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遼州戦記 播州愚連隊 44

「ただ……」 
 周りの空気がピンと張りつめて明石の言葉を待っていた。その空気に呑まれて一瞬言葉を躊躇するがすぐに明石は気を落ち着けた。
「水がよどめば腐るものですよ。そんなところで魚は飼えない。この国の貴族制度、国家体制がよどんだ水のようなものだと思って皆さんはこの場に集まったのだと思う」 
 柄にも無く標準語を使おうとして見せるだけアクセントがいつもの関西弁に近づくのに気づきながらも明石は言葉を続けた。
「ワ……いや、私も貴族制度の恩恵を受けてきたのは事実だ。復員してからそれなりに食えたのも貴族年金のおかげ、闇屋を始める手付金もそれで出しました。でもほとんどの復員兵が金も、いや明日の食にもありつけない状況だったのは皆さんもご存知だと思う」 
 そこまで言って明石は言葉を止めた。周りの同志達は皆それなりの階級に生まれてきた者達である。彼等は庶民の困窮を『見た』と言うがそれがどの程度のものなのかは明石も知ることが出来ないことだった。そして明石自身についても闇屋でふざけた値段で取引される食品を買える層などは限られていることは分かっていた。
「だったら変えれば良いじゃないですか!」 
 明石の沈黙を破る海軍兵学校の制服を着た少年。
「変える?明らかに足りないものだと言うのに……変えれば一皿の団子が二皿になると言うんですか?」 
 自分でもアクセントがかなりおかしくなっていることは知っていたが、明石は口調を変えずに関西のアクセントのまま話を続ける。
「この国を変える?大いに結構。血のつながりで能力無視で採用された役人、親から領地を引き継いでは見たものの管理も出来ない領主、地盤を引き継いだことだけでいつまでも大臣の椅子にしがみつく政治家。それらのはしごをいっぺんに外す?さぞ爽快だとは思いますよ」 
 開き直ってそう言いきる明石。同志達はとげとげしい視線を彼に向けた。
「だが本当にそれで変わるんですか?国家の持つ最大の暴力機関である軍を動かす。それで変えられるというが本当ですか?」 
 そう言って明石は手にしたコップの中になみなみと注がれた清酒を一気に飲み下す。そして明石の視線はこの席の主である醍醐の方に向かった。
「それなら明石君は座して死を待つつもりなのかな」 
 ぽつりと醍醐がつぶやくと座の青年士官達は大きく頷いてそのまま棘のある視線を明石に向けた。
「守旧派を打倒するって言うと綺麗なもんだ。だがそこで血が流れること。その中には我々が救いたいと思う人の血も混じることになる覚悟を君達はしているのかね」 
 斎藤が明石の言葉を引き継ぐ。そして彼の言葉で熱狂の中にあった青年士官達の心が冷やされていくのを明石は見つめていた。
「それが内戦と言うものだ」 
 そう言ってにこりと笑った斎藤は楓が注いだ酒の入ったコップを傾けた。

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