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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 172

静かに北川に追尾する要。そして彼女に付き従う誠達。その行進は三階の開けたフロアーまで続いた。

「いい加減・・・出てきても良いんじゃないですか?」 

北川の言葉に自分達の存在がばれたと思った要がショットガンの一撃を加えた。銀色に光る板のような干渉空間に殺傷能力の低い弾丸が中に入っている粉を振りまきながら飲み込まれた。

「消えた?」 

要の言葉の通り北川の姿は干渉空間が消滅した時には消えていた。

「上です!西園寺さん!」 

誠の叫びと同時に銃声が響く。要は右肩を抑えて銃を取り落とした。

「西園寺さん!」 

「来るな!他にもいるぞ」 

要の叫び。次の瞬間には彼女の右腕が切り落とされて地面に転がった。

「どこ?どこ?」 

アイシャが誠の背後で叫ぶ。誠は繰り返し発動する法術の気配を感じながら手にした銃を振り回していた。

「神前!銃はバットじゃない」 

「分かってますけど!」 

「がたがた抜かす前に銃を撃て!」 

要は左手で無理に拳銃を取り出すと廊下を走って逃げていく北川の背中に三発の銃弾を発射した。

すべての弾丸が銀色の空間に消える。

「人斬りは!」 

要が叫ぶ。アイシャが銃を構えていたがその銃が広がった銀色の空間から現れた刀に両断された。

「なによ!」 

今度はアイシャが拳銃を握り締めて壁に張り付く。運良く要の向こうから銃撃してくる北川の弾丸がかつてアイシャのいた場所に着弾して煙を上げていた。

「西園寺!下がれ」 

カウラの言葉で我を取り戻した要は切り落とされた自分の右腕をちらりと見た後そのままアイシャのいる壁際に後退してきた。

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テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 171

「分かった!なんでもする!」 

いつの間にか自分が叫んでいることに気づいて口を押さえる水島。彼の頭の中にも近辺を徘徊しているあの斬殺魔の存在は確認できていたので周りを見渡すが特に変わったところは無かった。

『それじゃあ・・・すぐ迎えに行くと言いたいんだけど・・・』 

「なんだ?何かあるのか?」 

『おじさんを襲った連中以外にも出てきたから・・・タイミングを計らないとね』 

クリタの言葉に水島は絶望した。

「あの化け物以外にも出てきたのか・・・どこが?」 

『決まっているじゃないか、警察だよ。4名の警察官が現在その建物に侵入している。下手に僕等が動けば射殺されても文句は言えないしね』 

「射殺・・・?」 

絶句する水島。警察が動いているだけでも後ろ暗い彼には厳しい言葉だと言うのにさらに射殺と言われて水島の体の緊張はさらに激しくなった。

『脅しなどはするものじゃないわよ。東都警察はそう簡単に犯人の射殺を行なう組織ではありませんわ。警察官に保護されてそれを私達が合法的に引き取ると言うやり方も・・・』 

「止めてくれ!警察なんか・・・警察なんか・・・」 

立ち上がるとそのまま薄暗い部屋を飛び出した。水島はその行動の意味を自分でもよく分からなかった。動けば殺される。そんな思いで扉の中に隠れていた自分。だが動き出したい衝動に駆られるとその本能のままに立ち上がり走り出していた。

『おいおい、おじさん大丈夫なのかな?』 

楽しんでいるようなクリタ少年の声が頭の中で響く。だが水島はそのまま腐った鉄筋がむき出しの廊下の壁に沿って走り出す以外のことはできなかった。

「死んでたまるか・・・死んでたまるか・・・」 

そうつぶやきながら階段を駆け下りたところで背後に気配を感じて水島は振り返った。


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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 170

「何でこんなことに・・・なんでこんなことに・・・」 

震えていた。水島はただ狭い書庫にしては大きすぎる棚の中で震えていた。

『おじさん・・・あなたに力があるからですよ。力がなければ誰もあなたなんかには目もくれない。でもあなたにはそれがあった。そしてそれを使ってしまった。一度開いたパンドラの箱は二度と戻らないんですよ』 

頭の中であざ笑うようにクリタ少年の声が響いた。だが水島には今は震えること以外はできるはずも無かった。

『ジョージは悪戯が過ぎましたね。合衆国はあなたにはいくつか保障したいことがあります』 

クリタ少年とともにいた無口な少女らしい女性の声が脳内に響く。水島はただ静かに頷くしかなかった。

『あなたの身の安全。これは我々も守らなければならない義務が生まれる可能性があります・・・』 

「可能性?この前部屋で話した話だけでいいんじゃないのか?」 

叫びたくなるのを我慢しながら水島は小声でつぶやく。無表情なまま水島の言葉の意味を反芻しているだろう少女の顔を思い出すと水島の怒りは爆発しそうになった。

『あなたが我々に今後無条件で協力すると言う意思を示さない限りは我々にあなたの安全を守る義務は発生しません・・・忘れましたか?あなたはすでに一人の人物の命を奪っていることを』 

少女の声。抑揚を殺している脳内に響く声に水島は自分を罰しようとしているような少女の表情を思い浮かべて苦笑した。

「確かに・・・それは事実だけど・・・不可抗力と言うか・・・」 

『不可抗力?おじさんはストレス解消に放火や器物破損を繰り返してきた犯罪者なんだよ。それをすべて帳消しにしてあげるんだから・・・それなりに待遇が悪くなるのも我慢しなきゃ』 

クリタ少年の言葉はその通りだった。それだけに水島は苦悩の表情を浮かべたまま戸棚の入り口にしがみつく腕に力を込めるしかなかった。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 169

要は静かに階段を登っていく。誠とカウラはその様子を見ながら静かに彼女が登りきるのを待っていた。

そのまま顔を出した要。そしてそのままついて来いというハンドサインを出す。誠、カウラはそのまま銃を手にゆっくりと階段を登った。

「アイツ等も水島とかいう奴を見失ってるみたいだな」 

そう言うと要は静かに銃を小脇に抱えると腰の拳銃に手を伸ばした。

「やるのか?」 

「丸腰とは思えねえからな。とりあえず確認しただけだ。ちゃんと入っているな……弾」 

「要ちゃんらしくも無いわね。緊張してる?」 

後から追いついたアイシャの言葉に力なく笑みを浮かべる要。状況としてはいつもの強気が要に無いのは誠にも理解できた。

「恐らく『ギルド』の連中以外にも水島をここに飛ばした法術師を擁する勢力の介入が予想されるわけだ」 

「確かにそうなるだろうね・・・ネオナチ連中だと数で来るかも知れねえからな」 

要の表情が再び曇る。そして誠と目があった要は自分の弱気を悟られまいとそのまま北川が消えていった方向に眼を凝らす。

「実弾は・・・カウラちゃん持ってる?」 

「スラグ、散弾ともに無しだ。場合によってはこちらでやるしかないな」 

今度はカウラが腰の拳銃を叩く。誠もさっと腰に手をやる。

「誠ちゃんは期待していないから良いわよ」 

「すみません・・・」 

謝る誠に笑顔で返すアイシャ。それを見て舌打ちした要はそのまま立ち上がって北川の歩いていった方に歩き始めた。

「無駄口はいい、進むぞ」 

カウラの声に誠の顔から笑顔が消えた。次第に闇夜に沈む廃病院。要の目に内蔵された暗視機能と誠の法術師としてのサーチ能力に頼る前進。

北川の足音が次第に遠くなる。誠は要についていきながらただどこからか飛び出てくるだろう第三勢力を想像しながらショットガンを構えながら進んでいった。


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遼州戦記 播州愚連隊 25

 じっと立っている楓に明石は仕事を始めるかどうかで悩んでいた。
「そう言えば時々ワレの親父さんが来とるようやけど……」 
「そうなんでありますか?」 
 きびきびと話す楓に明石はしばらく彼女と付き合うことを選んで端末のモニターを休止させた。
「ああ、知らんのやったらええわ。それよりなんで海軍に?」 
「はい!お姉さま……いえ、西園寺要准尉の勧めで……僕なら陸軍では無く海軍がいいと言うことでしたので」 
 その言葉に明石は皮肉の笑みを浮かべざるを得なかった。烏丸派の牙城の陸軍で苦労する対立勢力の一人娘。その苦労は容易に想像できた。楓の口ぶりから要とは相当仲が良いのだろう。苦労をさせまいと目の前の少女に海軍行きを進めるサイボーグの女性の姿がまぶたの裏に浮かぶ。
「ああ、親戚同士仲のええことはええことや。じゃあ何で特機部隊を選んだ」 
 その言葉にしばらく考えた後、楓は口を開く。
「父上の影響を受けました!」 
 よどみも迷いも無かった。先の大戦での遼南戦線。そして遼南内戦。そして現在続いている同盟による軍事活動。どの場所にも黒いアサルト・モジュールを駆る嵯峨の姿があった。エース・オブ・エース。そのような言葉をかけたのなら自虐的な笑顔を浮かべてタバコの煙を吹きかけてくるだろう人物の顔が脳裏をよぎる。
「ちょい待ってくれや」 
 そう言うと明石は再び端末の画像を見ると楓の士官学校での成績を見てみた。
「ほう、技術系の成績が良いな。それと戦闘系。特に射撃と格闘戦が得意……うちの先輩達にも見せたい成績だな」 
「恐縮であります!」 
 成績を見た後に楓を見てみるとその長い前髪と結わえられた髪は戦国時代のじゃじゃ馬姫のようにも見えた。
「それじゃあ、うちの悪たれ共と顔合わせせなあかんなあ……そうや。うちの隊の本文とする言葉、知っとるか?」 
 そんな明石の言葉にしばらく考える楓。
「それはなんでありますか?」 
 素直に答える少女の姿につい笑みが浮かぶ明石。
「『至誠』って言葉だ。誠を尽くすのが武人の本懐。後に指揮官となるんやったらちゃんと覚えとき」 
「はい分かりました!」 
 その言葉に合わせて明石も立ち上がる。
『ワシも年を食った……って20代が言う台詞やないなあ』 
 明石はそう言うと直立不動の楓をつれて隊長室を出た。

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遼州戦記 播州愚連隊 24

 西園寺家の会合から二ヶ月。少佐に昇進し中隊長に任命された明石には忙しい日々が待っていた。
 第三艦隊のエース。人型兵器『アサルト・モジュール』胡州名称『特機』の新任部隊長。彼の部下達はみな若く、海軍兵学校の中途課程の学生ばかりなのが気になったが、逆にそれが裏の世界で生きてきた明石には新鮮で楽しい日々に感じられた。だが彼等を見るうちに次第に不安が芽生えてくるのもまた事実だった。
 胡州の格差社会は極めて残酷なものだ。生まれたとたんにその赤ん坊の将来を決め付けることが出来るそんな世の中に明石は違和感を感じていた。人口の70パーセントが貧困寸前の状態のこの国で小学校、中学校、高校と進めるのはほんの一握りの人間に過ぎない。多少勉強が出来る生徒にはそのしがらみから抜けるには二つの道しかなかった。
 一つは彼の部下達のように軍に入ること。15歳で兵学校に入り、成績優秀ならばそのまま推薦で下士官待遇での部隊配属。そしてそこでも上官の信頼を得ることが出来れば士官学校への道も開ける。
 そしてもう一つの道が寺に入ること。明石も子供のころからそう言う野心家の小坊主達に囲まれながら日々を過ごしていた。彼等も寺の経営する私立中学、高校を経て推薦で大学に進む道があり、多くは寺とは関係ない学科に進学して卒業後は大企業に勤めると言う道もあった。そんな小坊主達とともに育った明石にとって部下の平民や貧民上がりの下士官達のやる気と根性は賞賛するに値することだった。
 その日も部下の出した戦術関連のレポートを見ながら隊の隊長室でのんびりとそれに点数をつけていた明石の部屋をノックするものがいた。
「ああ、開いてるで」 
 答えた明石。そこに静かに入ってきたのは兵学校の一回生と思しき少女だった。
『なんや?貴族上がりのお嬢さんか何かか?』 
 そう思っている明石に少女は敬礼をした。
「今度この中隊に配属になりました正親町三条楓(おおぎまちさんじょうかえで)と申します!」 
「おおぎまち……?」 
「正親町三条です!」 
 しばらく明石はその無駄に長い名前を頭の中で繰り返していた。
「長いな……」 
「はい!僕もそう思います」 
 少女は自分を僕と呼んだ。その言葉にしばらく明石の思考は止まる。
「正親町侯爵とは親戚か何かか?」 
「いえ、父は嵯峨惟基陸軍大佐であります!」 
 その言葉で明石はようやくこれまでの思考が無意味になるほど状況が理解できて来た。
 正親町三条家は嵯峨家の一門である。嵯峨惟基には双子の娘がおり、一人は現在東和に在住しているが、本来なら家督は彼女が継ぐのが当然とされていた。部屋住みである妹の楓が分家したところで不思議な話ではない。そして自分も部屋住みで停止されてはいるものの貴族年金を受けるときは子爵待遇の身分を証明する必要があった。なんとなく似た境遇に自然と明石の頬は緩んだ。
「長い名前やなあ……何とかならへんのか?」 
 明石の言葉に理解できないと言う顔をする楓。
「まあ、ええわ。楓曹長でええか?」 
「ハイ!」 
 明石の言葉に楓は初々しい敬礼をして見せた。

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遼州戦記 播州愚連隊 23

「なあに、西園寺派が倒れればそれに見合う領邦を俺に差し出すっていうつもりでしょ?清原さんは」 
 淡々と答える嵯峨。それを別所は冷たい目で見つめる。
「こんな紙切れが行きかっているとして今回の状況をどう運ぶおつもりですか」 
 怒りをこめた別所の言葉に白々しくおびえたふりをする嵯峨。
「怖い顔したってどうにもならないんだけどな。ただ烏丸さんや保科さんに会って分かったことは俺にゃあもう手を上げるしかねえってことだな」 
 そう言うと嵯峨は杯を干した。
「おい、お前がそないなこと言ったら……嵯峨家が終わるんちゃうか?」 
 赤松の言葉に悲しげな表情を作る嵯峨。それが本心からのものかは明石にも分からなかった。
「だってしょうがないだろ?この国の制度を根本から変えるにはどちらかが倒れるしか無いんだ。強力な指導体制により制度を根幹から変革することで国家の発展を目指す。これは俺もやったことだが人に勧めるつもりはないが、それ以外に今の胡州に選択の余地が無いことは理解しているつもりだよ……だがねえ……」 
 嵯峨はそう言うとタバコを取り出した。灰皿がこの屋敷に無いことを知っている別所が何か代わりのものを探そうとするが、嵯峨は手で押し止める。
「ああ、携帯灰皿を持ってるんだ。俺は昔から肩身の狭い愛煙家だからな」 
 そう言ってポケットから金属の小さな円盤を取り出す嵯峨。
「ああ、そうだ。貞坊には会ったのか?」 
 赤松の言葉にしばらく別所と明石は呆然とした。
「一般受けしない呼び方は止めとけよ。安東貞盛大佐殿だろ?会ったよ」 
 嵯峨の言葉に沈黙に包まれる。明石も黙り込んだ。赤松の妻が安東大佐の姉であり、安東の妻が赤松の妹。その複雑な事情を考えれば言葉を繰り出すのが難しかった。
「アイツは本当に融通が効かねえ奴だな。まあ昔からだけどな」 
 そう言ってしばらく考え事をしていた嵯峨。そこにふすまの外に人の気配を感じた。
「康子か?」 
 西園寺の声にふすまが開く。そこには下女が一人目の前にすき焼き鍋を置いてかしこまっていた。
「おう!待ってたんだ」 
 嵯峨の言葉に合わせるように変わった円盤を持った康子が現れる。
「あの、それ……」 
「電熱器。知らないでしょ」 
 そう言う康子は非常にうれしそうに両手に持った電熱器を別所の前と夫の基義の前に置く。二人の女中は手にした鍋を康子の置いた電熱器に置き、その隣に肉の乗った皿を置いた。
「へえ、これが西園寺流のすき焼きですか」 
 別所はじっくりと鍋の中を見つめる。いまだ温まっていない割り下に浮かぶ春菊に目がひきつけられる。
「ちょっと時間がかかるのが困るのよね」 
 そう言いながら続けて入って来た女中から卵などを受け取る康子。
「要!あなたも来なさい!」 
 ふすまの外に座っていた西園寺要が遠慮がちに部屋に入ってくる。明石はその雰囲気に安心できるような感じを抱きながら見守っていた。

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遼州戦記 播州愚連隊 22

 だが現在その胡州軍の中央と縁が薄いと言うことが嵯峨の優位に政治的状況が展開する可能性を秘めている。そう明石は見ていた。
 元々嵯峨家の領邦には2億の民を抱えるコロニー郡がある。全人口が八億に満たない胡州で図抜けた領邦とその人脈を使える嵯峨は未だ西園寺派や烏丸派とは一線を画して動くことが出来る状況にあった。彼の手足となる被官の陸軍の重鎮、醍醐文隆中将は西園寺家に近い立場とはいえ、三老の醍醐文隆の兄佐賀高家大将や池幸重(いけゆきしげ)准将などは烏丸派が勢力を持つ陸軍に会って中立を守っていた。
「二人とも俺がここにいるのは驚かなかったわけだ。だが、俺がなぜここにいるかは分かるか?」 
 いたずらをする子供のような瞳。明石は自分より一回り上の年であるはずの陸軍大佐の顔を見つめていた。
「それは先ほどおっしゃった……」 
「それじゃあ子供の答えだ。胡州の動静をたどるなら部下や被官にやらせる方が良い。そうしないともし俺がそれだけの為にここにいるとばれたら奴等は自分達が信用されていないってことでへそを曲げるかも知れねえからな」 
 再び嵯峨は徳利を傾けた。
「じゃあ、お二人と協力して……」 
 そう言った別所に赤松が諦めたような視線を向ける。それも承知の上と言うようににやりと笑った別所が嵯峨の顔色を見ていた。
「保科公の健康やないですか?嵯峨大佐がにぎってはるのは」 
 明石は試しにそう言ってみた。西園寺と嵯峨の兄弟は顔色を変えなかったが、上司に当たる赤松が二人の顔色を見たところで明石は自分の問いが正解だったことに気づいた。
「良い目をしているよ。最近の保科さんの動き。明らかに目に付いてね。いろいろと調べたんだが、やはり相当悪いらしい。ただ血管がプッツンしてリハビリ中の大河内公爵とは違って消化器系の癌だがせいぜい延命が効く程度の対処しかできない。それも本人が断ったそうだがね」 
 今の胡州を支えている老人の死。一瞬で場が凍った。
「そして、兄貴に釘を刺しに来たわけだ」 
 しばらくの沈黙の後、嵯峨は兄の西園寺を見つめる。
「釘?何のことだ?」 
 そう言った西園寺に嵯峨は一通の手書きの書状をポケットから出して兄に渡す。
「もう少しこういうものは丁寧に扱えよ」 
 西園寺はすぐにそれを読みはじめるが、次第に目を嵯峨に向ける回数が増え始めた。
「まあ、池もまじめな男だからな。露骨に高家の領邦の半分を譲ると言われても俺にお伺いを立ててきやがる。困ったもんでしょ?」 
 嵯峨の言葉に読みかけの書状を放り投げた西園寺。それを拾った赤松は読まずにそれを畳んだ。
「じゃあ清原からの書類もあるやろ?」 
 赤松の言葉に今度は携帯端末を開いて文書を画面に表示する。そしてそれを西園寺と赤松。二人に見せる嵯峨。
「よく考えたもんだな。こちらでは嵯峨の直轄地まで切り取って池に差し出すと書いてあるぞ。新三、そんな予定はあるのか?」 
 半分笑うような調子で西園寺は画面から目を離して嵯峨の顔を覗き見た。

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遼州戦記 播州愚連隊 21

「おう、忠さんのところの子飼いか?噂は聞いているって……確か、別所君とは会うのはこれで二回目か?」 
 嵯峨が盤面を見つめる西園寺を置いて明石達を振り向く。
「ご無沙汰しています。しかし……」 
「気にするなって!まあ気になるのも当然だな。ベルルカンに治安出動している部隊の指揮を取っているはずの俺がここにいるのがおかしいってんだろ?」 
 ニヤニヤと笑いながら当惑した顔をしているだろう自分達を見つめる青年将校に明石は振り回されているような感覚にとらわれていた。
「皇帝陛下が自ら軍を率いて同盟加盟を表明したカイリシアに……」 
「ああ、俺は大軍を指揮するのは苦手でね。どうせ部下任せになるからな。こうして胡州の動静を探っていた方がよっぽど建設的だろ?」 
 そう言うと隣においてあった徳利から酒をついで煽る。
「しかし、映像でもはっきりと見たんですけど」 
「ああ、あれは弟。親父が兄弟を100人以上こさえやがったからな。おかげであのくらいの望遠での映像なら区別がつかないのもいるわけだ」 
 嵯峨は笑いながら明石達を面白そうに眺めている。
「やっぱり駄目だな」 
 西園寺は相変わらず碁盤を見つめていたが諦めたようにそう言って嵯峨を見あげた。
「だから言ったじゃないですか。もうおしまいだって」 
 盤面を見つめていた赤松はようやく納得が言ったように隣に座りなおす。
「しかし、二人とも驚いていないとは……忠さんも良い部下がいるみたいだ」 
「十分驚いとるように見えるんやけど。それと新三(しんざ)のところの切れ者に比べたらどうにも。あの吉田とか言う傭兵崩れがおればワシも安心して部隊を留守にできるんやけどな」 
 そう言って隣に忘れられたように置かれた杯を取る赤松。
「新三なんて言ってもこいつ等に言っても分からねえよ。ああ、忠さんと俺は高等予科学校からの同窓でな」 
「本当にそれは何度も文句言いたい思うとったんやけど腐れ縁の間違いやぞ」 
 明石はそこであることを思い出した。
 『胡州高等予科学校』。先の大戦の終戦前まで貴族の教育機関のひとつとして開設されていた学校である。軍に進む子弟の早期教育を目的に設立され、軍幹部にはその出身者が多かった。特筆すべきところは成績優秀者は陸軍士官学校や海軍兵学校を経ずに直接陸軍大学、海軍大学の受験資格があると言うところだったが、その試験は過酷で数年に一人という合格実績だった。
 その数少ない合格者の一人が目の前の嵯峨だった。家柄も才能も優れた名将として彼が軍に重用されることになるのは当然の話と言えた。だが、その家柄ゆえに嵯峨は中央から追われることになったのは皮肉なものだった。
 西園寺新三郎として四大公筆頭西園寺家の部屋住みだった彼が、ゲルパルトの名家シュトルベルク家の長女と結婚して中央政界から追放状態だった西園寺家に世の注目が集まると、軍は陸軍大学を出た彼を東和大使館付き武官として東都に送った。中尉待遇での花形デビューと言う体裁だが、事実は軍の中央から遠ざけることがその目的だった。事実その後も嵯峨は二度と軍の中央へ近づくことは無かった。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 168

「誰だ!」 

高めの男の声が響いたので誠達はそのまま声がしたあたりから見えないようにそのまま身を暗闇に沈ませた。

「ったく・・・桐野の旦那も困ったもんだぜ・・・」 

悪態を付きながら声の主は遠ざかっていった。

「桐野の旦那?」 

ささやくような声で誠が要に目を向ける。

「桐野・・・聞かねえ名前だな・・・」 

曖昧に首を振る要。アイシャも難しい表情で黙り込んでいた。

「先ほどの声の声紋は取れたか?」 

カウラの一言に驚いたように顔を上げたあとで黙り込む要。

「間違いねえ。あれは北川公平だ」 

「すると・・・動いているのは『ギルド』?勘弁してよ・・・」 

アイシャはそう言うと首を振ってお手上げと言うように手を広げる。誠も彼女の放った『ギルド』と言う言葉に少しばかり恐怖を感じ始めていた。

遼南王朝の手足となって働く法術師集団。何度とない政変で今は王朝の支配を離れ、『太子』と呼ばれる長髪の大男に率いられていると言うテロ組織。近年は遼南のイスラム原理組織や外惑星のゲルパルトのネオナチ系の非合法組織と連携しての動きを水面下で見せているとして誠達もその監視を任務の一つとして与えられていた。

その『ギルド』でも『太子』直轄で動いている法術師の北川公平が動いている。その事実は自分達の独断専行と取られかねない出動が拙速だったことを知らしめるには十分な出来事だった。

「仕切りなおす?」 

「馬鹿言うんじゃねえよ・・・ここで逃げたらシャムに笑われんぞ」 

「シャムちゃんはこういうときは笑わないと思うわよ」 

「いちいちうるせえアマだなあ」 

アイシャと要がごちゃごちゃと喧嘩を始める。黙って二人を見つめていたカウラだが覚悟を決めたと言うように顔を上げた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 167

「なにやってるのよ!」 

「でけえ声出すんじゃねえよ!」 

「先に扉を蹴破って大きな音を立てたのは要ちゃんでしょ!」 

何も無い診察室の中に飛び込むとすぐさま喧嘩を始めるアイシャと要。カウラはこめかみに手を当てながらいつものように呆れて二人が口を閉じるのを待った。

「結構広いから大丈夫なんじゃないですか?」 

『そんなわけ無いでしょ!』 

アイシャと要がせっかく仲裁に入った誠を怒鳴りつける。落ち込む誠の肩を叩きながらカウラは部屋から外を眺めた。

「アタシの方が向いてるぜ、こういうことは」 

そう言うと要はカウラを押しのけて周りを見回した。彼女の目は闇夜には向いていた。眼球にはスターライトスコープが仕込まれていてもうすでに太陽が沈んで暗がりばかりになった廃病院の何も無い光景を見通すことができた。

「ラッキーだな。誰もいねえよ」 

そう言うとショットガンを構えながら走る要。誠達もその後に続いた。物音は誠達の走る靴の音ばかり。ただひんやりとした空気を頬に感じながら誠は走った。

要が階段の手前で立ち止まると中腰で手で後続のカウラ達に止まるようにサインを出した。

「誰か・・・」 

確認をしようと口を開いた誠の口元に要が指を差し出して制止する。そして指で上の階を指すと一人の人物がそこにいると言うハンドサインを出した。銃を握り締める誠。その不安そうな様子にニヤリと笑みを浮かべた後、要は静かに階段を登りはじめた。

誠にもしばらくして気配が感じられた。何かを探していると言うような雰囲気が頭の中を駆け巡る。

『水島勉の・・・法術発動かな・・・でもそれなら・・・』 

考え事をしていた誠は階段の端にあった窓ガラスの破片を踏んで音を立ててしまった。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 166

川べりに立つ巨大な廃墟に誠は度肝を抜かれた。

「こんなところがあるんですね・・・って!」 

「ごちゃごちゃ言うんじゃねえよ!とっとと下りろ」 

要に蹴飛ばされて何とかカウラのスポーツカーの狭い後部座席から転がるようにして廃病院の中庭に出た。

「なんでも・・・菱川重工の併設病院ができたおかげで経営が行き詰まってこうなったらしいわね・・・って走るわよ」 

いつものようにどこから仕入れたか怪しい言葉を吐きながらアイシャが銃を持って走り出すのに誠達も続く。割れた正面玄関の扉はガラスもほとんどが砕け、それを固定していた針金も朽ち果てていた。

「本当にお化けが出てきそうよね・・・要ちゃん、平気?」 

「何でアタシに振るんだ?」 

「こういうとき要ちゃんみたいなキャラがお化けが苦手でお荷物になると面白いかなーとか思ったんだけど」 

「アニメの中じゃねえんだよ。アタシはお化けよりよっぽど生きている人間の方が恐ええよ」 

そう言うと要が先頭を切って割れたガラスに気をつけながら病院の中に入った。

「こりゃあ・・・見事な廃墟だ」 

要の言葉も当然だった。壁は落書きに覆われ、あちこちに雑誌や空き缶が転がっている。足元を見れば焚き火をした後らしき焦げた跡まである。

「間違えて悪戯でもしにきた餓鬼を殺さないようにするには一番の得物だな・・・」 

自虐的に笑って手にした銃を見て笑う要。誠も自分達の持っている銃に入っている弾が殺傷能力の低い弾丸を使用したものだと言うことを思い出した。

「とりあえず分かれたら危険だ。西園寺がポイントマン。クラウゼが後衛を頼む」 

「だろうな・・・」 

「了解っと!」 

要が銃を構えてそのまま走り出す。誠とカウラはそれに続いた。

一階のかつては診察室だったらしい部屋の並ぶ廊下で要が足を止めた。そのまま一つ目のドアを指差し突入するべきかとカウラにハンドサインを送る。

頷くカウラ。それを見た要はそのまま半分朽ちた扉を蹴破って中に入った。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 165

東豊川を流れるゆたか川下流へ向かう堤防沿いの道をヘッドライトをともしたスポーツカーが走っていた。

「ラーナ。間違いはねえんだな?」 

『はい、反応は新東豊川病院で途切れています。再びの法術発動の気配はありませんから・・・』 

ショットガンを肩に担ぐようにして狭いカウラの車の後部座席にふんぞり返る要。誠は身を小さくしてショットガンに何度となく頭をぶつけながら黙って座っていた。

「要ちゃん。もう少し詰めてあげてよ。誠ちゃんが苦しそうじゃない」 

「は?いいんだよ。これで少しは体がやわらかくなるだろ?こいつの投球フォームにはもう少し柔軟性が必要なんだ。このくらいのことには耐えてもらわねえとな」 

屁理屈をこねる要。誠は苦笑いを浮かべながら要の言葉に頷いていた。たしかに最近の実業団のチーム同士の練習試合では腕の振りが鈍っているのは自分でもよく分かっていた。

「それより・・・間に合うのか?」 

「間に合わせてみせるさ」 

要の疑いを愚問だと言うように何もない堤防沿いの道に車を走らせるカウラ。フロントガラスには近辺の地図とラーナから送られてきている法術反応のデータが表示されていた。

「廃病院で鬼ごっこ。こりゃあ楽しくなりそうだ」 

「不謹慎ね、要ちゃんは」

「そう言うオメエも顔がにやけてるぜ。戦闘用の人造人間の闘争本能でも出てきたのか?」 

「まあ否定はしないわよ。でもまあ・・・辻斬りの犯人に茜ちゃんより先にお目にかかれるとは・・・」 

振り向いたアイシャの目がぎらぎらと光るのが誠の目からも見て取れた。

「あのー。嵯峨警視正は?」 

誠の言葉ににんまりと笑う要がいた。その姿に誠の背筋が凍りつく。

「ラーナの奴が連絡済だ。今のところアイツが動いた気配が無いところから見てアタシ等が本当に例の辻斬りかどうか確認するまで動けない状況なんだろ」 

「まーそれは残念。みんな纏めて捕まえちゃいましょうよ」 

「クラウゼ。気軽に言うものだな」 

アイシャを口ではたしなめているカウラ。だがそのバックミラーに映る彼女の顔は楽しいことが待っているとでも言うように微笑みに満ちていた。誠はそんな雰囲気に飲まれないようにと唇を噛み締めて銃を握り締めた。


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ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 播州愚連隊 20

「ああ、明石清海(あかしきよみ)言います。娘さん……大丈夫ですか?」 
「大丈夫よね!」 
 明るくたすき掛けをした帯を緩めながら康子が叫ぶ。だが背中を打たれて倒れていた少女はしばらく膝に付いた砂を払っていて康子の問いに答えることは無かった。
「ほら大丈夫!」
「大丈夫に見えますか?お母様」 
 砂を払い終えて立ち上がる要。腕まくりをしているひじから先に筋のようなものが見える。
『そう言えば要様はサイボーグだったな』 
 明石は祖父を狙ったテロで瀕死の重傷を負い、体のほぼ90パーセント以上を失った要の過去を思い出していた。西園寺家はいつも国粋主義的な勢力にとっては敵以外の何物でもなかった。多くの当主がテロで倒れ、子息は凶弾に倒れた。それでも進歩的な家風で常に政治の局面に関わり続ける一族の力に明石はただ感服しながらその次期当主の要の姿を眺めていた。
「サイボーグがそんなに珍しいですか?」 
 鋭い言葉を吐く要だが、闇市で無法者同士のやり取りを繰り返してきた明石にはかわいらしく感じられた。所詮は安全地帯にいた人間の目。いくら不良を気取ろうにもそんな自覚のない甘えがその目の奥に見て取れた。
「それでは自分達はこれで」 
 別所が頭を下げる・明石は二人が気になりながらもつれてきた別所の手前、一礼して稽古の場から去った。
「晩御飯は期待していいわよ!」 
 子供のように見える笑顔で康子は明石達を見送った。
 そのまま廊下は続く。そして池に囲まれたそれほど大きくない離れに着いたとき、再び別所はそのふすまの前でひざを突いた。
「別所、明石。入ります」 
 別所の声が静かな離れに響く。しかし何の反応も無かった。
「別所!明石!入ります!」 
 今度は力を入れて別所が叫んだ。
「聞こえてるよ!入りな!」 
 澄んだ声がふすまの向こうから聞こえる。それを合図に静々と別所はふすまを開いた。中でこの館の主、西園寺基義と二人の上司の赤松忠満は目の前の碁盤を並んで見つめていた。
「ああ、無駄ですよ。そこの黒石。丸々死んでますから。また俺の勝ちですね」 
 どう見ても自分達より若い男が陸軍の制服を着て西園寺達の前に座っていた。静かにふすまを閉める明石。
「ああ、明石。お前は囲碁はわかるか?」 
 助けを求めるような調子で赤松が明石を呼ぶが、明石は首を振った。
「だめだめ!もうこうなったら挽回不可能ですよ。でもまあ兄貴もずいぶんとましになりましたね」 
 西園寺を兄貴と呼ぶ。そのことでその陸軍大佐が遼南皇帝にして胡州四大公の当主嵯峨惟基であることが分かり明石は当惑した。

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遼州戦記 播州愚連隊 19

「ええ匂いがするんやけど……」 
 明石がそう言うと別所は足を止めてにやりと笑った。
「お前はこの屋敷は初めてだったな」 
 そしてそのまま再び廊下を歩き続ける。視界が開けて当たりに庭が広がる。獅子脅しの音、それに混じって宴会でもやっているような声が遠くで聞こえる。
「西園寺亭には食客が多くてな。いつも宴会が催されている。お前も聞いたことがあるだろ、その噂くらいは」 
「まあな。西園寺サロン言うところは帝大でも有名な話やさかいな。平民出の知り合いは皆憧れとったわ」 
 西園寺家は文化の守護者。これは胡州の国民なら知らぬものはいない事実だった。この屋敷に世話になりつつ芸を磨く芸人。出入りしては糊口をぬらす詩人。酒を求めて出入りする歌手。胡州の芸能の守護者でもあるのが西園寺家のもう一つの顔だった。明石はただ宴会の続いているような別棟から離れるように進む回廊を別所に続いて進んでいた。
 行き着いた先。砂の敷き詰められた広場に煌々とライトが照らされている。そこで別所が歩みを緩めてそのまま片ひざを着いて伺候した。
 その光の中に陸軍の士官候補生が一人、木刀を構えて立っている。そしてそれに向かい合うように和服の女性が薙刀を構えて向かい合っていた。
「控えろ、康子様と要様だ」 
 別所の言葉に明石も片ひざをついた。西園寺基義の妻康子の噂は明石も時たま耳にすることがあった。遼南貴族の出で、その人となりは天真爛漫。その奇行で周りを惑わす。どれも四大公の筆頭の妻女としては疑問に感じる行動にただ西園寺基義と言う切れ者が相当な物好きだと思う以外の感想は明石には無かった。だが、明石は槍に自信があるところから目の前の康子が相当な薙刀の達人であることだけは一目で見抜くことが出来た。
 薙刀にしろ槍にしろ。どちらも弱点は間合いの中に入られることにある。そうすれば短い剣に抗することは難しい。だが、じりじりと迫る娘の要の間合いから、ぎりぎりのところまで来ると素早く下がり、回り込む。娘の要が隙を突くべくにじり寄るタイミングをずらして迫るのだが、それを見越したように絶妙な間で回り込んでいた。
『これは……康子様が勝つな』 
 そう思った瞬間、待ちきれずに要が上段に構えた木刀を持って一挙に切り込んだ。しかし、それは軽くかわされ、振り下ろされた薙刀が要の背中に打ち込まれる。
「これは!」 
 思わず立ち上がった明石を別所が止める。
「ああ、晋一君。見てたの?」 
 まるで調子の狂うのんびりとした言葉に明石の力が抜けた。
「康子様。ご機嫌……」 
「何よ!晋一君たら。照れちゃって!それとそこのお坊さんは?」 
 背中をさすっている娘の要の肩を叩きながら満面の笑顔で康子は頭を垂れている明石に目をやった。

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遼州戦記 播州愚連隊 18

 海軍省の建物を出るとすでに胡州の赤い空は次第に夜の紫に染め上げられようとしていた。
「そうだ、明石。付きあえ」 
 突然の別所の言葉に明石は当惑した。だがそれを別所に悟られるのが悔しくて向きになって彼を見下ろした。
「ええで。だがこいつ等の足はどないすんねん」 
 そう言って魚住と黒田を見やる。別所の車で四人で来たため二人は足を奪われることになった。
「ああ、心配するな。タクシーでも拾っていくことにするから」 
 魚住は満面の笑みで黒田を見上げる。黒田はそれで何かを気づいたと言うようににんまりと笑った。
「じゃあ、決まりだな。来い」 
 そう言って別所はそのまま裏手の駐車場に向かう。明石もそれに続いた。閑散とする駐車場に一台止められている黒いスポーツカー。それに向かって歩く別所。
「どうだ?保科と言う御仁は」 
 車の周りで挨拶をしている武官達をやり過ごすとつぶやくようにたずねてくる別所に明石は首を振った。
「あれだけで分かるんやったら苦労せえへんわ」 
「そうだな」 
 別所はそう言うと車のキーを開ける。明石は体を折り曲げて狭い車内に体をねじ込むようにして座った。
「黒田の奴、よう座っとったな。ぶちきれて殴りかかるんやないかとひやひやしたで」 
 そう言う明石の言葉を無視してそのまま別所は駐車場を出た。
「それはともかく……実はな。お前の昇進と部隊配属が正式にに決まったんだ」 
 友の口からそんな言葉が出ても特に明石は驚かなかった。赤松准将の懐刀として知られた別所は上層部にもパイプを持っていることは知っていた。さらに、西園寺派の陸軍の醍醐少将などとの連絡を行っているのは彼の部下達だった。
「まあ、昇進試験は自信があったからな。それに西園寺公の推挙があれば海軍じゃフリーパスなんやろ?」 
 皮肉るつもりだが、別所は乗ってこなかった。そのまま車は屋敷町を走る。
 屋敷町でも官庁街からすぐの大きな門をくぐった。それが西園寺基義卿の館であることは明石も読めた。すぐに書生が駆け寄ってきて奥の駐車場へと車を誘導する。
「なんや、御大将も来とるやないか」 
 明石の目に第三艦隊の『二引き両左三つ巴』、赤松家の家紋をかたどった隊旗をつけた公用車が見える。
「貴様の昇進を祝いたい人がいるってことだ。良い話だろ?」 
 そう言ってキーを抜いて駐車場に降り立つ。だが、明石はそこで見慣れないガソリンエンジンのスクーターが止まっているのに気づいた。
「なんや、あれ。出前でも取ったんやろか?」 
 明石の言葉に苦笑いを浮かべながらそのまま別所は玄関へと向かう。
 赤松家よりも二回りも大きい玄関だが、そこには駐車場にいた書生以外の人の気配が無かった。だが、別所はそのまま靴を脱ぎっぱなしで上がりこむ。書生が駆け寄って靴を持つのを見て明石もそのまま上がりこんだ。
 長い廊下。次第に闇に落ちていく庭を見ながら二人は奥に進んだ。

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遼州戦記 播州愚連隊 17

「それなら君達が態度で示せ!」 
 そう叫んで保科老人はSPを連れて退出した。それに続き明石達を一にらみして立ち去る清原准将。会議室は騒然とした。
「出るぞ」
 それまで一人黙り込んでいた別所がそう言った。明石も立ち上がり、あちこちで怒鳴りあいを始めた若手将校達を押しのけてそのまま会議室を出た。
「なんだよ。結局ただの説教じゃないか」 
 魚住の言葉に黒田も頷く。
「そうやろか?少なくとも同盟の話が胡州抜きで進んどる言うのが分かっただけで収穫やと……」 
 そんなことを言っている明石の視界に一人の陸軍大佐の姿が目に入った。
「安東大佐?」 
 別所が足を止める。
 安東貞盛。彼は赤いムカデの描かれた胡州軍制式アサルト・モジュール97式を駆り、奇襲と伏兵で進出を急ぐ連合軍をアステロイドベルトで翻弄した。その戦いは『胡州の侍』と呼ばれて、終戦後は彼の存在を不快に思った連合国への配慮のため事実上の軟禁生活を送っていた男だった。
 その伝説の名将が今目の前で保科老人と清原准将と雑談をしている。
「動くな。これは」 
 それだけ言うと別所はその光景を眺めている明石のわき腹をつついた。
「どういうこっちゃ?安東はんは……」 
「先月、烏丸首相は敗戦時の追放リストの見直しを行った。その中に安東さんの名前もあったと言うだけのことだ」 
 そう言う別所の声が震えているのを明石は聞き逃さなかった。
「これで陸軍の烏丸派の連中の意気が上がるなあ」 
 魚住はそう言いながらちらちらと安東大佐のいた辺りを振り返る。黒田もそれにならった。
「なに、軟禁されていたなまくらなど私達の敵じゃないはずだ」 
 自信をこめた声で黒田がそう言った。
「あれやな、保科はんももう現状は止められへんいうのがよう分かったわ。胡州はいつ火が入ってもおかしくない火薬庫になった。そう言うことやな」 
 明石の言葉に悲しげな表情で振り返った別所。そして彼はその言葉に頷くことしかできなかった。

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遼州戦記 播州愚連隊 16

 壇上で保科老人は待っていた。壇上でマイクを手に一言も発せずざわめく聴衆を眺めていた。
 西園寺派と烏丸派の将校達はしばらく仲間内で話を続けていたが、現在この国を動かしている老人の沈黙を察して次第に声を潜めていった。
「現在。首相は烏丸君が勤めている。彼は実に才気あふれる人材だ」 
 その言葉に再び部屋が仲間で議論しあう状況に包まれる。だが、再び沈黙した老人の言葉を聞きだそうとすぐに静まった。
「だが、あえて言えば彼は正直度量が小さい。身内のことにばかり執着しすぎる」 
「気が小さいの間違いじゃないですか!」 
 明石の隣の魚住が叫ぶが、そこに奥で立っている清原が切れ長の目から視線を魚住に向ける。身を乗り出して睨み返す魚住。だが再び保科老人は黙り込んだ。
「西園寺君は野党をまとめているが、彼の野心は私も鼻につくところだ。それが才能の裏書のあるものだとしてもどうにも胡散臭いところがある」 
 そう言ってまた沈黙する老人。彼の話術にはまったように聴衆の若手将校はじっと壇上の老人の言葉を聞くことに決めたように黙り込んだ。明石はそれでこの人物が只者ではないことを実感していた。
「野心に見合う実力のある人物を登用する。私は常にそう烏丸君に頼んではいるが、烏丸君はどうもそれを聞くつもりは無いようだ。少しは度量を見せろと言っているのだがね」 
 その言葉に西園寺派の将校は部屋の後ろに立って話を聞いている烏丸派の将校達に振り向く。
「だが、これでは政局は混乱するばかりだ。西園寺君の弟君の武陽帝、君達が言うとしたら嵯峨惟基陸軍大佐だが彼は的確に遼州諸国をまとめて遼州同盟を立ち上げた。東和、遼北、大麗、西モスレム。加盟を急ぐ動きが我々の頭越しに行われている」 
 最新のニュース。多くの士官達も同じようにこの国際政治の動きに目を向けているところだった。そして、その動きを左右しかねない胡州の重鎮であるこの老人の言葉に耳を貸そうとしていた。
「あいにく彼は胡州に同盟加入の話を持ってきてはいない。実に残念な話だ」 
 それまで黙っていた聴衆が再びざわめき始める。同盟設立に向けて水面下で活発な動きがあると知っていた将校達だが、その動きが胡州に及んでいないとこの国の指導的立場の人間の言葉で確認するとその事実はそれぞれの思惑や立場に変換されさまざまな言葉で語られ始めた。
 明石は隣の魚住が黒田に耳打ちしているのを見たが、気にせず再び壇上の老人を見た。
「胡州は遼州独立の旗を掲げた伝統がある国だ。私はそう誇りに思っている。そして今、遼州が大きな変革期にあると言うのに、そこから突き放された。これは実に残念なことだと言わざるを得ない」 
 会議室の後ろの立見席の雑談がさらに大きくなる。同盟加盟により地球の脅威を押さえ込みたい、そして地球から課せられた貴族制の廃止等の改革案を反故にしたい烏丸派。ざわめきの原因を想像しながら明石はただ黙っていた。
「しかし、我々にも問題があると言うことがわかるな、ここに立ってみると。君達は同じ派閥の言葉で話すことしか出来ないほど主義主張に凝り固まっている。実に残念だ」 
 そう言うと保科老人はマイクを置いてしまった。驚いて後ろの清原が歩み寄る。
 老人は入り口で清原に止められて小声で話し合い始めた。明らかに焦ってまくし立てる清原の声にただ頷く保科老人。
「あなたしかいないんですよ!国をまとめられるのは!」 
 部屋の中央の嵯峨派や大河内派の士官の一人が叫ぶ。手拍子が始まる。それははじめは中間的な両派の士官だけのものだったが、次第に前列に陣取る西園寺派や立見席の烏丸派まで広がった。
 それを見て照れたように頭を掻くと保科老人は再び演台に戻った。

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遼州戦記 播州愚連隊 15

「なんでこんな老人にこれほどの若い将来ある人達から声がかかるのかは分からないが、とりあえず私の発言には期待しないで欲しい。今の胡州の窮状は私が何かを言って変わる状況じゃないんだ」 
 そう言い切って保科は聴衆である青年士官達を見回した。前列を占める西園寺派の将校は頷き、後ろに立ち並ぶ烏丸派の将校は言葉を飲み込む。
「だが、諸君等に希望を託す者として正直この海軍の状況は情けないものだと言わせてもらおう。国の存亡にかかわる状況で派閥争いにうつつを抜かす輩がこうして若者を先導すると言うのは非常に嘆かわしいものだ」 
「そうだ!」 
 立見席から声が飛んだ、すぐに前列からはその声に向けて野次が飛ぶ。そのまま会議室は騒然とした。振り向いて野次馬のような笑みを浮かべている魚住がいる。今にもその野次合戦に参加しそうな彼を何とか明石は押しとどめて座らせた。
 最前列でのこんなやり取りに背後に下がっていた清原がマイクに近づいてそれに手を伸ばす。
「止めたまえ!見苦しい!君等には誇りが無いのか!」 
 清原が叫ぶ。さらに西園寺派の将校が壇上の清原に野次を飛ばし、それに同調するように大河内派や嵯峨派の将校からも野次が飛んだ。
「黙りたまえ!君達は……」 
 そのまま保科の隣でマイクを握り締める清原を老人は押し止めた。そして黙り込む。しばらく野次の応酬が繰り広げられたが、黙ってその様子を見つめている保科の姿に次第に騒ぎは静まっていく。
「君達は何をしたいんだね。内戦かね、それともクーデターか?君達には義務があるはずだ。一つはこの国を守ること、そしてこの国のすべての住民の安全を確保すること。これが第一の役目でないと言うのならばここを去ってもらったほうが良い。出来ればそのまま軍から身を引いてもらいたい」 
 その言葉に数名の西園寺派の将校が席を立った。立見席でも数名が失望した目をして廊下へ消えていく。
「若いのは良いな。実に正直だ。枢密院の石頭の貴族達につめの垢を煎じて飲ませたいくらいだ」 
 乾いた笑いが聴衆に広がる。明石はそこで保科と言うこの国のカリスマの瞳が光るのを見た。
「今の危機的な状況の中。自己の保身の為の貴族制度の維持。これを本願にしている政治家がいる。そして軍内部にもその勢力は多い」 
 保科はそう言って後ろに立っている清原の顔を見る。表情を変えない清原を一瞥してそのままマイクを握る。まばらな拍手が前列に広がる。魚住や黒田もそんな西園寺派の将校達と一緒に拍手をしていた。その様子に呆れたように明石はただ目を壇上の老人に向けた。
「だが貴族制なんていうものは所詮システムでしかない。それを優先して無益に他国との関係を悪化させるのは正直無駄な努力だ」 
「そうだ!」 
 今度は前列から声が飛んだ。立見席で再び囁きあう声が響くが保科老人は話を止めることが無かった。
「どんな社会も同じ地位に同じ人間がいれば腐敗するものだ。常に流動する社会が理想だと私は思っている。だが、それは難しい。特にわが国の貴族制度がそれを阻害していることは間違いない」 
 後ろの囁き声がさらに増すのが最前列の明石からも分かった。
「ただここで留意しなければならないのはわが国は現在孤立していると言う事実だ。既存の制度を完全に破壊して新しい制度を構築する。言葉で言うのは簡単だが、実際それを実行しようとすれば長期の政治的空白を生むことになる」 
 その言葉で今度は前列の西園寺派の将校が囁きあいをはじめる。だが、明石はこれまでの話し方が明らかに両派の将校を自分の話に集中させるための前振りだと思って次の言葉をつむごうとする保科の黒い目を見つめていた。

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遼州戦記 播州愚連隊 14

 胡州帝国海軍省の地下の会議室。主に爆撃などに備えてのシェルターの機能も兼ねているこの部屋に集まった若手の将校達の顔ぶれに明石は圧倒されていた。
 西園寺派でもその側近の赤松准将の直属の部下であると言うことで、明石達はこの『私的な』と冠されているがどう見ても政治的な色に染まりそうな会議の演壇の前、最前列に陣取ることが出来た。海軍では勢いの無い烏丸派は入り口のあたりで席にあぶれて、立ったままこの胡州の重鎮の言葉を聞こうと背伸びまでしていた。
「おう、ずいぶんと元気なのがいるじゃないか」 
 決して狭くは無い会議室に現れた白髪の老紳士は熱気で蒸し暑さすら感じる会議室を見渡すとその小柄な体に似合わない大声を響かせた。下座で拍手が起きると、それは次第に伝染して部屋を覆いつくした。
「お、福原寺の坊主がいるのか?どうした、今日は俺の通夜でもやるのか?」 
 明石の剃り上げられた頭を見て老紳士、保科家春一代公爵は高らかに独特の濁りがある声で笑う。周りのSPが明石をにらみつけているのを見て、明石は少しばかり緊張するのを感じていた。
「静粛にしたまえ!」 
 ざわめく若手の海軍将校達を前に一人の海軍准将の襟章が目に付く狐目の男が叫んだ。明石は周りの士官達を眺めてみた。明らかに明石の周りの西園寺派の士官達はその海軍准将、清原和人(きよはらかずと)参謀局次長を敵意の目で見ているのが分かった。
 保科家春の海軍での活動をすべて掌握していると言うこの高級将校の噂は明石も聞いていた。どちらかと言えば事務屋として定評のある清原准将は総じて前線を支える指揮官の進路に進む将校には甚だ評判が悪かった。先の大戦で保科内閣による休戦条約締結までの物資管理を徹底して休戦まで戦線を維持できる補給計画の立案を行うなど、切れ者であることは誰もが認めたが、その才能を鼻にかけた人柄は海軍幹部からも疎まれるところがあった。
 席についてマイクを握ろうとする保科の前に置かれた水をコップに注ぎ差し出す清原。
「まるで、召使だな」 
 明石の隣に座っていた魚住がわざと壇上の保科と清原に聞こえるように叫ぶ。西園寺派の将校達が失笑を清原に与える。だが、まるで気にする風でもなく清原はそのままSP達の後ろに陣取って会議室に顔をそろえている若手の海軍将校達をにらみつけた。その切れ長の目ににらまれて、それまで笑っていた士官達が沈黙する。
「どうやら、この部屋には人を見た目で判断する人間がいるようだな。実に残念だ」 
 保科の第一声に後ろの立見席から拍手が起きる。前列に陣取る西園寺派の士官達がその拍手の方を振り返るのを見て保科は興味深げに台に立ててあったマイクを手に取り話を続けた。
「諸君の苦心については私も理解しているつもりだ。兵士の士気は下がるばかり、装備は老朽化し、そして自分の給料も上がる見込みが無い。まあ、私も給金は今年も国庫に返上になりそうだがな」 
 その言葉に会議室の中央から後ろの士官達が拍手をする。大河内派と嵯峨派の士官も当然この議場には入場しているはずで、明石はこの状況を楽しむようにして壇上から見下ろしている小男がどういう持論を展開するのか確かめようとその大きな目玉で演台の上を見据えていた。

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遼州戦記 播州愚連隊 13

「今は無理だな……と言うかどちらも動けないだろう。保科家春と言う御仁がいる。西園寺派でも醍醐さん陸軍の一派は前の大戦の休戦協定で助けられた恩がある。さらに問題なのは大河内家の被官連だ。大河内卿が療養中の今、事を起こしても足並みがそろわないことになりかねない」 
 別所の言葉にじっと耳を澄ます黒田。部屋の雰囲気が暗くなる。すでに明石達が政治に口を出せばろくなことにはならないと自覚していた。だが黙っていることができるほどおとなしくはなれないと思うと明石は禿げ頭を叩く。
「保科家春。面白そうな爺さんやのう」 
 そう言って笑う明石を見て、不意に別所の顔がまじめになった。
「それなら会って見るか?」 
 突然の話に魚住が噴出す。しばらく咳き込み動けなくなる彼の背中を明石がさすった。
「なんでそうなる!枢密院議長だぞ!相手は。そんな急に……」 
「別に今すぐ会うなんて言ってないぞ。ただ、赤松の親父のコネを使えば会えないことも無いという話だ。まあじっくり部屋でも借りてとは行かないだろうがな」 
 そう言って別所は酒を口に含むようにして進めた。
「問題の本質を知っていそうな人間に会う。それええなあ。うん、実にええことや」 
 明石はひざを叩きながら頷く。その笑顔に触発されたように黒田も珍しくコップのそこに少しだけたらした酒を舐めた。そしてすぐに顔が赤くなる様は非常に滑稽で今度は明石が酒を噴出しそうになった。
「いつ頃会える?出来ればワシ等四人で会うのが一番なんやけど」 
「そう急くな。あの方もなかなかお忙しい方だ。明日で枢密院の通常会議は閉会だ。その後は陸軍関係の視察の予定が入っていたはずだから……その後は、どれも私的な勉強会か。保科さんらしいな」 
 胸のポケットから取り出した携帯端末をにらむ別所。
「おい、はじめからそれが狙いか?俺達を誘ってお偉いさんに意見する。まあ楽しみって言えば楽しみだけどな」 
 魚住の言葉を無視して端末のモニターをいじる別所。
「辞めとけ。昔からコイツはひねくれとった。いつだって勝負球はこちらの読みの裏をかいてくる」
 そう言う明石を情けない目で見つめる別所。だが、明石は自分の口に笑みが浮かんでいるのを自覚していた。
「そうだな、来週の金曜の午後は海軍省の視察だそうだ。そこで非公式な懇談会が催されると言う話だからそのときに良い席を取るように手配しとくか」 
 別所の手配の早さに舌を巻きながら見つめる明石。赤ら顔の黒田を見るとつい面白くなってそのグラスに酒を注いでしまった。
「それじゃあ、今日は飲むか!」 
 そう言って一升瓶に手を伸ばす別所を見て明石は立ち上がった。
「どうした?便所か?」 
 魚住の言葉に首を振る。
「つまみが欲しいなあ思うてな。ちと貴子さんに頼んでくるわ……!って」 
 部屋の戸を開けるとそこには少女が立っていた。手にした盆にはエイヒレと四つの酢の物の小鉢が入っている。それは赤松邸のマスコットである赤松直満だった。
「お嬢。気いきくやないか」 
「お母様が持っていけって」 
 赤松直満はにっこりと笑うと巨漢の明石に盆を渡した。
「有難うな!お嬢さん!」 
 魚住が叫ぶのを聞くと顔を赤らめて直満は廊下を走って消えていった。
「つまみもある。酒もある。じゃあ飲むしかないな」 
 そんな別所の言葉に三人は頷くとそれぞれ自分の小鉢と皿に手を伸ばした。

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遼州戦記 播州愚連隊 12

「言い出したのは遼南皇帝嵯峨……今はムジャンタ・ラスコー陛下だな。そして内戦中に懇意だった遼北人民共和国も加入の宣言をした。さらに東和共和国まで発足宣言を出しる。そしてそのまま三首脳の連盟の声明で現在遼州星系の各国に参加を要請中だ。大麗と西モスレムは現在事務手続き中、ベルルカンや南方諸島もほとんどが加盟を公言しているぞ」 
 ようやく座布団を取って腰を落ち着けた魚住を明石はめんどくさそうに見つめた。
「なんや、みんな仲良くってことやんか?ええこっちゃ」 
 そう言って再び机に向かおうとする明石の肩を叩く魚住。
「馬鹿野郎!そんな単純な話じゃないぞ!烏丸内閣は加盟に向けての法制度の整備に動き出した」 
「だから良いことやん」 
「いいから、聞けよ。烏丸首相の狙いは地球から押し付けられた身分制度改革の白紙撤回だ。同盟に参加すれば地球から押し付けられた約束は反故にしてもかまわないと言う世論が形成される。そうなれば……」 
「俺達は失業だな」 
 そう言って入ってきたのは別所だった。珍しく気を利かせたように一升瓶を抱えた黒田が続いてくる。
「なんでや?みんな仲良う遼州同盟。仲良きことは美しきかなって言うやん」 
 明石も本気でそうは思ってはいなかったがつい不機嫌にそうつぶやいていた。
「再び敗戦前の貴族の栄光を手に入れようって奴が旗を振っているとしてもか?無理だな。それまで下級貴族が担ってきた官僚制度はすでに平民に開かれている。軍もそうだ。もはや貴族の特権は年金と一部の名誉職の優先権くらいだ。どちらも国家の益になると言うより無駄な出費と言った方が的を得ている。烏丸政権の政策では同盟のお荷物になるのが目に見えているぜ……それ以前に門前払いで『やはり胡州は孤高の大国だ』とか変な自画自賛がネットで駆け回るんじゃないか?」 
 そう言いながら別所が腰を落ち着ける。着いてきた黒田が茶碗を配る。そして酒瓶を受け取った魚住がそれを注いで回る。
「その中心が問題やな……その嵯峨って男はどうなん?」 
 明石はそう言うと別所を見つめた。二年前まで行なわれていた遼南内戦中に別所は嵯峨の動向を探るために遼南に潜入した実績があることは話に聞いていた。
「わからん」 
 それだけ言うと別所は酒を煽った。明らかに理知的な医師の資格を持つ別所らしくないところを見つけて明石はこの冷静な男が焦りを隠せないでいることを見抜いた。
「しかし……嵯峨大佐は本来胡州の軍人だ。それなのになんでそれなら胡州を真っ先に誘わないのかね。烏丸派の貴族の復興が不可能で兄貴も信用が置けないなら同盟参加を呼びかけたら烏丸さんはほいほい付いてくるぞ。しかも西園寺卿は頭の切れる人だ。今胡州に楔を打てば遼南の政治的地位は高まるだろうしな……まあ胡州は加盟を巡り大惨事になることは必至だが」 
 魚住の言葉に黒田も頷いた。権力基盤が脆弱な遼南朝廷にとって外交での成果は政権の、いや国家の存亡にかかわる重大事件のはずである。胡州に同盟参加を持ちかけたとすれば西園寺派が議会を動かして時期尚早で拒否するにしても、烏丸派が治安部隊でも動かして議会を先に制圧して加盟を強行したにしても遼南は不安定な胡州を批判しながら一気に遼州の主導権を握ることができる可能性も残されているはずだった。
 明石はしばらく目をつぶり黙り込んだあと、頭の中で物事を整理した。
「単純に考えようや、どうせ胡州の首相は一人しか椅子が無い。そこに今烏丸頼盛言う人が座っとるが、それより実力のある西園寺基義言う人がそこに座りたいと思っとる。ならどうなる?」 
 明石は噛んで含めるように魚住に言った。そしてしばらく考えた後、魚住は明らかに沈痛な面持ちへとその表情を変えた。

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遼州戦記 播州愚連隊 11

 赤松の屋敷に住み込むようになって明石は自分がかなり丸くなったのを感じてきていた。
 用心棒と思っていた赤松家の暮らしだが、元々先の大戦での英雄である赤松忠満准将の用心棒を買って出る士官は海軍に数知れずいた。おかげで明石は週に三度の別所達を仮想敵としてのアサルト・モジュール3式の実機訓練の他にも帝大法科の講義を聴講し、海軍大での佐官任官試験の為に必要な座学の単位を着実にためる毎日を送ることができた。
 そうして軍に戻って一年。あっという間に時間が過ぎていくのを感じていた。だが回りを見回せば、時代がきな臭くなるのを肌に感じることが多い日々だった。烏丸内閣と野党指導者西園寺基義は正面を切っての政争に動くことは無かった。実に奇妙な個性がそれを阻んでいた。
 保科家春と言う枢密院議長を務める人物、彼の弟で西園寺の後見とも言えた大河内元吉が病に倒れていることで西園寺派は本格的な倒閣運動を行なうことも無く状況を静観していた。それが遼南で人民軍の内戦での英雄として担ぎ上げられた嵯峨惟基がクーデターで遼南の実権を握ったと言う状況が状況の緊迫を煽ることとなった。
 烏丸頼盛は西園寺基義の弟の遼州皇帝即位に脅威を感じてこれまで対地球と言う意味で封印していた貴族制度の維持に関する法案を矢継ぎ早に提案してはそれに反対する西園寺基義の影響下の議会を空転させることになった。そのたびに議長の保科家春が間に入り調停を行うと言う流れが毎月のように繰り返された。
 そんな決まりきった政治のルーチンワークが繰り返される度に明石は次第に周りの軍関係の人間の態度が硬化していくのを感じていた。
 赤松家には西園寺派の海軍将校が絶えず出入りし、陸軍でも西園寺家に近い醍醐将軍のシンパが出入りすることも多くなっていた。別所達と連れ立って町に飲みに出かければ喧嘩をしている将校は西園寺派か烏丸派と言うのが普通の話だった。店もそれを知ってか、赤い提灯を下げている店が烏丸派で白い暖簾を下げているのが西園寺派と店まで分けるような根深い対立に波及していた。
 そんなある日のこと、非番で部屋で法律書と格闘していた明石の部屋のふすまを許しも得ずに開くものがいた。
「おい、聞いたか?」 
 それは魚住だった。明石はめんどくさいと言うように振り返り、浴衣の襟をそろえて難しそうな面をしている魚住を見上げる。小柄な魚住とはいえ、机の前の座布団に正座している明石よりははるかに高い。だが、そのまま魚住は明石の視線に目を合わせるようにして息を整えた。
「なんや、騒ぐだけ騒いでだんまりかいな」 
 明石の言葉を無視して呼吸を整える魚住。
「いいか、落ち着いて聞けよ」 
「それよりお前が落ち着かんかい」 
 明石の皮肉に口元を緩める魚住。
「遼州の……政軍同盟が発足した」 
 魚住の言葉に明石はただ意味が分からないと言う顔をして見せるしかなかった。
「魚(うお)の字。同盟?どことどこが同盟を結んだんや?遼州ってもいろいろ国があるやろ……それに状況がつかめんのやったらテレビを見たほうがましやん」 
 そう明石に言われて気がついたように頭を掻く魚住。
「まあ、先か。一週間前、嵯峨の大公が遼南皇帝に即位しただろ?」 
「兄貴の西園寺公が烏丸首相に即位式に出るなって噛み付いてもめた件か」 
 明石はそこまで聞いて嫌な予感に包まれた。西園寺兄弟。兄西園寺基義と弟嵯峨惟基は犬猿の仲と思われていた。西園寺の家中が基義と一蓮托生と覚悟しているのに嵯峨家家中は筆頭の被官、地下家の佐賀高家は烏丸派でも有力な勢力を保ち、その弟で分家の醍醐文隆は西園寺基義の陸軍における橋頭堡のような立場だった。嵯峨家の領邦は胡州の人口の半分を占める大身である、その帰趨が大きな意味を持っていることは明石も十分承知していた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 164

まず水島は近くにあった扉に飛び込んだ。

薄暗がりの中、先ほど振り下ろされた日本刀がどこにも見えないことに気がついてため息をついた。

『おどろいちゃって・・・』 

「どこにいる!お前が呼んだのか!あの人殺しを・・・」 

少年の声が頭の中に響くのに叫びで答える。しかしどこにも人の気配はしない。そして水島はとりあえず自分のいるのが女子トイレであることに気づいて驚いてそのあまま扉を開けた。

人の気配は無かった。むしろあちこちの壁の傷み具合、割れた窓ガラス、折れた水道管。自分のいる場所が廃墟であることに水島は気づいた。

『おじさん・・・人聞きの悪いことは言わないでよ。僕だってあんな化け物が来るとは思ってなかったんだから・・・』 

人の頭の中ににやけた笑いを浮かべたクリタ少年が映る。忌々しげに近くにあった鉄パイプを手にとって女子トイレを出る水島。

「化け物?じゃあ知っているんだな、あの日本刀の男のこと」 

『一応ね。でも僕にも守秘義務があってさ・・・生きてそこを出られたら教えてあげるよ』 

「無責任なことを言うな」 

怒りに駆られた水島は思わず目の前の壁を鉄パイプで叩いた。火花が散るがただそれだけ。ぶつかった部分の塗料が剥げ、コンクリートの地肌が顔をだす。

『そんなに暴れていいの?さっきの化け物。恐らく僕がおじさんを飛ばした場所を見つけているころだよ・・・逃げるなら今のうち・・・』 

少年の言葉が終わらないうちに水島は走り出した。目の前に階段がある。とりあえずそこを駆け下りる。廊下や壁を見てようやく自分がいる廃墟が病院のあとであることに気づく。

『おじさんストップ!』 

頭の中でまたクリタ少年の声が響く。驚いて壁に張り付き息を整える。

『来たよ。ぴったりさっきおじさんがいた場所だ。逃げた分だけ遠くなったよね』 

「責任を取れよ・・・貴様らに協力するんだから・・・ちゃんと助けろよ・・・」 

『できるだけのことはするつもりだよ』 

焼け石に水と言うような調子の言葉を最後に頭の中から少年の気配が消えた。水島はその時になって初めて自分が孤独であることに気づいた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 163

「おい、西園寺・・・何かあったのか?」 

カウラは自分の車に乗り込んだばかりの要に声をかけた。右足を車の後部座席に突っ込んだまま右手を耳に当ててじっと動かない要。それは彼女の脳の中に埋め込まれた通信端末にアクセスしている時の彼女らしい態度だった。

「どこかの馬鹿野郎がカチコミをかけやがった。巡回していた警官二名が重傷だ。なんでもダンビラ片手に大暴れしてそのあと忽然と干渉空間に消えたそうだ」 

「先を越されたわけね・・・どうするの?」 

車に乗り込むのを止めた要の隣で興味深そうにカウラを見つめるアイシャ。誠はただ黙って指揮官の表情のカウラを眺めていた。

「西園寺。他に死者や怪我人は出ているのか?」 

「怪我したのは警官だけ。斬り付けられた時に悲鳴を上げてそれに驚いて飛び出した近くの住人がいるそうだが・・・犯人を目撃したのは一人もいないそうだ」 

「カウラちゃん。怪我をしたおまわりさんの回復まで待つ?」 

ドアに両手をついて薄笑いを浮かべながら尋ねるアイシャ。誠はそんな彼女を一瞥した後あごに右手の親指を当てて考え込んでいるカウラに視線を移す。

「干渉空間を展開できるだけの法術師がターゲットが留守だと言うのに襲撃を行なうわけが無い。となると・・・」 

「恐らく斬殺魔以外にも水島さんとやらに接触している勢力があるわけね・・・厄介なことになりそうじゃないの」 

そう言うとアイシャはそのままカウラの赤いスポーツカーの後ろに回りこんだ。カウラはそれを見てトランクの鍵を開ける。開いたトランクに上半身を突っ込んだアイシャはそのまま鮮やかな青色に染められたショットガンを取り出した。

「要ちゃん。ラーナちゃんに連絡つく?」 

「アイツのセンサー・・・頼りになるかねえ」 

「他に手段が無い」 

そう言うとアイシャから銃を受け取ってそのまま薬室に初弾を装填するカウラ。

「誠ちゃんも」 

アイシャから低殺傷弾薬の入ったショットガンを受け取った誠もまねをして初弾を装填する。要も同じく銃を手にしてにんまりと笑いながら再び後部座席に乗り込んだ。

「どこまで干渉空間を使っての転移ができるかはわからないが・・・突然の襲撃を受けてとなればそう遠くには飛べないはずだ。上手くいけば警邏隊のアストラルゲージに動きが見れるはずだ」 

「あくまで推測だと言うわけね」 

そう言うとアイシャは自分の銃を手にして初弾を装填した。

「人事を尽くしたんだから後は天命を待ちましょう」 

アイシャの言葉に誠達は大きく頷いた。


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遼州戦記 播州愚連隊 10

 明石は頭を掻きながらどうにも彼を恐がっている直満が近づくのを見ていた。そしてその少女が両軍幼年学校の最上級生である襟章をつけているのが分かった。
「お嬢、幼年学校に通っとるのか?」 
 荷物を担ぎながら明石は直満を撫でようとするがそのまま直満は後ろに下がってしまう。
「嫌われたもんだなあ、明石」 
 そう言うと魚住がそのまま裏口に腰掛ける。
「今日は少し料理にもこだわりましたのよ。新三郎さんから鯛の良いものが入りましたから」
 嵯峨家当主嵯峨惟基がまだ西園寺家の部屋住みだったころの西園寺新三郎の名を聞いて明石はここが政治の中枢帝都であることを思い出した。そうしてみると回りの気配が変わる。庭に続く道には衛兵がライフルを抱えて立っており、外にも私服の警備員と思われる人物が立っていたことも思い出される。 
「それは結構ですね。明石!とっとと荷物を片付けるぞ!」 
 別所の言葉に直満と向き合っていた明石は気がついたように靴を脱いで玄関に上がる。女中が手ぬぐいを差し出すが、魚住は笑ってそれを返した。
「それじゃあ、明石さん。こちらですよ」 
 そう言って貴子は明石を見つめた。それに続く魚住と黒田。
「ああ、明石。俺は少し大将と用があるから」 
 別所がそのまま赤松と会うために庭沿いの縁側に向かう。貴子は建物の奥へと明石達をいざなう。
「それにしても使用人の数が少ないですね」 
 ポツリと明石がつぶやく。微笑んで振り向く貴子。
「そうですわね、お寺さんと違って雇える使用人の数も限度がありますから。それに最近は領邦からの収入も減っておりますから仕方ありませんわ」 
 貴子はそのまま大屋根の屋敷に向かう。そこは本来は使用人の寝起きした部屋のようなものだが、人の気配はまるで無かった。
「どこでも好きな部屋を使っていただいて結構です。ああ、奥の部屋は運転手の多田と庭師の田中が使っておりますからそれ以外ならどの部屋でも」 
 笑う貴子を見た明石は手前の一室のふすまを開けた。掃除は行き届いているが、もう何年も使った様子が感じられなかった。
「もしよろしければ畳を……」 
「いや、大丈夫なんちゃいますか?」 
 そのまま部屋に踏み込む明石。だが突然ずぶりと明石の右足を畳が飲み込んだ。
「あのなあ、人が住んでないと家は腐るんだぞ。貴子様、畳のほうお願いします」 
 苦笑いを浮かべながら魚住が貴子に頭を下げる。思わず噴出して笑いをこらえていた貴子も頷きながら困った顔の明石を見つめた。
「黒田。助けてやれよ」 
 魚住の言葉だが、体重がほとんど変わらない黒田が踏み込めば二重遭難になると思って首を振る。仕方なく明石は自力で踏み抜いた畳から抜け出し、そのまま貴子達が立っている廊下まで出来るだけ接地面積を増やすように四つんばいで歩み寄ってきた。
「ほんま……勘弁してえや」 
 畳の上で奇妙に貼っている禿頭の大男を見て付いてきていた直満が笑う。
「嬢ちゃん。よろしゅうな」 
 明石の言葉にようやく笑顔になって直満が頷いた。

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遼州戦記 播州愚連隊 9

 続いて降り立った明石が母屋に目を向けると殿上貴族の邸宅らしい裏門の大きな柱の根元に海軍幼年学校の制服を着た少年が立っていた。
「あれは?」 
 明石が魚住を見るとにんまりと笑う。
「直満(なおみつ)嬢ちゃん!」 
 黒田が叫ぶが、直満と呼ばれた少女はそのまま明石をじっと見た後そのまま走って屋敷の奥に消えていった。
「嬢ちゃん?」 
 黒田の言葉に明石は不自然さを感じた。その表情が面白かったらしく魚住が含み笑いをしている。
「赤松准将の上のお嬢さんだ」 
「でも直満やぞ!変やろ」 
 明石の顔を見ると別所は困ったような顔をした。
「それじゃあ先代の赤松家の当主は?」 
 そう言われて明石は初めて理解した。赤松家は海軍の要職を世襲する武家の名門であるが、先代の時代は男子の相続者が居らず長女の虎満(とらみつ)が家督を相続したことは有名な話だった。『播磨の虎』と呼ばれた彼女は第三艦隊司令として先の大戦で初期の電撃的勝利を手中に入れた猛将として知られていた。
「妙な家じゃのう……」 
 そう言いながらトランクを開けた明石が着替えなどの最低限の荷物を取り出して裏口に立つとそこには直満を従えてすくっと立っている冷たい感じのある女性が明石を見つめていた。
 別所、魚住、黒田達が静かに目礼をする。
「あなたが明石大尉ですね。確かに強そうに見えますわね」 
 紫の小紋。どちらかと言えば落ち着いた色調の着物にその長い髪と目鼻立ちがはっきりとした気の強そうな表情が明石の視線を奪う。
「赤松の親父の奥方様、貴子様だ」 
 別所に耳打ちされて頭を下げる明石。それを見てにっこりと笑う姿に明石は緊張した手足の自由を取り戻した。
「直満!怖くないでしょ。いずれはあなたはこの家を離れることになるのですよ」 
 そう言って貴子が娘の頭を撫でる。直満は母が傍にいると言うこともあり、再び禿頭の大男である明石を見上げた。
「この人……お坊さん?」 
 直満の言葉に別所と魚住が目を合わせる。そして貴子も口に手を当てそれまでの楚々とした様子をひっくり返すような高らかな笑い声を上げた。
「そうよ、この人はお坊さんが本職なのよ。そうですわよね、別所君」 
「ええ、コイツは坊さんになり損ねて今は兵隊をやっていますが、いずれはどこかの住職になる予定ですから」 
 別所の言葉で自分の言ったことが正しいと分かると、初めて直満はうれしそうな瞳で明石を見上げてきた。

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遼州戦記 播州愚連隊 8

 遼州星系第四惑星『胡州』、その首都である帝都。明石は荷物を地面に置くと懐かしい赤い空を見上げた。今から14年前に帝都大学を早期終業し出陣して以来の帝都は明石には活気に満ちているように見えた。芸州や播州のような鬱屈した敗戦国の雰囲気はそこには微塵も残っていなかった。軍の施設から公用車を呼んだ別所は明石をそこに押し込みそのまま黒田に車を運転させて大通りを走る。
「さすがに帝都やな。人もぎょうさんおるわ」 
 後部座席の窓から街を眺める明石。その前では貴賎、老若、男女を問わず忙しく歩き回る帝都の人々の姿が見えた。
「タコ、これからどこに行くことになると思う?」 
 いたずらをする子供のような顔で魚住が話しかけてくる。その姿に呆れたような表情で助手席から顔を覗かせる別所。
「なんや、海軍省にでも出頭するんちゃうか?」 
 明石の言葉に呆れたような顔をする魚住。
「ならなんでタコの私物をトランクに積んだんだ?海軍省にそのまま住み着くつもりか?」 
 そんな魚住の言葉を聞いて噴出す運転中の黒田。
「おい、監物。言うんじゃねえぞ!面白くないからな!」 
 だが、車が帝都の中心部ではなくそのまま郊外の屋敷町に入った時点で明石には疑問が頭をもたげた。
「この辺りは近衛師団の先任区域で……でも……近衛の連中は陸軍の管轄や思うとったけど……」 
「ぷふっ」 
 ここに来て我慢できずに黒田が声に出して噴出す。
「気になるのう。どこに向かっとる?」 
 さすがにおもちゃにされるのもしゃくで明石は助手席の別所のシートを小突いた。
「お前のことを気に入った殿上貴族の方が貴様をボディーガード代わりに下宿させたいんだと。興味深い話だろ?」 
 別所の言葉で明石の不審は一気に晴れた。この豪勢な貴族の邸宅が続く街。それでも今だ西園寺派、烏丸派の過激派のテロが新聞記事に載らない日は無い状況で明石に一番似合う仕事は用心棒だと自分でも納得できた。
「じゃあ、赤松家か?それとも西園寺……」 
「馬鹿だねえ。西園寺家はタコみたいな無粋な輩には居場所がねえよ。赤松様のお屋敷の方だ」 
 魚住の言葉で行き先が分かると納得して明石はまた外の景色を眺めた。屋敷町らしく警官の姿が多い、人通りも軍港の周りの歓楽街とは違い閑散としている。ただ高級乗用車が行き来する様はこの国の政治が切羽詰った状況にあることを露呈していた。
「裏口から入るからな。黒田、そこの門をくぐれ」 
 別所の言葉で黒田がハンドルを切る。車の存在を察知して自動的に裏門と呼ぶには大きすぎる門が自動的に開く。
 赤松家の裏門。代々西園寺家の傍に仕える名門らしく、裏門とは言え大きな館の玄関前には車止めがあり、庭は手が行き届いて新鮮な緑を明石達に見せた。
「よし、そこでいい」 
 そのまま車を横付けするように言うと別所は真っ先に車を降りた。

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遼州戦記 播州愚連隊 7

「なんや、また下っ端か?」 
 椅子にどっかりと腰を下ろしてそう言って笑いかける明石に余裕の表情を見せる別所。だが、すぐにその顔は厳しいものとなった。
「そう言うなよ。現在お前さんの階級も大尉へ昇格するように上申してやったんだ。それに今度発足する部隊は赤松の御大将の直参になる部隊だからな」 
 別所の言葉に明石はようやくこの異動の裏にある政治的な意味に気づいた。
 遼南内戦が結果的にはムジャンタ王朝の復活と言う結末を迎えた遼州系。そんな中でこの一月で胡州の株式市場は大暴落を開始していた。予定では来月にも凍結を解除すると地球諸国が公言していた胡州の在地球凍結資産。それに対して遼南の安定が実現した今、アメリカをはじめとする地球諸国は民主化が進んでいないとして首脳の非公式な見解として無期延期を示唆する発言が続いていた。そして現在の保守的な烏丸政権と対立して比較的地球に対しては穏健な姿勢をとっている西園寺基義が外務省批判の論文を発表したのは昨日の朝刊だった。
「軍事行動は政治の一活動に過ぎないと言うたのは『戦争論』を書いたクラウゼビッツと言うプロシアの参謀だが、ほんまやのう」 
 そう言って明石は書庫を眺める。元々インド哲学を専攻して僧侶になることが自分の一生だと思っていた明石は好んで哲学書や古典を読む習慣のある男だった。並んでいる本も実用書や小説よりも哲学書が多くを占めている。
「さすが帝大……プロシアなんて言葉は俺からは出てこないわ」 
「『帝大』『帝大』って……魚住。ワレは同じことしか言えんのか?」 
 酒を煽って上機嫌な魚住ににらみを効かせる明石。だが、別所は冷静に明石を見つめていた。
「そうだな。赤松准将の直属になると言うことはひいては西園寺公のシンパになると言うことだ」 
「これも西園寺卿が主張しているところの貴族制の弊害と言うやっちゃな」 
 別所の言葉に少し意地悪く答えた明石だが、別所はそれを否定するつもりは毛頭ないように見えた。
「しばらくは帝都勤務になる。当然陸軍の連中と街で出会うわけだ」 
 ほのめかすように話す別所。だが、陸軍と言う言葉だけで事足りた。陸軍は戦争中には過激分子が西園寺家に対してテロを行うなど西園寺家、そしてその被官である赤松家にとっては宿敵とも言える関係にあった。現在では四大公家の嵯峨家を西園寺基義の弟嵯峨惟基が継いでおり、その腹心である醍醐文隆少将が西園寺卿と懇意と言うことで過激派を押さえ込んではいるが、海軍と陸軍の間の怨恨が消えたわけでは無かった。
「ワシはそれほど手は早くないで。闇屋の掟は喧嘩はできるだけ避けるのが決まりや」 
 そう言って笑う明石。だが別所は笑う様子は無かった。
「タコ。まあコイツは御大将のお気に入りだからな気になることが多いんだろうよ」 
「魚住、タコってワシのことか?」 
 にらみつければ魚住は笑いながら酒を煽る。黒田ははらはらしながら二人を見つめている。
「なあに、帝都に行けばわかるさ。今のこの国がどういう状況なのかな」 
 そう言って静かにコップ酒を煽る別所に明石は一抹の不安を覚えた。

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遼州戦記 播州愚連隊 6

 ほとんど成り行き任せのように明石は赤松の推薦で胡州海軍に復帰することになっていた。血なまぐさい思い出の残る芸州コロニー群から第四惑星胡州の第二衛星播州に移ると、胡州海軍名称『特戦』と呼ばれる人型戦闘兵器アサルト・モジュールの搭乗訓練が彼を待っていた。かつての特攻兵器の異様と思えるハードな訓練を経験した明石にはぬるく感じる訓練にも慣れて二ヶ月が経った。その頃には明らかに自分より年下の同期の訓練生と同じメニューだけをこなすのはプライドが許さず、休みには昇進試験のための勉強をすることにしていた。
 その日も明石は本来は二人部屋だが別所の計らいで彼専用になっている部屋で国際軍事法のテキストを開きながら昼食までの時間を過ごそうとしていた。呼び鈴が来客を告げた。明石はテキストを閉じるとそのまま部屋の扉に向かう。
「よう!元気か」 
 そう言って一升瓶を抱えて飛び込んできたのは魚住だった。後ろには別所、そして黒田の姿もある。
「おう、昇進試験向けの勉強か?さすが帝大出は頭の出来が違うねえ」 
 魚住はそのままベッドに腰掛けると日本酒の瓶の蓋を取る。
「魚住少佐!日中ですよ。それに勤務中じゃ……」 
 明石は無理に標準語でしゃべろうとしてアクセントがひっくり返る。その姿が面白いのか魚住はにんまりと笑うとコップを黒田から受け取ってそのまま豪快に注ぎ始めた。
「安心しろ、今日は俺達は非番だ」 
 そう言って隣の椅子に腰掛ける別所。黒田は魚住の隣に座り手にしたコップに魚住が酒を注ぐのを待っていた。
「基礎は出来ているみたいだから推薦した俺も鼻が高いよ。教官としても問題点も一度注意すればすぐに自分なりの回答を用意してくれているから教えがいがあるしな」 
 別所はそう言いながら黒田の酒を受ける。
「そないにおだてても何もでえへんぞ。それにワシは訓練生じゃ一番の階級で年も上じゃ。それなりに実力を示さな顔が立たんわ」 
 明石はそう言ってグラスを受け取る。この面子での飲み会はこれが初めてでは無かったが、昼間に訓練所の寮で飲み交わすと言うのは初めてだった。黒田は手にしたスルメを順に配っている。
「何かあるんか?」 
 一息ついたというように黒田が酒を含むのを見て明石が口を開いた。
「ああ、実はお前には今の訓練メニューを切り上げてらうことになってな。それを伝えに来たんだ」 
 別所の突然の言葉に明石は困惑した。
「早すぎるんじゃ……」 
 そう言ってスルメを口にくわえる明石。だが、魚住や黒田の顔を見てもそれが冗談とは思えないものだった。
「わかってるよ。実機の宇宙空間でのバランスがようやく取れるようになったところで卒業。確かに自信があるほうがどうかしてるよな。だが、訓練用の97式と現在配備中の三式じゃあかなり機体の特性が違うんだ。はるかにOSが進歩してパイロットの負担を軽減するようになっているからな」 
 別所の言葉に明石は素直に頷いた。
「で、ワシの勤務先は?」 
 そこで別所達はにんまりと笑う。
「第三艦隊第一遊撃機動部隊。隊長はコイツだ」 
 魚住はそう言って別所の顔を見つめた。

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