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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 149

「お姉さんさあ……」 

 いつもはこんなシャムの姿を見て立ち去るはずの信一郎が珍しくシャムにものを尋ねようとしている。その事実に不思議に思いながらシャムは口に当てていたコップをテーブルに置いた。

「保安隊の隊長……嵯峨惟基って人。遼南皇帝ムジャンタ・ラスコーなんだよね?」 

「どこで調べたの?」 

 意外だった。ただの受験生が知るには同盟の一機関の指揮官の名前はマイナーすぎる。そしてその名前と現在静養中と遼南が表向きは発表している皇帝の名前がつながるとはさすがのシャムも驚きを隠せなかった。

「ネットで調べればある程度のことは分かるよ。まあ一般的な検索サイトでは出てこないつながりだけど」 

「アングラ?手を出さない方がいいよ」 

 シャムの頬につい笑みが浮かんでしまう。その筋では化け物扱いされている吉田と先ほどまで同じ車に乗っていた事実がどうしても頭を離れない。

「そんなことどうでもいいじゃないか……どうなの?」 

 信一郎の言葉に曖昧な笑みを浮かべるとシャムは残っていた牛乳を飲み干した。

「知ってどうなるものでもないよ。……むしろ知らない方がいいことの方が多いんだ」 

「ずいぶん大人みたいな口を聞くね」 

 嫌みを言ったつもりか見下すような信一郎の視線をシャムは見返した。その目を見た信一郎の表情が変わる。まるで見たことのない動物を見かけてどう対処していいか分からないような目。シャムは自分が戦場の目をしていることにそれを見て気がついた。

「だって大人だから」 

 そう言い残してシャムは立ち去る。信一郎はただ黙ってシャムを見送った。背中に刺さる視線がいつものシャムに向けるそれとは明らかに違っているのが分かる。だがそれも明日の朝にはいつもの目に戻っている。シャムはそう確信していた。

 台所を出て隣はバスルーム。シャムはとりあえず顔を洗うことにした。

 冬。隊でシャワーを浴びただけだが汗はまるでかいていない。風呂場のお湯はこの時間は落ちている。深夜のシャワーは気を遣うのでシャムは嫌いだった。

「明日にしよ」 

 洗面所の蛇口をひねる。台所と同じ冷たい水が当然のように流れる光景にシャムは先ほどの信一郎の問いで毛羽だった自分の神経が静まっていくのを感じていた。

 静かに水を両手で受けて顔に浴びせる。

「冷たい!」 

 アルコールで火照った顔の皮膚を真冬の水道水が洗い清める。シャムはその快感に何度も浸ろうと手に水を受けては顔に浴びせてみた。



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テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 148

 シャムは背中に気配を感じて振り向く。

「ああ、お帰り」 

 そこには寝間着にどてらを着込んだ受験生の姿があった。

「何してるの?」

「いいじゃないか、牛乳くらい飲んでも」 

 信一郎はそう言うと冷蔵庫を開けて牛乳を取り出す。

「あ、アタシも飲む」 

「え……まあいいけど……酒臭いね」 

「そう?」 

 信一郎の言葉に体をクンクンと嗅ぐ。その動作が滑稽に見えたのか信一郎はコップを探す手を止めて笑い始めた。

「なんで笑うのよ!」 

「だって酒を飲んでる人が嗅いでもアルコールの臭いなんて分かるわけ無いじゃん」 

 そう言いながら流し台の隣に置かれたかごからコップを取り出した信一郎は静かに牛乳を注いだ。

「アタシのは?」 

「ちょっと待ってくれてもいいじゃん」 

 そう言うと注ぎ終えた牛乳を一息で飲む。その様子に待ちきれずにシャムはかごからコップを取り出して信一郎の左手に握られた牛乳パックに手を伸ばした。さっと左手を挙げる信一郎。小柄なシャムの手には届かないところへと牛乳パックは持ち上げられた。

「意地悪!」 

「ちゃんと注いで上げるから」 

 まるで子供をたしなめるように信一郎は牛乳パックを握り直すと差し出す。シャムはコップをテーブルに置いた。信一郎は飲み終えたコップを洗い場に置くとそのままシャムのコップに牛乳を注いだ。

「でもお姉さんは飲むのが好きだね。これで今週は三回目じゃん」 

「まあつきあいはいろいろ大変なのよ」 

「本当に?」 

 憎らしい眼で見下ろしてくる信一郎の顔を一睨みした後、シャムは牛乳を一口口に含んだ。

 口の中のアルコールで汚れた物質が洗い流されていくような爽快感が広がる。

「いいねえ」 

「親父みたい」 

 信一郎の一言にシャムは腹を立てながらも牛乳の味に引きつけられて続いてコップに口を付けた。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 146

 静かに、あくまでも静かにとシャムはバイクをおろしにかかった。

「ゴン!」 

「あ……」 

 バンパーにこれで十三度目の傷が勢い余って切ってしまったハンドルによって付けられた。

「だから言ったろ?」 

「は……ああ」 

 思わずシャムは照れ笑いを浮かべた。そしてすぐに周囲を見渡す。静まりかえった住宅街、見上げると魚屋の二階の一室だけが煌々と明かりをともしている。受験生佐藤信一郎は今日も勉強をしているようだった。

「聞こえたかな?」 

「多分な」 

 吉田はそれだけ言うと静かにバンのリアの扉を閉めた。

「それじゃあ俺は帰るわ」 

「え?お茶でも飲んでいけばいいのに」 

「あのなあ……一応下宿人としての自覚は持っておいた方がいいぞ」 

 苦虫をかみつぶしたような顔をした後、吉田はそのまま車に乗り込む。

「じゃあ、明日」 

 それだけ言うと吉田は車を出した。沈黙の街に渋いガソリンエンジンの音が響く。犬が一匹、聞き慣れないその音に驚いたように吠え始める。

 シャムは一人になって寒さに改めて気づいた。空を見上げる。相変わらず空には雲一つ無い。

「これは冷えるな」 

 なんとなくつぶやくとそのままシャムはバイクを押して車庫に入った。『佐藤鮮魚店』と書かれた軽トラックの横のスペースにいつものようにバイクを止める。鍵をかけて手を見る。明らかにかじかんでいた。

 そしてそのまま彼女は裏口に向かう。白い息が月明かりの下で長く伸びているのが見えた。

 戸口の前で手に何度か息を吹きかけた後、ジャンバーから鍵を取りだして扉を開く。

「ただいま……」 

 申し訳程度の小さな声でつぶやいた。目の前の台所には人影は無い。シャムはそのまま靴を脱いでやけに大きめな流しに向かう。

 鮮魚店らしい魚の臭いがこびりついた流しの蛇口をひねる。静かに流れる水に手を伸ばせば、それは氷のように冷たく冷えた手をさらに冷やす。

「ひゃっこい、ひゃっこい」 

 自分に言い聞かせるようにつぶやきながら手を洗うとシャムは静かに水を止めた。





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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 145

 シャムは気になっていた。吉田の『私的な通信』という言葉。最近特に耳にすることが増えてきていた。吉田についてシャムが知っていることは意外に少ない。二人が初めて出会ったのは遼南の戦場だった。

 遼南を二分した内戦。北部の人民軍と同調する北兼軍閥、東モスレム三派連合、東海軍閥と南部の共和軍と南都軍閥と介入していたアメリカ軍との戦いの中二人は敵味方として出会った。共和軍は多数の傭兵を使って戦意の低い自軍を支えていた。そんな傭兵の中でも屈指の腕利きとされたのが吉田俊平率いる部隊だった。

 彼は望んで亡命師団や胡州浪人で構成された精強部隊の北兼軍閥、つまり嵯峨惟基支配下の部隊と対峙した。その中にはオリジナル・アサルト・モジュール『クロームナイト』を駆るシャムの姿もあった。戦いは一撃で終わった。傭兵部隊の背後を潜入した特殊部隊で急襲した嵯峨は返す刀で吉田の部隊を挟撃。奮闘むなしく吉田の部隊は壊滅し、彼もシャムの手で討たれたはずだった。

 その後アメリカ軍が撤退し、南都軍閥に見限られて死に体の共和軍との死闘直前、女性の姿で吉田は現われた。

「とりあえず空いてた義体を有効に使ってやろうと思ってね」 

 減らず口をたたくところはその後の吉田そのものだった。その後嵯峨と吉田が何かを話していたのを覚えている。だがシャムは吉田にそのことについて深く聞くことは無かった。後で分かったことだが、その義体は要の予備の義体だった。

「本当に最近変だよ」 

 シャムの心配にただ曖昧な笑みで応える吉田。その目はそれ以上何も聞いてくれるなと哀願しているような悲しさを湛えていて、思わずシャムは黙り込んでしまっていた。

 道はそのまま住宅街の中へと続いていく。豊川市。東和共和国の首都東都の西に位置するベッドタウンらしい光景。あまりにも身近であまりにも慣れた光景。いつもなら何事も無く通過してしまった小学校の校門ですら吉田の異変が気になるこの頃では目新しいものに見えてくるのがシャムには不思議だった。

「ちゃんと静かに入るんだぞ。鍵はあるか?」 

「馬鹿にしないでよ。ちゃんと……」 

 シャムはジャンバーのポケットを探る。バイクのキーと一緒にまとめられた鍵。こういうときに見つからないことが多いので見つかって安心したようにため息をついた。

「ため息か……飲み過ぎじゃないのか?」 

 吉田の軽口に笑顔で応えた。そのまま車は大通りに一件だけの魚屋の前で止まった。

「早く下ろすぞ」 

 すぐさま吉田はエンジンを止めて車から降りる。シャムはそのままシートを超えて後部のスペースに固定されたバイクに手を伸ばした。

 バイクにはロープが巻き付けられていた。実に慣れた手つき。保安隊創立以降、こうして何度この古ぼけたバンの貨物室にくくりつけられてきたのか。シャムは思わず笑ってしまっていた。

「おい、早くしろよ」 

 開いた後部ハッチから顔を出す吉田にシャムは照れ笑いを浮かべた。そのまま慣れた手つきで手早くロープをほどいていく。

「傷は付けるなよ。骨董品なんだから」 

 憎まれ口を叩く吉田に愛想笑いを浮かべながらシャムはほどいたロープを手早くまとめてバイクに手をかけた。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 144

「アイツ等も進歩がねーな」 

「それもええんとちゃいますか?」 

 呆れるランをたしなめるようにそう言うと明石は携帯を取り出した。

「なにか?タクシーでも呼ぶのか?ならアタシも乗せてけよ」 

 ランの注文に頷きつつ明石はつながった電話と話し始める。

「ごちそうさまでした!」 

 さっぱりした表情のパーラの礼。明石は軽く手を挙げる。サラもそれにあわせるように頭を下げそのまま駅の方に歩き始める。

「全く、女将さんには頭があがらねーや」 

 ランの苦笑いにシャムも自然と頭を下げていた。そこに急に現われるワンボックス。

「明石、先に失礼するな」 

 顔を出した吉田に電話を握ったまま明石が手を振った。シャムはそのまま車道に出てワンボックスの助手席に乗り込む。

「いいの?もう少しカウラちゃん達がどうなるかとか見て無くても……」 

「餓鬼じゃないんだから自分でなんとかするだろ?」 

 吉田はそれだけ言うと車を走らせる。すでに深夜と呼べる時間だが繁華街を歩く人は多い。多くが頬を赤く染め、機嫌が良さそうに歩き回っている。

「平和だね」 

 シャムの言葉に吉田は静かに頷いた。すぐにアーケードは途切れ、シャッターの閉まった商店街の中へと車は進み、信号で止まる。

「それよりお前の所……静かに入れよな」 

 気を利かせたように吉田が言った言葉にシャムは頷く。今日はそれほど酔ってはいなかった。何となくいつも通りの一日。

 車が走り出すと周りの景色が動き出す。花屋、金物屋、模型店。どれも光るのは看板だけでシャッターは閉まり繁華街のように人が出入りする様子もない。時々見かけるのは会社帰りのようなサラリーマンやOL。誰も彼も取り付かれたように早足でこの商店街から抜け出すように歩いている。

 大通りが見えたところで吉田は車を路側帯に止めた。

「どうしたの?」 

 シャムの問いに弱々しげな笑みを浮かべる。吉田がこういう顔をするときは彼のネットと直結された脳髄になにがしかの情報が入力されていることを意味していた。

「なんでもないさ……私的な……本当に私的な通信だ」 

 それだけ言うと吉田はウィンカーを出して再び車を走らせた。



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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 144


 しばらく黙って下を向いている吉田に静かに近づいていくシャム。

「くだらないことなら止めておけ」 

 急に目を開いた吉田の一言にシャムは驚いたような顔をする。

「進歩がないな……行くぞ」 

 そう言うと吉田は立ち上がった。ビールは二瓶は飲んでいるが、すでにアルコールは完全に彼の体から抜けているのはいつものことだった。

「カウラちゃん。運転はだめだよ」 

「ああ、代行を頼むが……」 

 シャムとカウラは自然と倒れた誠達に目を遣る。いつもなら全裸の誠にいたずら書きをする要だが、今日はランと明石がいるので珍しく殊勝にパンツを履かせていた。

「久しぶりに見るとおもろいな」 

「人ごとだと思いやがって」 

 混乱を楽しむ明石を苦々しげな視線で見上げるラン。シャムは大きくため息をつくとそのまま階段を下りるラン達に続いていった。

「お愛想!」 

 明石はそう言いながらそのまま出てきた春子とともにレジに向かう。シャムは何となく疲れたような感じがして誰もいない一階を黙って通り抜けて外に出た。

 空は晴れ上がっていた。北風が強く吹き抜ける中、雲一つ無い空には大麗の姿が見て取れる。

「ああ今日も晴れか……明日も晴れそうだな」 

 出てきた吉田が声をかける。シャムは静かに頷く。

「明日もいい天気だといいね」 

「まあな。雪でも降られたら面倒なだけだ」 

 吉田はそう言うとそのまま歩き出す。

「おう、車を出してくるから。明石にはよろしく言っといてくれ」 

「勝手なんだから!」 

 シャムは手を振る吉田を見送りながら叫ぶ。街の深夜の明かり。いつものことながら人通りは絶えることがない。

「吉田はまた勝手に行っちまったのか?」 

 引き戸を開けて出てきたランが顔を顰める。シャムは頭を掻きながらランが開けた店の中を覗き込んだ。

 寝ぼけているように突っ立っているアイシャ。不格好に無理矢理服を着せたのがすぐに分かる姿の誠を背負う要の姿がいつものことながら滑稽に見えた。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 143

「そやけどそれが面白い」 

 にやりと笑う明石。シャムもつられて笑っていた。

「神前の時もただワシはキャッチボールで肩を作らせただけやねん。最初からベルガー、お前さん、クラウゼを相手に好きに投げてみて言うただけや」 

「でもちゃんと押さえたよ」 

 シャムの言葉に大きく頷く明石。そして静かに明石はサングラスを外した。大きな頭に不釣り合いな小さな細い目がシャムを捉える。

「結果は一番ええことになった。でもな、押さえんといても次押さえればええと思えるようになったんとちゃうやろか?打たれて当然や。そう思っとって気がついたら押さえられとる。その時にどこからかわいてくる自信。それを待つより他に策は無い」 

「ずいぶんとまー気長なことだな」 

 話を黙って聞いていたランが呆れてつぶやく。

「先任。下手な考え休むに劣る言うことですわ。結局30期で連敗は脱しましたから御の字で」 

 そう言って明石はサングラスをかけ直すと大声でからからと笑った。シャムもつられて笑っている。

「おい、タコ。もう締めようや」 

 手にしたテキーラの瓶が空になったのか振り回しながら要が声をかけてくる。明石は満足したように頷いた。

「おう、もうええやろ……ラビロフの機嫌もようなったみたいやからな」 

 シャムがちらりと明石の視線をたどるとサラと笑いあっているパーラの姿が見えた。それを見てシャムの顔にも笑みが浮かんでくる。

「よし!帰ろう!」 

 立ち上がるシャムにあわせてランと岡部も立ち上がる。あぐらを掻いていたランはまだしもまた岡部は正座していた膝が痺れるらしくふらふらしながらどうにも足下がおぼつかない。

「おう、岡部。しばらく休んどき」 

 明石はそう言いながら懐に手を入れて財布を取り出す。おごりと決まったこともあり、気を利かせた要が明石の肩に黒いコートと赤い長いマフラーをかけた。

「ありがとな」 

「いや、ごちそうさんです!」 

 すっかり上機嫌で叫ぶと要はそのまま下手に転がる誠とアイシャに駆け寄った。すでにカウラは寝ぼけているアイシャの頬を叩いて起こしにかかっていた。

「なんや、アイツ等は大変やのう」 

「いつものことじゃねーか?お前の時もそーだろ?」 

 鷹揚に振る舞うランに参ったというように頭を掻く明石。シャムが自分のいた鉄板を見れば。神経を肝臓の生体プラントに集中してアルコールを分解している吉田の姿が見て取れた。





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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 142

「そこで、ワシは言ったわけやが……」 

 明石の言葉にシャムは息を飲んだ。沈黙が場を支配する。いつの間にかランも岡部も箸を休めて明石の言葉に聞き入っていた。

「なんて言った思う?」 

「……うーん……」 

 考えるシャム。打たれるはずがないのに打たれる。シャムは今回の誠が初めて見るケースだった。それを18歳で目にした明石。その言葉がどんなものだか想像もつかない。

「分からんか?」 

「……うん」 

 渋々認めるシャムににんまりと笑顔を浮かべて見せる。明石はそのまま茶碗を手に取ると再び一口汁を啜った。

「打たれてみ、言うたったわけや。ええやん。打たれとうないって投げて打たれるんなら打たれて当然や思うて打たれた方が気が楽やろ?」 

「でもそしたら打たれるよ」 

 シャムの言葉に明石は意味ありげに誠を見る。シャムもその視線を追った。確かに誠は打たれなかった。おそらく明石が言ったのも先ほどと同じ言葉だろう。

「でもなんで?」

 素直なシャムの疑問に明石は大きく頷いた。

「あのなあ。母校やから言うんとちゃうが一応帝大は最高学府や。アホは入れん大学や。そこで酔狂に野球を仕様なんて言う輩はそれなりの覚悟があってやっとる。最低限の時間でできる筋肉トレーニング。より速い球を投げるためのフォームの修正。変化球の微妙な握りを研究しての独特な変化をする持ち球。一つ一つは野球一本でやってきた実業大やらの連中にも負けへんものがある……では無いのはなんや思う?」 

「ええと……自信かな?」 

 シャムのとりつくような言葉に明石は満足げに頷いた。

「それやねん。実績言うものは人を大きくするもんや。実力が同じでも実績が違えば出せる力の差は数倍にも跳ね上がるもんや。自信を持て言うて持てるならワシかて誰にだって一日中言い続けてもええ思うがそれは無理な話やからな。自信が無いところからの出発……難しいで」 

 それだけ言うと明石は手にしていたどんぶりから一気にお茶漬けをのどに流し込む。その見事な姿にシャム達は目を引きつけられた。

「でも……打たれていいのと自信とどう関係するの?」 

 食べ終わって一息ついた明石にシャムは尋ねた。明石はただじっと茶碗を見つめた後、静かにそれを鉄板の隣に置いた。

「自信をつけるには実績が一番の薬やけど……これを手にするのはなかなか難しい。正直、才能が上の相手を迎え撃ってそれを倒してこその自信やからな……なかなか難しい」 

 まるで自分に言い聞かせるように明石はそう繰り返した。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 141


「ご苦労さん」 

 明石は茶漬けを受け取るとそう言って笑った。こういうときでもサングラスは外さない。隣のランも楽しげに茶漬けに箸を伸ばす。

 軽く茶碗の中をかき混ぜると明石は静かに汁を啜り込んだ。

「ええなあ、こういう時の茶漬けは」 

 しみじみとそう言いながら黙って座っているシャムを見つめる。少しばかり恥ずかしそうに箸を持った手で頭を掻くと明石は静かに茶碗を置いた。

「ナンバルゲニア。聞きたいことがあるんちゃうか?」 

 突然の明石の言葉にシャムはあまさき屋に着いてから常に疑問に思っていたことを思い出した。

「うん、あるよ」 

「ならはよう言わんとな……神前のことか?」 

 静かな調子でつぶやく明石にシャムは素直に頷いた。しばらく遠くを見るように視線をそらす明石。その先には裸で寝っ転がっている誠がいた。

「ワシが帝大の野球部に入ったときはひどいもんやったわ」 

 昔を思い出す表情。明石にどこか照れのようなものが感じられてついシャムは意地悪な笑みを浮かべてしまう。それを知って知らずが明石は言葉を続ける。

「入学前から知っとったが帝大野球部は29期連続勝ち星なし。しかも平均失点が8点。そのほとんどが5回以内で先発が捕まって勝負が決まっとる……そんなチーム。どない思う?」 

 シャムは突然明石に話題を振られて戸惑うように首をかしげた。シャムはそのようなチームに所属したことは無い。遼南の出身高校の央都農林高校は強豪校で知られ、シャムと同期には後に東都でプロになった速球派のエースがいた。ピッチャーが粘るから打線も守りも手が抜けない。そんな環境を経験してきたシャムには未知の世界。明石は笑顔を浮かべた。

「入った直後は一年坊主や、ワシも。確かに高校時代はそれなりに打撃で顔は知られとったがいきなりブルペンで球を受けろと監督に言われたときは肝を冷やしたわ。ぽこぽこ打ち返されることで有名な投手陣と言ってもみんな先輩や。下手に『これならワシでも打てまっせ』なんて言おうもんならどないなことになるか……」 

 そこまで言うと明石は再び茶漬けに手を伸ばす。静かに一口啜り込むとじっと口の中で味わっているように視線を落とす。シャムがそんな明石から目を離すと隣で明石の話に聞き込んでいるランと岡部の姿があった。

「正直びくびくもんや。どんなひょろひょろ球が来るか……逆に怖かったくらいや……で、どんな球が来たと思う?」 

 急に問い返されて慌てたシャム。顔が赤く染まるのが自分でも分かる。そんなシャムを面白そうに楽しんだ後、明石は口元を引き締めた。

「ちゃんとええ球が来たんでびっくりしたわ。キャッチボールの時の球に毛が生えたようなのが来る思うとったのがびしばしミットに響く力のある球や。二年生の補欠まで受けたが数人外れは確かにおったが……なんであんなに打たれるのか不思議な感じがしてな……」 

 明石はそう言うとじっとサングラス越しにシャムを見つめる。シャムは話がようやく本題に入ってきたのに気づいて握る手に力を込めた。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 140

 しんみりとした雰囲気。マリアは気にする様子もないが、明らかに背後で小夏がシャムを心配そうにのぞき見ていた。

「カウラちゃんなら大丈夫だよ」 

 シャムの言葉に気分が変わったようでマリアが笑みを浮かべながら頷く。

「そうだ、つまらない話を聞いてもらった例だ。上に届けてくれないかな……そうだ、茶漬けが欲しい時間帯だろ?」 

 気を利かせたようなマリアの声にシャムは指を折り始める。

 もう誠とアイシャはダウンだろう。要は締めの茶漬けは手を出さない主義だった。そうなるとラン、明石、岡部は確実に茶漬けを頼む。カウラはそもそも酒を飲んでいない。別れ話を相談しているだろうパーラやそれを聞いているサラも茶漬けには手を出さないだるう。

「じゃあ3人前かな」 

 シャムの言葉に小夏は笑顔で厨房に入って行った。見送るマリアの暖かい視線。

「お前の分はどうなんだ?」 

「アタシと俊平はいいよ。あまり気にしない質だから」 

「そうか。なら私達もお愛想にするかな」 

 早速立ち上がるマリアに続いて部下達も立ち上がる。ちょうど二階からほろ酔い加減の春子が下りてきたところだlった。

「あら、マリアさん。今日はおしまいなの?」 

「ああ、また寄せてもらうつもりだ」 

 ほとんど同じ年の二人。どちらも東和の常識と離れた世界を生きてきただけあって気が合うところがある。財布を取り出すマリアを見ながらそのまま春子は小走りで戸口にあるレジに向かう。

「師匠、できました」 

 小夏がカウンター越しにお茶漬けを差し出してきた。シャムはそれを盆にのせるとそのまま階段を駆け上った。

 入り口には座布団を枕代わりにして眠りにつくアイシャとその隣に放置されている全裸の誠の姿があった。

「要ちゃん、またやったの?」 

 シャムの視線は静かにエイひれをかみしめている要に向いた。

「まあ、こいつ弱いから」 

「要ちゃんが強すぎるんだよ」 

 シャムはそう言いながら上座のラン達のところまで茶漬けを届けることにした。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 139

『脱げ!ほら神前!脱げ!』 

 要の叫び声が響く。

「いよいよ佳境と言うところかな」 

 マリアの口元に皮肉を込めた笑みが浮かぶ。シャムはどうにも情けない出来事にただ照れ笑いを浮かべるだけだった。

「シャム、カウラのことを頼むな」

 突然のマリアの言葉にシャムはしばらく思考が停止するのを感じていた。

「なんでマリアが?境遇が違うでしょ?」 

 シャムの問いにマリアは静かにほほえむ。そして言葉を選びながら言葉を続けた。

「確かにな。私には父も母もいた。どちらも先の第二次遼州大戦で死んだが。でも気がついたら戦うしか無かったところはにているかもしれない。アイツは戦うために作られた。私は戦うことが生きることだった」 

 そう言うとマリアは部下達の顔を眺めた。

 シャムも第六星系に侵攻したゲルパルトの蛮行やその後の地球軍の不当占拠に対する抵抗運動の激しさはレンジャー教官として派遣されてくる第六星系連邦の兵士達から聞かされていた。

 居住ブロックには百メートルごとに兵士が立ち、抵抗すると見なされたものは即座に拘束され容赦なくエアロックの外に放り出される。居住可能惑星では考えられない蛮行が独立まで果てしなく続いた支配への抵抗。

 その中を常に死と隣り合わせで生きてきたマリア。彼女は一口ウォッカを飲むと口を開く。

「戦争というのは人を機械として扱う一つのシステムだ。そこには生まれも育ちも関係のない人々が歯車として戦争を遂行するために投入される。人造人間が作られた理由もそう考えると分からないでもない。歯車には感情は必要ない。いや、感情はむしろ無駄だ」 

 マリアはそこまで言って言葉を飲み込んだ。シャムもなぜ彼女が言葉を飲み込んだのか分かっていた。シャムもまた戦場を生きた経験を持っていたから。

 感情は時に人間をどこまでも残酷な道具へと変える。シャムが経験した遼南内線末期の戦場。それまで支配者として君臨してきた共和軍の傭兵達をゲリラ達が虐殺する様を何度見てきたことか。武装解除され命乞いする傭兵達を即死させないように急所を外しながら銃剣で突き回す少年。目を抉られ、鼻を削がれ、腹から内蔵を垂れ流しながらうめく傭兵を見ても歓喜の声を上げながら石を投げつける老婆。地球からの派遣軍の兵士にレイプされて身ごもったという妊婦が死んだ傭兵の頭を蹴り上げて笑っていた様を思い出すと今でもシャムの足が震えてくる。

 彼等がその後どうなったのかシャムは知らない。時々東和でも遼南内戦の悲劇を語るテレビ番組が流れるが、参加した傭兵も地元の一般人達も当時が狂気に満ちていたことは語ろうとしない。ただ戦争は悲惨だと繰り返すばかりだった。そこに感情のある人間が武器を持って立てば必然として起きる狂気からは皆が目を背ける。

 ゲルパルトの指導者がそんなことを憂いて人造人間を作った訳では無いことはシャムも承知していた。遼州外惑星で、他の植民星系で、地球で降下したの中央アジアや南米などにおいて行われた極めて組織的な虐殺の容疑で多くのゲルパルト国家労働党の武装親衛隊員が処刑された事実はもし間に合えばカウラ達も感情を持たずに虐殺を行う機械になっていたのかもしれないとシャムも思うことがある。

 マリアの手もたぶんそんな狂気の中で血に染まったことがあるのだろう。部下達も黙り込んだままじっとしていた。機械として、殺す機械として生きたマリアが殺す機械になるべく作られた自分と真正面から見つめ合っているカウラにシンパシーを感じる。

 シャムはその悲しい関係をただ黙ってみていることしかできない自分に無力感を感じていた。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 138

「シャムか。上は相変わらずみたいだな」 

 笑顔のマリアの声に直属の部下達も興味深そうにシャムを見つめている。

「まあいつものことだから」 

「休めるときは休むのがこの業界のしきたりだ。一度ことが起こればもう取り返しがつかないからな」

 厳しい口調のマリアに周りが凍り付くような気配を感じた。幸い他の客はいなかった。

 シャムはマリアのことは好きだが、どうもこの不意に訪れる緊張感というものに耐えきれない。ただ愛想笑いを浮かべて周りを見渡す。

「そう言えば菰田君達は?」 

 シャムの言葉に首をひねるマリア。その時小夏がシャムの肩を叩いた。

「逃げましたよ、アイツ等なら。どうせまたぐだぐだになるなら巻き込まれたくないっていった感じで……」 

 そんな小夏の告げ口にシャムは大きくため息をついた。

「そんなだからカウラちゃんに嫌われるんだよ。写真を部屋に飾って喜ぶのが好きってことじゃないぞ!」 

「おう、シャム。いいことを言うじゃないか」 

 テーブルに肘をつきながらショットグラスをちらつかせるマリア。シャムもそんなほろ酔いのマリアは美しいといつでも思っている。

「そうだよ、だっていつも好きだ好きだって言ってるくせに本人の前では堅くなっちゃって……かと思えば誠ちゃんに嫌がらせをしたりとか……本当に卑怯だよ」 

「まあ卑怯ついでなら神前の奴も相当な卑怯者だと思うがな」 

 マリアの言葉にマリアが故郷の第六惑星系連邦の独立戦争に参加してきたときから付き従っている猛者達も大きく頷く。

「誠ちゃんが卑怯?」 

 今ひとつ言葉の意味が分からずにシャムは首をひねった。そんなシャムをからかうような笑みを浮かべた後、マリアは軽く手にしていたショットグラスの中のウォッカを煽った。

「そうじゃないか。カウラが常に自分のことを気にしているのにそれに誠実に応えるようなところは見えないじゃないか。西園寺のへそ曲がりやアイシャの馬鹿とは違って見たまんま本気で自分に感心がある女に何も応えないのは誠実と言えるか?」 

 シャムはマリアの少し上から見ているような視線に戸惑いながらしばらくその言葉の意味を考えていた。

「確かにカウラちゃんが一番普通に誠ちゃんのことが好きみたいだけどね」 

「そう思うだろ?」 

 上機嫌でマリアは自分の名前の書かれたウォッカの瓶を傾ける。

 シャムも三人とも誠を嫌いでは無いことは分かっている。でも誰を応援したいと言うことは特になかった。要は一緒に騒ぐのにはいいが本心で自分と騒いでくれているのか微妙なところがあると感じていた。アイシャも自分の人造人間という生まれを必死に克服しようとしすぎていてその為に誠を利用しているのではないかと感じることもあった。

 だがカウラはまだ培養液から出て8年しか経っていない最終ロットの人造人間だった。アイシャのような余裕は無いし、要ほどすれてもいない。

 マリアはそんなところでカウラを気に入っているのだろうか。そんな疑問を感じながらしばらくカウンターの前で立ち尽くしていた。




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ジャンル : 小説・文学

遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 137

「大丈夫?岡部っち」 

「ああ、なんとか」 

 そう言いながら立ち上がりつつも膝を押さえる岡部。

「かなり痺れたんだね」

「まあそれなりに」 

 岡部はそのままアイシャのところまで来るとじっとその様子を観察している。

「特に異常は無いみたいだな。とりあえず奥に寝かせよう」 

 そう言うと岡部はアイシャの肩を持ち上げた。するとアイシャの腕が岡部に絡みつく。

「誠ちゃん……」 

 突然の寝言に苦笑いを浮かべる岡部。シャムもアイシャの腰を持ち上げながら岡部のまねをしたような顔をする。

「落とすなよ!」 

 要の茶々を受けながらずるずるとアイシャを引きずる二人。ある程度予想はされていたことなので誰も口を挟むことはしない。

「それにしても……重いね」

「余計なお世話よ」 

 突然アイシャの目が開く。シャムは驚いて手を離しそうになるがそれがアイシャの寝言だと分かって安心してそのまま部屋の隅にアイシャを運んだ。

「こうして座布団を枕にして……しかしこの部隊はろくな飲み方をしないな」 

 相変わらずの困ったような表情の岡部にシャムはただ頷くしかなかった。

「エイひれお待ち!」 

 誠がお盆を持って現われる。慣れた手つきで次々と鉄板の横のスペースに皿を並べる誠。

「ずいぶん慣れたね誠ちゃんも」 

「まあこういう生活長いですから」 

 こちらもまた疲れたような表情。菰田とソンは下のマリア達を接待しているようで二階に上がってくるそぶりすらない。

「あとは私がやるから。誠ちゃんは飲んでて」 

 シャムの提案に一瞬不審そうな顔をする誠。思わずシャムは口をとがらせて彼からお盆をひったくるとそのまま階段を駆け下りた。

「あ、師匠。ありがとうございます」 

 カウンターでビールを運ぼうとしていた小夏がシャムに声をかける。四人がけのテーブルには金髪のマリアが警備部の古参の士官達とちびちびと酒を飲んでいるところだった。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 136

 だだをこねるように頭を振り回すアイシャにカウラはほとほと参ったように上座に目を遣った。

「なんだ?クラウゼは泥酔か?」 

「もう少し飲ませて寝かせたれ」 

 無責任な発言を繰り広げるランと明石。仕方がないとカウラが後ろを向いたときだった。

「任せろ」 

 要は迷わずそれまで誠に飲ませようとしていた液体を手に颯爽と現われる。

「おい、アイシャ」 

「なによ」 

 突然の要のちん入に少しばかり戸惑いながらアイシャが答える。要は得意げにグラスの中の液体を振ってみせる。

「これ、神前にやろうと思ってたけどお前にやるわ」 

「何これ?」 

「ああ、神前の野郎のグラス」 

「え?」 

 驚いたがすぐにアイシャはそれを奪い取ると中身も確かめずに一気に飲み干した。

「ほらな」 

 要の言葉の終わると同時にぱたりとアイシャは倒れ込んだ。

「大丈夫なの?要ちゃん」 

「まあな。最近は加減を覚えたから。何度も神前の裸踊りを見るのは飽き飽きしていたところだから」 

 それだけ言うと要は何事も無かったように去っていく。倒れたアイシャにじっと視線を落とすシャム。

「本当に大丈夫なのかな?」 

「大丈夫なはずだ。私達の体は本来毒物に対する耐性が強いからな。理性が飛ぶことはあっても死にはしないだろ」 

 まるで心配する様子のないカウラに少し呆れながら上座を見る。

 じっとこちらを見ているのは先ほどからランと明石の会話を聞かされ続けて退屈している岡部だった。

「岡部ちゃん。とりあえずこれを部屋の隅に運ぼう」 

 シャムの言葉で針のむしろから解放されると嬉々として歩いてくる岡部。正座が続いていたからかどうにもその足下が不安定だった。

「大丈夫なの……岡部ちゃんも」

「ちょっと痺れて……」 

 足が気になるというように何度か屈伸をする。すっかり血行の悪くなった膝がどうにも思うようにいかずに岡部はごろりと倒れ込んだ。





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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 135

「あそこに行くの?」 

「できれば私は勘弁ね」 

 現役実働部隊長のランとそれを支援する本局の調整官の明石。その会話が相当高度でシャムに手に負えないものであることは間違いなかった。小難しい理屈をこねるのが好きなアイシャもどうせ捕まれば説教されることが分かるので近づく様子もない。

「まあ夜も長いのよ……と言うわけで」 

 アイシャはそう言うとビール瓶を手に持つ。シャムは照れながらグラスを差し出した。

「ほら、吉田さん。ちゃんとラベルは上でしょ?」 

「そんなことどこで覚えたんだか……つまみが欲しいな」 

「小夏!小夏!」 

 吉田のオーダーに答えてシャムがカウラとなにやらひそひそ話をしていた小夏を呼びつけた。小夏はと言えば突然のシャムの呼び出しにいつものように嫌な顔一つせずに飛び出してくる。

「何でしょう、師匠」 

「俊平の……つまみは」 

「エイひれで」 

 一言そう言ってビールを飲む吉田。小夏はと言えば元気にそのまま階段を駆け下りていく。

「小夏ちゃんとお話……珍しいのね」 

 アイシャは堅物のカウラの意外な光景に興味を引かれたように絡む。シャムが見た感じではアイシャはかなりよっているようで頬はすでに耳まで朱に染まっている。

「なんだ。私が小夏と話しているとおかしいことでもあるのか?」 

 カウラはそう言ってビールを傾ける。それでもアイシャのにやにやは止まらない。四つん這いでそのままカウラのそばまで這っていくとそのままカウラのポニーテールに手を伸ばす。

「止めろ!」 

「なに?お嬢様?うぶなふりして……この!」 

「クラウゼ。酔っているな貴様」 

 睨み付けるカウラにアイシャはとろけるような笑みを浮かべる。

「酔ってますよ……だって……ねえ」 

「だってと言われても困るんだけど」 

 シャムは色気のあるアイシャの流し目を受けながらただ戸惑ってつぶやく。

「ひどいんだ!カウラちゃん。シャムったらひどいのよ!」 

「お前の頭の中がひどいんだろ?」 

 呆れかえるカウラはそう言ってアイシャの肩を叩いて落ち着かせようとした。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 134


 さらに食べてみたい。そんな顔の明石にしばらく当惑しながらシャムはビールを飲んでいた。

「頼めばいいじゃん」 

「そうか……そやな」 

 明石はそう言うと心を決めたというように立ち上がる。

「菰田!ワシにも新エビ玉や!」 

「了解!」 

 一休みでビールを飲んでいた菰田が明石の言葉に素早く階段を駆け下りていく。その様を苦笑いで見つめる明石。

「本当においしいから」 

「ああ、おいしかった」 

 そう言うとそのまま明石は自分の席へと向かう。それを見てシャムは先ほどから聞こうと思っていた誠の立ち直りについて聞けなかったことを思い出した。

「タイミングの悪い奴だ」 

 皮肉るようにそう言って最後のたこ焼きを口に入れる吉田。シャムは口をとがらせて反論しようとするが吉田の言うとおりなので何も言えない。

 シャムは気分を変えようと後ろを見た。

「おう、飲めよ……」 

 要が誠の顔面を固定するとその口をこじ開けて酒を注ぎ込もうとしている。必死に抵抗する誠。

 いつものことなので誰も気にしないのが少しばかり滑稽に見えた。

「シャムちゃん、何か気になることがあるの?」 

 暇をもてあましたようにまたアイシャが中腰で近づいてくる。彼女の話し相手を務めるはずのパーラは涙を浮かべながら春子と語らいを続けている。サラもまたもらい泣きをしながらそれに聞き入っている。

「暇なんだね、アイシャ」

「ほっといてよ。それより何か聞きたいことがあるんじゃないの?」 

 シャムはしばらく考えてみた。聞きたいこと、それは誠の復活の秘訣。最後に対戦したアイシャなら少しはそれについて知っているのではと心を決めた。

「誠ちゃんのことなんだけど……」 

「ああ、あれね。知らないわよ」 

 あっさり答えるアイシャにしばらくシャムは呆然とその色気のあるつややかな紺色の髪をなびかせる人造人間の顔を眺めていた。

「だって教えてくれるって……」

「そりゃあ知ってることなら教えるけど。私は知らないもの。明石中佐に直接聞けばいいじゃないの」 

 当然のことを言われてシャムはしばらく黙り込む。そしてシャムはなにやらランと難しい顔で入って行きにくいような雰囲気で会話をしている明石に目を向けた。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 133

「『らくだ』って知ってる?」 

 突然のアイシャの言葉にしばらくシャムはあんぐりと口を開けた。

「『駱駝』?地球の砂漠にいる?」 

「違うわよ。落語。まあなんて言うか……ブラックな話」 

 アイシャの言う『ブラック』な話はだいたいとんでもない展開を見せるものである。シャムの顔が引きつる。隣を見ればなぜか分かっていると言うように頷いている小夏がいた。

「小夏は知ってるの?」 

「ええ、まあ嫌われ者の葬式を出す話ですよ」 

「ああ、西園寺の葬式を出す話だな」 

 吉田の言葉にシャムは思わず要の方に目を遣った。明らかにシャムを睨み付けている要。シャムは頭を掻きながら得意げに話を続けようとするアイシャを遮った。

「まあ、いいから。この話は後でね!」 

「ちぇっ!もう少し面白いところまで話したかったのに」

「何も話していないような気がするんですけど……」 

「小夏ちゃん。何か言った?」 

「別に……」 

 小夏を威圧した後はすっかり言いたいことを言ったと言う表情でアイシャはそのままカウラの肩に手を乗せて意味もなく笑っていた。

「変な人だとは思っていましたけど……やっぱり変な人ですね」 

「ねえ、小夏。らくだってなに?」 

 シャムは尋ねるが小夏は答える気が無いというようにそのまま立ち上がると階段を駆け下りていく。

「俊平は知ってる?」 

「落語は噺家から聞くものだ。俺が語ってもつまらないだけだよ」 

 そう言うと平然とビールを飲む吉田。シャムはただ呆然と話に取り残されたことだけを実感してエビを口の放り込む。

「なんやねん。渋い顔して」 

 声をかけてきたのは明石だった。ふと見るとランはなにやら携帯で話し込んでいる。ようは退屈しのぎにシャムをからかいに来たというところなのだろう。

「しかし……うまそうやな」 

 明石はそう言うと素手でシャムのエビ玉をちぎって口に放り込む。

「取らないでよ!」 

「おっとすまん。ワシもこれを頼めばよかったんかもしれんな」 

 禿頭をなで回しながら明石はつぶやいた。



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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 132

 またシャムはチャンスだと思った。誠は今度はシャムにビールを注ごうとしてくる。

「あのさあ……」 

「誠ちゃん!私も」 

 シャムがグラスを差し出すところでタイミング良くアイシャが叫ぶ。

「はい!今行きますね!」 

 飛び跳ねるように誠はそのままビールを持ったままアイシャに向かって行く。

「また聞き損ねたか」 

 吉田の痛快という笑顔にシャムはエビをほおばりながらむっとした表情を浮かべて見せた。

「師匠!」 

 突然声をかけられて驚いてシャムは隣を見る。シャムよりも一見年上に見える中学生家村小夏。エプロンを着けたままいつものようにきっちりと正座をしている。

「どうしたのよ小夏。お仕事は?」 

「はあ、菰田の野郎が自分がやるからって」 

「あれだな、下にいるのはマリアだろ?おべんちゃらでも使ってうまいこと取り入ろうって魂胆だ。アイツらしいな」 

 吉田の言葉にシャムも何となく頷いた。

「それで小夏。どうするの?」 

「今度のライブの件ですよ!ネタがまだできて無いじゃないですか」 

「ライブのネタねえ……ずいぶん先じゃん」 

 シャムは考え込んだ。シャムと小夏はコントのコンビを組んでいる。時折ライブと称して近くの老人施設などの慰問をすることもあった。節分の次の週の日曜日にもその予定があった。考え込むシャム。

「最近はどつきネタばかりだって言われてるから……」 

「まあどつかれるのは師匠なんですけどね」 

 小夏の合いの手に思わず頭を掻く。ネタ的にマンネリなのはシャムも感じていた。特に誠が転属してきてからはいろいろと事件が多くネタを仕込む時間もない。

「お困りのようね」 

 すいと二人の間にビールの瓶が差し出される。見上げてみれば満面の笑みのアイシャだった。

「いいアイディア……やっぱりいいや」 

「なによ、シャムちゃん。ずいぶんつれないじゃないの」 

 すねるように大げさに首を振るアイシャ。こうなると手が付けられないのはシャムも十分承知している。

「じゃあ何かあるの?」 

 シャムがおそるおそる尋ねるとアイシャはいつものように不敵な笑みを浮かべた。





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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 131

「みごとに焦げたな……」 

「ならひっくり返してくれればいいのに」 

「なんで?」 

 とぼけた顔でたこ焼きを食らう吉田。シャムはむっとした表情で仕方なく削り節をかける。

「あら、焦げちゃったわね」 

「ひどいんだよ!俊平はずっと見てたのに何もしてくれないの!」 

 シャムの訴えに春子は鋭い視線を吉田に向ける。すごみのある女性の視線に吉田もさすがに気まずく感じてビールをのどに流し込んでごまかそうとする。

「でも本当においしいから。食べてみてよ」 

 春子は特製のソースをかけてやり、さらに青のりを散らす。

 独特の香りにシャムの怒りも少しだけ和らいだ。

「じゃあ食べてみるね」 

 シャムはそう言うと一切れ口に運んでみた。柔らかい生地の中に確かな歯ごたえのエビが感じられる。

「これいい!」 

「でしょ?」 

 気に入ったというようにシャムはそのまま次々と切っては口に運ぶことを続けていた。

「慌てて食うとのどにつかえるぞ」 

 吉田に言われてビールを流し込む。それでも勢いが止まらない。

「よく食うな……」 

 ふらりと立ち寄った感じの要が手にしたテキーラをシャムのビールの入ったグラスに注ごうとするのを軽く腕で阻止する。

「なんだよ、ばれたか」

 そのまま要は自分の鉄板に戻っていった。

 周りでも次第に焼け上がっているようで鉄板を叩くコテの音が響く。

「なんだか飯を食ってる感じがするな」

「幸せな瞬間でしょ?」 

「そうか?」 

 マイペースで一人たこ焼きを突く吉田。その吉田のテーブルに誠がビールを運んでくる。

「気がつくね」

 吉田は空になった瓶を誠に渡すとグラスになみなみとビールを注いだ。



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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 130

「焼けたか?」 

「まだみたい」 

 吉田の問いに答えながらシャムはビールをグラスに注ぐ。

「神前!気を遣えよ!」 

「ああ、すいません西園寺さん……ナンバルゲニア中尉……」 

「いいよ、もう注いじゃったから」

 要の白い目を見て誠を哀れみながらシャムはビールを飲んだ。そこでシャムは今度は誠にどんな話を明石からされたのか聞こうと思った。

「あのね、神前君」 

 シャムが声をかける。誠はカウラに注いでいたビールを持ってそのままシャムのところまで来た。

「ちょっと待ってね」 

 ビールを一気にあおってグラスを空にするとシャムは誠にグラスを差し出した。

「しかし、よく飲みますね」 

「そうかな?」 

 シャムはそう言いながら注がれたビールを軽く口に含む。そして誠に立ち直りのきっかけを尋ねようとしたときだった。

 いつの間にか誠の隣に来ていた菰田が誠の腕を引っ張る。

「何をするんですか!菰田先輩」 

「お前も手伝え。下にシュバーキナ少佐が来てる」 

 菰田の言葉に誠の顔色が変わる。そしてそのままパーラと小声で話している春子に顔を向けた。

「神前君もお願いね」 

 春子の無情な一言に誠も立ち上がった。

「ああ、マリアも来てるんだ……」 

 結局誠に話を聞けなかったシャムは上の空でそう言うとビールを軽くあおった。

「おい、シャム。大丈夫か?」 

「何が?」 

「鉄板」 

 吉田の言葉にシャムは驚いて自分のお好み焼きを眺める。少しばかり焦げたような臭いが鼻を襲った。

「やっちゃった!」 

 シャムは叫ぶとへらでひっくり返す。焦げが黒々とシャムの三倍エビ玉を覆い尽くしていた。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 129

 香りと歓談に満たされる。

 シャムもまたそんな雰囲気に酔っていた。

「菰田君!ビール!」 

 早速叫ぶシャムに思い切り嫌な顔をする菰田。

「菰田、頼む」 

 そこに要に頼まれたのか、恥ずかしそうにカウラの声が入った。

「はい!ただいま持って参ります!」 

 元気に叫ぶと菰田は階段を駆け下りていった。

「全く現金な奴だな」 

 吉田はたこ焼きを突きながらその様を眺めていた。ぼんやりとカウラを見つめじっと命令を待つソンの姿も異様に見える。

「それにしてもカウラちゃん効果は絶大だね。どうして?」 

 自分のお好み焼きをひっくり返すと振り返ってシャムはカウラに尋ねた。カウラはと言えばただ当惑したような笑みを浮かべたままでシャムを見返してくる。

「そりゃあ人望じゃないのかね」 

 吉田の一言にむっとしてシャムは彼を睨み付けた。

「まあ、うちの隊じゃ怖い姐御のたぐいは別として、それなりに常識があって行動もちゃんとしているとなるとベルガーくらいだろ?」 

「吉田少佐……それは聞き捨てならないわね」 

 たこ焼きをほおばりながらつぶやく吉田に今度はアイシャが食ってかかる。

「聞き捨てならない?事実だからだろ?お前もアニメグッズを買いあさるのを少しは控えてだな……」 

「ひどい!人の楽しみを奪うわけ!」 

 吉田の一言に心底傷ついたように叫ぶアイシャ。だが部屋中の全員が彼女を白い目で見ていることに気づくと気を紛らわそうと自分の豚玉を叩き始めた。

「まあ……カウラちゃんは常識人だからね」 

「シャム。お前が言うと説得力ねえな」 

 要はそう言いながらソンが運んできたテキーラをショットグラスに注いでいた。

「説得力無くて悪かったですね!」 

 そう言うとシャムはそのまま焼けてきたかどうか自分の三倍エビ玉を箸で突いてみた。





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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 128

 シャムもビールを飲み干しながら考えていた。笑顔でランとなにやら歓談している明石。

 今なら誠の立ち直りのきっかけについて話が聞けるのではないか。そう思ってシャムが腰を上げようとしたときだった。

「はい、新エビ玉三倍!」 

 どんとシャムの前にどんぶりが置かれた。上を見上げれば仏頂面の菰田が仁王立ちしている。

「俺のは?」 

「はい」 

 これもまた投げやりに吉田の分を差し出す菰田。その態度にさすがの吉田も冷笑を浮かべている。

「菰田君。もう少し愛想良くしないと」 

「そうだ!この変態!」 

 春子のたしなめる言葉と要の罵声。予想はしていたようで平気な風の菰田だが、少しばかり表情を曇らせているカウラを見るとさすがにまずかったというようにうつむいてみせる。

「まあいいや。じゃあお駄賃でアタシの分のテキーラやるから取って来いよ」 

「いらないですよ!」 

 要の叫びにそう返事すると足早に階段を下りていく。

「あいつも……管理部門なんだからもう少し愛想良くすりゃあいいのに」 

「人それぞれよ。ね、明石さん」 

「はあ」 

 急に春子に話題を振られた明石がどうにも困った顔で頭を掻いていた。

 シャムは今だと思ったが目の前の未知の味への誘いを断るほど理性が強い彼女ではない。自然と手はどんぶりの中のお好み焼きの具に伸びていた。

「へえ、結構大きなエビなんですね」 

「そうなの。そのままだと大きすぎるから切ってみたんだけど……歯ごたえを考えるとその大きさが微妙でね。いろいろ試してこうなったのよ」 

 吉田の言葉に得意げに答える春子。そんな明るい雰囲気に気が紛れてきたのか、それまでこわばっていたパーラの表情が少し緩むのがシャムにも見えた。

「あんまりかき混ぜないでね。このエビは歯ごたえが大事なんだから」 

 春子の言葉に頷くとシャムは静かに鉄板の上に生地を広げた。

 小麦粉の焼ける香ばしい香りが広がる。それはシャム達の鉄板だけではない。明石のところも軽快に油がはねる音が響いている。

「おう、懐かしいなあ。これを待っとったんや」 

 明石の銅鑼声が部屋中に響く。隊員達もそれぞれに自分の具を焼き始めていた。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 127

「お待たせしました!」 

 誠が颯爽と階段から現われると春子の前にとっくりを置く。

「ありがとね。それじゃあ飲みましょ」 

 そう言うと春子は手酌で熱燗をおちょこに注ぐ。ビールを飲みながらパーラはその様を見ていた。

「まあ春子さんの方が一枚上だからな」 

「なに?俊平何か知ってるの?」 

 静かに酒を飲む春子を見ながらの思わせぶりな吉田の言葉にしばらくシャムは首をかしげていた。

「あの人の前の旦那。小夏の親父のことはお前も知ってるだろ?」 

「ああ、今は留置所にいるんだよね。まだ裁判は結審していないんでしょ?」 

 小声でつぶやくシャム。春子の夫は四年ほど前まで東都の港湾部の難民居住区を中心とした地域でのシンジケート同士の抗争で四人の警官を射殺した容疑で逮捕されていた。離婚はすでに成立していたことはシャムも知っていた。上告はしているがおそらく一審で出た死刑が覆ることはまず考えられない。

「確かに浮気ぐらいなら全然かわいいところなのかもしれないね」 

 そう言うとシャムはグラスを干した。

「お母さん!お酒飲んでばっかりじゃなくて……」 

「小夏、ええねん。そこのでくの坊二人!」 

 階段から顔を出して文句を言おうとする小夏を制した明石は下座でビールをちびちびとすすっている菰田とソンに目をつけた。

「お前等今日はここの従業員や、ええな?」 

「え?」 

 明石の言葉にしばらく言葉が出ない菰田。助けを求めるようにソンがランに目を遣るが、ランはまるで言うことは無いと拒絶しているようにビールを飲んでいる。

「上官命令……OK?」 

 上機嫌の要の声にうなだれる二人。要はそんな二人を見て思わず隣のカウラを肘でこづいた。

「ああ、よろしく頼むぞ」 

 劇薬のようにカウラの言葉はよく効いた。二人ともカウラファンクラブ『ヒンヌー教』の幹部である。そのまま先を争うようにして階段を駆け下りていく。

 おもわず取り残されて呆然とする小夏だが、さすがに自分がいないと二人が何をするのか分からないのでそのまま階段を下りていく。

「効くなあ……おい。ファンがいるとはうらやましいねえ」 

「心にもないことは言わないことだ」 

 静かに半分ほど飲んだビールを一気に飲み干すカウラ。少しばかり酔いが回ってきたようで白い頬が朱に染まっている。

「本当に面白いね」

「まあいいんじゃ無いの?」 

 その様を見ていたシャムが吉田に声をかけるが吉田はつれなくそう言うとビールを飲み干した。



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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 126

 さっそくメモを手に走り回る小夏。

「豚玉!」 

「じゃあ僕もエビでいいかな」

「イカで頼む」 

 要や誠、カウラの注文が続く。

 三杯目のビールを飲んだパーラが静かに視線を鉄板に落とした。

「とりあえず何も言わないで」 

 諭すような調子の春子。それを見ながら安心したように明石は突出しのひじきを突いている。

「女将さん、分かるの?」 

 シャムはつい気になって尋ねてみた。春子は首を振る。だがそれでもそんな春子に安心しているようにハーラは黙って春子を眺めていた。

「神前!女将さんの燗酒運んで来いや!」 

 気を利かせた明石の一言にはじかれるように誠が階段を駆け下りていく。

「ごめんね、明石君」 

「ええんです。ワシ等もいつもお世話になってばかりやさかい」 

 そう言うと明石は手元のビールを手に取りランの前に差し出した。

「おう、気が利くじゃねーか」 

 ランはさっとグラスを差し出す。なみなみとビールが注がれる。そして明石は今度は隣の岡部に瓶を向けた。

「これからもよろしゅうたのむで」 

「は、はあ」 

 サングラスの奥でまなじりを下げているだろう明石を想像しながらグラスを差し出す岡部。それを見ていたシャムの目の前にビールの瓶が現われた。

「シャムも飲めよ」 

 吉田がビールを差し出している。シャムは慌ててグラスを差し出す。

「まあエビがどんなのか……楽しみにするか……俺はお好み焼きはいいや。たこ焼きをお願い」 

 隣まで来ていた小夏にそう言うと手酌で自分のグラスにビールを注ぐ吉田。

 すでに明石も飲み始めている。あちこちでグラスをあおる顔がシャムからも見えた。

「私も飲むね」 

「勝手にしろ」 

 隣で黙って酒を飲んでいる吉田に笑みを漏らしながらシャムはビールをのどに注ぎ込んだ。





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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 125

「エビか……」 

「どうしたのかしら?シャムちゃんはエビが嫌いなの?」 

 どことなくおかしな空気になってきたことを察したように春子の声が小さくなる。そのとき小夏が消えていった階段から長身の女性の姿が目に飛び込んできた。

「おう、アイシャ。サラも一緒か?」 

 明石の声に黙って頷くアイシャ。そしてサラもその後に続いて空いた鉄板に腰を落ち着ける。しかしその後ろにピンク色の長い髪が翻っているのが見えた。

「パーラ。来たのか?」 

 ランの言葉に黙って頷くと、パーラはそのままつられるようにサラの隣の座布団に腰を下ろす。

 沈黙が場を支配したことで察しのいい春子はこの沈黙の原因が自分の『新港』という言葉とパーラがつながっての出来事だと理解しているようにシャムには見えた。

「お母さん、ビール」 

「あ、小夏。ご苦労様。それと熱燗を一つつけてもらえるかしら」  

「え?……うん、いいけど」 

 シャムと馬鹿話をしたかったと言う顔の小夏が不思議そうな顔で階段を下りていくのが見える。春子はただ黙って突出しをつついているパーラの前にビールの瓶を持って腰を下ろす。

「女将さん?」 

「いいから、黙って」 

 春子の態度を見てアイシャがそっとパーラの前にグラスを置いた。仕方がないというようにパーラがそれを手に取る。春子は静かにビールをグラスに注いだ。

「みんなまだだけど、ランさん。いいわよね?」 

「ああ、パーラは今日は特別だ」 

 ランの頷きつつのつぶやき。それに促されるようにしてパーラはグラスを干した。

「いい飲みっぷり。じゃあもう一献」 

 軽くグラスを差し出すパーラに春子はさらにビールを注いだ。

「何も言わなくていいからね。何も」 

 そう言うと春子はそのまま大きく深呼吸をしているパーラを置いて黙って自分達を見つめていたシャムのところまで戻ってきた。

「どうする?シャムちゃん」 

 先ほどまでのパーラに対して使っていたしっとりとした響きの言葉が一気に気っぷのいい女将の口調に戻る。

「じゃあ新エビの三倍で!」 

「はい!じゃあ他の人もどんどん頼んでね」 

「女将さん。ワシの金や思うてあおらんでくださいよ」 

 ようやく重苦しい雰囲気が取れて安心したというような表情で明石が泣き言を叫んだ。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 124

「いやあ!女将さんにはかないませんなあ!」

 快活に笑う明石。それを見てなぜかうれしそうに笑う誠。シャムは不思議に思っていた誠の少しだけの復活について聞いてみたい欲求に駆られて身を乗り出す。

「おう!ワシのおごりじゃ。好きなだけ食ってええで」 

 剛毅なところを見せようとふんぞり返る明石。それを見ながらランは呆れたような苦笑いを浮かべている。

「それじゃあボトルは?ボトル入れてもいいか!」 

「いい訳あるかい!」 

 要に突っ込みを入れる明石。シャムは話を切り出すタイミングを失ってそのまま座布団に腰を下ろす。

「遅れました……」 

 それにあわせて入ってきたのは菰田とソン、それにどこか疲れた表情の岡部だった。

「おう、岡部!こっち来いや!」 

 末席に菰田達と一緒に座ろうとする岡部に向かって明石が叫ぶ。岡部は周りを見渡した後、どうやら自分が明石の接待をすることになりそうだと悟って少しばかり恥ずかしげに頭を掻きながらランの隣にまでやってくる。

「ずいぶん賑やかになりそうね。……小夏!突出しをあと三つ追加。それじゃあとりあえずビールでいいですわよね」 

「ああ、頼みます」 

 すっかり場を仕切る明石。シャムはさらに岡部が揃ったことで誠のピッチングの件を切り出しやすくなったとタイミングを計っていた。

「おい、お前は何にする?」 

 そんなところに邪魔するように声をかけてくる吉田。シャムは少し感情が表に出そうになりながらそれも大人げないと少し首をひねった。

「豚玉も飽きてきたなあ……」 

「あれ?オメエも飽きるとかあるのか?」 

「失礼だな、要ちゃん。私も気分を変えたいときくらいあるんだよ!」 

 要の突っ込みに何となくシャムはムキになってメニューを覗いた。ちらりと見たそのお品書きにおすすめとして載っている太字の文字に自然とシャムの視線は引きつけられた。

「あれ?新エビ玉って?」 

「さすがシャムちゃんね。新港のエビがシーズンなのよ。それでこの前源さんがたくさん仕入れてきたから試してみたらおいしくって……お勧めよ」 

 春子の口から出た『新港』の言葉に場が少しばかり不穏な空気に包まれた。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 123

 そんままランは階段を駆け上っていく。

『馬鹿野郎!』 

『嫌だな、中佐。ただの冗談じゃないですか……』 

『人騒がせな冗談だな』

 二階のやりとりを聞きながらシャムと明石は苦笑いで階段を上る。上座にどっかりと座っているラン。その隣で手に靴を持った吉田が愛想笑いを浮かべていた。

「ああ、靴置いてくるから」 

 それだけ言うと吉田は照れたような笑みを浮かべながら階段を駆け下りていく。

『なんだよ、ロボ。また二階からのご登場か?』 

 要の快活な声がランの隣の鉄板を占領したシャムの耳まで聞こえてきた。

「あ、誠ちゃん達着いたんだ」 

「もうええ時間やさかいな。当然なんとちゃうか?」 

 明石はそう言いながらランの座っている鉄板の横にちょこんと座る。巨体が売り物の明石の隣にどう見ても小学生のラン。しかも同じ中佐の階級だがランが先任と言うことで常に明石がランのご機嫌を伺うことになる。

 いつもの光景ながらシャムはその滑稽な有様を見ると吹き出してしまいそうになった。

「おう、もう来てるな!」 

 ずかずかと大きな態度で現れた要。それをなんとか制するように頭を下げながらシャムの隣の鉄板に導く誠。カウラはいつものように黙って誠の正面に座る。

「あれ?アイシャは?」 

「あのアホか?なんでもサラと話があって遅れて来るってさ。どうせパーラの件だろ?」 

 まるで心配することは無いというように要は頼むものが決まっているくせに鉄板の脇に置かれてあったメニューを開いて見始めた。

「鎗田も観念したんとちゃうか?」 

「それ鎗田の都合だろ?パーラの奴にも都合があるんじゃねーのか?」 

 ランは小さな体に似合いの小さなスタジャンを脱ぎながらネクタイを弄る明石を上目遣いに見つめた。それにあわせるように女将の家村春子と娘の小夏がそれぞれに突出しとおしぼりを持って現われる。

「本当に明石さんはご無沙汰ね」 

「いやまあ、済みません……どうにも本局勤めは柄にないとは思うとるんですが……なかなか」 

「少しは明華さんのところに顔を出してあげなさいよ」 

 婚約者の名前を出されてただひたすらに頭を掻く明石。それを色気のある切れ長の目で一瞥すると春子は小夏と一緒に突出しやおしぼり、そして小皿を配り始めた。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 122

 景色が変われば気分も変わる。

「でもタコさんはなぜ来たのかな?」 

 シャムの言葉が少しばかり元気になっているように響くのはあまさき屋が近づいているからだろう。吉田はそれに応えるわけではなくただ車を走らせている。

「ねえ!」 

「俺に聞くなよ。どうせすぐ分かること何じゃねえの?」 

 吉田はそう言うと少し乱暴に車をコイン駐車場に乗り入れた。急な衝撃。シャムは思わず吉田を睨み付ける。

「はい到着」 

 気にする様子もなくサイドブレーキを引く吉田。二人はシートベルトを外してそのまま車を降りた。

 夜の繁華街。都心部でもないこの豊川の町はかなり寂れた印象がある。だが二人ともその雰囲気は嫌いでは無かった。

「寒いね」 

「冬だからな」 

 当たり前の会話が続く。アーケードの脇の路地を進む二人。時折カラオケのうなり声がスナックの防音扉から漏れるのが聞こえてくる。

「また……やるんだ」 

 目的地のあまさき屋の裏まで来たところでそのまま裏通りを進もうとする吉田に呆れたように声をかけるシャム。

「当たり前だ。ポリシーだよ」 

 そう言うと吉田はそのまま裏路地に姿を消した。シャムはそんな吉田を見送ると表通りに進路を取った。

「なんだ?シャム一人か?」 

 店の前、ちょうど到着していたのはランと明石だった。

「え?ええ、まあ」 

「吉田のアホはまた裏からよじ登るつもりやな。毎度飽きない奴やなあ」 

 呆れたような顔で紫の背広の明石があまさき屋の暖簾をくぐる。

「いらっしゃい!」 

 それなりに客のいる町のお好み焼きの店のカウンター。薄紫の小袖を着て目の前のサラリーマン風の客に燗酒を差し出している女将の家村春子が快活な笑みを浮かべていた。

「女将さん、上、空いてる?」 

「まあ。いつものことじゃないの。知ってて来たんでしょ?」 

 明石の言葉に春子は明るい笑みで答える。ランはすでにその言葉を末までもなく奥の階段をのぼり始めていた。

「シャムちゃんがそこにいるってことは……また吉田さんは裏からよじ登るつもりね?」 

「いつもうちの馬鹿がすいませんね!」 

 階段から小さな体をねじって振り返りランが答えた。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 121

 しばらく沈黙が続いた。

 車の流れは順調だった。帰宅を急ぐ車の列に続けばすぐにまた工業団地から住宅地へ向かう道をすいすいと走ることができる。

「話は変わるんだけど……さ」 

 シャムは沈黙に耐えられずに口を開いていた。吉田は相変わらず気にする風もなくハンドルを握っている。

「誠ちゃん……」 

「ああ、気の持ちようだろうな」 

 質問より早く吉田は答えていた。シャムはなんとなくわかったのかわからないのかよくわからないまま外を流れる車の列に目を移した。

「アイツはああ見えて結構度胸が据わってるよ。表面上はおどおどしていても本心から迷うような奴じゃない」 

「なに?俊平はわかっているみたいじゃない」 

「俺を誰だと思ってるんだ?精神科医の論文くらい毎日目を通しているよ」 

 平然と答える吉田。車は周りの永遠に続くかに見えた田んぼと点在する大型店ばかりの道から住宅の目立つ景色の中に飛び込んでいた。

「そう言うのも読むんだ」 

「まあな。傭兵時代は戦場のストレスで耐えられなくてぶっ壊れる部下をさんざん見てきたからな。それに対処するのもプロとしては当然のお仕事だろ?」 

「傭兵って大変なんだね」 

「なあに、戦争をする馬鹿連中の一人に加わって大変じゃ無いことなんてあるもんか。要は与えられた仕事を成し遂げるに当たって必要な情報のソースを広く構えていること……じゃないかな。俺が知る限りは俺以外にそういうことに関心がある指揮官というと隊長ぐらいだな」 

 ずらりと並ぶ右折専用車線に車を乗り入れながら吉田がつぶやく。彼らしい傲慢で気取った言葉の最後にシャムも尊敬する主君、『嵯峨惟基』の名前があることにシャムは思わずほほえんでいた。

「じゃあ隊長はすごいんだ」 

「すごいかどうかは別として、あれは敵には回したくないね。もっとも、何も知らずに敵に回して義体を一個つぶしたことがあったが……あれは参ったよ」 

 動き出した前の車に続いて右車線にハンドルを切る。車はなめらかに曲り、そのまま豊川市街地へ向かう道へと進んでいった。

「そう言えばあの時は予備を切らしてたんだよね」 

「お前さあ、そう言うどうでもいいことよく覚えてるな。だったらたまには伝票ぐらい自分で仕上げてくれよ」 

 呆れたというようにシャムを見つめる吉田。シャムは笑顔で流れていく町の景色を眺めている。

「でも、話は戻るけどそんなに簡単に気持ちって変えられるの?」 

「そりゃあその秘密は明石に聞けよ。まあ、あいつの経歴から考えるとコツがどこかにあるだろうということくらいは察しがつくけどな」 

 シャムを煙に巻くような言葉を吐きながら吉田が笑う。車はそのまま駅前に続くアーケード街が目立つ市街中心部へと入り込んでいた。




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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 120

 正門の前には20世紀のドイツのワゴン車のレプリカが止まっていた。吉田お気に入りの一台。

「乗れよ、明石達はもう出たぞ」 

 吉田に急かされてシャムは駆け足で車に乗り込んだ。

「積んでくれてたんだ」 

 後部にはシャムのバイクがロープで固定された状態で乗せられている。

「まあな、気が利くだろ?」 

「そうだね」 

 シャムの笑顔を見ると吉田は車を出した。

 正門前の車止めもすでに夜の闇の中に沈んでいる。そこから真っ直ぐ、ゲートの明かりだけが頼りだった。

「おい!」 

 ゲートに着いた吉田が窓を開けて叫ぶ。うたた寝をしていた古参の警備部員がめんどくさそうにゲートのスイッチを押す。

「お先!」 

 吉田はそう叫ぶのそのまま不眠の大工場の中に車を乗り入れた。

 昼間ほどではないがやはり大型トレーラーが資材を満載して行き来している。そんな工場内の道路を吉田は慣れたハンドルさばきで車を走らせた。

「パーラの話……」 

「ああ、クバルカ隊長から聞いたよ。まあいい大人だ。どう判断するかは本人の問題だろ?鎗田も馬鹿だがそれなりの技術屋のプライドくらいはあるはずだからな」 

 落ち着いた調子でつぶやく吉田を見てシャムは少しばかり安心した。

「そうだね。ランちゃんも見てるんだから大丈夫だよね」 

「ああ、あのちびっ子。喰えないからな。鈴木中佐にしろ明華にしろ敵に回すとやっかいだってことは明石の野郎が伝えてると思うからな」 

 工場の中央を走るメインストリート。主に昼間は営業車の出入りに使用される道にはすれ違う車も無かった。

「でも……なんだか心配だよな……」 

「そんなに心配なら見に行くか?場所もわかるぞ……まあ移動しても鎗田の車のシリアルナンバーは登録済みだから追えるぞ」 

 真顔でシャムを見つめてくる吉田。シャムはただ苦笑いを浮かべていた。

「あまり干渉するのは良くないよね」 

「そういうことだ」 

 吉田の言葉に頷くシャム。車は工場の正門に到着し、監視ゲートをくぐってそのまま産業道路と呼ばれる国道に出ることになった。




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