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遼州戦記 保安隊日乗 季節がめぐる中で 17

「狭い!」 
「なら乗るな」 
 カウラのスポーツカーの後部座席で文句を言う要をカウラがにらみつける。高速道路ということも有り、スムーズに豊川の本部に向かう車。
「でも、あれよね。ランちゃんのあの言葉、気になるわよねえ」 
 助手席で伸びをしながらアイシャがつぶやいた言葉に、隣の要がびくんと反応した。
「冗談だろ?あの横暴だけど腕は立つ餓鬼を簡単に手放すなんて、東和陸軍はやらねえよ」 
 どちらかと言うと自分に言い聞かせているように聞こえる要の声。
「確かに裾野の第一特機教導連隊の隊長ですよね。あそこはあまり異動の無い所だって聞いていたんですけど……」 
 噂で口にした言葉だがすぐに助手席の紺色の長い髪が振り返ってくる。
「甘いわね、誠ちゃん」 
 そう言うと嬉しそうな顔のアイシャが振り向いてきた。
「うちじゃあシャムちゃんと言う遼南青銅騎士団の団長がその身分のまま出向しているのよ。所詮、サラリーマンの東和軍ならもっと動きがあってもおかしくないわよ」 
 アイシャの言葉に第一小隊のシャムと吉田のにやけた顔が誠の脳裏にちらついた。
「まあ、アメリカ海軍の連中も出向して来ているのがうちの部隊だからな。そう言えば島田達は今頃着いたかねえ」 
 要はそう言うと追い抜かれて後ろに消えていくダンプカーを眺めている。保安隊第四小隊は配属後の教育期間を終えると、遼州の火薬庫と呼ばれるクバルカン大陸に派遣された。クバルカン大陸第三の人口を誇るバルキスタン共和国。その選挙活動の監視と言うのが彼らの出動の名目だった。クバルカン大陸は遼州同盟にとっては鬼門、地球諸国にとっては頭痛の種だった。
 遼州星系の先住民族の遼州人が居住していなかった地域であるこの大陸に、地球から大規模な移民が行われたのは遼州星系に地球人の移民が行われるようになってから百年以上がたってからのことだった。初期の遼州の他の国から流入した人々は、その地の蚊を媒介とする風土病で根付くことができなかった。
 クバルカン風邪と呼ばれた致死率の高い熱病に対するワクチンの開発などで、移民が開始されたクバルカン大陸には多くのロシア・東ヨーロッパ諸国、そして中央アジアの出身者が移民することになった。しかし、ここにすでに権益を持ちかけていた西モスレムはその移民政策に反発。西モスレムを支援するアラブ連盟とロシアとフランスの対立の構図が出来上がることになった。
 そして、その騒乱の長期化はこの大陸を一つの魔窟にするには十分な時間を提供した。それは遼州同盟と地球諸国の関係が安定してきた現在でも変わることが無かった。年に一度はクーデターのニュースが駆け巡り、戦火を逃れて他の大陸に難民を吐き出し続けるクバルカン大陸。
 第四小隊のロナルド・J・スミス大尉、ジョージ・岡部中尉、フェデロ・マルケス中尉のアメリカ海軍からの出向者である三人のアサルト・モジュールパイロットと保安隊技術部の島田正人准尉率いる技術班がバルキスタンの首都クマサに向けて出発したのは三日前のことだった。

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