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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 120

監視されている。水島はそう思うことが多くなった。

豊川市の中央図書館。ようやく住民登録も済ませて利用のパスを手に入れた彼だが明らかに視線のようなものを感じていた。

『誰も知らないはず・・・』 

休憩室の周りの無神経な高校生達の場違いな声に苦虫を噛み潰しながらそのまま奥の自習室へと向かう。

社会人失格の烙印を押された自分が彼等を注意することなどできない。そう思いつつ周りに法術師を探している自分がいた。

『あまり力は使うべきじゃないな』

先日の力を乗っ取った相手の暴走と死を知って少しばかり臆病になっている自分を思い出して苦笑いが自然と湧き出てきた。

「おじさん」 

突然背中から声をかけられる。そこには見慣れた少年の姿とはじめてみる女性の姿があった。

「君・・・」 

自分の言葉が震えているのが分かる。二人ともアジア系。それだけはなんとなく分かった。女性の黒い長い髪とそれに似合う黒いオーバーコート。暖房の効いた室内だと言うのに汗一つかかず黙ったまま自分を見つめている。

「紹介するよ。僕の姉役のキャシーだよ」 

「初めまして・・・」 

女性が思ったよりも若いことが声を聞いて分かった。仕方なく水島も軽く頭を下げた。

「キャシーも僕等と同類だから」 

気軽にそういう少年だが、その顔を見た瞬間に頭の中に違和感を感じて水島はよろめいた。

「……彼女は……」 

「おじさんと同類だよ」 

少年の笑みが残酷に広がる。水島はきつめの視線が特徴のキャシーと呼ばれた少女に目をやった。

「悪戯をされると困りますから。私が忠告をしに来ました」 

キャシーはまるで氷のように一瞬だけ笑みを浮かべると水島が取り落としたノートと筆入れを取り上げた。


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テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 119

「僕の力の話はここですることじゃ・・・」 

誠の言葉に不思議そうな顔をする要がいた。めんどくさそうに一度視線を外した後ため息をつく。

「ここまでの話の流れと事件の容疑者の能力で分からないか」 

カウラのその言葉。ようやく誠は結論に行き着いた。

「僕を外すと言うことですか」 

ある程度は誠にも分かる話だった。相手は法術師の能力を奪って暴走させることで世間に何かを伝えたいと思っている愉快犯であることが想像できる。ならばその法術師の再発見のきっかけを作った誠の能力を暴走させることが犯人の最大の喜びにつながるだろうことも想像できた。

「でも・・・外したら隊長がこの面子で東都警察に私達を出向させた意味が分からなくなるじゃない」 

「そうだけどな・・・」 

アイシャのフォローにもただ要の表情は曇るだけだった。誠の能力は干渉空間展開と領域把握能力の二種が確認されていた。干渉空間を展開し、その中の存在を有る程度意のままに操れる。それは先日の死者を出した事件を見ればかなり危険な能力だった。そして領域把握能力をハッキングして他の隊員の意思を読み取られてしまえば逮捕どころの話ではなくなる。

「法術師を使いこなせ・・・相手が誰でも・・・そう言いてえのは分かるんだけどさ」 

再び要がこめかみの辺りの長い髪を掻きあげる。沈黙がその場を支配した。

「でも私も法術師ですけど?」 

ラーナは相変わらずモニターから目を離さずにそうつぶやいた。思い出したような要の表情。そしてアイシャがうれしそうに頷く。

「要ちゃん。ラーナちゃんも捜査から外すつもり?」 

「こいつは慣れてるから良いんだよ!」 

「慣れてるって・・・この種の法術師が発見されたケースはほとんどありませんけど」 

そんなラーナの言葉に要はさすがに頭に来たようで手を上げかけたものの静かに右の握りこぶしを静かに下ろした。

「ああ、ようやく我慢を覚えたか」 

「うるせえよ」 

カウラにチャカされて要は苦笑いを浮かべていた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 118

「アストラルパターンデータ。便利ですよねえ」 

突然のアイシャの言葉に視線が彼女に集中する。

「だってそうじゃないの。確かに法術の研究は誠ちゃんが全世界的に存在を示しちゃった『近藤事件』の前から進んでたけど・・・それにしてもなんだかどんどん対応製品が出てきて・・・恐くならない?」 

「まあな。その筋の専門家はうちじゃあヨハン・シュペルター中尉殿だが・・・あのデブ。絶対に本当のことは言わないからな」 

アイシャに言った要の言葉の中のヨハンのことを思い出して誠が噴出す。外惑星の国家、ゲルパルト共和国出身の若干成人病が気になる体型の大男を思い出すと自然と誠は笑いが浮かんできてしまった。だがヨハンが法術に関する専門家だと知ったのは『近藤事件』での胡州海軍の演習空域で誠が叛乱軍の近藤中佐貴下の部隊と衝突する直前の話だったことを思い出した。

「やっぱりどこまで研究が進んでるのか・・・気になるな」 

「あら、カウラちゃんもそういうこと気になるわけ?意外と『研究が進んでるんだから良いじゃないか』とか言い出しそうなのに」 

「そうでもないさ。私だって想像の範疇を超えた力が存在してその力がどのように使用されるか分からないと言うのは不気味に感じるものさ」 

「ふーん」 

カウラの言葉に納得してみせたアイシャの視線は自然と誠を向いた。

「僕だってこんな力は知ったのは例の事件の直前ですよ」 

「私は知ってましたよ」 

モニターに目を向けたまま手を上げるラーナ。その突然の行動に要が立ち上がる。

「どこでこいつが法術使いだって・・・」 

「一応トップシークレットですから」 

「けっ!つまらねえな」 

ラーナの事務的な反応に舌打ちをした要を見て笑みを浮かべるアイシャだが、その目は笑っていなかった。

「ラーナちゃんが知っていたってことは・・・その筋の人の間では誠ちゃんて有名人だったの?」 

「さあ・・・」 

またとぼけるラーナ。相手を読めるアイシャは何を聞いても無駄だと思ってそのまま黙り込んで席に体を押し付けた。


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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 117

「どうだい」 

要はそう言うとモニターを見つめているラーナに目をやっていた。そこには警邏隊のアストラルデータの値がグラフで表示されている。

「そう簡単に見つかれば楽できるんですけどね」 

そう言うとラーナは椅子の背もたれに体を預ける。軋む椅子。その音に驚いたようにラーナは背筋を伸ばした。

「ある程度絞り込めれば後は私達でもどうにかなるだろ」 

カウラの言葉にアイシャも頷く。その浮かない様子に誠はアイシャのモニターを見たがそこではネットオークションで同人漫画を落とそうとしているらしい様子が見て取れた。

「他人任せってのは・・・どうもねえ」 

そんな要の言葉に全員が同意するような雰囲気をかもし出している。誰もが部屋に閉じ込められてこうしてデータだけを与えられる情況に飽きてきていた。

「後定時まで30分か・・・久々にあまさき屋を冷やかすか?」 

「それはいいんだけど・・・よかったのかしら。支給されたショットガンを全部隊に送っちゃって」 

アイシャの言葉にカウラとラーナの視線が要に向かう。要はめんどくさそうに椅子に腰掛けると端末を起動していた。

「犯人に逃げられたら終りだろ?良いんだよ。名人は道具も選ぶもんさ」 

「誠ちゃんも名人に入れる訳?」 

冷やかすようなアイシャの声に誠は要に目を向ける。要は一瞥した後大きくため息をついた。

「そんな・・・僕だって多少は上手くなったんですよ」 

「多少はな・・・だかそれじゃあ本番にはどうなるかわからねえ」 

「西園寺。突入の時は神前と組んだらどうだ?」 

カウラの冗談に要はいかにもめんどくさそうな表情を浮かべる。その顔を見て誠はいつもどおり落ち込んだ。

「それもこれも・・・ちゃんと犯人が見つかってからの話ですからね」 

相変わらずラーナは画面に張り付いたまま手にしたせんべいを口に放り込んでいた。


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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 116

「いやあ、まったく世話になっているね」 

それは見た目がどう見ても7,8歳の小柄な少女が言う言葉では無かった。ただし彼女の着ている東和陸軍と同型の制服の襟章に中佐の階級章と胸にいくつもの特技章をつけていることを知れば軍の人間なら彼女がただの少女ではないことはすぐに分かるはずだった。

「クバルカ中佐。こちらこそいい勉強をさせていただいておりますわ。感謝しなければならないのはこちらの方かも知れませんわね」 

こちらは東都警察と同じ制服。襟の階級章は警視正。東都の遼州同盟司法局ビルの最上階の食堂のラウンジで出会っている二人でなければ誰かが声をかけるだろうというような美貌の警視正はゆっくりとコーヒーを啜った。

警視正、嵯峨茜は軽く外に目をやった。

「やっぱり見つからねーか。うまく隠れているもんだな」 

少女クバルカ・ランは同じくビルの続く東和共和国の首都の街を眺めた。

「辻斬りなんていう古風な犯罪。できる人物が限られていると言うのに見つからない犯人。上層部は無能と思っているかも知れませんわね」 

要は長い髪を静かに掻きあげると再びおさげ髪の少女に目を向けた。

「自分を責めるんじゃねーぞ。あの化け物・・・桐野孫四郎か。簡単に捕まるなら司法局の出るまでもなく所轄の連中が誇らしげに連れてきているはずだろ。しばらくは我慢するしかねーよ。それにこの一月被害者が出てねーんだ。これも茜の手柄と言っていーんじゃねーのか?」 

乱暴だが余裕のある言葉遣い。それが見た目は子供でもこの人物がいくつもの経験をつんだ古強者であることを証明しているように見える。

その少女ランは静かにコーヒーのカップを置くと平らな胸のポケットから端末を取り出して画像を表示した。

「オメーの指示であいつ等がようやく捜査に区切りをつけたらしいや」 

表示された立体映像には十五人の容疑者の映像が映し出される。満足げに頷く少女ランと茜。

「実働部隊隊長・・・いえ、保安隊副長としては感無量なんじゃなくて?」 

「まあな。あいつ等も多少は使えるようになってきたわけだ」 

思わずランの頬に笑みが浮かぶ。それを見て茜もうれしそうな表情を作る。

「さて、これからどう事件を纏めるか・・・期待してるぜ」 

ランはそう言うと立ち上がる。

「あら、クバルカ中佐」 

「いやあ、実はこれから教導隊の連中と打ち合わせだよ。ったく面倒な話さ、人を育てるってのはよ」 

らしくないと言うように肩をすぼめたランはそのまま周囲の関心を引きながら手にしたコートを纏めて持ってそのまま食堂から出て行った。


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