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遼州戦記 保安隊日乗 魔物の街 100

「お待たせしましたー!ってお前等も手伝え!」 
 両手に蕎麦の入ったざるを持って現れた菰田。彼の一言で部隊内部の秘密結社『ヒンヌー教徒』の男性下士官達が厨房へ走る。
「駄目なの?食べちゃ駄目なの」 
「あんだけ食べて……少しは我慢しろ!」 
 シャムと島田も次々とめんつゆの乗った盆を持って現れる。
「わさびは……無いのか?」 
「あるよ、はい」 
 カウラの言葉にシャムは一隅に乗っていた練りわさびを入れた椀を渡す。それの半分くらいを一気にめんつゆに入れるカウラに誠は呆然としていた。
「おめえそんなんじゃ味がわからねえんじゃねえのか?」 
「余計なお世話だ」 
 そう言うとカウラは一番先にテーブルに置かれた蕎麦に箸をつける。それを見て思い出したように要と島田が箸を伸ばした。
「よく……食べられますわね」 
「オメエは食いすぎなんだよ。黙ってろ」 
 隣で腹を押さえる茜を無視して蕎麦を啜りこむ要。アイシャは静かに様子を見ながら山盛りの蕎麦に箸を伸ばす。
「警視正。後で胃薬用意しますから」 
 ラーナは食べていなかったらしく慣れた手つきで蕎麦を啜る。誠もほのかに蕎麦粉が香る部隊長嵯峨の手打ち蕎麦を堪能した。
「しばらくはおとなしくしてろってことだろーな」 
 ハイペースに蕎麦を啜りこんでいたランが小鉢を置くと静かにそう言った。証拠はすべて東都警察の調査の指揮下にあり、捜査は同盟軍の指示で動く遼南山岳レンジャーが聞き込みを中心に行っている。出足は早かった茜の法術特捜はその人員の少なさから完全に遅れを取った形になっていた。
「まああれだ。おいしいところはアタシ等が持っていけばいいだろ?闇研究のアジトが見つかっても東都警察には手におえないだろうし、ライラ達の軍は手を出したら外交問題だ」 
 そう言うと要は淡々と口に蕎麦を運んでいる。そしていつの間にか誠達のテーブルの端には蕎麦を啜るシャムと吉田の姿もあった。
「オメーなあ」 
 ランが生暖かい視線を送るのを見て苦笑いを浮かべながら口の中一杯に放り込んだ蕎麦を噛んでいるシャム。他人のふりをしているかのように淡々と蕎麦を食べる吉田。
「よく食べられますわね」 
 呆れたような茜の苦しそうな笑顔にシャムは大きく頷きながら一気に蕎麦を啜りこんだ。

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遼州戦記 保安隊日乗 魔物の街 99

 めんつゆを手にした島田。誠は戸棚から小鉢を取り出して並べていく。
「あのおっさんの気の使い方はねえ……なんていうかなあ」 
 照れ笑いを浮かべる島田。誠がヨハンを見ていると鍋をかき混ぜながら福福しいその顔に笑顔が浮かんでいる。
「いいじゃないか。お前も昨日まではかなりきつそうな顔してたろ?仲間なんだから一人で不幸を抱え込んだような顔をするなってことだよ」 
 そう言うとヨハンは大きなざるで鍋から蕎麦を掬い始める。
「おい!西!菰田を呼んで来い!」 
「でも菰田さん今日は非番ですよ」 
 殴れというように丸太のような腕を振ってみせるヨハン。入り口に張り付いていた西は仕方なく廊下へと消えた。一方、食堂で歓声が起きたのはついに茜が椀の蓋を閉めて勝負が決まったからなのだろう。
「島田先輩。あの人どんだけ食うんですか?」 
 めんつゆを並べた小鉢に入れる島田に声をかける誠だが、島田は呆れたような表情で今度はざるの準備にかかった。
「おい、蕎麦の方の準備はどうした?」 
 それまでシャムに蕎麦を食べさせていた吉田が厨房を覗き込んでいる。その後ろに隠れるようにしてそれまでお預けだった刺身などをつまんでいるシャムの姿もある。
「ナンバルゲニア中尉。まだ食べるんですか?」 
 呆れた顔の島田の視線の先でシャムが大きく頷いている。
「シュペルター中尉。呼びましたか?」 
 毛玉だらけのジャージを着て頭を掻く菰田にヨハンは奥の戸棚、ざるを乗せる皿を取って来いというしぐさをして見せた。
「まったく朝から元気ですねえ」 
 そんな言葉とあくびと共に奥の戸棚に菰田が消えた。
「おう、島田と神前はもう良いぞ。後は吉田少佐とナンバルゲニア中尉が引き継いでくれるから箸でも持って待ってろ」 
「ちょっとエンゲルバーグ!何言うのよ!アタシはおなか一杯で……」 
「それはそんなものを食べながら言うことじゃないだろ?」 
 相変わらず刺身を口にくわえているシャムに呆れたようにつぶやく吉田。島田と誠は頭を下げると食堂にあふれている寮の男子隊員の中へと戻っていった。
「お疲れ!」 
 サラが島田に隣の椅子を叩きながら手を振る。厨房の奥を身を乗り出して覗いているのは要だった。
「どうしたんですか?西園寺大尉」 
「いやあな、吉田の馬鹿にこういうこと任せるとろくなことにならねえと思ってさ」 
「アイツもそんなに馬鹿なことばかりやるわけじゃないんだからよー。信じてやれよ」 
 落ち着いて箸を手にするラン。その隣にはうつむいてじっとしている茜の姿があった。
「嵯峨警視正、お疲れ様です」 
「苦しいわ……苦しいですわ……もう蕎麦は見たくも無いですわ」 
 青ざめた表情で蕎麦の到着を待つ誠達を恨めしそうに見つめる茜の姿がそこにあった。

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遼州戦記 保安隊日乗 魔物の街 98

 とりあえずと言うことでいつものスタジャンを羽織った誠が食堂の前で見たのは中を覗き込むこの寮の住人である男性下士官達の姿だった。
「ああ、神前曹長」 
 振り返った小柄な西に誠は黙って中を指差してみる。
「あんな有様でして……」 
 その西の声に合わせて誠は食堂の中を覗き込んだ。
 座っているのはシャムと茜。その隣には真剣な目つきで一口くらいの蕎麦を入れた椀を構える吉田とラーナの姿があった。
「何してるの?」 
 誠の言葉に手を広げて呆れてみせる西。二人の間に下からアイシャが顔を出した。
「知りたい?」 
「別に……っていうか朝の忙しいときにあの人達何を始めたんですか?」 
 西の言葉が続く間にもシャムと茜の目の前の椀には二人が蕎麦を口に入れてからになるたびに吉田とラーナの手で蕎麦が放り込まれる。
「わんこ蕎麦だな」 
 タバコの煙をさせながら顔を出す要。そのうれしそうな表情に誠は眉をひそめた。
「地球の岩手とかの料理らしいぞ」 
 その隣にはいつの間にかカウラがいる。誠が部屋の中に視線を移すとシャムと茜の前に数十の椀が積み上げられているのが見えた。
「料理……ですか」 
 蕎麦以外にも二人の前には刺身やら煮付けやらが並んでいるがとてもそれに手を出す余裕は二人には無かった。蕎麦を飲み込むたびに蕎麦を入れる吉田とラーナに攻め立てられるようにして二人は手に持った椀を口に運ぶ。
「妙に盛り上がっているんですねえ」 
 そう言いながら誠の後ろにいるシャワー室から出てきた島田に顔を向ける。
「久しぶりだなこの勝負」 
 笑う島田に諦めて誠は食堂を覗き込んだ。厨房では淡々と食通の異名を持つヨハンが鍋をかき混ぜていた。
「おい!島田」 
 顔を出した島田を見つけるとヨハンは手招きする。厨房に向かう島田に続いてこの熱狂に少しばかり食傷した誠もついていった。
「また蕎麦ですか?」 
 厨房の前には大量の手打ち蕎麦が置いてあった。当然これも部隊長の嵯峨が持ってきたものだろうと思うと誠は呆れるしかなかった。
「もうそろそろ二人も限界だろうからな。そちらの汁くらいならお前等でも出来るだろ?」 
 そう言ってヨハンは一升瓶が何本か並んでいるのを指差した。手で貼り付けられたラベルには嵯峨の達筆で『めんつゆ』と書かれていた。島田は諦めたようにプラスチックの小鉢を取り出そうと奥の棚に向かった。

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遼州戦記 保安隊日乗 魔物の街 97

 カウラが去ったドアを見ながらしばらく呆然と部屋を見渡す誠。額を流れる脂汗。寒い部屋とは思えないその量を見て苦笑いを浮かべるとそのまま二度寝に入る。
「なによ、まだ寝てるの?」 
 意識が消えかけたところで今度はアイシャの声が耳元でした。飛び起きる誠。そんな誠をジャージ姿で見守っているアイシャはシャワーを浴びたばかりのようで石鹸の香りがやわらかく誠を包み込んでいた。
「起きてますよ」 
 そう言って再び体を起こす誠。アイシャはタオルで巻いた紺色の長い髪に手をやりながら誠の机の上の書きかけのイラストに目をやる。
「ああ、今回のコミケは私達はお手伝いはしなくていいんだったわね」 
 突然そんなことを言いながら今度は本棚に向かうアイシャ。そこには堂々と18禁同人誌が並んでいるが、同じものをコンプリートしているアイシャはさっと見ただけでそのままドアに向かう。
「なんだか寝ぼけた顔ね、シャワー浴びた方が良いんじゃないの?今なら空いてるわよ」 
 そう言ってアイシャが何事も無かったかのように部屋から消える。目が冴えてきた誠は立ち上がると押入れの中の収納ボックスから下着を取り出した。
「おい!元気か……って。寒いからって爺さんみたいに腰を曲げやがって!」 
 今度は朝から要の高いテンションの声が響く。下着とタオルを手にして誠が立ち上がった。
「おう、シャワーか?今なら空いてるぞ」 
「知ってます」 
 そう言うとそのまま誠はドアに向かう。
「なんだよ、妙に暗いじゃねえか」 
 廊下に出ても要は珍しく誠に張り付いている。不安な部下に対するというより元気の無い弟を見守るような表情で階段を下りる誠についてくる要。
「あのー」 
 シャワー室の前の廊下で誠が振り返ると要は真っ赤な顔をしていた。
「分かってるよ!早く飯食わねえと置いてくぞ!それが言いたかっただけだからな!」 
 そう言って食堂に向かう要。誠は彼女がちらちらと振り向いているのを確認した後シャワー室に入った。服を脱ぎ終えてシャワーを浴びる誠。まだ夢の続きのように全身に力が入らないような気分が続いていた。
「おう、お前がいたのか」 
 島田の声がしたので振り向いたが、すでに島田は隣のシャワーに入っていた。
 彼の声で島田が嵯峨達と同じ法術再生能力の持ち主であることを思い出してはっとする誠。それがわかっても誠にどう島田に声をかけるべきかと言う考えは浮かばなかった。
 シャワーの音だけが響く。沈黙が続いた。誠は耐えられずに頭のシャンプーを流し終わるとすぐにタオルで体を拭いて出て行こうとした。
「今日からが正念場だな」 
 シャワー室から出ようとする誠に島田の声。誠は大きく頷くとドアを開ける。そしてそこでドアに顔面を強打して倒れている要とアイシャ、そしてサラの姿にため息をついた。

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遼州戦記 保安隊日乗 魔物の街 96

 寮に誠達が着いたときはすでに日付が変わっていた。小さいくせにやたらとタフなランとサイボーグの要以外はさすがに疲れて口を開く気力もなかった。誠は黙って部屋に戻ると着替えもせずにそのまま布団を敷いて眠ってしまった。
 誠の視界が開かれた。保安隊が誇る人型兵器『アサルト・モジュール』05式特戦乙型。誠の全身にアニメやギャルゲーの登場人物の描かれた灰色の機体のコックピットの中。パイロットスーツに身を包んだ誠は惑星胡州の外周に存在するアステロイドベルトでの戦闘に参加していた。
 模擬戦の時と同じくテロリストの使用する地球製の旧型アサルト・モジュールM5に輸出しようのM7が数機デブリを徘徊しているのを発見する。
『神前!焦るんじゃねえぞ!』 
『そう言いながら最初に発砲するな!』 
 戦闘でレールガンを乱射する要機。押さえにかかるのを諦めたように誠の機体の先導に移るカウラ機。
『神前、乙種出動だ。サーベルだけで何とかしろ!』 
 カウラの通信に頷いた誠はサーベルを抜いて法術を発動。干渉空間を展開した。
 だがそんないつもシミュレータでやっていた動作に違和感が走った。全身から一度は吸い取られたような法術の力が逆流して腕から先が膨らんでいくのが見える。誠はそのまま操縦棹から手を離し手袋を見つめる。
 そのケプラーと合成ゴムの複合素材の手袋が紙袋のように簡単に千切れる。それに合わせて腕、太もも、そして胸までのパイロットスーツがちぎれとんだ。
『どうしたっ……て!なんだ!神前!』 
「力が!力が……!」 
 膨れていく自分の体。モニターに映っているのは思わずヘルメットを外して手を伸ばそうとする要、驚きで口元に手を当てているカウラ。
「うわー!」 
 自分の体が際限なく膨らんでいく不安と苦痛。そして額に当たったモニターの一部分がもたらす痛み。
 そして……。

「痛み?」 
 誠は目を覚ました。布団から転がり出ていつも漫画を描いている机の脚に額がぶつかっている。そして足元に人の気配がしたのでそちらを寝ぼけた視線で見つめた。
「大丈夫か?そんな格好でいたら風邪を引くぞ」 
 緑の髪の女性に視線を合わせる。ドアから顔をのぞかせたカウラがそのまま上体を持ち上げようとする誠のそばに座った。
「ああ、カウラさん。おはようございます」 
「とっとと顔を洗え。それと鍵は閉めておくものだぞ」 
 そう言ってカウラはドアの外に消えていく。それを呆然と見守りながら誠は先ほどの夢を思い出していた。
 昨日の同盟本部ビルの前で画面の向こう側で膨張した肉片と化した少女。恐らくは嵯峨やシャム、ランが持っている法術再生能力の暴走がその原因であることは理解していた。本来は意識でコントロールしている体組織の安定が損なわれた結果であり、誠には無い能力だった。
「でもなあ!」 
 自分にはありえない事故だとしても、もしかして……。そう思うと夢の中の体が崩壊していく感覚を思い出す。誠はそのまま布団の上にドスンと体を投げた。

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