スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 13

 沈黙。それを自分が破ることを先ほど指示された誠は額に汗を掻きながらそのタイミングを計っていた。要もカウラもアイシャもその時を待っている。そして目の前に現れた人影を確認して四人が立ち上がって敬礼した瞬間誠は口を開いた。
「私が……専従そっさかっの……」 
「馬鹿!噛むんじゃねえ!」 
 ゆっくりと会議を終えたと言うことで難しい顔で所長室に入ってきたずんぐりむっくりの豊川警察署の署長。悠然と誠の前に現れたその姿を前にして誠は緊張のあまり挨拶すらできない有様だった。そんな誠は明らかに怒りの骨髄反射を起こした要に足の親指をパンプスのかかとで踏まれた。
 飛び上がりたい痛みに耐えながら挨拶を再開しようとする誠。その痛々しい姿を見て表情を緩めた署長は笑みを浮かべながら口を開いた。
「まあ緊張しなくても……まあかけてくれます?」 
 署長は小太りで白髪が混じってはいるが良く見れば20代後半と言う感じに見えた。でこぼこコンビの大きい方という感じにも見える妙に張ったえらが特徴の角刈りの副署長。こちらは明らかに敵意で武装して誠達を見ながら自分の中で値踏みでもしているように見えた。
「ほら、座ってくださいよ」
 丸顔をさらに丸くしたように笑う署長はリラックスして応接ソファーに誠達を座らせた。
 出向メンバーとして選ばれたのは誠、要、カウラ、そしてアイシャだった。運行艦の運用研修がまだ途中のはずの艦長代理のアイシャ。だが、いつものように自分の上官で運用艦『高雄』艦長のリアナの頼みに弱いことを利用して渋るリアナを説得してなんどかこのメンバーに紛れ込んだと言う話だと誠は聞いていた。そしてどこか落ちつかな誠達の中で一人、悠然と座って小太りの署長に色目を使うところはいつもどおりのことだった。
「法術となると……うちでは素人捜査しかできないものでね」
 署長のその言葉に明らかに不機嫌そうな顔をさらにゆがめる副署長。署長は本庁からの出向のキャリア組み、副署長は上級職からの現場叩き上げと言う経歴。誠も保安隊に配属以降、なんどか警察に出入りしているうちに相手の持っている雰囲気やしゃべる内容で相手の経歴がある程度わかるようになってきていた。
 副署長の『我々にも法術に関する資料が有れば十分に捜査活動は可能なんです!』と言いたそうな顔を十分時間をかけて眺めた後、ゆっくりとアイシャは話を始めた。 
「法術に関しては未だ未解明な部分が多いですから。正直な話、警察署に閲覧権限が無い法術関係の資料を我々が所持していることは否定しません。ですがそれは上層部の決定によるもので私達の一存ではなんとも出来ません。ですので今回私達が専属捜査官としてこちらにお世話になって、それらの情報も十分駆使して解決のために全力を尽くすことに決まりました」 
 同じことを要が言ったらたぶん副署長は怒りに任せてその場を立ち去っていたことだろう。誠は言いにくい話をさらりと言うアイシャの技術に感心しながら話を聞いていた。
 文句は山ほどある。そんな顔の副署長を見るとアイシャは大きくため息をついてカウラに目をやった。カウラもそれが多少へりくだって見せろと言うアイシャの意図だと悟って静かな調子で口を開く。
「こちらもまだ捜査のノウハウを蓄積している段階です。市民社会への法術の情報提供はまだ各地で論議の最中ですが、残念なことに情報の漏洩や一部在野研究者による情報リークが進んでいるのが現状です。これからはさらに凶悪化、組織化が予想されますからできるだけ早く対応することが必要になります」 
「とうちの責任者は申しております」 
 カウラの穏やかな言葉に茶々を入れた要。その言葉に明らかに不快そうな顔をしたのはそれまで穏やかな表情だった署長の方だった。キャリアの署長。その言葉自体要の気に入る要素は無い。誠はなんとかこの場を乗り切ろうと考えはじめた。
 最初は穏やかな言葉で場の雰囲気を作ったアイシャだが、彼女は当てにならない。おそらく彼女も要とこの小太りの署長の相性の悪さには気づいているはずだった。一応義理は果たしたと言う顔をしているアイシャの本来の行動原理は『面白ければそれでいい』である。引っ掻き回しにかかられたら誠も分が悪い。一方カウラはそんな相性などは考えることもない。ただ今回の事件が本当に豊川市に舞台を移したのかを知りたいと言う職業倫理に基づいて動くだけ。
「で……この署に法術適正者は何人いるんですか?」 
 早速カウラが尋ねる。実務的な話ならと、それまで不機嫌だった副署長の方がこれからの捜査で主導権を取ろうと話を切り出そうとした。だが彼も組織人である、隣の署長に目をやった。署長はなにやら複雑な笑みを浮かべて黙って要を見つめていた。要は目をそらさずにそれに答えて卑屈そうな笑みを浮かべる。この様子に先ほどまでの不快感が吹っ飛んだようで慌てて副署長が口を開いた。
「法術適正はプライバシーの問題がありますから。それに法術師で無いと捜査官が務まらないとは到底思えません」
 犯罪捜査について持論を延々と展開したいのを我慢しているのが誠にも分かるように言葉を選んでの副署長の一言。署長も特にとがめるようなことを言わなかった部下に満足したようにうなづくとそのまま最初に誠達に向けた笑顔をわざとらしく作って話し始める。 
「法術の検査は政令に定めるとおり、警察署においても任意の検査が原則となっているので。それに適正者で能力的に貴重な人材はすべて本庁の機動部隊に転属になって……」 
「つまり手駒で使えるのはいない確立が高いと……使えねえな」 
 要の言葉に署長の米神が痙攣するのを見て誠の胃がきゅるきゅると痛んだ。
 誠の予想通り要の『使えない』に副署長まで怒り心頭という感じで膝の上の両の手をぎゅっと握り締めているのが自分を威圧しているように感じられる。誠は口の中が乾いていくのを感じていた。
「申し訳ありませんね、どうも。うちの仕事は荒事ばかりですから。後でしっかりその点は指導しておきますので。では私達はどこに行けばいいんでしょうか?」 
 アイシャも要の暴走が予想より早く始まりそうに思えたようでなんとかこの場を治める決意をしたようだった。目の前の二人の警察官僚も別に喧嘩をしたくてここにいるわけではない。早速副署長が立ち上がるとそのまま署長の執務机に置かれた電話機に手を伸ばした。
「一応、結果は期待していますので」 
 言葉の頭の『一応』に力を入れてつぶやくと署長は立ち上がる。部屋のドアが開くと二人の女性署員が現れる。
「とりあえず着替えをお願いしますよ。その格好だと軍の人間だと思われますから」 
 まだ要の言葉を引きずっていると言うような副署長の表情。誠は顔を引きつらせながら立ち上がる。
「あ、神前曹長。男子更衣室まで案内します」
 見た感じ四十手前と言う黒ぶちの眼鏡の女性署員。彼女の言葉につられて誠は一足先に廊下に出た。
 四階建ての警察署の最上階。人気が無くて物寂しくていつもシャムなどが走り回っている保安隊の隊長室の前の廊下とはまるで風情が違った。
「こちらです」 
 女性署員はそのまま階段を小走りで駆け下りる。誠は慌ててその後ろに続いた。三階を通過するとそのまま二階。当然のようにそこで廊下へと進む速度についていくのが誠には骨が折れた。
「こちらです。そしてこちらに着替えてください。すでにロッカーには名前が貼ってありますのでそちらをお使いください」 
 それだけ言うと一礼して去っていく女性署員。誠はすでに眼鏡以外の顔の特徴を忘れたほどに個性の無かった女性署員から受け取った階級章の無い制服を手にロッカールームに入る。真昼間。誰もいない。誠はさっさと着替えてしまおうと幸い目の前にあった『神前』と書かれたロッカーを開いた。
 長いこと誰も使っていなかったのか防虫剤の強い刺激臭が誠を襲う。誠はしばらく扉を開けたままそこに立ち尽くした。
『あの人達……大丈夫かな』
 考えれば考えるほど事態が悪いほうに進んでいくように感じられる。誠は仕方なく急いで着替えに取り掛かった。東都警察と東和陸軍の制服の徽章を変えただけの保安隊の制服。着替える要領は同じなのであっさり着替えは終わった。
『神前曹長』 
 調度そのタイミングで今度は男性の声がロッカールームの外から聞こえた。
「はい!着替えが終わりました!」 
 そう言って飛び出した誠の前には背広を着た中肉中背の男が立っていた。
「こちらになります」 
 誠の顔に目も向けずに振り向くと男は先ほどの女性署員と同じような早足で歩き始める。誠はそのまま彼に従って冬の弱い日差しで陰になっている二階の通路を歩き始めた。
 左側に並ぶ部屋はそれぞれ捜査関係の部署らしく私服、制服の署員がひっきりなしに出入りを繰り返していた。男はその部屋をまるでそんなものが存在しないと言うようにまん前を向いたまま歩き続ける。
 なかなかたどり着かなかったが、エレベータルームを通り過ぎて人気がなくなると男の足取りは急に遅くなった。いくつかの閉まったままの扉。そのどれを開くか迷っているように何度か身を翻した後、その中の真ん中の一番地味な扉を男は開いた。
「おう、来たか」 
 すでに東都警察の制服に着替えていた要。黙っていれば制服が似合う彼女らしく襟に警部補の階級章を光らせている。
「そういえば大丈夫?神前……一応巡査部長扱いでよかったんだな」 
 カウラから誠に巡査部長の階級章が手渡された。
「それにしても……私は似合う?」
 カウラと要が警部補の階級章をつけているのに対し、アイシャのそれは警部のものだった。
「おい、とっちゃん坊や。何でこいつが警部なんだ?」 
 誠をつれてきた男に喧嘩腰で食って掛かる要。誠は止めようと手を伸ばす体勢で話を聞いていた。
「いやあ、僕は事務方だからねえ……」 
「事務屋だと現場のことがわからねえって言う気か?うちでさえ管理部門の大将はアタシ等の行動も把握済みだぞ。なんだか東都警察も……」 
「黙れ、西園寺」 
 カウラが思い切りテーブルを叩く。
「一応、これでも仲がいいんですよ……ねえ?」 
 さすがに要の暴走が予想を超えていたのでフォローを入れるアイシャだが、にらみ合う要とカウラを珍しそうに眺める男の目に浮かんだ軽蔑のまなざし。こう言うことに敏感な要は怒りのようなものを覚えているらしいことは誠にも分かった。
「まあ……とりあえずこちらの部屋を使用してください。それと連絡は杉田と申すものが担当しますので」 
 それだけ言うと男は出て行った。いつもの面々だけになると誠達は部屋の様子を思い思いに見回した。
「用具室か。結構片付いているんだな。うちの部隊とは……」 
「でも人のいるとことじゃないんじゃないの?」 
 カウラは何とか自分を納得させるようにつぶやくがそれをアイシャがぶち壊す。確かに何もなかった。端のほうに書類のダンボールが山積みにされ、とってつけたようにいつのころの時代のものかと聞きたくなる端末が置かれた机と椅子が四つ並んでいる。
 ノックの音がした。
「どうぞ」 
 アイシャが当然のように答える。入ってきたのはかなりくたびれた背広を着た定年間際と思われるやせぎすの男だった。
「杉田さんですね」 
 アイシャの言葉にそれまでの無表情が人懐っこいものへと変わる。
「ええ、まあ」
 杉田の返事に満足げにうなづくアイシャ。要は相変わらず不機嫌そうに周りを見回している。
「ひでえ部屋だな」
「実は……上からの指示でね」 
 杉田氏が口を開くまでもなく誠達はこの惨めな有様が東都警察上層部の意図だと言うことを理解していた。
 同盟厚生局事件。一応外面的にはテロリストによる法術データ強盗事件と言う発表で落ち着いているが、三ヶ月前のその事件は厚生局による違法法術研究の事故が原因であり、その為に東都警察と保安隊が対応に当たったことは司法関係者なら誰もが知っていることだった。
 その時、虎の子の法術対応即応部隊を投入しながら何一つ点数を稼げなかった東都警察が、暴走する実験体を対峙して見せた誠達に明らかに嫉妬していると言う噂は散々聞いていた。
 そして結果が目の前の哀れな現状だった。仕方がないというように顔を怒りで引きつらせながら椅子に座るカウラ。要はもう怒りを通り越して呆れてそのまま窓から外を眺めている。
「空調はちゃんと効くのね」 
 そう言いながらそのまま奥の空調機を確認するアイシャ。誠はただ黙って杉田の顔を眺めていた。
「ご不満でも?」 
 急にそれまでの杉田の柔和な表情が緊張する。一応は東都警察の警察官。しかも見るところベテランであることは間違いない。にらみを利かせるように言われればただ黙って頷くしかない誠。
「……捜査関係の資料は閲覧できるのですか?」 
「当然です。ただし……プロテクトがかかっている部分については……」 
「安心しな。ハッカー吉田は本隊でお寝んねだよ」 
 半分やけになったように要は叫ぶとそのまま近くの席に腰を下ろした。
「それではよろしくお願いします」 
 そう言うと杉田は見放すようにドアを閉めて消えていった。
「予想したよりはかなりましなんじゃないの?」 
 早速端末を起動させながらアイシャがつぶやいた。
「でもなあ」
「西園寺。結果で示せばいい事だ」 
 カウラの言葉に渋々うなづく要。誠はただ不安で一杯になりながら自分の襟に巡査部長の階級章を取り付けていた。



FC2 Blog Ranking
スポンサーサイト

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》
ジャンル : 小説・文学

コメント

Secret

プロフィール

ハシモト

Author:ハシモト
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。