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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 1 改訂版 31

『そうよ!またきっと!会おうね!ランちゃん』 
『ああ、ぜってー会いに来るからな!』 
 画面の中の白い魔法少女と赤い魔法少女。シャムとランがそう叫びながら次元を超えていく。シャムの肩に手を乗せる小夏。一人涙をぬぐう要。そしてFINの文字が躍る。
「なんだか……全然内容違うじゃないですか」 
 全身タイツのマジックプリンスの格好でラストのシーンを呆然と見つめる誠。
「そうねえ、まあ吉田少佐のことだからこうなるんじゃないのかなあって思ってたんだけど……」 
 伊達眼鏡で先生風の雰囲気を表現していると自分で言っていたアイシャの言葉。そして映写機の隣でガッツポーズをしているだろう吉田の顔を思い出す。
「良いんじゃねえの?受けてるみたいだしさ」 
 魔法少女と呼ぶにはごてごてしたコスチューム。それ以前に少女と呼べない姿の要が明るくなった観客席で伸びをしているアイシャの知り合い達を眺めていた。
「そうだな、アイシャの友達が切れたら大変だからな」 
 そう言うカウラだが隣に立っているサラは微妙な表情をしていた。途中で帰る客をさばいていたパーラも引きつった笑みを浮かべている。
「それにしてもなんでこんなに空席が?始まった時はもっと埋まっていたような……」 
 楓の言葉に青ざめるサラとパーラ。
「楓ちゃん……人にはそれぞれ趣味や嗜好があって……」 
「本当に楽しいのか?これが」 
 ごてごて飾りつけられた格好を見せびらかす楓。誠はその言葉でアイシャの米神がひくつき始めたのを見逃さなかった。
「よう!良く仕上がったろ?」 
 映写室から出てきた吉田が満面の笑みでアイシャを見下ろす。明らかにアイシャと吉田が昨日見た状態と違っていたのは間違いない。誠は二人の一触即発の雰囲気に逃げ出したい気分になった。
「そうね、さすがは吉田さんですね……」 
 アイシャの言葉が怒りで震えている。そこに突然女の子が入ってきてアイシャの髪を引っ張る。
「シャム!ちょっと!」 
 慌ててまとわりついてきたシャムを振りほどくアイシャ。
「もっとかっこよくならなかったのかなー!」 
 そう言って先ほどまでスクリーンに映っていた格好で杖をアイシャに構えるシャム。
「それは吉田君に言ってよ。私は知らないわよ!」 
 逃げ出そうとするアイシャだが、楽屋の入り口には赤い魔法少女ランの姿があった。
「クラウゼ……テメー!あれじゃあアタシはまんま餓鬼じゃねーか……それに最後は……」 
 追い詰められたアイシャ。吉田の画像処理でシャムと最終決戦を前にディープキスをすると言う展開。当然それを知らないランとシャムは怒りの視線をアイシャに向けていた。
「知らないわよ!あれは吉田君が!」 
「先任を君付けか?良い身分だな」 
 すっかりアイシャを追い詰めたことに満足そうにほくそ笑む吉田。誠は自業自得とは言えアイシャに同情の視線を送った。
「ったく……元気だねえ」 
「隊長」 
 ぬるい調子の声に誠が振り向くと、まだ嵯峨は大鎧を身に着けたまま控え室に腰をかけていた。
「いたんですか?」 
「いたよ?いちゃわるいのか?」 
 そう言いながら缶コーヒーを飲む姿は実にシュールに見えた。
「あれ、叔父貴の指示か?シャムとランのラブストーリー……」 
「あのなあ、俺がそんな指示出すと思うか?こいつの独走だ」 
 そう言って嵯峨が吉田を指す。
「だってマニア向けにしろって言ったのは……」 
「知らない、聞こえない」 
 吉田のいい訳に耳をふさぐ嵯峨。
「きっかけはやはり隊長じゃないですか」 
 誠の言葉に困った顔をする嵯峨。
「そんな顔したって無駄だよなー」 
「うん!」 
 恐る恐る嵯峨が振り返るとそこにはシャムとランが立っていた。
「俺はマニアックにしろって言っただけで……」 
「聞く耳持たねえよ!」 
「問答無用!」 
 そうして二人で嵯峨の兜を杖でぽかぽか殴る。
「馬鹿!コイツに傷ついたら!」 
 嵯峨はそう言うと立ち上がって逃げる。それを追いかけるラン。急な展開についていけなかった誠だが、さすがに止めようと思って立ち上がる。
 フロアーを逃げたはずの嵯峨を追って出た誠。そこには地味な服を着た集団に囲まれて立ち止まって助けを求めるような視線を送るランがいた。
「君……かわいいね……写真を一枚」 
「あのーサインはしてもらえますか?」 
「出来ればラストの台詞を……」 
 怪しげな一団が携帯端末を手にランを取り囲んでいる。
「はいはーい。うちの娘に手を出さないでねー!順番で写真撮影を……」 
「馬鹿野郎!」 
 その場を仕切ろうとしていたアイシャにランは思い切り延髄斬りを食らわせた。
「なによ!せっかく助けてあげたのに」 
「助けるだ?オメー……。助けるってのは違うだろうが!」 
 怒鳴り声を響かせはじめたランとアイシャにさすがの観客も引き気味にそれを眺める。
「今度こそは……」 
「なんなんですか?」 
 エントランスホールの片隅で隠れているつもりらしい嵯峨に誠が声をかけた。
「いきなり話しかけるなよ。俺は気が弱いんだから」 
「冗談はそれくらいにしましょうね」 
 誠の後ろからの声に覗き込む嵯峨。そこには笑顔を浮かべてはいるものの目の笑っていないリアナがいた。
「ああ、鈴木か」 
「鈴木か、は無いんじゃないですか?あんまりアイシャちゃん達をいじめてるとしっぺ返しを食らっても知りませんよ」 
 そう言われて落ち込んだように下を向く嵯峨。
「だってさ、この上映にかかる費用とかは確かに市が持っていてくれてるけどさあ、製作までにこいつ等が馬鹿やったり宣伝とか言ってあっちこっちにメールしまくったりする費用うち持ちなんだぜ」 
「だからと言ってこういうふざけたことは駄目ですよ。ちゃんとあとで吉田君を説得してアイシャちゃんに謝りましょうね」 
 そう言い切るリアナにさらに嵯峨が落ち込む。
「でも良いじゃないですか。これの方が面白かったですよ。実際、登場人物の設定には近かったですし」 
 誠の言葉にリアナの目が輝く。
「設定なんてあったの?もしかして衣装とか決めたの誠ちゃんだからその時アイシャから何か貰ったのね!」 
 食いつきの良すぎるリアナに慌てて頷く誠。
「後で見せてもらうとしてだ。あれどうするんだ?」 
 携帯端末を持った男性陣の前でポーズを取るシャム。相変わらず口げんかを続けるアイシャとラン。それをニヤニヤしながら止めるわけでもなく眺めている吉田とカウラ。要の姿が見えないのはタバコでも吸いに行ったのだろう。
「隊長!許大佐は……」 
「アイツはとっとと基地に帰ったよ。鈴木。落とし前は頼むわ」 
 保安隊の事実上の最高実力者の技術部部長許明華大佐がいない今、この状況を収められるのは運用艦『高雄』艦長の鈴木リアナ中佐しかいなかった。リアナは今度はいつものほんわかと温まるような笑顔を浮かべて騒いでいるラン達に向かっていく。
「はいはーい。お楽しみ会はここまで!皆さんお気をつけてお帰りくださいね!」 
 保安隊の制服で手を叩きながら近づくリアナを見て客達はようやく平常を取り戻して出口へと向かう。
「やるもんだなクラウゼ」 
 息を切らしてホールの中央で仁王立ちするラン。
「小さいくせにやるじゃない」 
 同じように立ち尽くすアイシャ。
「見てみな、誠ちゃん。友情が芽生える瞬間だよ!」 
 シャムが近づいてきた誠にそう声をかける。
「やっぱりこいつ等馬鹿だな」 
 カウラのその一言がしみじみと誠の心に染み渡った。


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テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 番外編 1 改訂版 30

「おっはよう!誠きゅん!」 
 寮の食堂に足を踏み入れた誠にふざけて絡みつくアイシャ。誠は奥に目をやると一人で味噌汁を啜る要の姿があった。
「昨日は我慢したのね!最後まで脱がなかったし」 
 アイシャにそう言われて昨日を思い出す誠。確かに記憶がすべてそろっている飲み会というのは保安隊配属後は数回しかない。その中のひとつに昨日の飲み会が入っていることは幸いだった。
「そんなえらいなんて……」 
「ご馳走さん」 
 照れる誠と目を合わせないようにして食器を片付ける要。誠が思い返してみると昨日はいつも酒にウィスキーやウォッカを多量に混ぜて誠に飲ませる要が静かにしていたのを思い出した。
「残念だったわね!か・な・め・ちゃん」 
 食堂を出て行こうとする要を生暖かい視線で見送るアイシャ。
「あいつ……義体の再調整が必要なんじゃないか?」 
 入れ替わりに入ってきた勤務服姿のカウラの一言。頷くアイシャだが誠には意味が読み取れない。
「あのー何かあるんですか、要さんの体……」 
 そう言った誠にアイシャが人の悪そうな笑みを浮かべる。こういう時のアイシャとはかかわらないほうが良いと経験で分かっているが、自分が蒔いた種と言うことで逃げるわけにも行かなかった。
「それはね……」 
 アイシャが誠に囁こうとしたところで戻ってきた要がアイシャを誠から引き剥がす。
「なに?私何も言ってないわよ!」 
「来い!良いから来い!」 
 そのままアイシャを引きずっていく要。
「あの、要さんの義体がどうしたって……」 
 食堂のカウンターで味噌汁を受け取っているカウラに話を向ける。
「要の今の義体は新型のモデルなんだ。なんでも生殖機能付きだとか」 
 冷静に答えるカウラ。しばらく誠はその言葉の意味が分からなかった。
「なんかそう言うのが開発されたって記事見たような気がします。子供が出来るんですよね……技術の進歩ですか……それで?」 
 不思議そうにカウラに話を向けていた誠の耳元に人の気配を感じる。
「無粋な奴だな。子供が出来るには何をするんだ?考えてみろ」 
 つぶやいたのは寮長島田准尉だった。そう言われて誠は自分の顔が赤くなるのを感じる。
「つまり……これまで要さんが変だったのは……」 
「生体パーツとホルモンの分泌の相性が悪かったんだろ?西園寺は明日、立山のサイボーグ関連の施設のラボに予約取ってたからな」 
 そう言うとカウラはカウンターの野菜の小鉢を手にとってそのまま要が座っていた場所に腰掛ける。
「この罪作り!」 
 島田はそう言うと誠の後頭部を小突いた。だが誠はいまいちピンと来ずにただ弱ったように笑うだけだった。階段を駆け下りたアイシャが誠に何かを言おうとするが、当然のようにそれを追う要を見て走っていった。。
「まるで子供だな」 
 一言で斬って捨てるカウラに乾いた笑いを浮かべる誠。要とアイシャがどたばたと走るのはいつものことなので隊員達は一人も気にはしていなかった。
 だが、そこに珍しい姿の客が訪れて食堂は騒然とした。
 シャムである。これはよくあることだった。まだ時間的には出勤まで時間がある彼女が食堂につまみ食いをしに来たことは何度かある。珍しくコスプレをしていない。基本は猫耳だがかふかふかした灰色の生地のロングコートを着ているところから見て合わないと判断したのだろう。
 だが、決定的に違うのはその表情が今にも泣きそうなものだったことだった。
「アイシャちゃんいる?」 
 食堂の入り口で太りすぎた体を丸めて専用のどんぶりで茶漬けを啜っているヨハンにかけた言葉も心配になるほど細く元気の無いものだった。
「ああ、そこらへん走っているんじゃないですか?それよりどうしたんです?」 
 子供が怒られてしょげているように見えるシャムにヨハンは思わず心配そうな声を上げた。
「……うう」 
 その言葉にシャムの瞳に涙が写る。それを見て一緒についてきたらしい吉田がシャムの肩に手を置く。
「な、一緒に謝ってやるから……おう、神前!ちょっと顔貸せ」 
 沢庵を頬張っていた誠を招きよせる吉田。そのまま耳を貸せというポーズをしてみせる。そして近寄った誠にそのまま体をかがめる。
「冬コミ、こいつのせいで辞退だ」 
 吉田を見つめる。いつものふざけた調子ではなくシャムの保護者のような顔をしている。出展関係の事務はくじ引きでシャムが担当することになっていた。吉田が常にバックアップしてくれるということでアイシャも誠も心配してはいなかった。
 目の前のシャムは吉田からの言葉で呆然としている誠に黙って涙目で頭を下げる。
「それは残念です……でも僕は良いんですけどアイシャさんが……」 
 そう言ったところに要に首根っこをつかまれて引きずられてくるアイシャ。
「おう、吉田とシャムが何しに来た?」 
 要の言葉に立ちすくむシャム。ようやく要の手を振りほどくことに成功したアイシャが襟を正しながらシャムを見下ろす。
「ごめんなさい!」 
「ああ、冬コミのことでしょ?」 
 アイシャの言った言葉にシャムが目を丸くする。
「どうして知ってるの?」 
「だって運営に知り合いがいるもの。『本当に辞退するんですか?』て連絡が昨日あったのよ。まあ辞退はしない方向になったけど場所的に微妙なところしか残ってなかったから」 
 その言葉に急に笑顔を取り戻すシャム。彼女はロングコートのポケットから折りたたみ式猫耳を取り出して頭につける。
「すっごい!アイシャちゃん!」 
 急に明るい表情になるシャム。
「ああ、でもミスはミスだから準備からすべてよろしくね。私は今年は誠ちゃんの所で年越しをするから」 
 そう言って良い笑顔を浮かべるとアイシャは食堂に入った。ドアのそばには凍りつくシャムと引きつった笑いの吉田の姿が残された。
「え!今年は行かないの!アイシャ」 
 シャムの叫びがこだまする。それまでの能面のような無表情がすぐに笑顔に変わるアイシャ。
「そうよ、今年はね誠ちゃんと年越しに決まってるじゃない!」 
「おい!何勝手なこと言ってるんだ!テメエが……」 
 そう言って再び詰め寄ろうとする要だが、アイシャは余裕のある態度で要を見据えている。
「そんなに怒ること無いでしょ?私も東和の普通の年越しって奴を体験したいだけなの。毎年コミケってのも飽きてきたし。それに……」 
 艶かしい顔で誠を見上げるアイシャ。身震いする誠、だがいつの間にか隣にはいつの間にかカウラまでやってきている。
「普通の年越しか。神前の家は剣道場だろ?なにかイベントは無いのか?」 
 カウラの言葉に一瞬アイシャに惹かれていた意識を引き戻された誠は頭を掻きながら考えてみた。
「そうですね……四年前までは道場で蕎麦とか餅つきとかやったんですが親父が学年主任になったんで最近は特にイベントらしいことは……」 
 誠の言葉に目を輝かせるカウラ。
「じゃあ、今年は三人多いからやりましょうよ」 
「三人?」 
 アイシャの言葉に要が不思議そうな顔をする。そしてしばらくしてその言葉の意味に気づいた。
「アタシ等がこいつの家に?」 
 真っ赤な顔の要。だがまるで気にしていないようにアイシャは話を続ける。
「夏コミだって誠ちゃんの家が前線基地だったじゃないの。当然今度もそう。まあ同じ誠ちゃんの家でも私達はゆっくり、のんびり年越し。シャムちゃん達は忙しく年越し」 
「いいもん!楽しんでくるから!」 
 そう言うとシャムはそのまま食堂の味噌汁のにおいに惹かれるようにカウンターに向かう。ニヤニヤ笑いながら吉田もついていった。
「まあそんなことだろうと思いましたよ」 
 呆れる誠。名案を提示して自慢げなアイシャ。要は相変わらず頬を赤らめながら誠をちらちらと見つめてくる。カウラは納得がいったというようにそのまま自分の席へと戻っていく。
「あのーもしかして俺等も?」 
 島田が立ち上がるのを見ると素早くアイシャが指差した。
「当然!貴方達はシャムちゃんの手伝い!上官命令!拒否は認めないわよ!」 
 こういうことにかける情熱は他の追随を許さないアイシャに言いつけられてしょげる島田と整備班員。
「俺は国に帰るからな」 
 ヨハンはそう言い切って島田の希望は潰えた。誠はただ苦笑いでアイシャがこれから誠の家でのイベント予定でも考え出すだろうと思いながら見つめていた。


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テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 番外編 1 改訂版 29

「でも本当に何をしていたんだ?」 
 カウラの言葉を完全に無視する要。
 バイザーを降ろした画面には夕暮れの河川敷が写されていた。魔法少女のコスチュームのシャム、小夏、ラン、そして要。その隣には悠然とパイプを吹かしている明石の姿がある。さらになぜかカウラ、リアナ、嵯峨の姿まであった。
「ランちゃん……」 
 夕焼けの中、シャムを見つめて立ち尽くしているラン。手を伸ばされてもしばらく躊躇していた。
「貴様も私も裏切り者ってわけだ」 
 そう言って二人の手を握らせてランを見つめる要。いつの間にかランがシャムと同じ制服を着ていることに気づいて誠は突っ込みたい衝動に駆られながら黙っていた。
「機械魔女が機械帝国に逆らうとは……いつか消されるぞ」 
 ランの搾り出した言葉に要は笑みを浮かべる。
「所詮アタシは機械だ。寿命がくれば壊れるものさ」 
 そう言うと要はランの手を握り締めた。
「よし、シャムだけじゃ心もとないものね!」 
 そうしてその手を上に載せる。
「プリンス!」 
 シャムが誠を見つめてくる。全身タイツの誠もそこに手を乗せた。
「いつか……きっと救えるよ。諦めなければ!」 
 シャムの言葉に全員の決意の表情が画面に映る。それを満足げに見つめる明石。そこで画面が途切れた。
「あれ?これだけ?」 
 シャムは起き上がって吉田を見つめた。
「あっさりしすぎてないか?それともいろいろといじるのか?」 
 シャムを無視して画面を見つめている吉田にランも声をかける。
「まあ、そんなところかな……」 
「なんだよ、これだけならオメエが編集してつくりゃあ良いじゃねえか」 
 ようやくいつもの調子に戻った要が愚痴る。
「さあ、それじゃあ見せてもらうわよ。吉田さんの実力と言う奴を」 
 挑発的な言葉のアイシャだが、吉田はまるでかまうつもりは無いと言うように相変わらず画面を覗いていた。
「そう言えば要はさっき……」 
「カウラ。何も言うな……ってその目はなんだ!アイシャ!」 
 要は再びニヤニヤしているアイシャを怒鳴る。
「寂しいのね、そうなのね、要ちゃん」 
 その言葉を聞くと顔を真っ赤にした要はカプセルから飛び起きた。部屋を出て逃げ出すアイシャ。猛然と襲い掛かる要。
「元気があっていーねー」 
 もはや呆れたと言う状態を超えたと言うようにわらうランの姿がそこにはあった。誠はアイシャと要の行動の意味がわからずに呆然としている。
「何か言いたそうね」 
 顔を出すサラ。誠は頷くが口に手を添えて忍び笑いをするだけでサラは何一つ答えるつもりは無いように見えた。諦めた誠は廊下の外の要の叫び声を聞きながら苦笑いを浮かべていた。
「なんだ、ありゃ?」 
 駆け出していく要とアイシャ、そして入れ替わりに嵯峨が顔を出す。それまでアイシャに何かを吹き込まれてニヤニヤしていたサラとパーラが突然の闖入者に思わず目をそらす。
「隊長、何か用が?」 
 立ち上がったラン、それを見ると思い出したように嵯峨がランを手招きする。
「ああ、あと神前も来いや」 
「僕もですか?」 
 不思議に思いながら誠も立ち上がる。それを見てリアナは手を打った。
「ああ、本題の方ね」 
「本題?」 
 リアナの言葉にランが首をひねる。
「この映画を上映するのは今度の節分よ。呼び物は隊長の提案で始まった時代行列。そこで着る鎧兜を選ぶのよ」 
「ああ、そういうこった。まあクバルカのは特注だな」 
 嵯峨の言葉に元々目つきの悪いランの目つきがさらに悪くなる。
「しょうがねえだろ?まあおかげでお前さんの好きな奴を作れるんだからよ」 
「え!鎧兜を作る?」 
 嵯峨の言葉に驚く誠。彼の肩にカウラが手を伸ばす。
「時代行列でうちは源平絵巻の担当だからな。当然甲冑を着て行進することになる」 
「目玉は隊長の流鏑馬よ。本当に凄いんだから」 
 自慢げなリアナ。誠は嵯峨なら乗馬くらいはできるだろうとは思っていたが弓まで使えることははじめて知った。
「ちょっと冷蔵庫で会議しようや。お前等も見るか?」 
 嵯峨にそう言われて吉田と隣で一緒に画面を見つめていたシャム以外がぞろぞろとついてくる。
「源平絵巻ですか……写真の資料しか見たことありませんよ、僕」 
 そう言いながら嵯峨に続いて電算室に入る。嵯峨は素早く端末の前に腰掛けると画面を開いて胡州のネットに接続した。
「やっぱり胡州ですか製作は」 
「そりゃあな。胡州の時代趣味はすげーからな。東和だと何時代の鎧……と言うかそもそもこれ日本の甲冑と違うじゃんと言う奴ができちまうからな」 
 ランの言葉に納得しながら誠は嵯峨が胡州国立文化センターのセキュリティーコードを打ち込んでいるのを眺めていた。
「変わったところに頼むんですね」 
「平安末期仕様の鎧兜って限定して作らせるとなると、こういうところしか無くてな。まあこのこだわりがどれだけ客に受けるかは別なんだけどっと!」 
 そう言いながら嵯峨は歴史物品複製製作のサイトにたどり着いた。
「とりあえず胴丸で……サイズからか……誠!身長は?」 
 嵯峨が突然振り返る興味深げに覗きこんだ端末には徒歩侍の姿が映っている。明らかに雑兵と言う姿に少し誠はがっかりした。
「一応186センチですけど……雑兵役……武将じゃないんですね」 
「ああ、将校クラスは大鎧だが下士官はすべて雑兵の格好になるんだ」 
「そうだよね、誠君下士官だから!」 
 カウラの言葉にサラが乗っかって誠に笑いかける。
「神前、でかすぎだ。特別注文になるな」 
 そう言いながら端末に入力を続ける嵯峨。キーボードを打つ嵯峨をはじめてみる誠だが、それは驚異的なスピードだった。すぐさま鎧の各部分の設定などを入力して完成予想画面が映し出される。
「へえ、様になるわね」 
「良かったわねカウラちゃん」 
 パーラとリアナがなぜかカウラに声をかける。それまで画面を見つめていたカウラは突然の言葉に頬を赤らめて下を向いた。
「で、問題のクバルカ中佐殿……どれにするか?」 
 嵯峨が体を引いてランからも画面が見えるようにする。ランはしばらく頭を掻いた後、仕方が無いというように画面を見つめた。
「あれ?兜は?」 
「おい、女武者は鉢巻とかが普通だぞ。リアナもそうだよな」 
「ええ、私は赤糸縅(あかいとおどし)の大鎧に鉢巻よ」 
 リアナの言葉で凛々しく騎馬で疾走する姿を想像して納得する誠。カウラや要、アイシャも将校であるところから考えれば、彼女達も恐らく源平の女豪傑の巴御前のような姿になるだろうと思って心が躍るのを感じた。
「やっぱり兜がねーと格好がつかねーよ」 
「贅沢言いやがって」 
 苦笑いで再び端末のキーボードを叩く嵯峨。
「納期を考えると……緋縅の甲冑の部品が余ってるみたいだからこれで行くか?」 
「仕方がないんじゃないっすか?」 
 ランの一言でようやく落ち着く。
「ああ、そうだ。島田も今回は将校扱いだな……」 
「私が連れてきます!」 
 嵯峨の言葉に飛び出していくサラ。誠は嵯峨の横から手を出して自分の鎧の完成予想図を見た。
「やっぱり雑兵だな」 
 カウラの一言。誠は大きく落ち込んだ。
「良いじゃないの。乗馬の練習とかしなくて良いし、それに大鎧は結構動きにくいのよ」 
 リアナのフォローだが、所詮は祭りのコスプレである。格好が良い方を選びたくなるのが人情だった。
「まあ、がんばれ」 
 肩を叩く嵯峨。そこで再びドアのロックが解除された。
「どこに隠れた!アイシャ!」 
 そう言ってずかずかと部屋に乱入する要。だが、その視線が誠の目の前の画面に落ち着くとにんまりと笑って誠の頭をぽかぽか叩き始めた。
「おう、立派な雑兵じゃねえか!」 
 要はそのまま誠の頭をぺたぺた叩き続ける。誠は苦々しい笑顔を浮かべながら見つめてくる要のタレ目に答えた。
「武将は将校だけなんですよね。じゃあ要さんも馬に乗るんですか?」 
 逆襲のつもりで誠が話をそちらに向けるが要は平然としている。
「アタシは一応胡州の公家の出なんだよ。当然乗馬なんざ必須科目だね。そして……」 
 にやけた要のタレ目がカウラに向かう。カウラは思い出したように顔を赤らめるとうつむいてしまった。
「馬と相性の悪い将校さんもいるからさ、ちゃんと二人で歩いてついて来いよ」 
 嫌味たっぷりに要が言うとそのままじっと話題が変わるのを待つことにしたようなカウラ。
「なんだ、馬?簡単だよあんなの」 
 そう言うと目をきらきらさせてランがカウラの手を握る。
「そうは行かないのよランちゃん。カウラさんの場合本当に不思議なくらいお馬さんに嫌われちゃうの」 
 困ったような顔のリアナ。そう言われて腕組みをして考え込むラン。
「普通ならくつわを取る人さえいればじっとしていれば済むんだけどな」 
「俺もあんなに馬に嫌われる奴は見たことが無いな」 
 嵯峨の言葉が止めを刺したようにカウラは深刻な顔をする。
「おい、追い詰めてどーすんだよ!何でも練習だ!近くに乗馬クラブとかねーのか?この辺は」 
 自分の言葉で部下が落ち込むのを見て慌ててランが全員に顔を向ける。
「確かアイシャが去年通ってたわよね」 
 サラが首をひねりながら答える。こういうイベントには異常な情熱を注ぐアイシャが乗馬の特訓くらいならやりかねないと思って誠は笑みを浮かべた。
「じゃあやっぱりアイツが必要に……」 
 そう言った時にドアのロックが開いて入ってきたのはアイシャ本人だった。要の顔を見ると逃げようとするアイシャだが、素早く飛びついたランがアイシャを押さえ込む。
「ごめんなさい!」 
「おい、そっちの話は終わりだ。それよりこいつに乗馬を教えるところはねえのか?」 
 ころころ機嫌の変わる要を知っているアイシャがおびえた表情から素に戻る。話題がトイレで要が何をしていたか言うことから変わっていると知るとそのまま部屋に入ってくる。
「三つあるけど……節分の時代行列で乗るためでしょ?そうするとここかしらね」 
 そう言うとアイシャはすぐに端末を操作して豊川市の企業情報のサイトを検索する。そこには小さな牧場の写真が映っていた。
「おい、これは誰だ?」 
 左端に鎧兜の女武者の写真が見て取れた。
 誠は首をかしげた。写真に写っているアイシャだがどうも不自然に見える。
 身に着けているのが先ほどまで見ていた源平絵巻に登場する甲冑とは明らかに違う。茶色い漆のようなもので塗られて輝く兜には鹿の角のような飾りがあり、胴は丸く金属でできているように見えた。アイシャの顔には仮面のようなものがついて、そこから髭のようなものまで生えている。
「当世具足って言うんですって!本当は六文銭に赤備えで真田信繁をやろうとしたんだけど……」 
「浮きすぎだな」 
 カウラの一言にうつむくアイシャ。確かにこのような甲冑を飾っている剣術道場もあることは知っていた。
「でも大丈夫か?カウラは動物と相性最悪だぞ。馬なんて……」 
 そう言ってタレ目で見上げる要。アイシャもそこまで言われるとただ首をひねるしかなかった。
「それに怪我をされたらな……一応仕事に支障があるのは勘弁して欲しいな」 
「隊長!私のときは何も言わないで!」 
 アイシャが目を向けたので嵯峨が首をすくめる。
「お前は止めても行ったろ?しかも去年とはうちをめぐる状況がかなり違うんだ」 
 そう言い訳するとなんとかアイシャは納得する。
「つまり歩けば良いんだよ。いっそのことアタシの馬のくつわでも取るか?誠と一緒に」 
 ニヤニヤ笑う要だが、先ほどの嵯峨の言葉に少しばかり落胆していた。
「そうですね。今年も歩きますよ。甲冑はこの前ので良いです」 
 残念そうな口ぶりでそう言い切ったあと、要をにらみ返すカウラ。
「でもこれって誰が金だしてんだ?」 
 至極もっともなランの言葉に嵯峨が手を上げる。
「生産的な出費だろ?これで胡州の学者さん達は研究費用が稼げて技術の研鑽につながる。東和は伝統的な資料を見ることで歴史を学べて観光客も呼べる。俺は価値のある美術品を購入して資金の投資を行ったことになる。三方丸くおさまって良いことじゃねえの」 
 そう言うと嵯峨は立ち上がる。
「定時だぜ、どうする?飲みに行くか?」 
 嵯峨の言葉に頷くラン。
「叔父貴のおごりってわけじゃ……ねえよな」 
「無茶言うなよ。俺はおととい競輪で負けてやばいんだから」 
 そう言って端末を閉じる嵯峨。
「じゃあ、クバルカ中佐と要とカウラ、私と誠ちゃん……」 
 アイシャが視線をパーラに向ける。パーラはそのままサラを見てサラは隣のリアナを見つめる。
「ごめんね。私今日は健一さんと……」 
「じゃあパーラの車は……あと島田でも呼ぶか。たぶん吉田とシャムは行かねえだろうからな」 
 要のその一言で一同は動き始める。誠はいつものように今日こそは全裸にならないと心に誓った。

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テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 番外編 1 改訂版 28

 スキップでもはじめそうなアイシャの後に続いて進む誠。
「楽しそうですね」 
「そう?」 
 軽快な足取りでパーラの背後に回り胸に手を回すアイシャ。そして両手でパーラの胸に手を回した。
「何すんのよ!」 
 パーラには叩かれてもアイシャは気にする様子も無くパーラの胸を揉みながらそのまま会議室に入る。
「よう、ラストは俺に任せろよ」 
 そう言いながら冊子をアイシャに渡す吉田。そこでアイシャが明らかに不機嫌そうな顔になるのを誠は見つめていた。
「何よ、これ」 
「台本だろ?他に何に見えるんだ?」 
 吉田はあっさりそう言うと誠とパーラにもそれを渡していつものモニターの並ぶところに腰掛ける。
「当然だな。これでかなりまともになる」 
 そのカウラの言葉にリアナまでもが頷いていた。アイシャの台本を没にする。確かに思い出してみればシャムとランのキスシーンを入れると言うラストの案はさすがに無理があった。
「ちょっと!私の立場は!」 
「好き勝手やったんだ。十分楽しめただろ?」 
 冊子を開いて視線も向けずにランがそう言い切った。肩を落とすアイシャ。
「とりあえず……台詞……」 
「どうせ私の出番は無いわよ!」 
 誠が声をかけるが無視するアイシャは頬を膨らまして部屋の隅に向かう。
「あ、いじけた」 
「しょうがないわよ」 
 サラとパーラもいつものようにはかばってくれないと知ってさらに部屋の隅に座っていた椅子を寄せるアイシャ。
「そう言えば要は?一緒じゃないのか?」 
 そんな何気ないカウラの一言にアイシャが反応した。彼女はそのまま立ち上がるとパーラとサラの手をつかんで引っ張る。
「何すんの!」 
 サラが暴れているが寄せた耳にアイシャが一言二言。すぐにサラの目が輝いてくる。
「あのー?」 
「ああ、誠ちゃんは聞いちゃ駄目!」 
 手を振るサラ。パーラも自然とアイシャのつぶやきに耳を貸す。
「なにがしたいんだか」 
 カウラはそう言うと一人カプセルの中に体を沈めた。誠もアイシャ達の奇妙な行動の意味を詮索するのが無理だと悟ってカプセルに体を横たえた。
「あ!そう言えば小夏ちゃんはどうするの?」 
 シャムの言葉に誠は吉田を見た。相変わらず目の前のモニターを凝視している。
「アイツのボイスサンプルは十分取れたからな。俺が編集で何とかするよ」 
「だったら全員のでやってくれれば良かったんじゃないか?」 
 愚痴るカウラ。誠も苦笑いを浮かべながら一度ヘルメットをしたもののそれを外して起き上がる。
「そう言えば要さんは……」 
 戻る気配の無い要を思い出した誠。その言葉にアイシャとサラとパーラがいかにもうれしそうな顔で誠を見る。
「……どうしたんですか?」 
 明らかに変な妄想をはじめた時の彼女達の輝いている瞳、自然と背筋が寒くなる誠。
「そうだな、西園寺がいないとはじめられないな。アイシャ、呼んで来たらどうだ」 
 こちらも上半身をカプセルから持ち上げているカウラの声。今度はアイシャ達の視線はカウラに向く。三人に浮かぶ明らかに何かをたくらんでいる笑い。
「……気味が悪いな。西園寺が何かやってるのか?」 
「大丈夫。もうそろそろ来ると思うぞ」 
 突然そう言ったのは吉田だった。アイシャが特別うれしそうな顔をする。
「吉田ちゃん!もしかして覗いてたの?一階の北側の女子トイレの奥から二番目」 
「バーカ、勘だよ勘!それにしても細かい指定だな。いるところがわかるならお前等が連れて来いよ」 
 そう言う吉田をパーラが汚いものを見るような目で見ている。
「なんだよ!信用ねえな!見て無いって!女子トイレには監視カメラは無いから。付けてようものなら明華の姐御に殺されるよ」 
「はいはい!わかりました」 
 手を叩くアイシャをにらみつける吉田。
「本当に見てない……あっ来た」 
 吉田の言い訳にあわせるようにいつもよりも明らかにテンションの低い要が入ってくる。そして要は誠を見るなりすぐに視線を落としてしまった。
「ねえ、何をしていたのかな?」 
「テメエにゃ関係ねえだろ?」 
 再びうれしそうな視線を要に向けるアイシャ達。
「あ、こんなところに!」 
 そう言って要のスカートのすそを指差すサラ。要は慌てて視線を落とす。
「なんだよ!何も付いてないだろ!」 
 その言葉に飛び跳ねそうな反応を示す要。誠とカウラはわけも分からず見守っていた。
「あのさー。人数そろったんだからはじめろよ」 
 奥のカプセルからの声。ランが痺れを切らしたのは間違いなかった。
「じゃあ深くは詮索しないからそこのカプセルに……」 
「詮索しないならはじめから言うんじゃねえよ」 
 アイシャの言葉にうろたえて見える要。彼女はなんどかちらちらと誠を見ていた。その頬が赤く染まっているのを見て、誠はいつものように酒を飲んでいたのだろうと安心してヘルメットをかぶりバイザーを下ろした。


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ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 番外編 1 改訂版 27

「チキショウ!あと少し!ああ、今回はアタシのミスだ!」 
 要の叫び声がハンガーにこだまする。誠もカウラもそれぞれ05式のコックピットから身を乗り出してぶんぶんと腕を振り回して悔しがる要を見つめていた。
「そうね、あんたのミスだわね」 
「アイシャ!オメエだって進行プランを完全にランに読まれてたじゃねえか!」 
 ハンガーの真ん中にオペレーションシステムを模したテーブルに座ってアイシャがニヤニヤしながら要を見上げていた。タレ目でにらみつけようとした要にアイシャが大爆笑している。
「そう簡単に貴様等に追いつかれるわけにゃーいかねーんだよ。一応、東和陸軍アサルト・モジュール部隊の教導官を勤めてたわけだかんな」 
 そう言って一週間前に搬入された新型の07式(まるななしき)のコックピットから顔を出すラン。その姿は何度見ても小学生低学年のなりにしか見えない。
「ランちゃんの読みは凄いよね!完全に誠ちゃんを無力化なんて!」 
 元気そうに叫ぶとシャムはエースらしい白いパーソナルカラーの05式の右腕を伝って床に駆け下りる。
「それだけテメー等が神前に頼りすぎた戦術を立ててるってこった。ちゃんとテメーの世話も焼けねー奴は戦場じゃ邪魔になるだけだぞ」 
 そう言うとランもエレベータでシミュレーションの戦闘記録を取っているサラとパーラのところへと向かう。
「ったくなりはロリなのに……」 
 ぼそりと要がつぶやく。当然のように鋭い目つきでにらめつけたラン。
「おい、さっきは負けたのは自分のせいだって言ったな。じゃあグラウンド20週して来い!」 
 ランの目の前で「ロリータ」と「幼女」は禁句である。誠も軍事機密らしいので深くは詮索していないが保安隊実働部隊二代目隊長クバルカ・ラン中佐の幼い姿について口にするのは事実上のタブーとなっていた。技術部部長の許明華大佐との掛け合いから見ても、14年前の遼南内戦に参加していたことは分かっているので自分よりも年上らしいことは誠も知っていた。
「おい、アイシャ。おとといの続きは?」 
 ランがそう言ったのに誠は驚いていた。おとといまで隊全体を振り回して魔法少女モノなのか戦隊モノなのか、あるいはロボットモノかもしれない自主制作映画を作るべく走り回っていたアイシャが何も言わない。それはいかにも不自然だった。
 昨日は編集を買って出た吉田がずっと会議室のモニターに向き合って画面の修正作業をしていたと言う理由があるが、今日は吉田は暇をもてあましてセキュリティーチェックと称してアイシャの隣の椅子でじっと目をつぶって、電子戦に特化したサイボーグらしく脳裏を走るシステムのチェックを行っている。
「ふっ、さすがに積極的かつ強気な戦術を本分としているクバルカ・ラン中佐。隊長を追い詰めたのも頷けるわね。誰かと違って」 
「余計なお世話だ」 
 アイシャが不敵な笑いを浮かべながらそう言うと吉田がすかさず口を挟む。
「いやあ、そんなに力まなくても……」 
 つまらないものに火をつけてしまった。ランは慌ててそう言ったがすでにアイシャはギアを切り替えてオタクで痛い本性を現そうとしているところだった。
「知らねえよ、アタシは!それじゃあランニング!行ってきます!」 
「逃げるんじゃねーよ!」 
 ランニングと称してそのまま逃げ出そうとした要をランが押さえつける。誠とカウラは仕方が無いというようにすでにシミュレータの撤収を始めたアイシャを生暖かい目で見つめていた。
「正直最後はやっつけで書いたのよね」 
 端末のコードを抜きながらのアイシャの言葉。アイシャに逆らうのは無駄だと諦めている吉田もすでに首のスロットのコードを抜いて機材の山に放り投げていた。
「おい、やっつけなのかよ。まったくストーリーができたのは俺のおかげなんだぜ」 
 吉田はそうこぼすとシャムから紙コップを受け取る。シャムは奥から鍋を持って出てきた技術部の西高志兵長と紙コップを持ったレベッカ・シンプソン中尉からさらに紙コップを受け取る。
「おう、甘酒か。レベッカが朝から何やってるのかと思えば……」 
 半ば呆れながらランがテーブルに置かれた大きな鍋の蓋を開ける。しろいどろどろの甘酒がかぐわしい香りをハンガー一杯に拡げた。
「そんなことを言うとあげませんよ」 
 レベッカはそう言いながらいつの間にか吉田の後ろに列を作っていた整備兵達に甘酒を振舞い始める。
「しかし、こうしてみるともう冬なんだな」 
 その列の中にいつの間にかいたカウラがエメラルドグリーンの髪に手をやる。
「なんだ?人造人間でも風雅ってもんが分かるんだ」 
 要の言葉にそれまで隣の甘酒を覗き見ながら機器を片付けていたアイシャが立ち上がる。
「ひどい偏見!私達も一応人間よ!取り消しなさいよ!」 
 顔を近づけてつばきを飛ばすアイシャに一歩もひかない要。すぐさまジャンプしたランが要の頭をはたいた。
「馬鹿やってんじゃねーよ。甘酒やらねーぞ」 
 そう言いながら保安隊副長特権で甘酒の列に割り込んで手にしたコップを傾けるラン。
「それより子供が酒飲むのは……」 
「アタシは大人だ」 
 カウラの言葉を切り捨てるとランはそう言って甘酒を飲み干した。
「これ、おいしいですよ。要さん」 
 誠の一言になぜか機嫌を悪くした要は黙って実働部隊の詰め所のあるハンガー奥の階段に向かって歩き出した。
「素直じゃねーな。あいつも」 
 その様子を紙コップの中の甘酒で体を温めながら見守るラン。
「あの、じゃあ僕も遠慮します」 
 誠の言葉にレベッカに代わって甘酒を振舞っていたアイシャが目の色を変える。
「そんな、あいつのわがままに付き合う必要なんて無いわよ」 
 そう言うとアイシャは警備部のスキンヘッドの兵士から甘酒の入ったコップを奪って誠に持たせる。
「別にそんな……」 
「いいから!持っていきなさいよ……これもね」 
 そう言うとアイシャはもう一杯の甘酒のコップを誠に持たせる。彼女の笑顔に背中を押されるようにして誠はそのまま要のあとをつけた。
 誠が甘酒を持って振り返ると要の姿は無かった。早足でそのまま階段をあがって管理部の白い視線を浴びながら隣の詰め所に飛び込む。
「なんだ?……うん。旨そうだな」 
 第四小隊小隊長ロナルド・J・スミス特務大尉が誠の手の中の甘酒に視線を向けていた。
「ああ、これならハンガーでレベッカさんが配ってますよ」 
「あいつは……まあ良いか。ジョージ、フェデロ、行くぞ」 
 端末のモニターのグラビアを見ていたフェデロ、報告書にペンでサインをしていた岡部がロナルドの言葉で立ち上がる。そしてロナルドは鼻歌を歌いながら出て行った。
 そして誠はそっぽを向いて机の上に足を投げ出している要を見つめた。
「お姉さま。また喧嘩ですか?」 
 奥の席でモニターを覗きながら第三小隊小隊長の嵯峨楓少佐が声をかけてくる。
「うるせえな!」 
 そう言うと要は目を閉じる。
「ここ、置いておきますから」 
 誠はそう言って要の分の甘酒を机の端に置いた。
「いいですね、甘酒ですか。遼南でも時々飲むんですよ」 
 第三小隊三番機担当のアン・ナン・パク軍曹が甘えた声を出して誠の手の中の甘酒を見ている。
「遼南にもあるのか。楓様……」 
 いかにも飲みたそうな二番機担当の渡辺かなめ大尉。そう言われた楓はキーボードを打つ手を止める。
「そうだな。少し休憩と行くか」 
 そんな楓の声に横を向いてしまう要。
「西園寺さん……」 
 誠は彼女の正面の自分の席に座った。
「あいつ等と一緒にいろよ。アイシャとか……」 
「お姉さま!」 
 いじけたような調子の要に楓が声を荒げた。目を開けて楓の顔を見ると、すこしばつが悪そうにアイシャが『変形おかっぱ』と呼ぶ耳にかかるまで伸びたこめかみのところが一番長くなっている髪をかきあげる要。
「飲む」 
 そう言って手を伸ばす要。誠はようやく笑顔を浮かべて甘酒を要に手渡した。楓は安心したようにまことを見て頷くとアンと渡辺を連れて出て行く。誠と要。二人は詰め所の中に取残された。
「ごめん」 
 ぶっきらぼうに手を伸ばして軽くコップを包み込むようにして手に取った。そしてゆっくりと香りを嗅いだ後、一口啜って要がそう言った。
「別に謝る必要は無いですよ。ただ要さんにも楽しく飲んで欲しくて……」 
「あのさあ、そんなこと言われるとアタシは……」 
 楓達が甘酒を求めて出て行って二人きりの部屋。少し照れながら楓は両手で紙コップの中の甘酒を見つめていた。
「ふう、良いな。レベッカも胸以外に特技があるじゃねえか」 
 ようやく気が晴れたのか少し明るい調子で再び甘酒を含んだ要がため息をつく。酒豪と言う言葉では足りないほどの酒好きな要だと言うのに、なぜか頬が赤く染まっていた。
「なんか顔が赤いですよ?」 
 誠の言葉に要は机から足を下ろす。そして素早くコップを置くとひきつけられるように誠を見る。そして突然何かに気づいたように頭を掻いた。
「き、気のせいだ!気のせい」 
 そう言って慌てた要がつい甘酒のコップを振って中身を机にこぼした。
「大丈夫ですか!」 
 誠はハンカチを取り出して要の机に手を伸ばした。その手に要の手が触れる。
「うっ……」 
 大げさに飛びのく要。奇妙な彼女の行動に誠は違和感を感じていた。
「どうしたんですか?」 
「うん……」 
 黙り込んでいた要だが、誠の目を見るとすぐに視線をそらしてしまう。
「ああ、ちょっとトイレ行ってくるわ。たぶんアイツ等が来るころには戻るから」 
 そう言うと早足で部屋を出て行った要。誠は要の半分ほど甘酒の残ったコップと取残された。
「ねえ……」 
 後ろから突然女の声がして飛び上がる誠。そこにはいつの間にかアイシャが立っている。誠は思わず飛びのいて危うく手にした甘酒をこぼしそうになった。
「そんなに驚かなくてもいいじゃないの。それより要が今何しているか知りたい?」 
 明らかに悪いことを考えているときの表情のアイシャ。こういうときのアイシャの口車に乗って何度煮え湯を飲まされたかを思い出す誠。そしてアイシャの頭の中がエロゲで支配されていることも知っていた。
「遠慮します!」 
「そう、でも要はきっと知ってほしいと……」 
「なんでそうなるんですか!」 
 きっぱりそう言うと誠は自分の席に座りなおす。
「ふーん。本当にニブチンね。おかげで私は……」 
 にんまりと笑い口に手を添えるアイシャ。大体こういう時はろくな話をしないのを知っているので誠は避けるように自分の席から隣に立っているアイシャを見上げた。
「ニブチンで結構です!」 
 そう言うと目的も無く端末を起動させる誠。
「なにか気になることでもあるの?」 
 明らかに慌てている誠をからかうような調子で見つめるアイシャ。
「別に……」 
「まあ、いいわ。それならその端末しまって頂戴。ラストの撮影の準備、要が戻ったらすぐできるようにしておきましょう。まあしばらくは戻ってこないと思うけど」 
 意味ありげに笑うとアイシャはそのまま部屋を出て行く。あっけに取られる誠も部屋の外を歩いているラン達の姿を見て端末を終了させた。


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