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遼州戦記 墓守の少女 140

 ゲリラが去り、難民が去った本部前のテントは手の空いた歩兵部隊と工兵部隊の手でたたまれている最中だった。
「元気だねえ!」 
「今度、あんぱんあげるからな!」 
 シャムを見つけた兵士達が声をかけるのに笑顔で手を振って答えるシャム。
「人気者だね」 
「まあ、これが人望と言うものだよ……うん」 
 シャムは腕組みをして頷いている。おそらく誰かに吹き込まれたのだろう。笑顔のシャムを熊太郎が後ろから突いた。
「こら!」 
 シャムは熊太郎に声を上げるが、熊太郎は身を翻すと、そのまま急な坂を上り村の中心へと駆け上がっていく。シャムはそれを追って走り始める。戦闘服や作業着の兵士達の中で、黒に色とりどりの色で刺繍を施した民族衣装を着ているシャムの姿がいつの間にか自然に思えていることに気付いてクリスは笑った。人間は慣れて行くものだ。キーラ達人造人間もいつの間にかこんな生活に慣れてきている。砂利道の傾斜が緩やかになり、そして平らになる。目の前には墓の群れが広がる。その前で笑いながら追いかけっこを続けるシャムと熊太郎。
「少なくともこれはあんまり見たい光景じゃないな」 
 粗末な墓を見ながらクリスは独り言を言った。中心の墓。それはシャムの義理の父親、ナンバルゲニア・アサドの墓である。遼南帝国最後の輝きを放った名君ムジャンタ・ラスバ大后の治世、北方遊牧民に生まれたアサドは軍に志願。遼州で発見された古代遺跡の中に見つかった人型兵器のレストアされた『人機』、後のアサルト・モジュールの精鋭部隊『青銅騎士団』の団長となった。
 だが、それは短い栄光にしか過ぎなかった。
 今から二十九年前、ラスバは一人の遼州人の自爆テロにより急逝した。一説にはそれは彼女の長男である第三十四代皇帝ムジャンタ・ムスガの差し金とも言われた。ムスガは保守勢力に推されていた。計略に長けた女帝である母ラスバに暗愚と評され廃嫡されたムスガ。花山院家やブルゴーニュ侯はラスバが重用した人材の排除に奔走した。その中にアサドの名もあった。資料では青銅騎士団の団長を罷免されてからのアサドの消息はまるで無かった。
 クリスの目の前にはその運命に翻弄された騎士が眠っていた。その娘、シャムは元気に遊んでいた。夕方と呼ぶにはまだ早い太陽が照りつける。クリスに気付いたシャムは熊太郎と一緒にクリスの隣に立った。
「お参りするの?」 
 静かに訪ねてくるシャムの帽子がずれているのに気付いて、クリスはそれを直してやった。
「おとうが見てるからね。それにグンダリも」 
「グンダリ?それは君の刀の名前じゃないのか?」 
 クリスのその言葉に静かに視線を落としてしまうシャム。彼女は隣の墓を指差した。
「これがグンダリの墓。アタシの初めての友達」 
 シャムの瞳が潤んでいるのがわかった。

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遼州戦記 墓守の少女 139

「そうなんだ。ふーん」 
 いつの間にか存在を忘れられていたシャムと熊太郎が冷蔵庫からアイスを取り出して食べている。
「おい、なんで熊連れてるんだ?ここは人間の……」 
 思わず愚痴る飯岡。
「フウ!」 
 熊太郎のうなり声で驚いたように飯岡が後ずさる。
「しかし、そうなると隊長は市街戦を行うことを考えてるってことなのかしら。でも、北兼南部基地は市街地からかなり離れているわね。隣の普真市はそれほど大きな町でもないし、戦略上はただ北兼台地の中心都市、アルナガへの街道が通っているだけだし……」 
「いや、わかったような気がする」 
 嵯峨の意図を測りかねているルーラに対し、ジェナンははっきりとそう答えた。
「どう言うこと?」 
「今は言えないな。ホプキンスさんの目もある」 
「君は僕の事を信用していないと言うことか」 
「当たり前でしょ?あなたはアメリカ人だ。遼州に介入を続ける政府の報道関係の人物を信用しろと言うほうが無理なんじゃないですか?」 
 ジェナンは鋭い視線をクリスに向けながら笑った。
「そうだよね。ホプキンスさん。すいませんが席外してくれますか?」 
 珍しくレムがまじめな顔をしてそう言った。
「シャムちゃん。一緒にお墓参りしてきたら?これからたぶん忙しくなるから暇が無いわよ」
 ルーラは食べ終えたアイスのカップをシャムから受け取って流しに運ぶ。
「クリス……」 
 少し表情を曇らせながら仲間を見やるキーラが居る。
「そうかもしれませんね」 
 そう言いながらクリスは立ち上がると、よく事態が飲み込めていないシャムにつれられて控え室を出た。
「ああ、また組み立てるんだね」 
 シャムが立ち働いている菱川の青いつなぎの技術者の群れを眺めた。冷気が開いていくコンテナから流れ出し、ハンガーを白い霧に包んでいく。フレームだけになったカネミツには検査器具を持った技術者が群がり、再び組み立てを待っている。
「あれって大変そうだよねえ。動かすたびにああやって組み立てないといけないんでしょ?」
 シャムにそう言われてクリスは黙って頷いた。カネミツは嵯峨にしか扱えない機体だと聞いていた。それがくみ上げられるということは嵯峨が出撃することを意味している。正面から決戦を挑む。クリスにはその覚悟のようなものをくみ上げられるカネミツから感じていた。

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遼州戦記 墓守の少女 138

「ったくなんだって言うんだ……」 
 そこに入ってきたのは飯岡だった。彼はタオルを首からさげながらぶつぶつとつぶやいて空いたパイプ椅子に腰掛ける。
「なにか会ったんですか?飯岡さん」 
 話題を変えようとキーラは飯岡に話を投げた。
「ああ、見慣れない団体が会議室の周りにうろちょろしてるんだ。帯刀している士官風の奴も居たからあれは胡州浪人だな。なんだって今頃そんな奴等が……」 
 そう言うと飯岡は目の前にあった飲みかけのセニアの冷めたコーヒーを飲み干した。
「あーあ」 
 ルーラがそれが御子神の飲んでいたコップだと気づいて声を上げる。
「御子神さんに教えておこう」 
「ガサツなんだから本当に」 
 レム、キーラが飯岡の手にあるカップを見つめる。
「なんだよ!喉が渇いたんだから仕方ないだろ!」 
 言い訳する飯岡だが、クリスは彼の言葉に興味を持っていた。
「見たことの無い胡州の軍人?」 
 逃げるように彼女達から視線を反らした飯岡に尋ねた。
「ああ、文屋さんなら心当たりあるかな?一応、人民軍の制服は着ていたが、どうも北天の連中とはまとってる空気が違う。それに楠木の旦那と話をしていたから隊長の関係者だと思うんだがな」 
 今度は誰も手にしそうに無いのを確認してから机の上の団扇で顔を扇ぎ始めた飯岡。
「胡州陸軍遼南派遣公安憲兵隊。前の戦争でゲリラ掃討で鳴らした嵯峨惟基の部隊だ」 
 それまで黙って飯岡の話を聞いていたジェナンが放った言葉は周りの空気を凍らせる意味を持っていた。
「でもそれってそのまま隊長の下河内連隊に再編成されて南兼戦線で全滅したはずじゃあ……」 
 キーラのその言葉にジェナンは静かに後を続けた。
「公安憲兵隊は市街地戦闘でその威力を最大限に発揮する部隊なんだ。確かに上層部の恣意的な人事で嵯峨や楠木と言った幹部はそのまま下河内連隊に再編成されて全滅したけど多くはそのまま胡州の占領地域でのゲリラ狩りや国内の不穏分子の摘発に回されたと聞いている」 
「つまり幹部連から引き離された兵隊達が隊長を慕って加勢に来たって話ですか?」 
 レムの言葉にジェナンは頷いた。
「公安憲兵隊はそのやり口で一兵卒に至るまで戦争犯罪者として指名手配がかかっている。つまり彼らには頼りになるのは嵯峨惟基という人物しかいない。元々大貴族の私領として拡大した胡州星系のコロニー群。閉鎖的なその環境なら戦争犯罪人を多量に抱え込むことなんて造作も無いことだ。そうじゃないですか、ホプキンスさん」 
 ジェナンに話題を振られたクリスは静かに頷いた。
「次にあの人物がどう言う行動を取るか。それを僕は見定めるつもりだ」 
 そう言うと彼は静かに話を聞いていたライラに視線をあわせた。ライラはジェナンの瞳がいつもと違う光を放っているのを見て少し困惑した。

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遼州戦記 墓守の少女 137

 セニアと御子神が出て行くのを見守るクリス達。
「それにしても早いわね」 
「たぶんここまでの手順は嵯峨中佐は準備していたみたいだよ」 
 クリスのその言葉にジェナンとライラは頷いた。
「本当に?あの人一体何手先まで読んでるの?」 
「相手が投了するまでじゃないの?」 
 ルーラの叫びにレムが淡々とこたえた。そんなレムの言葉にクリスは共感していた。
『あの御仁なら、そこまで考えていなければ戦争を始めたりしないだろうな』 
 嵯峨がわざわざ追放された故郷に帰ってくるのに郷愁と言う理由は曖昧に過ぎた。彼はどこまでも軍人だった、それも戦略を練る政治家としての顔さえ垣間見えるような。情で動く人間とは思えない。嵯峨とは相容れないゴンザレスと言う男の政権でどれほどの人間が傷つこうが彼には他人事でしかない。その濁った瞳にはすべての出来事が他人事にしか映っていないはずだ。クリスはそう確信していた。
 クリスは思い出していた。嵯峨惟基がかつて胡州の国家改造を目指す政治結社の創立メンバーの一人であったことを。そして陸軍大学校時代、嵯峨は既得権益を握った貴族制度が国家の運営にいかに多くの障害となると言う論文を発表し新進気鋭の思想家として胡州の若手将校等の支持を得ていた人物であるということ。
 しかし、彼は結婚の直前、自らの著作をすべて否定する論文を新聞に発表し論壇を去った。彼の以前の過激な思想に不快感を持っていた胡州陸軍軍令部は彼を中央から遠ざける為、東和共和国大使館付きの武官として派遣した。それ以降、彼は決して自らの思想を吐露することを止めた。
 この取材に向かう前に嵯峨と言う人物を知るために集めた資料からそのような嵯峨という人物の過去を見てきたクリス。そして今の仙人じみたまるで存在感を感じない嵯峨と言う人物の現在。そう言った嵯峨の過去を目の前の部下達が知っているかどうかはわからない。だが、今の嵯峨にはかつての力みかえった過激な思想の扇動者であった若手将校の面影はどこにも無かった。そして彼の部下達はただ嵯峨を信じて彼の実力に畏怖の念を感じながらついてきている。
「だから、二式の性能でM5はどうにかなる相手なの?」 
 ぼんやりと考え事をしていたクリスの目の前でルーラがキーラを問い詰めていた。
「確かにM5はバランスは良い機体よ。運動性、パワー、火力、格闘能力。どれも標準以上ではあるけど、ただアメリカ軍のように組織的運用に向いている機体だから南部基地みたいに指揮系統が突然変更されたりする状況ではスペックが生かせない可能性が高いと言ってるのよ」
「吉田少佐にはそのような希望的観測で向かうべきじゃないですよ。百戦錬磨の傭兵だ。甘く見れば逆に全滅する」 
 キーラの言葉をジェナンがさえぎった。
「ずいぶん弱気ね」 
 つい口に出したというライラの言葉にルーラが目を向ける。
「そうじゃないわよ!ルーラが言ってるのはちょっと急ぎすぎじゃないかと……」 
「やはりびびってるんじゃないの」 
 ルーラとライラがにらみ合いを始めた。きっかけを作ったキーラとジェナンはただ二人をどう止めるべきか迷っていた。

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遼州戦記 墓守の少女 136

「君は強いんだな」 
 ジェナンはそう言うと下を向いた。ライラが心配そうに彼に寄り添うように立つ。
「いいわねえ、ジェナン君には彼女が居て。あーあ私も素敵な彼氏が欲しいなあ」 
「私では駄目なのかね?ルーラ君」 
 レムはそう言いながらルーラの顔に手を伸ばそうとする。ルーラはその手を払いのけた。
「何をやっているんだか……」 
「そう言うセニアはどうなのよ。やっぱり隆志君一筋?」 
「俺がどうかしましたか?」 
 悪いタイミングで仕様書から目を上げた御子神。全員の視線が彼に集中する。
「何でしょうか?」 
「ニブチン!」 
「最低!」 
 レムとルーラにけなされて、何のことかわからずに首をかしげる御子神。そこに入ってきたのはシンだった。彼は微妙な控え室の空気を観察しながらクリスに目で訪ねてきた。
「ジェナン君が何の為に戦っているのかって話題を出したんですよ」 
「なるほど、ジェナンらしいな。俺は信念のために戦っているな。モスレムの同胞の苦しみ、ゴンザレスの圧制への人々の叫び。それに俺なりに出来ることがあると思って東モスレムにやってきた」 
 シンはそう言い切るとセニアと御子神を見た。
「ブリフィス大尉、御子神中尉。嵯峨隊長がお呼びだ。南部基地攻略作戦の会議だ。急ぐように」 
 そう言うとシンはすぐに去っていく。
「動きが早いな。さすがに百戦錬磨の指揮官ではないというところだろうな」 
 ジェナンはそう言いながら爪を噛んだ。すぐさまライラの右手が飛んだ。
「ジェナン!その癖みっともないわよ」 
「それじゃあ行って来るわ」 
「僕も……」 
 立ち上がったセニア、仕様書を机に投げて後を追う御子神。
「お熱いわねえ。そう思いませんか?ホプキンスの旦那」 
 ニヤニヤと笑いながらレムがクリスに話しかけてきた。

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