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遼州戦記 保安隊日乗 保安隊海へ行く  20

「西園寺さん!」 
 あまさき屋から出てすぐ誠は要を見つけた。そばの小道でタバコをくゆらしながら、店じまいしたラーメン屋の土塀にもたれかかって空を見ている。誠の言葉を聞くと要はわざと早足で歩き出した。
「待ってくださいよ、西園寺さん」 
 誠はそのまま走って要に追いつくと彼女の前に立った。咥えているタバコからの煙が誠を包んだ。
「邪魔だ。どけ」 
 静かな声で要が言いつける。しかし誠には動くつもりは無かった。
「どうせアイシャあたりからお前が払えって言われて来たんだろ?気が変わったんだ。ほっとけ」 
 下を向いたままの要。誠は何も言えずにいた。
「お前だって迷惑だろ?あんなこと言われたらさ。だからアタシは帰る」 
「そんな事無いですよ!西園寺さんは……素敵な人ですから」 
 誠のその言葉でようやく西園寺が誠の顔を見上げた。呆れたようなまるで同情するような感情がその目に映っている。
「素敵な人……ねえ。アタシみたいな暴力馬鹿が素敵だってのは驚きだ」 
 自虐的な笑いを浮かべる要。それでも誠は言葉を続けた。
「そうですよ。僕が誘拐された時だってちゃんと助けに来てくれたじゃないですか!西園寺さんは優しい人です!」 
 誠は真剣な顔でそう説いた。お互い見つめあう目と目。そして要が笑い出した。まるで自分自身を笑っているとでも言うように腹を抱えて大笑いする要。誠は何が起きたのかわからないままじっと笑い続ける要を見つめていた。
「ったく。アタシの負けだ」
 そう言うと要は誠の左肩に手を乗せる。
「……ずるいぜそんなの」 
 要が自分自身にそう呟いた。誠の横をすり抜けて再び大通りに向かう要。
「西園寺さん……」
 説得できたと言う事実より要の言葉の意味がわからず呆然としている誠。 
「こりゃあ飲み直さないといけねえな。まあアタシのおごりだ。潰れるまで飲ませるから覚悟しろよ」 
 要はそう言うと笑顔に戻ってあまさき屋に向かった。誠は要の言葉の最後に身を凍らせながら派手に引き戸を開いた要の後に続いた。

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遼州戦記 保安隊日乗 保安隊海へ行く  19

「何見てんだ?お前等?」 
 要は聞いていなかった。それもまた意外だった。誠も彼女の地獄耳のおかげで酷い目にあったことが何度かある。カウラもアイシャも同様なのだろう、意外な要の言葉に戸惑っている。
「やっぱり要ちゃん変!神前君のことで悩んでるんでしょ?」 
 リアナのその言葉。誠、カウラ、アイシャ、島田、サラ。皆はリアナの口をふさいでおかなかったのを後悔した。
「何で?」 
 そんな言葉が要の口から出てきたとき、誠達は胸をなでおろした。その様子を不思議そうに見つめる要。
「でもこれも上司としてのお仕事ね。要ちゃん。神前君のことどう思ってるか言って御覧なさい」 
 また地雷原に踏み込むようなリアナの発言にシャムでさえ背筋が凍ったように伸び上がる。既に小夏は退避済みである。
「こいつのこと?アタシが?……それって何?」 
 要はまったくわかっていないと言うようにグラスを傾ける。誠は隣の席の健一の脇を突いた。
「リアナさん。無理に聞かなくても……」 
「健一君。出会いはね、重要なのよ。そして思いも。要ちゃん照れなくてもいいから答えてみて」 
 リアナが真顔で隣に座っている要に顔を近づける。白い頬が朱に染まっているのを見て誠は逃げ出したくなるのを何とか我慢していた。要がその青い瞳、白い髪を眺めながら時が経つ。
 カウンターでは女将の春子と小夏がじっとその様を見つめていた。
 急に要の頬が赤らんだ。瞬きをし、そして手にしていた酒を一気にあおる。
「ばっ、ばっ、馬鹿じゃねえの?お姉さん冗談止めてくださいよ。誰がこんな軟弱野郎のこと好きだとか……」 
『好き?』
 その言葉を自分で口にして要はさらに顔を赤らめる。
「要ちゃんかわいい!」 
 シャムがそう言って飛び出そうとしたところで要が立ち上がり、上目がちにシャムを睨みつけた。その迫力に圧されて愛想笑いを浮かべながら自分の席に戻るシャム。
「気が変わった。お前等割り勘な。それとアタシ帰るから」 
 誠たちが予想はしていた反応の中で一番穏やかな態度で要が立ち上がる。 
「要ちゃん!」 
 呼び止めようとリアナが声を出したが、要はそのまま手を振って店を出て行く。顔を出した春子が呆れたようにリアナを見つめている。
「ああ、行っちゃった」 
 息を潜めていたパーラが伸びをして要が消えた引き戸を見つめていた。
「お姉さん!要の性格知ってるでしょ?」 
 アイシャが恨みがましい目でリアナを見つめる。同様に要の財布をあてにしていた誠や島田もリアナを見つめる輪に参加していた。
「ちょっとまずかったかしら。いいわ。みんなのお勘定健一君が払うから」 
「え?」
 突然の提案にうろたえる健一。そして給料前の出費を恐れていた一同がホッと胸をなでおろした瞬間だった。
「神前、追え」 
 カウラは確かにそう言った。静かだが明らかに命令としてカウラはその言葉を口にしていた。
「いいから追え!」 
 動こうとしない誠を見つめて再びカウラの口から出た言葉。ハッとして誠は店から飛び出していた。

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遼州戦記 保安隊日乗 保安隊海へ行く  18

 急に店の奥から電波ソングが流れる。シャムと小夏。小柄なシャムの方がまるで妹に見える奇妙な光景だった。
「行けー!」 
 アイシャが叫ぶとシャムと小夏が腰を振ってこれまた電波な踊りを始める。はたから見れば奇妙な光景だが、健一は何度か見慣れているらしく拍手をしながら笑顔で見守っている。
「どうだ?萌え評論家の神前誠君」 
 ニヤ付きながら話しかけてくる要。いつもならこういうドサクサは見逃さない彼女が誠のグラスに細工をするわけでもなく、ただ笑いながら誠の顔を覗き込んでいる。
「これは実に萌えですね。猫耳万歳です」
『みなさーん!ありがとう!』 
 シャムと小夏がぺこりと頭を下げる。そしてあまり長くない電波ソングライブは終わった。 
「猫耳か……」 
 ポツリとカウラが呟いた。
「なに?カウラちゃんも猫耳つける?」 
 笑顔のアイシャがカウラに言った言葉に、すぐ視線を走らせている要を見つけた誠。不思議そうにアイシャを見つめるカウラ。自分が猫耳をつけたときを想像しているように誠には見えた。
「私はそういうことには向かない」 
 しばらく真剣に考えた後、そう言うといつもどおりウーロン茶を飲み始めるカウラ。 
「確かにテメエにゃ無理だ。キャラじゃねえ」 
「それじゃあ要ちゃんがやったら?」 
 アイシャがそう振ったとき、いつもなら怒鳴り声が飛んでくるところが別に何も起きなかった。ここまで来てようやくリアナにも要の反応の違和感が感じられたようで、どこか不思議そうな目で要を見つめているリアナを誠は見逃さなかった。
「やっぱり変よねえ」 
 首を傾げるリアナ。しばらく考えた後、一つの結論に達したように手を叩いた。
「もしかして要ちゃんて好きな人と海に行くって初めてなのかしら?」 
 空気が止まった。
 全員がその可能性は否定していなかったが、その後に訪れるだろう報復を恐れて選べないでいた結論。それが判っていても全員の視線が要の方を向く。
 要は何が起きたかわからないとでも言うようにきょとんとして、全員の顔が自分のほうを向いていることを確認した。
「どうなの?要ちゃん」 
 確かにこの場でこんな事を要に確認できるのはリアナしかいなかった。島田なら救急車が必要になる。カウラやアイシャなら店が半壊の憂き目にあうだろう。誠とサラ、パーラ、キム、エダにはそんな度胸も無い。
 全員の視線が要に集中した。

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遼州戦記 保安隊日乗 保安隊海へ行く  17

「お姉さん。どこが変なの?」 
 焼きそばを口に突っ込みながら要がそう尋ねる。その目はどこかふざけたようないつもの要のタレ目だった。カウラ、アイシャ。他の面々もそれを気にしていた。そして誠もそうだった。リアナの部長格という肩書きがここで役に立った。
 彼女から見ても、いつもの要の傍若無人振りとは違う言動は、少し変なものに見えていたらしい。それが判るだけでこれまで要のいつもと違う言動を見てきた面々には十分だった。
「なんと言うか……いつもより素直よね」 
 ここで誠をはじめ面々は肩透かしを食らった。直情的なのはいつものことだ。情報戦ですら平気でこなすはずの非正規戦用最新鋭義体の持ち主である要である。いつもそう言った任務を嵯峨が吉田に一任しているという現実が、『素直』の一言で解明できるなら彼らの苦労はまったく無駄だったという事だ。
「アタシはいつだって素直ですよ」 
 そう言いながら手酌で飲み続ける要はまったく普通に答える。そしてアイシャ達が何で自分のことを不思議そうに見ているのかわからないというようなとぼけた表情を浮かべていた。
 誠は思った。
『いつもこんな素直なら、かわいい感じなのにな』 
 誠も島田には話していないが大学ではそれなりにちやほやされてきた。理系専門大。そこに現れた左腕の救世主。明らかに期待されていない下部リーグの大学野球戦で一年の時からエースを任されたヒーロー。誠もそれなりに女性からの告白も受けた事がある。しかし、彼の『オタクマインド』を知ったとき、二種類の反応を彼女達は示した。
 プロのスカウトも動くような大物左腕。そう思って声をかけた相手が気弱な二次元マニアだと知るとすぐに立ち去るタイプ。
 これが三人。彼女の中ではマッチョで勝負屋とでも言う印象があったのかもしれないが誠はとてもそんな人間を演じられるわけも無い。二年の春に研究室の助手の女性から声をかけられた時は携帯端末のアドレス交換で取り出したとたんだった。誠のファンシーな少女が壁紙に張られているのを見た彼女は交換をしない言い切ってそれからは話すのも嫌だというほどに嫌われたこともある。彼の趣味を理解してくれた後輩のマネージャーもいたが、彼女はあまりにも誠と似た趣味だったので彼女と言うより読者と言う感じで結局卒業した今では音沙汰も無かった。
 誠もそれが当然だと思っていた。野球、特に変化球と配球の微妙なバランスについて一時間一方的に話し続ける。それが終われば美少女アニメとレトロな特撮モノの話を長々とするのがいつものパターン。それ以外のキャパシティーを持たない彼と話をあわせてくれる人などめったにいない。保安隊で腐女子をカミングアウトしているアイシャと、コスプレマニア、シャムの在籍する保安隊ではぎりぎり認められる存在。誠は自分のことをそう思っていた。
「なんか、今日の要ちゃんは前向きよね」 
 保安隊の核融合炉。そう呼ばれている要を前にして、さすがのリアナも言葉を選んだ。
「前向き……。良いじゃねえの?後ろ向きよりよっぽど生産的だ。アイシャ。人の機嫌を気にするならこんくらいの事は言えないとなあ」 
 また口にラム酒を含みながら、タレ目の視線をアイシャに向ける。
「そうなら別にいいんだけど……」
 相変わらず良くわからない要の機嫌に場は完全に静まり返る。そんな中、突然店の中の照明が薄暗く変わる。 
「小夏!」 
「アンドシャム!」 
『踊りまーす!』 
 突然だった。シャムと小夏の二人が猫耳と尻尾をつけて通路に飛び出してくる。前触れの無い出来事に全員が唖然としてその姿を見守っていた。

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遼州戦記 保安隊日乗 保安隊海へ行く  16

「凄いですねえ」 
 誠は正直に言った。そして意外だと思った。大体が戸籍上は叔父であり、血縁としては従姉に当たる嵯峨に似て妙なところにこだわりがある要を知った。
『意外にマメなんだ。見直したな』 
 そう思って要の顔を見る。要はまた機嫌良く酒を飲み続けている。
「はい!焼きそば」 
 いつの間にか誠の後ろに立っていた小夏が注文の品を運んでくる。誠は要の前のスコアを見ている。小夏も誠と同じ様な感想を持っているのだろう、時々要の顔と見比べながら凝視している。
「シャムちゃんが大好きな大たこ焼きよ」 
 春子は巨大なたこ焼きの並んだ皿をシャムに渡す。飽きた猫耳を外して、ちょろちょろ落ち着かない表情だったシャムの顔が満面の笑みに変わる。
「たこ焼き!たこ焼き!」 
 そのまま嬉しそうにたこ焼きに飛びつくシャム。そんなシャムを見つめながらどこか腑に落ちない顔のアイシャが見える。
「要。聞きたいことがあるんだけど……」 
 好奇心を抑えきれないようで、アイシャはそう切り出した。誠もカウラも要がまた不機嫌になるかと思いながらじっと二人を見つめている。
「なんだ?」 
 たこ焼きを自分の取り皿に移しながら要が答える。
「今日あんた、なんか変じゃない?」 
 ストレートすぎる。誠は冷や汗を掻きながら要を見つめた。しかし、要は別に気にしていないようで、グラスの酒をまた口に含んだ。
「どこが変なんだ?」 
 まじまじと要はアイシャを見つめる。タレ目、少しばかり頬が染まっているのは体内プラントのアルコール分解速度を落としているからだろう。だが要はまったく自覚していない棟に見えた。誠はそう確信した。理由は特に無いがとりあえず気分的にはハイなんだろう。しかし、そんな理由で満足するアイシャでないのも確かだった。
「お前と違って金の使い方は計算してるからな。お前らどうせアニメグッズ買いすぎて金がねえだろうから気を利かせたわけだ」 
 そう言うと要は勢いよく焼きそばに取り掛かった。なんとなく納得できるようなできないようなあいまいな答え。アイシャもその後にどう言葉を続けようか迷っているようだった。
「要ちゃんの奢りなんだ。いいなあ」 
 リアナがうらやましそうに要の方を見つめる。正面でジョッキを傾ける健一はリアナにそういわれて流れで頷く。
「奢りませんよ!」 
 とりあえずこの話題から逃げたいというように要は苦笑いを浮かべながらそう言った。しかし、その目は深い意味などないというようにすぐ焼きそばに向かった。

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