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遼州戦記 保安隊日乗 保安隊海へ行く 改訂版 12

 誠は一人、和室の布団から起き上がった。つぶれはしなかったものの、地下のバーで何があったのか、はっきりとは覚えていない。要にはスコッチなどの蒸留酒を多く勧められたせいか、頭痛は無い、二日酔いの胃もたれも無いがなぜかすっぽりと記憶だけが抜け落ちていた。
「起きやがったな」 
 髭剃りを頬に当てている島田が目をつける。隣のキムも少し困惑したような顔をしていた。
「何か?」 
 誠はその島田の複雑そうな表情に嫌な予感しかしなかった。
「何かじゃねえよ!人が寝ているところドカドカ扉ぶっ叩きやがって!お前、酒禁止な」 
 島田は指をさして怒鳴りつける。キムも頷きながら誠をにらんでいる。
「島田先輩ー!」 
 取り付く島の無い島田を見送ると、誠はバッグを開けて着替えを出し始めた。
「あのなあ、あの怖え姉ちゃんと何してたかは詮索せんが、もう少し酒の飲み方考えたほうがいいんじゃないか?」 
 準備が終わったキムが苦笑いを浮かべている。
「そうは思うんですけど……」 
「無駄無駄!そんなに簡単に出来ないって」 
 島田は髭剃りを置いてベッドに腰掛ける。誠はシャツを着ながら昨日のことを思い出そうとするがまるで無駄な話だった。
「じゃあ次は僕が」 
 誠も髭剃りを持って鏡に向かう。島田は立ち上がった誠の肩を叩いて呟く。
「まあ、あれだ。あの席にいて西園寺さんを切れさせなかったのは褒めとくよ」 
 言うだけ言ってさっぱりしたのか、島田はそう言うと新聞を読み始めた。
「そうだな。傍から見ててもあれは針のむしろって感じだったからなあ」 
 うなづきながらキムが髪を撫で付けている。褒められているのかけなされているのか良くわからないまま誠は髭を剃り続けた。
「それにしてもいい天気だねえ」 
 新聞を手にしながら振り返った島田の後ろの大きな窓。水平線と雲ひとつ無い空が広がっていた。
「まあなんだ。今日はとりあえず馬鹿の菰田を徹底的に叩きのめすと言うことで行きますか?」 
 島田がそう言うと読みかけの新聞を投げ捨てた。キムもにんまりと笑っている。髭を剃り終わった誠は頭をセットにかかる。
「神前、腹減ったから俺達先に行くぞ」 
 そう言って立ち上がる島田とキム。誠は振り返って二人の後姿に目を向ける。
「すいません、先に行っててください」 
 そう言いながら二人を見送り、誠はジーンズを履いた。扉が閉まってオートロックがかかる。
「ちょっとは待っていてくれてもいいんじゃ……」 
 とりあえずズボンをはきポロシャツに袖を通す。確かに絶好の海水浴日和である。誠はしばらく呆然と外の景色を眺めていた。
 島田達を追いかけようと誠がドアに向かうその時、ドアをノックする音が聞こえた。ベルボーイか何かだろう。そう思いながら誠はそのまま扉を開いた。
「よう!」 
 要が立っている。いかにも当たり前とでも言うように。昨日のバーで見たようなどこかやさぐれたいつも通りの要。
「西園寺さん?」 
 視線がつい派手なアロハシャツの大きく開いた胸のほうに向かう。
「何だ?アタシじゃまずいのか?」 
 いつもの難癖をつけるような感じで誠をにらみつけてくる。気まぐれな彼女らしい態度に誠の顔にはつい笑顔が出ていた。
「別にそう言うわけじゃあ無いんですけど……」 
 誠は廊下へ出て周りを見渡した。同部屋のアイシャやカウラの姿は見えない。
「西園寺さんだけですか?」 
 明らかにその言葉に不機嫌になる要。
「テメエ、アタシはカウラやアイシャのおまけじゃねえよ。連中は先に上で朝飯食ってるはずだ。アタシ等も行くぞ」 
 そう言うと要は振り向きもせずにエレベータルームに歩き出す。仕方なく誠も彼女に続く。廊下から見えるホテルの中庭。はるか先には山々が見える。保安隊の本部が置かれている豊川の街はあの山の向こうだ。そんなことを考えながら黙って歩き続ける要の後ろををついていく。
「昨日はすいません」 
 きっと何かとんでもないことでもしている可能性がある。そう思ってとりあえず誠は謝ることにした。
「は?」 
 振り返って立ち止まった要の顔は誠の言いたいことが理解できないと言うような表情だった。
「きっと飲みすぎて何か……」
 そこまで誠が言うと要は静かに笑いを浮かべていた。そして首を横に振りながら誠の左肩に手を乗せる。 
「意外としっかりアタシの部屋まで送ってくれてただろ?もしかして、記憶飛んでるか?」 
 エレベータが到着する。要は誠の顔を見つめている。こう言う時に笑顔でも浮かべてくれれば気が楽になるのだが、要にはそんな芸当を期待できない。
「ええ、島田先輩達が言うにはかなりぶっ飛んでたみたいで……」 
「ふうん……そうか……」 
 要が珍しく落ち込んだような顔をした。とりあえず彼女の前ではそれほど粗相をしていなかったことが分かりほっとする誠。だが明らかに要は誠の記憶が飛んでいたことが残念だと言うように静かにうなだれる。
「まあ、いいか」 
 自分に言い聞かせるように一人つぶやく要。扉が開き、落ち着いた趣のある廊下が広がっている。要は知り尽くしているようにそのまま廊下を早足で歩いた。
 観葉植物越しにレストランらしい部屋が目に入ってきた。要はボーイに軽く手を上げてそのまま誠を引き連れて、日本庭園が広がる窓際のテーブルに向かった。
「あー!要ちゃん、誠君と一緒に来てるー!」 
 甲高い叫び声。その先にはデザートのメロンの皿を手に持ったシャムがいた。
「騒ぐな!バーカ!」 
 要がやり返す。隣のテーブルで味噌汁をすすっていたカウラとアイシャは、二人が一緒に入ってきたのが信じられないと言った調子で口を中途半端に広げながら見つめてきた。
「そこの二人!アタシがこいつを連れてるとなんか不都合でもあるのか?」 
 要がそう叫ぶと、二人はゆっくりと首を横に振った。誠は窓際の席を占領した要の正面に座らざるを得なくなった。
「なるほどねえ、アサリの味噌汁とアジの干物。まるっきり親父の趣味じゃねえか」 
 メニュー表を手にとって西園寺がつぶやく。
「旨いわよここのアジ。さすが西園寺大公家のご用達のホテルよね」 
 そう言って味噌汁の中のアサリの身を探すアイシャ。カウラは黙って味付け海苔でご飯を包んで口に運んでいる。二人をチラッと眺めた後、誠は外の景色を見た。
 日本庭園の向こう側に広がるのは東和海。その数千キロ先には地球圏や遼州各国の利権が入り乱れ内戦が続いているべルルカン大陸がある。
「なに見てるんだ?」 
 ウェイターが運んできた朝食を受け取りながら、要はそう切り出した。
「いえ、ちょっと気になることがあって」 
「なんだ?」 
 要は早速、アジの干物にしょうゆをたらしながら尋ねる。
「第四小隊のことですけど」 
 その言葉に要は目も向けずに頷いて見せた。
「ああ、知ってるよ。アメちゃんが仕切るんだろ?それがどうかしたか?」 
 どうでもいいことのように要はあっさりとそう言った後、味噌汁の椀を取ってすすり込んだ。
「でもなんでですか?隊長はアメリカじゃあ凶悪テロリスト扱いされているって……」 
 そんな誠の言葉に正面切って呆れ果てたと言う表情を浮かべる要。その視線に誠は言うんじゃなかったというような後悔の念にとらわれた。
「単純だねえ。確かに遼南内戦で叔父貴がアメちゃんとガチでやりあったのは有名な話だ。当時は目が飛び出すような賞金賭けて叔父貴のこと追いまわしてたけどな」 
 要はそう言うと今度は茶碗を手に取り、タクワンをおかずに白米を口に運ぶ。
「状況はいつでも変わる。叔父貴が6月クーデターで遼南の実権を掌握してから最初に手をつけたのはアメリカとの関係改善だ。在位中に3度、つまり一年に一回はアメリカを訪問している。向こうだって下手に出ている相手を無碍にすることは出来ねえ。昨日の敵は今日の友。アタシ等兵隊さんの業界じゃよくあることさ」 
 そう言うと要はようやく本命のアジをつつき始めた。
「それよりそんな話切り出すなんて……会ったのか?アメリカの兵隊さんにでも」 
 里芋の煮物を器用につかんで口に放り込みながら要が不思議そうな目で誠を見る。
「昨日、風呂場で会いました」 
 誠のその言葉に、隣のテーブルのアイシャが突然噴出した。
「なんでオメエが噴出すんだよ!」 
 変わらない目つきで今度はアイシャを見つめる要。アイシャは慌てて立てかけてあったペーパータオルを何枚も取り出してテーブルの掃除を始める。
「腐った脳みそが動き出したんだろ」 
 淡々とメロンを食べ続けるカウラ。その表情はいつものメロン好きな彼女らしい至福のひと時のように見えた。
「カウラ、知ってんだな、第四小隊の面子」 
 ようやく理解したと言うように要がカウラに話題を振る。
「おとといの部隊長会議で書類には目を通した。小隊長として当然の職務だ」 
 それだけ言うと、なぜか慎重にメロンをスプーンですくう。
「なんだよ、アタシだけのけ者か?」 
 すねたように外の庭園に視界を移す要。
「あの誠ちゃん……」 
 テーブルの掃除を済ませたアイシャの目つき。何を期待しているのかは良くわかった。
「すいませんアイシャさん。お望みの展開にはなっていないので」 
 アイシャが目を輝かせて見つめてきたので、つい誠はそんなことを口走っていた。彼女の思惑通りにロナルドとくんずほぐれつになって見せてやるほど誠はお人よしではない。
「まあ、誠ちゃんはシャイだから。そのうち目くるめく男同士の……」 
「遠慮します!」 
 さすがにこれが限界だったので、語気を荒げてそう言うと誠は味噌汁を口の中に流し込んだ。
「でも男同士で裸だったら……」 
「しつけえんだよ、腐れアマ!本人が違うって言ってるんだからそれで良いじゃねえか!」 
 さすがに癇に障ったように、要がアイシャをにらみつけた。口の中でもぞもぞ言葉を飲み込みながら、アイシャはメロンの皿をカウラに渡した。
「いいのか?」 
 嬉しそうでありながら信用できないと言うように複雑な表情を浮かべているカウラ。
「カウラちゃん、メロン好きそうだからあげるわ。怖い『山犬』が怒ってるから噛まれないうちに準備してくるわね」 
 そう言うとアイシャは食事を終えて入り口で手を振っていたシャムやサラ、そして島田達に向かって歩いて行った。
「ここの露天風呂を使ってたということは、ここに泊まっているはずだが、それらしいのは居ねえな」 
 周りを見渡し、納得したように今度は煮物のにんじんを箸で口に運ぶ要。
「別館なら完全洋式でルームサービスが出るだろ。そちらに泊まっているんじゃないのか」 
 カウラはそう言うとアイシャの残していったメロンをまたゆっくりと楽しむように味わっている。
「そう考えたほうが自然ですね」 
 誠がそう言うと、目の前に恨みがましい目で誠を見つめている要の姿があった。
「誠!テメエ、カウラの話だとすぐ同意するんだな」 
 まるで子供の反応だ。そう思いながらも要の機嫌を取り繕わなくてはと誠は首を振った。
「そんなこと無いですよ……」 
 助けを求めるようにカウラを見たが、メロンを食べることに集中しているカウラにその思いは届かなかった。誠は空気が自分に不利と考えて鯵の干物を口に突っ込んで味噌汁で流し込んだ。
 要は相変わらず不機嫌そうで言葉も無い。そんな沈黙の中、黙々と食事を続ける誠。
「ああ、私も先に行くぞ」 
 ゆっくりと味わうようにメロンを食べ終えたカウラが立ち上がる。要は顔を向けることも無く茶碗からご飯をかきこむ。誠はと言えばとりあえずメロンにかぶりつきながら同情するような視線のカウラに頭を下げた。
「やっぱりカウラの言うことは聞くんだな」 
 完全にへそを曲げた要。こうなったら彼女は何を言っても無駄だとわかっている。誠はたっぷりと皮に果肉を残したまま味わうことも出来ずにメロンを食べきって立ち上がる。
「薄情物」 
 去り行く誠に一言要がそう言った。誠も気にしてはいたが要の機嫌をとるのは無理だと思ってそのままエレベータコーナーまで黙って歩いていった。
 そして部屋に戻った誠は荷物を片付ける仕事があった。すでにキムは荷物の片づけを終えて、景色を見るべくベランダにいた。島田は入り口のそばで屈伸をしている。
「早くしろよー!」 
 サングラスをかけた島田が上目遣いに誠をにらむ。誠はそそくさと隣の和室に入ると、かけてあった儀礼服をバックに突っ込んだ。
「それだけか?荷物」 
「ええ、とりあえず一泊ですから」 
 そう言うとジッパーを閉めてバッグを小脇に抱えた。大型のリュックを背負って島田が立ち上がる。
「おい!キム!行くぞ」 
 ガラスをたたいて島田がキムを呼んだ。赤とオレンジが基調の派手なアロハを着たキムがガラスを開けて自分の旅行かばんを指差した。
「暑いなあ、さすがに。ビールでも飲みたい気分だな」 
「止してくれよ。お前、帰りの運転手じゃねえか」 
 島田はそう言うとキムにバッグを渡す。
「それにしてもいい天気だな」 
 誠は島田の言葉に釣られて大きな窓に目を向けた。水平線ははっきりと靄もなく見える。そらの青はその上に広がり、太陽がそのすべてに等しく日差しを振りまいている。
「よしっと」 
 窓の前で再び屈伸をした島田。彼が履いているのはビーチサンダル。
「もしかしてプライベートビーチとかですか?」 
 ホテルの裏の、時期にしては閑散としているように見える浜辺を見た誠がつぶやく。
「いや、アイシャのおばさんが『プライベートビーチなど邪道だ!』とか言って隣の一般海水浴場に行くんだと」 
「誰がおばさんよ!誰が!」 
 いきなりドアが開いて胸だけを隠しているように見える大胆な格好をしたアイシャが怒鳴り込んできた。彼女はそのまま島田の耳をつまみ上げる。
「痛い!痛いですよ!鍵がかかってるでしょ?どうやって入ったんですか?」 
 島田がそう言う後ろから、一枚のカードを持った要が入ってくる。 
「一応、このホテルの名義はアタシだからな。当然マスターキーも持ってるわけだ」 
「聞いてないっすよ!」 
 島田の驚く顔を見て満足げに頷く要。涙目になりかけた島田を離したアイシャが誠の手をつかんで引っ張った。誠はとりあえず要の機嫌がよくなっていることに気づいてほっと胸を撫で下ろす。
「さあ先生!行きましょうね!」 
 紺色の長い髪をなびかせながら誠を引っ張って廊下に出るアイシャ。廊下には遠慮がちにアイシャの荷物を持たされている淡い緑色のキャミソールを着たカウラがやれやれと言ったように二人を眺めていた。
「んじゃー行くぞ!」 
 要が手を振ると皆はエレベータルームに向かった。
「西園寺さん。この絵、本物ですか?」 
 明らかにこの集団が通るにはふさわしくない瀟洒な廊下。そこにかけてある一枚の絵画。印象派、ということしか誠には分からない絵を指して要に尋ねた。要はまったく絵を見ることはしない。
「ああ、モネの睡蓮な。模写に決まってるだろ」 
「そうですよね」 
「本物は実家だ」 
 それだけ言って立ち去る要。あまりにも自然で当然のように振舞う要にただ呆然とする誠だった。
「本物持ってるの?要ちゃん」 
 思わずアイシャが突っ込む。要はめんどくさそうに額に乗っけていたサングラスを鼻にかける。
「親父が9歳誕生日にプレゼントだってくれたのがあるぜ。アタシは印象派は趣味じゃねえけどな」
 開いたエレベータの扉に入る。感心したように要を見つめるアイシャと島田。カウラは意味がわからないと言うように首をひねりながら誠を見つめている。
「さすがにお嬢様ねえ。昨日の格好も伊達じゃないってことね」 
 アイシャが独り言のようにつぶやくと、要は彼女をにらみつけた。
「怖い顔しないでよ。別に他意はないんだから」 
 笑ってごまかすアイシャ。島田は両手で計算をしている。誠にはつぶやいている内容からして、実物のモネの睡蓮の値段でも推理しているように見えた。扉が開き、エレベータルームを抜けたところで、先頭を歩いていた要の足が止まった。
「これは奇遇ですね」 
 立っていたのはアメリカ海軍の夏服を着たロナルド、岡部、そして初めて見るみる浅黒い肌の将校と、長いブロンドの髪をなびかせている眼鏡の女性の将校だった。
「こいつか?昨日、誠が見たって言う……」 
 失礼なのをわかっていて要がロナルド達を指差す。
「そう言うことなら話は早い。西園寺中尉、お初にお目にかかります。私は……」 
 ロナルドの言葉に要のタレ目がすぐに殺気を帯びる。その迫力に思わずロナルドは口を噤んでしまった。
「おい!誰が中尉だ!アタシは大尉だ!」 
 戸惑っているロナルドだが、要は急に襟首に伸ばそうとした右手を止めて静かにロナルドを見つめた。いつもならすぐに殴るか蹴るか関節を極めに行く彼女が不意に手を止めたことが誠には少しばかり不自然に見えた。ロナルドは苦笑いを浮かべながら言葉を続ける。
「失礼、では西園寺大尉とお呼びするべきなんですね。そして第二小隊隊長、カウラ・ベルガー大尉。運用艦『高雄』副長アイシャ・クラウゼ少佐。私が……」 
「オメエ、パイロット上がりじゃねえな」 
 ロナルドの言葉をさえぎって、不敵な笑いを浮かべながら要がそう言った。
「なぜそう思うんです?」 
 まるでその言葉を予想していたように、ロナルドも頬の辺りに笑みを湛えている。誠には要の言葉の意味がわからなかった。岡部と隣の軽そうな雰囲気の将校。二人とロナルドの雰囲気の違いなど誠には区別が付かなかった。だが得意げに要は話を続ける。
「なに、匂いだよ。カウラやうちのタコ隊長みたいに正規任務だけをこなしてきた人間にゃあつかない匂いだ。海軍ってことはシールチームか?」 
 一呼吸置こう、そう考えているとでも言う様に、ロナルドは呼吸を置いて話し始めた。アメリカ海軍の特殊部隊。誠も話は聞いていた。敵深くに軽装備で潜入して調査、探索、誘導などを主任務とする部隊の隊員。それぐらいの知識は誠にもあった。だがロナルドは相変わらず社交辞令のような笑みを絶やそうとはしない。
「それについては否定も肯定もしませんよ。規則上私の口からは言えないのでね。なんなら吉田少佐にでも調べてもらったらどうですか?彼のテクニックならペンタゴンのホストマシンに介入するくらいの芸当は出来るでしょうから」 
 特殊部隊上がりに良く見られる態度だ。誠は以前保安隊に配属された初日に警備部部長のマリア・シュバーキナに感じた違和感を思い出してようやくロナルドに感じて納得がいった。
「まあ、その口ぶりではっきり分かったわ。どことは言わんが非正規戦部隊出身の特務大尉殿か」 
「旦那!俺等のわかるように話してくださいよ!」 
 ラテン系と思われる髭を生やした中背の中尉がロナルドの脇をつつく。そして岡部の脇からチョコチョコと眼鏡をかけたブロンドの女性将校が誠を見ている。誠が微笑みかけると、逃げるように岡部の後ろに隠れた。そこで岡部が一歩足を踏み出して誠達を見回す。
「自分が……」 
「俺がフェデロ・マルケス海軍中尉。合衆国海軍強襲戦術集団出身で……」 
 岡部を押しのけて自己紹介を開始したフェデロだが、しらけた雰囲気に言葉を飲み込んだ。
「フェデロ。もう少し余裕を持て。それと彼がジョージ・岡部中尉だ。このフェデロとは強襲戦術集団のパイロット時代からの同期だそうだ」 
 ロナルドがそう言うと静かに歩み出た岡部が要に向かって握手を求める。
「ジョージでいいです。まあ、このうるさいのとは強襲戦術集団の頃からの腐れ縁で……」 
「腐れ縁ってなんだよ!いつもお前の無茶に付き合わされてた俺の身にもなってみろ」 
 小柄なフェデロはそう言うと岡部の手を引っ張る。
「それならお前が馬鹿やった席の尻拭いをさせられた回数を教えてもらいたいものだね」 
 にらみ合う二人。
「あのー」 
 そう言って話しかけてきた眼鏡の女性将校を見て、要の動きが止まった。
「でけえな」 
 要は一言そう言った。確かにそれは海軍の制服を着ていても分かるくらいの大きさの胸だった。要とマリアは大きい方だが、メガネの将校の胸は何かと邪魔になるだろうと心配してしまうような大きさだった。要はそれを確認すると、緑のキャミソールを着ているカウラの胸に視線を持っていった。
「平たいな」 
「おい、要。何が言いたいんだ?」 
 カウラはさすがにすぐに気がついてこぶしを固めて要をにらみ付ける。
「カウラさん落ち着いて!」 
 二人の間に入る誠。眼鏡の女性将校はおびえてしまい、また岡部の後ろに下がろうとする。
「シンプソン中尉。そんなに怯えなくてもいいですよ」 
 ロナルドのその言葉で落ち着いたシンプソンと呼ばれた女性将校がおずおずと前に出た。
「私がレベッカ・シンプソン技術中尉です。よろしくお願いします」 
 消え入るような声で頭を下げるレベッカ。要、カウラ、アイシャの視線が彼女の胸に集中する。
「そんな……見られると……私……」 
「外人だ!」 
 とつぜんのシャムの甲高い叫び声で、一同は入り口のほうを振り向いた。麦藁帽子、戦隊ヒーローの絵柄がプリントされた子供用のタンクトップ。デニムのスカート。さらに当然のように浮き輪を抱えたシャムが立っている。
「凄いよ!外人さんだよ!ほら金髪の人!」 
「おい、シャム。この眼鏡が外人ならオメエは宇宙人じゃねえか!」 
 冷たくはき捨てる要。誠も要の言う通りなので苦笑いを浮かべるしかない。
「金髪ならマリアお姉さんとかエンゲルバーグとか居るでしょz?」 
「でも私、この人たち会ったことないよ?」 
 アイシャのその言葉も、シャムには届いていない。
「もしかして……あなたがあの遼南青銅騎士団団長のナンバルゲニア中尉ですか!」 
 そう叫んだのはレベッカだった。彼女はそのままシャムのところまで近づくと。頭をなで始めた。
「この人、日本語うまいね」 
「生まれが長崎なんですよ私」 
 全員がこの奇妙な組み合わせを眺めていた。
「生まれは長崎っと。それでスリーサイズは?」 
 シャムを押しのけていつの間にか隣に立っていた島田とキムを見て飛びのくレベッカ。
「島田ちゃん。レディーにつまらない質問するとサラに言いつけるわよ」 
「それは勘弁してください。つい出来心で……」 
 アイシャの冷たい視線を浴びて引き下がる二人。だがいかにも残念そうな島田。それに対して再びレベッカの前に立ったシャムは興味深そうに金髪のレベッカを観察していた。
「でも本当におっぱい大きいね!」 
 そう言うと手を伸ばそうとするシャムだが、要がその手を叩き落とす。
「シャム、餓鬼かテメエは。三馬鹿を喜ばすようなこと言うんじゃねえ!それよりオメエさんら、ただ顔見世に来たってわけか?ご苦労なこった」 
 せせら笑うような要のいつもの表情にもロナルドはうろたえることもなかった。
「まあ嵯峨大佐にとりあえず会ってくれと言われましてね。嫌ならそのまま遼南の海軍基地に帰ってもかまわないと言うことでしたが」 
 嵯峨らしい配慮。誠はあの間抜けな顔をした部隊長がめんどくさそうに画像通信をしている場面を思い浮かべた。
「それでどうするつもりだ?帰るなら早いほうがいいぞ」 
 要がサングラスをずらして上目遣いに誠より一回り大きく見えるロナルドを見上げた。
「いえいえ、帰るなんて。なかなかいい環境のようじゃないですか。それに海軍で事前に聞いていたほど、お馬鹿な集まりじゃないと分かりましたし」 
 そんなロナルドの言葉に複雑な顔で黙り込む要。
「そうよねえ、馬鹿なのはこの三人と要だけだもんね」 
 アイシャはそう言って島田、キム、誠を眺めている。
「アイシャ……本当にいっぺん死んで見るか?」 
 要がこぶしを握り締めてアイシャをにらみつける。アイシャはいつものようにすばやく要から遠ざかると誠の陰に隠れて要を覗き見るふりをした。
「ロナルド・J・スミス特務大尉……」 
「ロナルドでいいですよ。カウラさん」 
 穏やかにロナルドからファーストネームで呼ばれたカウラが顔を赤くして下を向いた。ロナルドの余裕のある態度。それを見てカウラも気丈に長身の彼を見上げてみせる。
「ああそうだロナルド、そろそろ出かけないと出頭予定時刻に遅れるぞ!」 
 頑丈そうな腕でロナルドの肩をたたく岡部。ロナルドは髪を両手で撫で付けた後静かに手を振る。
「そうだな。では本部でお会いしましょう」 
 ロナルドはそう言うと、部下達を連れてロビーへと急ぐ。
 突然の来客に唖然としていた誠達。そこに入れ替わるようにしてサラとエダ、そして小夏がやってきた。
「姐さん達、遅いですよ!ヒンヌー教徒が場所取ったからつれて来いって騒いでますよ」 
 シャムの隣に立って、両手を腰に当てて小夏が言った。誰がどう見ても小夏が姉の中学生。シャムが妹の小学校低学年と言った風にしか見えない。
「菰田の馬鹿だろ?あんな連中ほっときゃいいんだよ。それより神前。冷えたビールケースで買って来い金は……」 
「そんな、島田先輩。もしかして一人で運ぶんですか?」 
 いつものような非情な指令に泣き言を言う誠。だが島田はそんな誠を苛めるのが楽しくてしょうがないと言う顔をしている。そしてその様子を見てシャムが元気よく右手を上げた。
「シャムちゃんも手伝うの!」 
「師匠が行くならあたしも!」 
 誠はシャムと小夏が立候補する姿を見てほっとした。だが相変わらず財布のことを考えて上目遣いに島田の譲歩を待つ。
「アタシも行くよ。コンビニの場所とか知らねえだろうし、金はどうせ立替で後で清算だろ?」 
 その言葉、誰もが予想しなかった要の登場に周囲の空気が止まった。
「お前、何か企んでいるのか?」 
 要の気まぐれに恐る恐るカウラがたずねた。サングラスをはずしてまなざしを投げる要。
「何が?」 
 じっと要のタレ目を確認した後、そのまま押し黙るカウラ。
「別にいいじゃないの。要、先行ってるわよ」 
 そう言うとアイシャはいまひとつ納得できないと言うような顔をしている島田達を連れて出て行った。
「じゃあアタシ等も行くぞ」 
 要はそう言うと先頭を切って歩く。だがシャムも小夏もただ不思議な出来事にでもであったと言うように立ち止まっていた。
「神前の兄貴。あの外道、何かあったんですか?」 
 小声で誠につぶやく小夏。首をひねってみた誠だが思いつくことも無いので黙って要について行く事にした。
「うわっ、暑いなあこりゃ」 
 自動ドアを出たとたん要が叫んだ。9時を回ったばかりだと言うのに、破壊的な日差しが一同に容赦なく降り注ぐ。海風も周りのアスファルトに熱せられて、気味が悪くなるほどの熱風となって誠一行を迎える。
「コンビニって近いんですか?」 
 誠は車止めの坂を下りながら要に尋ねてみた。
「なに、ちょっと海水浴場を通り過ぎた所にあるんだ」 
 要はそう言うとずんずん先を歩いていく。サイボーグの彼女ならこのような場所でも平気かも知れないが生身の誠には拷問に近いものだった。先ほどまでのホテルの冷気に慣れた誠の体力を熱風が確実に奪っていく。
「アイス!アイス!」 
 しかしシャムは元気だった。麦藁帽子の縁を手で持ちながらうれしそうにそう繰り返す。ホテルの入り口の石でできたオブジェを過ぎるところまで出ると要は振り返って叫ぶシャムに目をやった。
「シャム。それはテメエの金で買え」 
 シャムは少し残念だったと言うように口を尖らせる。そのまま道を下ってみやげ物屋が軒を連ねる海辺の街道に出ると、それまでの熱風が少しはさわやかな海風と呼べるような代物になったていた。誠は防波堤の向こうに広がる砂浜のにぎわう様を見ていた。
「やっぱり結構人が出てますね」 
 砂浜はパラソルの花があちらこちらに咲き乱れ、波打ち際には海水浴客の頭が浮いたり沈んだりを繰り返している。
「まあ盆過ぎだからイモ洗いにはならねえけどな。小夏のジャリ」 
「ジャリじゃねえ、この外道が!」 
 今度は小夏が頬を膨らませる。彼女も先ほどまでは誠と同様暑さにへこたれそうになっていたのだが海からのさわやかな風に息を吹き返していつもの調子で要をにらみつけた。
「アタシ等、一箱づつ持って帰るわけだが、お前持てるのか?一箱」 
 そう言って得意げに振り返る要。誠は伊達に鍛えてはいない、要は軍用のサイボーグである。シャムはその小柄な体に見合わず力持ちであることは誠は知っていた。
「アタシだって……」 
 缶ビール一ケースの重さは、飲み屋の娘である小夏には良く分かっていた。狭いあまさき屋の中を運ぶのとはわけが違う。
「僕が二箱持ちますよ」 
 当然そうなるだろうと覚悟しながら誠はそう言った。
「アタシが二つ持つから、ジャリはつまみでも持ちな」 
 サーフボードの青年を避けて振り返った要の言葉に誠と小夏の目が点になった。明らかにいつもの要が口にする言葉では無かった。
「おい、要!何か後ろめたいことでもあるのか?」 
 小夏が生意気にそう言った。いつもの要ならそのまま小夏の頭をつかんでヘッドロックをかますところだ。しかし、振り向いた要は口元に不敵な笑いを浮かべるだけだった。
「なんか変だよ、要ちゃんどうしたの?」 
 不安そうにシャムがつぶやく。
「一応この体だって握力250kgあるんだぜ、アタシは。缶ビール二ケースくらい余裕だよ」 
 上機嫌に話す要。そしてそのまま彼女は浜辺に目を向ける。
「それにしてもヒンヌー教徒はどこ取ったんだ?」 
 海岸線沿いの道路。一同は歩きながら浜辺のパラソルの群れを眺めていた。赤と白の縞模様のパラソルを五つ保安隊は備品として倉庫から引っ張り出してきていた。
「どれも同じ様なのばっかりじゃん。分からないっすよ」 
 小夏が一番にあきらめて歩き始める。誠もどうせ分からないだろうとそれに続く。
「菰田っちなら結構広いところ取ってくれるよね?」 
 シャムはそう言いながら砂浜を見渡している。
「あれじゃねえか?……バッカじゃねえの?」 
 要が指差した先には、『必勝遼州保安隊』というのぼりが踊っていた。野球部の部室の奥にあった横断幕である。
「アホだ……」 
 思わず誠はつぶやいていた。
「誰も止めなかったのかよ、あれ」 
 そう言うと要は足を速めた。さすがにいつもより心の広い要でも恥ずかしくなったようだった。
「きっと正人っちが片付けてくれるよ」 
 さすがにシャムですら菰田達ヒンヌー教徒の暴走にはあきれているようだった。とりあえず目的地がわかったことだけを考えるようにして海に沿って続く道を進む。
「やっぱ車でも借りりゃあよかったかな?」 
 暑さに閉口した要が思わずそう口にしていた。
「やっぱりアイス買おうよ」 
 そんなシャムの言葉に要の視線が厳しくなる。
「それはお前が買え。アタシは缶ビール買ってその場で飲む」 
 二人の飽きない会話を聞きながら誠はようやく見えてきたコンビニの看板を見てほっとしていた。買出しの観光客で一杯の駐車場。四人は汗をぬぐいながら入り口に向かって進む。
「やっぱ考えることは一緒か」 
 缶ビールとアイスを持った親子連れを見ながら要がつぶやく。
「アイス!要ちゃん!自分のお金ならいいんだよね?」 
 満面の笑みで人だかりに呆れた要を見上げるシャム。
「そうだな、店中のアイスを買い占めても文句は言わねえよ」 
 要の言葉に店内に飛び込むシャムとそれに続く小夏。誠もその姉妹のようなコンビネーションに苦笑いを浮かべていた。
「ジャリは元気だねえ」 
 サングラスをずらした要が誠の顔を見上げる。
「何か?」 
 誠が口を開くが、要は何も言わず店内に入った。弁当とおにぎりの棚の前に客が集まっている。要はそれを無視してレジを打っている店長らしき青年に声をかけた。
「缶ビール四ケースあるか?」 
 並んでいた客の迷惑そうな顔を無視する要。
「すいません、ちょっと待ってください」 
 そう言うと青年はスナック菓子の陳列をしているアルバイトの女の子に声をかける。
「ビール24本入りのやつ四つほしいんだけど」 
「お客様、冷えて無くても……」 
 舌打ちをする要。そして一呼吸入れると頭を掻きながら女子高生風のアルバイト店員に向き直る。
「ああ、クーラーボックスはあるから出してくれたらそのまま持ってくよ」 
 その言葉に少し遠慮がちに、バックヤードから出てきた高校生と言った感じのバイトと顔を見合わせると、そのまま二人は奥に消えていった。
「小夏!つまみとか選んでろ。シャムはアイスは決まったか?」 
「うん!チョコ最中!誠君も食べる?」 
 にこやかに小夏の分と二つを持ったシャムが振り向く。
「いいです。僕もビールをやりますから」
 断った誠の顔を満足げに見上げる要。 
「神前、そりゃあいいや。アタシの分も頼むわ」 
 女子高生らしい店員が重そうに台車に乗せたダンボール四つのビールを運んでくる。
「シャム。アイスの勘定はお前がしろよ」 
 そう言いながらカードを取り出す要。
「ケチ!」 
 シャムがすねながらレジの列に並んだ。小夏がポップコーンやポテトチップや珍味と言った菓子やつまみを持って要の元にやってくる。
「裂きイカはあるか?」 
「当たり前だろ!アタシも大好きだからな」 
 そう言うと小夏は菓子類をダンボールの上に置いた。閉めていたレジを開けて、勘定を始める女の子。隣の列に並んでいたシャムはもう払いを済ませて小夏をつれてアイスを食べるために出て行った。
「ああ誠、冷えてるビール二缶持って来い」 
 要はレジを操作している店員を見ながらそう言った。
「銘柄は……」 
 奥に向かおうとした誠だが、振り返って思い出したように尋ねた。
「何でもいいぜ。ただ発泡酒はやめろ、ちゃんとしたビールな」 
 そう言われて冷蔵庫に向かう誠。とりあえずあまさき屋で出しているのと同じ銘柄の缶ビールを二つ持って要のところまで行く。 
「ありがとな。店員!こいつも頼むわ」 
 追加の商品にあからさまに嫌な顔をする店員。いつもならサングラスをはずして眼を飛ばすくらいのことをする要だが、特に気にすることも無く会計を済ませる。
「誠。アイス食ってるアホの分も頼むわ」 
 要はそう言うと軽々と二箱のビールを肩に担ぐと、あきれながら見つめている店員や周りの客の視線を無視して表に出る。あわてて誠もその後に続いた。
 店先でアイスを食べているシャムと小夏の前にどっかと二箱のビールを置くと、誠が持っていたビールを受け取って一気にのどに注ぎ込む要。
「やっぱ夏はこれだぜ」 
 そう言って簡単に飲み干したビールの缶を握りつぶす要。
「もう飲んだんですか?」 
 まだプルタブを開けたばかりの誠が問いかける。
「ビールはのど越しで味わうもんだ。シャム、その目は飲みたいって顔だな?」 
「うー……」 
 シャムの目はビールを飲み始めた誠を見つめている。
「どうせ身分証はバッグの中だから買えないんだろ?ざまあみろ」 
 シャムが膨れている。どう見ても小学生な彼女。恨みがましく要を見ている。
「おい、誠。先に行くからゆっくり飲んでてくれよ。とりあえず一箱シャムの分だ」 
 要はそう言うと積み上げられた四つのビールの箱との一つを地面に置いた。
「誠ちゃんこれ持ってくね!」 
 そう言うとビールを飲み始めた誠から、シャムが一箱のビールを持ち上げて軽く肩に乗っけた。
「じゃあ先行くから!」 
 シャムはそう言うと誠からつまみ類を受け取った小夏と一緒に恥ずかしいのぼりを目指した。
「しかし、元気ですねえ。ナンバルゲニア中尉」 
「まあ他にとりえが無いからな。それより気をつけろよ」 
 少しうつむき加減に要がサングラスをはずす。真剣なときの彼女らしい鉛のような瞳がそこにあった。
「今日のロナルドとか言う特務大尉殿だ。前にも言ったろ、アメリカの一部軍内部の勢力は貴様の身柄の確保を目的にして動いている。叔父貴が認めたくらいだから海軍はその勢力とは今のところ接点は無いようだがな。だが、あくまでそれは今のところだ」 
 誠は残ったビールを一気に流し込むようにして飲むと、缶をゴミ箱に捨てた。
「局面によっては敵に回ると言うことですか?」 
「分かりやすく言えばそうだな。あのロナルドって男は特殊任務の荒事専門部隊の出なのは間違いない。それこそ、そう言う指示が上から降りれば間違いなくやる」 
 それだけ言うと、要は再びサングラスをかけた。
「まあそれぐらいにして……今日は仕事の話は止めようや。とっとと付いて来いよ!」 
 そう言うと軽々と二箱のビールを抱えて、早足で要は歩き始めた。

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