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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 16

「怪我人も無し。いいことじゃねえか」 
 全焼した廃屋を見上げながら要がつぶやいた。すでに能力暴走を起こしてパニック状態に陥ったパイロキネシス能力者の豊川商業高校の女子生徒は警察署へ向かうパトカーに乗せられて消えていた。
 あたりは消防隊員と鑑識のメンバーが焼け焦げた木造住宅の梁を見上げて作業を続けていた。
「これでもう例の犯人は豊川市に拠点を移したと考えるべきかな……」 
「カウラちゃんが珍しいわね。ちょっと結論急ぎすぎじゃないの?」 
「まあ私も『近藤事件』以降は考え方も変わったからな。法術に関してはどんどん先回りして考えない……と被害が大きくなってからでは遅いんだ」 
 黄色いテープを持ち上げて現場に入るカウラ。アイシャや要、誠もその後に続く。焦げ臭い香りが辺りにに漂っていた。現場の鑑識の責任者らしい髭面の捜査官がカウラに敬礼をした。カウラ達も敬礼をしながら辺りを見回した。
「ああ、保安隊さんからの出向している方達ですか」 
「よくご存知で」
 鑑識の男の笑み。専門技術者らしく署長はじめとする豊川署の警察官僚の含むところのある笑みとは違う頼りにしていると言っているような笑顔。久しぶりに誠も警察の人間の言葉をそのまま信じてみることができるような気分になっていた。
 だがすぐにその顔は周りの生暖かい目で見る刑事達と同じ色に染まり始める。組織の壁はやはりどこでもとてつもなく高い。 
「まあ……うちは狭いですから……それに噂はかねがね」 
 含むところがあるというような笑みにカウラもあわせて乾いた笑顔を浮かべた。
「連れていかれた女の子が……いわゆる『被害者』と言う奴ですか?」 
 誠の言葉に頷きながら鑑識の男は辺りを見回した。彼が口を開くより早く、現場の責任者らしい頭頂部まで禿げ上がった髪が目立つ定年間近と言う風な感じの巡査部長は誠の階級章を見ながら頭を掻きながら前に出てきた。その姿を見て鑑識の髭の男はそのまま先ほどまで続けていた燃えた廃屋の前の道路に散らばった家の破片を集める作業を再開した。
 巡査部長は余計なことを鑑識が言わなかったかと威圧するような視線で髭の男を見送ったあと明らかに面倒な相手をあしらうような口調で説明を始めた。
「今のところパイロキネシストの能力を使用しての放火と考えるのが妥当ですな。事実、我々が探し出した宅配便の運転手の証言でこの道路から見える壁が一気に発火したと言うことが分かりましてね。物理的にそう言う燃やし方をすれば出る科学物質の反応もないですから……すぐに非常線を張りましたから他にパイロキネシストがいたとは考えられません。まず間違いなく彼女のパイロキネシス能力が利用されてこの建物が燃えたのは事実だと……」 
 いかに自分達がこの捜査の主役か強調したいと言う意図が満々の口調に明らかに要は苛立ちを隠せない様子だった。アイシャの押しとどめる手を叩き落としてそのまま同じくらいの背の警部に挑戦的な視線を送っている。
「で、その餓鬼が何か言ってたのか?」 
 警部補の階級章の要に見つめられると頬を緊張させながら巡査部長が頭を掻く。
「まあかなりパニック状態で……本部で改めて調書を作成したときに……」
「悠長だねえ。その間にまた一つ二つ事件がおきるんじゃねえの?」 
 要の言葉にはいつもの凄みがあった。言っていることにも間違いが無いだけに巡査部長はどぎまぎしながら言葉を続ける。
「聞き出せたことは……自転車でこの道に入ってしばらくしたら意識が朦朧として気が付いたらこの廃屋が燃えていたと……」 
「ほう?気が付いたら?放火の意図があったかどうかは確かめて無いんですか?」 
 やけに丁寧に口を挟む要にむっとした表情を浮かべる鑑識の責任者の巡査部長に誠はいつの間にか同情していた。
「ですがこれは都内で昨年から続いている……」 
「んなこと聞いてんじゃねえんだよ!」 
 口答えをする相手に要が切れた。突然の恫喝の声。先ほどまで誠達の相手をしていた禿の鑑識が驚いて振り返りあんぐりと口を開けている。
「あの餓鬼が嘘ついているとか考えたことがねえのか?あ?」 
「しかし……それじゃああなた達はただの無駄飯食い……」 
 思わず本音が出て口をつぐむ鑑識の隊長。要はそれを見て満足げに頷く。
「要ちゃん。いじめはいけないのよ」
 さすがにアイシャはここで要を止めにかかった。このままならいつまでも要は目の前の巡査部長をつるし上げるばかりで話が進まない。 
「いいだろ?合法的なストレス解消法だぜ」 
「まったく趣味が悪いな」 
 いつものことなのでアイシャもカウラもニヤニヤと笑っていた。その様子が薄気味悪いと言うように巡査部長は襟を揃えると去っていった。見てみるとそこにはようやく到着した幹部と思える背広の警察官がいてすぐに敬礼すると誠達が入ることすら許されなかった廃屋の敷地へと彼等を案内している。
「間違いなくこっちに来たんだな。人の褌で相撲をとる馬鹿が」 
 これ以上の詮索はただの無駄。そう判断して振り向いた要のその言葉に一瞬で真顔に戻ったカウラとアイシャが頷く。誠はただいつものように彼女達が暴走しないように見張っていた。
「でも……放火魔ってこう言う野次馬の中にいることが多いんですよね。それにさっき法術師はすべて調べたなんて態度でしたけど法術適正は任意でしょ?」
 誠は話題を変えようと野次馬達に目を向けた。何名かの警察官が時々野次馬に声をかけて質問をしているようだが、時折逃げていく人物もいるのでとてもその質問が役に立っているようには誠には見えなかった。
「まあね。本来法術について知らなかった現場の捜査官の認識なんてそんなものよ。あの連中じゃまず犯人逮捕は無理ね」
 住宅街のお化け屋敷が延焼したことで遠くを見るとさらにこの騒動を見ようと人が集まっているのが見える。
「しかもここの捜査官の調べてるのは実際に火をつけた人間ばかりだ。この事件の主犯は火をつけるんじゃなくて火をつけさせるんだからな。放火魔みたいにいつまでもこの現場にいるかどうか……なあ、アイシャ」 
「私に聞かないでよ」 
 迷惑そうに要に向かって言うアイシャ。誠はただ訳もなく野次馬達が増えていく様を眺めていた。
「ともかく例の不動産屋めぐりを始めねえとな。いつ人死にがでるかわからねえ」 
 要の言葉に誠達の顔に緊張が走った。法術関連の事件は誠がその存在を示して見せた半年前の『近藤事件』以来、増加の一途を辿っていた。好奇心で受けた法術適性検査で突然自分に力が宿っていることを告げられた人物が暴走する話。そんな事例は法術特捜の首席捜査官の茜から嫌と言うほど聞かされていた。
 ほんのちょっとした好奇心でそれは始まる。それがいつの間にか人を傷つけるようになり、さらに重大な事件を起こすことになる。そんな典型的な法術関連事件。今回は趣が違うが確かに自分の力の使い方が来るって着ているという意味で同じ様相を呈してきた。
「じゃあ私達の捜査を始めるとするか」
 すでに車を運んできていたカウラ。その銀色のスポーツカーに誠達は乗り込む。後部座席に押し込まれた誠が現場検証中の刑事達を見れば、まるで哀れんでいるような薄笑いを浮かべて誠達が車を出すのを眺めていた。
 細い路地を抜け幹線道路へと車は進む。
「愉快犯ですかね」 
 誠の一言ににんまりと笑う要。そして次の瞬間誠の足は要のチタン合金の骨格を持った右足に踏みしめられた。
「痛いですよ!西園寺さん!」 
「当たり前だ。痛くしてるんだからな」 
 要のそんな言葉に振り向いたアイシャが苦笑いを浮かべている。カウラはまるで聞いていないと言うように変わる信号の手前で車を止めた。
「まだまだ小手調べ程度の気分だろ。この前の婆さんを標的にした時は珍しく空間制御で時間軸をいじると言う大技を使ったが、まだ空間制御系の法術を借りて何かをするって所までは考え付いていないみたいだからな。アタシなら次は干渉空間展開能力のある奴を見つけて宝飾品店に忍び込んで……」 
「ずいぶんリアルね。自分でやる気?」 
 アイシャが茶々を入れたので身を乗り出そうとした要だが、カウラはうんざりしたと言うように車を急発進させた。
「おい!ベルガー!」 
 後頭部を座席にしたたかぶつけた要が叫ぶ。だがカウラは振り向くこともしない。
「お前さんがさっき作ってたハイキング表の通りに行くつもりだがいいか?」 
「カウラちゃんはクールねえ。上官命令、それでいきましょう」 
 要は複雑な表情で頷く以外にすることは特になかった。再びカウラは左にウィンカーを出すと一方通行の横道へと車を乗り入れた。表通りから見えるビルの裏は曲がりくねった道。かつての街道筋のままの細い道の両側に狭い店舗が続いている。
「ったく再開発はまだなのか?」 
「要ちゃんのお小遣いで何とかすれば?」 
「やなこった!」 
 要とアイシャのやり取りについ噴出す誠。すぐに要のタレ目が威圧するように彼をにらんでいく。店が終わると今度はトタンでできた安っぽい壁ばかりが並ぶ平屋の家々の中へと道は進んだ。
「そこの横丁を……」 
「西園寺。私が知らないとでも?」 
 カウラはやけになって左にハンドルを切る。大きく車体は傾き、カウラのエメラルドグリーンのポニーテールが揺れる。とつぜん現れた近代的な建物。誠にもそれがどうやら不動産屋の店舗だと言うことが分かった。カウラはそのまま車は駐車場に乗り付けられ再び思い切り急停車する。
「カウラちゃん……もっと丁寧に」 
 アイシャは自分の紺色の長い髪を掻き揚げながら苦笑いを浮かべた。その座席を後ろに座る要が蹴り上げる。
「人の車だと思って……」 
 ため息をつくとカウラはドアを開けて外に出る。アイシャもつられるように出て助手席のシートを倒す。何とか要、誠が狭い後部座席から降車した。
「ここが一番か」 
 カウラの言葉に要は苦笑いを浮かべながら頷いた。
 周りの家々がどう見ても建て替えの費用が無くて修理に修理を重ねて住み続けているという平屋ばかり。そのなかでコンクリート製の築一、二年と言う二階建ての店構え。しかもどんと立つ店の看板は磨き抜かれたように光沢すら放っていた。
「こんなところで商売ができるんですか?」 
 誠は半分呆れながら白地に金の字で『豊和不動産』と書かれた看板を見上げていた。
「まともな営業をしている不動産屋ならな。でもまあ……その筋の人間なら話は別だ。それに後ろ暗い法術師が住処を探すならこう言うところのほうがぴったりだろ?」 
 そう言う要の視線の先には黒塗りの大型高級車が止まっていた。
「まるで明石中佐の車ですね」 
 誠はそういいながらこの不動産屋が要担当のその筋の人間の経営するものであることがわかった。
 誠の言葉に一度ほくそえんだ要はそのまま自動ドアの前に立った。
『いらっしゃいませ!』 
 店内に声が響いた。店員達が一同に立ち上がり誠達に頭を下げている。民間企業での仕事の経験などは学生時代に工場で鉄板を並べていたくらいの誠には異様な光景に見えて思わず引く誠。
『あんなあ。その筋の絡んでる店ってのはみなこんなもんだぜ。妙に愛想が良くて……ああ、あそこを見な』 
 小声で要がつぶやくその視線の先には大きく張り出されたスローガン。『負け犬は死ね』と言う筆で書かれた文字が壁に張り出されていた。
「あの……」 
 入ってきた要の着ているのが東和警察の制服だったことに気づいた受付の女性が一番声がかけやすそうに見えたアイシャに語りかけてきた。誠も声をかけた小柄な長い髪の受付嬢の化粧が一般のOLのそれより明らかに濃いのが目に付いてなんとなく要の言いたいことが分かったと言うようにアイシャに目をやった。
「ああ、お仕事の邪魔かもしれないけど……ちょっとお話を聞きたいの」 
 明らかに回りに聞こえるような声でアイシャが口を開いた。その様子におどおどと受付の女性は背後の事務所を見る。そこにはどう見ても回りの緑の制服を着た事務員達とは毛色がまるで違う黒い背広の恰幅のいい男の姿があった。
『やっぱりこれは西園寺さんの担当だな』 
 男が仏頂面で立ち上がるのを見て誠も納得する。以前の誠ならその男の威嚇するような視線におびえて足が震え始めるところだったが、この男と同類の前副部隊長の明石が同じような格好をしていたのでとりあえず要達を盾にして後ろで男と目が合わないように天井を見上げる程度で落ち着くことができた。
「申し訳ありませんね。うちは……個人情報の遵守をモットーにしてますから……見てください」 
 男は受付にたどり着くと背後のついたてを指差した。不動産業の営業許可証の隣には個人情報保護基準達成の証書が飾られている。だが要はまるで臆することはない。彼女が得意な腕っ節でなんとかなる相手に遭遇した時独特の笑みを顔に浮かべて受付に手を着いた。
「そりゃあ殊勝な心がけですねえ……まったく頭が下がる納税者さん。応援していますよ……納税者さん」 
 要が二回『納税者』という言葉を続けるとなぜか悪趣味な背広の男はこめかみに手をやって誠達を一人一人値踏みするような視線を向け始めた。
「あんたら本当に警察の人?」 
 真顔で聞いてきた男の視界から突然要が消えた。誠も黙っているうちに男はそのまま要に組み敷かれて床に転がっていた。
「おう、良かったな。アタシ等は現在東都警察に出向中の保安隊の実働部隊員だ……まあアタシの身分は今でも胡州陸軍のコマンド部隊にあるけどな……なんなら試してみるか?」 
 その言葉。そして生身とは思えない動きと重さで口を要に押さえつけられている男がうめく。その顔を見て要の表情がさらに残酷そうな笑みにゆがんだ。
「ほう……アタシは何度か租界でテメエの顔を見てるけど……出世したもんだなあ。鉄砲玉君」 
 要の立て続けの言葉に何かを思い出したように動きを止める男。明らかに要を見るその顔は驚きと恐怖が男を支配しているのが分かる。要は納得したように立ち上がりスカートの裾をそろえる。
「なんだと思ったら……西園寺のお嬢ですか……そうならそうで……って納税?」 
「そう!アンタ等が今年の売り上げの約40パーセントを……」 
「お嬢!勘弁してくださいよ!何が目的ですか?なんか事件でも追っているんですか?胡州の官派の残党狩りですか?」 
 泣き出しそうに跪く男に誠は哀れすら感じた。恐らく要はこの不動産屋の裏帳簿をネットで拾って脱税の記録でも見つけたんだろう。さらにまともな不動産屋のすることではない違法な活動の証拠も握っているかもしれない。彼が振り返るとカウラもアイシャも要のすることがはじめから分かっていたようににんまりと笑みを浮かべている。
「じゃあ、オメエの事務所。そっちで話そうか。ここじゃあ拙い話も出てくるんだろ……あ?」 
 とても遼州一の名家の令嬢とは思えない顔つきで男をにらみつける要。男も仕方なく立ち上がると事務所の職員が失笑を浮かべているのにいらだちながら立ち上がった。
「じゃあ……二階で」 
 そう言うと男は静かに横にあるドアを開いた。要が誠達を振り返りにんまりと笑うとそのまま付いて二階に上がる。カウラとアイシャも誠を引き連れてその後ろについてあがった。
 桐の見事な柱の通った二階。まるで雰囲気が違う部屋にはまともな企業には似つかわしくないような雰囲気の何人かの若い衆がタバコを咥えて雑談をしているところだった。そこに現れた憔悴しきった兄貴分。当然のように鋭い目つきがその後ろを歩いていた要に注がれることになった。
「客だ!話があるから出てけ!」
 男の言葉に若い衆は男に続いてくる東都警察の制服を着た誠達を不審そうな目で眺めながら奥の部屋へと消えていった。そしてそのまま誠達は応接室のようなところに通された。誠は贅を尽くした部屋の調度品に目を奪われた。社長の机の後ろには金の額縁に古そうな書が入っている。その手前にはなぜかその書を邪魔するように日本刀が飾られている。両隣の壁は高級そうな木製の棚になっており、中にはこれも磨きぬかれたのが良く分かるグラスや誠が見たことも無いような高そうな洋酒が並んでいるのが見えた。
「おい、儲かるんだなあ……不動産屋は」 
 要の嫌味にただ乾いた笑いを浮かべながら男はソファーに腰掛けた。
「ああ、お嬢と……連れの方」 
 男は手でソファーに座るように合図する。にんまりと笑った要はそのまま中央にどっかりと腰を下ろした。
「忙しい中来てやったんだ。茶ぐらい出せよ」 
「わ……わかりました」 
 そう言うと男は振り返り大きすぎる社長の机の上のボタンを押した。
「お前さんなら聞いたことはあるんじゃないか?噂じゃあ法術師適正のある人に部屋を貸すのを拒否している業者があるそうじゃないか」 
 悠然とタバコを取り出す要。カウラとアイシャが嫌な顔をするが男は気を利かせたように応接セットの大きなライターに火をつけて要に差しだす
「ああ……この業界もいろんな人がいますからねえ」 
「どう見てもやくざに見える人とか?」 
 アイシャの皮肉に男の米神がぴくりと動いた。
「なあに。私達は書類上は法令通りの商売をしている善良な市民に迷惑をかけることはしないわよ……ねえ、要ちゃん」 
「そうだな。それは別の部署のお仕事……それでだ」 
 曖昧な相槌の後で要は手持ちの端末をテーブルに置いた。そして画面を起動させるとそこには豊川市内の不動産業者の一覧が表示された。
「豊川はなんと言っても菱川系企業のお膝元だからな。不動産屋も系列が多い。そしてなぜかここの系列のお店は法術師がお嫌いと見えてアタシの耳にも入居拒否や転居要求の話が届いてきている」 
「なんだ……お嬢も知ってるんじゃないですか。大手はそういうところには敏感ですからね。特に菱川は政府とつるんでいるから法術の危険性は熟知しているんでしょう。でも基本的に大手は法術師の入居には寛容な方ですよ。付き合いのある中堅クラスの社長とかは法術師は絶対取り次がないとか言ってたのがいますからむしろ中小の業者の方がハードルは高いと思いますがね……あれですか?法術師の差別の調査をされているとか?」 
 タバコをふかす要がリラックスをしているのを見て男は安心したように笑みを浮かべてそう言った。すぐに要の目が殺気を帯びる。余計なことを聞いた。修羅場をくぐったことのあるらしい男はすぐに黙り込んで静かに腕を組んだ。
「お嬢の目的はさて置いて。まあそんな状況ですから……大手に割高な仲介料を払えない連中となると……駅前の三件はかなり法術師にはつらいですからね」 
 男はそう言うと静かにタバコを取り出した。嫌そうな視線を向けるカウラだが、要がそれへのあてつけのように自分のジッポライターを取り出す。
「すいませんね……」 
「アタシのこんなサービスはテメエじゃ無理だったろ?うれしいか?」 
 要がかつて胡州陸軍特殊部隊員として東和の沿岸部の租界での非合法物資の取引ルートを巡る利権争い『東都戦争』で潜伏して娼婦として情報収集を行なっていたことを誠にも思い出させた。
「となると……南商店街の二件」 
「ああ、そこはうちじゃないですが……堅気じゃない連中が関わってますから」 
「おう、参考にするわ」 
 要は男の指定する店にしるしをつける。そしてそのまま画面に映る商店街の店を眺めながらスクロールさせた。
「かなり絞り込めるな……今回の事件の犯人。手口からして素人。そうなるとここみたいな危ない経営者のいるところは避けるだろうから……」 
「姐さん。危ないは止めてくださいよ。うちはこれでもまっとうな商売をしているんですから」 
 淡々と自分を斬って捨てた要に泣きを入れると静かにタバコをふかす。
「でも私もそうだけど分かるの?不動産屋のどれが危ないとか、どこが法術師には紹介しないとか」 
 アイシャの言葉に一瞬要の手が止まった。心底呆れたと言う顔。それが今の要の顔に貼り付いていた。
「オメエ……この店の経営者がこいつだって分からなかったのか?」 
「そういう事がすぐ分かるのは西園寺くらいの経験が必要だろうな」 
 そう言うとカウラは自分の顔に向けて流れてくるタバコの煙を仰ぐ。そして要はしばらく放心したように黙り込んだ。
「つまり……やっぱり駅前の二件も捜査対象か。まあいいや」 
 要はそう言って頭を掻きながら男を見つめた。
「うちには法術師とわかる客からの物件の紹介はしていませんよ」
 少しばかり焦った調子の男。それを見ると要は視線を誠に向けた。
「だってよ!良かったなあ、寮があって」 
 誠はただ訳も分からず頷いた。そして要のしぐさを見て男の表情が曇るのがすぐに分かった。
「こいつ……いや、この兄さんは法術師?」
 うなづく誠。そこには先ほど要に向けたのとは別の恐怖の瞳があった。理解できない奇妙な生き物に突然であったとでも言うような目。誠も時々こう言う目に遭遇することがたまにある。法術と言う理解不能な存在が明らかになって生まれた溝をそのたびに誠は実感する。 
「そう言う事。それどころかこの『法術』と言う言葉を生んだあの『近藤事件』で暴れまわった奴」 
 要の言葉にさらに男は明らかに緊張していく。それを見ると誠の脳裏に何かが流れ込んできた。恐怖、侮蔑、敵意。それらの感情が目の前の男のものだとすぐに誠には分かってきていた。
「こんなに……」 
「どうしたの?誠ちゃん」 
 アイシャの言葉に自分がしばらく敵意の視線で男を見ていたことに気づいて誠はうつむいた。
「いつも言ってるだろ?下手な力の有無は敵意を生むだけだって……なあ」 
 要の言葉におびえるように頷く男。確かにこうしておびえられるに足る力を自分が持っていることを誠も自覚していた。
「でも……お兄さんが顔色変えたくらいじゃ法術師かどうかなんて分かりませんよ。俺だって知らなかったらつい貸しちゃうかも知れないじゃないですか」 
「そうか?なんでも一部の同業者が入居の条件に法術適正試験の受験を課しているそうじゃねえか。同業者だろ?知ってるんじゃないか?たとえばさっき言ってた社長とか」 
 そう要に詰め寄られると男はただ静かにうつむいてタバコをくゆらせるほかはなかった。
「……」 
 男が黙るのを聞いて要の顔はサディスティックな笑みにゆがんだ。その様子はカウラも察したようですばやくかな目の前に手を出してきた。
「安心しな……じゃあどこなら法術師の客を扱うことになる?」 
 大きく深呼吸をする要。アイシャもいつ要が暴走しても良いようにと鋭い目つきで彼女を見つめていた。
「駅前の三件は法術師の適性検査の陰性が紹介の条件です。それ以外だと……菱川以外の大手ですがそこも担当によっては大家が法術師嫌いだったりすると適性検査を強要するような話もありますし……」
「結論言えよ」
 いらだつ要。男はさらにうつむいて話し出す。
「規模の大小に関わらず担当者に恵まれるまで何度も通うしかないんじゃないですか?まあ小さいところは親父一人でしょうからそこは一発で分かるかもしれませんが」 
 明らかに殺気を帯びている要に少し驚きながら男は静かにそう言った。その言葉を聞くと要は立ち上がった。
「姐さん……」 
「分かった。とりあえずお前が知ってる法術師に部屋を貸しそうな業者のリストをあとでアタシのところまで送れ」 
「ホントなの?担当者次第ってことは全然絞られなかったってことよ!要ちゃん全部見て回る気?それに大手なんかだとプライバシー保護が……」 
 アイシャが文句をつけるのをタレ目でにらみ付けで黙らせた。
「仕方ねえだろ!足が資本だぜ、捜査ってのは!」 
 そう言うとそのまま一人で出て行く要。誠は男に頭を下げるとそのまま要を追った。
「西園寺さん!待って下さいよ!」 
 誠の言葉を無視してそのまま階段を駆け下りる要。誠は一階のロビーにたどり着くとそのまま全員が立ち上がって要を送り出す様に遭遇し違和感を感じながら外に出た。
「畜生!」 
 要が空を見て叫ぶ。
「仕方ないじゃないですか。狙いは良かったんですから……なんなら安そうなアパートを全部回って……」 
 要はキッと誠を振り向いた。明らかに自分に対する怒り。危ない橋をわたっている人間を追い詰めることには慣れてきた自信が有るだけに今回の法術師を紹介する不動産屋を絞り込むと言う策には自信があったのだろう。
「そんな問題じゃねえよ!今でも犯人の野郎はどこかでニヤニヤ笑ってるんだぞ!そう思うと……」 
 そう言いながら要はようやく店から出てきたカウラにドアの鍵を開けるようにと指差した。
「慌ててどうなる」 
「悠長にしているほど人間できちゃいねえんでな」 
 自嘲気味に笑う要。
「仕方が無いわね。乗りかけた船だもの。付き合うわよ」 
 助手席のドアを開けながら微笑むアイシャ。要は自分が許せないと言うように無表情を装いながら車に乗り込んだ。





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