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遼州戦記 保安隊日乗 魔物の街 5

 誠は起き上がった。寮の自分の部屋。カーテン越しにすでに朝であることを確認する誠。そして昨日の化け物の断末魔の声を聞いたような感覚を思い出し首をすくめた。
「しばらく見るだろうな。こんな夢」 
 そう思った誠が布団から起き上がろうとして左手を動かす。
 何かやわらかいものに触れた。恐る恐るそれを見つめる誠。
「おう、早いな」 
 眠そうに目をこする要。その胸に誠の左手が乗っていた。
「お約束!」 
 手を引き剥がすと跳ね上がって布団から飛び出し、そのまま部屋の隅のプラモデルが並んでいる棚に這っていく誠。
「おい、お約束ってなんだよ。アタシがせっかく添い寝をしてあげてやったっつうのによ!」 
 要はそう言うと自分の部屋から持ってきた布団から這い出し、枕元に置いてあったタバコに火をつける。そのまま手元に灰皿を持ってくるが、そこに数本の吸殻があることから、要が来てかなり時間が立っているのを感じた。
 とりあえず誠は息を整えて立ち上がり、カーテンを開けさらに窓を開けた。
「寒くないのか?」 
 タバコを吹かしながら誠を見上げる要。
「タバコのにおいがしたらばれるじゃないですか!」 
「誰にばれるんだ?そうすると誰が困るんだ?」 
 ニヤニヤと笑う要。
「あのですねえ……」 
 そう言った時に部屋のドアがいきなり開く。
「西園寺!」 
 踏み込んできたのはカウラだった。隣になぜか島田までいる。
「おう!来たか純情隊長!」 
 満面の笑みの要。誠はその姿を見るといつもどおりブラもつけないタンクトップにスカートだけと言う要の姿と青筋を立てている勤務服姿のカウラを見比べる。
「ああ、西園寺さん。一応……」 
 そう言うと島田はそのまま部屋に入り誠のプラモデルコレクションのメイドのフィギュアをどかして小さな四角い箱を取り出す。
「おい、隠しカメラって奴か?なんだ、せっかく……」 
「要ちゃん!」 
 カウラをからかう言葉を用意しようとした要の頬にアイシャのローキックが炸裂した。
 一見、グラマラスな美女に見える要だが、100kgを超える軍用義体。そして骨格は新世代チタニュウム製である。そのままアイシャは蹴り上げた右手を中心に回転して誠の頭に全体重をかけての頭突きをかますことになった。
「痛てえ!」 
「痛いじゃないの!誠ちゃん!」 
 アイシャが叫ぶが要は涼しい顔でタバコをくゆらせている。
「オメー等何やってんだ?」 
 入り口に現れたのはトランクを抱えたと言うか大きなトランクに押しつぶされそうな状態のラン、そして同じように荷物を抱えた茜とラーナがいた。
「なんだ?引越しか?」 
「仕方ねーだろ?昨日の件でオメー等の監視をしなきゃならねーんだから」 
 要のタバコに嫌な顔をしているラン。
「ごめんなさいね、皆さんを信用できないみたいな感じで。まあちょうど技術部の方が六人ほど大麗宇宙軍に異動になって部屋が空いたと島田さんから連絡があってそれで……」 
 茜の言葉に要、カウラ、アイシャの視線が島田に向いた。
「しょうがないだろ!同盟司法局の指示書を出されたら文句なんて言えないじゃないですか!」 
 島田が叫ぶとそのすねを思い切り蹴飛ばすラン。
「何か?アタシ等がいると都合が悪いことでもしてんのか?」 
 弁慶の泣き所を蹴り上げられてそのまま転がって痛がる島田。
「そう言うわけだ。世話になるぜ」 
 そう言ってランはいつの間にか同じようにトランクを持って待機していたサラの手引きで階段に向けて歩き出した。
「どうすんだよ!ちっちゃい姐御が来たら……」 
「みなの緊張感が保たれて綱紀が粛正される。問題ないな」 
「カウラ!テメエ!」 
 カウラと要がにらみ合う。ようやく痛みがひいたのかゆっくりと立ち上がったアイシャがすねを抱えて転げまわっていた島田の襟首をつかんで引き寄せた。
「正人ちゃん。サラが来てた様な気がするんだけど……それも指示書にあったの?」 
「ありました!なんなら見せましょうか?」 
 サラとの付き合いが公然の事実である島田が開き直る。そしてそのままアイシャは胡坐をかいて目をつぶり熟考していた。
「茜さんは元々仕事以外には関心が無い。問題ないわね。ラーナも同じ。そしてサラはいつも私達とつるんでいるから別に問題ない。そうすると……」 
「やっぱちびじゃねえか!問題なのは!」 
 要とアイシャが頭を抱える。ほとんどの隊の馬鹿な企画の立案者のアイシャとその企画で暴走する要にとってはそのたびに長ったらしい説教や体罰を加える元東和陸軍特機教導隊の尾に隊長の保安隊副長クバルカ・ラン中佐と寝食を共にするのは悪夢以外の何者でもなかった。
「まあ、おとなしくしていることだ」 
 そう言うと立ち上がったカウラが要の首根っこを掴む。
「わあった!出りゃ良いんだろ!またな」 
 立ち上がる要。アイシャはぶつぶつ独り言を良いながら立ち上がる。
「まったく。面倒な話だな」 
 島田も彼女達を一瞥するとそのまま立ち上がり、誠の部屋のドアを閉めた。
『だんだん大所帯になるなあ』 
 そう思いながら着替えをしていた誠だが、すぐに緊張して周りを見回した。先ほどの隠しカメラの件もある。どこにどういう仕掛けがあるかは島田しか知らないだろう。そう思うと出来るだけ部屋の隅で小さくなって着替える。
「寒!」 
 思い出してみれば窓が開いたまま。とりあえず窓を閉めてたんすからジーンズを取り出した。そのまま何とか出勤できるように上着を羽織って廊下に出た。いつものようにあわただしい寮の雰囲気。夜勤明けの整備班員が喫煙所から吐き出す煙を吸いながら階段を下りて食堂に入る。
 今日の食事当番はアイシャだった。いつもの事ながら要領よく味噌汁などを配膳しているアイシャを見て誠は日常を取り戻した気がした。
「誠ちゃん!サービスでソーセージ二本!」 
 管理部の眼鏡の下士官からトンクを奪って誠のトレーに一本限定のはずのソーセージを載せる。
「良いんですか?」 
 思わず振り向いた先に嫉妬に狂う同僚達の冷たい視線が突き刺さる。
「良いんだって!」 
 そうアイシャに言われてそのまま味噌汁を受け取り、ご飯を盛り付ける誠。
「おう、これが飯を食う場所か?」 
 ランの声が響くと隊員達は一斉に立ち上がり小さなランに敬礼する。保安隊の副長である彼女は悠然と敬礼を返してアイシャが食事の盛り付けをしているところにやってきた。
「ランちゃんも食べるの?」 
 アイシャに何度注意しようが『ちゃん』付けが直らないことで諦めたラン。
「おー、朝飯なら食ってきたからな。それより今日はここの施設を見て回ろうと思ってな」 
 この一言に半数の隊員がびくりと震えた。寮の規則は管理部の基礎を固めた先代の管理部部長、アブドゥール・シャー・シン大尉が作成したものだった。だが規律を重んじる現在は異動になって同盟軍教導部隊副長が作成した寮則も島田の温情で有名無実なものになっており、多くの隊員は寮則の存在を忘れていたところだった。当然同じように規律を重んじるところのあるランが動けばどうなるか。それを想像して食事をしていた隊員達の箸の勢いが鈍るのが誠にも見えた。
「私達は勤務だけど……菰田君?案内は」 
 アイシャの言葉にさらに数人の隊員が耳を済ませているのが分かる。技術部整備班班長の島田正人准尉と管理部経理課課長の菰田邦弘主計曹長の仲の悪さは有名である。島田の車好きにかこつけて寮則違反の物品を部屋に溜め込んでいる隊員には最悪の事態なのが誠にも見て取れた。
「案内なんていらねーよ。それに菰田に案内させると困る連中もいるんだろ?」 
 そう言って子供の姿からは想像もできない意味深げな笑いを浮かべるラン。その姿に隊員達はほっと胸をなでおろした。
「アイシャ!いつの間に来たんだ?」 
 ようやく要が革ジャンを着て現れる。その後ろからはいつもどおり保安隊の勤務服姿のカウラがついてきていた。
「なあに、無駄なことをしないだけよ。誰かと違って」 
 そのまま二人の喧嘩に巻き込まれるのもつまらないと思って誠はそのまま食堂の隅にトレーを運んで行った。
「それじゃあちょっと休むからここ座るぞ」 
 そう言って要達ににらみをきかせるように、小さなランがちょこんと誠の前の椅子に座る。それを見て菰田が彼女を見つめている警備部の禿頭にハンドサインで茶を出すように合図した。
「菰田、気を使いすぎると老けるぞ。なー」 
 ランの言葉だが、一見幼女の彼女が老獪なのは知れ渡っていて指示された隊員が厨房に走る。
「まったく、つまらねー気ばっかり使ってるなら書類の書式くれー覚えて欲しいもんだな」 
 そう言って足が届かないので椅子から足を投げ出してぷらんぷらん揺らすラン。
「やはり器がでかいねえ、中佐殿は。じゃあ……」 
「図書館の件も許してくれるのよね!」 
 隣に座ろうとする要を押しのけてアイシャが顔を出した。
 図書館。本来は島田が部下に許してビデオやゲームなどを集めた一室を作っていたのが始まりだった。本来なら女性に見せたくないその部屋だが、アイシャが誠の護衛の名目でこの寮に居座ると彼女がさらに大量のエロゲーを持ち込んだ。その圧倒的な量でついには壁をぶちぬいて拡張工事を行い、現在図書館はちょっとした秘密基地と呼べるようになっていた。
「ああ、その件ならサラから聞いてるぜ。勝手にしろよ。ただし……」 
 ランはそのまま菰田に目を向けた。
「アタシの写真を加工してみろ。どうなるか分かるだろ?」 
 遼南内戦末期の共和軍の切り札と呼ばれた彼女の鋭い眼光に、菰田が周りのシンパを見回す。
 ランの保安隊副長就任以来、菰田率いる貧乳女性『ぺったん娘』を信仰する秘密結社『ヒンヌー教』は以前からのネ申であるカウラ・ベルガーをあがめる主流派とロリータなクバルカ・ラン中佐を愛好する反主流派の派閥争いが続いていた。
 菰田が周りを見回すと同意する主流派と目をそらす反主流派の隊員の様子が誠からも見て取れた。
「おう、分かれば良いんだ。なんだ、神前。食えよ。遠慮するな」 
 そのテーブルのメンバーを覚えたと言うように一瞥したランの一言で菰田達が乾いた笑顔を浮かべてるのを気にしながら誠はソーセージに食いつく。
「でも中佐殿が来てここの寮の名前がかなり看板に偽りありになってきたな。『男子下士官寮』って言うが男子でも下士官でもないのが増えすぎだよ」 
 アイシャが去って椅子に座ると要はそう言ってすぐに味噌汁を啜り始めた。
「別に名前など問題じゃないだろ?」 
「そう言うわけにもなー」 
 カウラをさえぎって頭を掻くラン。
「この寮には隊の厚生費が使われてるからな。高梨からも要と同じこと言われたよ。今度の予算の要求でここの費用をどう言う名目で乗せれば良いかってな。頭いてーや」 
 そう言うランの前に菰田のシンパの隊員がお茶を運んでくる。
「ご苦労だな」 
 ランはそれをのんびりと飲み始めた。
「将校だけこの辺のアパートの相場の費用を取れば良いんですよ」 
 経理を担当しているだけにそう言う時の菰田の頭の回りは速い。だが、ものすごい形相で威圧しているアイシャの顔を見て、菰田はそのままテーブルの上の番茶に手を伸ばして目をそらした。
「それは高梨に言ったんだが……手続き上無理なんだと。それと……アイシャ。少しは自重しろよ。オメーが一番古株組じゃー階級が上なんだからな」 
 そう言って悠然とランはお茶を飲む。
「上は今度の魚住の旦那の同盟軍教導部隊のことで頭がいっぱいで、うちには余計な予算はつけたくないのが本音だろうからな」 
 今度は白米を口に運ぶ要。誠も言いたいことは理解できた。
 胡州帝国海軍第三艦隊のエース。前保安隊副長明石清海中佐と並んで『播州四天王』と呼ばれる魚住雅吉大佐を隊長とする『遼州同盟機構軍教導部隊』。同盟機構の軍事機関の正式発足に伴い西モスレムで編成される部隊には前保安隊管理部部長アブドゥール・シャー・シン大尉も引き抜かれていた。
 人的損失もくらった保安隊である。予算が削られることも当然想定できた。
「まーな。だからオメー等にはきっちり仕事をして……神前。食い終わったらすぐに出る支度をしろ!」 
 ランにそう言われて誠は我に返って立ち上がった。ランが何も考えずにここにいるわけではないことは誠も分かっていた。そのままトレーをカウンターに返すとそのまま食堂を出て階段に向かう。
「あら、神前さん。お食事は済ませましたの?」 
 階段では隣に従者のように西を引き連れて寮を案内させている様子の茜とラーナがいた。
「すいません、支度をしてきます」
 そう言って誠はそのまま廊下にでる。暖房の効かない廊下の寒さに転がるようにして階段を駆け上がり部屋に飛び込む。万年床に転がって思わず天を仰ぐ誠。引っ掛けたジャケットのぬくもりで二度寝に入るような感覚にとらわれながらうとうとする誠。
「おい!」 
 目の前に要の顔があってびっくりして起き上がり、彼女の額に頭をぶつける。
「起こしてやってこの仕打ちか!」 
 要に怒鳴られようやく自分がうとうととしていたことに気がついた。
「行くぞ!」 
 カウラは素早く扉から身を翻す。誠は立ち上がって要達に続いた。
「珍しいわね……ってまさか!」 
「おい、アイシャ。昨日はアタシがコイツを眠らせなかった……とか言う妄想は自分の部屋でやれ」 
 階段を下りながらいつものようにアイシャに突っかかる要。
「おう!それじゃあ行くぞ!」 
 ラーナに靴の準備をさせて待っていたラン。いつものようにその隣ではほんわかとした笑顔の茜が紫小紋の着物姿で待っていた。
「車はこれ以上乗れねえぞ!」 
 要はそう言うが、誠はたぶんラン達は茜の車で出勤するだろうと思って生暖かい視線で機嫌の悪い要を見つめていた。いつも隣の砂利の敷き詰められた駐車場に停められているカウラの黒いスポーツカーの隣に見慣れない白いセダンが停まっていた。
「じゃあ行くぞ」 
 すでにランは茜のセダンの助手席から顔を出していた。
「ったく餓鬼が」 
 そう言いながら要もいつもどおり後部座席へ体を滑り込ませた。そしてそのまま伸びた力強い腕が誠を車の中に引き込んだ。
「はい!行きましょう」 
 助手席に乗り込んだアイシャの声で車が走り出す。狭い後部座席。要が密着してくるのを何とかごまかそうとするが、目の前のアイシャは時々痛い視線を送ってくる。
「そう言えば島田はどうした?それとサラも。いつの間にか消えやがって」 
 要の声にアイシャが振り返る。
「ああ、スミスさんが車買ってそれをいじるんですって。ニヤけてサラと出かけたわよ」 
「好きだねえ、あいつも」 
 実働部隊第四小隊隊長ロナルド・J・スミス特務大尉は車好きとして知られている。特にガソリン車の使用が認められている東和の勤務は天国のようだと誠に話す姿はまるで子供だった。
 特に彼は20世紀末の日本車。しかも小型で大出力エンジンを積んだタイプの車を探していた。先日誠も借り出されてネットオークションに常駐してなんとか落札した車が近々隊に送られてくると言う話も聞いていた。
「島田の奴、今日の仕事分かってるのか?」 
 要のその言葉に誠は不思議そうな顔を向けた。
「ああ、お前は知らないのか?今回の発見された死体と昨日の怪物の捜査は昨日の面子で追うことになったんだと」 
 その言葉にアイシャも振り向く。誠は一人車窓から流れていく豊川の町を見つめていた。
「なによそれ。初耳よ!」 
「だろうな。アイツが叔父貴に打ったメールを覗いてさっきアタシも知ったところだ」 
 要は軍用のサイボーグの体を持っている。当然ネットへの接続や介入などはお手の物だった。
「でも、誠ちゃんは大丈夫なの?」 
 今度はアイシャは誠に向かって話す。
「いやあ、どうなんでしょうね」 
 頭を掻く誠に昨日その手にかけた、かつて人間だったものの姿が思いつく。
「今度の事件じゃ茜やラン、そしてコイツが切り札なんだからしっかりしてもらわねえとな」 
 要の言葉に頷きながら、カウラはハンドルを切って保安隊の隊舎のある菱川重工豊川工場の敷地へと車を進めた。
「でも、あんなのと遭遇したらどうするわけ?茜さんの話では銃で撃っても死なないのよ」 
 アイシャの言うとおりだと誠も頷いて要を見る。
「アタシに聞くなよ。なんでもキムがいろいろ持っているらしいや。アタシも銃を叔父貴に渡してて今は丸腰なんだ」 
「珍しいこともあるものだな」 
 皮肉めいた調子でカウラはそのまま保安隊の前の警備班のゲートに車を乗り入れた。


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