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遼州戦記 墓守の少女 183

「ありがとう。実はお願いがあるんだ」 
 クリスはゆっくりとキーラを離すと静かにそう口にした。髪を掻きあげながらクリスを見つめるキーラが軽く頷く。
「それをもらって欲しいんだ」 
 その言葉に一瞬キーラが戸惑った表情を浮かべる。
「君も仕事があると思うんだ。しばらくまだ遼南は荒れる。いろいろとすることもあるだろうし、君の手がこの国に必要なのはよくわかる。だから約束の……結婚の約束のつもりにそれを預かっていてもらいたいんだ」 
 そう言い切ったクリスの瞳をキーラの赤い瞳は見つめていた。
「本当にいいの?私で」 
 キーラの言葉に頷くクリス。そして二人の顔は自然と近くなった。強く、抱きしめたキーラの体の温度を感じながらクリスはキーラの唇を味わった。一瞬、だがそれは永遠にも思える時間。クリスとキーラの心は一つだった。
 そう、それは一瞬だった。
「おいっす!……あっ失礼しましたねえ……」 
「嵯峨……陛下!」 
 ドアから堂々と入ってきて、二人を見つめて帰ろうとするのは着流し姿の嵯峨の姿だった。
「なんで……ここに?」 
 クリスは一瞬キーラと見つめあった後、静かに彼女を手放した。
「おい、吉田!聞いてねえぞ!俺が野暮天になっちまったじゃねえか!」 
 隣の窓に向かって怒鳴る嵯峨。そしてそこからはなぜか壁を登ってきた吉田が顔を覗かせる。
「いやねえ、こう言うの見るとつい邪魔したくなるのが人情でしょ?」 
 吉田は悪びれることも泣く、部屋の窓の鍵を外から綺麗に開けて中に入ってきた。
「おい、そりゃどこの人情って。お前等もなあ、先にこう言う雰囲気なら一言なあ……」 
 嵯峨の後ろからは出かけたはずのハワードとシャム。それに遼北に帰ったはずの明華、今は東和でフリーライターをしている楠木、そしてニヤニヤと下品な笑顔を浮かべるレムがいた。
「君達もしかして……」 
 そう言うクリスを後目に吉田はそのままベッドの横の植木鉢に手を突っ込むと小さなマイクを発見する。
「誰だ?こんなの仕込んだの……」 
 吉田の問いに手を上げるレム。
「なんだかなあ……」 
 天を見上げるクリス、隣には笑うキーラの幸せそうな顔があった。

 翌日、嵯峨惟基はクーデターに関する詳細を発表。同時に、東和・遼北・西モスレム・ゲルパルト・大麗の大使を臨時首脳府に招聘、政権の正当性を伝えた。
 各大使はそろってこれに支持の意向を示した。
 これによりムジャンタ王朝は後遼王朝として成立することとなった。


                                     了

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遼州戦記 墓守の少女 182

「なにぼんやり外なんて見やがって。センチメンタルになる年でもないだろ?」 
 一枚、クリスの顔写真を撮るとハワードはそう言ってクリスを茶化した。
「俺もそうは思うんだがね。こうして時代が変わって……」 
 突然呼び鈴が鳴った。
「アタシが出ようか?」 
 そう言ったシャムをハワードが押しとどめた。ニヤニヤと笑うハワードの顔に一撃見舞いたい気分になりながらクリスは立ち上がった。そしてそのままドアに手をかけて振り向く。ハワードに釣られてシャムもなにやらニヤニヤと笑っている。
 もうドアの外で待つ人が誰なのかクリスにも想像がついた。
「あっ、あの」 
 少佐の階級章をつけたキーラがそこに立っていた。白い髪は以前より長く、肩まで届いてぬるい廊下の風になびいていた。
「久しぶりだね」 
 そう言ったクリスだが、振り向けばハワードがなにやらシャムにささやいている。遼南内戦の取材を終えたあの日から、クリスは毎日キーラにメールを送るのが日課になっていた。彼女のメールの言葉には不条理な暴力が支配する戦場の掟が書かれていた。死んだ仲間、投降する敵兵、そして不足する物資。そしてクリスは遼州の政治家や活動家を訪ねる取材を続けながら彼女からのメールを待っていた。
 今、そのキーラが目の前にいる。
「まあ、入ってくれ。あまり良い部屋とは言えないがね」 
 そう言ったクリス。うつむき加減のキーラがそのまま部屋に入る。それだけで楽しいとでも言うようにシャムは笑顔を浮かべながらハワードに何かをささやいている。
「そう言えばシャムちゃんも久しぶりね」 
 会いたいと言う思いが実現したと言うのにクリスもキーラも言葉を切り出せないでいた。
「ああ、そうだ。吉田少佐に呼ばれてるんだよな。シャム、お前も来いよ」 
「なんで?」 
 ハワードに腕を引っ張られながらシャムが抵抗する。だが、小さなシャムはそのままハワードにひきづられて行く。
 ドアが閉まると同時に、クリスはキーラを抱きしめていた。
「返しに来たの……これ」 
 そう言うとキーラは胸元にクリスから預かったロザリオを見せた。

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遼州戦記 墓守の少女 181

「帰ってくるん……いえ、また来てくれますよね」 
 ゆっくりと体を離していくキーラを離したくない。クリスはそう感じていた。初めてであったときからお互いに気になる存在だった。それなりに女性との出会いもあったクリスだが、キーラとのそれは明らかに突然で強いものだったのを思い出す。
「いえ、又帰ってきますよ」 
 そう言って笑う自分の口元が不器用に感じたクリスだが、キーラはしっかりとその思いを受け止めてくれていた。次々と通り過ぎる北兼の兵士達も彼らに気をきかせてかなり遠巻きに歩いてくれている。
「それじゃあ、これを……」 
 クリスはそう言うと自分の胸にかけられていたロザリオをキーラに手渡した。
「これはお袋の形見でね」 
 クリスの手の中できらめく銀色のロザリオ。キーラはそれを見つめている。思わず天を仰いでいた自分に驚くクリス。そんな純情など残っていないと思っていたのに、キーラの前では二十年前の自分に戻っていることに気付いた。
「そんな大切なものを私がもらって……」 
「大切だから持っていてもらいたいんだよ。そして必ず返してくれよ」 
 クリスの言葉に、キーラはしっかりとロザリオを握って頷いた。
「わかりました……でもクリスさんに返しても良いんですか?本当に受け取ってくれますか?」 
 いたずらっぽい笑みを浮かべるキーラに頭を掻くクリス。
「大丈夫さ、きっちり取り返しにくるさ」 
 そう言ってキーラがロザリオを握り締めている両手をその上から握り締めるクリス。
「キーラ!早く来てよ!とりあえず機体状況のチェックをするわよ!」 
 小さな上司、許明華が手を振っている。お互い明華を見つめた後、静かに笑いあったクリスとキーラ。
「ったく!チビが野暮なことするなよ!」 
「楠木大尉!そんなこと言ってもあんな二人見てたら邪魔したくなるじゃないですか」 
 無粋な明華をしかりつける楠木。ハワードは気がついたようにクリスとキーラにシャッターを切った。
「ハワード!あんまりつまらないことするなよ!」 
「何言ってるんだ。俺とお前の仲じゃないか!」 
 そう言ってシャッターを切る続けるハワード。さらに司令部から出てきたセニア達パイロットや伊藤までもが生暖かい視線を二人に送ってくる。
「じゃあ、ホプキンスさん!」 
 交錯する視線に耐えられなくなったキーラがそのまま明華の方に走り出した。
「必ず返してくれよ!」 
 そう叫ぶクリスに向けて、キーラは右手に持ったロザリオを振って見せた。

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遼州戦記 墓守の少女 180

「それは違うよ!」 
 突然のシャムの言葉にクリスは戸惑った。
「正義とか悪とか、アタシにはよくわからないけど守りたいものがあるから戦う。アタシが知っている戦いはそれだけ。もし、それが無いのに戦うなら、それが悪なんだよ」 
 熊太郎を撫でながら言ったシャムの言葉。楠木はそれを目をつぶって聞くと口からタバコの煙を吐いた。
「結構いいこと言うじゃないか、シャム。ただ大人になるといろいろ事情があるんだよ。まあ、ホプキンスさんは結論を出したということで。俺達はこの戦いに結論をつけねえとな」 
 そう言うと楠木は手を上げた。彼の視線の先で三派の基地へと帰還しようとするシンの指揮下のアサルト・モジュールが目に入った。
「あいつ等も自分のいるべき場所に戻るわけか」 
 再びタバコをふかす楠木。クリスはシャムを眺めていた。
「ホプキンスさん!」 
 そう言って司令部の入り口から飛び出してきたのはキーラだった。
「どうしました?」 
 クリスのぼんやりとした顔に、キーラは眉間にしわを刻んだ。
「どうしたのじゃないですよ!聞きましたよ、明日出られるそうですね」 
 白いつなぎに白い肌、そして短い白い髪がたなびいている。
「ああ、ハワードさんちょっと話があるんで……」 
「そうですね。シャムちゃん!ちょっと熊太郎と一緒に写真を撮らせてもらってもいいかな?」 
 楠木とハワードは気を利かせて嬉しそうに二人を見つめるシャムと熊太郎をハンガーの方へと誘導する。
「クリスさん……」 
 言葉にならない言葉を、どうにか口にしようとするキーラ。クリスも彼女のそんな様子を見て声を出せないでいた。
「たぶん、これから二式の整備で手が離せなくなるんで……」 
 そう言いながらくるりと後ろを向くキーラ。クリスは彼女の肩に手を伸ばそうとするが、その手がキーラの肩にたどり着くことはない。
「そうですよね。帰還したばかりだけど西部での戦闘は続いている以上、常に稼動状態でないとこの基地を押さえた意味がないですよね」 
 クリスの言葉に、キーラは何か覚悟を決めたように振り向く。
「ジャコビンさん!」 
 名前を呼ぶクリスの胸にキーラは飛び込んでいた。
「何も言わないでいいですよ。何も言わないで」 
 キーラはクリスの胸の中でそう言うと、ただじっとクリスの体温を感じていた。

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遼州戦記 墓守の少女 179

 そのままパイロット達の雑談が続く。さすがにクリスとハワードにはいづらい雰囲気になった。
「ホプキンスさんとバスさん。こっちに」 
 そう言って気を利かせる楠木。クリスとハワードはそのまま司令部の外へと招きだされた。ついてくるのは会話についていけないシャムと熊太郎。そのまま楠木は司令部の前に止められていた装甲車両のドアを開いた。そこにくくりつけられた空き缶の灰皿を確認すると、タバコを取り出した。
「楠木大尉も吸うんですか?」 
 そう言ったクリスに苦笑いを浮かべる楠木。
「まあね、隊長みたいなチェーンスモーカーじゃないけど、作戦が終わった時とかはコイツで気分転換をするのが習慣でね」 
 楠木はゆっくりと使い捨てライターを取り出してタバコをつける。
「どうですか?踏ん切りはつきましたか?」 
 クリスはその質問に戸惑った。
「間違っていたなら訂正してください。あなたはここに取材をしに来たわけじゃない。あることに、しかも個人的なことに決着をつけるために来た。そうじゃないですか?」 
 楠木の言葉にクリスは金縛りにあったように感じた。
「どう言う意味ですか?」 
 興味深そうにクリスの顔を覗き込んでくるハワードの顔を見ながらクリスは額ににじみ出る汗を拭った。
「言ったとおりの意味ですよ。あなたの記事はこれまでなんども読ませていただきましたよ。だがその流れ、その意図するところ、言おうとしている思想みたいなものが今回のうちの取材とはどうしても繋がらなかった。それが気になって、俺なりにあなたを見ていたんですよ」 
 タバコの煙がゆっくりと楠木の口から空へ上がる。クリスは逃げ道が無いことを悟った。
「確かにそう思われても仕方ないかも知れませんね。どちらかと言えば特だねを物にすることがメインの仕事にはもう飽きていましたから。東海の花山院軍の虐殺の取材を始めた頃は、地球人以外は悪である。そう言う記事を書いて喜んでいた、だけど何かが違うと思い始めた……」 
 そこまで言ったところでハワードの視線がきつくなっているのを見つけた。クリスはそれでも言葉を続けた。
「悪というものが存在して、それを公衆の面前に暴き立てるのがジャーナリストの務めだと思っていました。どこに行ってもいかに敵が残忍な作戦を展開していて自分達がそれを正す正義の使者だと本気で信じている馬鹿にであう。それが十人も出会えばあきらめのようなものが生まれてくる」 
 そんなクリスの言葉をタバコを口にくわえながら楠木は表情も変えずに聞いていた。その隣のシャムと熊太郎もじっと言葉をつむぐクリスを眺めていた。

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