スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 160

「あーあ。潰されちゃった」 
 東都都心部。その中央にある同盟本部合同庁舎司法局局長室。嵯峨惟基大佐は目の前の画面が砂嵐に覆われると静かに伸びをした。入り口からついたてを隔てて設けられた応接ソファーに座った嵯峨、隣には彼の娘で同盟司法局の法術関連の調査を専門とする法術特捜の主席捜査官、嵯峨茜軽視正が苦笑いを浮かべていた。
「相変わらずね。部下で遊ぶのも大概にしておいたほうが良いわよ。そのうち痛い目を見ることになるんだから」 
 ソファーには座らず嵯峨の隣に立っている東都警察に似た紺色の勤務服姿の妖艶な女性、同盟司法局機動隊、隊長安城秀美少佐は呆れたように嵯峨を見下ろしながら薄笑いを浮かべていた。彼女の立っている隣のソファーには現在は各部局との調整を担当している明石清海中佐がその言葉に大きく頷いていた。
「正直、今年の上からの指示での配置換えですが、うまくいっているみたいですね。安心しましたよ」 
 その言葉に嵯峨達は局長の執務机に座って頬杖を付いている同盟司法局局長、魚住雅吉大佐を仰ぎ見た。
「まあお前さんの同盟機構軍移籍までは、出来るだけ大事は起こしたくねえのが本音だからな」 
「それはそれはお気遣いありがとうございます」 
 親しげな嵯峨の言葉に大げさに反応する魚住。そして彼はそのまま立ち上がるとソファーを囲む嵯峨達の中に加わった。
「実際あれほど特殊な隊員で構成された実力行使部隊。期待はされるのは当然としてとりあえず私の任期の間にはことも無く終わってくれると良いんですが……」 
「正直なのはええけど、正直心配やな。その調子でしゃべっとったらいつか足元すくわれるで」 
 渋い表情がサングラス越しに見える明石。かつては『官派の乱』で『播州四天王』と呼ばれた盟友の軽口に思わず忠告してしまう。
「良いじゃないの。タコ。正直なのは美徳だよ。何しろ信用ができるからな」 
 そう言うとポケットから禁煙パイプを取り出した嵯峨。そのまま口にくわえて周りを見回す。
「そうね、だから嵯峨さんは信用が無い」 
「ひどいなあ、秀美さん。それじゃあまるで俺が嘘ばかりついているみたいじゃないですか」 
「お父様。事実を曲げるのは良くないことですわよ」 
 安城と娘に言い寄られて苦笑いを浮かべる嵯峨。そしてその時ドアが開かれた。
「失礼しますわ」 
 甲高い声が響く。そして嵯峨親子の表情が曇る。腰までも長い黒髪を伸ばし、優雅な足取りで司法局の幹部が集まった応接セットに近づいてくる女性士官。
「まもなく昼食会の時間になりますので、皆さんはお帰りいただけませんかしら?」 
 自信にあふれた鋭い眼光。そして何より何もしていないのに高圧的な感じを見るものに与える表情と物腰。
 筆頭の西園寺家をはじめ、大河内家、嵯峨家、烏丸家。胡州四大公家の当主と次期当主がすべて女性になると言うのは前代未聞のことだった。そしてその次席の大公家の大河内家の当主がこの司法局局長秘書室長である大河内麗子少佐だった。
 軍の階級から考えれば彼女などが司法局局長秘書官の地位にいるのはおかしな話だが、胡州建国以、常に軍の中枢を占めてきた武の名家『大河内』の看板を背負った彼女を司法局に引き取ったのは嵯峨だった。
「皆さん!局長殿はお忙しいのです!つまらない雑談で公務に差し支えたら……」 
「わかった!だから黙ってくれよ」 
 仕方がないというように返事をしてそのまま部屋の隅の洋服掛に下がっていたコートに向かう魚住。
「それでは局長殿。車止めでお待ちしておりますわ」 
 そう言うと嵯峨達を見下ろすように一瞥して出て行く麗子。
「あれ……まあなんというかなあ……今回の移籍での一番の幸せは大河内から解放されることですよ」 
 苦笑いを浮かべる魚住を嵯峨親子、安城、明石は同情のまなざしで見つめることしか出来なかった。

FC2 Blog Ranking
スポンサーサイト

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 159

「それにしても素敵な景色だな」 
 川原の広がりのおかげで、対岸の町並みが一望できる堤の上。カウラは伸びの次は大きく深呼吸していた。満足げにそれに見とれる誠。
「お前等もそう思うだろ!」 
 突然カウラが後ろを向いて怒鳴るのを聞いて誠は驚いて振り向く。しばらくして枯れた雑草の根元から要とアイシャが顔を出した。
「なんだよ……ばれてたのかよ」 
 頭を掻く要。アイシャはそのままニコニコしながら誠に向かって走り寄ってくる。
「大丈夫?誠ちゃん。怖くなかった?襲われたりしなかった?」 
「私は西園寺じゃないんだ」 
「カウラ言うじゃねえか……それに誰がこいつを襲うんだ?」 
 突然の二人の登場に困惑している誠を尻目に勝手に話を進めるカウラ、要、アイシャ。
「そりゃあ襲うと言えば要ちゃんでしょ?」 
 アイシャは誠が困惑するのと要が切れるのが面白いと言うように挑発的な視線を要に向ける。
「人を色魔みたいに言いやがって……」 
「怖い!誠ちゃん助けて!」 
 抱きついてくるアイシャ。誠はただ呆然と立ち尽くしてまとわりついてくるアイシャを受け止めるしかなかった。わざと胸の当たりを押し付けてくる感覚に苦笑いを浮かべながらカウラを見る誠。
「もしかしてカウラさん気づいてました。?」 
 さらに胸を押し付けてくるアイシャを引き剥がそうとしながら誠はカウラに声をかけた。
「駅を出たときにはすでに尾行されていたのがわかった。さっき走ったときにはかなりあわてて飛び出していたから神前もわかっていると思ったんだが……」 
 そう言うと不満そうな顔を向けるカウラ。相変わらずアイシャは誠にしがみついている。
「いい加減離れろ!」 
 アイシャの首根っこをつかんだ要が引っ張るのでようやくアイシャは誠から離れた。
「勝手に尾行したのは悪かったけどな……」 
 そう言うと要はカウラの首のマフラーの先を手に取った。
「うわ!」 
 思い切りその端の縫い取りに怒鳴った要。突然の出来事にアイシャが思わず誠から手を離した。そしてそれを見て要は満足げに頷く。
「あれ見て」 
 すぐに我に返ったアイシャが指をさす対岸の遊歩道に、耳を押さえて座り込む男女の姿があった。
「島田先輩……」 
 さすがに目立つ赤い髪の色のサラをつれている島田が耳を押さえて立ちすくむ姿は百メートル以上離れていても良くわかった。
「あの馬鹿。暇なのか?姐御に言いつけるぞ?」 
 要が舌打ちをする。そしてさらに土手をあがってくるのは菰田と警備部の面々だった。
「ばれてたんですか……」 
 お手上げと言うように頭を掻く菰田をにらみつけるカウラ。
「隊長だな。こう言うことを仕込む悪趣味な人は」 
 そう言って菰田が手にしている小さなケースを取り上げるカウラ。
「悪趣味はよしてもらいたいですね」 
 カウラは一言ケースにそう言うとそのケースを握りつぶした。

FC2 Blog Ranking

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 158

「急いでどうするんだ?そんなに」 
 早足で裏門から出た誠はそのまま駅の反対側に向かってそのままの勢いで歩く。後ろから先ほどの後輩達がランニングシューズに履き替えたらしく元気に走って二人を抜いていく。
「そうか……」 
 カウラはうれしそうに誠を見上げる。
「ランニングコースなんかの思い出を教えてくれるんだな」 
「ええ……まあ、そんなところです」 
 実は特に理由は無かったのだが、カウラに言われてそのとおりと言うことにしておくことに決めて、ようやく誠の足は普通の歩く速度に落ち着いた。
 常緑樹の街路樹。両脇に広がる公営団地に子供達の笑い声が響いている。カウラは安心したと言うように誠のそばについて歩いている。
「この先に川があって、そこの堤防の上を国営鉄道と私鉄の線路の間を三往復してから帰るんですよ」 
 誠はそう言いながら昔を思い出した。考えればいつもそう言うランニングだけは高校時代から続けてきたことが思い出される。現在も勤務時には三キロ前後のランニングを課せられており、昔と特に変わることは無い。
「そうなのか」 
 しばらく考えた後カウラは納得したように頷く。そしてそんな二人の前に大きな土の壁が目に入ってきた。
「あれがその堤防か?」 
 カウラが興味深そうに目の前の枯れた雑草が山になったような土手を指差した。誠は頷くとなぜか走り出したい気分になっていた。
「それじゃああそこまで競争しましょう」 
 突然の提案。元々こう言うことを言い出すことの少ない誠の言葉にうれしそうに頷いたカウラが走り出す。すぐに誠も続く。
 およそ百メートルくらいだろう。追い上げようとした誠が少し体勢を崩したこともあり、カウラがすばやく土手を駆け上がっていくのが見えた。
「これが……お前の見てきた景色か」 
 息も切らさずに向こうを見つめているカウラに追いついた誠。そしてその目の前には東都の町の姿があった。
 ガスタンクや煙突など。おそらく他の惑星系では見ることの出来ない化石エネルギーに依存する割合の高い遼州らしい建物が見える。そしてその周りには高層マンションと小さな古い民家が混在している奇妙な景色。
「まあ、こうしてみると懐かしいですね」 
 誠は思わずそう口にしていた。
「懐かしい……か」 
 カウラの表情が曇った。彼女は姿こそ大人の女性だがその背後には8年と言う実感しか存在しない。彼女は生まれたときから今の姿。軍人としての知識と感情を刷り込まれて今まで生きてきた。誠のように子供時代から記憶を続けて今に至るわけではない。
「すいません」 
「何で謝る……まあいいか」 
 そう言うとカウラはうれしそうに思い切り両手を挙げて伸びをした。

FC2 Blog Ranking

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 157

「少しぐらい手を抜いてあげればよかったのに……」 
 部活棟のプレハブの建物に向かってダッシュする誠の後輩達だが、明らかに落ち込んだように最後尾を走っている新見少年を見ながらの誠はそうつぶやいていた。
「加減をしたら失礼だろ?私くらいのスイングをする高校生の打者はたぶん五万といるぞ」 
「それは……確かに、そうなんですけどねえ」 
 ようやく興奮が収まってきたと言うように静かに誠から受け取ったマフラーを首に巻くカウラ。
「そう言えば……実業団とか言ってたな。あれか?お前の所属は軍の体育学校か何かか?」 
 監督の質問ももっともだと思った誠に笑みがこぼれる。実際、誠も幹部候補生過程修了の際には希望すれば体育学校の野球部への編入をすると教官から言われたのを断った前例がある。
「いえ、保安隊ですよ、僕は」 
 その一言で監督の目が驚きに変わった。
「あれか?この前、都心部でアサルト・モジュールを起動して格闘戦をやったあの……」 
「その部隊です」 
 きっぱりと言い切るカウラの言葉が響く。監督の驚きはしばらくして唖然とした表情に変わる。大体が司法実働部隊と言う性格上、公表される活動はどれも保安隊の一般市民からの評価を下げるものばかりなのは十分知っていた。
「もしかして……パイロットとかをやっているわけじゃ無いだろうな」 
「ええ、彼は優秀なパイロットですよ。隊長の私が保証します。現にスコアーは8機撃破。エースとして認定されています」 
 カウラの言葉にしばらく黙って考え事をしていた監督がぽんと手を打った。
「ああ、だからあんなふざけた塗装をしていたわけだな」 
『ああ、やっぱりそうなるか』 
 誠は自分の機体の魔法少女のデザインで統一された塗装を思い出して苦笑いを浮かべた。あの派手を通り越してカオスだと自分でも思う痛い塗装は、全宇宙の注目を集めていた。
「そうだよなあ。お前は確かアニメ研究会にも所属して……なんだっけ?あの人形」 
「フィギュアです」 
「ああ、それをたくさん作って文化祭で飾ってたよな」 
 すべてを思い出した。そんな表情の監督を見てさすがのカウラまでも苦笑いを浮かべる状況となっていた。そして誠は悟った。このまま高校時代のネガティブな印象をカウラに植え付けることは得策とはいえないことを。
「じゃあ……僕達はこれで」 
「いいのか?他の先生とかもいるんじゃないのか?」 
 明らかに誠の考えを読んだように要を挑発するときのように目を細めてカウラがそう言った。
「いいんです!また来ますから!その時は……」 
「おう!あいつ等にアドバイスとかしてくれよ!」 
 監督もさすがにわかっているようで部員時代は見なかったような明るい表情で立ち去ろうとする誠を見送った。

FC2 Blog Ranking

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 156

 静かにカウラが右のバッターボックスに入る。
「よろしくお願いします!」 
 元気良く新見少年が怒鳴るように叫ぶのを満足げに頷きながら、カウラはじっと相手投手を見つめた。そしてそのままいつものようにホームベースぎりぎりのところに立って、ゆっくりと静かにバットを構える。
「ぶつけたりしないでくださいね!」 
 野次馬と化した野球部員の一人が叫んだ。周りの少年達も頷きながらじっと見つめる。だが誠はカウラの実力を知っているだけにただ苦笑いを浮かべるだけだった。明らかに新見少年は投げづらそうに、誠がいたころと同じようにかなり荒れた状態のマウンドの上で、眉を寄せてカウラを見下ろしていた。
 誠が周りが静かになったのに気づいてグラウンドを振り返れば、シュート練習をしていたサッカー部員も、サンドバッグにタックルの練習をしていたラグビー部員も、野球部に飛び入りでやってきた緑の髪の女性の姿に目を向けているのがわかった。
 新見少年はようやく自分の置かれている状況を理解したと言うようにマウンドの上で大きくため息を付く。そしてそのままゆっくりと振りかぶった。
 明らかに動きが先ほどの投球練習より硬く見えた。新見少年の手を離れたボールはキャッチャーが飛びついたミットの先を抜ける外角へ大きく外れた暴投になった。
「おい!新見!いつもどおり投げろ!」 
 監督の檄が飛んで、ようやく吹っ切れたように野次馬の野球部員から新しいボールを受け取る。
「カウラさん。もう少し離れて立ってあげれば……」 
 誠の言葉にカウラの真剣そうな視線がやってきたので黙りこむしかなかった。肩を何度かまわすような動きの後、新見少年は再び振りかぶる。明らかにカウラはバットを握る手に力をこめていた。おそらくは初見の女性のバッターを相手にして緊張しているのだろう。それを読んでいたかのように先ほどとは雰囲気の違う構えのカウラがそこにいた。
 ピッチャーは先ほどの力みすぎての暴投から学んで、今度はスピードを殺したような変化球をストラークゾーンに投げ込んだ。当然そのような球を見逃すカウラではない。
 その華奢な外見からは想像も付かない速さのスイングで、内角低めに落ちていくボールをバットで捉えた。打球は新見少年の額の上を強烈な勢いで通り抜けていく。そしてそのままフェンスに激突したボールが大きな音を立てる。
 グラウンド中が静まり返った。誠は予想していたこととはいえさすがにバツが悪そうに監督の目を見た。
「彼女は何者だ?」 
 呆れたような調子で監督は誠につぶやいた。
「いちおう僕の前はエースナンバーを背負ってましたから。他にも勝負どころでは右の代打に出ることもあります」 
 誠の言葉に監督は頷いた。
「おい!遊びはそれくらいで今度はランニングに行け!坂東!」 
 叫んだ先には長身の落ち着いた印象の選手が立っている。
「それじゃあスパイクを履きかえるぞ!」 
 その言葉からして坂東少年がキャプテンを勤めているらしい。そんな光景を笑いながら見つめる誠。カウラは物足りなそうに手を差し伸べている小柄な部員にバットを渡すとそのまま誠の方に歩いてきた。

FC2 Blog Ranking

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

ハシモト

Author:ハシモト
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。