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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 60

「ったくなんであの餓鬼だけ寮に住み着いてるんだ?」 

 豊川警察署の北側の狭い与えられた部屋の椅子で伸びをしながら要がつぶやいた。

「それを言うなら私達もじゃないの。あそこは一応男子下士官寮なんだから。私もカウラちゃんも要ちゃんも『男子』でも『下士官』でもないんだから・・・」 

「一応神前の護衛と言う任務があるんだ」 

 口を挟んだカウラをにやけたたれ目で見つめる要。それを見てカウラは恥ずかしげに端末に目を向けてキーボードをたたき始める。

「クバルカ中佐はあの格好だとどうしても部屋とか借りるのが大変だとか言ってましたよ。小学生低学年の一人暮らしなんて誰も部屋を貸してくれませんから」 

「そらそうよね。あんな小さくてキュートな女の子を見つけたら私だって付いて行っちゃうもの」 

「恥ずかしげもなく言うな」 

 アイシャの言葉に一言突っ込むと再び画面に向かうカウラ。しばらくカウラのキーボードを叩く音ばかりであたりを沈黙が支配した。

 突然要が手を叩く。全員の視線が何事かと彼女に向かった。

「おい、神前。もう一回言ってみろ!」 

「驚かせないでくださいよ!何をですか!」 

 誠の言葉に今度は立ち上がって襟首をつかんで引っ張りあげる要。驚いたアイシャが要の手にすがりつく。

「なによ、要ちゃん。ランちゃんが部屋を借りられないのがどうしたのよ」 

「そうだよ!馬鹿だなあ。アタシ等がこのちんけな部屋から出るにはそこからはじめなきゃならなかったんだ!」 

「うるさいぞ、西園寺。そんな何かつかめる糸口でもあれば苦労しないと思わないのか?」 

 カウラにまで言われると憤慨したように彼女の端末を占領してデータを入力し始めた。

「気が付かなかった・・・馬鹿だった・・・」 

「要ちゃんが馬鹿なのは昔から知ってるけど・・・」 

 そんなアイシャの一言にチョップを入れると要は画像を表示させた。

「不動産情報?賃貸物件の契約状況・・・?」 

 誠は不思議そうにどうだと言わんばかりの要の表情を見ながらつぶやいた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 59

「ともかく島田。オメーは明華にもらった仕事をちゃんとしろ。終わったらアタシが明華に話をつけてやる。それでいーか?」 

 ランに見上げられれば島田も断れなかった。ただ力なく頷く島田を見て満足げにランはさじを進めた。

「しかし・・・次の事件はこっちで起こるんですかね?たまたま気まぐれでこっちで事件を起こしてまた都内に帰っちゃったとか・・・」 

「心配性だなアイシャ。それならそれでいーんだよ。アタシ等の管轄の外の事件と言うことになる。茜の嬢ちゃんがこれまで作った隊長のコネを使って犯人を挙げれれば儲けものだな」 

 淡々とランがつぶやく。そしてその言葉が響くたびに菰田達のボルテージが上がるのが嫌でも見える。ささやき、つぶやき。その中に『幼女』と言う言葉が混じっているのでいつ爆発するかと誠は気をもんでいた。

「ああ、それと菰田!」 

「はい!」 

 ランに呼びつけられてシンパに守られながら立ち上がる菰田。だがその回りの連中は明らかにそんな命令口調のランの態度に萌えていた。

「飯食ったら出勤だろ?無駄話してるんじゃねーよ!」 

「了解しました!菰田曹長、これより駐屯所へ向かいます!」 

 さすがにランの怒りが爆発するまでに去ろうとするが、Mっ気のある隊員が残ろうとするのを何とかなだめすかして食堂を出て行く。

「アイツ等何しにここに配属になったのかわかってんのかねー」 

 そう言うと最後の一口を口に運ぶラン。さすがの誠もその姿には萌えを感じざるを得なかった。

「誠ちゃん。私達のフィギュアよりもランちゃんの方が売れそうよね」 

「クラウゼ。つまらねーこと言ってるとはたくぞ」 

 そう言いながらランはテーブルの上の粥のどんぶりを持って立ち上がった。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 58

「そんなことは分かっていますよ!」 

「おい、その面は『俺は厚生局事件の時も付き合ったんですよ!今回だって!』とでも言いたいのか?あ?」 

 ニヤニヤと笑いながら要のたれ目が島田を捉える。おずおずと頷く島田。そしてそこにランが当然のように現れたのでおっかなびっくり島田はランに敬礼した。

「おっと、ずいぶんシリアスな展開だったみてーだな。菰田、今日は粥か?」 

 どう見ても小学生にしか見えないランを見ると喜んで菰田のシンパの一人が厨房に駆け込んでいく。その様に呆れたと言うようにため息をついた後、平然とランは誠の向かいの椅子に腰掛けた。

「島田。アタシの判断が不服みてーだな」 

「不服と言うか・・・一応自分にはアサルト・モジュール整備班長としての責任がありますから・・・」 

「おー。それが分ってりゃいーんだがね」 

 そう言うとランは七草粥を受け取り静かに食べ始めた。その様子に菰田の取り巻きの一部にある秘密結社『エターナル幼女同盟』の会員達が萌える瞳でその様子を眺めていた。

「島田よー。アタシ等の仕事の目的はなんだ?」 

「市民の安全を守ることです」 

 即答する島田に満足げな笑みを浮かべてランが頷く。彼女はそのまましばらくスプーンを握りながら考えるようなポーズをとった。

「おい、そこ。写真を撮ったら金よこせよな」 

 密かにランの萌えるポーズを写真に撮ろうとした菰田の隣の技術下士官に鋭い目つきを送るラン。

「すいません!すぐ消します!」 

「消すくらいなら最初から撮るんじゃねーよ」 

 苦笑いを浮かべながらそう言うと再びランは静かに食事を再開した。その様子をただ待たされ続けると言うように経ったままランを見下ろしていた。

「一番必要な場所に一番適した人物を配置する。アタシは隊長からその権限を委託されて副隊長をやってるんだ。テメーの力が必要なら死にそうな状態でも引っ張り出すからな」 

「まあ島田は死なないけどな」 

 ランの言葉に茶々を入れた要をランは殺気がこもっているかのような視線でにらみつけた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 57

「本当にこうしていていいんですか?」 

 七草粥を食べ終えた誠の言葉に同調するように要も頷いている。勤務地が変わっても保安隊の寮の生活は変わらなかった。いつものように朝食を食べ、早出の技術部の隊員達がどたばたと階段を駆け下りるのをのんびり食堂で聞きながらお茶を飲む。その日常は以前のそれと変わりは無かった。

「東都警察も多少は経験を積んでるんだから。それに茜お嬢様からの資料じゃ分からないデータも手に入ったわよ」 

 アイシャはそう言うとおもむろに目の前のどんぶりを横にどけて腕の携帯端末の映像を拡大投影した。

「得意とする法術の種類か・・・」 

「茜もまだまだだな。関与の疑いのある事例を見つければそれなりに資料としてまとまるじゃねえか」 

 カウラと要はアイシャの作った東都警察の違法法術能力発動事件に関わるデータを眺めて感心した。

「パイロキネシスが半数。空間干渉や空間制御が続いて・・・当たり前だけど体再生機能発動は無し」 

「やっぱり放火魔みたいな奴なんだろうな。火事はなんとなくすきっとするからな!」 

「要ちゃん。あなたが犯人なんじゃないの?」 

「ちげえよ!」 

 要が軽くアイシャの頭をはたく。誠が回りを見れば二人の人物が誠達の行動を監視していることに気がついた。

 一人はカウラのファンクラブ『ヒンヌー教』の教祖を名乗る菰田邦弘主計曹長。回りにアイシャから『キモイ』と呼ばれている隊員達を引き連れながら真剣に画面を見るカウラに萌えていた。そしてもう一人。

「今回は俺の出番は無いんですかね・・・」 

 明らかに不満そうに声をかけてきたのは技術部特機整備班長の島田正人准尉だった。

「なにか?死なないって言うだけで捜査に参加できると思うなよ」 

 要の一言に明らかにカチンと来た様に頬を膨らませる島田。彼は純血に近い遼州人であり、意識で体細胞の再生を行なうことができる再生系の法術適正の持ち主だった。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 56

「ここです」 

「ここです?」 

 明らかに嫌な顔をする要。だが誠も同じ気持ちだった。それを無視するようにドアを開ける杉田。

「用具室か。結構片付いているんだな。うちの部隊とは・・・」 

「でも人のいるとことじゃないんじゃないの?」 

 カウラは何とか自分を納得させるようにつぶやくがそれをアイシャがぶち壊す。確かに何もなかった。端のほうに書類のダンボールが山積みにされ、とってつけたようにいつのころの時代のものかと聞きたくなる端末が置かれた机と椅子が四つ並んでいる。

「実は・・・」 

 杉田氏が口を開くまでもなく誠達はこの惨めな有様が東都警察上層部の意図だと言うことを理解していた。

 同盟厚生局事件。一応外面的にはテロリストによる法術データ強盗事件と言う発表で落ち着いているが、三ヶ月前のその事件は厚生局による違法法術研究の事故が原因であり、その為に東都警察と保安隊が対応に当たったことは司法関係者なら誰もが知っていることだった。

 その時、虎の子の法術対応即応部隊を投入しながら何一つ点数を稼げなかった東都警察が、暴走する実験体を対峙して見せた誠達に明らかに嫉妬していると言う噂は散々聞いていた。

 そして結果が目の前の哀れな現状だった。仕方がないというように顔を怒りで引きつらせながら椅子に座るカウラ。要はもう怒りを通り越して呆れてそのまま窓から外を眺めている。

「空調はちゃんと効くのね」 

 そう言いながらそのまま奥の空調機を確認するアイシャ。誠はただ黙って杉田と言う警視の顔を眺めていた。

「ご不満でも?」 

 一応は東都警察の幹部職員である。にらみを利かせるように言われればただ黙って頷くしかない誠。

「一応・・・捜査関係の資料は閲覧できるのですか?」 

「当然です。ただし・・・プロテクトがかかっている部分については・・・」 

「安心しな。ハッカー吉田は本隊でお寝んねだよ」 

 半分やけになったように要は叫ぶとそのまま近くの席に腰を下ろした。

「それではよろしくお願いします」 

 そう言うと杉田は見放すようにドアを閉めて消えていった。

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