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遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 24

「なんだ?薄ら笑いなんか浮かべて……例のプレゼントが仕上がったのか?」 
 昼はラーメンだった。どんぶりのスープをすすり上げた要がニヤつきながら誠に声をかける。確かにカウラのイラストを仕上げた誠の気分は良かった。カウラを見て、誠は別にアイシャに頼まれて描いた女魔族と先ほど描き上げたイラストが似ていてもどうでもいいと言うような気分になっていた。
「別に……」 
「別にって顔じゃないわね。まあ今日はこれから材料を買いに行く予定なんだけど」 
 アイシャはそう言うと麺をすすり上げる。見事な食べっぷりにうれしそうに頷くのは誠の母、薫。
「お誕生日の料理……でも、オードブルはクリスマスっぽくなっちゃうわよ」 
 そう言いながらも満面の笑みの母に誠は苦笑いを浮かべていた。明後日のカウラの誕生日会と称したクリスマスを一番楽しみにしているのは母かもしれない。そんなことを思いながら誠はどんぶりの底のスープを飲み干す。
「そんなにスープを飲むと塩分を取りすぎるぞ」 
「いいんだよ!これがラーメンの醍醐味だ」 
 カウラを無視して要もスープを飲み干した。体内プラントで塩分ろ過の能力もある要の台詞には説得力はまるで無かった。
「でも鶏の丸焼きは欲しいわよね」 
 すでに食べ終えてお茶をすすっているアイシャ。
「だったらオメエが買え。止めねえから」 
 要の言葉にアイシャが鋭い軽蔑するような視線を要に向ける。そんな二人を暖かい視線で見守る薫に安心感を覚えた誠だった。
「結局お前達が楽しむのが目的なんだな?」 
「悪いか?」 
 嫌味のつもりで言った言葉を完全に肯定されて少しばかり不機嫌そうな表情になるカウラ。要は立ち上がると居間から漫画を持ってくる。
「『女検察官』シリーズね。誠ちゃん。ずいぶん渋い趣味してるじゃないの」 
 アイシャが最後までとっていたチャーシューを齧りながらつぶやく。誠のコレクションでは珍しい大衆紙の連載漫画である。
「これは絵が好きだったんで。それとそれを買った高校時代の先輩が『読め!』って言うもので……」 
「ふーん」 
 アイシャはどちらかと言うと劇画調に近い表紙をめくって先ほどまでカウラが読んでいた漫画を読み始める。
「クラウゼさん。片づけが終わったらすぐに出るからね」 
「はいはーい!」 
 薫の言葉にあっさり返事をするアイシャ。誠はメンマを食べながら妙に張り切っている母を眺めていた。要はそのまま居間の座椅子に腰掛けて漫画を読み始めたアイシャの後ろで彼女が読んでいる漫画を眺めている。
「邪魔」 
「なんだよ!そう邪険にするなって」 
 後ろから覗き込まれて口を尖らせるアイシャ。それを見ていて誠は朝のシャムを思い出した。
「そう言えば西園寺さん。ナンバルゲニア中尉は何しに来たんですか?」 
「は?」 
 アイシャの後頭部の紺色の髪の根元を引っ張っていじっていた要が不機嫌そうに振り返る。そしてしばらく誠の顔をまじまじと見た後、ようやく思い出したように頭を掻いた。
「ああ、サイドアームの件だ」 
 今度はしばらく誠が黙り込む。要の言葉の意味がはっきりとわからない。
「シャムちゃん自慢のハンドキャノンが問題になってたって訳」 
 アイシャがそう言うので誠はようやく思い出した。サイドアーム。常備携帯することが定められている拳銃の話だった。
 保安隊では任務の必要性により、各個人が自衛用の拳銃を携帯することが規則で定められている。そしてその銃での射撃訓練を行うことも職務の一つとなっていた。アイシャなどのブリッジクルーや技術部員、管理部の事務隊員などは一月に二百発の射撃訓練が目安とされていた。もっともリアナや明華、高梨などの部長の決裁でその数は変わり、アイシャ達ブリッジクルーは拳銃で百発、ライフルで五百発の射撃を課されていたが、技術部と管理部は予算の関係で作動不良の確認程度の訓練しか行っていない。
 だが、誠の属する実働部隊やロシアの特殊部隊で鍛え上げられたマリアの警備部は桁が違った。それぞれ一万発近い射撃訓練を課されていて、消化できない場合には居残りで射撃をさせられることになる。
 そこで問題なのが弾薬のコストである。
 シャムの使うM500は二十一世紀初頭の大口径・大威力リボルバー競争の生んだ化け物のような拳銃だった。当然、弾の生産は現在では地球で細々と続いている程度で、不足する多くの弾は小火器管理部門による手作業での再装填で作られたものだった。
「やっぱり……あれは無駄ですからね。それで?」 
「そういうわけで新しい銃を叔父貴のコレクションで使える銃の中からアタシがセレクトしたんだ。とりあえず40S&W弾以上、それであいつが握れる大きさ……」 
「ああ、いいです」 
 要の銃の薀蓄に付き合うつもりは無い。不機嫌そうな要から目をそらすと荒いものを終えた母が誠を手招きしていた。
「ああ、出かけるみたいですよ」 
 誠の言葉にさっさと立ち上がるアイシャ。しゃべり足りない要は不機嫌そうにゆっくりと腰を上げる。すでに暖かそうなダウンジャケットを着込んだ母とカウラを見ながら誠はそのまま居間にかけてあったスタジアムジャンバーに手を伸ばした。
「この格好だと変かな?」 
「この寒空にタンクトップ?馬鹿じゃないの?」 
 カウラから渡された濃紺のコートを羽織ながら鼻で笑うアイシャをにらんだ要だが、あきらめたようにダウンジャケットを羽織る。
「じゃあ、いいかしら」 
 薫の言葉で誠達は出かけることにした。


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