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遼州戦記 保安隊日乗 魔物の街 3

 東都都庁別館の警察鑑識部のある巨大ビル。その玄関ロビーで来客用の椅子に腰かけ、両手であったかい缶コーヒーを飲むランの姿は非常に目立つものだった。さらにその隣では同じく缶のお茶を啜る和服の茜。ロビーを通る警察関係者達がこの集団に混じっている誠達を好奇の目で見るのはあまりにも当然過ぎた。
「コイツが小便行きてえとか言い出してパーキングエリアに止まったのが悪いんだよ!」 
 要はそう言うとパーカーのフードをいじっていた島田の頭を小突く。
「そこで喧嘩を始めようとしたのは誰だ?」 
 カウラの視線を浴びて後ずさる要。
「茜ちゃん。ここに来なければいけない理由。ちゃんと示して見せてね」 
 ここに到着したばかりだと言うのになぜか手に缶コーヒーを持っているアイシャがそう言って椅子に腰掛けている茜を見下ろす。
「そうですわね」 
 それだけ言うと茜は軽く周りを見回す。そしていつの間にか消えていたラーナがエレベータの前で手を振るのを見つけて立ち上がった。
「神前、刀は……あー、持ってるか」 
 立ち上がると言うよりソファーから飛び降りると言う調子のランが誠の手に握られた日本刀を確認する。
「なんだ?試し切りをしろって言う奴か?」 
 冷やかすような調子でランの後についていく要。誠も先ほどの死体の発生とこの日本刀に何の関連があるのかまるで理解できないでいた。
「とりあえず、技術開発局でパスワードを発行してもらわないといけないのでそちらに寄りますね」 
 全員が落ち着いたとわかるとラーナはそう言った。
「パスワード?」 
 最後尾を着いてきた島田の言葉。同様に茜、ラーナ、ラン以外の面々が不思議そうな顔でラーナを見つめる。
「まーそれだけ他所には知られたくねー事実なんだよ」 
 そう言うとランは開いたエレベータに真っ先に乗り込む。昼前と言うこともあって閑散としている。
「飯食ってくれば良かったかな」 
 頭を掻きながら要がそう言うと茜とランが同情するような視線で要を見る。
「なんだよ、死体かなんかだろ?アタシは腐るほど見てるから平気だよ。そうじゃなくてコイツのことだよ。どうだ?神前。結構えぐいかもしれねえぞ……しばらく肉が食えなくなるとか」 
 話題を振られて誠は戸惑う。死体の写真なら訓練所でもいくつも見てきたし、以前のバルキスタン戦では実物も見た。確かに食欲が減退するのは経験でわかっていた。
 そんな誠達の目の前のエレベータの扉が開く。白を基調とした部屋の中には人の気配が無かった。ただ静かな空気だけがそのフロアーを支配していた。捜査活動などで忙しく立ち働いている人からの白い目を覚悟していた誠には少しばかり拍子抜けする光景だった。
「不気味だねえ」 
 要はそう言いながら先頭を歩こうとする茜に道を譲る。誠もまるで人の気配を感じない白で統一された色調の部屋をきょろきょろと見回しながら歩いた。
「ここですわ」 
 茜はそう言うと白い壁にドアだけがある部屋へ皆をいざなった。
 茜は何事も無いように歩く。扉を開いてそのまま部屋に入り、一度くるりと回った後そのまま部屋から出てきた。
「皆さんもどうぞ」 
 襟を正しながらそう言う茜に誠達は呆然としていた。
「いったい何が?」 
 誠の質問を無視するように今度はラーナが茜と同じように部屋に入り、くるりと回って出てくる。そしてランも当然のように同じ動作をした。
「無意識領域刻印型パスワード入力か?こりゃあ本格的だな」 
 そう言った要も同じように白い部屋に入りくるりと回って出てくる。
「なんですかその……」 
「大脳新皮質の一部に直接アクセスして無意識の領域に介入するのよ。そしてそこにパスワードを入力して現場ではそれを直接脳から読み取ってセキュリティーの解除を行うっていうシステムね。でもこれは警察でも最高レベルの機密保持体制よ。一体……」 
 そう言ってアイシャが同じ動作を行う。
「僕もやるんですか?」 
 初めて聞くセキュリティーシステムに腰が引ける誠だが、彼の頭を要が小突いた。仕方なく誠は扉を開き、真っ白な部屋に入る。
 何も起きない。
 まねをしてくるりと回る。反応は無い。そしてそのまま部屋を出た。
「あのー?」 
「ああ、自覚は無いだろうがすでに脳にはパスワードが入力されているんだ。実際どう言うパスワードかは本人もわからない」 
 サラが続くのを見ながらカウラはそう言って後に続く。
「ああ、吉田さんなら無効化できるかもしれないけどな」 
 そう言って島田もカウラに続いた。
「それじゃあ今度は地下ですわね」 
 全員がパスワード入力を済ませると再び廊下をエレベータへと進む。電子戦のプロである保安隊第一小隊二番機担当の吉田俊平少佐でもない限り解けないと言うセキュリティーを施すほどの機密。誠は不謹慎な好奇心に突き動かされて茜の後ろに続いた。
 相変わらずエレベータルームにも人の気配が無い。
「これだけの機密ってことは……本当に俺等が来て良かったんですか?」 
 前線部隊ではない技術部整備班長の島田が頭を掻く。そして運用艦『高雄』の管制オペレータであるサラも同じように頷いた。
「ごらんいただければわかりますわ」 
 それだけ言うと茜は黙り込んだ。その突然の沈黙に誠の好奇心は再び不安に変わった。エレベータのドアが開いて一同は乗り込む。最後に乗ったラーナがエレベータにポケットから出したキーを差し込む。
「隠し部屋ですか。さらに厄介だ」 
 島田の一言にランの鋭い視線が突き刺さる。驚いた島田はそのままサラを見てごまかした。動きだしたエレベータの中。浮いたような感覚、そしてすぐに押しつぶそうとする感覚。パイロットの誠には慣れた感覚だが、それがさらに不安を掻き立てる。
 そして当然のようにドアが開いた。薄暗い廊下。壁も天井もコンクリートの打ちっ放しで、訪れるものの不安をさらにかきたてる。あえて救いがあるとすれば若干の人の気配がするくらいのことだった。
 廊下に出た茜に続くと、誠はそこで白衣を着た研究者のような人達が行き来する活気に心が救われる思いだった。
「人体実験でもやっているのかねえ」 
 要の無責任な言葉に茜が振り向いて棘のある微笑を浮かべる。要はそのまま後ろに引っ込みカウラの陰に隠れた。
「これは……嵯峨警視正」 
 部屋の置くから低い声が響いた。到着したのは生物学の実験室のような部屋だった。遠心分離機に検体を配置している若い女性研究者の向こうの机に張り付いていた頭の禿げ上がった眼鏡の研究者が茜に声をかけてくる。
「例のものを見に来ましたわ……それと処理も」 
 研究者があまりにも研究者らしかったのがおかしいとでも言うように噴出しかけた要を一瞥した後、茜はそう言って巾着からマイクロディスクを取り出す。
「そうですか。失礼」 
 そう言うと眼鏡の研究者はそれを受け取り手元の端末のスロットにそれを差し込んだ。画面にはいくつものウィンドウが開き、何重にもかけられたプロテクトを解除していく。
「なんだよ、ずいぶん手間がかかるじゃないか」 
 要はそう言いながら部屋を見渡した。
「サンプル……人間の臓器だな」 
 カウラの言葉に誠は改めて並んでいる標本に目を向けた。いくつかはその中身が人間の脳であることが誠にもすぐにわかった。他にもさまざまな臓器のサンプルがガラスの瓶の中で眠っているように見える。
「ちょっと、そこ」 
 明らかに緊張感の無い様子でアイシャがつついたのは島田の手にしがみついているサラを見つけたからだった。
「ランちゃんは……平気なの?」 
 島田から引き剥がされたサラがランを見下ろす。
「オメーなー。アタシが餓鬼だとでも言いてーのか?」 
 そうランが愚痴った時、ようやく研究者の端末の画面がすべてのプロテクトの解除を知らせる画面へと切り替わった。
「それでは参りましょう」 
 茜はそう言うといつものように緊張感の無い誠達に目を向けた。
 奥のには金庫の扉のようにも見えるものが鎮座している。迷うことなく進む茜。彼女はそのまま扉の横のセキュリティーにパスワードを打ち込む。
「ここまでは一般向けのセキュリティーか」 
 要はそう言うと開いていくドアの中を伸びをして覗き込む。そんな要を冷めた目で見ながら茜はそのまま中へと歩き出す。
 無音。ただ足音だけが聞こえている。
「遅れるんじゃねーぞ。全員のパスワードが次のセキュリティー解除に必要だからな」 
 ランの言葉に思わず手を握り締めた誠。彼の後ろでは観光気分のサラとニヤニヤしている島田がついてきていた。そして30メートルほど歩いたところで道は行き詰るかに見えた。しかし、すぐに機械音が響き、行き止まりと思った壁が開く。
「ずいぶん分厚い扉だねえ。なんだ?化け物でも囲ってるのか?」 
 軽口を叩く要を無視して茜は歩き続ける。
「わくわくしない?神前君」 
 後ろからサラに声をかけられるが誠はつばを飲み込むばかりで答えることが出来なかった。
 カウラは通路の壁を触ったりしながらこの場所の雰囲気を確認しようとしているようだった。要は後頭部で両腕を組みながらまるで普段と変わりなく歩いている。アイシャは首が疲れるんじゃないかと誠が思うくらいきょろきょろさせながらアトラクション気分で歩いていた。
 そして再び行き止まりにたどり着く。
「おい、島田。もっとこっちに来い!パスワードがそろわねーだろ!」 
 ランがそう言って最後尾を歩いていた島田を呼ぶ。彼がサラにくっつくようにやってきたとき再び扉が開いた。
「次で目的地ですから安心してくださいね」 
 笑う茜。誠は何を安心すれば良いのかわからず握り締めていた刀に目をやった。
「あの、嵯峨捜査官……」 
 誠は静かにそう言って手にした刀を茜に見せる。茜はそれを見てにっこりと笑う。
「そうですわね。とりあえず袋から出しておいた方がよろしいのではなくて?」 
 茜の言葉に誠は刀の袋の紐を解いた。
「へー、そう言う風な結び方なんだ」 
 珍しそうに誠の手元に目をやるアイシャ。
「別に決まりなんて無いですよ。ただ昔から普通に……」 
 誠の言葉が出る前に通路の奥で不気味なうなり声のようなものが聞こえた。
「やっぱり怪獣を飼っているのか?」 
 笑いながらそう言って要は茜の前に出て歩き始めた。

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