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遼州戦記 播州愚連隊 194

「湿っぽいのは貞坊も喜ばんやろ・・・うち寄るか?」 

 そんな赤松の一言に大きく頷く魚住。明石と黒田は苦笑いでその様子を見ていた。

「いいですわね。嵯峨さんからイノシシの肉が届いてますの・・・牡丹鍋はいかが?」 

「牡丹鍋?」 

 呆然と別所がつぶやく。

「あれや・・・イノシシの肉の鍋。ワシも話しか聞いたことあらへんけどなあ」 

「イノシシ?遼南の自然は偉大だな」 

 黒田の顔もほころんでいる。そんな若者達を見ながら赤松は背後の親友の墓石を見上げた。

「貞坊・・・悪いがわしはしばらくお前のところには行けんようになってもうたわ」 

「そうですわね。直満も立派な安東家の跡継ぎにしないと・・・」 

 大きく貴子が頷く。

 明石はその有様を見ながらなんとなくうれしくなって剃りあげられた頭を撫で回した。

「それじゃ・・・行こか」 

 赤松が桶を持って歩き出す。その手から桶をとろうとする別所。

「ええねん。ワシが持ちたいから持つんや」 

 笑顔でそれを交わす赤松。彼の心には二度と自分達と同じ道を歩ませたくない若者たちがいた。そしていとおしげに部下達を眺める夫を満足げに貴子は眺めると胡州のテラフォーミング化された赤い大気を見上げた。

「これからは何も起きませんように」 

 いつも強気で通している妻の思いもかけない言葉に赤松は満足げに頷くと天を仰いだ。


                                             了

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遼州戦記 播州愚連隊 193

「勝ったって言うけど……」 
 つぶやく赤松の顔に勝者の誇りは無かった。親友を倒して、妹を不幸にして手に入れた勝利。それは甘くないものだと言うことが明石の目にもわかった。
「勝っちゃいねえよ。むしろ本当に勝ったのは貞坊の方かもしれねえよ。俺達はこれから世の中の毀誉褒貶を浴びながら生きていくことになる。たぶん今回の官派の敗北を認められない人間も多い……」 
「しばらくは乱れるでしょうね」 
 嵯峨の言葉を引きつぐ別所。過激派の一部の暴走が続いている以上、明石もそれを否定できなかった。
「だからみなさんにかんばってもらわないと」 
 いつの間にか明石の目の前に来ていた貴子の声。明石の身が引き締まる。
「そういうこと。で……」 
 明石に目をやった後、嵯峨は墓石に手を合わせる赤松を覗き込んだ。
「しばらくはワシの手駒やからな。貸さんぞ」 
「まあそうだろうね。俺ももう少しこいつに丸みが出たら……」 
「ワシそんなに太っとります?」 
 とぼけたような明石の言葉に赤松と嵯峨は顔を見合わせた。さわやかな笑い声が墓地に響いた。その笑いはつい黒田に、そして魚住へと伝染した。
「わかっとりますよ。ワシはまだ闇屋の癖が抜けとらん」 
「そういう事だ。もう少し制服の似合う面になったら迎えに来るわ……楓」 
 嵯峨は黙っている娘に声をかけるとそのまま歩き出した。
「皇帝陛下……」 
「いらねえよ、護衛なんか。それよりオメエ等も頭下げとけよ。仏さんに失礼だ」 
 そう言うと嵯峨は楓を連れてそのまま墓地の出口を目指した。


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遼州戦記 播州愚連隊 192

「ところで坊さんよ」 
 嵯峨の言葉に気が付いて視線を落とす明石。なんとなく言葉を選ぶのが疲れてきた明石はただ黙って嵯峨を見つめていた。
「忠さん……そのうちこいつを借りて良いかな?」 
「借りるって……あれか?遼南の騎士団だのなんだのに……」 
「違うよ。俺の直感だがどこかでこいつの力が必要になりそうなんだわ」 
 しばらく誰もが嵯峨の言葉の意味に気づかなかった。ただ一人貴子は納得したような感じで夫に笑顔で合図していた。
「同盟絡みか……ずいぶん急な話やな」 
「遅すぎるよりいいと思いますよ」 
 ようやく夫の墓から立ち上がった恭子。その目の涙はようやく乾こうとしているところだった。
「私もいつも遅すぎましたから……」 
「そんなこと言うてくれてもうれしないで……」 
「お兄様を喜ばせるつもりはないです」 
 最後の言葉ははっきりしていた。そして深々と貴子達に一礼すると恭子はそのまま線香の香りの漂う中を歩いていった。
「つらいな忠さん。泣いて暴れてくれたほうが良かったんじゃないのか?」 
 嵯峨の言葉に苦笑いを浮かべる赤松。そんな様子を見ながらエキセントリックな皇帝、嵯峨惟基をまじまじと見つめる明石。嵯峨もその視線を嫌ってか安東の墓石に桶の水をかけた。

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遼州戦記 播州愚連隊 191

「ところでそこの坊さん」 
「ワシのこと……」 
「そういうこと」 
 明石は突然嵯峨に声をかけられて当惑していた。着流し姿、丸腰でまるで殺気を感じない姿は逆に奇妙に見えた。
「お前さん達もこの戦いを生き延びたわけだ。だがこれからどうなるか分からねえぞ。何が起きるか読めない時代だ」 
「新三が言うことやないんとちゃうか?」 
 赤松の突込みを無視して嵯峨は話し続けた。
「何かを得るには何かを捨てなきゃいけないものだ」 
「そうかもしれませんね」 
 後ろからいきなり声をかけられ嵯峨は驚いたふりをするように振り向いた。そこには疲れたような表情の別所が立っていた。
「なんだよ……あれか?車に忘れ物とか」 
「まあそんなところです」 
 そう言うと別所は手にしたものを一人墓の前に跪いている恭子に差し出した。
「安東大佐の遺髪だそうです」 
 小さな紙袋。恭子はそれを握り締めると胸の前に抱いて黙り込んだ。
「これが現実さ。俺や忠さんもこれから貞坊の分まで生きなきゃならなくなる」 
 黙って蹲っている恭子を見ながら嵯峨は大きくため息をついた。


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遼州戦記 播州愚連隊 190

 重い空気。だれもが黙り込んで静かに墓石を眺める。線香の香りが当たりに漂った。
「返して……」 
「すまない」 
 兄の言葉にその発せられたほうを見た恭子の顔は涙に濡れていた。
「なんで……貞盛さんは……」 
「それは武家の習いでしょ」 
 卒塔婆の脇から貴子が現れてそう言った。そんな弟の死を一言で片付けた姉に殺気を込めた視線を投げる恭子。明石達はただ呆然と二人を見守るばかりだった。
「忠義に生きて忠義に死んだ。私としてはよくやったと褒めてやりたいわ」 
「そんな……」 
 恭子は赤に菊模様の留袖の裾を目に当てて涙をぬぐう。そんな有様に明石はその後の羽州の混乱の話を思いだした。
 安東を自刃に追い込んだ秋田義貞が跡目を継ぐべく西園寺邸を訪ねたが、宰相西園寺基義は門をくぐることすら許さなかった。そしてそのままシンパを集めて会議をしているところに過激派が襲撃をかけ、秋田一門の多くは惨殺されたという。
「一学……貞坊……いい奴ばかり死にやがる」 
 嵯峨はそう言うと手にしてきていた桶の水を墓石にかけた。静かに水が流れる。そして線香を持っていた貴子が明石達にも線香を配った。
「貞盛は明るいのが好きだったから……泣くのはよしましょうよ」 
 逆賊として公に葬儀を行なうことも許されずに恭子と数人の被官だけで行なわれた葬儀に参加できなかった姉は静かに弟の墓標に線香を献じた。そして静かに手を合わせる。
「ありがとう……有難うございます」 
 途切れ途切れに恭子は義姉に静かに頭を下げた。


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