スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (1) 120

「それじゃあ、はじめるわよ。カウラ、誠ちゃん。準備お願い」 
 そう言って目の前のカプセルを指差すアイシャ。その隣でニヤニヤと笑うシャムとラン。ここがこの物語の役でいう所のヒロイン姉妹南條シャムと南條小夏の腹違いの姉、南條カウラと神前寺誠一のデートの場面だと誠にも分かった。
「ちょっと待って、アイシャさん。誠君凄く顔色悪いじゃないの」 
 春子のその一言は非常に助かるものだった。誠は天使を見るように春子を見つめる。だが、春子は手にしていた袋から一つのオレンジ色のものを誠に差し出した。
「あのーこれは?」 
「干し柿よ。二日酔いには効くんだから。アイシャさんもさっき食べてたわよ」 
 手にした干し柿にため息をつく誠。逃げられない以上、多少は時間を稼ごうとゆっくりと手にした柿を口に運ぶ。
「はい、誠ちゃん!ちゃっちゃと食べる!それと春子さんと……」 
「ごめんね!遅くなっちゃって!」 
 どたばたと入ってきたのは運用艦『高雄』艦長鈴木リアナ中佐だった。部下のアイシャに頭を下げながらあわててカプセルに頭をぶつける。
「痛いのー」 
「お姉さん、あわてなくて良いですよ。まだ隊長も来ていませんから。誠ちゃん!覚悟を決めて!」 
 アイシャの声に押されて仕方なくカプセルに入る誠。かぶったバイザーの中には大きな川の堤防の上、見晴らしの良い光景が広がっていた。
 風にエメラルドグリーンのポニーテールをなびかせるカウラ。誠はその姿を見て胸が熱くなるのを感じた。
『それじゃあ行くわよ!スタート!』 
 アイシャの声に肩を寄せ合ってカウラと誠は歩いていた。秋の堤防沿いを歩く二人にやわらかい小春日和の風が吹く。
「久しぶりね、こうして二人で歩くの」 
 そう言いながら髪を掻き揚げるカウラ。誠は笑顔を浮かべながらカウラを見つめていた。
「そうだね、いつまでもこういう時間が続けばいいのにね」 
 そう言って歩く二人に高笑いが響いた。明らかに乗りに乗っている技術部部長許明華大佐の声である。
『あの人意外とこういうこと好きなんだな』 
 そう思いながら身構える誠。目の前に黒い渦が浮かび上がり、そこにいかにも悪な格好の機械魔女メイリーン将軍こと許明華大佐と緑色の不気味な魔法怪人と言った姿の物体が現れた。
「逢瀬を楽しむとはずいぶん余裕があるじゃないか!マジックプリンス!そしてその思い人よ!」 
 そう言って杖を振るう明華の顔がやたらうれしそうなのを見て噴出しそうになる誠だが、必死にこらえてカウラをかばうようにして立つ。
「何を言っているんだ!」 
 ここではカウラは誠の正体を知らないと言う設定なのでうろたえたような演技で明華を見つめる誠。
「なに?どう言う事なの!誠一さん」 
 カウラが誠にたずねてくる。しかし、そのカウラも明華の隣の魔法怪人が顔を上げたことでさらに驚いた表情を浮かべることになった。 
「お母さん……」 
 緑色の肌に棘を多く浮かべた肌、頭に薔薇の花のようなものを取り付け、その下に見えるのは青ざめた春子の顔だった。
「オカアサン……ウガー!」 
 そう言うと地面から薔薇の蔓を思わせるものが突き出てきて誠とカウラの体を縛り上げる。
「残念だな南條カウラ!貴様の母はもう死んだ!今ここにいるのは魔法怪人ローズクイーン!機械帝国の忠実な尖兵だ!」 
 いかにもうれしそうに叫ぶ明華に呆れつつ誠はカウラを助けようと蔓を引っ張って抵抗して見せた。

FC2 Blog Ranking
スポンサーサイト

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (1) 119

「本当にやるんですか?」 
 力なく誠は立ち上がった。世界がぐるぐる回っている。
「諦めろ。ああなったアイシャは誰も止められねえよ」 
 そう言って立ち上がって開いたドアを支えている要。カウラは心配そうに誠の肩に手を当てた。
「大丈夫か?なんなら無理しなくても良いんだぞ」 
 そう言ってエメラルドグリーンの瞳を向けるカウラ。思わず自分の頬が染まると同時に、要とアンから殺気を帯びた視線が来るのを感じてそのまま部屋を出た。
「あれ?女将さんじゃんよ、あれ」 
 昨日、撮影に使った会議室に紺色の留袖姿の家村春子が入っていくのが見える。
「また呼び出したのか?本当にアイシャは遠慮と言うものがないな」 
 呆れながら誠を見つめてくるカウラ。立ち上がってしばらくは胃の重みが消えて楽になってそのまま先を行く要についていく誠。
「あ!」 
 女子トイレからの突然の声に誠が目を向ける。そこには中学校の制服姿の家村小夏がいた。
「ヘンタイ!」 
 誠にそう言うと会議室に駆けていく小夏。それを見てにんまりと笑う要。
「また脱いだんですか?僕」 
 何を言い出すか分からない要から目を背けてカウラを見つめる。そんな誠には残酷な光景、カウラは首を縦に振った。
「ああ、またですか……はあーあ」 
 大きなため息をつくとさらに足取りが重くなる誠。さらにさっきは楽になった胃が別の意味で重くなるのを感じる。
 そんな彼の前に法術特捜の部屋から出てきたのは嵯峨茜だった。その後ろにいつもおまけのように付いているカルビナ・ラーナ捜査官補の瞳に軽蔑の表情が浮かんでいるのを見て、さらに誠は消え去りたい気分になった。
「お仕事お疲れ様。それにしても皆さんお忙しいことですわね」 
 上品に笑う茜だが、そりの合わない要は鼻で笑うとそのまま会議室へ消えていく。
「しかし、よくあれだけのデータを東和警察から持って来られましたね」 
 カウラの言葉ににっこりと笑う茜。その物腰はあの保安隊隊長の娘であるということを忘れさせるような優雅なものでいつも誠は不思議な気分になった。
「まあそれだけ法術と言う存在を明らかにする必要性が高まっていたと言うことが原因かも知れないですわね。もしお父様が『近藤事件』で神前さんの力を引き出して見せなくても、誰かが表ざたにすることは東和警察も覚悟をしていたんだと思いますわ。そしておかげで私達法術特捜はこの人数でも十分活動可能な状況を作り出すことができましたしねえ。そこだけは幸運と言っても良いんじゃないかしら」 
 そう言うとラーナをつれて保安隊の隊長室に向かう茜。
「確かにパンドラの箱は開かれるのを待っていたわけか」 
 カウラがそう言うと歩き出す。誠も吐き気を抑えながらその後に続く。
「早くしなさいよ!ダッシュ!」 
 会議室のドアから顔を出すアイシャの声が廊下一杯に響いた。

FC2 Blog Ranking

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (1) 118

「大丈夫か?神前曹長」 
 カウラがそう言ったのが当然だと誠も自分で思っていた。頭痛と吐き気は、今朝、要にたたき起こされたときから止まることを知らない。こうしてモニターを見ていてもただ呆然と文字が流れていくようにしか見えなかった。
「おい、医務室行った方がいいんじゃねえの?」 
「誰のせいでこうなったと思って……」 
 とぼけた顔の要に恨み言を言おうとして吐き気に襲われて口を覆う誠。そんな様子を一目見るとロナルド・J・スミスはあきれ果てたような顔でコートの上のマフラーを首に巻きつける。
「すまないな、昨日徹夜だからどうにもねえ。あがらせてもらうぞ」 
 そう言ってドアのところで待っている岡部とフェデロのところへと向かう。
「お疲れ様です!」 
 元気良くそう彼等に良いながら部屋に入ってきたのはアンだった。その手には誠の痛い絵のマグカップが握られている。
「神前先輩。これ」 
 アンが差し出す渋そうな色の緑茶。普段ならアンの怪しい瞳が気になって手を伸ばさないところだったが、今の誠にはそんな判断能力は無かった。
「ありがとうな、しかし渋いな」 
 そう言いながら一口茶を啜るとため息をつく誠。
「おい、これじゃあ仕事にならねえな。寮で寝てた方が良いんじゃねえのか?」 
「だから西園寺。こうなったのは誰のせいだとさっきから聞いてるんだ私は!」 
 無視されてさすがに頭にきて怒鳴るカウラ。それがきっかけでにらみ合う要とカウラ。二人の女性上司の対立も、今の誠には些細なことに過ぎない。絶え間ない吐き気と頭痛にただ情けない笑いを浮かべることしかできなかった。
「みんないるわね!」 
 元気良く部屋に飛び込んできたのはアイシャだった。今朝、同じように二日酔い状態でカウラの車に乗り込んだはずのアイシャがやたら元気良くしている。その姿を見てうらやましいと言う表情で見上げる誠。
「なに?誠ちゃんまだつぶれてるの?」 
「アイシャさん。なんで平気なんですか?」 
 そう言うのが精一杯と言う調子で言葉を吐き出す誠の背中を叩くアイシャ。思わず吐きそうになりながら再び誠が口を手で覆う。
「はい!病は気からよ!気合があれば病気なんてすぐ治るわ!」 
「オメエは一年中病気だろ?」 
 そうつぶやいた要をにらみつけるアイシャ。だが、アイシャの手に台本のようなものが握られているのを見て要は露骨に嫌な顔をした。
「オメエが元気ってことは、昨日の続きをはじめるとか言うことか?」 
 そう言う要に顔を近づけていくアイシャ。要はその迫力に思わずたじろぐ。
「あたりまえじゃないの!」 
 アイシャはそう言うと再び第二小隊のカウラ、要、誠の顔を見回す。
「さあ!今日も張り切っていくわよ!移動、開始!」 
 誠はそんな元気がどこから出てくるのだろうと不思議に思いながら部屋を出て行こうとするアイシャを見つめていた。

FC2 Blog Ranking

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (1) 117

「分かりましたよ!でも今回だけですよ」 
 そう言うと誠はジャンバーを羽織る。目の前では、してやったりと顔をほころばせる島田がいた。
「まあ俺としてはお前のことは買ってるんだ。俺もパイロット志願だったから分かるが操縦技術の上達速度はやっぱりお前さんの方がずっと上だからな」
 島田はそう言いながらロッカーからヘルメットの入った大きなかばんを取り出し、その後ろから手鏡を取り出すと髪の毛を整え始めた。
「あ、ありがとうございます」 
「まあそれじゃ……」 
 立ち上がろうとした島田の首筋に外から手が伸びてきてそのまま入り口に引っ張られる。
「ほお、島田。後輩に飯をおごらせるとはずいぶん了見の狭い先輩じゃねえか……え?」 
 ぎりぎりと島田の首を締め付けながらそう言ったのは要だった。
「西園寺さん、ちょっと……首!」 
「おう、神前。こいつとサラとアンの飯代はアタシが出すぜ。まあその分こうして……」 
 さらに締め上げる要の腕に島田がばたつく動きを弱め始めた。
「おい、西園寺。殺すなよ」 
 茶色いコートに長い明るい緑のポニーテールを光らせるカウラが笑顔で要にそう言った。
「た……た……」 
「正人、自業自得よ」 
 思わずサラに助けを求めようとした島田だが、サラもまたこの状況で要を説得できるなどとは思ってはいない。
「ちょっと!死んじゃいますよ!やめてくださいよ!顔が青くなって来ましたよ!」 
 誠の言葉を聞いて初めて要は手を離した。そのまま四つんばいになって咳き込む島田。
「大丈夫?正人」 
 そう言って駆け寄るサラだが、本気で心配しているような様子は無い。
「じゃあいいわ。アタシのおごりだ!吐くまで飲めよ!」 
 そう言って女子更衣室に消えていく要。続いて入ろうとするアイシャを誠は呼び止めた。
「どういう話し合いをしたんですか!また二日酔いで出勤は嫌ですよ!」 
 真剣な顔でそう言う誠だが、アイシャはそれに楽しそうに笑みを浮かべただけで彼の手を振り切って更衣室に消える。
「まあ、残念としか言えないな。とりあえず胃薬を用意しておいたが……飲むか?」 
 コートのポケットから錠剤の胃薬の入ったビンを取り出すカウラ。彼女がこういうものを必要としない自制心のある女性だとは知っていたので、それが自分に飲ませるために買ったものだと言うことは誠にも分かった。
「とりあえず後で頂きます」 
「いや、これは食前に飲むのが良いらしいぞ」 
 そう言って少し笑みを浮かべながら錠剤の蓋を開けるカウラ。そのまま彼女から三錠の胃薬を受け取るとそのまま誠は一息にその錠剤を飲み下した。

FC2 Blog Ranking

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (1) 116

「良いんですか?カウラさん。西園寺さん喧嘩を始めそうですよ」 
 先に立って歩いていくカウラに誠は恐る恐る声をかける。
「いや、喧嘩にはならないだろ。あいつは金のことでは喧嘩をしないからな」 
 要のことはすべて分かっているというように歩き続けるカウラ。
「でも……」 
「安心しろ。あいつの持ってるカードはサイン一つで巡洋艦が買えるようなカードだ。西園寺の家の裏書にはその位の価値があるということだ」 
 あっさりそう言うと女子更衣室に消えてしまうカウラ。誠は振り向いた。遠くに見える要達はなにやら耳を寄せ合いながら時々誠を眺めるようなそぶりをしていた。
 その時急に誠の体は体重を預けていた男子更衣室に引きずり込まれた。
「神前先輩!」 
 倒れそうになった誠を抱き起こしたのは第二小隊のアン・ナン・パク軍曹だった。思わずあわててアンの手の中から逃げ出す誠。
「先輩!」 
「あのなあ……くっつくな!キモい!」 
「先輩……」 
 そう言うと涙目で誠を見つめてくるアン。西と同じ19歳の最年少と言うことで隊の女性陣に可愛がられているアンを泣かせるのは本意ではない。しかし誠はねっとりとしたアンの視線はどうしても苦手だった。
「着替え終わったら外で待ってろ。俺達はあまさき屋に行くから連れて行ってやる!」 
「え!本当ですか!」 
 満面の笑みを浮かべるアンはそのままダウンジャケットを手にしたまま浮かれて更衣室を飛び出して行った。誠は安堵のため息を漏らすと自分のロッカーを開く。背中で再び更衣室のドアが開いた気配を感じて振り向いた誠の前には整備班のつなぎ姿の島田が立っていた。
「おう、お前なあ。あれどうにかしろよな!」 
 入ってくるなり誠にそう言うと廊下の先で騒いでいる要とアイシャを指差した。
「あれ、僕の責任ですか?」 
「クラウゼ少佐と西園寺大尉はお前の担当だろ?」 
「担当とかそう言うことでは無いと思うんですけど」 
 苦笑いを浮かべながら上着をハンガーにかける。
「それじゃあアンだけじゃなくて俺とサラの分もお前が払えよ」 
「なんですか?それは!」 
 島田の突然の発言に驚く誠だが、すぐに島田がアンとの会話を聞いていたことに気づいて顔を赤く染めた。
「男女を問わないモテモテ野郎の有名税だ。あれだろ?最近アイシャさんが始めた同人誌の通販がうまく行ってるらしいじゃないの。俺にもたまにはその環境を整えてあげている感謝の念を持ってもらわないとねえ」 
 そう言いながら島田は素早くつなぎを脱ぐとビンテージモノのジーンズに足を通しながら誠を見つめていた。


FC2 Blog Ranking

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

ハシモト

Author:ハシモト
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。