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遼州戦記 播州愚連隊 36

「そんな状況だから明石に会っとく必要があるんだ」 
 別所の言葉に明石はすぐにその意味を理解した。
「教導部隊はどの派閥も関係なく順番が回ってくれば仮想敵を演じて見せるのが仕事や。派閥や陸海の区別無く部隊長と顔を合わせとるのがワシってことか?」 
 そんな明石の言葉に満足げに頷く別所に明石は少しばかり違和感を感じた。
「職業上知りうる情報を他に漏らす言うんはでけへんことちゃうか?」 
「そんな詳しい話を知りたいわけじゃない。雰囲気、所感。そんなもので良いんだ。他の部隊の連中がこの状況をどう捉えているかそれを知りたいんだ」 
 そう言って別所は立ち上がるとドアへと向かう。少し開いていた扉に顔をつけていた若い従卒を捕まえると明石を向き直る。
「ああ、小松。茶を入れてくれんかのう」 
 明石の言葉で別所から解放された従卒はそのまま外へと飛び出していった。
「アイツの気持ちも分かるよな。俺達は西園寺の旦那の尖兵扱いだ。どこに行ってもいつ動くとかどこが叛乱を起こすとか物騒な話題を振られて苦笑いの毎日だからな。ここの連中も神経質になってるんだろうな」 
 そんな魚住の指摘は正しいことを明石は一番良く知っていた。時には部下を率いて陸軍基地や演習宙域での模擬戦の時には露骨に明石への敵意をむき出しにする指揮官も珍しいことでは無かった。
「それはそうなんやけど……別所。ワレの方がよう知っとるような気がするんやけど」 
 明石の言葉が途切れたときに従卒がドアをノックする。
「おう、入れ」 
 上官の言葉を聞いてポットを抱えた小松と言う新兵が遠慮がちにそれをテーブルに置く。そしてそのまま入り口の隣の棚から茶と急須、そして湯飲みを取り出してテーブルに並べる。
「軍だけじゃなく会議と言う会議は迷走三昧だな。もう作戦や方針の優劣よりも西園寺派が白と言えば烏丸派は黒。それに誰が乗っかるかと言うような話題ばかりでめちゃくちゃだ。議会が機能しているから法令はちゃんと下りてくるし、予算も見通しが立てやすいはずなんだが、それをひっくり返そうと清原将軍なんかの息のかかった連中が怒鳴り始めて手がつけられない状況になるのがいつものことだ」 
 そう言うと別所は従卒の手から湯飲みを受け取り一口茶を口に含んだ。
「確かにな。俺もたまに会議で海軍省に出向くがほとんど意見がまとまったことなんてないぞ。散々怒鳴りあった末、その会議の議長が西園寺派なら内閣の指示に賛成。烏丸派なら意見書をつけて上に送り返す。まるで会議なんて意味が無い状況だよ」 
 魚住も茶に口をつけながらそう言った。
「やはり、大河内元帥が出てこないことには話が進まない状況ですよ」 
 手に湯飲みを握ったまま黒田がそう言って明石を見つめてくる。
「大河内さんか嵯峨さんあたりが仲裁に入らないとまずいのは分かるんだがねえ」 
 別所はそう言いながら湯飲みをテーブルにおいて頭を掻いた。だが、四人ともそれが難しいことは知っていた。海軍元帥大河内吉元は病床にあった。脳血管のバイパス手術でようやく集中治療室を出たばかりの老提督にこのめまぐるしく変わる政局や軍内部の調整を依頼するのは酷だった。また四大公三位である嵯峨家当主の嵯峨惟基大佐は軍籍を抜けて現在は遼南皇帝の地位にあり、もし動いたとしても彼の発言で不利益を得る派閥が内政干渉と騒ぎ立てるのは目に見えていた。
「ちょっと待て、連絡が入った」 
 そう言って別所が携帯端末をポケットから取り出す。そのまま画面を見た彼は突然にんまりと笑って明石達の顔を見回した。
「その御仁の到着だそうだ。秘密裏に嵯峨さんが帝都に入ったそうだ」 
 別所の言葉に明石達は安堵の表情を浮かべて従卒を一瞥した後ゆっくりと茶を啜った。だが別所は不機嫌に黙り込んでいた。
「うまく行けば良いがな」 
 その言葉に明石は不安を隠すことが出来なかった。

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