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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 22


 二日目は冷たい雨だった。出勤時の要の悪態とアイシャの大げさな嘆きを苦笑いとともに聞いたことが懐かしく感じられる。すでに誠の勤務用の革靴の中は中敷までじっとりと冷たい雨に濡れてつま先の神経が悲鳴を上げていた。
「法術師なんざ知るか!」 
 眠りを中断されたらしい下着姿で戸口まで来た若い女性が扉を思い切り閉めた音がアパートの踊り場に響く。それでもラーナは困ったような顔で誠に目を向けた後そのまま隣の部屋へと向かう。
「失礼します!」 
 呼び鈴を押しながらラーナがインターフォンに向けて言った。
『何?』 
 声からして相手が酩酊していることはすぐに分かった。
「警察の者ですが……」 
『悪いことはしてないよ。帰ってくれます?』 
「近くで事件が多発しているので……少しお話を聞きたいんですけど……」
『事件?』 
 言葉とともに出てきたのは50前後のがっちりとした体格の男だった。すっかり白髪に覆われた頭の下には皺とシミでまだらに染まった顔に赤く色づいた鼻がぶら下がっている。
「事件?何?」 
 無遠慮な男が親切そうな物腰のラーナの後ろで棒立ち状態の誠とカウラに目をやる。
「この辺でこの半月で放火事件が連続して起こってるんですが……」
「知らないなあ……俺には関係ないし」
 すぐに部屋を閉めようとする男だがその視線がカウラに集中するとその手は自然に力が抜けていった。
「あんたも警察の人?」 
「ええ、まあ」 
 カウラはあの菰田より露骨にいやらしい視線に驚きながら呆然と立ち尽くしていた。ラーナはそれを無視して手にしていたバッグからポスターを取り出した。
「一応、犯人は法術師らしいので、もしそう言った情報がありましたらよろしくお願いします」
 ラーナからビラを受け取ると男は老眼らしくしばらく遠くにかざしてビラを眺める。
「法術師なんて……知らないなあ」 
「じゃあ最近転居してきた人の心辺りはありますか?」 
 食い下がるラーナ。だが男の関心はビラでもラーナでもなく明らかにこの男の視線を不愉快に思って貧乏ゆすりを始めたカウラにあった。
「あ、あんた!」 
 部屋の置くから若い女の声が響いた。言葉尻からこの男の妻らしいが、出てきたネグリジェ姿の女はどう見てもラーナより年下。ただしその濃い化粧はラーナと彼女がまるで別の世界に生きていると言う現実を示しているように見えた。
「そう言えば隣のアパートに引っ越してきた人。少し変だったわよ」
 女はそう言いながら亭主からビラを奪い取った。むせるような女の吐くタバコの臭いに思わず誠は顔をしかめた。
「隣の……どちらですか?大通り沿いか、裏通り沿いか」 
「ああ、どっちにもいたわね、変なの。大通り沿いに来たのは三十前後でその年の割りにいつも私服で日中に行動しているし、裏通りのはもう一回り年上で見るからに堅気じゃないっていう感じ」 
「なるほど」 
 ラーナが相槌を打つと女は気をよくして黙っている男の胸のポケットからタバコを取り出すと火をともす。
「どちらも夕方になると出かけるのよね……私が店に出るのに出かけるバスには二人とも乗ってるわよ。暇ならで良いんだけど……調べてくれないかしら?」 
 明らかにラーナを探偵か何かと勘違いしたような言葉に誠も苦笑いを浮かべる。
「ああ、参考になりました。もし分かったことがあったらお知らせしますね」 
「よろしくね」 
 女は誠に色目を使うとそのまま扉を閉めた。ラーナはそれを確認すると会話の要点を端末に入力していく。
「カルビナはたいしたものだな」 
 カウラはそのまま階段を降りながらつぶやいていた。
「要は慣れですよ」 
 冷たい水溜りが並ぶ砂利道を飛び越えながら狭い空き地に止めたカウラのスポーツカーに三人は飛び込んだ。カウラは早速気分を変えようと運転席でエメラルドグリーンの髪をそろえなおしていた。
「これも仕事ですから。それにこれで15件ほどにターゲットは絞れて来ましたね」 
「でもまだ全体の50パーセントくらいしかまわっていませんよ」 
 誠の言葉に納得したように頷くラーナ。そしてカウラが駐車場から車を出そうとした瞬間に緊急用の端末が起動して事件の発生を告げた。
『豊川駅東口で傷害事件発生!各員現場に急行せよ!繰り返す……』 
「どうしますか……」 
 誠の顔を見るとすぐにラーナは自分の端末を起動させる。すぐに近くの防犯用のカメラの映像が捉えられた。
 そこには右肩を握り締めて転げまわる男性の姿が映っていた。よく見るとその隣にはちぎれたばかりの腕が転がっている。
「こんな手口は……」
「空間を切断しての殺傷事件。ついに起きましたね」
 モニターの中、うめく男。その暴れまわるタイルの敷き詰められた地面に真っ赤な血が広がり始める。
「決まりだな」 
 答えを待たずにカウラは車を発進させた。ラーナも淡々とダッシュボードからパトランプを出して窓を開いて屋根につけた。
「間違いなく法術関係なんですか?」
 誠の水を差すような言葉。恐らくこの場に要がいたら殴りつけられていたことだろう。 
「ともかく起きたばかりの傷害事件ですから調査はすべてに優先します。しかもモニターを見る限りあれだけきれいに腕を切り落とすのは素人にはちょっと……。ただし法術師なら可能です。そう考えれば今回の事件との関係性も考えられます」 
「そういう事だ」 
 ラーナもカウラも乗り気で車を目的の駅前に向けて走り出させていた。
『おい、そっちも現場に向かうのか?』 
 画面が開いて要の活気に満ちた表情が目に飛び込んでくる。
「こういう時は生き生きしているんだな」 
『余計なお世話だ』 
 要の言葉にこちらも妙に生き生きしているカウラは車を緊急速度で走らせて行った。
「事件が起きてくれるのを待つなんて……」 
「感心できませんね。でも起きてしまったことは取り消せませんから」 
 自分に言い聞かせるようにつぶやくラーナ。誠もそんな言葉に大きくうなづいた。





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