「そないに緊張することあらへんで」
しきりと軍服のカラーを気にする正親町三条楓を見ながらぶつかりそうになりそうな頭を下げつつ第三艦隊旗艦『播磨』の艦隊司令室に明石は入った。『至誠』の文字の掛け軸がかかった司令の執務机には赤松忠満が一人、筆でなにやら書付を残しているところだった。
「おう、タコとお嬢か」
そう言うと真剣な面差しを崩して立ち上がり応接用のソファーに二人を導く赤松。女性としては長身の180cm近い楓と同じくらいの身長だがその軽い腰はどう見てもかなり背の低い人物に見えて2mを超える大男の明石はどうにも苦笑してしまう。
「あーなんかええもん無かったかな……」
「さすがに酒はあかんのと違いますか?」
「誰が酒出すなんて言うかいな。甘いもんのはなしや」
上官が二人とも関西弁を使うのを見ながら硬い表情で楓は明石の隣に腰を下ろした。
「特命……ですよね」
楓の言葉に赤松の表情がほぐれる。そして赤松はそのまま忙しく明石達の正面のソファーから飛び上がるようにして執務机の上の和紙の書簡を手にとって応接用の机に置いた。
「手紙ですか」
明石は静かにそう言って書簡に視線を向ける。楓は少しこの先の赤松の言動が予想できたと言うように不機嫌そうに頬を膨らませた。
「済まんなあ。ワシは知ってのとおりの恐妻家やからな……」
そう言って頭を掻く。公私混同。本来そんなことをしない人間と思っていた明石だが、その赤松の食えない表情に苦笑いを浮かべるばかりだった。
「手紙を届ければいいんですね」
硬い表情のまま楓は静かに書簡に手を伸ばそうとした。
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