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遼州戦記 播州愚連隊 175

「これを託されました」 
 正親町三条楓は目の前の安東恭子に彼女の兄、赤松忠満からの手紙を手渡した。沈黙する二人。そして恭子は静かに震える手で手紙を開いた。
 たまに屋敷の外では銃声が響いていた。ほとんどの政府機関は西園寺派の兵士、通称『民派』が制圧していたがいまだ烏丸派の『官派』の部隊による抵抗が続いていた。近衛師団の基地から車両を借りてこの安東邸までの間。三回ほど銃撃戦に巻き込まれるのを恐れて大回りをしたことを覚えている。
「すみません……あの人が……貞盛さんが死んだと言うのは……」 
 途中まで読んだところで顔を上げた恭子の白い顔に楓はどきりとした。それはまるで生ける屍だった。元々あまり気丈では無いとは聞いていた。鬱屈したようにいつも下ばかり向いていて心配だと楓は父の嵯峨惟基から彼女については聞かされていた。
「秋田大佐の叛乱で追い詰められて自決したらしいです」 
 ごまかすことはできない。楓はそう決意して事実を告げた。その時に表情が崩れて泣き出す恭子を想像していたが目の前の恭子はただ口を一文字に結んで手紙に目を戻しただけだった。
 母屋から離れた別宅。まるで籠の鳥のようだ。楓はそう思いながら座椅子にもたれかかり手紙を読む恭子を見つめていた。
「言い訳……こんなの欲しくありません」 
 小さいつぶやき。消え入るような言葉。楓は聞き返そうとしたがすでに彼女は手にした手紙を投げ捨てて口元に怪しげな笑みを浮かべていた。
「それは武家に生まれた定めです。事実安東大佐は何度と無く『播磨』に襲い掛かり……」 
「そんなことを聞いているんじゃないんです!」 
 急に立ち上がった恭子は投げ捨てた兄からの手紙を引き裂いた。そしてかけらを無造作に手に取るとそのまま丸めて歩き出し、それを縁側から外に投げた。
 空は相変わらずの胡州らしい赤い空だった。それを背後に背負うようにしてよろよろと楓などいないかのように歩き始める恭子。楓はどうしたらいいのか分からずしばらく呆然と恭子を見詰めていた。


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