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遼州戦記 播州愚連隊 140

 羽州艦隊旗艦『羽黒』は出撃準備に追われていた。
「全アサルト・モジュールの出撃準備まであと二時間になります」 
 艦長で司令官の秋田義貞の言葉にパイロットスーツ姿の安東貞盛は大きく頷いた。
「時間的には余裕があるな。忠満のことだ。俺がじきじきに出ることくらい予想はついているだろう」 
 そう言うとヘルメットを被り静かにモニターの中のせわしなげに整備員の走り回るハンガーを見つめた。
「ですがこの数での攻撃……本隊が来るまで待ったほうが……」 
「それならいつまで待てばいいのか示してくれないか?」 
 厳しい調子の安東の言葉に秋田は少しばかり戸惑った。部下思いで人望のある主君の姿は日々消えかけていった。佐賀艦隊が事実上動きを止め、本隊の清原が指揮する揚陸艇の部隊はそれを気にして足をとめていた。
『時間が経てば同盟や地球の艦隊が動く……その前に勝負をつけるしかない』 
 そう繰り返しながらまるで言うことを聞くつもりの無い清原の取り巻きにいらだちながら日々をすごした分だけ主君の心が荒れていくのは秋田も我慢できない話だった。
「それと今なら赤松さんに投降……」 
 そこまで言うと秋田は殺気を込めた目で安東ににらまれていた。
「それ以上言うな。この場で反逆罪で処刑されたいのか?」 
 本来ならそんな言葉を口にしないはずの安東。静かに秋田は沈黙して周りの将兵を見回した。
 誰もが黙り込んでいた。彼らの多くは庶民の出だった。清原の理想などまるで得にはならないと言うのに安東の人望を慕ってついてきた兵士達の表情にも疲労の色が見える。
「とにかく我々は勝つしかない。それも一撃でだ」 
 そう言うと安東はヘルメットの顔を覆うシャッターを下ろした。
「そうですね。勝つしか……」 
 秋田はそう言うと艦隊司令の椅子に座ってまっすぐモニターを見つめる。
「よろしく頼む」 
 そう言い残して安東はブリッジを後にした。


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遼州戦記 播州愚連隊 139

「それでは健闘を祈る」 
 そんな別所の言葉に明石はペンをよけた感覚で目を覚ましたように顔を上げた。他の艦から出撃する部隊の隊長達は足早に会議室を出て行く。
「そんなに眠いのかよ」 
 ぼんやりとした顔の魚住。その隣では不思議そうな表情の黒田が明石の顔を覗き込んでくる。
「すまんのう。ワシはどうかしとるかもしれんわ」 
 そんな明石の言葉に魚住は不思議そうな顔をした後で立ち上がる。
「相手は『胡州の侍』安東貞盛大佐殿だ。そう簡単に話が済むはずはないからな」 
 立ち上がり伸びをする魚住。邀撃部隊の経験のある彼はある意味達観したように大きくあくびをする余裕があった。
「なんや、落ちついとるやん」 
「まあな。生きて帰れるかどうかはわからんが今のところ俺の神経はまともらしいや。それより貴様はさっきから変だぞ」 
 再び自分のことを魚住に指摘されて明石は覚悟を決めたような表情で立ち上がる。二メートルを超える巨漢の明石が立ち上がると慣れているとはいえ小柄な魚住はのけぞるように反り返る。
「明石、一つだけ助言をしてやるよ」 
 明石が立ち上がるのを見ると、艦隊付きの参謀と打ち合わせをしていた別所が駆け寄ってきてニヤリと笑った。
「なんやねん。気持ちわるいなあ」 
 そう言って胸のポケットからサングラスを取り出した明石を見上げて再び別所は笑みを浮かべる。
「これは一番大事なことだと俺は思っているんだ」 
「だからなんやねん」 
 なぜか別所の態度に明石はいらだっていた。それが初の実戦を前にした苛立ち妥当ことは明石も分かっていた。そしてそんな苛立ちを読み取らせまいと必死に強気な表情を作り上げようとするがどうせ別所にはばれるだろうと諦めた瞬間だった。
「英雄になろうとしないことだ。相手は強い。元々技量の差が大きく出るアサルト・モジュール戦じゃあ安東さん相手には勝ち目は無い。とにかく生き残れ」 
 そんな言葉に少し違和感を感じながら明石は手を振って会議室を後にした。


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遼州戦記 播州愚連隊 138

「大丈夫かよ」 
 明石が青い顔をしているのに気づいた別所が声をかける。幹部のみのブリーフィングルーム。すでに羽州艦隊が先行して胡州海軍第三艦隊の待ち構えているアステロイドのデブリに向かっていた。
「ああ、ワシは考えてみると初陣やったなあ」 
「確かに」 
 振り返る魚住と黒田の顔が笑顔に染まっている。
「今度は帰りの燃料もあるからな。安心して戦えるぞ」 
 別所はそう言いながらモニターを指していたペンを振り回しながら明石の目の前まで来た。そしておもむろに明石の剃りあげられた額を触る。
「熱は無いか。なら問題ないな」 
 その動作に明石は別所もまた先の大戦で人生を狂わされた被害者であることを思い出した。そして同世代の他の艦のアサルト・モジュール部隊の部隊長達もそんな一人なのかと思うと次第に目頭が熱くなった。考えてみれば別所も魚住も戦争が無ければたぶん球場で数回話をしたくらいでこれほどまでに近しい存在にはならなかっただろう。別所は父の跡をついで病院の内科医になり、魚住は商社か何かのサラリーマンになっていたことだろう。自分も宗教学者が務まるほどでは無かったので実家の寺で読経の日々を過ごしていたはずだった。
 しかし戦争はすべてを変えた。
 三人はそれぞれ第三艦隊の最前線に有って指揮を執る旗艦『播磨』の最前線部隊を指揮することが決定していた。お互い命を預けての戦いになるのは目に見えていた。
『俺達と同じような物語があいつ等にもあるんやろか?』 
 黙って明石は周りの熱心に作戦の要綱を伝える別所の言葉を聴いている指揮官達を眺めている。
「ぼんやりしてるんじゃないぞ!タコ」 
 あまりに別のことを考えていた明石に別所の投げたペンが飛んだ。それをすばやく交わすと明石はしてやったりというようににんまりと笑っていた。


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遼州戦記 播州愚連隊 137

「元気そうじゃないか」 
 営倉の中。後ろ手に縛られた士官が笑顔で歩いてきた醍醐の方を見るとそう言った。満面の笑み。敗軍の将とは思えないそのふてぶてしさに醍醐は戸惑うような笑みを向けた。
「池。これがお前の望んだ結末なのか?」 
 醍醐の言葉。そして長年にわたる同僚の背中に自分の息子がいるのを見て安心したように池は息を吐いた。
「なあに、これからだよ。これで貴様がどう思おうが決戦はすべて宇宙での激突にかかるわけだ。他人に運命を任せるって言う気持ちはどうだ?」 
 まるで勝者のような笑顔。ある意味醍醐もその表情の裏にある闇を知ることができた。
「今回の戦い。うちも戦死者は千人越えだ。わざわざそんなことをする必要は……」 
「ああ、必要は無いだろうな」 
 池のその一言に醍醐は逆上したようにたちあがった。そして思わず右手を振り上げたところで部下達に押さえつけられた。
「おい、醍醐。お前は勘違いしているぜ」 
 逆上する同僚を見上げながら余裕の笑みを浮かべる池。その態度にさらに醍醐の怒りに火がつく。
「なにが勘違いだ!人が死んだんだぞ!命が消えたんだぞ!」 
「ただ誇りは守られた……お前の部下も俺の部下も……違うか?」 
 その言葉はまたも醍醐の神経を逆なでした。それを察したように部下達は虜囚との面会がただ上官を怒らせるだけだったことに気づいて彼を取り押さえる。
「醍醐。お前と俺じゃあ何もかも違ったと言うことだ。俺は誇りをとり、貴様は命をとった。その結果がどうなるか……宇宙を見ながら観戦しようじゃないか」 
 部下達に押さえつけられながら醍醐は縛られているだけの池をにらみつけた。
 池は暴れる醍醐を涼しげに見つめるだけだった。


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遼州戦記 播州愚連隊 136

「動かなければいいんです」 
 その小見の言葉に一同はただ黙り込んだ。
「動かない?」 
 佐賀の不愉快そうな顔に対して小見は癖の有りそうな目つきで上官を見上げていた。
「そうです、動かなければいいんです。我々はそもそもどちらの味方なんですか?清原さん?いや、彼には切れ者の安東と言う切り札がある。その他大勢としてしか見ていませんよ。一方赤松君は?あの人だって我々を信用しているわけではない。むしろ敵視しているんじゃないですか。軌道上のコロニーで清原さんの軍の補給を担当したのは事実ですから」 
 ここまで話が進んだ時点でどの指揮官達も目を伏せていた。先延ばしに結論を延ばしていった結果、どちらの軍からも蝙蝠扱いされる状況になる。予想のケースの中でも最悪の状況だった。
「じゃあ動かなければさらに我々の状況は悪化するんじゃないのかな」 
 腕組みしていた恰幅のいい大佐の言葉に小見は大きく頷く。
「悪化しますね」 
「なに?それじゃあ意味が無いじゃないか」 
 いらだったような佐賀の言葉。それに大して立ち上がった小見はほくそえんだ。
「そもそも選んでどちらかに着くことができる状況は過ぎたんですよ。今からでも参戦可能な艦船は我々も多数持っているのは事実ですよ。でもそれをどちらかの陣営に参加させたところで戦いが終われば我々が負けた軍とつるんでいたと言う話は出てくる。そんな戦いに部下を危険に晒すのが指揮官のすることですか?」 
 小見の最後の言葉に指揮官達はようやく気づいた。
 清原が勝てば佐賀の糾弾の先鋒に立つのは安東貞盛となる。彼は根っからのパイロット。無駄に部下の命を損なえば自分達の立場がなくなるのは明白だった。一方赤松は部下思いで知られる猛将である。無駄な戦いをするとなればどういう報復人事を食らうことになるか分からない。
「なるほど、部下の命のためか……軌道上に上がった清原君を支援したのも無用な混乱を避けて部下の命を守った……と?」 
 そこまで佐賀が悟るようにつぶやくと小見は大きく頷いた。
「そうです。人命を優先し、無益な戦いを避けるために軌道上の清原さんの部下達を助けた。そして現在は対立する二派の暴走を防ぐために我々はここにいる。それが一番適した言い訳ですよ」 
 小見の言葉を聞きながら佐賀は何度と無く大きく頷いた。


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