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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 20

 信号が変わるとグレゴリウスはシャムを乗せたまま悠然と歩く。トレーラーの運転手は驚いた様子でその巨大な熊に少女が乗って移動しているさまを見守っている。

「ほら、人気者」 

「わう」 

 誇らしげにシャムとグレゴリウスの行進は続く。そしてそのまま飛行機の胴体部分を製造している建物の脇を抜け、まるでショッピングセンターのような看板を掲げた工場の生協の前に着いた。

「あ!熊さん!」 

 入り口で立ち話をしていた女性職員がシャム達を指差す。それを見て周りの女性事務員達もシャムに目を向けてきた。

「本当に……話に聞いたとおり女の子が飼っているのね……」 

「でも大丈夫なの?」 

 興味深げに見る者、いつでも逃げられるように引き下がる者。さまざまな視線にシャムは鼻高々でそのままグレゴリウスから飛び降りた。

「馬鹿!」 

 突然シャムがはたかれる。そこには保安隊実働部隊第二小隊所属の西園寺要大尉の姿があった。

「要ちゃん……痛いじゃない」 

「当たり前だ。痛くしたんだから……うわ!」 

 要の言葉が終わる前にグレゴリウスは大好きなシャムを虐めたことに復讐するために要にボディープレスを食らわした。

「くそ!どけ!馬鹿熊!」 

 もがく要。それを見て満足げにうなづくシャムの隣に先ほど熊を見て黄色い声を上げていた女性事務員の一人が恐る恐る声をかける。

「大丈夫なんですか?」 

「平気平気!」 

「そう平気よねえ、要ちゃん」 

 女性事務員の間を縫って長身の紺色の髪の女性がシャムに声をかけた。その整った肌と自然界ではありえないような鮮やかな紺色に女性事務員達は不思議そうにその人物、アイシャ・クラウゼ少佐の方に顔を向けた。





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テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 19

「それじゃあ行こう!」 

 そう言うとシャムは軽くグレゴリウスの首筋を叩いた。うれしそうに目を細めるとそのままグレゴリウスは歩き始める。

「中尉……」 

 警備部員が一人、申し訳ないという表情で声をかける。

「大丈夫だって!グレゴリウスは人気者だからね」 

「でも……そんなでかぶつ。上に乗られただけで怪我人が出ますよ」 

「だから早朝にやってるの!それに外には出ないから」 

 そう答えるシャム。だがスキンヘッドの警備部員は外から巨大なグレゴリウスを見てスピードを落とす菱川重工の職員の方に目をやった。

「本当に……もうそろそろ外出禁止をしますから……」 

「ごめんね」 

 謝るシャムだが心配そうな目でグレゴリウスに見つめられると少しばかり気が引けてそのままゲートをくぐった。

 部隊の外には広がるのは地球系以外では最大規模の機械工場。目の前の道には巨大なトレーラーが鉄の柱を満載して加速を始めている。

「これに比べたら……グレゴリウスなんてねえ」 

 シャムはそのまま歩道を進むグレゴリウスの頭を撫でながら進んでいた。時々通る乗用車。何割かは保安隊隊員の車らしく運転しながら敬礼する姿がシャムの視線からも見えた。

「どこまで行こうか……」 

 軽く敬礼を返しながらグレゴリウスの耳元まで身を乗り出してたずねる。

「わう!」 

「わかったよ。おやつね」 

 そう言うとシャムはそのまま工場の構内の車道を横切る押しボタン式信号の前でグレゴリウスから降りるとそのままボタンを押した。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 18

「俊平、シャワーは?」 

「隊舎だ。そこまでは一緒だろ?」 

 熊のゆっくりとした歩みにあわせて吉田も進む。まもなく隊員達も出勤してくる時間。ハンガーからは私服に着替えた警備部員と整備班員が談笑しながら歩き出していた。

「ご苦労さん!」 

 吉田の叫び声に隊員達は思わず敬礼をする。それを見てシャムは笑顔でハンガーに向かう吉田を見送った。

「じゃあ行こうね、グレゴリウス」 

「わう」 

 シャムの言葉に返事をするとシャムを乗せたまま部隊のゲートに向かった。

「おはよう!」 

 そこには白いセダンでゲートをくぐろうとする運用艦『高雄』艦長の鈴木リアナ中佐の姿があった。

「お姉さん!おはよう!」 

「元気ね、シャムちゃんは……それとグレゴリウス君も」 

「わう!」 

 窓から顔を出して白い髪をなびかせるリアナ。シャムは笑みを浮かべながら彼女の隣までグレゴリウスに乗って進んだ。

「それよりお姉さん。赤ちゃんは……」 

 シャムが言うようにリアナは妊娠していた。現在は艦長の各種の指示権限を副長のアイシャ・クラウゼ少佐に委任中で、遠からずアイシャが艦長代理に就任することが決まっていた。

「そんなにすぐには出てこないわよ。それより寒いのによく平気ね」 

「うん!私の村はもっと寒かったから」 

 リアナの言葉にシャムは長く暮らしていた故郷を思い出した。森と雪と風。今の季節は木の幹に寄り添うようにして雪のせいで動きの鈍い鹿などを狙って狩をしていたことを思い出す。

「そう……じゃあまたね」 

 回想に浸っているシャムを笑顔で見つめながらリアナはそう言うとそのまま窓を閉めて車を駐車場へと進めた。



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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 17


「俊平……大丈夫?」 

 足元におとなしく頭を差し出すグレゴリウスを撫でながら倒れている吉田にシャムは声をかけた。

「大丈夫に見えるか?」 

「うん!」 

「だったら声をかけるな」 

 そう言いながら吉田は頭についた土を払った。

「こりゃシャワーでも浴びたいな」 

「じゃあ使えば?」 

 驚いて吉田が振り向くとそこにはすでに紺色のコートを着込んで帰り支度を済ませた明華の姿があった。

「大佐、驚かせないでくださいよ」 

「それが軍用義体の使い手の台詞?たるんでるわね」 

「明華!もう上がりなの?」 

「ええ、今日は島田が早出だったから引継ぎも済ませたし……」 

 明華はそう言うと空を仰いだ。すでに朝の空。隣の塀の向こう側、菱川重工の社内を走る車の音がすでに響いていた。

「もしかしてタコさんとデート?」 

「タコさん?」 

 しばらくシャムの言葉の意味が理解できないというような顔をした明華だが、その『タコさん』が彼女の婚約者の元保安隊副長である明石清海中佐を指すことを知って笑い始めた。

「タコさん……タコさんて……」 

「大佐、笑いすぎですよ」 

 さすがの吉田も婚約者に爆笑されている明石のことを哀れに思って声をかけた。

「シャムの言うことは外れ。私も徹夜明けだもの。今日はおとなしく部屋で寝ることにするわ」 

「大変だね」 

 シャムの言葉にあいまいにうなづくとそのままグラウンドに向かう明華。それを見てシャムはゴミ袋を吉田に持たせた。

「どこかいくのか?」 

「だってシャワーを浴びるんでしょ?アタシはしばらくグレゴリウスの散歩をするから」 

 そう言うとシャムは足元に寝転んでいたグレゴリウスの背中にまたがる。グレゴリウスは大好きなシャムが背中に乗ったのを感じるとそのままグラウンドに向かって歩き始めた。

「金太郎だな……あれは」 

 吉田はそう言うと肩にもついていた土を払った後、シャムが置いていったゴミ袋を手に彼女のあとについていった。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 16

 朝焼けから朝の光へ変わる中でシャム達は黙々と草をむしり続けた。ハンガーの前ではシャム達の変わらない姿に飽きたのか、嵯峨の姿はすでになかった。

「隊長!」 

 遠くで呼ぶ声がしてマリアは腰を伸ばす。さすがに鍛えているだけあってまるで動じるところはない。周りの新入隊員が立ち上がったりしては腰を抑えている有様とは対照的だった。

「終わったのか?」 

「ばっちりですよ。先週生まれた子ヤギも元気いっぱいです」 

「それはいいな」 

 古参隊員の顔がほころぶ。自然とマリアも笑みを浮かべていた。

「シャム、すまないがうちの連中に食事を取らせたいんだが……」 

「うん、そうだね。みんなありがとう!」 

 小学生のようなシャムに頭を下げられて新入隊員達はどうしていいかわからないように顔を見合わせていた。

「おい、中尉殿の謝意だぞ」 

『こちらこそありがとうございます!』 

 外惑星コロニー出身者らしく時折発音がずれてはいるが日本語でシャムに敬礼する姿が展開された。

「またよろしくね!」 

 シャムの言葉に送られるようにして腰を押さえながら新入隊員達は畑を後にする。

「どうなるかねえ……あの連中」 

 その言葉とともに黒い塊がシャムの前に現れた。それは背中に吉田を乗せたグレゴリウス16世だった。

「大丈夫。みんな物覚えが早いから。すぐに慣れるよ」 

「いやあ……畑仕事に慣れられてもこま……うわ!」 

 吉田の叫び声が響いたのはグレゴリウスが二本足で立ち上がったからだった。どかりとサイボーグが地面に落ちる音が響く。

「グレゴリウス!だめじゃないの!」 

「わう!」 

 背中の吉田を振り落として軽くなったのがうれしいようでそのままシャムに近づいてくるグレゴリウス。その姿に苦笑いを浮かべながらシャムもまた歩み寄っていた。





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