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遼州戦記 播州愚連隊 84

「動きがあるようですね」 
 門の前に座っていた西園寺康子は静かに立ち上がった。杖のように傍らに構えている大きな薙刀に取り囲む決起部隊のサーチライトが輝いて見えた。兵士達は常に照準を康子に向けられるようにそれぞれに覚悟をしながら輸送車両から降りてからずっと命令を待ち続けていたが、数人の下士官が指揮車両に向かって駆け出しているのを見逃さなかった。
「誰か!」 
 振り返って一言言うと女中が一人恐る恐る康子の傍らまで歩いてきた。おぼつかない足元と真っ青な女中の顔に思わず噴出しそうになりながら康子はその肩を叩いた。
「まもなく醍醐さんの手の迎えが来ます。準備をするように」 
「で?……お……奥様?」 
 女中は兵士達のライフルと康子の薙刀を見比べて大きくため息をつく。
「心配には及びません。私が父から使うなと言われた力を使えばあの程度の手勢は数に入りません」 
 きっぱりとそう言い切る康子に女中は納得できないような顔をした後、ちらりと兵達を一瞥して門の中に駆け込んだ。
『西園寺卿に告ぐ!』 
 指揮車両からこれで七回目の降伏勧告が行なわれようとしていた。だがその音量は小さく明らかに何かが起きたことを康子に確認させる意味しか持たなかった。
『これより五分以内に投降しない場合には今度こそ武力行使に写らざるを得ない!速やかに門を開け投降するように!』 
「無駄なことはやめたほうがいいのに」 
 すぐにつぶやいて薙刀の刃をじっと眺めている康子。兵士達は彼女の余裕を理解できずにただ発砲命令を待っていた。それでも康子が表情一つ変えないところで数人の兵士達はその異常さにささやきあい不安を隠せずにいるようだった。士官達が戻ってきて再び静寂が闇夜を支配する。そんな状況でかすかだが遠くで砲声が響いた。
「始まったようね。先手必勝で行きましょうか」 
 そう言うと康子はすぐさま精神を集中して両手でしっかりと薙刀を握って振りかぶった。


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