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遼州戦記 保安隊日乗 保安隊海へ行く 120

「じゃあ始めんぞ。ついて来い」 
 要は気分を切り替えると急に立ち上がる。誠は半分くらい残っていたビールを飲み下して要の後に続く。誠が見ていると言うのに、ぞんざいに寝室のドアを開ける要。
 ベッドの上になぜか寝袋が置かれているという奇妙な光景を見て誠の意識が固まる。
「あれ、何なんですか?」 
「なんだ。文句あるのか?」 
 そのまま部屋に入る要。ベッドとテレビモニターと緑色の石で出来た大きな灰皿が目を引く。机の上にはスポーツ新聞が乱雑に積まれ、その脇にはキーボードと通信端末用モニターとコードが並んでいる。
「なんですか?これは」 
 誠はこれが女性の部屋とは思えなかった。『高雄』のカウラの無愛想な私室の方が数段人間の暮らしている部屋らしいくらいだ。
「持っていくのは寝袋とそこの端末くらいかな」 
「あの、西園寺さん。僕は何を手伝えば良いんですか?」 
 机の脇には通信端末を入れていた箱が出荷時の状態で残っている。その前にはまた酒瓶が三本置いてあった。
「そう言えばそうだな」 
 要は今気がついたとでも言うように誠の顔を見つめる。
「ちょっと待ってろ。テメエに見せたいモノがあるから」 
 そう言うと壁の一隅に要が手を触れる。スライドしてくる書庫のようなものの中から、要は小型の通信端末を取り出した。明らかに買ったばかりとわかるような黒い筐体を手渡す要。さらに未開封のゲームソフトらしいモノをあわせて取り出す。
「誠はこう言うのが好きだろ?やるよ」 
 誠は要の顔を見つめた。要はすぐに視線を落とす。
「もしかしてこれを渡すために……」 
「勘違いすんなよ!アタシはもう少しなんか運ぶものがあったような気がしたから呼んだだけだ!これだってたまたまゲーム屋に行ったら置いてあったから……」 
 そのまま口ごもる要。誠はゲームソフトを見てみる。どう考えても要が買うコーナーには無いギャルゲーである。
「心物語ですか。主人公キャラが男女二人になって、どちらからでも攻略できるんですよね。確かアイシャさんが18禁バージョンの限定版を三つ確保したとか自慢してましたけど」 
「アイシャの奴買ってたのか?」 
「まあこういうゲームの収集はアイシャさんの守備範囲ですから」 
「そうか……」 
 がっくりとうなだれる要。誠はどう慰めようか言葉を選ぼうとした時に、窓の外に一本のロープがぶら下がっていることに気づいた。

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遼州戦記 保安隊日乗 保安隊海へ行く 119

「それにしても、茜さんにした『カネミツ』の話。本当ですか?」 
 要のタレ目がにやりと笑う。
「ああ、あれならカマかけてみたんだ」 
 グラスにウォッカを注ぐ要。誠は半分呆れながらその手つきを観察する。
「叔父貴は自分から状況を作るようなことはしねえよ。あくまでも相手に手を打たせてから様子を見てカウンターでけりをつけるのが叔父貴流だ。まあ、手札としての『カネミツ』の有効利用のために吉田辺りを使って噂を広めるくらいのことはするかもしれねえがな」 
 グラスを顔の前にかざして、いつもの悪党の笑顔を浮かべる要。
「しかし、アレはほとんど戦略兵器じゃないですか!国際問題に発展する可能性だって……」 
「その性能とやらもすべて叔父貴の息のかかった技術屋の口からでた数字だろ?当てになるもんじゃねえよ。まあ、叔父貴のことだから過小評価している可能性もあるんだがな」 
 そう言うとまた要はウォッカの入ったグラスを傾けた。
「まあ、主要国の情報機関が寝ずにがんばってくれているのには頭が下がるがね。叔父貴のことだ、そんな様子を腹抱えて大笑いしてるんじゃねえか?」 
 口にスモークチーズを放り込んで、外の景色を眺める要。窓には吹き付ける風に混じって張り付いたのであろう砂埃が、波紋のような形を描いている。足元を見れば、埃の塊がいくつも転がっていた。
「西園寺さん。掃除したことあります?」 
 そんな誠の言葉に、口にしたウォッカを吐きかける要。
「……一応、三回くらいは……」 
「ここにはいつから住んでるんですか?」 
 要の顔がうつむき加減になるのを見ながら誠からの言葉に黙り込む要。
「掃除機ありますか?」 
「馬鹿にするなよ!一応、ベランダに……」 
「ベランダですか?雨ざらしにしたら壊れますよ!」 
「そう言えば昨日の夜、電源入れたけど動かなかったな」 
 絶句する誠。しかし、考えてみれば胡州の選帝公の筆頭である西園寺家の一人娘。そんな彼女に家事などが出来るはずも無いことは容易に想像できた。
「じゃあ、来週の30日。掃除機借りてきますんで掃除しましょう」 
「やってくれるか!」 
「いえ!僕が監督しますから西園寺さんの手でやってください!」 
 誠の宣言にしょげ返った要。彼女は気分を変えようと今度はタバコに手を伸ばした。
「それとこの匂い。入った時から凄かったですよ。寮では室内のタバコは厳禁です」 
「それ嘘だろ!オメエの部屋でミーティングしてた時アタシ吸ってたぞ!」 
「あれは来客の場合には、島田先輩の許可があれば吸わせても良いことになっているんです!寮の住人は必ず喫煙所でタバコを吸うことに決まっています!」 
「マジかよ!ったく!失敗したー!」 
 そう言うと要は天井を仰いでみせた。

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遼州戦記 保安隊日乗 保安隊海へ行く 118

 黙ってエレベータから降りる要。それに続く誠。フロアーには相変わらず生活臭と言うものがしない。誠は少し不安を抱えたまま、慣れた調子で歩く要の後に続いた。東南角部屋。このマンションでも一番の物件であろうところで要は足を止める。
「ちょっと待ってろ」 
 そう言うと要はドアの横にあるセキュリティーディスプレイに10桁を超える数字を入力する。自動的に開かれるドア。茜はそのまま部屋に入った。
「別に遠慮しなくても良いぜ」 
 ブーツを脱ぎにかかる要。誠は仕方なく一人暮らしには大きすぎる玄関に入った。ドアが閉まると同時に、染み付いたタバコの匂いが誠の鼻をついた。靴を脱ぎながら誠は周りを見渡した。玄関の手前のには楽に八畳はあるかという廊下のようなスペース。開けっ放しの居間への扉の向こうには、安物のテーブルと、椅子が三つ置かれている。テーブルの上にはファイルが一つと、酒瓶が五本。その隣にはつまみの裂きイカの袋が空けっ放しになっている。
「あんま人に見せられたもんじゃねえな」 
 そう言いながら要はすでにタバコに火をつけて、誠が部屋に上がるのを待っていた。
「ビールでも飲むか?」 
 そう言うと返事も聞かずにそのまま廊下を歩き、奥の部屋に入る要。ついて行った誠だが、そこには冷蔵庫以外は何も見るモノは無かった。
「西園寺さん。食事とかどうしてるんですか?」 
「ああ、いつも外食で済ませてる。楽だからな」 
 そう言って要は缶ビールを誠に差し出す。
「空いてる部屋あったろ?あそこに椅子あるからそっち行くか」 
 そう言うと要はスモークチーズを取り出して台所のようなところを出る。
「別に面白いものはねえよ」 
 居間に入った彼女は椅子に腰掛けると、テーブルに置きっぱなしのグラスに手元にあったウォッカを注いだ。
「まあ、冷蔵庫は置いていくつもりだからな。問題は隣の部屋のモノだ」 
 口に一口分、ウォッカを含む要。グラスを置いた手で、スライス済みのスモークチーズを一切れ誠に差し出す。誠はビールのプルタブを切り、そのままのどに流し込んだ。
「隣は何の部屋なんですか?」 
 予想はついているが念のため尋ねる誠。
「ああ、寝室だ。ベッドは置いていくから。とりあえず布団一式とちょっと必要なファイルがあってな」 
 今度はタバコを一回ふかして、そのまま安物のステンレスの灰皿に吸殻を押し付ける。
「まあ、野球部の監督としては結構大事なもんだ」 
 要は今度はグラスの半分ほどあるウォッカを一息で飲み下した。

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遼州戦記 保安隊日乗 保安隊海へ行く 117

「ここは右折でよろしいですの?」 
 造成中の畑だったらしい土地を前にして道が途切れたT字路で茜が声をかける。
「ああ、そうすればすぐ見える」 
 要は相変わらずタバコをくわえたまま、砂埃を上げる作業用特機を眺めていた。茜がハンドルを切り、世界は回る。そんな視界の先に孤立した山城のようにも見えるマンションが見えた。周りの造成地が整備中か、雑草が茂る空き地か、そんなもので構成されている中にあって、そのマンションはきわめて異質なものに見える。
 まるで戦場に立つ要塞のようだ。誠はマンションを見上げながらそう思った。車はその前に止まった。
「ああ、ありがとな」 
 そう言いながらくわえていたタバコに火をつけて地面に降り立つ要。
「ありがとうございました」 
「いえ、これからお世話になるんですもの。当然のことをしたまでですわ」 
 茜の左の袖が振られる。その様を見ながら少し照れる誠。
「それじゃあ、明後日お会いしましょうね。ごきげんよう」 
 そういい残して茜は車を走らせた。
「おい、何見てんだよ!」 
 タバコをくわえたまま要は誠の肩に手をやる。
「別になにも……」 
「じゃあ行くぞ」 
 そう言うと要はタバコを携帯灰皿でもみ消し、マンションの入り口のセキュリティーシステムに暗証番号を入力する。汚れの一つ無いフロアーがガラス越しに覗ける。大理石を模した壁。いや、本物の大理石かもしれない。何しろ胡州一の名門の一人娘の住まうところなのだから。
「ここって高いですよね?」 
「そうか?まあ、親父が就職祝いがまだだったってんで、買ってくれたんだけどな」 
 根本的に要とは金銭感覚が違うことをひしひしと感じながら、開いた自動ドアを超えていく要についていく誠。
「茜……あの親子はどうにも苦手でね。何を聞いても暖簾に腕押しさ、ぬらりくらりとかわされる」 
 要はエレベータのボタンを押した。
「まあ、考え方は似てますよね」 
「気をつけな。下手すると茜の奴は叔父貴よりたちが悪いぞ」 
 エレベータが開き要仕切るようにして乗り込む。階は9階。誠は人気の無さを少しばかり不審に思ったが、あえて口には出さなかった。たぶん要のことである。このマンション全室が彼女のものであったとしても不思議なことは無い。そして、もしそんなことを口にしたら彼女の機嫌を損ねることはわかっていた。
「どうした?アタシの顔になんかついてるのか?」 
「いえ、なんでもないです」 
 誠がそんな言葉を返す頃にはエレベータは9階に到着していた。

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遼州戦記 保安隊日乗 保安隊海へ行く 116

「現在の法術適正者の選抜は同盟加盟国の軍、警察、その他各省庁の実働部隊までしか進んでいない段階よ。それだけの数の分母で適正者がそうたくさん出てくると考えるのがおかしいんではなくって?」 
「まあな。それにたとえ法術適正があることがわかってもそれにあう訓練を施せる人材となるとまあ言うまでもねえか。本家の遼南の方はどうなんだ?あそこの青銅騎士団や山岳レンジャー辺りなら教官が務まる人材もいるんだろ?」 
 バイパス建設の看板が並び、中央分離帯には巨大な工作機械が並んでいる。車は止まる。渋滞につかまったようで、茜は留袖を整えると再びハンドルを握った。
「遼南首相ブルゴーニュ侯はお父様とは犬猿の仲なのはご存知でしょ?シャムさんの出向にしてもかなりお父様は無理をなさっておられるわ。遼南が人材の出し惜しみをしているのは事実なのよ。正直なところ完全なブルゴーニュ侯の意趣返しですわね」 
 前の砂利を積んだトラックが動き出す。茜は静かにアクセルを踏む。
「つまらねえことを政局に使いやがって!叔父貴も叔父貴だ、司法局が舐められてるのは発足以来のことだって納得しているのかね。まあそれはいいや」 
 要はタバコに手を伸ばそうとしたが、鋭い茜の視線にその右手は宙を舞った。
「それにしちゃカネミツが豊川に運ばれたって言う噂は解せねえな。あれは遼南のフラッグ・アサルト・モジュールだ。カネミツが動くと言うことは遼南が動くってことだ」 
『カネミツ』という言葉で誠は思わずシートにもたれていた背筋を伸ばした。アサルト・モジュールの起源とも言える古代遼州文明の兵器。その失われた技術を使っての最終決戦兵器として胡州が開発を進めた機体。
 その再生のために胡州帝国陸軍は専門の実験機関を設立して挑んだ。そして特選三号試作戦機計画により製作された唯一の稼動機体である24号機は唯一の適合パイロットである嵯峨惟基の愛刀の名から『カネミツ』と呼称された。05式の50倍と言う強大な出力の対消滅エンジンを搭載し、それに対応可能なアクチュエーターを装備している。そして思考追従式オペレーションシステムを搭載し驚異的な機動性能を実現した最強のアサルト・モジュール。
 先月の法術兵器にかけられていた情報統制が解禁されてから流れた情報では、保安隊の運用艦『高雄』の重力波砲と比べても最低に見積もって500倍の出力を誇る広域空間変性砲を装備していることが公表された。
「裏は取れているのかしら」 
 茜は表情も変えずに渋滞を抜けようと左折して裏道に入り込んだ。
「なに、ただの与太話だ。だが、アタシの情報網でも弾幕の雨の中でも正気を保てる程度の連中が目の色変えて裏を取ろうと必死になってるって話だ」 
 郊外の住宅街と言う豊川市の典型的な眺めが外に広がっている。要はそんな風景と変わらない茜の表情を見比べていた。
 茜は無言だった。要は何度か茜の表情の変化を読み取ろうとしているように見えたが、しばらくしてそれもあきらめた。要は頭を掻きながら根負けしたように口を開いた。
「つまり、間違いなく言えることはしばらくは法術特捜に手を貸せってことだけか」 
「そうしていただけると助かりますわ。噂は噂。今は目の前にある現実を受け止めて頂かないと」 
 陸稲の畑の中を走る旧道が見えたところで、茜は車を右折させた。
「ったく人使いが荒いねえ。叔父貴は」 
「それは今に始まったことではないでしょ」 
 そう言って茜は笑う。要は耐え切れずにタバコを取り出した。
「禁煙ですわよ」 
「バーカ。くわえてるだけだよ!」 
 そう言うと要は静かに目をつぶった。

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