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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 31


「うー」 

 しばらくシャムはレベッカを見つめていた。レベッカは気が弱そうにワイシャツを着ながらもしばらくシャムの方を観察していた。

「どうしました?」 

「これ!頂戴!」 

 そう叫んだシャムがレベッカの胸を揉んだ。

「何するんですか!」 

「ねえ!頂戴!」 

「無理ですよ!」 

 シャムをようやく振りほどいたレベッカが眼鏡をかけなおしながらシャムを見つめる。シャムはにんまりと笑うとそのままジャンバーを脱ぎ始めた。

「でも……シャムさんも大きくなれば……」 

「大きくならないから言ってるの!」 

 レベッカの言葉に少しばかり腹をたてたというように口を尖らせながらシャムは着替えを続けた。仕方なくレベッカも黙ってワイシャツのボタンをとめていく。

「そう言えばナンバルゲニア中尉の機体ですが……」 

「レベッカちゃん。ナンバルゲニアなんてよそ行きの言い方は駄目!『シャムちゃん』て呼んで!」 

 ようやく吹っ切れたという笑顔のシャムが上着に袖を通しながらレベッカを見つめた。

「じゃあ、シャムちゃんの機体ですが……あんなにピーキーにセッティングしてよかったんですか?操縦桿の遊びもぎりぎりですよ」 

「ああ、あれは隊長の助言だよ。隊長の機体は遊び0でしょ?だから私も真似してみたの」 

「そうなんですか……でもこれから調整もできますから。もし必要ならいつでも声をかけてくださいね」 

「心得た!」 

 シャムはそう言うとそのまま制服の上に制服と同じ素材でできた緑色のどてらと猫耳をつけるとそのまま更衣室を出た。




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テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 30

「さすがの東和政府も重い腰を上げたって訳だ」 

「検査の強制?」 

 シャムの顔に少しばかり影が走る。彼女もまた法術師。それも飛び切りの熟練した技を持っているとなれば無関心ではいられなかった。

「それもあるが……有効活用のために希望者には軍関係の訓練と同レベルの訓練を施してくれるんだそうな。しかも無料。それどころかその訓練の間に会社などを休んだとなればその分の保障までされるっていう至れり尽くせりだ」 

「でも……それは東和だからできるんでしょ?」 

 シャムの言葉に思わず吉田は振り返った。明らかに泣き出しそうな顔。仕方なく吉田は少しばかり歩みを緩めてシャムの頭を撫でた。

「まあ……あれだ。世の中どうしようもないことが結構あるもんだ。主に法術犯罪にかかわる人間は遼南やベルルカン大陸諸国の貧困層が多いのはわかるよな。自分の能力がどんなものかも知らされずに政府や民間の反対勢力の施設などでドカンと自爆。それが今でも続いているのは事実だが……できることはできるだけやっておく。それは悪いことじゃないと思うがな」 

 そう言いながら吉田は隊舎の正面玄関をくぐる。仕方が無いというようにシャムもそれに続いた。

「おはようございます!」 

 オレンジ色、緑色、ライトブルー。さまざまな髪の色の女性仕官達がシャム達を追い抜いて隊舎に駆け込んでいく。

「あいつら運用部の連中も法術師とたいして変わらないんだ。戦争のために作られて人間以上の力を持ったがゆえに軍や警察なんかに職種が限定されての社会進出。苦労は多いとは思うよ。だから……」 

 そこまで言う吉田を突然シャムが振り向く。

「遅刻!」 

「別に良いだろ?」 

「でも遅刻!」 

 そう叫ぶとシャムは吉田を置いて走り出した。一階の運用艦『高雄』の航行を管理する『運用部』の部屋の手前の女子更衣室にシャムは飛びこんだ。

「ナンバルゲニア中尉、遅いですよ」 

 入り口にたむろするさまざまな色の髪の運用部の女性士官達から離れたところで金髪の長い髪をなびかせながらブラウスを脱いだたわわな胸を見せ付けているように見える女性仕官が声をかけてきた。

「レベッカは日勤?」 

「そうですけど……」 

 シャムが隣のロッカーを開けるのを見ながらレベッカ・シンプソン中尉は珍しそうにシャムを眺めていた。




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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 20

「ふざけてないで行くぞー」 

 ランはそう言うと一挺の青いショットガンを手に取る。カウラもアイシャも静かにそれを手にした。

「おめえはどっちにする?」 

 要は手にしたセミオートマチックショットガンとポンプアクションショットガンを誠に手渡した。

「僕はこっちが慣れているんで」 

 そう言うと誠は迷わずポンプアクションショットガンを選んだ。

 部屋を出ながらまじまじと銃を見る。毒々しい青い色が異様だった。考えれば使用弾薬が殺傷用のバックショットやスラグが入っているのと低殺傷能力の布製弾が入っている銃に見分けをつけるのは合理的だがそれにしても明らかに毒々しく塗られた銃は異様だった。

「おっと皆さんはお出かけですか?」 

 誠の専用機の05式の右手の解体作業を仕切っている島田が声をかけてくる。

「おー、ちょっくら鴨撃ちだ」 

「冗談よしてくださいよクバルカ中佐!」 

 ニヤニヤ笑いながらボルトを磨いていた部隊で二人しかいない十代の隊員西高志兵長が叫ぶ。

「くだらないことばっかり言ってるとボコにすんぞ!」 

 要の脅しに西の後ろで端末をいじっていたアメリカ海軍からの出向技官のレベッカ・シンプソン中尉が西の前に立ちはだかる。

「お暑いことで!おっぱいお化け!」 

 いつもレベッカの豊かな胸に嫉妬している要が叫ぶのを聞くと今度はアイシャが笑い出した。

「なんだよ!」 

「いやあ、要ちゃんの反応がいつもどおりで平和だなあって思っちゃったから」 

 そう言うとアイシャは手にしたショットガンのフォアードレバーをガチャガチャと動かして見せた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 19

「開いてますよ!」 

 キムの声が響いたのでランは先頭になり部屋に入った。

「これかよ・・・」 

 先に入った要の声に少し興味を持ちながら続いた誠だが、そこに待っていたのは明るい青色の樹脂でできたショットガンが並んでいる光景だった。

「模擬弾使って射的ごっこか?つまらねえな」 

「模擬弾とは失敬な!一応鎮圧用の低殺傷弾入りのショットガンですよ」 

「威力が半端なだけになお悪りいや」 

 頭を掻いて銃に手を伸ばす要。誠はオレンジ色の派手な弾薬の箱に目を向けていた。

 一応司法執行機関と言う保安隊の名目上、当然暴動や治安維持任務には低殺傷能力の武器の使用も考慮されており、それに適した銃も抱えていたところで不思議は無かった。事実、以前ベルルカン大陸での選挙監視活動で第四小隊と随伴部隊が現地で活動した際の映像にも目の前の青いショットガンを抱えて警備に当たる島田達整備班長の姿を眼にしていた。

「これってどれくらいの威力があるんですか?」 

 弾の入っていないショットガンを手に弄り回している要に尋ねる誠。振り返った要の顔は明らかにがっかりしたような表情に変わっていた。

「あのなあ、そんな子供がエアガン買うときみたいなこと言うなよ。名前の通りの威力だ」 

 そう言うと静かにガンラックにショットガンを戻す要。その隣ではこの小火器管理を担当する隊の隊長であるキムがバスケットにオレンジ色の弾薬を入れているところだった。

「まあ当たり所が悪くない限りは打撲ぐらいで済むだろうな・・・何ならお前が的になるか?」 

「いい事言うじゃねえか。じゃあ防弾プレート入りベストを貸してもらってお前は標的役を・・・」 

「西園寺さん!ふざけないでくださいよ!」 

 本当にやりかねない要を見ながら誠は泣くような調子で叫んでいた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 18

 そのまま廊下を進んでいくアイシャ。ぞろぞろとその後ろを要、誠、カウラにランが続いていく。

「制圧用の火器ってガス弾ですか?」 

 誠の問いにいかにも不機嫌そうな顔をして要が振り向く。

「そんなもん機動隊の仕事だろ?うちはもっと非常事態に適したのを使うんだよ。そもそもショットガン撃ちが言うことじゃねえぞ、そんなこと」 

 それだけ言うと満足したように足早に実働部隊詰め所と管理部の前を通り過ぎハンガーの広がる景色を見ながら階段を下りる。

 ハンガーは先月押し付けられた新型機のテストがいまだに続いていた。主に運用レベルでのメンテナンス手順の確認作業だということで中央で技術部の技師、島田正人准尉が指示を出しながらつなぎをきた隊員達が冷却用ポンプを担ぎながら走り回っている。

「お疲れさんです!」 

 誠は寮長を兼ねている島田に頭を下げた。島田はそれを見るとにんまりと笑いながら駆けつけてきた。

「おっ!皆さんおそろいで。キムの野郎のところですか?」 

「なんだよ、お前等には関係ねえだろ?」 

「西園寺さん。あれは次にはうちの餓鬼どもに撃たせる予約が入っているんですよ」 

「へえ、お前等もあれを撃つのか?」 

 要の声に頭を掻いて周りを見回す島田。

「おい!西園寺!」 

 ランの叫び声につられてそのまま要は島田を置いて技術部の詰め所が入っている一階のフロアーに駆け込んだ。

「技術部の人もやるんですか?」 

 誠の問いにただニヤニヤ笑うだけの要。そして先頭のアイシャは小火器の管理を担当するキム・ジュンヒ技術少尉が主を務める技術部第二分室の扉のドアをノックした。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 17

「どうでも良いけどよう。要するに能力を持ってる奴の能力を勝手に使うことができる能力の持ち主がいる・・・って結構やばいことなんじゃねえの?」 

「そりゃーそうだろ。だが元々法術自体が表ざたにされていない状況ではそんな能力を持っている奴も一生法術とは無縁で暮らせたのが半年前の神前の能力を見たおかげで目覚めちゃったってーわけなんだな」 

 ランのまとめにヨハンが頷く。そしてどうしようも無い重い空気が会議室中に流れた。

「皆さーん!元気して・・・無いわね」 

 突然の乱入者は予想通りアイシャだった。

「なんだ?オメーがここに来る用があるのか?」 

 当然のように重い面持ちのランの言葉に入り口で氷ついたようになるアイシャ。

「いやあ・・・キム少尉が制圧用兵器の試写を要ちゃんに頼めないかって言われて・・・」 

 真剣なランにはさすがのアイシャも言葉をぼろぼろと転がすように吐き出すしかなかった。だがすでに要はやる気十分で立ち上がっていた。

「ぐだぐだ考えるのはちっちゃい姐御とデブに任せるわ。アタシは自分のできることをするよ」 

「ほー、言うじゃねーか。まあ一応気にかけといてくれってことだ。今回の事件は法術がらみだが初動捜査が東都警察が仕切っているからな。アタシ等の出る幕がねーほーがいいんだ」 

 そう言うと興味心身で立ち上がるラン。ヨハンは自分の講義が中途半端に終わったことが不満なようで手にした小さなディスクを机の腕でくるくると回している。

「おい!オメエ等も来いよ!」 

 入り口で叫ぶ要を見てカウラと誠は顔を見合わせた。

「アタシも行く!俊平は?」 

「俺はちょっとヨハンの旦那に確認することがありそうだからパスだ」 

 そう言って胸のポケットからコードを取り出して首筋のジャックに刺す吉田。納得したようにシャムは立ち上がって要について出て行く。

「オメー等も来い。こっちの実演の方がアタシ等には重要なんだから」

 戸惑っていた誠とカウラにランが声をかけてきたので二人は渋々席を立った。


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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 16

「それじゃあ私がその力を得ても良いわけだな?」 

 今度はカウラだった。説明するだけ面倒だと言うようにヨハンはニヤリと笑って頷く。

「まあそれじゃーいくらでも法術師は増えるわけだな」 

 ランのまとめで次の話題に移る所だが、すぐにヨハンは首を振った。

「違いますね。そここそが一番今回現れた犯人の能力である『他能力制御』の肝ですから」 

 そう言うとヨハンはモニターの画面を切り替えた。そこには各能力とその能力がどのように発動するかの図が載せられていた。

「多くの法術は視床下部のこの部分の異常活性化を原因としていると言う説が現在定説ですが、この・・・」 

「御託はいーんだよ。さっきの話の決着つけてくれ」 

 小さいランの一言に研究者としてのプライドを傷つけられたと言うように大きく深呼吸をするヨハンの姿は実に面白くて誠は噴出しそうになるのを必死にこらえた。それはすぐにヨハンに見つかり、冷ややかな視線が誠に集中した。

「手っ取り早く言うと法術師の法術発動の際の特殊な脳波は周りの人々の脳波にも影響を与えるんです」 

「で?」 

「逆に法術を常に待機状態にしている法術師に同じように脳波での刺激を与えれば法術は本人の意図と関係なく発現し・・・」 

「その脳波を発した人物。演操術師の意のままに発現するってーわけか」 

 ランの顔が引きつる。

「つまりあれか?ほとんどの能力の乗っ取りが可能なわけなんだな?」 

 珍しく真剣な表情の要。その問いにヨハンは大きくうなづいた。

「再生能力なんかの接触変性系の法術以外は発動可能です」 

「接触変性?」 

 シャムはそう言うと周りを見回す。しばらく頭を掻いた後で要がシャムの鼻を突付いた。

「お前や島田の再生能力のことだよ!再生や治療系の能力は直接触ってねえと駄目なの!」 

「ああ、そうなの!」 

 分かっているのか分かっていないのか分からない調子で元気よくシャムが叫ぶのが部屋に響いた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 15

「シャム・・・」 

「冗談だって!ね、ランちゃん」 

「冗談?いつものことじゃねえか」 

 明るいシャムの言葉に要が突っ込みを入れた。呆れているラン。いつもの光景にヨハンは呆れたようにモニターに画像を転送した。

 円グラフ。そこにはテレパス、空間干渉、意識把握などの法術の能力名が並んでいる。

「見ての通り法術師の発生確率は一万分の一以下とされている。ほとんどが遼州系の人物だが、確立は落ちるが純潔の地球系の住民にも法術師の発生が確認されている」 

「先生!いいですか?」 

「なんですか?西園寺大尉」 

 話の腰を折られて吐き捨てるようにつぶやくヨハンをいかにも楽しそうな要が眺めている。

「血筋云々の話は別としてアタシみたいなサイボーグに法術師の発生例はあるんですか?」 

「そう言えば康子さんは空間干渉の達人だったな」 

 要のもっともな話にカウラが頷く。

「今のところサイボーグの法術師の発生例は無いんですがね。ただ西園寺大尉がその初めての例になってもおかしくないですね」 

「と言うとなんだ?」 

 退屈そうなランの一言に大きく頷くヨハン。

「先ほど法術師の発生に純潔の地球系でもその例が紹介されていると言う話ですが、すべての発生例が遼州系の住民と接触する機会の多い人物に限られています。当然大尉は神前と接点が多いわけですから法術の才能が開花してもおかしなことはひとつもありません」 

「ふうん」 

 満足したと言うように要は椅子の上で伸びをした。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 14

「さてと・・・いいですか?」 

 遼州司法局実力行使部隊ということで東和共和国の首都東都の西にある遼州を代表する大企業菱川重工業豊川工場の隣。そこにある保安隊隊舎の会議室。明らかに太りすぎている技術将校ヨハン・シュペルター中尉はボードを前に誠達にレクチャーを始めようとしていた。

 しかし会議室と言ってもほとんど多目的ホール扱いのこの部屋。来月に豊川市街で行なわれる予定の節分の行事のために用意された鎧兜が所狭しと並べられ、その合間には同じ日に上映される自主制作映画の為のコスチュームの入った箱などがてんでんばらばらに並べられている。

「あのなあ、ヨハン。ここで本当にいいのか?」 

 要がヨハンにしみじみとつぶやいた。ヨハンもとりあえず半笑いでそれに答える。

「しゃーねーだろ?他の部屋は雑兵衣装であふれかえっているんだからよー」 

 頭をペンで掻きながらランが答えた。ヨハンの授業に付き合うのは保安隊実働部隊の面々だった。

 第一小隊の小隊長のランはヨハンの隣に座って部下達を見つめている。その先には鼻と唇の間にペンを挟んで退屈そうにランを見つめている第一小隊二番機担当のナンバルゲニア・シャムラード中尉。そしてその隣でネットの海に直結した電脳デバイスの世界に逃避している明らかにやる気の無い三番機担当の吉田俊平少佐がいる。

 その隣、一人だけノートを持ってペンで何かを書こうとする神前誠。その両隣は第二小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉と西園寺要大尉が座っている。

「あのー説明始めていい?」 

「ヨハン、こいつ等のこと気にかけるだけ無駄だぞ。てきとーに話して終わりにしよーや」 

 投げやりなランの言葉に説明をするということでヨハンの低いテンションはさらに低くなる。

「じゃあ、はじめます」 

「はい!」 

 演操術について語ろうとした話の腰を見事に空気を読まないシャムがへし折った。

「なんだ?」 

「たぶんアタシわかんないから寝ててもいい?」 

 シャムの言葉にランは悲しげな表情で隣に座ってにやけている吉田に目を向けた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 13

「何すんだ!テメー!」 

「いやあ褌とか言うと面白くってさ」 

「だと何でアタシの胸を触るんだ?」 

 突然の行動に顔を赤らめるラン。そして同じように手を伸ばしてきたアイシャをその凶悪そうな瞳でにらみつけた。

「馬鹿は置いておいて。つまり、法術の存在が広く認知されるまではその能力そのものが見つからなかったわけですね」

「そー言うこった。法術だけを研究している間はそれぞれの能力の関係なんて気にもかけてなかったからな。能力が存在すること自体が不思議だった時代にはそれを利用してしまう力があるなんて考えもつかないだろーしな」 

 落ち着いてつぶやくとランは立ち上がった。

「ここでグダグダ話していても始まらねーよ。飯食って屯所で話そうや」 

 そんなランの言葉に誠達は時計を見る。ちょうど今日の朝食当番のヨハンが得意のリゾットに仕上げの隠し味を入れている時間だった。

「じゃあ食堂に行くか?」 

「要さん、何で疑問系なんですか?食べますよ僕も」 

 仕方なく立ち上がる要について誠も立ちあがった。アイシャはすでにドアに寄りかかって誠達を待っていた。

「それにしても人の力を勝手に使えるってんだろ?最強じゃないか、考えてみたら」 

 要のつぶやいた言葉に誠も頷く。そしてそうなれば自分の空間操作能力も利用されるだろうことを考えてそれをどう使うつもりなのかを考えてみた。

「だからオメー等はもう少し物事の切り替えを覚えろよ。ここで考えていても何も生まれねーぞ」 

 そう言うと気軽に手を振ってランが廊下に出て行くのに誠達は付き従った。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 12

「ザル検査。やっぱり厚生局は最初から仕組んでたわけ?」 

「クラウゼよー。そこまで厚生局を悪者にすることねーんじゃないのか?」 

 落ち着いた様子でどっかりとランが腰を下ろした。つられるようにアイシャも誠を囲んで座り込む。

「いわゆる演躁系の能力には二種類のパターンが存在するんだ。そしてその研究が始まったのはつい最近なんだ」 

「へえ、アメリカさんとかは遼州入植以来の研究でずいぶんたくさん研究してたはずなんだけどな」 

「要よー、科学は万能じゃねーんだぞ」 

 話の腰を折られて口を尖らせながらランは話を続ける。

「演操系って言うとよー。どうしても操る相手の意識そのものに介入して動きを制御すると思うだろ?確かにそう言う能力の持ち主の割合は高けーんだけど・・・」 

「なんだよそれは?操るんだから意識も乗っ取るんだろ?それともあれか?意識はそのままで体だけ動かすとか」 

「要ちゃん!その能力欲しい!」 

 突然叫んだアイシャに誠達は冷たい視線を投げた。仕方が無いと言うように口を押さえてアイシャがそのままうつむく。

「それじゃーねーよ。意識云々の話は能力の強弱であってここで言う能力の種類とは違うんだ。それとなんでこの第二の演操術が分からなかったかと言う理由もそこに有るんだ」 

「もったいつけるじゃねえか。ずばり言えよ」 

 短気な要はタンクトップの下から手を入れて豊かな胸の下の辺りをぼりぼり掻いている。思わず目をそらす誠にむっとしたような表情のカウラが映って誠も視線を落とした。

「ふー。まー能力を乗っ取るんだ」 

「どういう意味ですか?」 

 首をひねるカウラに少し笑みを浮かべてランは口を開いた。

「つまりだ、標的とする法術師の能力を借りて自在に操る。まー人の褌で相撲をとるって奴さ」 

 ランはそう言うと自分の胸に手を伸ばしてきた要の頭を思い切り叩いた。


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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 11

「おー。別に気にすんなよ。ここじゃーアタシもただの隊員だ」 

「そう、じゃあよい子ね」 

「頭なでるな!クラウゼ!」 

 いきがるランの頭をなでるアイシャ。まるでここが準軍事組織の寮だとは思えない光景が展開する。

「で、ちび中佐の言いたいことはなんすか?」 

 どっかりと胡坐をかいて居座る気が満々の要がランをにらんでいる。その様子があまりにも敵意むき出しなので誠ははらはらしながら二人を見つめていた。

「実は・・・内密な話なんだけどな」 

 ランはそう言うと後ろで立っているアイシャに目をやる。アイシャもその様子を悟って開いたままのドアを閉めた。

「先月の末だ。厚生局からの通知があったんだが・・・法術適正の検査基準に間違いがあったそうだ」 

 ポツリとつぶやくように小さな上官から出された言葉に誠達は唖然とした。

「間違い?そりゃあ大問題だぞ!下手したら・・・」 

「西園寺。落ち着け、それで?」 

 大声を上げた要を制してカウラがランの幼いつくりの顔を見つめた。

「確かによー空間干渉や炎熱系なんかの派手な法術の適正は脳波のアストラルパターン分析ですぐに分かるんだが・・・」 

「演躁系は見つからないと言うこと?」 

 アイシャの問いに静かにランは首を縦に振った。

「マジかよ・・・じゃあ手がかりなんて何も無いじゃないか!そもそもその検査だって東和じゃ任意だ。それを通っても黒か白か分からないなんて言ったら・・・」 

「同盟議会の議長の首が飛ぶだろうな」 

 叫ぶ要をなだめながらカウラはそうつぶやいていた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 10

「でもそうするとあの容疑者扱いで捕まった娘は・・・」 

「一応彼女の能力を誰かが利用していることがはっきりしない限り釈放はできないだろうな」 

 カウラの言葉に誠は肩をおろした。パイロキネシス能力は誠やカウラには身近な力だった。カウラが第二小隊の隊長を務めるまでは『保安隊の良心』と言われた穏やかな西モスレム出身のアブドゥール・シャー・シン大尉が彼等の指導に当たっていた。その後、彼は部隊の管理部門の責任者を経て故郷で設立される遼州同盟の軍事機構のアグレッサー部隊への転属が決まっていて現在の管理部門の責任者である高梨渉参事と話し合っている姿をよく見かけていたのを思い出させる。

 そんなシンが持つ力は発火能力『パイロキネシス』だった。愛煙家だがライターもマッチも持ち歩かずに灰皿を見つけるとタバコだけを持って一服するシンを二人は何度となく目撃していた。

「でも・・・」 

「演躁術師と言えば先日の通り魔の時にも出てきた。今回も同じ人物が訓練気分で実行したのかもしれない・・・」 

「訓練気分でやることですか?あんなことを・・・」 

「やる奴はやるだろ?」 

 突然のハスキーな女性の声に誠は握っていた湯飲みから視線を上げた。当然のように冬だと言うのにタンクトップと半ズボンと言う姿の要がそこに立っていた。

「寒くないのか?西園寺は」 

 呆れたようにカウラがつぶやく。

「鍛え方が違うんだよ」 

 そう言いながら遠慮もせずに誠の部屋に入ろうとした要を何かが引っ張った。

「鍛えたも何もテメーの体は特注品の軍用義体じゃねーか」 

 小さな女の子が要のズボンのベルトを引っ張っていた。その後ろにはにんまりと笑うアイシャの姿もある。

「クバルカ中佐」 

 保安隊副長のクバルカ・ランの登場にカウラは座りなおして敬礼をした。


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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 9

「ふう・・・」 

 警察署から見慣れた保安隊の寮までの間、ひたすら所轄の悪口を言い続ける要から開放されて自分の部屋に帰ってくると誠は荷物を放り出して横になった。口ばかりの要だったがクリスマスから正月にかけての実家での要達との馬鹿騒ぎを思い出すとにやけてくる自分が感じられた。

「おい、いいか?」 

 ドアのところでカウラの声がした。

「どうぞ、開いてますよ」 

 誠が起き上がるのを見ながらカウラが入ってきた。その細いからだと特徴的なエメラルドグリーンのポニーテールが誠のアニメ関係のグッズが並んだ部屋に違和感を与えた。

「ああ、とりあえずお茶でも飲もうと思ってな・・・」 

 手にしたお盆から急須と湯飲みを並べるカウラ。元々そういう気の回りに縁がないカウラの行動が誠には不自然に思えた。

「演躁術師を見つけられなかった件ですか?」 

 誠が渋々そう言うとカウラは視線を手元の茶筒に落としてしまう。

 演躁術。他人の意識を則り操るこの地球の殖民惑星『遼州』の先住民『リャオ』に見られる特殊能力。誠も先日地元のデパートでの通り魔事件でその恐怖を味わったばかりだった。そして誠自身も『リャオ』のほぼ純血種だということも分かっていた。それを察してかカウラの頬がこわばる。

 気分を変えるように誠のフィギュアのコレクションを見ながらカウラが話し始めた。

「三百人の身元を突き止めるので精一杯だ。専門家はその中に容疑者がいる可能性はゼロに近いと・・・」 

「法術の専門家のシュペルター中尉もお手上げですか」 

 カウラに湯飲みを渡された誠は静かに茶をすすった。保安隊は誠の配属以来法術系犯罪を追うことが主任務になりつつあった。『りゃオ』の血を濃く引く誠と部隊長の嵯峨惟基がいる以上、どうしても司法機関の多くも手に負えない事件は保安隊に押し付けるのが当たり前のように思われていた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 8

「何だ茜か?暇なのか?」 

「いいえ、要さんとは違って昨日から徹夜ですの」 

 上品そうにそう言うとそのまま取調室が見えるガラス越しまでやってきて中を覗き込む女性。

 要の従妹で誠達の所属する『保安隊』隊長、嵯峨惟基特務大佐の娘である同盟司法局法術特捜の主席捜査官嵯峨茜警視正だった。いつもどおりに表情を変えずに中を一瞥した後ついてきた補佐官のカルビナ・ラーナが手にした捜査器具を取り出した。

「なんだそれ?」 

 要の質問にラーナは顔を上げるがまるで興味がないというように視線をおろして取り出した器具の制御をする為に端末にコードをつなぐ。

 無視されて冷静でいられるほど要は人間ができていなかった。そのままつかつかとラーナに近づいて懐から取り出したコードを自分の首のジャックとラーナの端末に接続する。

「西園寺大尉!困りますよ」 

「うるせえ!」 

 茜は一瞥して困った顔のラーナに頷いて見せて要の情報収集を黙って許した。

「演躁術師の特定か・・・それならつじつまが合うな」 

 『演躁術』と言う言葉を聴いて誠もカウラも目を茜に向けた。

「面倒なことになりそうなのね」 

 アイシャがコーヒーを口に含んでその様子を眺めている。

「わたくし達が動く事件は大体が面倒なことなのではなくて?」 

 上品に答える茜にアイシャは手を広げて知らぬふりと言うような態度を示して見せた。

「確かに・・・今回も面倒なことになりそうだな」 

 カウラはそう言うと静かにコーヒーをすすった。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 7

「あんなに泣いてたら取調べにならないだろうが・・・」 

 要はそう言いながら借りた皮のジャケットに袖を通していた。東和東都南城警察署の取調室の隣の部屋。マジックミラーで誠が中を除き見れば振袖姿の少女が取り調べの警察官の前で泣き続けていた。

「でも彼女以外パイロキネシス能力の適正のある人物はいなかったんだから・・・ああ、要ちゃんが口から火を吹いたと言う線もあるわね」 

 こちらも袖のちぎれた振袖姿のアイシャがコーヒーを飲んでいる。二人の視線の先の少女が泣きじゃくるのでまるでお手上げと言うような雰囲気の周りを見回してカウラも仕方なくコーヒーをすすった。

「他にもいるんじゃないかな・・・法術適正のあった連中は一通り身元は確認したんだろ?」 

「そりゃあまあ・・・でも能力適正が低い人物は簡易検査じゃ引っかからないから」 

 カウラの問いに答えた要の顔を見ながら誠も頷く。

「なんだよ、アタシの言葉は無視でカウラなら信用するとでも言うのか?」 

「やめなさいよ要ちゃん」

 いつものように食いついてくる要をなだめるアイシャ。誠は再び取調室の中を覗いた。

「この子じゃないと思うんですけど・・・」 

「は?あんな一瞬で建物一つを丸焼きにする能力の法術師だぜ?簡易検査だろうがすぐに引っかかると・・・」 

 要の馬鹿にしたような口調に誠は何も言えずに自分のために入れてもらったコーヒーを手に取った。

「知らない・・・気がついたら火が目の前に広がっていた・・・となると・・・」 

「能力の暴走の線が有力ですわね」 

 後ろから声をかけられて驚いて座っていた机から飛び降りる要。そして彼女の後ろには見慣れた東都警察の制服を着た女性が腕組みをして立っていた。

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テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 6

「神前!ホースを!」 

 放水の為にポンプを起動している町会の役員達と共にカウラが叫んでいた。その振袖には火の粉がかかり、一部が焼け焦げているのも見える。誠はカウラからホースを受け取るとそのまま延焼し始めたお堂にホースを向ける。

「行けます!」 

 誠はじっと筒先を構えるとすぐに大きな反動が来てその先端から水がほとばしり出でた。周りの人々が逃げる先には警察官に混じってちぎった袖で誘導をしているアイシャの姿もある。誠はそれを確認すると安心して燃え盛るお堂に放水を続けた。

「大丈夫か?」 

 応援の警官隊の配列を終えた要が何とか慣れない放水をしている誠に手を伸ばしてきた。

「本当に狙いを定めるのが苦手だな、お前は」 

 そう言って誠からホースを奪い取ると火の中心に的確に放水をする要。ポンプの設定が済んだカウラも顔中墨に塗られた状態で力が抜けて倒れそうになる誠を何とか支えた。

「大丈夫か?さっきはお前にも何かあったんだな」 

 カウラの言葉に力なく誠は頷いた。

「パイロキネシストの力の発動を感じました」 

「そうか!」 

 目の前ではほとんど鎮火してきたお堂に水を撒く要の姿がある。そして避難の誘導の為警官隊を指揮していたアイシャも誠達の所に戻ってきていた。

「ああ、これじゃあまた要ちゃんに買ってもらわなきゃね」 

 そう言うとちぎった袖をひらひら振りながら必死に高圧の水圧のホースにしがみついている要に見せびらかす。要はちらりとアイシャを一瞥したが、任務に忠実に無視して放水を続けていた。

「容疑者は特定できたのか?」 

「一応近辺にいた人達は警備本部でお待ちいただいているわよ。パイロキネシスなんて珍しい能力だものすぐに犯人は特定できるわね・・・それにしても馬鹿な犯人ね。こんなに人がいるところで発動させて誰にも気づかれないとでも思ったのかしら」 

 アイシャはそう言うとようやく町会の若者にポンプを任せて近づいてくる要の前でポーズを取った。

「緊急避難的処置だからな。あとで弁償してやるよ」 

 肩を落としながら要のたれ目がさびしそうにアイシャをにらみつけていた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 5

「どうした?」 

 要が声をかけるが誠の心臓の鼓動は早くなるばかりだった。そしてその原因が自分の領域に一つの力が介入してきていることが原因だとわかって要に説明しようと顔を上げた。だが言葉が出なかった。

「おい、大丈夫か・・・カウラ!神前が変だぞ」

 ひざまずいて震えている誠を要が何とか助け起こそうとするが誠の意識は要もそしてその言葉を気にして近づいてきたカウラやアイシャにも言っていなかった。

 圧迫されてゆがむような視界の中、絵馬が並んでいるのが見える。人々はそれぞれ手に絵馬を持って和やかに話をしているのが見えた。だが、その中の中学生くらいの振袖姿の少女が急に足を止めたのを見て誠は立ち上がろうとした。

「昨日はコミケで大変だったから疲れて・・・」 

 そう言ってアイシャがそう言って手を差し出した瞬間だった。

 一瞬誠の意識が飛んだ。そして一斉に参拝客が眺めていた絵馬に火が入った。乾燥した木の燃え上がる炎に人々が驚いたように悲鳴を上げる。

「なんだ!」 

 驚いて振り返る要。カウラはあたりを見回し防火水槽を見つけて走り出した。

「ちょっと!何よ!テロ?テロなの?」 

 アイシャはしばらく叫んだ後、火の粉が移った人達に近づいて自分の紺色の振袖を振り回して火を消そうとしていた。

「おい、誠・・・」 

「パイロキネシスト・・・発火能力者です」 

 ようやく何物かの介入がやんで力が入るようになったひざで参道の中央に立ち上がる。そしてその誠の様子を確認すると要は慌てて駆けつけてきた警備の警察官に自分の身分証明書を見せた。

「保安隊?法術事件ですか?」 

 驚いた太り気味の警察官はしばらく唖然とした後、周りを見回した。防火用水の隣のポンプを使ってカウラが近くの客達に助けられながら放水を開始している。

「法術犯罪の可能性がある。すぐにこの場にいる人物の身柄の確保を始めてくれ」 

 要の言葉に警察官と飛び出してきた町会の役員達が大きく頷いて走り始める。その様子を見送った後、誠は大きく息をしてそのまま消火活動中のカウラに向かって駆け出していった。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 4

「名前が重要なんじゃない。むしろその中身が大事なんじゃないのか?一応私立の学校という話だが設立に当たりいくつかの在日アメリカ軍の外郭団体から金が流れているらしいからな。実際は米軍の法術師養成機関と考えるのが妥当だろう」 

「なんだよ、カウラは知ってたのか?」 

 まるで自分の見つけたネタを馬鹿にされたように要が頬を膨らませる。それを見てアイシャもようやくおちついてきたというように口元を引きつらせながら立ち上がった。

「なるほどねえ、さすがカウラちゃんは勉強熱心でいらっしゃる」 

「貴様等が仕事をサボることばかり考えているからだ」 

 そう言うとカウラはそのまま参道を歩き始めた。要は升を男に返すとその後に続く。

「でも僕も思いますけど『魔法学院』は無いと思うんですけどね」 

 まるで自分が仲間はずれにされていたとでも思っているようにすたすたと歩いていくカウラの後に誠もついていく。要もアイシャもその後ろからいつかカウラをからかおうというような様子で歩いていた。

「まあ東和警察だって警察学校に法術部門を立ち上げたからな。今のところは東都条約の規定により法術の軍事的使用にはさまざまな規制がかかっている・・・」 

「一応はね。でも実際それを守るかどうかとなると別問題でしょ?」 

 アイシャはそう言うと誠の手を引いて走り出す。

「なんですか!」 

「何ですかって言うことは無いんじゃないの?せっかくの正月休み。初詣ならもっと明るい気分ですごしましょうよ!カウラちゃんはまじめすぎ!もっと楽しまなくっちゃ!」 

「で・・・そうすると何でテメエ等が手をつなぐんだ?」 

 明るく誠の手を引こうとしたアイシャの手を要は叩いて離させた。

「なによ!」 

「なによって何だよ!」 

 いつものように要とアイシャがにらみ合いを始めた瞬間。誠は強烈な違和感を感じて立ち止まった。


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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 3

「うるせえなあ・・・」 

 アイシャの食いつきに呆れたように要は言うと画面を拡大する。そこには遠く離れた地球の日本の街の一隅にある学校の校門が映し出されていた。誠達はその中の学校の校門の横の石碑に刻まれた文字に目をやった。

「『東福岡魔法学院』・・・?『魔法』?」 

 ぼんやりと繰り返すカウラ。アイシャはついに口を押さえて大爆笑を始めた。

「アメリカさんは法術をマジックと呼んでるからな。和訳したら『魔法』だろ?」 

「ああ、そうですね」 

 思わず腹を押さえて二つ折りになっているアイシャに周りの視線が痛いほど突き刺さるのを見ながら誠はそうつぶやいた。

「・・・可笑しい!じゃあここの学校の生徒はみんなマントに杖を持っているわけね!ファンタジーよ!ファンタジー!誠ちゃんも入学したら?」 

「ばかばかしい」 

 上機嫌のアイシャの言葉をあっさり斬って捨てるカウラ。それでもアイシャの笑いは収まらなかった。

「神前はあと最低二年は必要だな、ここに入学するには」 

「え?そう言う条項があるんですか」 

「だってお前童貞だろ?今は23歳だから・・・25になるまであと二年。がんばれよ、菰田に負けるな!」 

 要の得意げな顔に誠は頭を掻きながら視線を画面に移した。その様子がおかしかったらしく今にも半分に折れそうな様子でアイシャは爆笑を続けていた。

「日本には遼州系の人間も多いからな。恐らくそのことをにらんで神前が法術の存在を示した『近藤事件』以前に準備は進んでいたんだろうな」 

 一人冷静に画面を見つめるカウラ。さすがにそんなカウラも見るとアイシャも笑いに飽き、要が再び升酒をあおり始めると周りの野次馬も興味を失ったように散っていった。

「しかし『魔法学院』はないだろ・・・誰かこのネーミング止められなかったのかね」 

 ニヤニヤしながら要は画面の中の看板に目をやっていた。


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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 2

「痛くしてるんだよ!」 

 そう怒鳴る要をカウラが押しとどめる。要の手が離れて何とか呼吸を整えるアイシャ。そして誠はいつの間にか回りに人垣ができているのにただ唖然として立ち尽くしていた。

「それより西園寺。突然噴出す原因くらい教えてくれてもいいだろ?」 

 カウラの一言。一応要と誠を部下として巨大人型兵器、アサルト・モジュール部隊の隊長を務めているだけあって落ち着いて原因を突き止めることに決めたような鋭い調子で言葉が放たれる。

「そりゃあ・・・ちょっと待てよ」 

 要はそう言うと手の巾着を開く。中から携帯端末の画像投影用のデバイスを取り出し、それから伸びるコードを首筋のジャックに差し込んだ。

「便利ね。さすがテレビ付き人間」 

 サイボーグの体を気にしている要に言ってはいけない暴言を言うアイシャだが、とりあえずカウラと誠、そして周りの野次馬達の目も有るので睨み付けるだけで作業を続けた。

『こちら福岡です』 

 画像にアナウンサーが映ったのを見ると周りの人々の視線も集まる。ただのテレビの画像を見せられたことで少しばかりカウラは呆れたような顔をしていた。

「西園寺さん・・・これのどこが・・・」 

 誠は噴出すような内容がありそうに無いテレビ番組を見せられたので少しばかりがっかりしながら周りをちらちら眺めている要に尋ねようとした。

「ちょっと待てよ・・・もう少し前かな?」 

 そう言うと画面が高速で逆回転して行く。そして学校の入学式のような雰囲気の映像が映ったところで画像は止まった。

『・・・魔法学院の・・・』 

「魔法!魔法学院!」 

 それまで野次馬を見回しながら要の行動を黙殺していたアイシャが叫んだ。誠とカウラはそのやたらとうれしそうな表情を見て目を見合わせることになった。確かに要が噴出すはずだと納得して頷く誠を見ながらまだ理解できずにいるカウラに目を向ける。

「まあ・・・変な名前と言うことで」 

誠のフォローにもカウラはまだ一つ乗れないように首をひねっていた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 1

 いきなり要が升酒を噴出したので、誠は思い切り動揺した。そして噴出した酒が目の前のどうにも堅気とは思えない恰幅のよいGIカットの親父だっただけに一瞬逃げ出したい気持ちになった。

「どうしたのよ・・・要ちゃん」 

 紺色の花柄模様の振袖が似合いすぎる紺色の長い髪をなびかせる神前誠(しんぜんまこと)の上官であるアイシャ・クラウゼ少佐の言葉に誠も我を取り戻した。

「姐さん・・・突然吹かないでくださいよ・・・」 

 顔面に思い切り日本酒を吹きかけられてもその親父さんはにこやかに笑って舎弟が差し出す手ぬぐいで顔をぬぐい始めた。ことの発端を作ったのは赤い色の扇の文様の振袖を身に纏った西園寺要。四年前までこの東和一帯でシンジケートや各国の特殊作戦部隊が暗躍した時期に『胡州の山犬』と呼ばれて恐れられたサイボーグも今では誠の所属する遼州同盟の司法実力部隊である『遼州保安隊』の一パイロットとして勤務している。そして神前誠の上官として東都明神の祭りが見たいと案内を頼んだのも彼女だった。そして出店の中でもそれなりに風格がある面々が要を見るたびに何か恐ろしいものを見てしまったと目をそらす様を見て誠はただ申し訳の無い気分で一杯になった。

「すまねえなあ。ウケル話が届いちゃって・・・ったく酒がもったいねえよな」 

 要はそう言うと空になった升を額をぬぐい終わった親父に差し出す。親父も要の話に興味があるものの一応司法執行機関の大尉と言う境遇の要に話を持っていくのは遠慮しているらしく黙って升に酒を注いだ。

「さすがに西園寺だな。まだ飲むのか?」 

 緑色の若葉を模した文様がエメラルドグリーンの髪に映える細身の女性。カウラ・ベルガー大尉もまた要が酒を飲み始めてからもう二十分が経っているので呆れながら同僚の飲みっぷりを眺めていた。

「ふう、だってよう」 

 ようやく升を置いてカウラに向き直る要に大きく安心のため息をつく親父の表情に少し笑みを浮かべる誠に話を切り出そうとする要。それを見ながら誠は改めて自分がスタジャンにジーパンと言うありきたりな冬の服装をしていることに気づいて苦笑した。

「だっても何も無いでしょ?本当にすみませんね、暴力馬鹿の誰かさんに酒を盗まれた挙句顔に吹きかけられるなんて・・・」 

 アイシャが親父に頭を下げるのを見てカチンと来た要がアイシャの長い髪を引っ張る。

「痛いじゃないの!」 

 叫ぶアイシャに少しばかり酔っているのか印象的なタレ目で要は長身のアイシャを見上げた。

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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 29

「やっぱりあれですか?先日の法術演操の件で……」 

「そういうこった」 

 ランはそこまで言うと吉田を置いて歩き始めた。シャムは食べ終わった容器を手に取ると説明してくれというように吉田を見つめた。

「あれだ、先日神前達がギルドとアメリカ軍関係の連中とかち合っただろ?」 

「かちあった?」 

 明らかに理解していないというような顔のシャムに吉田は目を落としてどう説明するか考え直した。

「あれだ、水島とか言う法術師が神前達につかまったろ?」 

 そこまで言われてシャムもようやく事態が飲み込めてきた。

 遼州。この地球から遠く離れた植民惑星には初めて地球外の知的生命体が存在していた。彼等は自らを『リャオ』と呼び、前近代的な暮らしを営んでいた。そこに当時地球で政情が不安定だったアジアを中心とした移民がどっと訪れ、『リャオ』と見分けがつきにくいアジア人が多数この地に殖民した。しかし、それは『リャオ』達がもつ特殊な能力との出会いを意味していた。

 読心術、発火能力、空間干渉能力などの地球人からすれば恐ろしい武器にもなりうる能力を持つ『リャオ』達。彼等への弾圧はついには殖民した開拓者や外部惑星で治安を担当していた軍隊までも引き連れての地球からの独立を目指す運動へと加速していくことになり、殖民惑星としては初の独立国家が次々と生まれることになった。

 そんな中で経済的に突出している上に『リャオ』の血を引く人々の多く住む東和共和国はいくつかの問題を抱えていた。混乱期に使われたそれらの能力『法術』は存在さえ忘れられていたが、二十年前の戦争とその後の混乱でテロリスト達に利用されて隠すことができなくなったということで同盟司法局保安隊隊長嵯峨惟基は外惑星でのクーデター未遂事件『近藤事件』の際、大々的にその能力を再び人々の記憶の奥から引っ張りあげることになった。

 今。白日にさらされた法術は社会にさまざまな混乱をもたらすようになっていた。

 法術を誤解しての差別はその一つだった。そのことに反抗して犯罪に走る法術師がいるのもまた事実だった。そんな法術師の引き起こした事件のひとつが先日の『演操術事件』だった。法術師の中には他人の能力を暴走させる力を持つものがわずかながら存在していた。そんな一人、水島勉は法術適正検査で陽性が出て会社を解雇された腹いせに違法な法術行使を実行。ついには死者まででる事態となった。

 そしてその身柄の確保に動いたカウラ・ベルガー大尉貴下の保安隊実働部隊第二小隊は同じく水島の略取を狙ったテロ組織の猛攻を避けて何とか任務を成功させた。

「で?それでどうするのかな?」 

 ようやく事態を飲み込めたように見えるシャムだが、説明を面倒に感じた吉田は弁当を食べ終えて自分の部屋戻ったグレゴリウスの檻に鍵をかけると安心したようにシャムの肩を二度叩いた。





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遼州戦記 播州愚連隊 194

「湿っぽいのは貞坊も喜ばんやろ・・・うち寄るか?」 

 そんな赤松の一言に大きく頷く魚住。明石と黒田は苦笑いでその様子を見ていた。

「いいですわね。嵯峨さんからイノシシの肉が届いてますの・・・牡丹鍋はいかが?」 

「牡丹鍋?」 

 呆然と別所がつぶやく。

「あれや・・・イノシシの肉の鍋。ワシも話しか聞いたことあらへんけどなあ」 

「イノシシ?遼南の自然は偉大だな」 

 黒田の顔もほころんでいる。そんな若者達を見ながら赤松は背後の親友の墓石を見上げた。

「貞坊・・・悪いがわしはしばらくお前のところには行けんようになってもうたわ」 

「そうですわね。直満も立派な安東家の跡継ぎにしないと・・・」 

 大きく貴子が頷く。

 明石はその有様を見ながらなんとなくうれしくなって剃りあげられた頭を撫で回した。

「それじゃ・・・行こか」 

 赤松が桶を持って歩き出す。その手から桶をとろうとする別所。

「ええねん。ワシが持ちたいから持つんや」 

 笑顔でそれを交わす赤松。彼の心には二度と自分達と同じ道を歩ませたくない若者たちがいた。そしていとおしげに部下達を眺める夫を満足げに貴子は眺めると胡州のテラフォーミング化された赤い大気を見上げた。

「これからは何も起きませんように」 

 いつも強気で通している妻の思いもかけない言葉に赤松は満足げに頷くと天を仰いだ。


                                             了

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遼州戦記 播州愚連隊 193

「勝ったって言うけど……」 
 つぶやく赤松の顔に勝者の誇りは無かった。親友を倒して、妹を不幸にして手に入れた勝利。それは甘くないものだと言うことが明石の目にもわかった。
「勝っちゃいねえよ。むしろ本当に勝ったのは貞坊の方かもしれねえよ。俺達はこれから世の中の毀誉褒貶を浴びながら生きていくことになる。たぶん今回の官派の敗北を認められない人間も多い……」 
「しばらくは乱れるでしょうね」 
 嵯峨の言葉を引きつぐ別所。過激派の一部の暴走が続いている以上、明石もそれを否定できなかった。
「だからみなさんにかんばってもらわないと」 
 いつの間にか明石の目の前に来ていた貴子の声。明石の身が引き締まる。
「そういうこと。で……」 
 明石に目をやった後、嵯峨は墓石に手を合わせる赤松を覗き込んだ。
「しばらくはワシの手駒やからな。貸さんぞ」 
「まあそうだろうね。俺ももう少しこいつに丸みが出たら……」 
「ワシそんなに太っとります?」 
 とぼけたような明石の言葉に赤松と嵯峨は顔を見合わせた。さわやかな笑い声が墓地に響いた。その笑いはつい黒田に、そして魚住へと伝染した。
「わかっとりますよ。ワシはまだ闇屋の癖が抜けとらん」 
「そういう事だ。もう少し制服の似合う面になったら迎えに来るわ……楓」 
 嵯峨は黙っている娘に声をかけるとそのまま歩き出した。
「皇帝陛下……」 
「いらねえよ、護衛なんか。それよりオメエ等も頭下げとけよ。仏さんに失礼だ」 
 そう言うと嵯峨は楓を連れてそのまま墓地の出口を目指した。


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遼州戦記 播州愚連隊 192

「ところで坊さんよ」 
 嵯峨の言葉に気が付いて視線を落とす明石。なんとなく言葉を選ぶのが疲れてきた明石はただ黙って嵯峨を見つめていた。
「忠さん……そのうちこいつを借りて良いかな?」 
「借りるって……あれか?遼南の騎士団だのなんだのに……」 
「違うよ。俺の直感だがどこかでこいつの力が必要になりそうなんだわ」 
 しばらく誰もが嵯峨の言葉の意味に気づかなかった。ただ一人貴子は納得したような感じで夫に笑顔で合図していた。
「同盟絡みか……ずいぶん急な話やな」 
「遅すぎるよりいいと思いますよ」 
 ようやく夫の墓から立ち上がった恭子。その目の涙はようやく乾こうとしているところだった。
「私もいつも遅すぎましたから……」 
「そんなこと言うてくれてもうれしないで……」 
「お兄様を喜ばせるつもりはないです」 
 最後の言葉ははっきりしていた。そして深々と貴子達に一礼すると恭子はそのまま線香の香りの漂う中を歩いていった。
「つらいな忠さん。泣いて暴れてくれたほうが良かったんじゃないのか?」 
 嵯峨の言葉に苦笑いを浮かべる赤松。そんな様子を見ながらエキセントリックな皇帝、嵯峨惟基をまじまじと見つめる明石。嵯峨もその視線を嫌ってか安東の墓石に桶の水をかけた。

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遼州戦記 播州愚連隊 191

「ところでそこの坊さん」 
「ワシのこと……」 
「そういうこと」 
 明石は突然嵯峨に声をかけられて当惑していた。着流し姿、丸腰でまるで殺気を感じない姿は逆に奇妙に見えた。
「お前さん達もこの戦いを生き延びたわけだ。だがこれからどうなるか分からねえぞ。何が起きるか読めない時代だ」 
「新三が言うことやないんとちゃうか?」 
 赤松の突込みを無視して嵯峨は話し続けた。
「何かを得るには何かを捨てなきゃいけないものだ」 
「そうかもしれませんね」 
 後ろからいきなり声をかけられ嵯峨は驚いたふりをするように振り向いた。そこには疲れたような表情の別所が立っていた。
「なんだよ……あれか?車に忘れ物とか」 
「まあそんなところです」 
 そう言うと別所は手にしたものを一人墓の前に跪いている恭子に差し出した。
「安東大佐の遺髪だそうです」 
 小さな紙袋。恭子はそれを握り締めると胸の前に抱いて黙り込んだ。
「これが現実さ。俺や忠さんもこれから貞坊の分まで生きなきゃならなくなる」 
 黙って蹲っている恭子を見ながら嵯峨は大きくため息をついた。


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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 28

「むが!」 

 吉田の言葉が朝の冷たい晴れた空に響く。シャムはいつものことなので動じることも無く生協の袋から天丼を取り出した。

「グレゴリウス!遊んでないで食べるよ」 

 シャムの言葉にグレゴリウスはうれしそうにシャムが手にしている天丼に顔を伸ばした。そのおかげでなんとか下敷きになっていた吉田が這い出てきた。

「シャム!」 

「ご飯中!静かにして!」 

「静かにとか言える状況か?これが」 

 吉田は仕方なく勤務服についた土や埃をはたく。

「俊平!こっちは食べてるんだよ。はたくならほかでやってよ」 

「言いたいことはそれだけか?」 

 苦々しげにシャムを見つめる吉田。そんな彼等に近づくものがあった。

「おい!いい加減に遊ぶのやめろよ」 

 それは小さな少女だった。シャムの髪よりも少しだけ長い黒のミディアムヘアーで中佐の勤務服を着ているところからシャムにもその少女が何者かわかった。

「ランちゃん。ちょっと待っててね。朝ごはんを済ませるから」 

「あのなーシャム。朝ごはんはいつもどおり下宿で食ってきたんだろ?何回食えば気が済むんだよ」 

 少女とは思えない鋭い眼光がシャムを射抜く。そしてどうしてもその目が苦手なシャムは一気に天丼をのどに掻きこんでいた。

「のどに詰まらせるなよ」 

 吉田はそれだけ言うと二人の上官である実働部隊隊長であり保安隊副長と第一アサルト・モジュール小隊の隊長も兼務している歴戦の猛者、クバルカ・ランに頭を下げて正面玄関への道を歩き始めた。

「もう少し……もう少し待って」 

 そう言うとシャムは最後に残っていた沢庵を齧り始める。

「まあいーけどな。今日はアタシ等は外野だから」 

「へ?アタシは外野の守備は苦手だよ」 

「野球の話じゃねーよ!」 

 さすがに頓珍漢なシャムの言葉にランは思わず怒鳴りつけていた。





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遼州戦記 播州愚連隊 190

 重い空気。だれもが黙り込んで静かに墓石を眺める。線香の香りが当たりに漂った。
「返して……」 
「すまない」 
 兄の言葉にその発せられたほうを見た恭子の顔は涙に濡れていた。
「なんで……貞盛さんは……」 
「それは武家の習いでしょ」 
 卒塔婆の脇から貴子が現れてそう言った。そんな弟の死を一言で片付けた姉に殺気を込めた視線を投げる恭子。明石達はただ呆然と二人を見守るばかりだった。
「忠義に生きて忠義に死んだ。私としてはよくやったと褒めてやりたいわ」 
「そんな……」 
 恭子は赤に菊模様の留袖の裾を目に当てて涙をぬぐう。そんな有様に明石はその後の羽州の混乱の話を思いだした。
 安東を自刃に追い込んだ秋田義貞が跡目を継ぐべく西園寺邸を訪ねたが、宰相西園寺基義は門をくぐることすら許さなかった。そしてそのままシンパを集めて会議をしているところに過激派が襲撃をかけ、秋田一門の多くは惨殺されたという。
「一学……貞坊……いい奴ばかり死にやがる」 
 嵯峨はそう言うと手にしてきていた桶の水を墓石にかけた。静かに水が流れる。そして線香を持っていた貴子が明石達にも線香を配った。
「貞盛は明るいのが好きだったから……泣くのはよしましょうよ」 
 逆賊として公に葬儀を行なうことも許されずに恭子と数人の被官だけで行なわれた葬儀に参加できなかった姉は静かに弟の墓標に線香を献じた。そして静かに手を合わせる。
「ありがとう……有難うございます」 
 途切れ途切れに恭子は義姉に静かに頭を下げた。


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遼州戦記 播州愚連隊 189

 そのまま車を係員に預けると明石達はそのまま墓地への階段を上がった。たまに線香の香りが漂い、墓所であることを再確認しながらお互いに顔を見合わせる。
「どうも……失礼します」 
 喪服の老女が突然脇から現れ明石達の隣を通り過ぎていく。彼女が今回の動乱で何を失ったのかは分からない。ただ沈黙が一同を支配していた。
「おう、来たんやな」 
 桶の置かれる場所で一人立ち尽くしていた赤松の顔を見て一同はほっとした気分になっていた。
「ここにいるならカードなんて……」 
 嵯峨はそう言うと桶の入った器具にカードを差し込む。テラフォーミング化した土地らしく、胡州では水は貴重だった。その桶入れの中から水に満たされた桶が出てきた。明石は成り行きでその桶を手にしていた。
「行こか」 
 そう言うと赤松はそのまま墓所に向かう。並んでいる墓標。どれも貴族達の墓地であり墓石には高級な石材が使われ、凝った装飾が施されていた。
「あれ……恭子さんじゃねえのか?」 
 嵯峨の言葉に赤松が大きく身を乗り出す。明石が見たのは黒い喪服の女性が跪いて墓を拝んでいる有様だった。赤松がいつの間にかその女性に向かって歩き始める。
「赤松将軍。妹さんが……」
 明石がそう言って見たが赤松は一人立ち尽くしていた。明石達はそれを見て大きなため息をつくと彼を置いて嵯峨の後ろについて歩き始めた。
「お兄様……新三郎さん……」 
 恭子は驚いたように嵯峨を見つめた。そして明石はその瞳が正気を失った人物のものだとすぐに直感できた。
「一応、俺は嵯峨の跡取りになったんだけどな」 
「貞盛さんもいないわよ……」 
 そう言うとにこりと笑って彼女は新しい塔婆の目立つ黒い墓石をいとおしそうに見上げていた。


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