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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 188

「どうするつもりだよ……」 
 カウラは下を向いたままそうつぶやいた。
「カウラちゃん……」 
 シャムが静かに彼女を見上げて手を伸ばす。後ろに立っている要とアイシャもしばらくどうしていいのかわからないと言うように当惑していた。
「どうするつもりだよ……」 
 再びカウラがつぶやく。誠は震える彼女の肩を支えるように手を伸ばした。沈黙していた整備班員が一斉にカウラの方を見つめてくる。
「何にも得はないぞ。私を喜ばしたって……」 
 そう言うとカウラは顔を上げる。その瞳に輝いていた涙がこぼれ、それを恥じているようなカウラはすばやく拭って見せる。
 次の瞬間、場は再び馬鹿騒ぎの舞台と化した。走り回って紙ふぶきを舞わせる整備班員とブリッジクルー。奥の二階の事務所の入り口では拍手している管理部員が見える。万歳をしているのはやはり『ヒンヌー教』教祖、菰田邦弘主計曹長だった。
「人気者だねえ……うらやましいや」 
「そうね、実に素敵な光景ね。でもこれは私のアイディアから生まれたのよ」 
 ニヤニヤしている要。少し誇らしげなアイシャ。カウラは振り返ると複雑な表情で二人を見つめる。
「なんと言えば良いんだ?こう言うことは慣れていないから」 
 戸惑いながらのカウラの言葉。アイシャは同じ境遇のものとしてカウラの肩に手を伸ばす。
「ありがとう、それだけで良いんじゃないの?」 
 誠も珍しく素直に答えたアイシャを見つめた。
「そうなのか……ありがとう!」 
 カウラは叫ぶ。隊員達のテンションは上がる、さすがにこれ以上は不味いと思ったのか、ハンガーの中央に向かって歩き出す明華。
「凄いな、人望か?」 
 カウラに続いて歩いていた誠に明華が声をかけてくる。
「そうでしょうね」 
 感謝の言葉が出ずにただ涙を流し始めたカウラを見ながら誠はそう答えた。
「はい!お祝いモード終了!片付け!」 
 明華の凛と響く一言に整備班員はすばやく散る。すでに掃除用具を持って待機していた西の率いる一隊がすばやく箒や塵取りを隊員に配っている。
「面白いものだろ?人生と言う奴も」 
 カウラに向けての明華の一言。頷くカウラ。
 そんなこんなで誠の保安隊でのクリスマスが終わった。


                                            了

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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 187

「じゃあ行こうか、クラウゼ少佐」 
「そうですね、西園寺大尉」 
 二人は仲良しを装い歩き始める。そのあまりにもわざとらしい光景に噴出した誠。その気配を察知して殺気のこもった視線を投げてくる二人。
「貴様等……何か企んでいるな?」 
 カウラでもそのくらいはわかる。ようやく笑みを浮かべると頭を引っ込めたサラを見つめて大きく頷いた。サラは要達のあまりにわざとらしいやり方を見て呆れた表情を浮かべる。
「まあいい、付き合ってやるとするか」 
 そう言うと立ち上がり要とアイシャに続くカウラ。誠達がハンガーの前に立つ。だが人の気配はするものの誰一人としてその姿が無い。さすがにあまりにわざとらしいと誠はカウラの無表情を見ながら脂汗を流す。
「なんだ?これは?」 
 不思議そうに一人歩き出したカウラ。だがすぐに足元のピアノ線を踏んではっとした顔に変わる。
『パーン』 
 はじけるようなクラッカーの音。降り注ぐ紙ふぶき。待ってましたとばかり、中央に立っていたカウラの愛機の肩からは垂れ幕が下がる。
『お誕生日おめでとうございます』 
 その墨で書かれた字が、能筆で書道に明るい嵯峨の字であることはカウラの後ろに立っていた誠にもわかった。
「おめでとう!」 
 今度はペンギンの着ぐるみを着て現れたシャム。ひょこひょこ歩く彼女に心底呆れたように額を押さえるランの姿がある。
「めでたい!めでたいぞ!」 
 そう言いながら勤務中ということでコーラの瓶を手にしている島田。後ろのサラ、パーラもにこやかに笑っていた。
「おい……」 
 突然カウラがうつむく。そして肩を震わせる。
「どうしたの?カウラちゃん……」 
 アイシャがその肩を支えるが、カウラの震えは止まらなかった。それを察したように騒ぎながら紙ふぶきを巻き続けていた整備班員も沈黙する。
「私は……」 
 カウラは顔を上げた。その瞳には涙が浮かんでいた。
「カウラちゃん」 
 心配したように手と言うか羽をカウラに差し伸べるシャム。要とアイシャも心配そうにカウラを見つめる。部下達の馬鹿騒ぎを半分呆れたように眺めていた機材置き場の前に立っている明華も複雑な表情で立ち尽くしているカウラに目を向けていた
 一瞬馬鹿騒ぎの音が途切れて沈黙がハンガーを支配した。

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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 186

「何考えてるんだか……」 
 ポツリとつぶやくカウラ。その視線の先に赤い髪が動いたのは明らかにサラの後ろ髪だった。それを見て要が立ち止まる。
「なあ、少し待ってやろうよ」 
 要のうれしそうな顔に同調するようにアイシャも立ち止まる。二人が突然態度を変えたことでカウラの表情が曇る。
「くだらないな。とりあえずごぼうを受け取って隊長に挨拶したら帰るぞ」 
 振り返り、一言言うと歩き出すカウラ。
「奥さん、聞きました?帰るですって。すっかり奥方気取りね」 
「ええ、そうですわね。そのまま旦那と昼から……」 
「まあ!」  
「アイシャさん、西園寺さん……」 
 下品そうな笑いを浮かべてささやきあうアイシャと要に思わず誠は声をかけていた。
「ほら!こっちに来い!」 
 誠達を置いて先に歩いていたカウラがハンガーへ向かう角で手を振っている。仕方がないとあきらめて三人は駆け足でカウラに追いついた。
「ドレスまで着ちゃったんだからさ、いい加減あきらめなさいよ」 
「そうそう、お嬢様らしくしていただかないと困りますわ!」 
 アイシャと要。二人して無駄話をしてカウラを引きとめようとしている。誠もようやくそのことに気づいてカウラの前に立ち止まった。たぶんハンガーで島田達が何かカウラに見せようとしている。サラがこちらを観察していたのはそのせいだろう。
「なんだ?」 
 カウラは覚悟を決めたような表情で自分の行く手に立ちふさがる誠を見上げる。
「カウラさん……」 
「だから、なんなんだ?」 
 相変わらず不思議そうに誠を見上げるカウラ。しばらく見詰め合っていた二人だが、突然要が立ち尽くしている誠の首を右手で抱え込んで引き倒した。
 何が起きたかわからないまま誠は逆えび固めのような格好になってそのまま地面に腰を叩きつけることになった。
「何するんですか!」 
 誠が叫ぶ。さすがにこれを見てはカウラも誠を助けざるを得ない。
「馬鹿をやるんじゃない!大丈夫か?神前」 
 しゃがみこんできたカウラ。誠はいきなりひねった腰をさすりながらカウラの緑の髪を見つめる。
「大丈夫ですよ……」 
 そう言いながらハンガーの方を覗き見る誠。そこには大きくマルの形を作っているサラの姿があった。

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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 185

「しっかしよく集めたわねえ……ちゃんとメモどおりの野菜が揃ってるじゃないの」 
 一人ダンボールの中の野菜を調べていたアイシャが感心したようにため息をつく。誠はシャムがやっていたようにドライバーで銃から空の薬莢を取り出しているキムを見ていた。
「大変ですね。でもこんな昔の銃の弾が安いんですか?」 
 誠の質問に一度顔を上げて不思議そうな顔をした後、今度は銃の分解を始めたキム。
「まあな。需要は結構あるんだよこいつは。英雄を気取りたいのは誰にでもある願望だから、アメリカさんの影響力の強い国で銃の規制がゆるい国なら銃砲店に行けばかならず置いてあるからな」 
 そう言うとキムは慣れた調子でシリンダーを取り外し、そこに開いた大きな六つの穴を覗いている。そしてその頃には警備部の面々も射撃訓練を開始して、絶え間ない銃声が射撃場に響き始めた。
「まあ見世物としては面白かったけど、これで終わりとか言わねえよな」 
 要の言葉に一端銃から目を離して彼女を見上げるキム。
「俺に聞かないでくださいよ。たぶん島田が何か知ってるんじゃないですか?ナンバルゲニア中尉と時々なんか話していたみたいですから」 
 そう言うとキムはシリンダーを抜いた銃の銃身に掃除用の器具を突っ込んだ。シャムのお祝いについて何も知らないようなキムを見つめた後、要はそのままアイシャが中身を確認し終えたダンボールの箱を持ち上げる。
「気が利くじゃないか、西園寺。これじゃあ明日は雪だな」 
「どういう意味だ?」 
 笑顔のカウラに突っ込みを入れる要。いつもよりその表情は柔らかい。アイシャはグレゴリウス13世に引きずられてそのまま隊舎の裏手で熊に対抗しようと踏ん張っている吉田を眺めていた。
「あれって散歩って言うのかしら?」 
「違うだろ、あれはバツゲームって言うんだよ」 
 カウラはそう言うとそのままハンガーに向かって歩き出したカウラに続く。誠もまたそれに続いて歩き始めた。
 ただ誠達は明らかに雰囲気が先ほど同じ道を来た時とは違っているのを感じていた。事実もうほとんど引きずりまわされるだけになっている吉田だが、明らかにちらちらと誠達、特にカウラの様子を確認しているのはアイシャや要もわかっていた。普段は開いていない管理部の裏の窓が開いていてそこから双眼鏡が覘いていたりするのだから、誠にも変化はわかった。

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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 184

「なんなら中佐も撃ちます?」 
 そう言いながら弾薬の箱をもてあそんでいるキム。それを見て呆れたようにため息をつくのはランだった。
「そんなの興味ねーよ。シングルアクションリボルバーで撃ち合いなんざ真っ平ごめんだ」 
 ランはそう言うと勤務服のベルトから愛用のマカロフを取り出す。中型拳銃だが、手の小さいランにはグリップを握れるぎりぎりの大きさだった。そのまま銃を構えるとランはターゲットに銃口を向ける。
 連射。機能に特化したロシア製の拳銃らしくきびきびとスライドが下がり薬莢が舞う。撃ち終わったターゲットを誠が見ると見事に胸の辺りにいくつもの小さな穴が見えた。
「こんぐらいのことが出来なきゃ問題外だろ?」 
 得意げなラン。それを見てシャムはダンボールの中を整理していた手を止める。そのままランの隣に立って標的を見つめる。
 すぐさまシャムの右手が銃を手にする。腰で構えるとすぐ左手がハンマーを叩き発砲、それを六回繰り返す。そしてすぐ右手の銃を仕舞うと今度は左手、同じように六発の銃声。
「やるもんだねえ」 
 ランはそう言うと満足げに頷いた。硝煙の煙が北風に流されターゲットが野次馬達の目に留まる。確かにランの射撃よりは弾は散らばっているがすべてがターゲットを捉えていた。
「なんだよ、神前より当たってるじゃねえの」 
 要の歯に衣着せない言葉に頭を掻く誠。そしてシャムとランの名人芸に感心したように野次馬達が拍手を始める。
「まあシャムは至近距離の戦いのためにショットガンを装備しているからな。拳銃の優先度は部隊でも一番低いんだ。あれだけ当たれば……」 
「ランちゃん、OK?OKなの?」 
 小さいシャムよりさらに小さいランの手を取るシャム。
「まあどうせ言っても聞かねーんだろ?好きにしろよ」 
 そう言うとランは射撃場から降りる。シャムを見つめているグレゴリウス13世の頭を一撫でしたあとそのまま来た道を引き返すラン。
「ああ、そうだ!亀吉が暴れてたぞ。朝飯食わせてやったのか?」 
 途中で一度振り返ってランが叫ぶ。その声にシャムがあわてたように腰の二挺の拳銃を取り出してキムの机に置いて飛び出す。
「やっぱりクリーニングは俺か?」 
 押し付けられた仕事に苦笑いを浮かべるキムを残してシャムが全速力で隊舎に向かって駆け出した。
 それを見送るとブリッジクルーは隊舎に、整備班員はハンガーに、警備部員は100メートルの射撃訓練レンジへと向かう。ただシャムの銃を手にして何度も確認しているキムと誠達だけが取り残された。

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