スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

遼州戦記 保安隊日乗 魔物の街 17

 その日の深夜。誠は一人、自分用にキムがカスタムしてくれたサブマシンガンを抱えて、路地裏のごみの山の陰で待機していた。
 東都租界、同盟軍第三基地。東都駐留遼南軍の駐在基地は目の前に見える。魔都と呼ばれる東都租界の住民達もさすがに表立って軍の施設に近づくのは気が引けるようで、基地の入り口でたむろする警備兵以外の人の気配は感じなかった。
『なんだよ、敵兵が起きてるぞ。遼南軍の見張りは眠いと眠るんじゃないのか?』 
 感応通信で愚痴るのは要。光学迷彩を使用して待機している彼女の姿を当然ながら誠は見ることが出来ない。
『都市伝説をあてにするとは、腕が鈍ったんじゃないですか?』 
 裏口からの襲撃の機会をうかがっている島田の声が響く。正面部隊への対応の指揮はラン。カウラと要、そして誠が攻撃を担当する。裏門の対応には指揮は茜。それにラーナとサラ、島田が待機していた。
「寒いですよマジで」 
 そう愚痴る誠だがそこに不意に光学明細を解いた要が現れて驚いて銃を向ける。
「おい、物騒なの下げろよ」 
 実地偵察を終えて帰ってきた要は、誠を押しのけると後ろでライフルを抱えているランに声をかける。
「緊張感はゼロだ。あの衛兵達、規則どおりに銃の薬室には弾が入っていないみたいだぞ」 
 そんな要の言葉にランは右手を上げた。影を静々と進む誠達。警備兵達は雑談を続けるばかりで気づくわけも無かった。
 直前、30メートル。衛兵達はまだ気づく様子は無い。ランに二回肩を叩かれた要は光学迷彩を展開する。
 衛兵達の談笑が突然止まる。眼鏡の衛兵の首をぎりぎりと何かが締め付けていた。話し相手をしていた色黒の伍長が驚いたように銃に手をやるが何者かの足がそれを蹴飛ばす。
「今だ!」 
 ランの声に突入するカウラ。カウラがベストから取り出した薬剤を警備兵の顔面に散布すると彼等はそのまま意識を失った。
「さて、結果はどうなるのかねえ」 
 そう言いながら光学迷彩を解除して基地のゲートをくぐる要。裏手から発砲音が響き始める。
「向こうも始まった。西園寺、先導を頼むぞ」 
 ランは呆然と窒息死した警備兵を見下ろしていた視線を引っ張り上げて立ち上がる。正門の警備兵が倒されているが、裏門の派手な銃撃戦に気を引かれている基地の兵士達は寝ぼけた調子でとりあえず護身用の拳銃を手に裏門へ走っている様が見える。
「撃つなよ神前。アタシ等は見つかったら作戦中止だ」 
 先頭を歩いていた要が振り返る。誠は大きく頷いた。隊舎の建物の裏手、影の中を誠達は進む。遭遇する敵兵はいない。
「茜もやれば出来る子なんだな」 
 要は皮肉のつもりでそう言うと影の中を確認しながら裏の武器庫の隣をすり抜けようとする。
「誰だ!」 
 武器管理を担当しているような感じの士官が拳銃を向けているのが誠の目にも入った。しかし慌てずに要はそのまま士官の手に握られた拳銃を蹴り落とす。そしてすぐさまサバイバルナイフを手に士官を締め上げた。
「眠ってろ」 
 要は士官の口に薬剤のスプレーをねじ込むと噴射する。意識を失う男を確認すると、そのままラン達を引き連れて隣の別棟にたどり着いた。
「さあて、どんなものにお目にかかれるかねえ」 
 軽口を良いながら飛び出した要は歩哨を叩き伏せて入り口の安全を確保した。
 要はホルスターから抜いた拳銃を握って建物の内部に突入する。誠も続くが人の気配はまるで無かった。
「一本道か」 
 脱出口を確保しようと銃を構えるカウラだが、その建物の長く続く廊下を見て進む要に続いた。
「おかしくねーか?」 
 最後尾で警戒するランの言葉が真実味を帯びて誠にも響いた。そして倉庫のような扉を見つけた要が誠を呼び寄せる。誠はサブマシンガンの銃口の下に吊り下げられたショットガンの銃口を鍵に向けて引き金を引く。
 轟音の後、すぐさま鍵の壊れた扉を蹴破り要が室内に突入する。
「空だな」 
 ランの言葉がむなしく何も無い部屋に響いた。要はすぐさま部屋を飛び出しそのまま廊下を進む。地下へ向かう階段で先頭を行く要は、手を上げて後続のラン達を引き止めた。
「誰かいるな」 
 誠はその言葉にショットガンの装弾を行うが、冷ややかなランの視線が目に入る。
「気づかれたらどうするんだ?」 
 陽動部隊の派手な銃撃音が響く中それは杞憂かもしれないと誠は口を尖らせるが、カウラはそれを見て肩を叩くとゆっくりと下へ向かう要の後ろに続いた。明らかに人の出入りがあった建物だった。埃も汚れも無い階段。そして避難用のランプも点灯している。
 そして地下の入り口のシャッターにたどり着いた要はポケットから聴診器のような器具を取り出すと壁に押し付ける。
「間違いねえ。人がいるぞ」 
 そう言って誠の顔を見上げる要。誠はシャッターの横の防火扉の鍵にショットガンの銃口を向け引き金を引く。そのまま要が体当たりで扉から進入、それにカウラとランが続く。誠もその後に続いて赤い非常灯の照らす部屋へと入った。
「これはやられたな」 
 ランがつぶやく。誠もその言葉の意味を理解した。
 廊下には紙の資料が散乱していた。実験資材と思われる遠心分離機が銃で破壊されて放置されている。床にはガラスと刺激臭を放つ液体が広がり、明らかにすべての証拠を抹消した後のように見えた。
「遅かったじゃないか」 
 突然の人の声に銃口を向けた誠の先には嵯峨が着流し姿で立っていた。明らかに不機嫌そうな顔でタバコをくわえている嵯峨。
「隊長……?」 
 カウラはすぐに嵯峨の足元に人が縛られて転がっているのを見つけた。
「隊長、この人は?」 
「ああ、この基地の総責任者の三上中佐だ。ちゃんと挨拶した方がいいぞ」 
 そう言う嵯峨の手には日本刀が握られている。それを見ると警戒していた要は狐につままれたように呆然と立ち尽くした。
「なんだよ、叔父貴は知ってたのか」 
「知ってたというか……ラン」 
「は!」 
 嵯峨のにごった視線がランを捕らえると彼女の小さな体が硬直したように直立不動の姿勢をとる。
「お前がついているから安心していたんだけどなあ……こりゃあちょっとまずいぞ」 
 そう言うと嵯峨は抜き身の愛刀『長船兼光』を転がっている指揮官の首に突きつけた。
 そう言うと嵯峨はタバコを再び口にくわえて、足元の三上と言う指揮官を軽く蹴飛ばす。
「コイツに話を聞こうと思ったんだけどさ。まあ記憶が消されてるみたいでまるで話のつじつまが合わなくてさ。完全にマークされてるな、研究の指揮を執っている奴に。やられたよ」 
 嵯峨の言葉に要の顔が硬直する。
「じゃあこっから先の情報は……事件の糸は切れたわけですか」 
 そう言いながら銃口を下げるラン。
「ぷっつんだな。それにこんだけ派手に動いたんだ。相手もかなり警戒することになるだろう。一声、俺に話しとけば何とかできたかもしれねえが……もう終わったことだ」 
 いつの間にか外の銃声が止んでいた。そしてフル装備の茜達の陽動部隊が入ってきた。
「ああ、お父様」 
 明らかに茜の声は沈んでいた。察しのいい茜である。この場所に来るまでの景色で状況を理解しているように見えた。
「茜。なんなら安城さんに頭下げるか?機動隊の情報網ならなにか引っかかるかもしれないぞ」 
 嵯峨の言葉に茜は首を横に振った。いつも物腰が柔らかい茜にしては珍しい意固地な表情に誠は驚いていた。
「機動隊に頼めば確かに発見できる可能性は上がりますが、あちらの任務は非法術系の捜査活動に限定されているはずですわ。法術にからむ犯罪は私達の……」 
「そうか。まああちらは俺達と違って暇も無いだろうしな。なら俺も手伝ってやるか」 
 そう言うと嵯峨は立ち上がる。頭を掻いてそのまま誠に近づくと手を伸ばした。
「なんでしょう?」 
「端末」 
 嵯峨の言葉に誠は銃のマガジンが刺さっているベストから端末を取り出して嵯峨に手渡す。
「茜、あんまり期待しないでくれよ。俺も神様じゃねえから、情報網の幅が広いのはそれだけ人生を積み重ねてきただけ……出た」 
 その嵯峨の言葉に茜とランが画面を見ようと飛び出して頭をぶつけてそのまましゃがみこむ。
「あのなあ、逃げたりしないから……ほい、拡大」 
 そう言うと嵯峨は端末の画面を拡大してみせる。
「ゲルパルトの退役軍人支援団体ですか」 
 島田が画面に映る凝ったフォントが踊るサイトの表紙を見つめている。嵯峨はそれに入力が出来ないはずのパスワードを打ち込んで次の画面へと進む。
「オデッサ?」 
 茜が頭をさすりながら画面を見つめる。『ネオ・オデッサ機関』。ゲルパルトの戦争犯罪人として追われている人物達の互助会と言うことで誠も名前を聞いたことがあった。
「叔父貴、ずいぶんと大物が釣れたじゃないか」 
 目を見開く要だが、嵯峨は表情を一つとして変えることが無い。
「ああ、こいつらは関係ないよ。裏は取ってある」 
 そう言うと画面を検索モードに戻す嵯峨。明らかに遊んでいる嵯峨の態度に要が拳を握り締める様を誠はひやひやしながら見つめていた。
「最近巷で話題の地球人至上主義を唱える連中が動き出したにしては早すぎるしあいつ等にしてはこれまでの証拠を並べてみれば抜けてるところが多すぎる。今回の件に直接は顔をだすかどうか……」 
 あいまいな表情の嵯峨。彼の足元に転がっている三上と言う名の遼南指揮官は恐怖におびえながら嵯峨の表情を伺っている。
「まあ連中は金は持ってるからな。でも技術はあまり無い。顔が効く範囲で当たってみたんだがやはり、同盟厚生局が噛んでるって所までは当たれるんだけどねえ」 
 そう言うと嵯峨はサラと並んで立っている島田に目をやった。
「?……隊長?」  
 島田が見つめられて自分の鼻に指を当てる。それを見て嵯峨は満足げに頷いた。そしてそのまま転がっている指揮官に目をやるランに声をかける。
「同盟厚生局はマークしてるんだろ?ならそっちを調べな。ここにいても時間の無駄だぞ。俺は島田と話があるんだ」 
 剣を収めた嵯峨は島田の肩を叩くと廊下を進む。ランは何かを悟ったように要の脇を小突いた。仕方なく不思議そうな顔の島田は嵯峨に続いて廊下に消えた。
「西園寺、司令官殿を連行しろ。サラ、手伝え」 
「でも……」 
 島田が連れ出された出口を見つめるサラだが、鋭いランの視線に導かれるように口から泡を吐いている三上と言う司令官の肩を支える。
「じゃあ、撤収だ」 
 ランはそれだけ言うと銃を背負って歩き出す。カウラもアイシャもそれに習うようにショルダーウェポンを背負う。階段の途中で外で爆音が響いているのに気づいた。
「早速隊長の顔が効いた訳だ」 
 ランは振り返ると部下達に乾いた笑みを投げかけた。そしてそのまま急ぎ足で階段を上りきり施設の出入り口を開ける。
 輸送ヘリから次々とラベリング降下してくる兵士が目に入る。駐留軍の兵士達が次々と黒ずくめの降下してきた兵士達に武装解除される光景が目に入ってくる。
「ラン!」 
 一人降下した装甲車両の脇で部下からの報告を受けているような女性指揮官が誠達を見つけて手を振っている。誠は渋い笑いを漏らしながら歩いていくランを見つめていた。
「ムジャンタ・ライラ中佐か。つまりこいつ等は……」 
「遼南第一山岳レンジャー連隊ってことになるな」 
 要の言葉に緊張が走る。弱兵で知られる遼南軍だが、一部の驚異的な強さを誇る部隊が存在することで知られていた。シャムが最初に軍で配属された禁裏守護特機隊、通称『青銅騎士団』は最強のアサルト・モジュール部隊として知られていた。そして目の前で次々と降下し展開する山岳レンジャー部隊もそんな遼南を代表する特別急襲部隊として恐れられる組織だった。しっかりとした足取りで中背の女性指揮官がランの後について誠達に向かって歩いてくる。他のレンジャー隊員とは違い、戦闘服にはポーチの類が付いていない。替わりに大きめの拳銃がガンベルトに吊り下げられていた。
「おう、紹介しとくぞ。コイツが遼南第一山岳レンジャー連隊の連隊長のアルバナ……」 
 ランがそこまで言ったところで茶色い地が鮮やかな戦闘服の女性士官がランの頬をつねった。
「クバルカ中佐?その苗字は去年の話でしょ?」 
 にこやかに笑いながらランの頬をつねるだけつねると安心したように敬礼をする。
「遼南第一山岳レンジャー連隊、連隊長のムジャンタ・ライラ中佐だ!」 
 その言葉に誠達は整列して敬礼する。
「ムジャンタ?じゃあ遼南王朝の……」 
 誠はその遼南王家と同じ苗字に違和感を覚えた。
「隊長の姪御さんだ」 
 つぶやいた誠の耳元でカウラがささやく。
「やっぱり身内で固めるんだなあ、あのおっさんは。それでこの状況の説明は?」 
 そう言いながらタバコに火をつけようとしていた要に、明らかに殺気を込めた視線を送るライラに、思わず要の手が止まる。
「それについては説明させてもらう。指揮車まで来てもらおう」 
 ライラはそのまま部隊展開の報告をしようとする部下を待たせて誠達を装甲車両の中へといざなった。
「あのー、警視正……」 
 誠は遅れて歩き出した茜に声をかけた。そのいつも自信にあふれていた表情がそこには無かった。青ざめたような、弱弱しいような。そんな茜の姿に誠はその肩を叩いていた。
「私のせいで……」 
「うじうじすんなよ!間違いなくここで研究が行われていたのは確かなんだ。少なくともここを引き払うのにかかった手間と時間の分だけ被害者を減らすことが出来たんだ」 
 ランが入り口で茜を一喝する。ようやく気づいた茜が指揮車の後部にある司令室に歩き出した。
「わが国の駐留軍の部隊員は非番の隊員以外は全員身柄を拘束しました。非番の隊員も東都警察に手配して身柄を拘束する体勢はほぼ整っていると言えます」 
 女性オペレーターの声を聞くと山岳連隊隊長ムジャンタ・ライラ中佐は静かに頷きながら奥の席に腰をかける。
「自己紹介が中途半端だったな。私が遼南山岳部隊隊長ムジャンタ・ライラ……」 
「ちなみにバツイチだ!」 
 ライラに突っ込む要。明らかに殺気の込められた視線が要に突き刺さる。サラとカウラは視線を茜に向けている。後で教えてもらおうと言うわけだろう。誠は仕方なく頭を掻きながら二人を眺めていた。
「法術師の違法研究の容疑でこの基地の部隊の幹部。同盟厚生局の課長級の職員の手配を済ませて現在、その行方を遼南の特命憲兵隊が捜索中だ。よって、これからのこの事件の捜査権限は同盟軍事機構が引き継ぐことになる。これは同盟加盟国首脳の判断だ」 
 突然のライラの言葉に誠は絶句した。要もカウラも呆然と立ち尽くしていた。誠がアイシャを見ると、彼女は後ろを向いていた。
 そこには口を開けたままライラを見つめている茜とその脇で立ち尽くすラーナの姿があった。
「そんな横暴です!それに……」 
「捜査権限を軍や憲兵隊に任せるのは不安だと言うんだろ?しかし、司法局は茜に人的支援をするわけでもなく、情報開示の権限も制限して捜査をさせてきたわけだ。そんな甘い体制ではこの事件の解決には程遠いと同盟上層部は判断したのだろう。だからこれからは私がすべてを引き継ぐ」 
 ライラの声明に要の顔が皮肉の笑みに浮かぶ。
「ライラの姐さん。叔父貴に復讐したいからってやりすぎだぞ。それに同盟首脳の電話会議の結論は姐さん達もこの捜査を独自に進めると言う内容だったはずだ。アタシ等が捜査を止めようが続けようが同盟機構は関知しないって話だったはずだな」 
 そのおそらくは同盟首脳の電話会談とその後の実務者会議の議事録でも覗き見たのだろう。要の言葉は断定的で、その表情は挑戦的なものだった。誠はただ要とにらみ合うライラを見つめていた。
「要。お父様の仇を討つのは諦めたって何度言ったら分かるんだ?」 
 急に事務的で無表情に見えたライラの顔が厳しくなる。
「仇?」 
 誠のつぶやきに要が大きく頷く。
「そう!このオバサンは遼南内戦で色々あって親父のムジャンタ・バスバを叔父貴に斬られてるんだ。そこで……」 
「つまらない話は止めろ!」 
 ぴしゃりと言い切るライラだが、明らかにその表情は動揺しているように見えた。 
「西園寺。関係の無い話は止めろ。それにアタシ等は喧嘩をしに来たんじゃない」 
 ランの一言でようやく要とライラのにらみ合いが終わる。そしてライラは言葉を続けた。
「私の部隊の派遣には同盟機構や東和国防軍の正式な要請によるものだ。それに保安隊隊長の意見書つきの推薦も得ている」 
 ライラの言葉に後ろで立っていた茜がひざから崩れ落ちた。
「警視正!」 
 ラーナが表情の冴えない茜を支えた。隣ではベストから気付け薬代わりのブランデーの入ったフラスコを取り出すサラの姿もある。
「終わりにしろ?冗談は止めてくださいよ」 
 突然指揮車に乱入してきた足音に車内の全員が振り向く。
 そこには真剣な目つきでライラをにらみつけている島田の姿があった。
「正人……」 
 サラが濡れた視線で島田を見つめる。いつもなら薄ら笑いを浮かべて黙りこんでいる島田の強気な姿勢に、要もカウラも黙って彼を見つめていた。
「島田准尉。これは上層部の決定だ。もう君達は上層部の信用を失っている」 
「上の連中の言葉に従えって言うわけですか?またまた冗談言われちゃ困りますよ」 
 ライラの言葉を斬って捨てた島田は平然とランを差し置いてライラと向かい合う席に腰を下ろした。
「法術系研究施設への取り締まりは保安隊と法術特捜にのみ許された事項のはずですよ。一同盟加盟国の司令官の掌中に収めていい事件ではないはずですが?」 
 そう言って詰め寄る島田を黙ってライラは見つめていた。
「それに今回は多くの東和国の国民が被害にあっているわけだからその事項は無効のはず……」 
「それは同盟加盟国一国の都合だ。我々の関知するところではない」 
 ライラは明らかにいらだっているように島田を見つめていた。島田はため息をつくと誠を見つめた。
「そう言えばコイツの護衛を頼んだときは同盟の上層部はだんまりでしたね」 
 島田は誠を指差してにんまりと笑う。そんな島田の言葉を聞くとようやく振り返って部下に指示をしていたライラが振り向いた。
「それは近藤中佐の決起が予想以上の早さだった為にこちらの準備が整わなかった事情がある」 
「そんな言い訳聞きたいわけじゃないですよ。だったらなぜ今回動くんですか?隊長からの出動要請は前回もあったはずだ。それを今回は動いて前回は無視。何か上層部で……」 
「黙りたまえ!」 
 島田の言葉にようやく反応したライラ。だがそれを見てこの捜査の責任者である茜が立ち上がった。少しばかり青い顔で黙っていた茜はようやく状況が頭の中で整理できたというように凛として立ち上がる。
「ライラお姉さま。同盟からの指示が何かは私は存じ上げませんわ。そちらの捜査はご自由にお続けください。ですが私達も捜査は続行します。たとえ同盟司法局が捜査停止を指示してきても私達は動かせていただきますわ」 
 茜は立ち上がるとそのまま指揮室を出た。
「アイツは見ていると心配だからな。アタシも従うつもりだ」 
 要の宣言にカウラ、アイシャはライラを一瞥して立ち上がる。茜とラーナもそそくさと立ち上がりライラに敬礼して出て行った。
「神前曹長。あなたはどうされるおつもりですか?」 
 腹を立てていてもおかしくない状況だがライラは朗らかな笑みを浮かべていた。
「僕もこの事件は最後までつき合わせてもらうつもりです!」 
 そう言い切る誠に満足げな表情でライラは頷く。そしてそれを後にして誠も指揮車を飛び出した。
「なんだよ、神前。アタシ等に付き合う必要なんて無いんだぜ」 
 出口で笑みを浮かべる要。カウラはすでに端末を開いて遼南軍の情勢を探っていた。
「遼南山岳レンジャー部隊。どれほどの実力か見せてもらえるのはありがたいな」 
 不敵に笑うカウラを見てアイシャは肩をすくめて誠を見つめていた。
「そう言えばムジャンタ・ライラ中佐と西園寺さんや警視正って……」 
 暗がりの中足早に基地を出ようとする要に誠が声をかけた。
「ああ、ライラさんと私達の関係は複雑ですからねえ」 
 茜の声が冷たい冬の空気に消える。先ほどショックで貧血を起こしかけたとは思えない厳しい表情が基地のスポットライトを浴びながら輝いて見える。誠はその姿に圧倒されていた。
「遼南王族の家系は複雑だからなあ。叔父貴と母親が同じ兄弟はライラの父親の故バスバ殿下のみだ。つまりアタシの親戚でもあるということだな」 
 そう言うと要はタバコを取り出す。嵯峨の兄弟、皇帝ムジャンタ・ムスガの子は百人以上いることは誠も知っていた。しかしその多くが庶子であり、保安隊の管理部部長、高梨渉参事のように母方の苗字を名乗るのが普通だった。
「叔父貴も本当は自分の後釜にライラにすえるつもりだったらしいぞ。まあ血統順なら茜が第一帝位継承者になるわけだが一度は王室を離れて胡州の戸籍を持っているということで国内での支持を得られる見込みが無い」 
 タバコの煙が冬の澄んだ空気の中、ライトに照らされてなびいている。
「でもなああいつは見ての通りの頑固者で、結局未だに帝位の継承を拒否していやがる。おかげで叔父貴は名目上はいまだに遼南の元首だ」 
 誠は要の苦笑いに合わせるように笑いを浮かべる。一方タバコの煙を吐きながら要がいやらしい笑いを口元に浮かべた。
「本当に頑固だからねえ。そんなだから旦那にも逃げられるんだよ」 
「それは関係ないんじゃないですの?」 
 真面目な表情を崩さない茜。カウラは二人のやり取りに呆れたような視線を送った後、先頭を歩いて作戦開始地点に止めてあるワゴン車への道を急ぐ。
「でも良いんですか?軍が動き出したら僕達は用済みになるんじゃないですか?」 
「ある意味目的はこれで一つは達成したことになるな。これ以上非人道的な実験を行わせないというのも今回の作戦行動の目的の一つだ。軍が動けば私達が追っている研究施設の連中もやすやすとは動くに動けなくなる。そうなれば実験は中止に追い込まれる公算も無いとはいえない」 
 基地を制圧し、非常線を張っている山岳部隊の兵士に敬礼するカウラ。だが一人島田は浮かない顔で一番後ろを歩いていた。
「どうしたの正人」 
 サラの心配そうな声に誠達は立ち止まった。いつもの陽気な島田の姿はそこには無かった。
「そう言えばさっき叔父貴に呼ばれてたけど何かあったのか?」 
 そう言いながら要は携帯灰皿を取り出す。カウラや茜、そしてこういう時は先頭に立っていじりに行くアイシャも不思議そうに島田を見つめていた。
「別に良いじゃないですか。俺も遼州系ですから今回の事件への憤りは……」 
「そんなきれいごとが出てくるような顔じゃないぜ。何かあったんだろ?」 
 要の言葉を無視して歩き始める島田。サラは心配そうに島田の肩にすがりつく。苦笑いを浮かべる島田は彼女の肩に手を乗せた。
「まあどうでも良いけど。それよりランちゃん。啖呵は切ったのは良いけどどうするつもり?」 
 いつもと違う島田を眺めながらアイシャが小さなランの頭に手を載せる。どうせ何を言ってもアイシャには無駄だと分かっているのでランはそのままの体勢でしばらく考え込んだ。
「隊長が島田に何かを見せてけしかけたってことは、アタシ等の出番が終わりじゃないって事を言いたかったんだろうな。それにアタシも遼南軍の動きを耳にしてなかったから恐らく正式な出動手続きが行われたとしてもそれは臨時的措置で権限もかなり制約されているだろうからなあ」 
「そうですわね。私達の捜査権限を法的に取り上げることを意味する出動なら早い段階で私やクバルカ中佐に話が降りてくるのが普通ですから。ライラ様もあのようにおっしゃったのは恐らく手柄を取られたくないからけん制したおつもりなんでしょう」 
 茜もランの言葉に頷いていた。
「じゃあ決まりだな。明日から忙しくなるぞ」 
 銃を吊り下げたまま要が再びタバコを取り出す。誠は呆れた顔で歩き出す要に続いていった。

FC2 Blog Ranking
スポンサーサイト

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

コメント

Secret

プロフィール

ハシモト

Author:ハシモト
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。