夏坊!」 
 要はそう言いながらテーブルにグラスを叩きつける。
「はいはい怖い怖い……。師匠!今日はネコ耳ですか!着ぐるみは着ないんですか?」 
 小夏は要の態度を馬鹿にしておどける様なしぐさをすると、シャムにそう話しかける。
「うん。俊平が新人の前で本性を現すのはまだ早いって言うから。俊平!本性って何?」
 小夏から受け取ったお通しの小鉢を持ち上げて眺めながら吉田はシャムの問いに答えた。 
「あのなあ。お前の普段着を見たら新人さんが絶望して辞めちゃうだろ?それにどうしても着たいって言うなら止めなかったぜ。着ぐるみきてタクシーに乗る度胸があればの話だがな」 
 吉田はいつの間にか階段のところまでビールのケースを運んできていたアイシャからビール瓶を受け取ると立ち上がって明石の席まで言って明華の差し出すコップにビールを注いだ。シャムもそれを見ると次々とビール瓶を並べていくアイシャから瓶を受け取って立ち上がると、そのままリアナの前にあるコップにビールを注いだ。
「それじゃあ誠君には私が注いで上げるわね」 
 そう言うとアイシャはそのまま誠の隣に膝をついてビールを注ぎ始める。カウラと要が迷惑そうな顔をしているが、アイシャはまるで関心が無いと言うようにそのまま誠のグラスを満たすと、自分あまっているシンのグラスを取り上げて自分の分のビールを注ぎ始めた。
「クラウゼ、それにラビロフにグリファン!」 
 嵯峨に声をかけられて階段から座敷を覗いていたサラとパーラが頭をかきながら入ってくる。小夏は二人の分のコップを出すとそのままビールを注いだ。
「新さんは日本酒ですよね?」 
 そう言うとお春は嵯峨の手にあるお猪口に酒を注ぐ。
「じゃあ春子さんも飲みましょうよ、めでたい席なんだから」 
 そう言って嵯峨が明石が持ってきた新しいグラスを春子に手渡して、そのままビールを注いだ。隣では小夏に烏龍茶を告いでもらったカウラがお返しをしていた。
「じゃあ、注ぎ終わったみたいだし。ここでつまらねえ訓示をしても仕方ないや。とりあえず初の実働部隊新入隊員の前途を祝して乾杯!」 
 嵯峨はここは隊長らしく日本酒の猪口をかかげた。その場の者はそれぞれにコップを差し上げ誠と乾杯するが、一人要は一息にラム酒を飲み干すと手酌で注ぎ始めた。
「西園寺!ペース速すぎだぞ!」 
 カウラがそれとなく促す。
「へいへい悪うござんしたねえ。どうせアタシは空気が読めませんよーだ!」 
 要はそう言うとまた一息でコップのラム酒を空にした。

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遼州戦記 保安隊日乗 今日から僕は 16

「テメエそれどこで……」 
 怒髪天を突く形相の要をよそに、シャムは別に慌てる様子でもなく笑みを浮かべながら後ろでニヤニヤしているアイシャを指差した。
「アイシャ!テメエ、さっきの台詞は全部嘘かよ!それとシャム、前にも同じようなことやった時に次はねえって言ったよな……」
 さすがにサイボーグの力で白いフリルのついたワンピースの襟元を締め付けられるのは苦しいようで、シャムは浮き上がっている足をばたばたさせて抵抗し始めた。 
「だめじゃない!要ちゃん!シャムちゃん虐めちゃ!」 
 シャムのばたばたさせる足が目に付いたと言うように階段の方から淡い藤色の和服姿に白い髪をなびかせるリアナが現れた。彼女の登場は要には予想外のことだったようで、思わず手を緩めたところをシャムは上手くすり抜けた。そしてそのままリアナの膝元にまとわり着いて嘘泣きを始める。
「よしよし、いい子だから泣いちゃだめよ……そうだ!私が一曲……」
 そう言って部屋に踏み出そうと言うリアナの袖を引くものがいた。 
「はい歌わなくて良いからねーって、いつもこんな役回りばかりで疲れるわ。カウラ。もう少し隊長として自覚もって行動してもらわないと……それと隊長。つまらないディスク配ってまわって面白がる趣味は感心しませんよ」 
 続いて入ってきた淡い水色のワイシャツに紺の隊とスカート姿の明華が嵯峨をにらみつける。嵯峨は悪びれる様子もなく、にぎやかな彼の部下達の豊かな表情に満足そうに笑顔を浮かべるお春が注ぐ酒に淡々と杯を重ねていた。明華はそれを見るとあきらめた調子で後ろについてきた明石と一緒に嵯峨の隣の鉄板をさもそれが当然であるかのように占拠した。
 明石は天井に届きそうな頭をゆっくりと下げながら部屋に入り込んだ。全員がその原色系の紫のスーツに黒いワイシャツ、そして赤いネクタイと言う趣味の悪い姿に呆れながら、嵯峨のテーブルに着いた明華の隣に座る姿を見つめていた。
「さっきから気になってたんですけど……」 
 誠は初めて自分が話を出来るタイミングを見つけて口を開いた。
「何でシャム中尉はネコ耳をつけてるんですか?」 
 シャムが不思議そうに誠を見ている。そう言われて自分の頭のネコミミを触ってにっこりと笑うシャム。しかし、誰一人その事に突っ込む事は無い。
「それが仕様だ」 
 誠は突然、窓の方から声が聞こえたのでびっくりしてそちらを見ると、開いた窓から吉田が入り込もうとしていた。特に誠以外は彼に突っ込みを入れる事も無く、あたかもそれが普通のことだと言うように目を反らしているのを見ながら吉田はそのまま靴を部屋の中に置いて入り込んだ。
「おまえなあ、ちゃんと入り口があるんだからたまにはそちらを使えよ」
 窓枠をきしませている吉田に嵯峨があきれたようにそう言った。吉田は誠が初めて会った時のドレッドヘアーでは無く、短い髪の毛を整髪料で立たせた髪型に、だぼだぼの黄色と黒のタンクトップにジーンズと言う姿でそのまま部屋に入り込む。
「やはり新入りに慣れてもらうためにもここはいつも通りのやり方をですねえ」
 嵯峨の言葉に返すのはとぼけた調子の言葉だった。
「あのなあワレのいつも通りはおかしいってことじゃ」 
 明華の隣に座って手ぬぐいで顔を拭いていた明石が呆れたように吉田に目を向けた。吉田は靴をシャムに手渡すと下座の鉄板の前に座った。シャムは靴を手に下の下駄箱へと駆けていった。
「お前だってガチホモとして変態であるところをだな……」 
 にんまりと笑う吉田。明石は階段から座敷を覗いているアイシャとサラの視線を見つけると、振り返って殺気のこもった視線を吉田に投げた。
「ワシはホモじゃない!」
 明石の言葉に何も答えず頷く吉田。その真似をしてネコミミモードのシャムも頷いている。
「漫才はそれくらいにして、カウラさん以外はビールで良いかしら?」 
 お春さんは嵯峨のお酌を止めて立ち上がると、淡々と客をさばく女将の姿に変わっていた。
「女将さんアタシはマイヤーズで!」 
 誠の前の席で手を上げた要がそう叫ぶ。そんな要を誠の隣に座ったカウラは特に気にするわけでもなく鉄板の上に手を翳しては、時折誠の顔を覗き込んでいた。
「はい、はい。小夏!ちょっと手伝って頂戴」 
 そう言うとお春は階段を駆け上って吉田の隣に座った後、ネコミミを直しているシャムの後ろを抜けて階段のほうに歩みを進めた。

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