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遼州戦記 保安隊日乗 魔物の街 42

 誠が少し感覚を取り戻し始めたとき、急に合同庁舎の車止めの一部が陥没した。
『神前曹長!例のプラントの確保に失敗したとクバルカ中佐からの通信だ!出てくるぞ』 
 カウラの声に緊張の色が見える。それまでただ装甲車両から指示を出していた彼女が誠の後ろで装甲車両から降りて指示を出しているのが見える。
 誠はそのまま陥没の土煙の中に目を向けた。
『あんなにでかいのか?』 
 痛い誠の05式のモニターの画面を受信しているらしく、要の表情が驚きに包まれる。
「これが……」 
 そこまで言うのが誠には精一杯だった。まるで巨大ななまこのような物体。そこからは無数の人の手足、そして顔のようなものまで見て取れた。しばらく息を呑んでいた誠。そして次の瞬間、衝撃波が誠の機体を襲った。
「なんだってこんな!」 
 誠の気持ちはもはや届くことは無かった。18メートルの誠のアサルト・モジュールを優に超える巨大な肉の塊がぞろぞろと地下から這い出してくる。
 全身から取り込まれた法術適正者の足や腕、かつてそれが人間と呼ばれていたときの記憶のようなものを感じさせる突起を全身に配した褐色の不気味な海鼠に似た怪物。それが今誠の目の前にあった。
「どうしたらいいんですか!」 
 東都警察の機動隊の照明で明かりを浴びて伸び上がろうとする目の前の物体を前に誠が叫ぶ。
『法術兵器だ!サーベルは使えるからそれで行け!』 
 カウラの叫び。ようやく誠も理解して大破した07式に突き立てていたサーベルを引き抜いた。
「ムゴー!!」 
 雄たけびのようなものを上げる巨大な海鼠のような物体。そしてそこに渦巻く取り込まれていた人々の思いが誠を襲う。
 東都に来れば仕事がある。そう言われて東海のシンジケートに借金をして東都に渡った若者。生まれたときには不法入国者として租界のにごった空で身体を売って暮らしていた少女。法術が何かの足しになるかと誘いに乗ってみた七人の子持ちの父親。それらの過去が誠の頭の中を走馬灯のように走った。
「やるしかないのか……」 
 目の前の物体の総合としての意思はただ意識を持つものをうらみ、ねたみ、そして破壊すると言う本能だけの物体だった。
 サーベルを構える誠。その目の前で肉塊はじりじりと間合いをつめる。衝撃波を放たないのはそれで誠の05式を仕留められないということを学習したからだろう。
『干渉空間発生!下がれ!』 
 カウラの声で誠は機体を飛びのかせた。切断された空間が都心のアスファルトを削り取りビルを寸断する。
『やばいぞ!あれに巻き込まれたらオメエの機体ももたねえぞ!』 
 要の指摘を受ける前からその可能性は誠は認識していた。そしてそこに目の前の肉塊が気づくだろうと言うこともわかっていた。
『やばいな。こちらは飛び道具無し。そして次々と干渉空間を展開されれば……』 
 そんな誠の思いを理解したかのように再び干渉空間発生の感覚が誠を襲う。
 再び飛びのいてカウラの装甲車両の前にまで後退した。後ろには07式のパイロット確保の為に集結した東都警察機動隊がひしめいている。誠はこれ以上下がることができないと考え直してサーベルを構えて目の前の肉塊に向き直った。
 緊張感は先ほどの07式を相手にしたときの比ではなかった。干渉空間。それもこれまで誠が数回しか展開に成功した規模のものを確実に複数展開しようとする気配を感じる。
『このままじゃやられる!』 
 次第に息が荒くなるのがわかった。
 肉塊は干渉空間を安定して持続させたまま、じりじりと誠との距離を詰める。だが誠はサーベルを構えたまま動くことが出来ないでいた。じっとにらみ合う。だがもはや目の前のかつて人間であったものにはすべてを破壊する以外の考えはないというように頭上に広がる干渉空間の転送先を考えているかのように見えた。
『大丈夫だよ!』 
 突然少女の声が誠の脳内にひらめいた。目の前の肉塊の展開した干渉空間が瞬時に縮んだ。そして肉塊の表面に展開していた薄い制御空間に出来た歪に何かが命中し爆発する。
『間に合ったな!』 
 開いたウィンドウには吉田の姿があった。
『本当に効くんですか?』 
『それはお前の責任だろ?大麗から対法術適応型アサルト・モジュール兵器ってことで取り寄せたんだ。効かなかったらそれは大麗の技術陣を恨め』 
 吉田が構えている無反動砲の後ろで装填を担当している歩兵火器の管理責任者のキム・ジュンヒ少尉が泣きそうな顔で次弾を装填している。
「ムゴー!」 
 明らかに痛みを感じているとでも言うように榴弾の直撃を受けた化け物はもがき苦しんでいた。再び干渉空間を展開しようとするが、それも瞬時に消える。
『今のうちだよ!』 
 ウィンドウが開いたところには第一小隊のエース。ナンバルゲニア・シャムラード中尉の幼く見える顔が広がる。その顔を見て誠は覚悟を決めたようにサーベルを構えなおした。
『反撃だ!行けるな』 
 カウラの声に励まされるのを感じながら誠はそのまま大きくサーベルを振り上げて目の前の化け物に向かう。
「ムガー!」 
 叫び声を上げる化け物に大きく振り上げた誠の05式のサーベルが振り下ろされた。
「行けー!」 
 言葉と同時に誠の空間干渉能力が発動してサーベルが銀色に光り始めた。振り下ろされたサーベルが肉塊の左端を引き裂き、そのまま地面に突き刺さった。切り離された肉塊は地面にボタリと落ちるとじわじわとアスファルトを侵食しながら煙を上げて消滅していく。
『行けるぞ!』 
 要の声にさらに誠はサーベルを構えなおした。その時、また吉田の無反動砲が先ほど引き裂かれて再生を始めていた化け物の左端に命中する。
 爆発。明らかにひるんだようによろめく肉塊。
『次弾装填!』 
『これがラストですよ!』 
 キムの声に誠は再び間合いを取る。もはや衝撃波や空間切削の攻撃を繰り出すことを忘れた肉塊はただの的となっていた。大きく振り上げた誠の05式のサーベル。吉田の最後の一撃が化け物の左半身に命中するのと同時にその中央に誠のサーベルが突きたてられた。
「こなくそー!」 
 叫びと共に肉塊に突き立てられたサーベルが光を放つ。一瞬動きを止めた後、肉塊は大きくうごめいて苦しがっているように見えた。
『ごめんね……でも仕方が無いの』 
 シャムの声が誠の脳内に響く。サーベルは白から赤に色を変えながら一段と際立った光を放ち始めた。
『ア・リ・ガ・ト……』 
 そんな声が誠の頭の中に響いたような気がした。
 突き立てられた05式のサーベルの光がさらに強まる。傷口からは赤黒い粘液がどろどろと流れ落ちる。そしてそのまま流れ落ちた血のようなもので合同庁舎前の大通りが赤く染まった。
「ウギャー!」 
 うめき声を上げる肉塊。その破れかぶれともいえる干渉空間が05式の手元で瞬時に展開されて炸裂した。反動で誠の機体はサーベルを離して吹き飛ばされてしまった。
「これじゃあ」 
 隣のビルに叩きつけられた誠の機体。体勢を立て直して肉塊の体内に取り込まれていくサーベルを取り返すべく突進を仕掛ける。
『大丈夫だよ誠ちゃん。もう終わったんだよ』 
 頭の中。優しく響くのは穏やかなシャムの声だった。足を止めた誠の前で肉塊の中から銀色の光の筋が飛び出している。その光の筋の周りの組織が崩壊を始め、肉塊は次第に細かい肉片を撒き散らしながらアスファルトの上に崩れ落ちていった。
『終わったのか?』 
 カウラの声が誠の耳に響く。未だ誠は目の前に姿を現した自分の機体の専用法術兵器のサーベルが光の筋を放つのをぼんやりと眺めているだけだった。
『やったじゃねーか』 
 化け物が地下から出た際に崩れた瓦礫を浴びたのか、コンクリートの粉塵を浴びて白く顔が染まっているランの姿がモニターに映し出された。
『ランちゃん……お化粧したの?』 
『お前!馬鹿だろ?シャム。これのどこが化粧だって……』 
『俊平!またランちゃんが馬鹿って言った!』 
『事実だから仕方が無いだろ?なあ、キム』 
『なんで俺に振るんですか!』 
 いつもの隊舎でのどたばたが展開される画像を見て、ようやく目の前の生体プラントに釘付けにされていた非日常からいつもの日常を取り戻したと言うように誠は大きく息をした。
『お疲れ!とりあえず現状をそのままにして神前、降りろや』 
 要の画像が変わっていて彼女が走っているらしいことがわかる。それを見ていたのか、誠の機体を見上げていたカウラの顔に笑顔が戻った。
『この05式の破損も証拠物件だ。後は東都警察の仕事。私達はこのまま帰等するぞ』 
 コックピットを開く。生臭いにおいが漂う中、誠はワイアーを降ろしてそのまま地面にたどり着く。そこには笑顔のカウラの姿があった。
「終わったな」 
 煌々と官庁街を照らし出す東和警察機動隊の投光車両。周りには盾を構えた機動隊員が目の前の肉塊の時々びくりと跳ねる鮮血に警戒しながら包囲を始めていた。光の中、カウラのエメラルドグリーンの後ろ髪が北風になびくのを見て誠の心が締め付けられる気分になった。
「神前……」 
 誠に伸ばそうとした手が何者かに掴まれた。
「なんだ!またつり橋効果ごっこでもやる気か!」 
 そこにはいつものタレ目を吊り上げてカウラをにらみつける要の姿があった。
「何を言い出すんだ!西園寺。私は諦めずに任務を遂行した部下をだなあ……」 
 要に向けて赤面して叫ぶカウラの声が鳴り響く甲高いクラクションでかき消された。機動隊が慌てたように振り返って左右に逃げる。突入して来たのは見慣れた軽自動車だった。
 そのドアが乱暴に開いて闇の中に長い紺色の髪の女性が現れる。
「なんだ終わっちゃったの?」 
 落胆して要の肩を掴んだのはアイシャだった。それを見てようやく落ち着いたカウラが目の前の肉塊の残骸とそれにようやくたどり着いて鑑識を呼んでいる機動隊員達を指差した。そして要はずんずんとアイシャに歩み寄っていく。
「オメエ、それ叔父貴の車じゃねえか……ははーあん。あれだな、まだ叔父貴の奴の犠牲者が出たわけだ。大変だねえ」 
 要の言葉に乾いた笑いを浮かべるアイシャ。機動隊が一斉に残骸に向けて走り出し、計測器具を抱えた捜査員達が誠の機体に取り付いて調査を開始していた。
「でもよう。あんまりにもひどい結末だって思わねえか?おそらく人身売買の被害者の生存者はいない。しかも研究をしたスタッフも被害者に引け目なんて感じちゃいねえんだ。ほとんどの面子が最終段階まで自分がやったことが悪いことだなんて言わねえだろよ」 
 そう言いながら要はぬるぬると粘液を引きずりながら調査を続ける鑑識達を見ながらタバコに火をつけた。冬の北からの強い風に煙は漂うことなく流されていく。
「かもしれねーな」 
 埃が舞い、誠はそれをもろに浴びてくしゃみを連発した。ばたばたと身体に巻いていた銃のマガジンや手榴弾のポケットがやたらと付いたベストを外してはたくランの姿がそこにあった。その後ろからはまるで亡霊のように表情もなく付き従ってきた茜や島田の姿も見える。
「悪党や薄汚れた金を集めて喜ぶ連中は御しやすい。むしろ恐れるべき、憎むべきは自分を正義と信じて他者を受け入れない連中だ……と昔の人は言ったそうだが。至言だよなー」 
 そう言ってランはベストを投げ捨てた。茜達もようやく安心したように装備を外してどっかと地面に腰を下ろした。
「ちっこい姐御。さすがにインテリですねえ」 
「褒めても何もでねーよ……と言うかそれ褒めてるのか?」
 ランににらまれて要は目をそらしてタバコをくわえる。誠の口にも自然といつものような笑みが戻るのが分かった。そして同時に誠の首に何モノかがぶち当たりそのままつんのめった誠はカウラの胸の中に飛び込んでいた。突然の出来事にカウラも要もアイシャもただ呆然と首をさする誠を見つめていた。
「お疲れ!」 
 それは誠に延髄切りを放ったシャムの右足のなせる業だった。無反動砲の筒を手にして呆れる吉田。キムは出来るだけ騒動と関わらないようにと後ずさる。
「お疲れじゃねえ!せっかくがんばった後輩を蹴飛ばして何がしたいんだテメエは!」 
「苦しいよ!要ちゃん!降ろして!」 
 勤務服姿のシャムの襟首を掴み上げる要。じたばたと足を振るシャム。携帯端末を手にそれを撮影しているアイシャ。
「あのさあ……誠……」 
 頭を覆う暖かい感触で我に返る誠。それがほのかな膨らみのあるカウラの胸だとわかり誠は直立してカウラに敬礼する。
「失礼しました!」 
「ふふふ」 
 その様子がこっけいに見えたらしく笑顔を見せるカウラ。誠は空を見上げた。そこには丸い月が浮かんでいた。

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