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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 180

 射撃場の机。シャムが飛び跳ねている後ろには、小火器担当のキム・ジュンヒ少尉が苦い表情で手にした弾の入った箱を積み上げている。
「たくさん集めましたねえ」 
 誠も感心する。そこには時代物を装うようなパッケージの弾の他、何種類もの弾の箱が並んでいた。それを一つ一つ取り出しては眺めているキム。
「まあな。結構この手の銃は人気があるから種類は出てるから。特に今、シャムの銃に入っている弾は特別だぜ。おい!シャム。いい加減はじめろよ」 
 キムの言葉に渋々要は帽子をシャムに返した。笑顔に戻ったシャムはリラックスしたように静かに人型のターゲットの前に立つ。距離は30メートル。シャムは一度両手を肩の辺りに上げて静止する。
「抜き撃ちだな」 
 カウラは真剣な顔でシャムを見つめていた。
 次の瞬間、すばやくシャムの右手がガンベルトの銃に伸びた、引き抜かれた銃に左手が飛ぶ。そしてはじくようにハンマーが叩き落とされると同時に轟音が響き渡った。
「音がでけえなあ……それになんだ?この煙」 
 要がそう言うのももっともだった。誰もが弾の命中を確認する前にシャムの銃から立ち上るまるで秋刀魚でも焼いているような煙にばかり目が行った。風下に居た警備部員は驚いた表情で咳き込んでいる。
「キム少尉。これは?」 
 驚いているのはカウラも同じだった。ただ一人苦笑いのキムにそう尋ねる。
「ブラックパウダーと言って、黒色火薬の炸薬入りの弾ですよ。時代的にはこれが正しいカウボーイシューティングのスタイルですから。このコルト・シングルアクション・アーミーの時代はまだ無煙火薬は発明されてないですからね。まあ俺も使ってみるのは初めてだったんですが……」 
 そう言う説明を受けて納得した誠だが、撃ったのはいいが煙を顔面にもろに浴びてむせているシャムに同情の視線を送った。
「でもこれじゃあ……」 
「ああ、ちゃんと無煙火薬の弾もあるから。ブラックパウダーはそちらの一箱だけ。あとはちゃんと普通に撃てる奴ばかりだよ」 
 誠はようやく安心する。だが、弾丸はどれもむき出しの鉛が目立つ巨大な姿。警察組織扱いになっている保安隊だから使えると言うような弾に苦笑いを浮かべた。
「シャムちゃん!例のやって!」 
 リアナがカメラを構えながら叫ぶ。それに応えるように親指で帽子の縁をはじいたシャムが手にした銃を軽く胸の前にかざした。
「行くよ!」 
 手にした銃を構えつつ振り向くシャム。思わず誠はのけぞった。

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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 179

 すでに射撃場には人だかりが出来ていた。訓練をサボっている首からアサルトライフルをぶら下げた警備部員が背伸びをしている。手持ち無沙汰の整備班員はつなぎの尻を掻きながら背伸びをしてレンジの中央を覗こうと飛び跳ねる。
「やってるな」 
 にんまりと笑って足を速める要。それを見かけたブリッジクルーの女性隊員が人だかりの中央に向かって声をかけたようだった。
 すぐに人垣が二つに割れて中央に立つ少女が誠達からも見えるようになった。
「あいつ……馬鹿だ」 
 立ち止まった要のつぶやき。こればかりは誠も同感だった。
 テンガロンハット、皮のジャンバー、色あせたジーンズ。そして腰には二挺拳銃を下げる為の派手な皮製のガンベルトが光っている。西部劇のヒロインと言うよりもアメリカの田舎町の祭りに引っ張り出された少年である。
「ふ!」 
 わざと帽子のつばを下げたかと思うとすばやく跳ね上げてシャムは誠達を見つめる。隣ではそんなシャムをうれしそうに写真に取っているリアナの姿も見える。
「お姉さん……」 
 さすがにあまりにも満面の笑みの上官の態度にはアイシャも複雑な表情にならざるを得なかった。
「風が冷たいねえ……そういえばダコタで強盗とやりあったときもこんな風が吹いていたっけ……」 
 そう言うとシャムは射撃場の椅子にひらりと舞うようにして腰掛ける。手にしているのはマリアの愛用の葉巻。タバコが吸えないシャムらしく、当然火はついていないし煙も出ない。
「何がしたいんだ?お前は?」 
「お嬢さん?何かお困りで?」 
 そう言うと胸に着けた保安官を示すバッジを誇らしげに見せ付けるシャム。お嬢さん呼ばわりされた要。タンクトップにジーンズと言う明らかに常人なら寒そうな姿だが、それ以上にシャムの雰囲気はおかしな具合だった。
「ああ、目の前におかしな格好の餓鬼がいるんで当惑しているな」 
「ふっ……おかしな格好?」 
「ああ、マカロニウェスタンに出てきそうなインチキ保安官スタイルの餓鬼」 
 そう言われてもシャムは葉巻を咥えたままにんまりと笑って立ち上がるだけだった。
「そう言えばネバダで……」 
 たわごとをまた繰り返そうとするシャムに飛び掛った要がそのままシャムの帽子を取り上げた。
「要ちゃん!返してよ!」 
 小柄なシャムがぴょんぴょん跳ねる。ようやく笑っていいという雰囲気になり、野次馬達も笑い始める。
「駄目よ!要ちゃん!返してあげなさい」 
 ピシリとそう言うリアナ。ようやくその場の雰囲気が日常のものに帰っていくのに安心して誠達は射撃レンジに足を踏み入れた。

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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 178

「こ・ん・に・ち・わ!こんにちわだぞ!」 
 そんな吉田の声があっても、誠はなんとかその場から逃げ出したい衝動を抑えるのがやっとだった。
 豊川の保安隊本部。ハンガーの目の前。誠、要、カウラ、アイシャの四人は立ち尽くして動けない状況にあった。
「バウ」 
 吼えたのはコンロンオオヒグマの子供。グレゴリウス13世と言う大げさな名前をつけられた茶色い巨大なヒグマである。魚屋の二階に下宿している飼い主のシャムだが、当然三メートル以上ある巨大な猛獣をそんなところで飼える訳も無く、保安隊のペット兼番熊として隊舎の隣の檻の中でいつもは居眠りをしている。それを吉田は散歩させようとしたらしいが、大好きなシャムの香りをたどってこうして射撃場に向かう誠達の前に現れたわけだった。
「吉田さん。本当に大丈夫なんですか?全然言うこと聞いてないように見えるんですけど」 
 誠の言葉通り、グレゴリウス13世はシャムがいるらしい射撃訓練レンジに行こうと鎖を握っている吉田を引っ張っている。彼が特別製の軍用義体の持ち主でなければすぐにシャムのところまで引きずられていくことになるだろう。
「でも……こいつ吉田の言うことだけはまったく聞かねえな」 
 そう言うと要は手を叩く。すぐに気づいたグレゴリウス13世は要に近づいていってその前に座り込む。
「ほら。おとなしくなるじゃねえか」 
「確かにおとなしいな、こいつは」 
「野郎は嫌いなんじゃないの?」 
 いつの間にかグレゴリウス13世から逃げるように遠ざかる誠を要達が見つめている。カウラはいつものように座っているグレゴリウス13世の首をなでてやる。気持ちよさそうに目をつぶる熊。
「で、あいつが射撃場でやることと言えば……早撃ちか?」 
 口元に手をやってグレゴリウス13世が伸ばす様を楽しんでいた要が声をかける。
「まあ、そうだ。結構練習してたからな、昨日」 
 すっかりなついた調子のグレゴリウス13世を見ながら渋い表情で吉田はそう言った。アイシャの後ろに隠れていた誠も少し安心したように前に出た。
「バウ!」 
 突然、怒った様に誠を威嚇するグレゴリウス13世を見て飛びのいた誠。それが滑稽に見えたらしく、要が噴出して腹を抱える。
「とりあえず来いよ……来いよ!この馬鹿熊!」 
 鎖を引っ張った吉田だが、グレゴリウス13世はそれが気に障ったようでそのまま思い切り吉田にのしかかる。さすがの吉田も400kgを超えるグレゴリウス13世の巨体にのしかかられてはどうすることも出来ずにそのままその下敷きになった。
「大丈夫ですか?」 
 恐る恐る尋ねる誠。
「大丈夫なんじゃないの?行こうぜ」 
 助ける気は微塵もないというように要はハンガーの裏手の枯れ草の中に出来た道を早足で歩き始めた。そしてすぐに射撃場で轟音が響いているところからシャムの見世物が始まったことを誠達は知ることになった。

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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 177

「ああ、うん」 
 まだ釈然としないと言うようにケーキを見つめる要。そして彼女は思い出したように母にケーキを手渡す誠をにらみつけてきた。その犯人を決め付けるような視線にあわてる誠。
「そんな……僕も知りませんよ」 
 誠はそれしか答えることが出来なかった。それでも納得できないと言うようにグラスにワインを注ぎ始める要。二人の微妙な距離感にカウラがあわてているのがわかり、二人ともとりあえず落ち着こうとワインを手にした。
「要ちゃんはケーキを肴にワインを飲むの?」 
 自分のケーキをテーブルに置いて腰を下ろしたアイシャの一言。要は相変わらずどこか引っかかることがあると言うような表情でケーキをつついた。
「大丈夫よ。何も仕掛けはないから」 
 そう言ったのは薫だった。誠は何か隠している母を見つめてみたが、まるで暖簾に腕押し。まともな返答が返ってくるとは想像できなかった。誠は仕方なくケーキを口に運ぶ。
「あ!」 
 カウラがケーキのプレートを口に運びながら、突然気が付いたように声を上げた。のんびりと自分のケーキにフォークを突き刺していたアイシャが急に顔を上げてカウラを見つめる。その様子がこっけいに見えたのか、要が噴出した。
「なに?なんだ?何かわかったのか?」 
 笑いと驚きを交えたようにようやくそう言った要。今度はそんな要がおかしく見えたらしく、カウラの方が笑いをこらえるような表情になった。
「そんな大したことじゃない。思い出したことがあるんだ」 
「だからなんなんだよ!」 
 怒鳴る要を見て困ったような表情を浮かべるカウラ。その様子を覗き見ながら苦笑いを浮かべるアイシャ。
「だからな。ケーキを食べるならコーヒーを入れたほうが……」 
「おい……くだらないこと言うなよ」 
 怒りを抑えるようにこぶしを握り締める要。アイシャも誠もつい噴出してしまう。
「いいわねえ……女の子は花があって。男の子はだめ。つまらないもの」 
 そんな要達を眺めながらぼやいてみせる母に仕方がないというように誠は顔を上げた。
「すいませんねえ」 
 愚痴る母親を見上げながら誠は甘さが控えめで香りの高いケーキの味を楽しんでいた。
「でも……いいな。こう言うことは」 
 カウラがそう言った。祝うと言うことの意味すらわからなかっただろう彼女の言葉。
「そうだな。悪くない」 
「悪くないなんて……要ちゃんひどくない?素敵だって言わなきゃ」 
「まあ、あれだ。オメエがいなけりゃ最高のクリスマスだな」 
「なんですって!」 
 再びじゃれあう要とアイシャ。誠もカウラの表情が明るくなるのを見て安心しながらケーキを口に運んだ。

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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 176

「止めろ!」 
 ニヤニヤ笑いながらワインの瓶を押し付けてくる要にカウラがそう叫んだ瞬間、要の姿が瞬時に彼女の前から消えた。それはどう見ても『消えた』としか思えないものだった。
「え?」 
 彼女を助けようと振り向いた誠だが、次の瞬間、居間の壁際に要が大げさに倒れこんでいるのが見えると言う状況だった。
「本当に酔っ払いは……誠もそうだけど駄目駄目ね」 
 そう言って薫はワインを飲み干す。まるで何が起きたかすべてを知っているような母の態度。だが、そこに踏み込むことは誠にはできなかった。
「なに?何があったの?」 
 まるで状況が飲み込めないアイシャ。カウラもただ呆然と固まっている。
「うー……」 
 要はしばらく首をひねった後、ゆっくりと立ち上がって手にワインがなくなっているのを見つめた。
「あれ?ワインが無い……アタシは……あれ?」
 周りを確認してその急激な変化にただ戸惑う要。 
「駄目よ、飲みすぎちゃ」 
 そう言った薫の左手にはワインのボトルが握られている。まったく状況がつかめない誠達。ただ一人悠然とワインを楽しむ薫。
「じゃあ続きよ」 
 説明が出来ない状況を追及するようなアイシャではない。そう言って流し台のケーキに包丁を入れる。誠もそれを見ながら切られていく白いクリームを見つめていた。
「アタシ……何があったか覚えてる奴いる?」 
 居間で相変わらず不思議そうに要がつぶやく。カウラも誠もアイシャも状況がわからず黙り込んでいた。
「飲みすぎたんじゃないのか?」 
 カウラの言葉にもただ当惑している要が椅子に座った音が聞こえる。
「誠ちゃん。何があったかわかる?」 
 ケーキを皿に盛るアイシャは小声で誠に尋ねた。だが誠は首を振ることしか出来なかった。
「きっと母さんならわかるだろうけど……」 
 だが誠にそれを確認することはできなかった。法術の反応は明らかにあった。それは母から感じられていた。しかし母のそう言う能力の話は聞いていない。先日の法術適正でも、母からは能力反応が見られなかったと聞いていた。
「ほら!ケーキよ!」 
 やけになったように皿に盛ったケーキを運んでいくアイシャ。誠もそれに続く。アイシャはまずプレートの乗った大きなかけらをカウラの前に置いた。
「ありがとう」 
 そう言ってチョコのプレートの乗ったケーキをうれしそうに見つめるカウラ。
「それでこっちが要ちゃん」 
 イチゴが多く乗ったケーキの一切れが要の前に置かれる。

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