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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 8

「平日だねえ」 
 要はそう言うと自転車を漕ぐ。隣を走るのはカウラと誠。二人とも毎日夕方の3キロマラソンのラストと言うことで疲れを見せながら冬の空の下で走り続けていた。
「いつまでも……正月……と言うわけじゃないだろ?」 
 カウラはそう言うと目の前に見え始めたゲート目指してスパートをかけた。誠にはそれについていく体力は無かった。そのまま消えていくカウラ。
「オメエも根性見せろよ。男だろ?」 
 自転車を悠々と漕ぐ要。彼女は脳の一部以外はすべて人工的に作られた素材を組み合わせたサイボーグである。そもそも体力強化のランニングに付き合う必要は無いのだが、最近は気分がいいようでこうしてその度に自転車をきしませながらついてくる。
「ベルガー大尉……みたいには……」 
「そうか?じゃあアタシは先に行くから」
 要はそれだけ言うと一気に力を込めてペダルをこぎ始めた。すぐにその姿はゲートへと消える。
「がんばれ!あとちょっと!」 
 ゲートの手前でコートを着た女性士官が叫んでいるのが見えた。警備部部長、マリア・シュバーキナ少佐。『保安隊四大姐御』の二位と呼ばれる存在の彼女の登場に誠は苦笑いを浮かべながら足を速めた。
 保安隊で単に『姐御』と言うと技術部部長で階級も部隊長の嵯峨と同じ大佐の許明華(きょ めいか)大佐のことを指すのは隊の常識だった。そして勇猛果敢な警備部の猛者達を仕切るマリアは第二位とされた。そして運用艦『高雄』の艦長鈴木リアナ。あの突拍子の無い副長アイシャを抑えている彼女は姐御と言うより『お姉さん』と呼ぶのが隊の常識だった。
「おーい。報告書終わってねーぞ!」
 ゲートを通り抜けた誠の目の前でシャムに駆り出されて大根を一輪車に載せて運んでいるクバルカ・ラン中佐は『小さい姐御』と呼ぶのが一般的だった。
「わかって……ますよ」 
「分かってるならシャワー浴びて来い!」 
 ふらふらの誠に向けてそう言うとランはそのまま一輪車を押してハンガーに向かう。誠も仕方なくそのまま正門へ向けて歩き始めた。
「なんだ?」 
 思わずつぶやいてしまった誠の目の前にはシャムが背を向けて立っていた。その手には茶色いものが握られている。そしてよく見るとその足元には冬の夕方の弱い光を全身に浴びようと言うように転寝をする大きなゾウガメの姿があった。そしてシャムの目の前には巨大な茶色い塊が奇妙なダンスのようなものを踊っていた。
「ナンバルゲニア中尉!何をしているんですか?」 
 誠が声をかけるとシャムはめんどくさそうな表情で振り向く。そして彼女が玄関口に立つ大きな熊に何かを教えようとしていることが分かってきた。
「芸を仕込んでいるんですか?」 
 しばらくシャムの嫌な顔を無視して玄関に届いているほどの巨大なコンロンオオヒグマの子供のグレゴリウス13世に目を向けた。
 すぐにグレゴリウスが手に何かを持っているのが誠にも分かった。そしてそれがアイシャが原作を書き、それなりにネットで流通しているボーイズラブ小説をシャムが漫画化した本であることに気がついた。
「何やってるんですか?」 
 呆れながら真剣な表情の小さなシャムに目をやる。身長は140センチに届かない小柄な少女。実際は誠よりもはるかに年上で遼南内戦ではエースとして活躍した歴戦の勇士である。彼女の凄みを利かせた目は最近では誠もその恐さが分かってきたところだった。
「誠ちゃんも……アイシャの小説読むでしょ?」 
 真剣な顔でつぶやくシャム。誠はいくつかの短編をアイシャに読まされた上に漫画を描かされたのを思い出して渋々頷いた。
「男の人が読むと……どんな感じ?」 
 シャムの目はじっとグレゴリウスに注がれている。シャムが大好きな彼だが当然文字が読めるわけでもなく、人が読むのをまねして本を開いて覗き込んでいるだけだった。
「それが知りたくてこうしてグレゴリウスに読ませているんですか?」
 投げやりにつぶやいた誠を見ると今度はいかにも軽蔑するような視線で誠を見つめてくるシャムがそこにいた。
「グレゴリウスは熊だよ。漫画なんて読めるわけ無いじゃん」 
 馬鹿にした口調のシャム。時折こういうことを言われると温厚な誠もさすがにカチンと来る。
「じゃあどけてくださいよ。入れないじゃないですか」 
「?」 
 文句を言った誠にしばらく呆然と視線を送るシャム。そしてワンテンポ遅れて納得したと言うように手を打つと手にしていた干し肉をグレゴリウスの口に投げ込んだ。グレゴリウスは器用にそれを口に咥えると本を放り出してそのまま自分の小屋がある車両置き場に向かって歩き始める。
「それ、プレゼントだから」 
 のろのろ着いていくシャムがそうつぶやく。隣の亀の亀吉もゆっくりとそれについていく。仕方が無くいかにも怪しげな半裸の美少年達が描かれた同人誌を手に取るとそのまま正面玄関から部隊の宿舎に入った。
「あれ……?あれ?」 
 そこで誠は大きなため息をついた。目の前には紺色の長い髪の少佐の勤務服を着た女性士官。一番この手の本を手にしている時に出会いたくない上官のアイシャ・クラウゼだった。
「それ……シャムちゃんの……もしかして使用済み?」 
「使用って何に使うんですか!」 
「だって冬なのにそんなに汗をかいて……」 
「ランニングが終わったんです!」 
「ふーん。つまらないの」 
 そう言うと誠から関心が無くなったというように振り向いて彼女の本来の職場である運行部の部屋の扉に手をかけた。
「ああ、そうだ。シャワー浴びてからでいいと思うんだけど……」 
 今度はうって変わった緊張したまなざしを誠に向けてくる。いつものこういう切り替えの早いアイシャには誠は振り回されてばかりだった。
「ええ……なんですか?」 
 そう言う誠が明らかに自分を恐れているように見えてアイシャは満面の笑みを浮かべた。
「茜のお姉さんが来てるのよ。何でも法術特捜からのお願いがあるみたいで」 
 アイシャはそう言うとそのまま階段下のトイレに消えていった。
「嵯峨警視正が?」 
 誠は予想されたことがやってきたと言うように静かにうなづいた。ようやく間借りしていたこの保安隊豊川基地から東都の司法局ビルに引っ越した法術特捜の責任者である彼女の忙しさは誠も良く知っていた。司法局のビルには最新設備がある。データもすぐに同盟本部や各国の軍や警察のデータがかなり機密レベルの高いものまで閲覧できる権限を有しているのが売りだった。
 だがその筋の専門家の吉田に言わせると『ハッキングして下さいといってるみたい』と言うメインフレームを使っていると言うことで、茜はあまりそのことを喜んでいないようだった。事実、こうして時々保安隊に顔を出しては吉田が設計したメインフレームを使用している保安隊のメインコンピュータを利用して手持ちのデータのすり合わせなどの地味な作業を行うことも珍しくなかった。そしてその時に人手が足りないとなると一番暇と呼ばれている誠の第二小隊がその作業を担当させられることが多かった。
 そしてそんなデータの照合作業を断れない案件には今回ばかりは誠でさえ思い当たるところがある。
「面倒だなあ」 
 そう言いながら運行部の詰め所を抜け、シミュレータ室の前を通り過ぎて待機室の手前にある男子用シャワー室に誠はたどり着いた。
 先着の人物がいるらしくシャワーの音が響いていた。誠はそのまま静かに服を脱ぐと手前のシャワーの蛇口をひねった。
「神前曹長!」 
 隣から目だけを出している褐色の顔の持ち主に誠はびくりと飛び上がった。
 第三小隊三番機担当のパイロット、アン・ナン・パク。このまだ19歳の小柄な人物が誠の苦手な人物の一人だった。
「なんだ……アンか……」 
「僕だと不満ですか?」 
 そう言いながら近づいてくるアンに思わず後ずさりする誠。その少女のような瞳で見られると誠は動けなくなる癖があった。
「神前曹長はいつも僕を避けていますね」 
 アンはそう言うと悲しそうにシャワーを浴び始める。確かにそれが事実であるだけに誠は頭から降り注ぐお湯の中に顔を突っ込んでそのままシャンプーを頭に思い切りふりかけた。
「そうですよね。僕なんか嫌いですよね。僕みたいに……」 
 そこまでで言葉を切るアン。
『おい……もしかして男が好きだとか言い出すのか?まじで勘弁してください!神様!仏様!』
 アイシャの小説を読まされ続けて蕩けてきた脳が妄想を開始する。大体が立場は逆で長身の上官がひ弱な部下を襲う展開が多かったが、一部には逆転している作品もあったのでボーイズラブの世界に落ち込むのではないかと恐れつつ時が経つのを待っていた。
「僕は……」 
 アンがそういうのとシャワー室の扉が吹き飛ぶのが同時の出来事だった。
「神前!いい加減に出て来いや!いつまで待たせんだ!」 
 怒鳴る、そして壊す。これは西園寺要の十八番である。男子シャワー室に一応女性の要が乱入してくるマナー違反よりこのままアンと二人きりで時を過ごすことを想像していた誠にはありがたい出来事だった。
「もう少し待っててくださいね……なんとかしますから」
 弱弱しい誠の声を聞いた要が近づいてくるのが分かる。だが何か入り口の辺りで衣類をかき回すような音が誠の耳にも響いてきた。 
「おう、アンと一緒か……」
 しばらく沈黙が支配する。誠は息を殺して立ち尽くしていた。その隣では不安そうにちらちら誠の顔を覗き見るアンの目が動いているのが見えた。
「……もしかして……」 
 背中にシャワーを浴びながら立ち尽くしている誠。周りは見えないが明らかに要の気配は近づいている。しかしその様子がぴたりと止まった。誠が隣のシャワーを見るとアンの姿が消えていた。
「なんだよアン?」 
「西園寺さん!非常識ですよ!」 
 どうやらアンがシャワーを出て要の前に立ちはだかっているようだと言うのが目をつぶっていても分かった。誠は全身全霊をかけてアンに言いたいことがあった。
『変なことは言うなよ』
 だがそんなアンに要がひるむわけも無かった。
「なんだ?上官に意見か?いい度胸だ。そして付け加えると前くらい隠せ」 
 それだけ言うと明らかに要の足音は遠くになって行く。続いて蹴って外れた外の扉を直している音が響いてくる。誠はとりあえずの危機を脱したと大きく深呼吸した。
 だが安心は出来ない。しばらく誠は沈黙していた。
「大して汗もかいてねえんだろ?とっとと上がれよ」 
 扉を直している要の叫び声が響く。好奇心に負けて外を覗いて見ると目の前で食って掛かるには相手が悪すぎるとうつむきながら自分の個室に戻るアンがいた。彼の視線が責めるように誠に突き刺さる。それにどう答えるか迷っているうちに扉を抱えている要と目が合った。
「でも……西園寺さん。非常識ですよ。男子用シャワー室に乱入なんて」 
「は?いつも飲むたびに股間の汚えものを見せ付けて踊っている奴のいうことか?」 
 その言葉に誠は何もいえなかった。酒は弱くは無いが飲むと記憶が飛んでしまう誠の無茶な飲み方はどうにも治る気配が無かった。そして気が付くと全裸と言うことが何度も繰り返されていた。何も言い返せなくなった誠はレールに扉を乗せようと動かしている要を一瞥するとそのまま蛇口を最大にひねって無駄にお湯を出すと髪を激しい水流で洗い流した。
「僕は……」 
「黙ってろよ」 
 アンにそう言うと誠はシャワーを頭から浴び続ける。だんだん体中の石鹸の成分が抜けていくような感覚がなぜかいらだった気分を切り替えてくれていた。
「おい、終わったからな外で待ってるから」 
 そう言うと扉を取り付けなおした要はドアを閉めた。しばらくシャワーの水の音だけが部屋に響く。
「よしっと」 
 誠はお湯を止めるとそのまま廊下に出てあることに気づいた。
「あ……勤務服は更衣室だった」 
 その一言にシャワーの上から顔を出すアン。だがドアの外にはさらに耳に自信のあるサイボーグの要がいた。
「おい、取ってきてやるからそこにいろよ。ロッカーのバックの中か?」 
「ええ、勤務服は吊るしてありますから」 
 要の気配がドアから消えた。
「やっぱり西園寺大尉のことが好きなんですね……不潔ですよ」 
 アンはそう言うとそのままシャワー室のかごの中のタオルで体をぬぐい始めた。
「不潔って……」 
「だってそうじゃないですか!クラウゼ少佐とホテルに入った所を菰田曹長が見たって噂ですよ!」 
「は?」 
 誠は呆れるしかなかった。菰田邦弘主計曹長。管理部門の経理部主任の事務方の取りまとめ役として知られる先輩だが、彼は誠の苦手な人物だった。ともかく彼の率いる誠の上官カウラ・ベルガー大尉の平らな胸を褒めたたえる団体『ヒンヌー教』の教祖を務めていて部隊に多くの支持者を抱えていた。
 カウラも明らかに迷惑に思っているが、それを利用して楽しむのが運行部のアイシャ・クラウゼ少佐の日常だった。間違いなくでっち上げたのはアイシャ。そしてそれに乗って騒いでいるのが菰田であることはすぐに分かった。
「あのさあ。そんなこと信じてるの?」 
 体を拭き終えてパンツをはき終えたアンに尋ねてみる。そのままズボンを履くと気が付いたように誠に顔を向けた。そしてしばらく首をひねった後、アンの表情が急に明るくなる。
「そうですよね。そんなことやる甲斐性は先輩には無いですからね」 
「甲斐性が無いってのは余計だよ」 
 そこでにやりと笑うアン。誠もしばらくは笑顔を向けていたが、そのアンの表情が次第に真顔に変わるのを見て目をそらした。
「本当に僕のこと嫌いなんですね」 
 悲しそうにそう言うとアンはワイシャツのボタンをはめ始める。
 沈黙。これもまた誠に重く圧し掛かった。
『早く来てくださいよ!西園寺さん!』 
 心の中で願う。一秒が一時間にも感じるような緊張が誠に圧し掛かる。そんな彼に熱い視線を投げて着替えているアン。
「おーいこれ!」 
 引き戸が開き要が誠の勤務服を投げてきた。
「有難うございます!」 
「はあ?濡れちゃったみたいだけどいいのか?」 
 誠は要の到着を確認すると涙を流さんばかりに自分のシャツに手を伸ばした。
「まあいいか。アン!楓が探してたぞ!」 
「ああ、すいません」 
 着替えの終わったアンは要の言葉にはじかれるようにして飛び出していった。
「あのー西園寺さん」 
「なんだ?」 
「パンツを履きたいんですけど」 
 シャワーのブースの中でじっとしている誠を見て要は急に顔を赤らめた。
「散々見せられてるから平気だよ。さっさと着替えろ」 
「ふーん。こうして一歩誠ちゃんと仲良くするわけね」 
 突然の言葉に誠も要も驚いて入り口に視線を向けた。満足げな表情のアイシャが全裸の誠をまじまじと見ていた。
「クラウゼ少佐……」 
「さっき要ちゃんが言った通りじゃない。私も見慣れてるから平気よ」 
「僕が平気じゃないんです!」 
「へ?」 
 呆れたような顔に変わったアイシャの表情。明らかにそれが作ったような顔なので要はその頭をはたいた。
「痛いじゃない!」 
「くだらねえこと言ってねえで仕事しろ!資料を取って来いとか言われてたろ?」 
「それは要ちゃんも一緒じゃないの。このまま全裸の誠ちゃんを押し倒して……」 
「誰がするか!」 
 入り口でにらみ合う二人。誠は仕方なく飛び出してバッグから換えのパンツを取り出し無理に履いた。体を拭いていないので体に付いたお湯が冷えて水になってパンツにしみこむ。
「誠ちゃん風邪引くわよそんなことしていると」 
「お二人が出て行けばこんなことはしなくて済んだんですよ!」 
「もしかして私のせい?」 
 要と誠にそれぞれ視線を向けるアイシャ。二人が頷くのを見ると次第にすごすごと入り口に向かうが、当然のように要の袖を引いている。
「外で待ってるからとっとと着替えろ」 
 それだけ言うと要は入り口の引き戸を閉めて外に出て行った。
 一人きりになりようやく安心してズボンに足を通す誠。そのままワイシャツを着てボタンをつける。
「まだかー」 
「まだですよ」 
 待ちきれない要が外で叫ぶ。その隣であくびをしているアイシャの吐息が聞こえる。誠はワイシャツの腕のボタンをつけてさらにネクタイを慣れた手つきでしめると上着を羽織り、バッグを片手に扉を開いた。
「よし、行くぞ」 
 ようやく出てきた誠を一瞥すると要はそのまま歩き始めた。
「本当に気が短いんだから」 
「何か言ったか?」 
「べーつーに……」 
 振り返る要にとぼけてみせるアイシャ。いつものように運行部の扉の前にある階段を上がり、医務室と男女の更衣室が並んでいる二階の廊下を歩く。誰もいない廊下に足音が響き。誠達はそれを確認しながら会議室の扉の前に立った。
 アイシャがノックをする。
「どうぞ」 
 澄んだ声。嵯峨の双子の娘の姉、嵯峨茜警視正の声が響く。そのまま開いた扉の中を見れば振り返るカウラと法術特捜担当ということで呼び出された実働部隊長のクバルカ・ラン中佐の幼い顔があった。
「なんだよ神前。髪の毛濡れたままじゃねーか……。西園寺。そんなに神前を急かす必要なんてねーんだぞ」 
 ランの言葉にむっとした表情のまま彼女の隣の椅子にどっかと腰を落ち着ける要。その大人気ない様子にカウラは大きくため息をつく。
「さあ、皆さんそろったんですから……」 
 なんとか和ませようと中腰で仲介するのは技術部の整備班長の島田正人准尉。隣にいるアイシャの部下のサラ・グリファン少尉も雲行きの怪しい誠達のとばっちりを避けたいというように頷きながら要を見つめていた。
「そろったと言うことで」 
 ホワイトボードの前に立つ茜が室内を見回す。
「まあな。それじゃあ何のためにアタシ等が呼ばれたか聞かせてもらおうか」 
 要の声に微笑みで返す茜。
「実は最近演操術系の法術を使用しての悪戯のようなものが多発していますの」 
 紺の東都警察の制服が似合う茜。以前の主にこの豊川保安隊駐屯地に詰めっぱなしだったときの東和陸軍と共通の保安隊のオリーブドラブの制服とは違う新鮮な姿に誠は惹きつけられていた。
「例の件か……結局アタシ等にお鉢が回ってきたわけだな」 
 要の苦笑いを見ながら茜はなにやら端末を叩いている助手のカルビナ・ラーナ警部補に目を向けた。
 白いボードに何かの映像が映る。焼け焦げた布団。ばっさりと切り裂かれた積み上げられたタイヤの山。ガードレールが真っ二つに裂かれているのにはさすがの誠もぎょっとしてしまった。
「ごらんのように小火や器物の損壊で済んでいますが……」 
「おい待てよ」 
 話を進めようとする茜を要が不機嫌な表情で止めた。
「なんだよなんだよ。アタシ等の知らないところでこんなことまでやったのか?」 
「お前は馬鹿か?同一犯とは決まったわけじゃないだろ?」 
 立ち上がって叫ぶ要にポツリとつぶやくカウラ。要は完全にカウラの言葉に切れていつものように一触即発の雰囲気が漂う。島田とアイシャはとりあえずいつ要がカウラに飛び掛ってもいいように身構えているのが誠からすると滑稽に見えて噴出してしまう。
「神前君。不謹慎よ」 
 同じくにやけながら噴出した誠をサラがいさめる。
「どれも容疑者として上げた法術師はそんな意識は無かったと容疑を否認しているって訳だな……神前達が出会ったのもそんな事件の一つってことだな」 
 一人離れた場所からこの様子を見ていたランの言葉に茜は大きく頷いた。
「恐らくはそうでしょう。ですが……」 
 そう言うと茜は従姉に当たる要に目を向けた。要は首筋のジャックにコードをつなげてネットワークと接続している最中だった。
「どの事件も発生場所は東都東部に集中しているな。それに時間も夕方6時から夜中の12時まで。唯一の例外が正月のアタシ等が出会った小火。同一犯の犯行と考えるのを邪魔する要素はねえな」 
「馬鹿にしないでください。それくらいのことは捜査官もわかってお話しているんです!」 
 不愉快だと言うようにラーナが叫ぶ。茜は彼女の肩を叩いて頷きながらなだめて見せた。
「でもそれならうちよりも所轄に頼むのが適当なんじゃないですか?うちは豊川ですよ。どんなに急いでも半日は無駄にしますから。それに先日の厚生局事件の時に活躍した東都警察の虎の子の航空法術師部隊を待機させてローラー作戦でもやれば一発で見つかるでしょ?」 
 アイシャの言葉にもっともだと誠も頷く。
「反対する理由は無いな。クラウゼの言うことが今のところ正しく見えるのだが……」 
 カウラも同意しているのを見て要はやる気がなさそうに端末につないでいたコードを引き抜く。
「オメー等の言うとおりだが一つ大事なことを忘れてんぞ。東都警察がこの種の事件に興味を持っていればって限定が入るんじゃねーのか?アイシャのような捜査手法をとるにはさー」 
 ランの一言。見た目は8歳くらいにしか見えなくても保安隊副長の肩書きは伊達ではなかった。そして自分達が遼州同盟の司法捜査官であり東都警察の捜査官と違うと言う現実に目が行った。
「確かに東和警察は解決を急ぐつもりは無いようです。どれも他愛の無い悪戯程度で済んでいますから……でも得てしてこういう愉快犯はいつか暴走して……」 
「要は大事になる前に捕まえろってことか?面倒だなあ。どうせならこっちに引っ越して来てくれるといいんだけど」 
「そんなに都合よく行くわけ無いだろ?」 
 要の言葉に突っ込むカウラ。そのいつもどおりの情景に誠はいつの間にか癒されるようになっていた。
「でもあれだぜ。あの正月の事件以来同種の事件は発生していねえからな。もしかすると……」 
 周りを見渡してにんまりと笑う要。だが全員が大きなため息をついて白い目で彼女を見つめた。
「西園寺さん。もしかして犯人は現在引っ越し準備中で豊川近くに部屋でも借りに来ているとでも言うつもりですか?」 
 それまで沈黙を黙っていた島田の一言。隣では彼に同調するように赤い髪のサラが大きくうなづいている。
「でもあれだぞ!今の時期は年度末を控えていろいろ引越しとか……」 
「だとなんで豊川市に引っ越して来るんだ?」 
 呆れるを通り越して哀れみの目で要を見つめるカウラ。追い詰められた要は必死に出口を探して頭をひねる。そして手を打って元気良く叫んだ。
「そりゃあ法術を最初に展開して今みたいな状況を作ったアタシ等に復習するため!」 
「あのなあ、西園寺。その発想はシャムレベルだぞ……まあいいや。もし隊長の許可が出たら司法局に第二小隊を詰めさせるから。それで勘弁してくれよ」 
 ランの言葉に茜はうなづくとテーブルを整理始めた。周りの面々もそれぞれに立ち上がり持ち場へと急ごうとする。
「何だよ!テメエ等!寄ってたかってアタシを馬鹿にしやがって!」 
 怒鳴る要の肩にそっとランが手を乗せる。
「まあ良いじゃねーか。要は犯人を捕まえれば分かるってわけだ」 
 これ以上無い正論を言われてさすがの要も参ったというように肩を落とす。誠もカウラもこれから先彼女と付き合って捜査を行うだろう今後を思いやりながらそれぞれに席を立った。


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