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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (1) 60

「ったく、なんでこんなことになったんだ?」 
「去年のあれだろ」 
 愚痴る要をカウラが諭す。だが要は振り返ると不思議なものを見るような目でカウラを見つめた。
「去年のあれってなんですか?」 
 誠をじっと見つめた後、要の表情がすぐに落胆の色に変わる。そのまま視線を床に落として要は急ぎ足で廊下を歩いていく。仕方が無いと言うようにカウラは話し始めた。
「去年も実は映画を作ったんだ。保安隊の活動、まあ災害救助や輸送任務とかの記録を編集して作ったまじめなものだったわけだが……」 
「なんだかつまらなそうですね」 
 誠のその一言にカウラは大きくうなづいた。
「そうなんだ。とてもつまらなかったんだ」 
 そう言い切るカウラ。だが、誠は納得できずに首をひねった。
「でもそういうものって普通はつまらないものじゃないんですか?」 
 誠の無垢な視線に大きくため息をついたカウラ。彼女は一度誠から視線を落として廊下の床を見つめる。急ぎ足の要は突き当たりの更衣室のところを曲がって正門に続く階段へと向かおうとしていた。
「それが、尋常ではなく徹底的につまらなかったんだ」 
 力強く言い切るカウラに誠は一瞬その意味がわからないと言うようにカウラの目を見つめた。
「そんなつまらないって言っても……」 
「まあ神前の言いたいこともわかる。だが、吉田少佐が隊長の指示で『二度と見たくなくなるほどつまらなくしろ』ってことで、百本近くのつまらないことで伝説になった映画を研究し尽くして徹底的につまらない映画にしようとして作ったものだからな」 
 誠はそう言われると逆に好奇心を刺激された。だが、そんな誠を哀れむような瞳でカウラが見つめる。
「なんでも吉田少佐の言葉では『金星人地球を征服す』や『死霊の盆踊り』よりつまらないらしいって話だが、私はあまり映画には詳しくないからな。どちらも名前も知らないし」 
 頭をかきながら歩くカウラ。誠も実写映画には関心は無いほうなのでどちらの映画も見たことも聞いたことも無かった。
「で、どうなったんですか?」 
 その言葉にカウラが立ち止まる。
「私にその結果を言えと言うのか?」 
 今にも泣き出しそうな顔をするカウラにあわてて廊下を曲がる誠。カウラもできれば忘れたいと言うようにそのまま正面玄関に続く階段を下りていく。
「おい!エダ」
 両手に発泡スチロールの塊を抱えているエダにカウラが声をかけた。
「ベルガー大尉。ちょっとドア開けてください」 
 大きな白い塊を抱えて身動き取れないエダを助けるべく、誠は小走りに彼女の前の扉を開く。
「なんだよ!まじか?」 
 運行部の執務室の中から要の大声が響いてきた。誠とカウラは目を見合わせると、立ち往生しているエダをおいて部屋の中に入った。

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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (1) 59

「そう言えば……楓のお嬢ちゃんはどうした?」 
 ふとそう言ったランの言葉。楓の性別を超えた要への愛を知っているランがニヤニヤしながら要を見つめる。
「いや、あいつのことは忘れようぜ。どうせ第四小隊が射撃レンジで訓練中だからそれを見に行ったんだろ?」 
 そう言う要の声が震えている。カウラと誠は生暖かい視線で要を見つめた。
「ああ、楓ちゃんはサラ達と一緒にコスチュームを考えるんだって。誠君の原画だけじゃ分からないこともあるからって」 
 何気なく言ったシャムの言葉に反応してそれまでは台本を見るふりをしていた要が立ち上がる。
「どうしたんだ?運行の連中のところに顔を出すのか?」 
 冷や汗を流さんばかりの要をニヤニヤしながら見上げるカウラ。
「お前はいいよな、普通なキャラだし」 
 要はそう言うとランに目をやった。
 誠は久しぶりに見る台本を読んで一息ついた。シャムがヒロインの魔法少女バトルもの。確かに誠の『萌え』に触れた作品であることは確かだった。機械帝国に滅ぼされようとする魔法の国の平和を取り戻すために戦う魔法少女役のシャムが活躍する話と言う設定はいかにもシャムが喜びそうなものだった。
 そして彼女の憧れの大学生、神前寺誠一役の誠。彼の正体はピンチになると彼女の前に現れると言うと聞こえがいいが、明らかに身代わりにぼこぼこにされるかませ犬役でしかないのは間違いなかった。誠としてはアイシャの趣味からしてそうなることは予想していたので、別に不満も無かった。むしろアンとの男同士の愛に進展しないだけましだった。
 問題は要とカウラの配役だった。
 カウラの役は魔法少女姉妹のシャムと小夏の姉で誠の恋人の役だった。誠の設定ではアイシャがこの役をやると言うことでデザインした原画を描いたのだが、隊に来て車を降りたときに要がアイシャの首を絞めていたことから見て無理やり要がその役からアイシャを外させたのだろう。
 そして要。彼女は敵機械帝国の尖兵の魔女と言う設定だった。しかも彼女はなぜか誠一に一目惚れするという無茶な展開。その唐突さに要は若干戸惑っていた。しかも初登場の時の衣装のデザインはかなりごてごてした服を着込むことになるので要は明らかに嫌がっていた。
「そうだ普通が一番だぞ、ベルガー。アタシは……なんだこの役」 
 ランがそう言うのも無理は無かった。彼女自身、誠の原画を見てライバルの魔法少女の役になることは覚悟していたようだった。しかし自分のどう見ても『少女』と言うより『幼女』にしか見えない体型を気にしているランにとっては、その心の傷にからしを塗りこむような配役は不愉快以外の何モノでもないのだろう。
「まあ、いいや。アタシはちょっと運行の連中に焼きいれてくるわ」 
 そう言って部屋を出ようとする要のまとう殺気に、誠とカウラはただならぬものを感じて立ち上がり手を伸ばす。
「穏やかにやれよ。あくまで穏便にだ」 
「分かってるよ……ってなんで神前までいるんだ?」 
「一応、デザインしたのは僕ですし」 
 そんな誠の言葉を聞いてヘッドロックをかける要。
「おう、じゃあ責任取るためについて来い。痛い格好だったらアタシは降りるからな」 
 そう言ってずるずると誠を引きずる要。
「西園寺!殺すんじゃねーぞ!」 
 気の抜けた調子でランが彼らを送り出す。そして三人が部屋を出て行くのを見てランは大きなため息をついた。

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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (1) 58

「なんだよオメー等。非番じゃねーのか?」 
 要の始末書に目を通すランの顔を見て誠は頭を掻いた。小学生低学年にしか見えないランが耳にボールペンを引っ掛けて書類に目を通している姿はある意味滑稽にも見えた。
「仕事の邪魔しに来たんじゃねえんだからいいだろ?」 
 そう言うと自分の席に座って机に足を投げ出す要。ダウンジャケットの襟を気にしながら隣でデータの整理をしていたシャムを眺める。シャムは特に変わった様子も無くデータの入力を続けていた。保安隊の副隊長の地位が明石からランに移ると同時に実働部隊詰め所の内容も大きく変わっていた。
 それまで上層部の意向ですべての書類が手書きのみと言う前時代的雰囲気は一掃され、隊員の机のすべてにデータ入力用の端末が装備されるようになった。おかげで部屋の壁を埋めていたファイルの書庫は消え、代わりに観葉植物が置かれるなどいかにもオフィスといった雰囲気になっている。すべてのコンセプトはランが手配したものだが、落ち着いたオフィスと言う雰囲気は彼女の子供のような姿からは想像できないほどシックなものだった。
「で、アイシャの奴が……送ってきたんだよなーこれを……」 
 ランはそう言うと私服で席についている誠とカウラにデータを転送する。
「いつの間に……」 
 ファイルを展開するとすぐにかわいらしい絵文字が浮かんでいる。その書き方を覗き見た誠はそれが台本であることがすぐに分かった。細かいキャラクターの設定、そして誠の描いた服飾デザインが並んでいる。
「ああ、これってこのまえアイシャさんが書いたけど没にした奴ですね。確かに魔法少女が出てきますよ。寝かせてから出すって言ってたんですが」 
 そんな誠の言葉にカウラと要が反応して誠に生暖かい視線を向けてくる。
「なんだ、オメエは知ってるのか?」 
 ゆっくりと立ち上がって尋問するように誠の机に手をかける要。カウラは再びモニターの中の原稿に目を移した。
「知ってるって言うか……一応感想を教えてねって言われて。僕はちょっとオリジナル要素が強すぎて売れるかどうかって言ったらアイシャさんが自分で没にしたんですよ。そうだ、やっぱり先月見た奴ですよ。確かにあれは魔法少女ですね。ちょっとバトル系ですけど」 
 そんな誠と要のやり取りにいつの間にかシャムが立ち上がって誠の隣に来てモニターを覗き始める。
「ホントだ。これってどっちかって言うと魔法少女と言うより戦隊モノっぽい雰囲気だったよね」 
 シャムはすでに自分の案が通らないことを吉田に言い渡されていたらしく、嬉々としてモニターを覗きこんでいる。
「まあアタシはどうでもいいけどさ」 
「でも配役まで書いてあるよ。要ちゃんは……神前君の恋人だって」 
 そんなシャムの言葉に要がモニターを覗き見る。
「引っかかった!」 
 シャムはそう言うとすばやく自分の席に戻る。要はシャムを一睨みしたあとすぐさま自分の席に戻って端末を起動させ台本を読み始めた。
「オメー等仕事の邪魔しに来たわけじゃねーんだろ?静かにしてくれよ」 
 たまりかねたようにランが口を挟む。そしてシャムもさすがにふざけすぎたと言うように舌をだすとそのまま自分の仕事に戻った。
「それにしても遅いな。吉田がグダグダ言ってるんだろうけど」 
 要はそんな言葉を口にするが、その視線は目の前の台本に釘付けである。カウラもじっとモニターを食い入るように見つめている。
「非番なんだからそのままおとなしくしてろよな」 
 そう言ったランだが、その言葉は晴れ晴れとした表情で実働部隊詰め所のドアを開いたアイシャによって踏みにじられることは目に見えていた。

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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (1) 57

「ああ、今日はだな……ちょっと隊に用事があって……」 
 不安そうな誠を見ながらつぶやく要。そのうろたえた調子に笑みを浮かべた楓が輝くような笑顔を浮かべて要に歩み寄ってくる。
「もしかして訓練とかなさるんですか?僕も入れてください!」 
「いや、そう言うわけじゃねえし……」 
 楓に迫られる要が助けを求めるように誠を見つめる。その気配を察して楓が睨みつけるような視線を誠に向ける。誠はただ冷や汗が額を伝うのを感じながら箸を握り締めた。
「嵯峨少佐、ちょっと僕達はアイシャさんの手伝いがあって……」 
「ああ、神前曹長。クラウゼ少佐の手伝いですか……それじゃあ僕達も手伝います!」 
 あっさりと答えてさらに要の手をしっかりと握り締める楓。要は誠がまったく頼りにならなかったことに呆然としながらじりじりと顔を近づけてくる楓に耐えていた。
「おい!そんなくっつくな!息がかかるだろ」 
「僕は感じていたいんです!お姉さまの吐息や鼓動や……」 
 百合的展開に食堂の男性隊員の視線が泳ぎながらちらちらと要と楓を見ているのがわかる。それを見ながら自分に刺さる視線の痛さに頭をかく誠。
「要、貴様の負けだ」 
 いつの間にか要と楓のそばに立っていたカウラの一言に楓の顔が笑みに占められる。島田が冗談で言い出したことから誠が会長にされていた保安隊ポニーテール萌え協議会が押す二大ポニーテールのカウラと楓。そんな二人がそろって自分に視線を向けるのを感じて誠の鼓動が高まった。
 エメラルドグリーンの髪を質素な緑色のバンドで巻いたカウラのポニーテール。戦国時代の姫武将と言った感じに白い布で後ろ髪をまとめ、両のこめかみから垂れる髪を白い髪留めでまとめた和風の楓のポニーテール。ギャルゲーではポニーテールのヒロインを最初に攻略することに決めている誠にとっては天国ともいえる状況だが、周りの視線がその喜びを完全に打ち消す効果を発揮していた。
「なに?手伝いに来てくれるの?」 
 いつの間にか戻ってきたアイシャまでもじっと見つめあう要と楓を眺めている。
「ああ、アタシは心が広いからな。神前も結構やる気みたいだし」 
「え?僕が」 
 要の言葉に唖然とする神前だが、目の前の女性陣の視線が恐ろしくて誠はただ頷くしか出来なかった。
「じゃあ、朝食ね。それとカウラちゃんの車は四人しか乗れないから……」 
「私の車がありますから」 
 黙って状況を見守っていた渡辺の言葉にアイシャが満足げに頷く。
「そうね、それじゃあ楓ちゃんはかなめちゃんの車で移動。私達はカウラの車で四人と。足の確保とスタッフの確保は完了。それじゃあ朝食にしましょう。楓ちゃん達は食べたんでしょ?ああ、お腹すいちゃった、さっき誰かさんが追い回したりするから」 
 そう言いながらカウンターに向かうアイシャ。両手を広げてお手上げと言うようなしぐさをしてその後ろに続くカウラ。すっかり主導権をアイシャにとられて、ただ不味そうに味噌汁をすする要に誠は同情するような視線を向ける。
「ちょっと休日つぶれてしまいましたね」 
「何が悲しくて非番の日に隊に行かないといけねえんだよ」 
 ぶつぶつとつぶやきながら要が味噌汁を飲み干す。島田とサラはそんな要を同情の視線で見守っていた。

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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (1) 56

「それでどうするんだ?」 
 他人事のようにニヤつく島田の顔を見ながら苦笑するしかない誠。考えてみれば昨日デザインした時点でかなりおかしな配役になることは間違いないと誠は思っていた。
 魔法少女モノと言うことだったが、なぜか特撮モノのようなデザインの衣装を着ているキャラが多かったり、本当にこの人が出てきていいのかと思うようなキャラも数名思い出せた。首をひねりながら要のトレーを右手に持ってそのままテーブルの向かいに置いた誠だが、そこに下着姿のアイシャの耳を引っ張りながら食堂に踏み込んできた要の姿が目に入った。
「なによ!みんな見てるじゃないの!それに痛いし!」 
「んなことどうでもいいんだ!それより……」 
「良くないわよ!」 
 要の手を叩いて耳を離させるとそのまま廊下に消えていくアイシャ。食堂の中の男性隊員はただなにが起きたかわからないと言うように口をあけたまま舌打ちする要を見つめている。
「西園寺さん、それはちょっと……」 
「なんだ?あ?神前はあいつの……あのアホに台本を公衆の面前で読み上げても平気だとでも言うのかよ。しかも子供が見れるようなものには絶対ならねえんじゃねえか?」 
 そう言いながらそのまま誠が置いた自分の朝食のトレーの前にどっかりと腰をかける要。そして礼も言わずに猛スピードで朝食を食べ始める。
「まあ、あの人も多少は常識がありますから」 
「オメエ等の『多少の常識』ってなんだ?登場人物はすべて18歳以上とか言うことか?」 
 明らかに苛立ちながら少しは骨もある鯖の味噌煮を骨ごとバリバリ噛み砕く要。
「まあ、うちは実際最年少のアンが18歳だから本当にそうなんですけどね」 
 そう言った島田に要が汚物を見るような視線を浴びせる。
「あ、すいません」 
 島田もその迫力に押されて黙ってほうれん草の味噌汁をすする。
「じゃあ行けばいいですね。どうせ暇だし」 
 思わず誠はそう言っていた。要の顔が急に明るくなる。
「そうだな、神前。付き合えよ!それとカウラも連れて行けばなんとかなるだろ」 
 すっかり機嫌を直してご飯に取り掛かる要。誠はようやく騒動の根が絶たれたと晴れやかに食堂を見回した。その時不意に隊員達の顔が怪訝そうなものになる。誠はその視線の先の食堂の入り口に目を向けた。
「おはようございます!お姉さま!」 
 楓の声で思わず要が味噌汁を噴出した。入り口にはサングラスにフライトジャケット、ビンテージモノのジーンズを着込んだ楓と、同じような格好の渡辺が立っていた。
「お姉さま!大丈夫ですか?僕、お姉さまに会いたくって……」 
 そう言ってポケットから出したハンカチで要のシャツを拭く楓。テーブルの上を拭こうとふきんを持ってきた誠に明らかに敵意に満ちた視線を送ってくる。
「なんで、テメエがいるんだ?教えてくれ、なんでだ?」 
「それはお姉さまと一緒にお出かけしたいと……」 
 そう言って頬を染める楓。食堂の隊員達すべての生暖かい視線に要は次第に視線を落していった。

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