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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 70

「まあそんな大手に割高な仲介料を払えない連中となると・・・駅前の三件はかなり法術師にはつらいですからね」 

 男はそう言うと静かにタバコを取り出した。嫌そうな視線を向けるカウラだが、要がそれへのあてつけのように自分のジッポライターを取り出す。

「すいませんね・・・」 

「こんなサービスはテメエじゃ無理だったろ?うれしいか?」 

 要がかつて胡州陸軍特殊部隊員として東和の沿岸部の租界での非合法物資の取引ルートを巡る利権争い『東都戦争』で潜伏して娼婦として情報収集を行なっていたことを誠にも思い出させた。

「となると・・・南商店街の二件」 

「ああ、そこはうちじゃないですが・・・堅気じゃない連中が関わってますから」 

「おう、参考にするわ」 

 要は男の指定する店にしるしをつける。そしてそのまま画面に映る商店街の店を眺めながらスクロールさせた。

「かなり絞り込めるな・・・今回の事件の犯人。手口からして素人。そうなるとここみたいな危ない経営者のいるところは避けるだろうから・・・」 

「姐さん。勘弁してくださいよ」 

 淡々と自分を斬って捨てた要に泣きを入れると静かにタバコをふかす。

「でも私もそうだけど分かるの?不動産屋のどれが危ないとか、どこが法術師には紹介しないとか」 

 アイシャの言葉に一瞬要の手が止まった。

「オメエ・・・この店の経営者がこいつだって分からなかったのか?」 

「そういう事がすぐ分かるのは西園寺くらいの経験が必要だろうな」 

 そう言うとカウラは自分の顔に向けて流れてくるタバコの煙を仰ぐ。そして要はしばらく放心したように黙り込んだ。


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テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 69

 そしてそのまま応接室のようなところに通された。誠は贅を尽くした部屋の調度品に目を奪われた。

「おい、儲かるんだなあ・・・不動産屋は」 

 要の嫌味にただ乾いた笑いを浮かべながら男はソファーに腰掛けた。

「ああ、お嬢と・・・連れの方」 

 男は手でソファーに座るように合図する。にんまりと笑った要はそのまま中央にどっかりと腰を下ろした。

「忙しい中来てやったんだ。茶ぐらい出せよ」 

「わ・・・わかりました」 

 そう言うと男は振り返り大きすぎる社長の机の上のボタンを押した。

「お前さんなら聞いたことはあるんじゃないか?法術師適正のある人に部屋を貸すのを拒否している業者があるそうじゃないか」 

 悠然とタバコを取り出す要。カウラとアイシャが嫌な顔をするが男は気を利かせたように応接セットの大きなライターに火をつけて要に差しだす

「ああ・・・この業界もいろんな人がいますからねえ」 

「どう見てもやくざに見える人とか?」 

 アイシャの皮肉に男の米神がぴくりと動いた。

「なあに。法令通りの商売をしている善良な市民に迷惑をかけることはしないわよ・・・ねえ、要ちゃん」 

「そうだな・・・で・・・だ」 

 曖昧な相槌の後で要は手持ちの端末をテーブルに置いた。そして画面を起動させるとそこには豊川市内の不動産業者の一覧が表示された。

「豊川はなんと言っても菱川系企業のお膝元だからな。不動産屋も系列が多い。そしてなぜかここの系列のお店は法術師がお嫌いと見えてアタシの耳にも入居拒否や転居要求の話が届いてきている」 

「大手はそういうところには敏感ですからね」 

 タバコをふかす要がリラックスをしているのを見て男は安心したように笑みを浮かべた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 68

「あんたら本当に警察の人?」 

 真顔で聞いてきた男の視界から突然要が消えた。誠も黙っているうちに男はそのまま要に組み敷かれて床に転がっていた。

「おう、良かったな。アタシ等は現在東都警察に出向中の保安隊の実働部隊員だ」 

 その言葉。そして生身とは思えない動きと重さで口を要に押さえつけられている男がうめく。

「ほう・・・アタシは何度か租界でテメエの顔を見てるけど・・・出世したもんだな」 

 要の立て続けの言葉に何かを思い出したように動きを止める男。要は納得したように立ち上がりスカートの裾をそろえる。

「・・・西園寺のお嬢ですか・・・そうならそうで・・・って納税?」 

「そう!アンタ等が今年の売り上げの約40パーセントを・・・」 

「お嬢!勘弁してくださいよ!何が目的ですか?なんか事件でも追っているんですか?胡州の官派の残党狩りですか?」 

 泣き出しそうに跪く男に誠は哀れすら感じた。恐らく要はこの不動産屋の裏帳簿をネットで拾って脱税の記録でも見つけたんだろう。さらにまともな不動産屋のすることではない違法な活動の証拠も握っているかもしれない。彼が振り返るとカウラもアイシャも要のすることがはじめから分かっていたようににんまりと笑みを浮かべている。

「じゃあ、オメエの事務所。そっちで話そうか。ここじゃあ拙い話も出てくるんだろ・・・あ?」 

 とても遼州一の名家の令嬢とは思えない顔つきで男をにらみつける要。男も仕方なく立ち上がると事務所の職員が失笑を浮かべているのにいらだちながら立ち上がった。

「じゃあ・・・二階で」 

 そう言うと男は静かに横にあるドアを開いた。要が誠達を振り返りにんまりと笑うとそのまま付いて二階に上がる。カウラとアイシャも誠を引き連れてその後ろについてあがった。

 桐の見事な柱の通った二階。まるで雰囲気が違う部屋には何人かの若い衆がタバコを咥えて雑談をしているところだった。そこに現れた憔悴しきった兄貴分。当然のように鋭い目つきがその後ろを歩いていた要に注がれることになった。


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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 67

 誠の言葉に一度ほくそえんだ要はそのまま自動ドアの前に立った。

『いらっしゃいませ!』 

 店内に声が響いた。店員達が一同に立ち上がり誠達に頭を下げている。民間企業での仕事の経験などは学生時代に工場で鉄板を並べていたくらいの誠には異様な光景に見えて思わず引く誠。

『あんなあ。その筋の絡んでる店ってのはみなこんなもんだぜ。妙に愛想が良くて・・・ああ、あそこを見な』 

 小声で要がつぶやくその視線の先には大きく張り出されたスローガンが長々と壁に張り出されていた。

「あの・・・」 

 入ってきた要の着ているのが東和警察の制服だったことに気づいた受付の女性が一番声がかけやすそうに見えたアイシャに語りかけてきた。誠も声をかけた小柄な長い髪の受付嬢の化粧が一般のOLのそれより明らかに濃いのが目に付いてなんとなく要の言いたいことが分かったと言うようにアイシャに目をやった。

「ああ、お仕事の邪魔かもしれないけど・・・ちょっとお話を聞きたいの」 

 明らかに回りに聞こえるような声でアイシャが口を開いた。その様子におどおどと受付の女性は背後の事務所を見る。そこにはどう見ても回りの緑の制服を着た事務員達とは毛色がまるで違う黒い背広の恰幅のいい男の姿があった。

『なるほど、その筋の人が経営しているんだ・・・』 

 男が仏頂面で立ち上がるのを見て誠も納得する。以前の誠ならその男の威嚇するような視線におびえて足が震え始めるところだったが、この男と同類の前副部隊長の明石が同じような格好をしていたのでとりあえず要達を盾にして後ろで男と目が合わないように天井を見上げる程度で落ち着くことができた。

「申し訳ありませんね。うちは・・・個人情報の遵守をモットーにしてますから・・・見てください」 

 男は受付にたどり着くと背後のついたてを指差した。不動産業の営業許可証の隣には個人情報保護基準達成の証書が飾られている。だが要はまるで臆することなく彼女が得意な腕っ節でなんとかなる相手に遭遇した時独特の笑みを顔に浮かべて受付に手を着いた。

「そりゃあ殊勝な心がけですねえ・・・まったく頭が下がる納税者さん。応援していますよ・・・納税者さん」 

 要が二回『納税者』という言葉を続けるとなぜか悪趣味な背広の男はこめかみに手をやって誠達を一人一人値踏みするような視線を向け始めた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 66

 曲がりくねった道。かつての街道筋のままの細い道の両側に狭い店舗が続いている。

「ったく再開発はまだなのか?」 

「要ちゃんのお小遣いで何とかすれば?」 

「やなこった!」 

 要とアイシャのやり取りについ噴出す誠。すぐに要のタレ目が威圧するように彼をにらんでいく。

「そこの横丁を・・・」 

「西園寺。私が知らないとでも?」 

 カウラはやけになって左にハンドルを切る。大きく車体は傾き、カウラのエメラルドグリーンのポニーテールが揺れる。

 そのまま車は駐車場に乗り付けられ再び思い切り急停車する。

「カウラちゃん・・・もっと丁寧に」 

 アイシャは自分の紺色の長い髪を掻き揚げながら苦笑いを浮かべた。その座席を後ろに座る要が蹴り上げる。

「人の車だと思って・・・」 

 ため息をつくとカウラはドアを開けて外に出る。アイシャもつられるように出て助手席のシートを倒す。何とか要、誠が狭い後部座席から降車した。

「ここが一番か」 

 カウラの言葉に要は苦笑いを浮かべながら頷いた。

「その筋の人間がいるところのほうがこういう事件にはぴったりだろ?」 

 そう言う要の視線の先にはこぎれいな不動産屋の店舗には似つかわしくない黒塗りの大型高級車が止まっていた。

「まるで明石中佐の車ですね」 

 誠はそういいながらこの不動産屋がかなり危ない物件を扱っていることをすぐに読み解いた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 65

「ともかく例の不動産屋めぐりを始めねえとな。いつ人死にがでるかわからねえ」 

 要の言葉に誠達の顔に緊張が走った。法術関連の事件は誠がその存在を示して見せた半年前の『近藤事件』以来、増加の一途を辿っていた。好奇心で受けた法術適性検査で突然自分に力が宿っていることを告げられた人物が暴走する話はその手の話を一番知っている法術特捜の首席捜査官の茜から嫌と言うほど聞かされていた。

 ほんのちょっとした好奇心でそれは始まる。それがいつの間にか人を傷つけるようになり、さらに重大な事件を起こすことになる。そんな典型的な法術関連事件。今回は趣が違うが確かにその様子を呈してきた。

 カウラのスポーツカーに要に押し込まれて狭い後部座席に座らされてもその思いは誠を走り抜けていた。

「愉快犯ですかね」 

 誠の一言ににんまりと笑う要。そして次の瞬間誠の足は要のチタン合金の骨格を持った右足に踏みしめられた。

「痛いですよ!西園寺さん!」 

「当たり前だ。痛くしてるんだからな」 

 要のそんな言葉に振り向いたアイシャが苦笑いを浮かべている。

「まだまだ小手調べ程度の気分だろ。この前の婆さんを標的にした時は珍しく空間制御で時間軸をいじると言う大技を使ったがまだ空間制御系の法術を借りて何かをするって所までは考え付いていないみたいだからな。アタシなら次は干渉空間展開能力のある奴を見つけて宝飾品店に忍び込んで・・・」 

「ずいぶんリアルね。やる気?」 

 アイシャが茶々を入れたので身を乗り出そうとした要だが、カウラはうんざりしたと言うように車を急発進させた。

「おい!ベルガー!」 

 後頭部を座席にしたたかぶつけた要が叫ぶ。だがカウラは振り向くこともしない。

「お前さんがさっき作ってたハイキング表の通りに行くつもりだがいいか?」 

「カウラちゃんはクールねえ。上官命令、それでいきましょう」 

 要は複雑な表情で頷く以外にすることは特になかった。


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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 64

「ですがこれは都内で昨年から続いている・・・」 

「んなこと聞いてんじゃねえんだよ!」 

 口答えをする相手に要が切れた。突然の行動にあんぐりと口を開く鑑識の隊長の顔にアイシャが噴出す。

「あの餓鬼が嘘ついているとか考えたことがねえのか?あ?」 

「しかし・・・それじゃああなた達はただの無駄飯食い・・・」 

 思わず本音が出て口をつぐむ鑑識の隊長。要はそれを見て満足げに頷く。

「要ちゃん。いじめはいけないのよ」 

「いいだろ?合法的なストレス解消法だぜ」 

「まったく趣味が悪いな」 

 いつものことなのでアイシャもカウラもニヤニヤと笑っていた。その様子が薄気味悪いと言うように鑑識の隊長は部下達の所へと足早に決めた。

「間違いなくこっちに来たんだな。人の褌で相撲をとる馬鹿が」 

 要のその言葉に一瞬で真顔に戻ったカウラとアイシャが頷く。誠はただいつものように彼女達が暴走しないように見張っていた。

「でも・・・放火魔ってこう言う野次馬の中にいることが多いんですよね」 

 誠は話題を変えようと野次馬達に目を向けた。住宅街のお化け屋敷が延焼したことで野次馬達もなにやら不安げに東都警察の制服を来ている誠達を眺めていた。

「そりゃ実際に火をつけた人間の話だろ?この事件の主犯は火をつけるんじゃなくて火をつけさせるんだから心理も違うんじゃねえのか・・・なあ、アイシャ」 

「私に聞かないでよ」 

 迷惑そうに要に向かって言うアイシャ。誠はただ訳もなく野次馬達が増えていく様を眺めていた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 63

「怪我人も無し。いいことじゃねえか」 

 全焼した廃屋を見上げながら要がつぶやいた。すでに能力暴走を起こしてパニック状態に陥ったパイロキネシス能力者の豊川商業高校の女子生徒は警察署へ向かうパトカーに乗せられて消えていた。

 あたりは消防隊員と鑑識のメンバーが焼け焦げた木造住宅の梁を見上げて作業を続けていた。

「これでもう例の犯人は豊川市に拠点を移したと考えるべきかな・・・」 

「カウラちゃんが珍しいわね。意外とそういうところで結論を急ぐ癖があったじゃないの」 

「まあ私も『近藤事件』以降は考え方も変わったからな」 

 黄色いテープを持ち上げて現場に入るカウラ。アイシャや要、誠もその後に続く。焦げ臭い香りが辺りにに漂っていた。現場の鑑識の責任者らしい髭面の捜査官がカウラに敬礼をした。カウラ達も敬礼をしながら辺りを見回した。

「ああ、保安隊さんからの出向している方たちですか」 

「よくご存知で」 

「まあ・・・うちは狭いですから・・・それに噂はかねがね」 

 含むところがあるというような笑みにカウラもあわせて乾いた笑顔を浮かべた。

「連れていかれた女の子が関わっているんですか?」 

 誠の言葉に頷きながら責任者らしい巡査部長は誠の階級章を見ながら頭を掻く。

「この道路から見える壁が一気に発火したって言う証言がありましてね。物理的にそう言う燃やし方をすれば出る科学物質の反応もないですから・・・まず間違いなく彼女のパイロキネシス能力が利用されてこの建物が燃えたのは事実だと・・・」 

「で、その餓鬼が何か言ってたのか?」 

 警部の階級章の要に見つめられると頬を緊張させながら巡査部長が頭を掻く。

「自転車でこの道に入ってしばらくしたら意識が朦朧として気が付いたらこの廃屋が燃えていたと・・・」 

「気が付いたら?放火の意図があったかどうかは確かめて無いんですか?」 

 やけに丁寧に口を挟む要にむっとした表情を浮かべる鑑識の責任者の巡査部長に誠はいつの間にか同情していた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 62

「アタシ等はこの豊川に犯人が来ていたときに意味があるから出向してきたんだ」 

「そうよ。当然じゃないの」 

「はー・・・」 

 アイシャはまだ分からないと言うような表情をしていたがその曖昧な顔が突然ゆがんだ。明らかにアイシャも要の言いたいことがよく分かったようだが彼女が要に頭を下げるつもりがないことは誠にもよく分かる。

「犯人を捕まえなきゃ意味がないんじゃないの?」 

「そこまでは私達の仕事の範疇じゃ・・・」 

「カウラちゃんは黙っていて!」 

 八つ当たりを食らったカウラが口をつぐむ。誠は噴出しそうになりながらいらいらしているアイシャを眺めていた。

「なんだよ。別に戸別訪問をしようというわけじゃないんだ。すべての転居に関わった不動産屋を訪ねて回る。簡単なことが分からねえかなあ」 

「そんな・・・一応不動産業者も個人のプライバシーに関することについては・・・」 

 そう言いながらアイシャは頭を掻いた。元々そう言う任意の捜査においてはかなり高圧的に対応して結果を残すのが得意な要である。プライバシーとか守秘義務などという一般社会の常識は要の捜査にはありえなかった。

「おう、抗議するんだろ?さっさと言えよ」 

「むー・・・」 

 膨れるアイシャだが、カウラの携帯端末が着信を注げたことで誠達の興味はそちらに移った。

「はい、ベルガー大尉ですが・・・」 

 端末に出たカウラ。要は卓上の画面を操作して相手の画面を映し出す。そこには先日この部屋に誠達を押し込めた杉田という警視の顔があった。

「・・・今度はパイロキネシス暴走です。場所は・・・」 

 誠達はすでに自分達が後手を踏んでいることにようやく気が付くことになった。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 61

 得意げな要。それとは対照的に誠もカウラ、そしてアイシャもぽかんと彼女の笑顔を見つめた。

「要ちゃん・・・出て行くのね・・・。うるうる」 

「勘違いするんじゃねえ!賃貸契約の全容を把握するんだ」 

 要はそう言うと今度はポケットからコードを取り出し自分の後頭部のジャックに差し込んで端末とつながる。意識が途切れたように首が折られるがそのまま画面には検索モードの様子が映っていた。そしてそれを見てカウラが手を叩いた。

「そうか。法術師が部屋を借りれば足が付くか」 

「そう?検査なんて東和は任意じゃないの。法術適正を受けている人間が犯人と決まったわけじゃないでしょ?」 

 アイシャは半分期待はしていないと言う感じだが、その視線は明らかに要の検索の模様を眺めているものだった。

「法術適正を理解している人間の犯行だと僕は思いますよ。人の能力を横取りして発動させるんですから。法術に興味のない人物の犯行だとはとても思えないですから」

「でも最近東都の都心からこちらに引っ越してきた人間なんて山ほどいるじゃない。いちいち調べるの?」 

「しかたねえだろ・・・235世帯か・・・所帯持ちは外しても156件」 

 要の言葉にうんざりしたと言うような顔のアイシャ。だが彼女の肩をカウラが叩いた。

「何万人と言う豊川市の人口から比べればわずかなものだ。四人で見回れない数じゃない」 

「でもその中に犯人がいると言う保障はあるの?そもそも法術適正検査は匿名で行なわれてるのよ。その156人だって一人も法術師がいないかもしれないじゃない。いたとしても嘘をつかれれば・・・」 

 そんな言葉を吐くアイシャをケーブルを首から外した要が哀れむような目で見上げる。

「なによ・・・要ちゃん」 

「お前。馬鹿だろ」 

「馬鹿は要ちゃんでしょ?」 

 いつもの挑発合戦にうんざりした顔でカウラと誠は見詰め合った。

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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 39


「そう言えばさあ……」 

 島田が去って10分も経っていない時間にシャムは飽きたように伸びをした。

「オメエ少しは我慢を覚えろよ」 

 いらだたしげに要がシャムを眺める。第四小隊は誰もが黙り込んで二人にかかわらないように決めているようだった。

「でも……やっぱり楓ちゃんと行けばよかったかな……」 

「じゃあ今からでも行けよ」 

「それって酷くない?アタシは仕事を片付けたくてこうしてがんばっているのに!」 

「それで片付いたのか?」 

 冷たく放たれた要の言葉にシャムの薄笑いが困惑に変わる。

「片付かない……」 

 そう言いながらシャムは目の前の吉田に目を向けた。吉田は先ほどから目をつぶってじっとしていた。首筋にあるコードは端末に直結しているので彼が寝ているのか仕事をしているのかは誰にも分からなかった。

「そうやって吉田に頼っているからいつまで経っても事務仕事や報告書で詰まるんだろ?自分でやれたまには」 

 要はそれだけ言うと自分の仕事に戻った。シャムは話し相手を失って周りを見回す。

「そう言えばアン君は?」 

 第三小隊三番機担当アン・ナン・パク曹長。部隊でも数少ない十代の新人の姿は朝からシャム達の前には無かった。

「ああ、アイツなら神前と一緒に東都だ……」 

 軽くそう答えてから要は猛烈な後悔に襲われた。その視線の中でシャムの笑みが大きく育っていくのが要にも分かる。

「じゃあ二人して今頃は……」 

「妄想中止だ!それじゃあアイシャだぞ!」 

 要はそう言うとそのまま再び画面に向き直ろうとした。だがシャムは自分の椅子から飛び降りるとそのまま軽い足取りで要の肩にしなだれかかる。

「やめろって!」 

「ふふふ……先輩……僕……」 

 そう言うとシャムは要の頬に手を伸ばした。



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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 38

「やっぱり俺を解剖じゃないですか!」 

 島田が叫ぶが誰一人として要の軽口を止めるものはいない。

「だって……」 

「なあ」 

 岡部もフェデロも島田が解剖されるのは当然と言うような顔で島田を見つめている。

「死なないんだろ?貴官は」 

 ロナルドの言葉が島田に止めを刺す。うつむいてうなづく島田。確かに彼は本当に不死身だった。

 不老不死。そういう存在も先住民族『リャオ』には存在した。島田はその血が現れた珍しい能力を保持していた。意識がはっきりしている間の彼の再生能力は異常だった。先日の同盟厚生局の暴走の際に出動した際も腹部に数十発の弾丸を受けて内臓を細切れにされても翌日には平気で歩き回っていたほどの再生能力。それはかつて嵯峨がアメリカ陸軍の研究施設で完全に臓器ごとに解剖されてから再生されたと言う事実に匹敵するインパクトを部隊の隊員達に与えた。

「確かにそうですけど……痛いんですよ、あれは結構」 

「痛いですむのか?それなら一度こいつを三枚に下して……」 

「俺はマグロか何かですか!」 

 叫んだ島田に部屋中のにやけた視線が集まる。

「まあ安心しろよ。再生すると分かっていてもお前の頭に風穴を開けたら殺人未遂でアタシ等が刑務所行きだ。誰もそんなことはしねえだろう……多分」 

「西園寺さん!多分が余計ですよ!」 

 島田が叫ぶのを見ながらシャムは自分の端末のスロットに島田から受け取ったディスクを差し込む。

「じゃあアタシも勉強するから」 

「期待してませんがね。がんばってくださいよ」 

 シャムの言葉に吐き捨てるようにそう言うと島田は出て行った。

「アイツ……冗談くらい分かればいいのに」 

「島田にしか通用しない冗談だな。それにさっきの大尉の言葉どおり貴官が銃を島田に向けた時点で殺人未遂で懲戒免職だ」 

「それは大変だねえ。クワバラクワバラ」 

 ロナルドの言葉に首をすくめながら再び要は作っていた書類の作成の業務に立ち戻った。





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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 60

「ったくなんであの餓鬼だけ寮に住み着いてるんだ?」 

 豊川警察署の北側の狭い与えられた部屋の椅子で伸びをしながら要がつぶやいた。

「それを言うなら私達もじゃないの。あそこは一応男子下士官寮なんだから。私もカウラちゃんも要ちゃんも『男子』でも『下士官』でもないんだから・・・」 

「一応神前の護衛と言う任務があるんだ」 

 口を挟んだカウラをにやけたたれ目で見つめる要。それを見てカウラは恥ずかしげに端末に目を向けてキーボードをたたき始める。

「クバルカ中佐はあの格好だとどうしても部屋とか借りるのが大変だとか言ってましたよ。小学生低学年の一人暮らしなんて誰も部屋を貸してくれませんから」 

「そらそうよね。あんな小さくてキュートな女の子を見つけたら私だって付いて行っちゃうもの」 

「恥ずかしげもなく言うな」 

 アイシャの言葉に一言突っ込むと再び画面に向かうカウラ。しばらくカウラのキーボードを叩く音ばかりであたりを沈黙が支配した。

 突然要が手を叩く。全員の視線が何事かと彼女に向かった。

「おい、神前。もう一回言ってみろ!」 

「驚かせないでくださいよ!何をですか!」 

 誠の言葉に今度は立ち上がって襟首をつかんで引っ張りあげる要。驚いたアイシャが要の手にすがりつく。

「なによ、要ちゃん。ランちゃんが部屋を借りられないのがどうしたのよ」 

「そうだよ!馬鹿だなあ。アタシ等がこのちんけな部屋から出るにはそこからはじめなきゃならなかったんだ!」 

「うるさいぞ、西園寺。そんな何かつかめる糸口でもあれば苦労しないと思わないのか?」 

 カウラにまで言われると憤慨したように彼女の端末を占領してデータを入力し始めた。

「気が付かなかった・・・馬鹿だった・・・」 

「要ちゃんが馬鹿なのは昔から知ってるけど・・・」 

 そんなアイシャの一言にチョップを入れると要は画像を表示させた。

「不動産情報?賃貸物件の契約状況・・・?」 

 誠は不思議そうにどうだと言わんばかりの要の表情を見ながらつぶやいた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 59

「ともかく島田。オメーは明華にもらった仕事をちゃんとしろ。終わったらアタシが明華に話をつけてやる。それでいーか?」 

 ランに見上げられれば島田も断れなかった。ただ力なく頷く島田を見て満足げにランはさじを進めた。

「しかし・・・次の事件はこっちで起こるんですかね?たまたま気まぐれでこっちで事件を起こしてまた都内に帰っちゃったとか・・・」 

「心配性だなアイシャ。それならそれでいーんだよ。アタシ等の管轄の外の事件と言うことになる。茜の嬢ちゃんがこれまで作った隊長のコネを使って犯人を挙げれれば儲けものだな」 

 淡々とランがつぶやく。そしてその言葉が響くたびに菰田達のボルテージが上がるのが嫌でも見える。ささやき、つぶやき。その中に『幼女』と言う言葉が混じっているのでいつ爆発するかと誠は気をもんでいた。

「ああ、それと菰田!」 

「はい!」 

 ランに呼びつけられてシンパに守られながら立ち上がる菰田。だがその回りの連中は明らかにそんな命令口調のランの態度に萌えていた。

「飯食ったら出勤だろ?無駄話してるんじゃねーよ!」 

「了解しました!菰田曹長、これより駐屯所へ向かいます!」 

 さすがにランの怒りが爆発するまでに去ろうとするが、Mっ気のある隊員が残ろうとするのを何とかなだめすかして食堂を出て行く。

「アイツ等何しにここに配属になったのかわかってんのかねー」 

 そう言うと最後の一口を口に運ぶラン。さすがの誠もその姿には萌えを感じざるを得なかった。

「誠ちゃん。私達のフィギュアよりもランちゃんの方が売れそうよね」 

「クラウゼ。つまらねーこと言ってるとはたくぞ」 

 そう言いながらランはテーブルの上の粥のどんぶりを持って立ち上がった。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 58

「そんなことは分かっていますよ!」 

「おい、その面は『俺は厚生局事件の時も付き合ったんですよ!今回だって!』とでも言いたいのか?あ?」 

 ニヤニヤと笑いながら要のたれ目が島田を捉える。おずおずと頷く島田。そしてそこにランが当然のように現れたのでおっかなびっくり島田はランに敬礼した。

「おっと、ずいぶんシリアスな展開だったみてーだな。菰田、今日は粥か?」 

 どう見ても小学生にしか見えないランを見ると喜んで菰田のシンパの一人が厨房に駆け込んでいく。その様に呆れたと言うようにため息をついた後、平然とランは誠の向かいの椅子に腰掛けた。

「島田。アタシの判断が不服みてーだな」 

「不服と言うか・・・一応自分にはアサルト・モジュール整備班長としての責任がありますから・・・」 

「おー。それが分ってりゃいーんだがね」 

 そう言うとランは七草粥を受け取り静かに食べ始めた。その様子に菰田の取り巻きの一部にある秘密結社『エターナル幼女同盟』の会員達が萌える瞳でその様子を眺めていた。

「島田よー。アタシ等の仕事の目的はなんだ?」 

「市民の安全を守ることです」 

 即答する島田に満足げな笑みを浮かべてランが頷く。彼女はそのまましばらくスプーンを握りながら考えるようなポーズをとった。

「おい、そこ。写真を撮ったら金よこせよな」 

 密かにランの萌えるポーズを写真に撮ろうとした菰田の隣の技術下士官に鋭い目つきを送るラン。

「すいません!すぐ消します!」 

「消すくらいなら最初から撮るんじゃねーよ」 

 苦笑いを浮かべながらそう言うと再びランは静かに食事を再開した。その様子をただ待たされ続けると言うように経ったままランを見下ろしていた。

「一番必要な場所に一番適した人物を配置する。アタシは隊長からその権限を委託されて副隊長をやってるんだ。テメーの力が必要なら死にそうな状態でも引っ張り出すからな」 

「まあ島田は死なないけどな」 

 ランの言葉に茶々を入れた要をランは殺気がこもっているかのような視線でにらみつけた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 57

「本当にこうしていていいんですか?」 

 七草粥を食べ終えた誠の言葉に同調するように要も頷いている。勤務地が変わっても保安隊の寮の生活は変わらなかった。いつものように朝食を食べ、早出の技術部の隊員達がどたばたと階段を駆け下りるのをのんびり食堂で聞きながらお茶を飲む。その日常は以前のそれと変わりは無かった。

「東都警察も多少は経験を積んでるんだから。それに茜お嬢様からの資料じゃ分からないデータも手に入ったわよ」 

 アイシャはそう言うとおもむろに目の前のどんぶりを横にどけて腕の携帯端末の映像を拡大投影した。

「得意とする法術の種類か・・・」 

「茜もまだまだだな。関与の疑いのある事例を見つければそれなりに資料としてまとまるじゃねえか」 

 カウラと要はアイシャの作った東都警察の違法法術能力発動事件に関わるデータを眺めて感心した。

「パイロキネシスが半数。空間干渉や空間制御が続いて・・・当たり前だけど体再生機能発動は無し」 

「やっぱり放火魔みたいな奴なんだろうな。火事はなんとなくすきっとするからな!」 

「要ちゃん。あなたが犯人なんじゃないの?」 

「ちげえよ!」 

 要が軽くアイシャの頭をはたく。誠が回りを見れば二人の人物が誠達の行動を監視していることに気がついた。

 一人はカウラのファンクラブ『ヒンヌー教』の教祖を名乗る菰田邦弘主計曹長。回りにアイシャから『キモイ』と呼ばれている隊員達を引き連れながら真剣に画面を見るカウラに萌えていた。そしてもう一人。

「今回は俺の出番は無いんですかね・・・」 

 明らかに不満そうに声をかけてきたのは技術部特機整備班長の島田正人准尉だった。

「なにか?死なないって言うだけで捜査に参加できると思うなよ」 

 要の一言に明らかにカチンと来た様に頬を膨らませる島田。彼は純血に近い遼州人であり、意識で体細胞の再生を行なうことができる再生系の法術適正の持ち主だった。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 56

「ここです」 

「ここです?」 

 明らかに嫌な顔をする要。だが誠も同じ気持ちだった。それを無視するようにドアを開ける杉田。

「用具室か。結構片付いているんだな。うちの部隊とは・・・」 

「でも人のいるとことじゃないんじゃないの?」 

 カウラは何とか自分を納得させるようにつぶやくがそれをアイシャがぶち壊す。確かに何もなかった。端のほうに書類のダンボールが山積みにされ、とってつけたようにいつのころの時代のものかと聞きたくなる端末が置かれた机と椅子が四つ並んでいる。

「実は・・・」 

 杉田氏が口を開くまでもなく誠達はこの惨めな有様が東都警察上層部の意図だと言うことを理解していた。

 同盟厚生局事件。一応外面的にはテロリストによる法術データ強盗事件と言う発表で落ち着いているが、三ヶ月前のその事件は厚生局による違法法術研究の事故が原因であり、その為に東都警察と保安隊が対応に当たったことは司法関係者なら誰もが知っていることだった。

 その時、虎の子の法術対応即応部隊を投入しながら何一つ点数を稼げなかった東都警察が、暴走する実験体を対峙して見せた誠達に明らかに嫉妬していると言う噂は散々聞いていた。

 そして結果が目の前の哀れな現状だった。仕方がないというように顔を怒りで引きつらせながら椅子に座るカウラ。要はもう怒りを通り越して呆れてそのまま窓から外を眺めている。

「空調はちゃんと効くのね」 

 そう言いながらそのまま奥の空調機を確認するアイシャ。誠はただ黙って杉田と言う警視の顔を眺めていた。

「ご不満でも?」 

 一応は東都警察の幹部職員である。にらみを利かせるように言われればただ黙って頷くしかない誠。

「一応・・・捜査関係の資料は閲覧できるのですか?」 

「当然です。ただし・・・プロテクトがかかっている部分については・・・」 

「安心しな。ハッカー吉田は本隊でお寝んねだよ」 

 半分やけになったように要は叫ぶとそのまま近くの席に腰を下ろした。

「それではよろしくお願いします」 

 そう言うと杉田は見放すようにドアを閉めて消えていった。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 55

「そういえば大丈夫?神前・・・一応巡査部長扱いでよかったんだよね」 

 誠達はすでに東都警察の制服に着替えていた。誠は巡査部長、カウラと要は警部補。そしてアイシャは警部の階級章をつけられている制服が支給された。

「おい、とっちゃん坊や。階級付きの制服配ったのはテメエだろ?」 

 明らかに喧嘩腰の要。誠は止めようと手を伸ばす体勢で話を聞いていた。

「いやあ、僕は事務方だからねえ・・・」 

「事務屋だと現場のことがわからねえって言う気か?うちでさえ管理部門の大将はアタシ等の行動も把握済みだぞ。なんだか東都警察も・・・」 

「黙れ、西園寺」 

 カウラが思い切りテーブルを叩く。その様子に驚いたように署長と初老の警視は顔を見合わせた。

「一応、これでも仲がいいんですよ・・・ねえ?」 

 さすがに要の暴走が予想を超えていたのでフォローを入れるアイシャだが、にらみ合う要とカウラを珍しそうに眺める署長の目に浮かんだ軽蔑のまなざしに怒りのようなものを覚えているらしいことは誠にも分かった。

「まあ・・・とりあえず部屋は用意しましたから。そちらでこれからの打ち合わせをしてもらいましょう。杉田君」 

 ぽっちゃりとしたキャリアの署長の言葉に直立不動で応える警視。彼が入り口に向かうのを見てカウラとアイシャは敬礼をした後、食って掛かろうとする要を無理やり引っ張ってドアへと向かった。

「失礼します!」 

 置いていかれそうになった誠もそそくさと敬礼を済ませるとそのまま要達を追った。

「キャリアの天狗の鼻をへし折るのはいいんですがねえ・・・」 

 叩き上げのような風貌の警視の苦笑いに付き合いながらそのまま階段を下りる。交通関係の書類を扱っているらしい部署の看板の周りに群がる市民達を横目に見ながらそのまま二階のフロアーを横断した。

「やっぱり仕事をしているんだねえ・・・偉いさんがいようがいまいが関係ないか」 

 要の愚痴に杉田と呼ばれた初老の警視は苦笑いを浮かべた。

 そしてトイレを過ぎて更衣室を通過してそのまま人気のない区画へと誠達は案内された。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 54

「私が・・・専従そっさかっの・・・」 

「馬鹿!噛むんじゃねえ!」 

 ずんぐりむっくりの豊川警察署の署長を前にして誠は緊張のあまり挨拶すらできない有様。そして思い切り要に足の親指をパンプスのかかとで踏まれた。

「まあ緊張しなくても・・・まあかけてくれます?」 

 小太りのまだ20代に見える署長は白髪が混じっている副署長が明らかに敵意で武装して誠達を見ているのに比べてリラックスして応接ソファーに誠達を座らせた。

 メンバーは誠、要、カウラ、そしてアイシャ。いつものように自分の上官で運用艦『高雄』艦長のリアナの頼みに弱いことを利用してこのメンバーに紛れ込んだアイシャ。悠然と座って小太りの署長に色目を使うところはいつもどおりのことだった。

「法術となると・・・うちでは素人捜査しかできないもので」 

「こちらもまだ捜査のノウハウを蓄積している段階です。これからはさらに凶悪化、組織化が予想されますからできるだけ早く対応することが必要になります」 

「とうちの責任者は申しております」 

 署長に答えたカウラに茶々を入れる要。その様子を見てどうやらキャリアの署長が彼女の気に入らないことに気づいてなんとかこの場を乗り切ろうと誠は考えはじめた。

 アイシャは当てにならない。おそらく彼女も要とこの小太りの署長の相性の悪さには気づいているはずだった。だが当然のことながら彼女の行動原理は『面白ければそれでいい』である。引っ掻き回しにかかられたら誠も分が悪い。一方カウラはそんな相性などは考えることもない。ただ今回の事件が本当に豊川市に舞台を移したのかを知りたいと言う職業倫理に基づいて動くだけ。

「で・・・この署に法術適正者は何人いるんですか?」 

 早速カウラが訪ねるが、その言葉に曖昧な笑みを浮かべる初老の副署長。署長はそちらを向いてなにやら複雑な笑みを浮かべていた。

「法術適正は・・・プライバシーの問題がありますから・・・」 

「自己申告が原則となっているので。それに適正者で能力的に貴重な人材はすべて本庁の機動部隊に転属になって・・・」 

「つまり手駒で使えるのはいない確立が高いと・・・使えねえな」 

 要の言葉に署長の米神が痙攣するのを見て誠の胃がきゅるきゅると痛んだ。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 53

「いいんですか?隊長の許可は・・・」 

 カウラの言葉ににんまりと笑うラン。そして満足げに頷くと足袋を脱げないでいるカウラの足に手を伸ばした。

「おい、ちょっと足を上げろ」

 いきなり手を出されて驚いたカウラはランに言われるままに足を上げた。そしてそのまま椅子の横棒に載せた右足の旅をとめている紐を緩め始めるラン。

「実は・・・おやっさんから言われててな。今回の件。誰か志願する奴がいれば捜査に当たらせてやれってよー」 

 器用に紐を解いていく小さなランの姿を見ながらアイシャが少しだけ目を潤ませていた。

「ランちゃん・・・」 

「おやっさんのお考えだ。それとアタシのことを今抱きしめてみろ・・・ぶっとばすからな」 

 そう言われるとアイシャはがっくりとうつむいてしまう。それを見ながら黙々と作業を続けてワイシャツに袖を通している要が大きく頷いていた。

「叔父貴だからな・・・で、現在の豊川署の捜査担当の部署は?」 

「あそこは捜査二課だそうだ。しかも専従捜査官はいねー」 

 ランはカウラの右足の足袋を脱がせると今度は左足に取り掛かる。そしてそんなランの言葉に予想通りだというように要は口笛で応じた。

「軽犯罪ですか・・・まあ法術の違法発動だけならそんな感じですよね」 

 誠も胴丸や上半身の小手などを自分でとって足袋を脱ぎ始める。その様子を確認するとランはそのままカウラの左足の足袋を脱がせた。

「まあそんなところだ。危機感が足りねーんだろうな。この前はあれほど大騒ぎしたのに被害が小さければなかったことにする。まったくお役所仕事って奴さ」 

「アタシ等もお役所ジャン」 

「くだらねーことやってねーで早く着替えろ!」 

 ランの言葉に舌を出すと要はすばやく鎧の胴を元の箱に戻した。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 52

「それよりクラウゼ。お願いはどーした?」 

 ようやく話を戻そうとしたラン。しばらくアイシャは話を振られたことを気づかないように突っ立っていた。

「早く話せよ。くだらねー話ならぶん殴ってやるから」 

 指を鳴らしながら小さなランがすごんで見せる。誠から見てもその光景はかなり滑稽だった。小学生がプロスポーツ選手を脅迫しているようにしか見えない。つい笑いがこみ上げてくる。

「私達を派遣してくれませんか?豊川署に」 

『は?』 

 時が止まったようだった。誰もがアイシャの言葉の意味を理解できずにいた。ただ一人吉田は納得したように頷いている。

「あれか。法術関係捜査の実績はあるからな。その経験を生かしての助っ人と言うことなら・・・受け入れてくれるかもしれないねえ」 

 吉田の言葉にようやく全員がアイシャの意図に気づく。そしてその視線は自然と法術特捜の全権を握る茜へと向けられた。

 茜は襟元に手をやりしばらく考えていた。

「実績ならありますよ。厚生局事件の報告書は豊川署でも閲覧できるはずですから」

 アイシャの言葉に小首をかしげて考えにふける茜。

「アタシは無理だが・・・クラウゼにベルガーに西園寺に・・・神前。これで十分だな」 

「え?島田君達は?」 

 そんなアイシャの言葉に首を振るラン。彼女も一応この部隊の主である技術部部長、許明華大佐の部下に隊を離れる命令は出せないことは誰にも分かっていた。

「お前等経由なら色々情報も豊川署に流してやれるし・・・あちらも所轄の膨大な資料を扱っているんだ。俺等の知らないことも知ってるはずだしな」 

 なんとも他人事のように吉田はそう言うと立ち上がった。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 51

「あっお嬢さんいらしたんですか?」 

「吉田少佐。そんなに卑屈にならないでいただけます?」 

 いつものように優雅に空いた丸椅子に腰掛ける。当然のようにその隣には荷物を持ったラーナが立っている。

「卑屈にもなりますよ・・・捜査に関しては嵯峨の親父が助けを呼ぶまで手を出すなって言われてますし」 

「じゃあさっきの話だとすでに手を出しているみたいですわよ」 

 いつもの氷のような流し目で吉田を一瞥して黙らせるところは茜の父が遼州一の悪党と呼ばれる嵯峨惟基であることを再確認させた。

「でも今のうちに事件を起こして喜んでいる馬鹿をあぶりだすのは得策じゃねえのか?今は人死にが出ていないんだ。そのうち暴走してどうなることやら・・・」 

 要の言葉には誠もカウラも頷くしかなかった。

「でもそうなれば東都警察は面目丸つぶれよね。税金泥棒の地位がうちから移るのは結構なお話だけど・・・」 

 鉄製の重い胴を外して伸びをしながらのアイシャの言葉。誠はやはり自分が組織人であることを再確認した。

「よくわかっているじゃねーか」 

 そう言って歩いてきたのはすでに勤務服に着替えを終えて半分笑顔を浮かべているランだった。

「今回は多少は東都警察に活躍してもらわなきゃなんねーんだ。きついぞ、人に手柄を取らせるってのは」 

 頭を掻きながら部屋の隅の折りたたみ椅子を小さな体で運んでくるラン。

「クバルカ中佐!お願いがあるんですが!」 

「アイシャ・・・萌えたから抱きしめさせてくれってーことならお断りだかんな」 

 アイシャを警戒するような瞳で見つめるラン。それをみてカウラが噴出しそうになる。

「信用無いですねえ。アタシ」 

「まあいつものことだからな」 

 そう言いながら要は小手を外す作業に取り掛かった。

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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 37

「解剖か……」 

「俺がですか?」 

 突然の声に驚いて振り返る要。そこにはつなぎを着た技術部整備班班長の島田正人准尉が立っていた。

「ちゃんとノックぐらいしろ!」 

「しました。気づいてないのは西園寺さんくらいですよ」 

「アタシも気が付かなかったよ!」 

「ナンバルゲニア中尉は……まあいいです」 

 そう言うと島田はディスクを一枚シャムの前に差し出した。

「何?これ」 

 シャムの言葉に大きく肩を落とす島田。そして要に目をやる。要は自分が話しの相手で無いと分かるとそそくさと自分の席に戻って書類の作成を開始していた。

「先週の対消滅エンジンの位相空間転移実験の修正結果です」 

「エンジン?あの時はちゃんと回ったじゃん」 

 抗議するような調子のシャムに大きくため息をついた後、島田は頭を掻いてどう説明するか考え直しているように見えた。

「無駄無駄。どうせシャムにはわからねえよ」 

「要ちゃん酷い!アタシだって……」 

「じゃあ対消滅エンジンの起動に必要な条件言ってみろよ」 

 要にそう言われると黙って何も言えないシャム。フォローしてやるかどうか考えている吉田は黙って動くことも無かった。

「まあぶっちゃけ理屈が分からなくてもきっちり成果はありましたと言うのが結論なんですがね」 

 島田はそう言うとそのまま立ち去ろうとする。シャムは首を捻りながら相変わらず対消滅エンジンの理論を思い出そうとしていた。

「ああ、解剖なら最適の人材がいたな」 

 何気ない要の一言にびくりと驚いたようによろける島田。それを見てさらに要はにんまりと笑って立ち上がりそのまま島田の肩を叩いた。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 36

「弓だね!それは名人がいるよ!」 

 シャムの言葉に気分を害したと言うように要がうつむく。

「もしかして西園寺大尉が?」 

「違うよ、隊長。隊長の家の芸が流鏑馬なんだって」 

「流鏑馬?」 

 不思議そうでそれでいて興味津々のロナルドに嫌々ながら要が口を開いた。

「馬を疾走させながら的を射抜くんだ。結構慣れとか必要らしいぞ」

「隊長が……あの人はスーパーマンだな」 

 ロナルドは感心したように何度と無くうなづいた。それを見ている部下のジョージ岡部大尉とフェデロ・マルケス中尉はすでに知っていると言うような顔でロナルドを見つめていた。

「でもなあ……叔父貴がスーパーマンだとスーパーマンがかわいそうだな」 

「確かにね。あんなに汚い部屋に住んでるんだもんね」 

 シャムの言葉にロナルドはうなづいた。

 隊長室。そこは一つのカオスだった。趣味の小火器のカスタムのために万力が常に銃の部品をはさんでいてさらにそこから出た金属粉が部屋中に散らかっている。かと思えば能書で知られることもあって知り合いから頼まれた看板や表札のためにしたためられた紙があちこちに散らばる。そして常に書面での提出を求められている同盟司法局への報告書の山がさらに混乱に拍車をかける。

「まあ芸が多いのと部屋を片付けられるのは別の才能だからな」 

 ロナルドは納得したように席に戻った。

「それにしても……誠ちゃん大丈夫かな」 

 話を変えてシャムはそのままにやけながら要を見つめた。

「何が言いてえんだ?」 

 明らかに殺気を込めた視線で要はシャムをにらみつける。

「だって東都の病院でしょ?警察とか軍とか誠ちゃんの秘密を知りたい人達の縄張りじゃないの。下手をしたら隊長みたいに解剖されちゃうかも知れないよ」 

 シャムの豊かな想像力に要は大きなため息をついてシャムを見上げた。




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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 50

「手がかりは無し・・・まあ期待はしていなかったがな」 

 ハンガー奥の用具室の中。大鎧の盾を誠に外してもらいながらカウラがつぶやいた。節分の時代祭りでの武者行列。保安隊が設立されてから豊川市の時代行列の源平合戦武者行列は一気に歴史マニアに注目されるイベントになっていた。

 基本的には士官は大鎧で馬に騎乗し、下士官以下は腹巻姿でそれに従う。

 しかし、馬との相性が最悪のカウラは大鎧で一人歩いて行進していた。今日のグラウンド一周の練習の時も嵯峨の顔で借りた乗馬クラブの馬との相性の悪さを再確認させるだけだった。

「それにしても・・・アイシャ」 

 鎧の胴を外しながら要が大きくため息をつく。その目の前には他の隊員とはまるで違う鎧姿のアイシャがいた。

「なに?要ちゃん」 

「その鎧やっぱおかしいだろ?おかしいと思わないのか?」 

「いいじゃないの。これは私の私物なんだから」 

 そう言って鉄でできた胴を外すアイシャ。彼女だけは戦国末期の当世具足姿だった。剣術道場の息子で多少そういう知識もある誠も違和感を感じはするが、どうせアイシャに何を言っても無駄なのは分かっているのでただ黙ってカウラが鎧を脱ぐのを手伝っていた。

「そう言えばシャムは?」 

 要は床机に腰をかけて一月の寒さを身に受けながらも平然と扇を弄っている吉田に声をかけた。

「あいつか?馬の世話だよ。それにしてもなんだ・・・お前等の追っている事件」 

「他人の能力で相撲を取る卑怯者のことだろ?何か知っているのか?」 

 そう要に言われるとむっとしたように吉田は扇子を叩いた。

「犯人の拠点が東都西部に移ったと読むべきか・・・たまたまこちらに来て悪戯の虫が騒いだのか・・・」 

「吉田少佐。もしかして住民認定の記録を全部見たんですか?」 

 呆れたように口を挟んだ誠に頷く吉田。

「でもなあ・・・法術関係の資料は極秘扱いだ。俺でも簡単には開けない。そこで法術特捜の名前で捜査令状を・・・」 

「無茶をおっしゃらないでいただけます?」 

 そこにはいつの間にか鎧兜の並んだ部屋にふさわしいような和服姿の茜が立っていた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 49

 法術適正があるが何の能力も無い。そんな思い込みが次第に変わっていくのを水島は感じていた。

 街を歩けば能力を持ち腐れさせている多数の法術師に出会う。そしてその能力を使ってやるのが義務ではないかと思い始めていた。パイロキネシストがいれば近くのごみ置き場に火をつけてやった。空間干渉能力があれば近くの立ち木を切断して見せてやった。

『みんな色々できるんだぜ・・・俺達を見限った連中に一泡吹かせるくらい楽なもんだ』 

 にやける頬を引き締めながら水島はいつも思っていた。

 この世界は力の無いのと力のあるものがいるというのは不完全な認識だと彼は考え始めた。

『力があっても使わなければ意味が無い』 

 そう言う訳で司法大学院の勉強の傍ら町を徘徊して彼等の力を使った。小さな小火で十分だった。ちょっとした車のタイヤを割ることで納得できた。

 この世界が法術師を生んだのならそれにふさわしい待遇が必要になるはずだ。能力の上に眠るものに何の権利も無い。そう思いながら日々散歩を繰り返していた。

 ただ最近は警察の目が気になり始めていたところだった。司法試験を目指すだけあって警察が単純に能力者の摘発だけをしているうちは安心できた。

 テレパシー能力のある暇そうな警邏隊員の思考を読み取ってみれば段々自分の能力が特定されてきていることを感じていた。だが同時に今のささやかな楽しみと化している通行人の能力解放はとめることができなかった。

 幸い水島は豊川市の司法大学院に入学することができた。これで田舎の自分の力を知らない連中だけを相手にすれば言いとなると気が楽だった。

『さて、次は何をしようか』 

 部屋の中で大の字に寝転び天井を見上げながら湧き出す笑顔に耐え続ける。

『そう言えば豊川といえば保安隊・・・法術を最初に使った空気の読めない馬鹿がいたな・・・』 

 そんなことを思い出すと近くに寄ってみたいというような酔狂な気分になる水島だった。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 48

「ふう」

 水島勉はようやく部屋にたどり着いてコタツにもぐりこむと大きくため息をついた。そして自分が何をしたのかようやく分かってきて沸いてくる笑顔がとめることができなくなっていた。

「法術師・・・悪くないな」 

 久しぶりの自分の笑顔になんだか楽しくなってくるのが分かる。

 半年前。会社を突然解雇された。理由は半月前に社で強制的に受けさせられた法術特性が陽性だったからだった。組合に入っていた同僚達はそのまま団体交渉に入ったが、組合というもののアレルギーを持っていた彼は一人で退職して量に半年間居住できるという条件で満足した。

 実際あとで聞いてみれば自分の反応は他の法術師の反応とは違うということだった。なんでも空間に介入して時間軸や状態を変性させる能力や思考を読み取ったりする能力があるという話だが、彼にはそんな能力があるわけではなく、仕方なく学生時代の教科書を引っ張り出して法律の勉強を始めた。

 再就職を諦めたのは正解だったと水島は思っている。

 実際、法術師を歓迎しているのは軍と警察くらい。どちらも年齢制限で彼が応募できるわけも無かった。それ以前に人事一筋の彼が犯罪者相手に渡り合えるなどとは自分でも思っていなかった。そんな彼にも転機が来た。

 それは寮からの退去を勧告されてようやく東都湾岸のウィークリーマンションに腰を落ち着けた時期だった。

 いつものように彼は勉強の疲れを癒そうとコンビニに入りビールを買うとそのまま会計をしようとレジへ向かった。湾岸地区はあまり治安がいいとはいえない。事実その時どう見ても堅気には見えない若者が勢いよく扉を開けて入ってきた。その時だった。いつもなら目を合わせることすらできずにレジで硬くなっている自分が何かを脳で感じた。

 まさに脳で感じたという状態だった。そして心の中で叫んだ。

『はじけろ』

 彼にとってはそれだけだったが、次の瞬間に起きた出来事は水島の予想を超えたものだった。

 紫色のニッカポッカの男の髭が火で覆われた。何が起きたか分からないというように呆然としたあと、男はそのまま顔を抑えてのた打ち回り始めた。明らかに何も火の無いところから火が回り転げまわる男。

 助けを呼ぶ仲間や店員を見ても誰も何も気づいていない。

『俺の力なのか?これが法術なのか?』 

 心の中でそう思いながらただ立ち尽くすしかない自分に気づくと苦笑いが浮かんできた。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 47

「ウォホン!」 

 初老の警部の咳払いに陰口をやめたアイシャと要だが、その目は完全に東都警察には法術師関連の事件捜査はできないと決め付けるような温かい目だった。

「じゃあわたくしにも見せていただけませんでしょうか?実地の検分等は済ませたんですわよね?」 

 茜が口を開くが猛烈なアルコール臭に警部は眉をひそめる。

「それはしらふに戻ってからのほうが・・・」 

「これくらいはたしなむ程度ですの。それにこういう事件は初動捜査が犯人逮捕の鍵と言うのが信念ですから」 

 そう言うと茜はそのまま捜査官達がたむろしている階段へ向かおうとする。必死になって警部が止める。

「その・・・酔いが醒めるまで・・・少し仮眠を取ってから・・・」 

 慌ててしがみつこうとする警部の手が袖にかかるのを嫌うように茜は身を翻した。

「そうですわね。お酒が入っているのは事実ですものね。それじゃあ明日早朝にはお伺いしたいので資料などをそろえておいていただけません?」 

「ええ、揃えますから!ですから!」 

 土下座でもしかねない相手に軽く笑みをこぼすと茜は呆然と突っ立っている誠達の所にやってくる。

「ベルガー大尉」 

「は?」 

「お部屋に泊めていただけません?」 

 突然の茜の申し出にぽかんと立ち尽くすカウラ。そしてその横ではニヤニヤ笑っている要とアイシャの姿があった。

「自分はかまいませんが・・・寮は狭いですよ。妹さんのお部屋はかなり・・・」 

「あの子は駄目。知っているでしょ?あの子の性癖」 

 大きくため息をつく茜に誠達はただ同情の視線を向けるだけだった。

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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 46

「何するのよ!痛いじゃないの!」

「そりゃそうだ。痛くしてるんだからな」 

 いつもの要とアイシャの小競り合いに苦笑いを浮かべながら誠は仕方なく反対側のドアから外へ出た。夜だというのに警察署の明かりはかなり煌煌と夜の空を照らしていた。

「それじゃあ行きましょう」 

 着物の袖を気にしながら助手席から降りた茜の案内で誠達は署の建物に向かう。

「婆さんがひっくり返って軽い怪我をしただけでこの始末か?」 

「法術の仕組みがまだよく分からないんだ。警戒するのにはこれでも不十分かも知れないぞ」 

 カウラの言葉を聞き流すように要は一人入り口で立ち止まった。

「アタシはタバコを吸っているから先行ってろよ」 

「仕方ないですわね」 

 いつものことなので慣れているというように茜はそのまま入り口の戸を押して署に入る。

「法術特捜の方ですか?」 

 茜の紺色の落ち着いた風情の和服。それなりに有名らしくすぐに警部の階級章をつけた初老の捜査官が声をかけてきた。要以外は全員が170センチ以上の長身の集団である。しかも島田が免許取り消しになった時などに顔を出していたのでそれなりに知名度はあった。

「この様子はちょっと意外ですわね」 

「ようやく東都警察も法術に関するノウハウを得たのですからこれからは反転攻勢に転じますよ」 

 明らかにこちらを舐めているような態度にカウラが頬を膨らませる。

「どうせ特殊法術部隊の受け売りじゃないの。当てにしていいのかしらねえ」 

 小声でアイシャが陰口をつぶやくのも誠が見ても当然の話だった。


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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 45

「厳戒態勢だな・・・やりすぎじゃ無いのか?」 

 目の前に豊川警察署が見えるとつい要はつぶやいていた。誠もその意見には同感だった。

 すでに二台のパトカーがパーラの四輪駆動車を置いて外に飛び出していく。正門を通れば早速警棒を持った警察官に止められた。仕方なくパーラは窓を開いた。

「済みませんが・・・どちらの・・・うわっ!」 

 窓に突っ込んできた警官は思わず車内のアルコールのにおいに驚いたようにのけぞった。

「ああ、私は飲んでませんから!」 

「そんなことよりも・・・これ、身分証」 

 厄介者を見つけたという表情の警官に茜が身分証を差し出す。その中を見るとすぐに警官は身じまいを整えて敬礼した。

「そちらの奥が空いています!」 

「有難う」 

 警官の態度の豹変に楽しそうな顔をしながら茜は着物の襟元を調える。

「過剰反応だな」 

「うちが鈍感なだけよ。結構法術に対する誤解はあっちこっちであるものなのよ」 

 カウラの言葉をアイシャがたしなめた。誠もこの警察署の対応がある意味今の東和を象徴しているような気分になってきた。

「はい、到着」 

 パーラのその一言に早速二番目の席のランとカウラが飛び出していく。

「元気だねえ」 

 そう言いながら要はなかなかドアを開けようとしないアイシャの後頭部を小突いた。

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