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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 3

 遅い昼飯を本部のある豊川市の大通りのうどん屋で済ませた誠達はそのまま本部に着くとアイシャに引きずられて宿直室のある本部の別館へと連行された。
「どう?進んでる?」 
 別館の一階。本来は休憩室として灰皿や自販機が置かれるスペースには机が並んでいた。部屋に入ったとたん人の出す熱で蒸れたような空気が誠達を覆った。
「おう、早かったな」 
 コンピュータの端末を覗きこみながらポテトチップスを口に放り込んでいる第一小隊の三番機担当の吉田俊平少佐が振り向く。奥の机からはアイシャの部下の運用艦通信担当のサラ・グリファン少尉が疲れ果てたような顔で闖入してきた誠達を眺めていた。
「お土産は?何か甘いものは?」 
「無いわよ。急いできたんだから」 
 アイシャのぶっきらぼうな一言に力尽きたようにサラのショートの赤い髪が原稿の山に崩れ落ちる。
「そう言えばシャム……逃げたか?」 
「失敬な!」 
 バン!と机を叩く音。突然サラの隣の席に小学生のようなちんちくりんが顔を上げる。
「大丈夫かよ?」 
 カウラがそう言ったのは飛び上がって見せた第一小隊のエース、ナンバルゲニア・シャムラード中尉が頭から被り物をして飛び上がったのが原因では無かった。その目が泳いでいた。基本的に部隊の元気を支えていると言うようなシャムが頭をゆらゆらと揺らして薄ら笑いを浮かべている状況は彼女が相当な疲労を蓄積させているとしか見えなかった。
「アイツもさすがに三日徹夜……それはきついだろ」 
 吉田はそう言いながらモニターの中の原稿に色をつける作業を再開した。
「サイボーグは便利よねえ。このくらい平気なんでしょ?」 
 その様子を感心したように見つめるアイシャ。隣では複雑な表情の要が周りを見回している。
「他の連中……どうしたんだ?」 
 要の一言に再びサラが乱れた赤い髪を整えながら起き上がる。
「ああ、パーラとエダは射撃訓練場よ。今月分の射撃訓練の消化弾薬量にかなり足りなかったみたいだから」 
 パーラ・ラビロフ中尉とエダ・ラクール少尉もアイシャの部下である。当然、アニメーション研究会のアシスタントとして絵師のシャムや誠の作業を手伝うことを強制させられていた。アイシャはサラの言葉に何度か頷くと、そのまま部屋の置くの端末を使って原画の取り込み作業をしている技術部整備班班長、島田正人准尉のところに向かった。
「ああ、クラウゼ中佐……少佐?あれ?はあー……」 
 薄ら笑いを浮かべる島田。目の下の隈が彼がいかに酷使されてきたかと言うことを誠にも知らせてくれている。
 入り口で呆然としていた誠もさすがに手を貸そうとそのままシャムの隣の席に向かおうとした。
「がんばったのねえ……あと一息じゃない」 
 島田が取り込みを終えた原画を見ながら感心したように声を上げたアイシャ。それにうれしそうに顔を上げるシャムだが彼女にはもう声を上げる余力も残っていなかった。
「あとは……これが出来れば……」 
 シャムがそう言うとアイシャから見えるように目の前の原稿を指差す。
「がんばれば何とかなるものね。それが終わったらシャムちゃんは寝ていいわよ」 
 その言葉に力ない笑みを浮かべるとシャムはそのまま置いていたペンを握りなおした。
「じゃあがんばれよ。アイシャ!取り合えず報告に行くぞ」 
 いつの間にかアイシャの後ろに回りこんでいた要がアイシャの首根っこをその強靭なサイボーグの右腕でつかまえる。
「わかっているわよ……でもランちゃんは?」 
「ああ、今日は非番だな。代わりにタコが来ているぞ」 
 吉田は作業を続けながらそう言うと空になったポテトチップスの袋を口に持っていく。
 クバルカ・ラン中佐。彼女は現在の保安隊実働部隊隊長にして保安隊副長を兼ねる部隊のナンバー2の位置にある士官だった。見た目はどう見ても目つきの悪いお子様にしか見えない彼女だが、先の遼南内戦の共和軍のエースとして活躍した後東和に亡命してからは軍大学校を主席で卒業したエリート士官だった。一方のタコと呼ばれる明石清海(あかしきよみ)中佐は遼州の外側を回る惑星胡州出身の学徒兵あがりの苦労人。野球と酒をこよなく愛する大男で誠達も所属している保安隊野球部の部長をしている男だった。先月の人事異動により保安隊の上部組織である遼州同盟司法局の調整室長を拝命し、ランとの引継ぎ作業と野球部の練習の為によくこの基地を訪れることがあった。
「タコが相手なら報告は後で良いや。とりあえず射撃レンジで……」 
「おう、ワシのこと呼んだか?」 
 腰の拳銃に手をやった要の後ろに大きな影が見えて誠は振り返った。長身で通る誠よりもさらに大きなそして重量感のある坊主頭の大男が入り口で笑みを浮かべていた。
「明石中佐。なんでこんなところに?」 
 さすがに気まずいと言うように要の声が沈みがちに響く。
「何ででも何もないやろ。シャムにええ加減にせんかい!って突っ込み入れに来たに決まっとるやなかい」 
「ああー……」 
 振り向きもせずに吉田が奥を指差す。左手を上げて明石に手を振るシャムがいた。
「一応、準待機言うても仕事中なんやで。少しは体調を考えてやなあ」 
「今年の秋の都市対抗の試合でバックネットに激突して肩の筋肉断裂って言う大怪我居ったキャッチャーがいたのは……どのチームかな?」 
 吉田のあてこすりにサングラス越しの視線が鋭くなるのを見て誠は二人の間に立ちはだかった。明石も吉田の挑発はいつものことなので一回咳払いをすると勤務服のネクタイを直して心を落ち着けた。
「ああ、ワレ等の室内訓練終了の報告な。顔さえ出してくれりゃええねん。取り合えずデータはアイシャが出しとるからな。それにしても嵯峨の大将相手とはいえ……まるでわややんか。ほんまになんか連携とか、うまく行く方法、考えなあかんで」 
 そう言って出て行く明石に敬礼するカウラと誠。要はタレ目をカウラに向けて笑顔を浮かべている。
「ここで暴れるんじゃねえぞー」 
 吉田はそれを一瞥した後、再び端末のキーボードを叩き始めた。
「そう言えば……今日は?」 
 突然アイシャが思い出したように言う様を、明らかに仕上げの作業で煮詰まっているサラがうんざりしたと言う目で見つめる。
「呆けたの?今日は12月4日!吉田さんのところに今シャムちゃんの描いている原稿を今日中に仕上げないとって言いつけて出かけたのはアイシャじゃないの!」 
 そう言うと赤い髪を掻きあげた後、机の上のドリンク剤に手を伸ばした。
「4日ねえ……」 
「なんだよ言いたいことがあればはっきり言え」 
 要はアイシャの思わせぶりな態度に苛立っている。飽きれて詰め所に帰るタイミングを計っているようで落ち着かないカウラ。だが彼女達より圧倒的に階級が低い誠はただ黙って彼女達が次の行動を決めるのを待つしかなかった。
「この前の同盟厚生局のはねっかえりを潰した件で今回のコミケの準備は吉田さんが仕切ってくれることになってたし……」 
「マジかよ。おい、サラ。最後の仕事だそうだぞ」 
 吉田がコンピュータ端末の画面から伸び上がり目をやった先には死にそうな表情のシャムが原稿を手に取っている様が見えた。
「わかったー……」 
 ドリンク剤の効果もないというように半開きの目が痛々しいサラがそれを受け取ってしばらく呆然と天井を見上げているのが見える。
「つまり……私と誠ちゃんはフリーなのよ!」 
「何を言い出すんだ?」 
「病気だ。ほっとけ。詰め所に帰るぞ」 
 突然力強く叫ぶアイシャだが、シャム達の疲労が伝染したと言うような疲れた顔をして誠の隣に来て肩を叩く要。明らかに胡散臭そうなアイシャの言葉に無視を決め込もうとするカウラ。二人に連れられて誠は修羅場から立ち去ろうとした。
「ちょっと待ってよ!これはいい企画が……」 
「私の誕生会でもやろうって言うのか?素直にクリスマス会がしたいって言え」 
 カウラの一言にまるで衝撃を受けたようによろめくアイシャ。いつものように芝居がかった動きでそのまま原稿の仕上げをしているサラの隣の机に突っ伏した。
「アイシャ。みんな呆れてるわよ」 
 そう言って目もくれずにもくもくと作業を続けるサラ。
「サラまで……」 
「私もシャムちゃんの手伝いをしろって言ったのアイシャじゃないの」 
 明らかに不機嫌そうにそう言うとアイシャを無視する体制に入った。
「まあそうね」 
 サラが構ってくれないことで芝居をやめてアイシャは立ち上がった。
「じゃあシャムちゃん達を排除したクリスマス会の企画。これを考えてくる。ハイ!みんな。これ、宿題だから」 
 そう言うといつものように急な思い付きを誠達に押し付けて颯爽とアイシャは部屋を出て行った。
「何が宿題だよ……どうせ第四小隊の連中がクリスマス休暇に入ったんだ。アタシ等が休んで良いわけねえだろうが」 
 吐き捨てるようにそう言って歩き出す要だが、彼女についていこうとした誠の顔を心配そうに見つめているカウラを見つけて振り向いた。
「カウラさん……何か?」 
 思わず不安そうな顔のカウラに声をかけた誠。そこで一度頭を整理するように天井を見上げたカウラが覚悟を決めたと言うような表情で口を開いた。
「それなんだがな。何でも……第四小隊は20日から勤務の予定なんだよな」 
 突然のカウラの言葉に誠は呆然とする。
「そんな……ロナルドさんは婚約者と……」 
「それが突然破棄されたんだそうだ。彼も相当荒れているらしいから仕事をして気分を変えたいと言うところなんだろうな」 
「でも……なんでですか?あの人結構良い人ですよ」 
「私に聞くな」 
 そう言うととぼとぼと歩き出すカウラ。そして誠は人のよさそうなロナルドが荒れている様を想像しようとしたが、いつもニコニコとしている穏やかなアメリカ海軍のエリート士官の表情がゆがんでいる様が想像できないでいた。
「なんだ、帰ってきてたの」 
 本館に入り、そのまま中で笑い声が絶えないアイシャ達の居る運行部の部屋を通り過ぎて、技術部部長室の前に来たとき、扉が開いて技術部のトップである許明華大佐が現れた。
『あ……』 
 誠もカウラも思わず声を出していた。
 彼女は来年の6月にタコこと明石清海中佐と結婚する予定があった。ロナルドの婚約破棄の話をしていた二人はそれを思い出して複雑な表情で上官を見つめていた。
「なんだなんだ?私の顔になんかついているとか……」 
 じっと自分を見つめてくる部下達の表情をいぶかしむように見つめる明華。だが、一番タイトな環境の技術部のトップには暇はなかった。何度か首をかしげるとそのまま二人を置いて早足でハンガーへと向かう。
「なんか話を聞いちゃうと意識してしまいますね」 
「ああ」 
 誠の言葉に上の空で返事をして再びカウラが歩き始める。技術部の各セクションの部屋を通過してハンガーへと出た誠達の前にはいつもなら隣の建物である車両置き場においてある人型兵器『アサルト・モジュール』の搬送用トレーラーが一台置かれていた。
 そしてその運転席では部隊の最年少で19歳の技術兵である西高志兵長が端末を手にじっと目の前の灰色の機体を見上げていた。
 保安隊の部隊として保有する12機のアサルト・モジュールのうちの一機。05式特戦乙型。そしてその担当操縦者は誠だった。
 すでに多くのメディアで紹介されてきた誠の機体は地球系植民惑星のすべてで、『誰か止めなかったの?』という落胆と『素晴らしい!感動した!』と言う賞賛を浴びる塗装が施されていた。それは全身にアニメやギャルゲーの魔法少女や戦闘ヒロイン、そして女子高生の幼馴染キャラで塗装されると言う痛い機体だったからだった。
「何を見上げているんだ……そうか、明日から東豊旗駐屯地の基地祭だったか」 
 特に関心は無いというようにカウラは誠の痛い機体を見上げる。世事に疎い彼女にはかわいい絵が描いてあるくらいの感想しかないのを知りながら誠は頭を描いた。
「でも人気ですよね、神前さんの機体。僕も何度かネットでこの塗装の05式乙型のプラモデルの写真見つけましたよ」 
「ああ、そう」 
 痛い目で見られるのは慣れている誠だが、こうしてカウラの澄んだ目で見上げられると恥ずかしく思えてきて頭を掻くしかなかった。開かれたコックピットに顔を突っ込んでいた整備員までいつの間にか誠達を見下ろしている。
「なんだ?お前等。帰ってきてたのか。兄さんは……まだなんだな」 
 ハンガーから二階の執務室へ上がる階段の上で声をかけてきたのは高梨渉(たかなしわたる)管理部長だった。東和軍の背広組みのキャリア官僚から腹違いの兄である嵯峨惟基の首根っこを押さえる総務会計総帰任者『管理部部長』の仕事をすることになった。
 その兄の嵯峨惟基とは似ても似つかないずんぐりむっくりした体型が階段の上で待ち構えている。
「ああ、すいません。先日の備品発注の件は……」 
「それなら後にしてくれ!西兵長。島田君は?」 
 階段を急ぎ足で下りてきた高梨はそのまま西のところに向かう。取残された誠とカウラはそのまま面倒な話になりそうなので逃げるようにして上に向かう鉄製の階段を登り始めた。
 階段を登りきると目に入るのはガラス張りの管理部のオフィス。軍服を着た主計任務の兵や下士官と事務官のカジュアル姿の女性が忙しく働いているのが見える。
「遅せーぞ!いつまでかかってんだ!とっとと来い!」 
 オフィスを眺めていた誠達を甲高い声が怒鳴りつける。アサルト・モジュール。特機と呼称される人型兵器の運用を任されている保安隊の中心部隊『実働部隊』の部隊長、クバルカ・ラン中佐がそこに立っていた。いつもの事ながら誠は怒ったような彼女の顔を見ると一言言いたかったがその一言は常に飲み込んでいた。
『萌えー!』 
 ランはこの部隊の副隊長であり、管理部部長許明華大佐や運行部部長鈴木リアナ中佐と同じくらいのキャリアを持つ古参の上級士官である。だが勤務服を着て襟に中佐の階級章をつけ、胸には特技章やパイロット章や勲功の略称をつけているというのに、まるで説得力が無くなって見えた。その原因は彼女の姿にあった。
 彼女はどう見ても小学生、しかも低学年にしか見えない背格好だった。124cmの身長と本人は主張しているが、それは明らかにサバを読んでいると誠は思っていた。ツリ目のにらむような顔つきなのだが、やわらかそうな頬や耳たぶはどう見てもお子様である。
「非番じゃなかったんですか?」 
 カウラはいつも不自然に思わずにそのままランのところに足を向ける。
「第四小隊の復帰の話が来ただろ?あれで訓練メニューの練り直しが必要になってな。どうせ休日ってもすることもねーからな」 
 そう言いながらランはにんまりと笑って詰め所の中に消えた。
「怒られてんの!」 
 部屋には端末の前のモニター越しに入ってくる誠達をタレ目で見つめる要がいた。
「西園寺!無駄口叩く暇があったら報告書上げろ!オメー等もな」 
 そう言うとランは小さい身体で普通の人向けの実働部隊長の椅子によじ登る。その様子をわくわくしながら見つめる誠に冷ややかなカウラの視線が注がれていた
「ああ、仕事!仕事しますよ!」 
 そう言うと誠は自分の席に飛びつき、端末を起動させた。
「おう、仕事か?ご苦労なこっちゃ」 
 背広に着替えた明石がついでのようにドアから顔を出す。そして手にしたディスクをつまんで見せ付ける。
「ああ、明石。お前さんが預かったのか」 
 ランはそう言うと椅子から飛び降りててくてくと明石に近づく。だが、その彼女の前に彼女の背格好くらいの大きさの山が動いてきて思わずランは身をそらした。
「亀吉!」 
 驚いて叫ぶラン。その小山はシャムの保安隊内部に連れ込んでいるペットその2こと、ベルルカンゾウガメ『亀吉』だった。大きさのわりに軽快なフットワークを誇る亀吉は大口を開けてランを威嚇している。
「慣れないんですかね。目つきの悪いお子様には」 
 嫌味を飛ばす要だが、彼女が一番亀吉を苦手としていることは誠もカウラも知っていた。
「あの餓鬼が……」 
 ふつふつと怒りを燃やしているように握りこぶしを作るランだが、再び亀吉が口を開いたのを見ると手を引っ込める。それを見て明石も弱ったような顔でディスクを隣の棚に置くと亀吉を持ち上げて奥のシャムの机の隣のケージに運んだ。
「おう、ありがとうな」 
「クバルカ先任も苦労しとるようやね。ほいじゃあ本部に戻りまっさ!」 
 そう言って剃り上げられた頭を叩くと明石は出て行った。ケージから出ようと暴れる亀吉のたてる音が部屋中に響く。
「シャム……持って帰れよ」 
 心のそこからの叫びのようにそんな言葉を搾り出すと、安堵した表情でランは自分の席へと戻っていった。
「ランはいるか?」 
 入れ替わるように入ってきた警備部部長マリア・シュバーキナ少佐に思い切りため息をついてみせる。それを見てショートカットの金髪を撫でながら笑顔を浮かべる長身のマリアが歩み寄ってくる。その二人を仕事をするふりをしながら要と誠は観察していた。
「そんな顔するなよ。一応保安隊のナンバー2はお前なんだ。それよりこれから訓練でかけるから声をかけようと思ってな」 
「アタシは非番の予定だったんだよ。それなら明華やリアナに言ったらいいだろ?」 
 さすがに疲れたと言う表情でランはマリアを見上げた。まるで小学校の先生と生徒である。誠は噴出しそうになる要をはらはらしながら眺めていた。
「閉所戦闘訓練だよなあ……もうそろそろ隊長や楓のお嬢様がお帰りになるころか……ってオメー等!遊んでないで!」 
 自分が見られていることに気づいて叫ぶラン。要と誠は頭を引っ込めた。隣では二人の上司と言うことでカウラが大きなため息をついてみせる。
「今日は歩哨担当も出すつもりなんだ。そこで……」 
 マリアはそう言うとカウラを見つめた。きょとんとした表情のカウラは自分の顔を指で指す。そしてそのまま視線を仕事をしているふりに夢中な誠と要に向けた。
「それとアイシャにも頼んでおいたからな」 
「余計なことすんじゃねーよ。カウラ!そう言うわけだ。とりあえず……」 
 諦めたランはそう言うと腕の端末に目を向ける。
「20時まで、ゲートで歩哨任務につけ!」 
「は!フタマルマルマル時までゲート管理業務に移ります!」 
 立ち上がったカウラに大きく頷いて見せてマリアは颯爽と部屋から出て行った。ランは仕方が無いと言うように誠と要に目を向ける。にんまりと笑った二人はそのまま立ち上がると出口で敬礼してそのままカウラを置いて廊下に出た。
「あ!お姉さま!」 
 声をかけてきたのは楓だった。そのまま走り寄ってこないのは明らかに彼女を見て要の表情が冷たくなったからだった。だが、要に苛められたいというマゾヒスティックな嗜好の持ち主の楓は恍惚の表情で立ち去ろうとする要を見つめている。誠も出来るだけ早く立ち去りたいと言う願望にしたがって楓の後ろの渡辺とアンを無視して、そのまま管理部のガラス窓を横切りハンガーへ降りる階段へと向かった。
「声ぐらいかけてやればいいのに」 
 追いついてきたカウラの一言にこめかみを緊張させる要。その表情を見てさすがのカウラも目をそらした。
 ハンガーではすでにトレーラーに搭載された誠の05式をワイアーで固定する作業が続いていた。
「あれ?カウラさん達は……」 
 目の下に隈を作って部下の作業をぼんやりと眺めている島田からの声に不機嫌になるカウラ。
「門番の引継ぎだ!警備部が訓練に行くからその代役だ」 
「ああ、さっきアイシャさんがスキップしていたのはそのせいですか」 
 そこまで言うと島田はハンガーの隅に置かれたトレーラーの予備タイヤの上に腰を下ろしてうなだれる。
「辛そうだな」 
 カウラの言葉に顔を上げた島田が力ない笑いを浮かべていた。

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