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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 5

 会議室を出ると冷たい風が吹きぬけたので誠は思わず首を竦めた。後ろに続く要はそれを見て何か言いたいことがありそうだがあえて黙っていると言う表情でそのままアイシャの後に続いて進んでいく。
「早くしろ」
 ランに背中を叩かれて我に返った誠はそのまま廊下を小走りに進んで勤務服のポケットに手を突っ込んだまま足早に歩く要に追いついた。
「制圧用の火器ってガス弾ですか?」 
 誠の問いにいかにも不機嫌そうな顔をして要が振り向く。そして大きくため息をついて後ろを歩いているカウラに目をやってまたため息をついた。
「そんなもん警察の機動隊がデモ隊相手に使う道具じゃねえか。うちはもっと非常事態に適したのを使うんだよ。そもそもショットガン撃ちが言うことじゃねえぞ、そんなこと」 
 それだけ言うと満足したように早足でアイシャの後を追う要。誠の携帯小火器は確かに9ミリ拳銃弾用に改造されたAR15アサルトライフルの下にショットガンを実装した銃であることは確かだった。誠はまだ要の言葉の意味もつかめずに彼女達の後を追った。そのまま実働部隊詰め所と管理部の前を通り過ぎハンガーの広がる景色を見ながら階段を下りる。
 ハンガーでは修羅場の様相が展開されていた。部隊長の嵯峨曰く『上から押し付けられた』と表現される新型機の運用状態へ持ち込むための整備手順の確認訓練がいまだに続いていた。保安隊の制式採用機である『五式』よりもより古代遼州文明が使用していた人型汎用兵器に近いとされるオリジナル・アサルト・モジュール『カネミツ』、『クロームナイト』、『ホーンオブルージュ』。
 たった三機増えただけだと言うのにハンガーを走り回る技術部の技師、島田正人准尉の部下を叱る怒声はいつもよりもはるかに鋭く感じられた。
「お疲れさんです!」 
 誠は寮長を兼ねている島田に頭を下げた。島田はそれを見るとにんまりと笑いながら駆けつけてきた。
「おっ!皆さんおそろいで。キムの野郎のところですか?」 
「なんだよ、お前等には関係ねえだろ?」 
 さすがに死にそうな表情で作業をこなしている部下に背を向けて声をかけてきた島田に要は呆れたようにそう答えた。
「西園寺さん。あれは次にはうちの餓鬼どもに撃たせる予約が入っているんですよ」 
「へえ、お前等もあれを撃つのか?」 
 要の声に頭を掻いて周りを見回す島田。島田の言葉が聞こえたと思われる隊員はさらに続くだろう訓練を想像したらしくげんなりした表情で機材の影に消えていく。
「おい!西園寺!」
「無理するなよ!」 
 ランの怒鳴り声がハンガーに響く。要は舌を出すとそのままランのところに急いだ。
「神前、お前も呼ばれてるみたいだぞ」
 二人の会話に呆然としていた誠に島田が声をかける。誠も我に返って島田を置いて技術部の詰め所が入っている一階のフロアーに駆け込んだ。
「技術部の人もやるんですか?」 
 誠の問いにただニヤニヤ笑うだけの要。そして先頭のアイシャは小火器の管理を担当するキム・ジュンヒ技術少尉が主を務める技術部第二分室の扉のドアをノックした。
「開いてますよ!」 
 キムの声が響いたのでランは先頭になり部屋に入った。
「これかよ……」 
 先に入った要の声に少し興味を持ちながら続いた誠だが、そこに待っていたのは明るい青色の樹脂でできたショットガンが並んでいる光景だった。そのうちの一丁を長身の作業着に汚れた前掛けをつけた士官がランに持たせて小声で説明している。ランは何度かうなづきながらその隣に置かれた弾薬の入ったケースを叩きながら振り向いた。
「模擬弾使って射的ごっこか?つまらねえな」 
「模擬弾とは失敬な!一応鎮圧用の低殺傷弾入りのショットガンですよ」 
 それまでランと小声で話していた作業着の将校、キム・ジュンヒ技術少尉がきつい調子で要に反論した。
「威力が半端なだけになお悪りいや」 
 頭を掻いて銃に手を伸ばす要。誠はランの手元のオレンジ色の派手な弾薬の箱に目を向けていた。
 一応司法執行機関と言う保安隊の名目上、当然暴動や治安維持任務には低殺傷能力の武器の使用も考慮されており、それに適した銃も抱えていたところで不思議は無かった。事実、以前ベルルカン大陸での選挙監視活動で第四小隊と随伴した警備部の部隊が現地で活動した際の映像にも目の前の青いショットガンを抱えて警備に当たる島田達整備班長の姿を眼にしていた。
「これってどれくらいの威力があるんですか?」 
 弾の入っていないショットガンを手に弄り回している要に尋ねる誠。振り返った要の顔は明らかにがっかりしたような表情に変わっていた。
「あのなあ、そんな子供がエアガン買うときみたいなこと言うなよ。名前の通りの威力だ」 
 そう言うと静かにガンラックにショットガンを戻す要。その隣ではこの小火器管理を担当する隊の隊長であるキムがランの手元の箱を開けてバスケットに中のオレンジ色の弾薬を入れているところだった。
「まあ当たり所が悪くない限りは打撲ぐらいで済むんじゃねーかなあ……何ならお前が的になるか?」
 そのままショットガンを手に取ろうとするラン。誠は身の危険を感じてそのまま壁にまで飛びのいた。 
「いい事言うじゃねえか。じゃあ防弾プレート入りベストを貸してもらってお前は標的役を……」 
 同じようにオレンジ色の銃を手に取ろうとする要。
「西園寺さん!ふざけないでくださいよ!」 
 本当にやりかねない要を見ながら誠は泣くような調子で叫んでいた。
「それじゃあ……っとふざけてないで行くぞー」 
 ランはそう言うと一挺のオレンジ色のショットガンを手に取る。カウラもアイシャも静かにそれを手にした。
「おめえはどっちにする?」 
 要は手にした派手なオレンジ色の樹脂製のセミオートマチックショットガンとポンプアクションショットガンを誠に手渡した。
「僕はこっちが慣れているんで」 
 そう言うと誠は迷わずポンプアクションショットガンを選んだ。
 部屋を出ながらまじまじと銃を見る。派手なオレンジ色の銃が並ぶ姿は異様だった。考えれば使用弾薬が殺傷用のバックショットやスラグが入っているのと低殺傷能力の布製弾が入っている銃に見分けをつけるのは合理的だがそれにしても明らかに毒々しく塗られた銃は異様だった。
「早速訓練ですか?」 
 誠達を待ち構えていたと言うような表情の島田にランは思わず手にしていた銃を肩に背負った。
「おー、ちょっくら鴨撃ちだ」 
「冗談よしてくださいよクバルカ中佐!」 
 ニヤニヤ笑いながらボルトを磨いていた部隊で二人しかいない十代の隊員西高志兵長が叫ぶ。
「くだらないことばっかり言ってるとボコにすんぞ!」 
 要の脅しに西の後ろで端末をいじっていたアメリカ海軍からの出向技官のレベッカ・シンプソン中尉が西の前に立ちはだかる。
「お熱いことで!おっぱいお化け!」 
 いつもレベッカの豊かな胸に嫉妬している要が叫ぶのを聞くと今度はアイシャが笑い出した。
「なんだよ!」 
「いやあ、要ちゃんの反応がいつもどおりで平和だなあって思っちゃったから」 
 そう言うとアイシャは手にしたショットガンのフォアードレバーをガチャガチャと動かして見せた。
「早くしろ!」
 すでにかなり先まで歩いていたカウラの声が重機のうなるハンガーの中で鋭く響いた。仕方が無いと言う表情で要は手にした銃を肩に乗っけたまま急ぎ足で歩いた。
「でも……オリジナル・アサルト・モジュールの出る幕なんてあるんですかね?」 
 誠の問いに要は首をひねりながら私に聞くなと言うような顔をして歩き続ける。ハンガーも半分を過ぎるとすでに整備を終えて待機状態の部隊の制式アサルト・モジュール達が静かにたたずんでいる。誠はその威容にいつものパイロットの誇りを思い出しながら黙って歩き続けた。
 ハンガーを出ると思い思いに銃を背負って疲れ果てたような顔をしている兵士達が現れた。着ているのは都市迷彩柄の保安隊の制式戦闘服。さすがに訓練と言うことで防弾ベストやマガジンポーチの類は身につけていないがそれでもやはり保安隊が軍隊に準ずる組織であることを誠にも思い出させた。
「姐御は絞るねえ」 
 要が兵士達、保安隊警備部員の姿を見てつぶやく。一応中佐や大尉の階級のラン達を見つけてよろよろと敬礼する警備部員。イヤープロテクターをはずそうとする姿は明らかに疲れ果てて見えた。
「あ、ラン。これからそいつの訓練か?」 
 中で一人、きっちりと戦闘服をそろえて着込んでいる長身の女性将校が金色の髪をなびかせながら近づいてきた。警備部部長、マリア・シュバーキナ少佐。その姿を見てランはにやりと笑う。
「その様子だと的当てだけじゃなくて相当走らせたな……銃の訓練はそれからか?」 
「まあ体が資本だからな、この業界は。それと銃の扱いも多少は慣れるべきだろう」 
「慣れるってレベルじゃねーだろ」 
 ランがそう言うのももっともだった。月に一万発のアサルトライフルでの射撃訓練。そんなことをしている部隊といえば東和には他に一つもなかった。それにいつもなら先ほどの格好に金属防弾プレート入りのベストと弾のぎっちり詰まったマガジンを持てるだけ持った状態でのランニングが訓練に加わると言う。
「ランのところが甘すぎるんだ。多少は鍛えるべきだろ?」 
「予算がねーよ。うちはただでさえアサルト・モジュールなんていう馬鹿みたいに予算を食う機材を扱ってるんだ。それに茜お嬢様のお手伝いもしないといけないからな。なかなか難しいもんだよ」 
 そう言うとランは手を振って自分についてきた誠達をせかした。
「ちゃんと訓練をしておけよ」 
 マリアが明らかに誠に対してそう言った。誠も射撃に関しては自信がないこともあって申し訳ないという表情で敬礼をしてみせる。
「ついて来い!」 
 ぎこちない誠の腕を要が思い切り引っ張る。よろめきながら誠は射場が見えるハンガー裏手に向けて歩き出した。流れ弾を防ぐ土嚢のめぐらされた通路を越えると空薬莢が転がる射撃レンジが目に入る。先頭を歩いていたアイシャが手にしたバスケットからショットガンの弾薬の箱を取り出すとテーブルの上に次々と弾の箱を並べていった。
「どーれ……サンドバック弾か……こいつは銃には悪そうだよなー。袋が破れりゃ砂がバレルにへばりついて……キムも苦労しそうだよこりゃ」 
 駆け足でアイシャに追いついたランが仕方がないというようにオレンジ色の毒々しい箱を開け始める。誠やカウラも仕方がないというようにそのまま射場に上がった。
「誠、オメエ的な」 
「西園寺。冗談を言う暇があったら弾を込めろ」 
 カウラはそう言うと新しい弾の箱から取り出した弾薬を一発一発オレンジ色の銃の下に開いたローディングゲートに弾を込めていく。
「これって何が入っているんですか?」 
 実は普段から同じ構造のショットガンを銃の下にぶら下げて使用している誠の言葉に要は大きくため息を着いた。
「あのなあ、基礎も基礎だぞ。弾頭には布製の袋が入っているんだ。その中身は重量のある樹脂。約5メートルで10センチくらいの大きさに開いて目標に到達。打撃力で相手を無能力化すると言うのが売り文句だ」 
 要は呆れながら弾が全弾バレルの下のマガジンに入ったことを確認するようにローディングゲートを手でさすっている。
「実際有効性があるのが25メートルくらいだからな。かなり銃を撃つタイミングが難しい。クバルカ中佐。私からでいいですか?」 
 言葉を継いだカウラが弾を込め終わると静かにフォアグリップを引いていた。
「おっし。口で言っても分からねーだろうからな。そこの鉄板にぶち込んでやれ」 
 ランがそう言うとそのままカウラは10メートルくらい先の鉄板に狙いを定めた。すぐに初弾が放たれる。銃声の後、鉄板が鈍器で殴られたように大きく揺れる。
「へえ、面白いわね。じゃあ私も」 
 そう言うとアイシャはシャムが使っているショットガン、サイガと同型のオレンジ色に塗られたショットガンの重厚を30メートル先のペーパーターゲットに向けた。
 三発の銃声。そして着弾点で上がる土煙。
「面白いわね」 
 ニコニコ笑いながらアイシャはテーブルに置かれていた拡大鏡に手を伸ばした。
「ああ、当たってるわね。私すごいわ」 
 満足そうに頷くアイシャ。その同じ方向を要が見つめている。サイボーグらしく望遠機能を使用しているようで静かに額に右手を当てている。
「……当たり前だ、こんな距離」 
「じゃあお手本を見せてよ」
 口を尖らせるアイシャに対して笑みを浮かべてオレンジ色の銃にのフォアグリップを引く要。すぐさま五連射。すべてが15メートル先のこぶしほどの大きさの鉄板に命中する。そして満足げに全弾撃ちつくしたと誇るように誠達を見回す要。
「さすがよねえ。これは一応褒めとくわね」 
 再び拡大鏡を手に取ると頷きながらアイシャは鉄板を眺めた。おそらく当たった際に飛び散った袋の中の樹脂の塊が染め上げたのだろう。誠から見ても要の放った弾丸が全弾鉄板に命中してそれをオレンジ色に染め上げた事実を確認することが出来た。
「じゃあ私もやるか……」 
 カウラがそう言って初弾を装てんしたところでランがカウラの銃に手を置いた。
「オメー等射撃ごっこしているわけじゃねーんだ。全員そこに並べ」 
 仕方ないと言うようにカウラは銃口を上に向けて要達が使っていた射撃レンジに立った。要もアイシャも小さいとはいえ上官のランに逆らうわけには行かずに隣のレンジに移る。
「あのー僕は?」 
「神前は撃ち方自体がおかしいから。ここでアタシの撃ち方を見てろ」
 そう言うと130cmに満たない小さな体には大きすぎるショットガンの銃口をターゲットに向ける。
「まず反動は普通の殺傷弾よりでかいからな。こうしっかりホールドするわけだ」 
「まずアタシは普通の人間よりちっこいからな。こうしてしっかり銃にぶら下がるわけだ」 
 ランの声まねをする要。思わず噴出しそうになる誠だが上官相手とあって必死になってこらえる。
 完全に要を無視していたランが初弾をターゲットに命中させる。そして驚いている誠に見せ付けるようにして短い手で起用にポンピングしながら5発の弾丸を発射して見せた。
「こうやるもんだ」 
「小さいからな。よくできたなあ」 
「西園寺。一度死んでみるか?」 
 殺気立つラン。その元々にらんでいる様な顔がさらに殺気を帯びる。
「とりあえず見本だ」 
 カウラはそう言うと等間隔で五発の連射を行なう。ターゲットの金属プレートが煙に覆われる。
「低殺傷能力でもこれは危ないんじゃないですか?」
 誠の言葉に要が心底呆れたという顔をしている。
「『低』だからな。オメエが三ヶ月前まで使ってた22LR弾だって当たり所が悪ければ人は死ぬぞ。こいつも同じだ。頭とかに当たれば場合によっては十分死ぬからな」 
「そんなものよ。まあ警棒を振り回すよりは文化的でしょ」 
 要は機械のような動きで一発づつ確実に、アイシャは銃を裏返してバレルの下の弾倉にオレンジ色の派手な色のショットシェルを押し込んでいる。
「なんやかんや言いながら嫌いじゃないんだなお前等も」 
 カウラはそう言うと呆然と突っ立っている誠のひじを小突いた。仕方なく誠も不器用な手つきで弾倉を開いてショットシェルを押し込んでいく。
「遊びじゃねーんだからな。狙う対象は暴動に発展しそうな興奮状態の暴徒。それを一撃で殺さずに行動不能に陥らせる。それを頭の中でシミュレーションしながら撃てよ」 
 ランもまた装弾を開始していた。バスケットの中の弾は五箱。実銃の射撃訓練に比べると明らかに少ない。
「これも高い弾なんですか?」 
 弾を全弾装てんしてフォアエンドを引いて薬室に弾を込める誠。
「まーな。結構な値段だがスラグ弾やバックショットとはかなり弾道が違うぞ。急激に初速が落ちるからかなり狙いより下に当たることを考えろよ」
 親切なランの言葉を聴くと誠は銃口をターゲットに向けた。
「ボスン」 
 誠の撃った初弾はあっさりと出たがターゲットの手前で着弾した。
「もっと銃口を上げろ。初速は普通のスラグなんかよりぜんぜん遅いんだからな」 
 ランの言葉に少しばかり焦りながらポンピングをする。
 そして狙う。照準装置の無いショットガンでは感覚で着弾点を覚えるしかないことが誠も知っていた。
「ボスン」 
 今度はターゲットを飛び越えて白い弾頭らしきものが飛んでいくのが見える。
「ったく……お前本当に東和軍の幹部候補の課程を通過したのか?」 
 呆れる要に首をひねりながら再びショットシェルを込めて銃口をターゲットに向ける。
「ボスン」 
 ようやくターゲットの中央に弾が当たったのが分かる。人型の鉄板が揺れて着弾を表している。
「ボスン、ボスン」 
 四発撃ち尽くして誠は大きなため息をついた。
「誠ちゃん。もう少し練習しようね」 
 アイシャもさすがに呆れたと言うように誠の肩を叩く。仕方が無いとうつむく誠を見ながらカウラは自分の銃に弾を込めていた。
「まあ神前には剣があるだろ?どうせこの距離くらいでの衝突だ。警棒で対応できれば文句は無い」 
「その警棒で対応できないからこいつを使うんじゃねえのか?甘いねえ、隊長殿は」 
 カウラのフォローを台無しにする要。誠はいつものことなので逆に開き直って銃に弾を込め始めた。
「とりあえずこいつを消化しろとのお達しだ。特に神前は構えるところからはじめる必要があるな……西園寺!」 
「はい!」 
 ランの言葉に要はニヤニヤ笑いながら誠の銃に手を伸ばす。誠はこのまま何時間かこの樹脂製の割りに重い銃の構え方を繰り返させられるかと想像して大きなため息をつくのだった。







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