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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 120

 正門の前には20世紀のドイツのワゴン車のレプリカが止まっていた。吉田お気に入りの一台。

「乗れよ、明石達はもう出たぞ」 

 吉田に急かされてシャムは駆け足で車に乗り込んだ。

「積んでくれてたんだ」 

 後部にはシャムのバイクがロープで固定された状態で乗せられている。

「まあな、気が利くだろ?」 

「そうだね」 

 シャムの笑顔を見ると吉田は車を出した。

 正門前の車止めもすでに夜の闇の中に沈んでいる。そこから真っ直ぐ、ゲートの明かりだけが頼りだった。

「おい!」 

 ゲートに着いた吉田が窓を開けて叫ぶ。うたた寝をしていた古参の警備部員がめんどくさそうにゲートのスイッチを押す。

「お先!」 

 吉田はそう叫ぶのそのまま不眠の大工場の中に車を乗り入れた。

 昼間ほどではないがやはり大型トレーラーが資材を満載して行き来している。そんな工場内の道路を吉田は慣れたハンドルさばきで車を走らせた。

「パーラの話……」 

「ああ、クバルカ隊長から聞いたよ。まあいい大人だ。どう判断するかは本人の問題だろ?鎗田も馬鹿だがそれなりの技術屋のプライドくらいはあるはずだからな」 

 落ち着いた調子でつぶやく吉田を見てシャムは少しばかり安心した。

「そうだね。ランちゃんも見てるんだから大丈夫だよね」 

「ああ、あのちびっ子。喰えないからな。鈴木中佐にしろ明華にしろ敵に回すとやっかいだってことは明石の野郎が伝えてると思うからな」 

 工場の中央を走るメインストリート。主に昼間は営業車の出入りに使用される道にはすれ違う車も無かった。

「でも……なんだか心配だよな……」 

「そんなに心配なら見に行くか?場所もわかるぞ……まあ移動しても鎗田の車のシリアルナンバーは登録済みだから追えるぞ」 

 真顔でシャムを見つめてくる吉田。シャムはただ苦笑いを浮かべていた。

「あまり干渉するのは良くないよね」 

「そういうことだ」 

 吉田の言葉に頷くシャム。車は工場の正門に到着し、監視ゲートをくぐってそのまま産業道路と呼ばれる国道に出ることになった。




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テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 119

 突然のパーラへの電話。それは鎗田が未成年との交際が発覚して警察署に連行されたと言う内容のものだった。パーラは彼女より激高している鎗田の上司である許明華をつれて新港へ向かった。

 そこで何があったのかはシャムも知らない。実際平然とシャワーで髪を流している情報通を自称するアイシャも詳しくは知らないとシャムも思っている。ともかく鎗田は釈放されて特にニュースにもならなかったところからみてもみ消したのか、それとも単なる誤解だったのか。ただそれ以来パーラは鎗田の話題を持ち出すことを避けるようになっていた。

「でも本当にいいの?」 

 バスタオルで体を拭きながらのシャムの言葉。アイシャは聞こえていないというようにじっと頭からシャワーを浴びている。

「本人の問題だ。私達が干渉するようなことは何もない」 

「いいこと言うわね、カウラちゃん。胸が平らなわりに」 

「最後の言葉は余計だ」 

 アイシャがいつもの軽い口調に戻ったのをみて事態はそれほど深刻ではない。そうシャムは思った。

「それに……今回はお姉さんも電話で釘を刺してたみたいだから」 

 少しくらい調子でアイシャがつぶやく。だがシャムはお姉さんことリアナが穏やかな調子で鎗田を諭すのを想像して少しばかり安心していた。

「それじゃあ大丈夫だね」 

 下着を着けてズボンに足を通す。シャムより少し遅れてサラもシャワーを出た。

『おい!早くしろ!』 

 シャワー室の外では要の叫び声が聞こえる。

「自分は突っ立ってただけだって言うのに……気楽なものね」 

 思わず苦笑いを浮かべるアイシャ。シャムは着替えを終えるとそのままアイシャ達を置いてシャワー室をでた。

「よう」 

 要の隣に当然のように立っている吉田。シャムは少しばかり不思議に思って頭の先から足の先までじろじろと見つめた。

「なんだよ……」 

「覗いてたんじゃないの?」 

「何言ってるんだか……どうせお前はバイクだろ?飲むんだったら俺の車に乗っけて行ってやろうかと思ったけど……止めるか?」 

 痛いところをつく吉田。そもそも酒にあまり興味のない吉田はシャムにとっていい足代わりだった。

「またバイクを乗っけてくれるの」 

「まあな。行くぞ」 

 吉田はそう言うと早足で歩き始める。

「待って!」 

 シャムはユニフォームの入ったバッグを手に早足で歩く吉田を追いかけた。





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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 118

「シャム!早すぎ!」 

 サラが背後で叫ぶ声が響く。シャムはそのまま思い切り走り出す。

 一気に暗い正門に飛び込みそのままロッカーに飛び込んで着替えを手に取ると奥のシャワー室に入った。

 入ると同時にセンサーで電気がついた。もうすでに終業から二時間以上経っていて人の気配はない。

「寒いなあ」 

 そう言いながらそのまま手前のシャワーを占領すると服を脱衣かごに放り込む。

「シャム……早すぎるよ」 

 ようやくたどり着いたサラ。その後ろには涼しい顔のカウラとアイシャが並んでいる。

「そう言えば、パーラが来てなかったね……」 

 シャワーの水量を調節しているシャムの声にアイシャの顔が引きつる。

「そうだな。昼に私が来たときにはいなかったが……どうしたんだ?」 

 カウラが服を脱ぎながらそう言うとしばらくアイシャは頭を掻きながら考えていた。

「言う?」 

「私は嫌よ」 

 アイシャに話題を振られてサラが首を振った。

「あれか……鎗田大尉がらみか……」 

「え!二人ってまだ別れて無かったの?」 

 シャンプーの泡だらけになりながら叫ぶシャム。アイシャは静かにユニフォームを脱ぎながら話し始めた。

「別れたのはもうとっくの話なんだけどね。またやり直したいとか言い出したのよ、あいつが」 

「それで出かけるとは……本当にパーラもお人好しだな」 

 カウラはそう言いながらシャワーを浴び始める。

「私もそう言ったのよ。でもパーラはもうそのことは忘れたからちゃんと同僚として挨拶をしてくるって」 

「そう言うのは未練が無い人はしないのよね」 

 アイシャの言葉に相づちを打つサラ。シャワーの音が女子シャワー室内に響いている。

 鎗田司郎。保安隊技術部の大尉だが彼の率いる技術部機関部員は運行艦『高雄』の整備点検の為、常に『高雄』が係留してある東都の東200kmと離れた港町、新港に常駐していた。正直、技術部での彼の評価は高いものでは無かった。

 部隊設立と同時にパーラと付き合い始めたと言う時点で技術部の面々が面白く思うわけがない。だが、アイシャ達運行部の面々まで敵に回すことになったのはさらにある出来事がきっかけだった。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 117

 誠の動揺。だがすぐにそれは収まったようでそのまま相変わらずの静かな物腰で岡部のサインを覗き込んでいた。再びセットしてゆったりとしたフォームで投球がなされる。

 アイシャのバットは打球を捕えた。ボールはシャムに向けて飛び込んでくる。シャムは定位置のままそれをキャッチした。

「はい!以上や!」 

 明石の言葉で部員達はそのままホームベース上に集まった。なんとも不思議そうにバットを何度も降るアイシャ。

「真芯じゃなかったからなあ……」 

 不本意そうにつぶやくとアイシャはヘルメットを脱いだ。

「おう、神前。どうだ?」 

 要の言葉に何ともつかない笑みを浮かべて誠はシャムからボールを受け取った。

「とりあえずこのくらいにするか。それぞれ着替えて帰るぞ」 

 要の一言でシャム達はそれぞれ手にしたグラブをベンチの横の用具入れへと持って走る。相変わらず射撃レンジの方では射撃訓練の銃声が続いている。

「どうしたのかな……誠ちゃん」 

「私に聞かないでよ」 

 シャムの問いにこれも不思議そうな顔をしているサラが答えた。それぞれ自分用のグラブを入れる袋にグラブを入れると新人の警備部員がそれをまとめて片付ける準備をしていた。

「シャム!サラ!さっさと着替えろ!飲みに行くぞ」 

 上機嫌で叫んでいるラン。どうにも小学生にしか見えないランがそんなことを口にすると不謹慎に見えてきてシャムは笑っていた。

「シャムちゃん。笑える身分じゃ無いんじゃないの?」 

 バットを片付け終わってすっきりしたというような表情のアイシャがつぶやく。シャムはその言葉には少し腹が立ったがそれ以上に疑問が頭の中を駆け巡っていた。

「アイシャちゃん。どうだった?」 

「どうって?」 

 アイシャはヘルメットと帽子で跡が残っている紺色の髪を何度か手櫛で梳いた後に答える。

「誠ちゃんのことに決まってるじゃない!」 

 いらだって叫ぶシャムを子供をみるような視線で見つめるアイシャ。

「そうね……気楽に投げてるんじゃ無いのかな?そうだ、どうせ明石中佐も来るだろうからあまさき屋で聞けばいいじゃないの」 

 アイシャの言葉に合点がいったシャムはそのまま正門目指してグラウンドを走って飛び出した。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 116

「気にせんでええで!ええから続けんかい」 

 何とか立ち直った明石。誠はホッとしたようにボールを握り締めると岡部とのサインの交換を始めた。アイシャは別に変わった様子も無くただ眺めている。悠然としたその態度。シャムは今度こそ誠は打たれるような気がしてきていた。

 何度か岡部のサインに首を振る誠。なかなか決まらない。

『誠ちゃん……動揺してる』

 そんなシャムの思いが通じたのか、ようやくサインが決まると誠はセットした。

 静かなモーションが始まる。じりじりと力をためていく誠の左腕。そして先ほどと同じような軌道で腕は動き、しなり、球が放たれる。

 アイシャのスイング。バットの打撃音。

 ボールはまた跳ね上がるとそのままハンガーの方へ向かう飛球となった。

「打ちそこなったー!」 

 悔しそうにアイシャが叫ぶ。岡部は球が高いと言うことを言いたいと言うように腕を振って誠に示す。

 シャムが見てみるとハンガーの手前にはすでに着替えを済ませたランがボールを拾うとそれを持って真剣な目つきの要に向かって歩いてくる姿が見えた。

「タイミングは合ってるわよね」 

「完全に打ちそこないでしょ」 

 シャムの言葉にサラが答える。それを聞いているだろう誠。再び要からボールを受け取るとしばらくじっとボールを見つめていた。

『今度はどうかな』 

 背中が小さく見え始めた誠を見ながらシャムはじっとグラブを抱えて睨みつけていた。

 誠は再びサインの交換を始める。今度は一発でうなづく誠。

 また投球動作が始まる。

『危ないな』 

 直感がシャムを駆け抜ける。アイシャは心持ちシャムとヤコブの守る一二塁間を見たような気がしていた。

 ボールが放たれるがアイシャはバットを振らなかった。ワンバウンドのボールを岡部が体で止める。

『カーブが引っかかったのかな』 

「何やっとんねん」 

 カウントするのも忘れたと言うように明石が叫ぶ。誠は苦笑いを浮かべながら岡部からボールを受け取った。

「早くしろよ!」 

 ベンチに腰掛けた小さく見えるランが叫んでいる。そんな上司にいかにも済まないと言うように誠はマウンドの上で頭を下げていた。

『余計なことを言うからな』 

 シャムは苦笑いを浮かべながらまた投球に集中しようとしている誠の顔を見つめていた。




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