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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 120

「おお、おはよう」 
「おはようじゃないですよ!住居不法侵入ですよ!これは!」 
 悪びれた様子も無く靴をたたみに裏返しに置いた吉田が振り返る。怒鳴る誠。まるで聞くつもりも無いというようにそのまま吉田は椅子に座ると机の上のイラストに目をやった。
「突然なんだ……ってやっぱり来てたか電卓野郎」 
 誠についてきていた要が吉田を見つめる。振り返ってにんまりと笑って見せた後、いつもの無表情で再び机のイラストに目を向ける。
「なんだ?アイシャやカウラは?」 
「あいつ等なら稽古だよ。生身なら鍛えればそれだけためになるだろ?」 
 そう言いつつ要はひたひたと吉田のそばに近づいていく。そして机を覗き込んだ。
「二人とも!それは……」 
「カウラへのプレゼントだろ?別にいいじゃん、少しくらい」 
 恥ずかしがって止める誠。だが二人とも耳も貸さずにじっとイラストを眺める。
「神前……この絵。どこかで描いた覚えは無いか?特に首から上」 
 突然の吉田の指摘。誠はその意味がわからなかった。要も別に吉田の言葉など聞こえないようにいろんな角度から着飾ったカウラのイラストを見ていた。
「ディフォルメするとどうしても僕の癖が出ちゃって……好きな作画監督の……」 
「違う違う!そうじゃなくてお前はこういうキャラのデザインをアイシャに頼まれなかったかという話」 
 吉田の言葉の意味がわからず呆然と立ち尽くす誠。だが、ようやくイラストから目を離した要は何か気がついたかのようににんまりと笑った。
「あれだよ!あいつが今度のコミケに出したいって騒いでた18禁のゲームあったろ?」 
 要の言葉で誠も吉田の言いたいことが少しわかってきた。高校生の主人公が魔族のヒロイン達を口説き落としてハーレムを作るという、いかにもありきたりなエロゲーの企画。確かにキャラクターを頼まれて描いたのは誠だった。
「そのメインヒロインがこれだ」 
 そう言って吉田は手の端末の画面を開く。
 青い髪を後ろにまとめた鋭い視線の女魔族。それと誠が描いたカウラの絵を重ねてみる。確かに顔の輪郭や雰囲気は見分けがつかないほど似ていた。
「はー……ええと」 
 言葉に詰まる誠。要は同情を込めて誠の肩を叩いた。
「でも……違うよな……って胸か!」 
 ぽんと手を叩く要。彼女の指摘のように豊かな胸の目立つ女魔族とカウラがモデルのドレスの美女。すぐにわかる違いはそこだった。
「そんなあからさまな……似たのだって偶然ですよ!」 
 そう言う誠だが、興味本位の要のタレ目の視線が誠にまとわりつく。吉田も頭を掻きながらその様子を黙ってみているばかり。
「まあ……こいつのタイプがこれってことだろ?」 
 あっさりとそう言って立ち上がる吉田。だがその瞬間ににやけていた要の視線が痛いものに変わるのを誠は感じていた。

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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 119

「まあそんなところです……ねえ、要ちゃん」 
 アイシャに話題を振られて顔を赤らめる要。誠はそれを見ておそらく要が言い出して三人が稽古をしようという話になったんだろうと想像していた。
「さすが胡州の鬼姫と呼ばれる西園寺康子様の娘さんね。それでは竹刀を……」 
 薫の言葉が終わる前に要は竹刀の並んでいる壁に走っていく。冷えた道場の床、全員素足。感覚器官はある程度生身の人間のそれに準拠しているというサイボーグの要の足も冷たく凍えていることだろう。
 誠は黙って竹刀を差し出してくる要と目を合わせた。
「なにか文句があるのか?」 
 いつものように不満そうなタレ目が誠を捉える。誠は静かに竹刀を握り締める。アイシャもカウラも慣れていて静かに竹刀を握って薫の言葉を待っていた。
「それじゃあ素振りでもしましょうか……ねえ、シャムちゃん!」 
 急に薫が庭に向かって叫ぶ。木の扉の向こうの生垣。そこから顔を出したのはナンバルゲニア・シャムラード中尉だった。小柄な彼女の頭がぴょこりと浮かぶ様は薄暗い庭の中ではっきりと見えた。
「やっぱり見つかっちゃった」 
 にやにや笑いながら道場の手前で靴を脱いでいるシャム。誠は半分呆れてその消えない笑顔を眺めていた。
「おい、シャム。実験が済んだからってなんで来てるんだよ。勤務じゃねえのか?」 
 スタジアムジャンバーのポケットから取り出した猫耳をつけているシャムに要が呆れたような声を上げた。
「昨日は当直だったんだけどロナルド君達が交代したいって言うから替わっちゃった」 
 笑顔のシャム。カウラも呆れたように竹刀を握り締め、そんなことだろうと予想していたのかアイシャは一人で素振りを開始している。
「じゃあ、オメエもやるか?」 
 要の言葉にシャムの顔が喜びに満たされる。
「いいの?じゃあ……」 
 シャムが振り返る。彼女が隠れていた生垣だがすでに何の気配も無い。誠はそこで直感が働いた。
「ちょっとすいません!」 
 そう叫ぶと誠はそのまま母屋に向かって走り出した。
『ナンバルゲニア中尉はスクーターしか乗らないはず。そうなると……』 
 誠はそのまま母屋の扉を開き、廊下を走り、階段を駆け上がる。
「吉田さん!」 
 部屋の誠の机の前に座ってカウラのイラストを眺めていたのは吉田俊平少佐だった。その前の窓は鍵を閉めていなかったので開け放たれている。息を切らす誠を不思議な生き物でも見るような表情で吉田は振り返った。

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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 118

 神前家の朝は早い。実家に帰るとこれまでの寮生活がいかにたるんだものだったということに誠は気づく。家の慣れたベッドの中、冬の遅い太陽を待たずにすでに誠はベッドで目覚めていた。
 そのまま昨日色をつけ終わって仕上げをどうするか考えていたドレス姿のカウラの絵を見ながら、のんびりと着替えを済ませる。紺色の胴着。その冷たい感触で朝を感じる。その時ドアの向こうに気配を感じた。
「おーい。朝だぞー!」 
 間の抜けた調子の要の一言。どうやら今回は薫に起こされて来たらしい。夏のコミケの時には女性隊員は数が多かったので道場で雑魚寝をしていたので神前一家が朝稽古が終わったあたりでカウラが起きてくるといった感じだった。
「わかりました、今行きますから……」 
 そう言って頬を叩いて気合を入れてドアを開く。階段を下りる要の後姿。白い胴着が暗い階段で浮き上がって見える。
「要ちゃん……もう少ししゃきっとなさいよ」 
「だってようまだ夜じゃん。日も出てないし」 
「珍しいな。低血圧のサイボーグか?」 
 階段を下りると同じように白い胴着を着たアイシャとカウラがいる。
「じゃあ、行きますよ」 
 そう言って目をこすっている三人を引き連れて長い離れの道場に向かう廊下を進んだ。
『えい!』 
 鋭い気合の声が響いてくる。さすがに薫の声を聞くとカウラ達もとろんとした目に気合が入ってきた。
「誠ちゃんですらあの強さ……薫さんもやっぱり強いのかしらね」 
 アイシャの言葉に誠は頭を掻きながら振り返る。誠も一応この剣道場の跡取りである。子供のころから竹刀を握り、小学校時代にはそれなりの大会での優勝経験もあった。
 その後、どうしても剣道以外のことがしたいと中学校の野球部に入って以来試合らしい試合は経験していない。それでも部隊の剣術訓練では嵯峨やシャム、茜や楓は例外としても、圧倒的に速さの違うサイボーグの要と互角に勝負できる実力者であることには違いは無かった。
「あら、皆さんも稽古?」 
 四人を迎えた薫の手には木刀が握られていた。冷たい朝の空気の中。彼女は笑顔で息子達を迎える。

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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 117

 ドアを開くと階段にいるカウラと視線が合った。
 どちらも話し掛けるきっかけがつかめずに黙り込んでいた。先ほどまでペンを走らせていた緑の髪が揺れている。ただ二人は黙って見つめあうだけだった。
「早く呼んできてよ!」 
 アイシャの声に我に返ったカウラはぼんやりとしていた目つきに力をこめて誠を正面から見つめてきた。
「晩御飯だ」 
 それだけ言うとカウラは階段を降り始めた。誠はしばしの金縛りから解かれてそのまま階段を下りる。
「これ……うめー!」 
「要ちゃん、誠君を待たなくてもいいの?」 
「いいわよ気にしなくても。さあ、いっぱいあるから食べてね」 
 要、アイシャ、薫の声が響く。カウラに続いて食堂に入ると山とつまれたコロッケがテーブルに鎮座していた。見慣れないその量に圧倒される誠。
「母さんずいぶん作ったんだね」 
 少し呆れた調子でそういった息子に同調するように頷く薫。
「だって皆さん食べるんでしょ?特にカウラさん」 
 薫の言葉に視線を落とすカウラ。その様子を複雑そうな表情でアイシャが見ていた。
「だからとっとと食おうぜ」 
 すでに三個目のコロッケに手をつけている要。あの宝飾品店で見せた胡州一の名家の姫君の面差しはそこには無かった。皿にはソースのかけられたキャベツが山とつまれている。
「ああ、カウラちゃん。ビールとソース。冷蔵庫に入ってるから取ってよ」 
 もうすでに自分の皿にコロッケとキャベツを乗せられるぎりぎりまで乗せたアイシャの声。苦笑いを浮かべながらカウラは冷蔵庫の扉を開いた。
「ああ、酒が無かったな。すいませんオバサン、ウィスキーかなにかありますか?」 
「オバサン?」 
「オバサンじゃなくてお姉さんです!」 
 薫の眼光に負けて訂正する要。誠は振り向いた母の目を見て父の取って置きの焼酎を戸棚から取り出した。
「なんだよ……いいのがあるじゃん」 
 それを見て歓喜に震える要。誠から瓶を受け取るとラベルを真剣な表情で眺め始めた。
「南原酒造の言海か……うまいんだよな、これ」 
 そう言うとカウラからコップを受け取り遠慮なく注ぐ要。
「ちょっとは遠慮しなさいよね」 
 そういいかけたアイシャだが、腕につけた端末が着信を注げた。
「どうした」 
 カウラの言葉に首を振るとアイシャはそのまま立ち上がった。
「カウラちゃん食べててね」 
 そう言って廊下に出て行くアイシャ。その様子を不思議に思いながら誠はアイシャを見送った。

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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 116

 ペンを走らせて、誠は自分でも驚いていた。
 圧倒的に早い。迷いが無い。下書きの鉛筆での段階とはまるで違うと言うようにペンが順調に思ったように動いた。絵は誠のこれまでの漫画のキャラクターと差があるわけでも無かった。そもそも写実的に描いたらカウラに白い目で見られると思っていたので自分らしく少女チックなキャラクターに仕上げるつもりだった。
 時々、誠もリアルな絵を描きたいこともある。だが、最近はその絵をアイシャから散々けなされてあきらめていたことは事実だった。
 自分の描き方に自信があるわけではないが、どんどんペンが順調に走っていく。誠はただその動作にあわせる様にして時々要のくれた画像を眺めては作業を進める。
『要さん!もっとこねるのは力を抜いて!』 
 母の言葉でようやく誠は現実の世界に戻ったような気がした。たぶん要は母、薫の得意な俵型コロッケを作るのを手伝おうと思ったのだろう。自然と笑みが漏れていた。
 そして誠は自分が描いたイラストを見てみた。漫画チックとカウラや要には笑われるかもしれない。そんな絵だが、誠には満足できるものだった。描き直すことは誠は少ないほうだと思っていた。だが今回はプレゼントだ。満足ができるまで何度か書き直しが必要になるなと思ってはいた。
 しかし、誠は主な線入れが終わった今。出来上がりが自慢の種になるのではないかと思えるほどに満足していた。
 カウラのどこか脆そうなところが見える強気な視線。無駄の無い体ののライン。どこか悲しげな面差し。どれも誠がカウラに感じている思いを形にしているようなところがあった。
『お母様!油の温度はこれくらいで良いんですか!』 
 今度はアイシャの声が響く。明らかに要とアイシャは誠から自分の声が聞こえるようにと大声を出している。そのことに気づいて誠は苦笑した。
 今度はペンを変えて細かいところに手を入れていく。
 その作業も不思議なほど順調だった。階下のどたばたに頬を緩めながら書き進めるが、間違いなく思ったところに決めていたタッチの線が描かれていく。そしてひと段落つき、インクが乾くのを待ったほうがいいと思い誠はペンを置いた。
 誠の部屋の下は先ほどみかんを食べていた居間。その隣がキッチンだった。なにやら楽しそうな談笑がそこで繰り広げられているのが気になる。
 それでも誠は作業に一区切りをつけると静かに立ち上がって本棚に向かった。
 漫画とフィギュア。そのフィギュアの半分は誠が自作したものだった。隣の押入れにはお気に入りのキャラの原型もある。
 だが一階で繰り広げられている料理教室の様子が気になって誠は仕方なくドアへと足を向けた。

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