スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

遼州戦記 保安隊日乗 時は流れるままに 27

「おいカウラ」 
「なんだ?」 
「このままオメエの車にある拳銃持って来てくれないかな?この警察署を襲撃したいんだけど……」 
「冗談はそのタレ目だけにしろ」 
 すでに日は沈んでいた。西の空のあかね色が誠と要、そしてカウラの頬を染めていた。通り魔を捕まえた三人はそのまま所轄の警察署に連れて行かれ、法術特捜の主席捜査官である嵯峨茜警視正が来るまでの間、取調室に拘束されていた。
「はぁー!腹立つ!」 
 入り口を出て振り返り物騒な言葉を並べ立てる女性を目にして、制服姿の警察官達はいぶかしげに三人を眺めながら忙しそうに出入りを繰り返す。
「怒ってどうにかなる話じゃないだろ?あちらも仕事だ。職務執行中の警察官から拳銃を取り上げて良いと言う職務規定は、同盟司法局には無いからな」 
 そう言うとそのままカウラは急ぎ足で大通りに向かう道を歩き始めた。置いていかれると思ったのか、愚痴を続けていた要も彼女の後を早足で追う。誠はそんな二人を眺めながらただおろおろしながら付いていくだけだった。
「そりゃそうなんだけどさあ。あの時、アタシ等ができる最善の行動はあれ以外に無かったのは事実だろ?機動隊の到着まで待ってたらいつまで時間がかかるか……」 
「だが規則は規則だ。あちらだって最後には茜に頭を下げてたじゃないか」 
 カウラの言葉に子供のように頬を膨らませる要。誠はなだめようとするが、目の前に赤い車が飛び出してきたのに驚いて飛びのく。
「ヤッホー!元気そうじゃない」 
「来たよ裏切り者が」 
 飛び出したのはカウラのスポーツカー。運転していたのはアイシャだった。デパートで人質が救急車に乗せられていくのを三人が見守ったときには、すでに野菜の袋を手にしたアイシャの姿は無かった。面倒なときにはいつも要領よく逃げおおせる。それはアイシャの十八番とも言えた。
「だって食材が無いと料理が出来ないじゃない」 
 開き直るようなアイシャの言葉を無視するように、黙ったままカウラは自分の車の助手席のドアを開いて乗り込む。そして当然のように要も後部座席に滑り込んだ。さらに要の手に引きずられるように誠も助手席に腰を下ろす。
「帰るぞ」 
 不機嫌そうな要の一言。アイシャは参ったと言うような顔をするとそのまま車を発進させた。
「でもまあ無事解決……とは行きそうに無いみたいよ」 
 アイシャの突然声色が真面目なときの彼女のものに変わった。すぐに怪訝な表情になる要とカウラ。
「犯人には要ちゃんに撃たれるまでの記憶が無いんだって。銃も凶器の山刀の入手先も知らないの一点張り」 
「あれだけの事件を起こしたんだ。言い逃れをしようというところじゃないのか?」 
 そんなカウラの言葉にアイシャは大きく首を横に振る。
「薬物で意識が飛んでたわけじゃないのは二人も見たでしょ?」 
 アイシャの言葉に黙り込むカウラ。要も難しい表情を浮かべて腕組みを続けている。
「法術……か?」 
 その要の言葉にアイシャは大きく頷いた。
 アイシャは滞り気味に流れる上を高速道路が走る大通りからハンドルを切り、誠の家の前の路地に車を進める。そして車を道場の門の手前でいったん止めて話を続けた。
「先日の同盟厚生局での非合法の法術師育成プロジェクト。その中で一人、精神介入系の技術の能力に特化した法術師がいたのよ」 
「へー」 
 関心が無いように装う要の言葉。アイシャはあきらめたように大きくため息をついた。
「ずいぶんと余裕なのね。西園寺のお姫様」 
 アイシャの挑発に要は乗る様子も無く黙り込む。仕方なくカウラはアイシャの言いたいことを話し始めた。
「元々精神波動の異常を脳下垂体の特殊な器官で発生させる法術では、一番初歩的に発動可能な能力が精神介入能力だ。今まで確認されている同盟厚生局の研究施設で製造された人造法術師は6名。うち一名は身柄の確保に成功して、現在司法局でリハビリ中だが、彼女と一緒に精神干渉系の能力調整を施された法術師の行方がいまだ不明だ。おそらく今回の犯人は……」 
「なるほど、この街のどこかにパトロンでも雇ってテロリスト商売でも始めたって言うのか?」 
 茶化すような要の言葉に隣のカウラが怒りの表情でにらみつける。参ったと言うように手を上げる要。そしてため息をつくアイシャ。
「法術研究の専門家のヨハンに言わせると、精神介入能力は一番初歩的でしかも不安定なんだって。他者の意識に介入するんだもの。下手をすれば自我崩壊すら起こしかねないわよ。それにもし要ちゃんの言うパトロンのことを法術師が気に入らないと思えばパトロンの意識に介入して自分を解放させるくらいのことは考えるんじゃないの?ねえ、誠ちゃん」 
 アイシャの言葉に誠ははじめてのアサルト・モジュールでの実戦を経験した『近藤事件』を思い出した。死んでいく敵兵の意識が誠の脳裏に張り付いたあの瞬間。誠はその嫌な感覚を思い出してうつむく。
「つまり十分躾を施してから今回の悪趣味な実験を行ったって言うわけだな」 
 自分の言葉を一語一語確かめるようにしてつぶやくカウラ。彼女の言葉に大きく頷いた後、アイシャは再び車を動かす。ゆっくりと道場の門をくぐってその中庭。一台のマイクロバスの後ろに車を止めた。
「おい、アイシャ」 
「なに?」 
 要が身を乗り出して目の前のレンタカーとわかるナンバーのマイクロバスを指差した。
「ああ、あれは……」 
 アイシャがそういった瞬間、道場から駆け出してきたリアナの姿が目に入った。
「カウラちゃん!」 
 運行部長のリアナに続いてくるのはサラ、パーラ、そしてブリッジクルーの女性隊員達だった。オフなので当然全員私服。中でも紺絣にどてらを着たリアナの白い髪が夕暮れの中で浮き上がって見える。
「降りろ、神前」 
 そう言って要が助手席を蹴り上げるので誠は状況がつかめないまま助手席から降りる。
「人の車だと思って……」 
 要の態度に呆れながら狭い後部座席から降り立ったカウラ。
 三人はなぜ彼女達がここにいるのか不思議に思いながらニヤニヤしながら自分達を見つめているアイシャに視線を移す。
「ああ、カウラちゃんの誕生日でしょ?たくさんで祝ったほうがいいってお姉さんに言ったら……」 
 アイシャの隣に並んだどてらを羽織っているリアナが満面の笑みでカウラを見つめている。
「多いほうがうれしいですものね。みんなでお祝いしましょうよ」 
「あの、お姉さん。仕事は……」 
 さすがの要も心配そうな表情を浮かべる。
「ああ、例の三体のアサルト・モジュールの起動実験でしょ?ともかくしばらくは『高雄』での運用は無いだろうと言うことで私達暇だったのよ。でも……」 
 パーラはそう言うと隣のサラを見つめる。整備班班長の島田と付き合っているサラの表情はさすがに冴えない。
「まあ島田先輩は休めないでしょうね」 
 誠の言葉を聞くとそのまま静かに頷くサラ。
「こんなに来て……それに明日じゃねえのか?こいつの誕生日」 
「だって……明日だと私が出れないでしょ?それにいいものが手に入ったんだから」 
 うれしそうなリアナ。確かに保安隊での数少ない既婚者である彼女は夫の健一とクリスマスの一夜を過ごす予定でもあるだろうと察して誠は苦笑いを浮かべた。
「なんですか?」 
「蟹よ!」 
 うれしそうに叫ぶアイシャ。要とカウラはなんとなく納得したような表情でアイシャのうれしそうな顔を眺めていた。
 道場の入り口で手を振る母、薫。誠は苦笑いを浮かべた。カウラとアイシャが冷やかすような視線を彼に向けてくるのがわかる。
「本当に仲がいいのね。要ちゃん、うらやましいでしょ?」 
 そう言って見つめてくるリアナに思わず顔を赤らめる要。そしてそのまま足を玄関に向ける。
「そう言えば西園寺さんのお母さんて有名な剣術家で……」 
「お袋の話はするな」 
 吐き捨てるようにそう言うと足を速めた。
「ええ、かなりしごかれたらしいわよ。すっかりトラウマになったみたいで」 
「アイシャ!聞こえてんぞ!」 
 怒鳴る要に思わず首をすくめるアイシャ。誠も仕方なく要やカウラと玄関へと向かった。引き戸を開いて入った玄関には大量の大きな白い断熱素材の容器が積み上げられている。
「これ……全部蟹?」 
「そうよ!」 
 呆れたようにつぶやく要に元気良く答えるアイシャ。誠も空の容器を見つめながらその量の多さにただ圧倒されていた。
「北海ズワイ……本物か?最近のこう言う表示の紛らわしいのは何とかならないのか?」 
 カウラのつぶやきに誠も苦笑する。当然遼州にはズワイガニはいない。哺乳類が生物学上の同様の進化をたどったとされている遼州だが、甲殻類の進化は地球のそれとは違った。この『北海ズワイ』と呼ばれている『リョウシュウクモガニ』は見かけは確かに蟹と思えるが、足の数が二本多いのが地球の蟹とは違う点だった。美食家の嵯峨に言わせると味は同等だがあっさりしすぎていて地球のズワイガニより劣るという話だった。
「でもまあこれは誰が……」 
 呆れながら靴を脱ぐ誠。要は誠を待たずに奥の洗面所に走っていく。
「隊長に決まっているじゃない」 
 背中からいきなりリアナに声をかけられてバランスを崩す誠。ブーツを脱ぎ終えたカウラが手を出さなければそのまま顔面から玄関のコンクリートにキスをするところだった。
「脅かさないでくださいよ」 
 リアナは満面の笑みを浮かべながら体勢を立て直す誠に手を貸す。
「ごめんなさい。でもこれで今日は蟹鍋ができるのよ。みんな楽しくって……」 
 そう言うとリアナはサンダルを脱いでそのまま道場へ向かう廊下を小走りで消えていく。
「楽しそうだな」 
 誠を待ってくれているカウラに笑顔を向けながら誠はようやく靴を脱いで立ち上がった。
「でもこんなに食べるんですか?」 
 明らかに伊達では無い量に誠はただ圧倒されていた。
「ちゃんと手を洗って!」 
 道場の方からの母の叫びに苦笑いを浮かべながら誠はそのまま廊下を奥に進んだ。
「良いわね、お母さんて」 
「そうですか?面倒なだけですよ」 
 リアナの言葉につい出た言葉に誠は頭を掻いた。そんな誠を静かに見守るカウラ。
「なんだよ、早くしないと全部食っちまうぞ」 
 洗面所に向かう廊下から顔を出した要がそう言って笑う。誠は仕方がないと言う表情でそのまま洗面台に向かう。
「お前もちゃんと手ぐらい洗えよ」 
「余計なお世話だ」 
 いつものように一言多い要にカウラがやり返す。
「本当に二人は仲良しなのねえ」 
 リアナの言葉に見つめあう要とカウラ。次第にその表情が複雑なものになり、そしてリアナに向き直る。
『どこがですか!』 
 声をそろえて二人が言うのを見て手を洗っていた誠が噴出す。それを見るとすぐさま要の手がその襟首を捕まえて引き倒した。
「おい、どういうつもりだ?あ?」 
 要はそのまま誠の利き手の左手をつかむと後ろにぎりぎりと締め上げ始める。
「どういうつもりも何も……」 
「要、ちゃんと躾をしておけ」 
 カウラは引き倒されてじたばたしている誠を横目に見ながら、優雅に手を洗っている。そしてその水音と暴れる誠の音ににまぎれて玄関の引き戸を開く音が聞こえた。
「誠ちゃん!元気!」 
 声の主はシャム。誠が倒れたまま玄関の方を見てみると、珍しく玄関に並んで立っているシャムと吉田の姿があった。いつもなら裏口とか二階に直接上がってくるような吉田がなぜ玄関から入ってくるのかと逆に不思議に思っている誠達を眺めながら靴を脱いであがってくる。
「なんだ?蟹のにおいに釣られたか?」 
 誠の腕をねじりながらの要の言葉に頬を膨らませたシャムが手に箱を二つ持ったままずかずかとあがりこんでくる。
「ひどいんだ!せっかく良いもの見せてあげようと思ったのに!」 
 珍しくトレードマークの猫耳をつけていないシャムが手にした二つの箱を大事そうに抱えて誠の目の前に座り込んだ。
「なんですか?それ」 
 ようやく緩んだ要の手から抜け出して何とか起き上がる誠。彼の前にシャムはうれしそうに少し焼けたようなセピア色に染まった紙箱を二つ突き出して見せる。
「シャム……」 
 そう言って、立ち上がったばかりの要は大きくため息をついた。誠はしばらくその意味がわからなかったが、うれしそうに一つの箱を廊下に置いて蓋を開けた瞬間に少しばかり要の気持ちがわかった。
 中には黒鉄色のリボルバーが入っていた。しかもウェスタン映画に出てくるような見覚えのある形だった。
「ピーメかよ……」 
 再び大きくため息をつく要。誠はその言葉でシャムが持ってきたのが西部劇などに良く出てくるガンマンの銃、ピースメーカーであることを思い出した。
「珍しいな。撃てるのか?」 
 カウラが珍しいものを見るように紙箱の中の銃を眺めている。そのピカピカの青黒い姿から見て19世紀の本物のピースメーカーでは無いことは誠にも分かった。
「えーとー」 
「それは第六惑星3番衛星系連邦のルーラ・ガンファクトリーの『SAA・G1』シリーズのシェリブズモデルだ」 
 要はそう言うと全員の視線が自分に向いていることに気づいた。
「どうした?」 
「そう言う言い方。誠君がアニメの説明しているときみたいよ」 
 リアナの一言。そして打ちひしがれたように凍りつく要。
「まあ、それはいいとして……」 
 カウラは相棒をフォローするようにシャムの差し出した箱から拳銃を取り出す。誠はそれを見ながら映画でガンマンが構えていた銃との違いを思い出していた。映画のガンマンの手の中の銃に比べると明らかに銃身が切り詰められていて短い。そしてグリップが丸っこくなりどこか愛嬌すら感じさせる。
「ハンマーヘッドは……なんだ?これは」 
 薬莢の雷管を叩いて激発させるハンマーの突起を見て、カウラが怪訝な表情を浮かべた。誠も覗き込むと、その部分が別部品で出来ているのが見て取れる。
「ああ、それがこの銃の売りの安全装置だ。ハンマーの後ろにボタンがあるだろ?それでハンマーヘッドをフリーにすると引き金を引いてハンマーが落ちても弾は出ない。そこのボタンを押してヘッドを固定した状態でハンマーを落とすと弾が出る」 
 もう一つの箱を開けた要が実際にその部品を弄って機能を示して見せる。
「へー……そうなのか?」 
 要の解説を聞きながらカウラはしばらくシャムの新しい銃の安全装置を眺めていた。
「でもこれってこれまでのM500の弾より安いんですか?弾」 
 誠の言葉に要はにやりと笑って頷く。
「まあカウボーイシューティングマニアは今でも結構いるからな。こいつは仕様は45ロングコルト弾だからそれなりに値段は安いぞ」 
「はあ……」 
 銃を弄っているうちに次第にうれしそうな表情に変わる要の表情にただ誠は頷くばかりだった。
「でも隊長のコレクションなんだろ?価値は……」 
「カウラよう。叔父貴と二年も付き合ってわからねえのか?ゲテモノ食いが叔父貴の本分。こいつは二束三文だな。希少価値なんて0に近い。まあ数百年後はどうか知らねえけど」 
 そう言いながら要は銃のハンマーの劇発部分をつつく。安全装置の関係でそれはぴこぴこと引っ込んだり出っ張ったりを繰り返す。
「この仕組みがね……。アイディアとしては面白かったんだが、ピースメーカーのレプリカにしては、ハンマーの後ろにつけられたここの安全装置が目障りだったんだ。『ハンマーノーズをそのままに規制の多い国でも販売できるピースメーカー』って売りだったんだが、こんな後付の安全装置をつけるならいらねえって言うのが市場の声でね。メーカーは二年で倒産というわけだ」 
 そう言うと要は器用にくるくるとガンマンのように手の中のピースメーカーを回して見せる。
「ふーん。そうなんだ……」 
 ようやく自分の銃のことが分かって感心したように要を見上げるシャム。そしてカウラから受け取った銃をまじまじと見つめる。
「そう言えば二挺あるってことは後は誰が使うんだ?吉田か?」 
「俺は御免だな」 
 カウラの指摘にすぐに答える吉田。そして吉田は慣れた調子でハンマーを少しだけ起こしてシリンダーの後ろの部品を動かす。そこには誠にも弾が入る穴だとわかる部分が見えている。
「ここから装弾するんだ。しかも薬莢を取り出すのは……一般的なタイプならバレルの横に排莢用の棒が付いているんだが、これみたいなシェリブズタイプには無いからな。前の部分から棒か何かで押し出さないと出てこない」 
 吉田の説明でなぜこの銃が二挺セットなのか誠も理解した。要するに撃ち合いのさなかに弾を込めるようなことはとても出来る銃じゃない。解決策はもう一丁を用意して撃ち終わったらそちらを使う。
「吉田君。知ってたら教えてあげないと」 
 リアナの言うのももっともだった。頷く誠だが、当のシャムはすっかり気に入ったと言うように銃を手に構える練習を始めている。
「まあ本人が気に入ってるんだからいいんじゃねえか?それより蟹だよ」 
 そう言うとそのまま要は道場へ向かう廊下に向かう。誠はカウラが手を洗っているのを見つけるとそのまま洗面台に向かった。
『はじめちゃうからね!』 
『いいぞ!アタシも行くから待ってろ!』 
 廊下で響くサラと要の叫び声。
「蟹があるの?」 
 箱に銃を戻しながら手を拭いているカウラにシャムが尋ねた。
「そうだ。玄関に箱が有っただろ?」 
 そう言うとシャムの表情が一気に明るくなった。
 誠が手を洗い、白いタオルでそれを拭う。
「冗談抜きで西園寺はすでに始めているだろうからな。こういう時のあいつは気が早すぎる」 
 笑みを浮かべているカウラについて道場へ向かう廊下を急ぎ足で進む。
「要ちゃん!もう蟹を入れちゃったの?」 
 リアナの声が響く。道場にはテーブルが五つほど並んでいた。上にはそれぞれ土鍋とその隣に山とつまれた蟹。要の占拠したテーブルの鍋から湯気が上がり、その中に要が蟹を放り込んでいる。
「まあすぐに茹で上がるわけじゃないからいいですよ」 
 リアナの声にこたえて微笑むカウラ。
「そうそう!ちゃんと火が通らねえとな」 
 そう言って上機嫌な要の手にはすでに芋焼酎が握られていた。そのラベルを見て誠は母に近づいて小声でささやく。
「母さん、それ親父の取って置きの……」 
 おどおどとした誠に笑顔で答える薫。
「あら、大丈夫よ。代わりに麦焼酎のおいしいのを頂いたから」 
 そんな薫を見て頷きながら次々と蟹を鍋に入れる要。
「そんなに入れても仕方ないだろ?それより野菜を入れろ」 
 自然と要の座っているテーブルに着いたカウラは対抗するように白菜を鍋に投入する。
「だってアタシは野菜食べないし……」 
 要はそう言うと蟹を鍋に放り込んでいた手を休めてグラスに焼酎を注ぎ始める。
「あ!待っててくれなかったの?」 
 母屋から入ってきたシャムの一言。にんまりと笑って見上げる要。
「オメエは飛び入りだろ?遠慮しろよ」 
 そう言いながら乾杯を待っている要。それを見てリアナは自分のテーブルにシャムを招くと周りを見回した。
「カウラさん……」 
 そう言いながら後ろのケースから冷えたビールの瓶を手にして誠はカウラに向ける。
「今日ぐらいはいいか……」 
「明日も飲むくせに何言ってんだか」 
 カウラを茶化す要。それを無視するようにグラスを手にしたカウラは誠の注ぐビールをうれしそうな顔で見つめていた。
「えーとそれじゃあ失礼するわね」 
 咳払いをしながら立ち上がるリアナ。それぞれのテーブルにはお互い女同士でグラスにビールを注ぎあっていた運行部の女性士官達が手にグラスを掲げている。
「まあいろいろと忙しいみたいで今年は部隊での忘年会は出来そうにないから」 
「あのーお姉さん?趣旨が違うんだけど」 
 思わず突っ込む要に思い出したようにどてらの袖を打つリアナ。
「えーとじゃあカウラちゃんの誕生日が明日と言うことで!おめでとう!」 
『おめでとうございます!』 
 黄色い歓声が沸きあがる。誠と吉田は少し肩身が狭いと言うようにグラスを合わせて乾杯した。

FC2 Blog Ranking
スポンサーサイト

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

コメント

Secret

プロフィール

ハシモト

Author:ハシモト
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。