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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 29

 軽い打撃音が何もない意識の中で大きくなるのを感じていた。それが次第に具体性を帯び、そしてそれが寝ている自分の部屋を叩いている音だと気づく。そんな中、誠は目を覚ましていた。
「なんだよ……」 
 相変わらず寮の誠の部屋のドアを叩く音は続いている。だがすぐにそれがカウラが誠を起こそうとしているのだと直感した。誠も半年近くあの三人と暮らしていれば要やアイシャならこういうときは怒鳴り込んできているはずだと言うことくらいわかっている。
「すみません……ちょっと待って……」 
 そう言って布団を払いのけて立ち上がったところでドアが勝手に開いた。
「のんびりしやがって……」 
 呆然と立ち尽くすカウラの隣の要。誠もいつものことながら憮然とした表情で要を見つめていた。すでに二人とも出勤前の身支度は済んだという感じで、パジャマ姿の誠を見下すような感じで見つめている。
「……吉田さんの調査が終わったんですか?」 
 誠はまだ半分眠っている頭に浮かんだ言葉を口に出してみた。二人とも顔を見合わせて大きなため息をついた。
「まあ、そんなところだ。とっとと着替えて食堂に来い」 
 要はそれだけ言うと立ち去る。立ち尽くしていたカウラ。ようやく布団の上にあぐらを掻いた誠の間に気まずい雰囲気が漂った。体がまだ睡眠の余韻に浸って言うことをきかない誠は何とか立ち上がろうとする。
「まあいい、ちゃんと起きてから食堂に来い。それに……そのパジャマ。ちゃんと洗濯しろ。臭いぞ」 
 それだけ言い残し消えていくカウラ。
「ドアぐらい閉めてくれても……」 
 誠は直感でそのままドアに伸ばした手を止めた。すぐにその手は何物かに強く握られている。
「クラウゼ少佐……」 
 ドアの影のアイシャの紺色の長い髪に誠はため息混じりにそう口を開いていた。
「びっくりした?」 
「いえ、慣れましたから」 
「そうつまらないのね」 
 誠の手を離してそのまま消えていくアイシャ。誠は仕方なくそのまま戸を閉じると着替えることにした。とりあえず黒い量販店で値段だけを見て買ったパジャマを脱いで美少女戦隊モノのTシャツに袖を通す。
「はあ……吉田少佐の検索結果か……」 
 ため息をつくと今度はジーンズに足を通した。そのまま寒さに耐え切れずにセーターに袖を通す。一月も終わり。地球と同じだと言う公転周期を持つ遼州の日差しもなぜか冷たい。
 これも量販店で買ったジャケットを羽織ると誠はそのまま廊下に出た。住人に整備班員の占める割合の高い寮は出勤時の騒動の中にあった。廊下を歩いても誠の隣を駆け抜けていく技術下士官が三人もいた。
「僕も急ぐかね」 
 そう言って誠は階段を駆け下りる。そして途中で洗面所に立ち寄った。
「おはようございます!」 
 突然の大声に眠っていた誠の意識が瞬時に醒める。見てみれば技術部に先日転属してきた胡州帝国出身の技術兵だった。年は確か誠よりも二つくらい上。額のほくろが特徴で時々それをアイシャに弄られているのをよく見かける。
「ああ、おはようございます」 
 誠はどうにも年上に直立不動で敬礼されるのがむず痒くなって、無視してそのまま顔を洗っていた。その間も技術兵は敬礼の姿勢を崩そうとしない。
「すいません。そんなに畏まれても……」 
「我が隊のパイロットに対する当然の礼儀であります!」 
「うちじゃあそう言うのははやりませんよ……西とかを参考にしてください」 
「了解しました!」 
 大声で叫ぶ技術兵の迫力に閉口しながら、誠はいつものように誠は食堂のドアにたどり着いた。
「遅い!遅い!」 
 カウラが珍しく大きな声で誠に叫ぶ。彼女の隣には要とアイシャ、そして都内のアパートから来たらしいラーナの姿もあった。
「緊張感が足りないんじゃないですか?」 
 ラーナのきつい一言に頭を掻きながらカウラ達の座るテーブルに席を確保する。
「結果は出たんですか?」 
 そんな誠の言葉にカウラ達は顔を見合わせた。
「法術適正があって時期的に豊川付近に移住している人物のピックアップはできたんだが……」 
 一冊のファイルをカウラが手にしているのが見える。表には写真と経歴。ぱっと見たところでページ数は二三十ページという風に見えた。
「でもだいぶ絞り込まれてきたじゃない。ローラー作戦とかをやると思えば労力は雲泥の差よ」 
「まあ……確かにそうだ」 
 浮かない顔のカウラ。納得したようなアイシャ。要は今ひとつ納得できないと言うように腕組みをしている。
「ともかく対象はかなり絞られました。後はそれぞれのアストラルパターンを検出。そして符合した人物の行動を追っていけばいいんですよ」 
「簡単に言うなあ、お前さんは」 
 ラーナの言葉に要が眉をひそめる。そして誠も今ひとつ理解できずについ朝食の乗ったトレーを持って珍しそうに自分達を眺めている島田と目があった。
「俺は……とりあえずしばらく無理だから」
 本心では先月の厚生局の法術違法研究が露見した一件のように参加したい気持ちでいっぱいなのだろう。島田は味噌汁の椀を手に持ったまま恨めしそうな視線を誠に向けてくる。 
「あてにしてねえよ」 
 そんな島田の気持ちをあえて踏みつけるようにつぶやく要。なんとも雰囲気が良くないことで誠も少し状況が読めてきた。
「それでもまだ人数が多すぎるんですね」 
 手にした冊子を手渡そうとするカウラを制して、ラーナは端末の画像を誠にも見えるようにしてみせた。そこには15人の男女の写真と経歴が並んでいるのが見えた。
「この全員に『警察のものですが……失礼ですがアストラルパターンデータの計測をお願いできますか?』と言って回るわけか……殴られるぞマジで」 
 要の言葉。そしてアイシャがため息をつく。
「でも……任意の調査でお願いすることは……」 
 誠の一言に全員の生暖かい視線が誠に向けられた。
「おい、この元となる資料。もし星を検挙して証拠に使うつもりか?どれもあのロボ少佐の違法なアクセスで見つかった資料だ。証拠どころかアタシ等が大悪人に仕立て上げられて終わりだよ」 
「さすがの西園寺もそのくらいは分かるんだな」 
「そのくらいって何だよ」 
 カウラと要がにらみ合う。誠もようやくこの15人を一人に絞り込むことの難しさに納得した。
「じゃあ……全員の行動を」 
「だから!誠ちゃん。なぜこの15人なのかを知られたら拙いわけよ。それに下手をすれば他の組織が動き出しているかもしれないしね」
 アイシャの言葉に場の空気が不意に冷えてきたのを誠は感じていた。先ほどは完全に要に拒否されてへそを曲げている島田。彼も『他の組織』という言葉を聞くと、箸を止めてしばらく考え事をするようにテーブルに茶碗を置いてこちらの様子をうかがっている。 
「それはあるかもな」 
 要はそう言うとほとんど食べ終わっていた茶碗に湯飲みの番茶を注いだ。食事を終えようとする彼女を見ても誠に食欲はわいてこない。極めて嫌な予感がその原因であることは誠にもわかっていた。
「最近聞く……例の『ギルド』ですか?」 
 誠の言葉に一同は沈黙する。
 法術の威力は明らかになればなるほど恐るべきものだと言うことが知れ渡ってきていた。各国の政府機関や軍がそれぞれに法術の研究を行っている。だが、そんな中、司法局に提供される資料の中で法術師の互助会的な組織の存在が指摘されることが増えてきていた。
 政府機関関係者の間で『ギルド』と呼ばれるその組織はすでにタブロイド紙に目的不明のテロ行為を行う団体が存在すると言う記事を書かせるほどの活動を始めていた。
「『ギルド』だけだと思う?」 
 いかにも含むところがあるというようなアイシャのつぶやき。彼女も直接は口にはしないが地球諸国や外惑星のネオナチ組織、さらに以前の同盟厚生局のように同盟組織内部でもこの事件の主犯の力に関心を持っているのは間違いない事実だ。そう思うと誠はこの事件の捜査が極めてデリケートに行われなければならないと言う事実を痛感した。
「つまりだ。アタシ等の仕事はこの15人の全員の身柄を安全に保ちつつ、その中でこの前のアストラルパターンを持った人間を特定して生きたまま逮捕することだ。分かるだろ?」 
 要の言葉に誠はつばを飲み込む。要人略取や暗殺を主任務とする胡州陸軍特殊部隊出身の要にそう言われるとさらに事件の解決へのハードルが上がるような気分になる。
「この人数で15人を……無理じゃないですか?」
「無理だろうが何だろうがやるしかないの。わかる?」 
 アイシャはそう言いながら味噌汁をすする。それに頷きつつおかずの鰯を口に咥えているカウラ。見た目は緊張感の無い光景だが、周りの隊員はすべて誠達の話を聞きながらいつでも捜査協力に立候補するようなそぶりを見せているのが誠にもわかった。 
「とりあえず測定可能な場所まで近づくのが一番だろうな。今回の違法法術行使はすべて同一犯の犯行と言うことはアストラルパターンデータで分かったんだから」
 茶碗の中の茶を飲み終えた要は覚悟を決めたようだった。
「でも本当にそうなの?このデータ自体に問題が無いと言い切れるわけ?今回だって私達のところに演操術の存在が知らされるまでタイムラグがあったわよね」 
 アイシャの何気ない指摘に突然要の表情が変わった。彼女の言葉で味噌汁を飲んでいたカウラの顔色も変わる。
「能力演操のデータは少ないですから。それが同じ人物によるものかはなんとも……」 
 ラーナの言葉に全員が言葉を呑んだ。これまで同一犯と思っていた事件が複数による犯行なら……そう考えるとすべての捜査が無駄になるように思えてきた。誠達は黙り込む。この人数で事件解決することはできない。その結論が出ようとしているときだった。
『そりゃあねえな。自分の調べたデータだろ?もう少し自信を持てよ』 
 突然端末のスピーカーから聞こえてきたのは嵯峨の声だった。いつもの嵯峨の監視癖を思い出したが誠が周りを見渡せば要もアイシャもカウラも救われたような顔をしていた。
『吉田から聞いたよ。演操術系の法術のデータなら今そちらに送ったぞ。これはかなり長期の研究の成果だからな信憑性が高いからな。まあこちらも証拠としては使えない某国の秘密実験データのコピーだから犯人の特定以外の役には立たないがな。つまり犯人を逮捕して自白させない限りこの事件は解決しないわけだ』
「叔父貴!アタシ等を踊らせて楽しいか!」 
 腹に据えかねたように要が叫んだ。顔にこそ出さないがカウラもアイシャも同意見というようにラーナの端末に映る部隊指揮官の顔を睨み付ける。
『怖い顔するなって。お前等も俺やクバルカが支えてやらなきゃならねえほど餓鬼じゃねえだろ?自立してもらわねえと俺も困るんだよ……じゃあ期待してるから』 
 そして突然のように嵯峨の言葉が終わる。
 誠にも意味は分かった。状況証拠が揃っても意味が無い。犯人を特定するだけでも無駄。すべては生きている犯人を逮捕して自白をさせ、それにあった承認や証拠を別にそろえなければ事件は解決しない。
「蜂の巣にはできないわけだな」 
 要は私服を着ても懐に下げている愛銃を叩いた。その滑稽な動きにカウラが微笑む。
「そう言う事です。多少の捜査の工夫が必要になると言うことで……ちょっとこのデータを嵯峨茜警視正に送りたいのですが……」 
 遠慮がちなラーナの言葉に要とカウラが大きく頷く。ラーナはそれを見ると再び端末にかじりついた。
「茜のお嬢さんのプロファイリングが終わるまで……時間が惜しいな。どうする」 
 要が周りを見渡す。すでに彼女の言葉が分かっているカウラとアイシャが頷く。
「とりあえず15人の現在の住所を確認。見つからない程度にその現状を観察していつでもプロファイリングの結果に対応できるシミュレーションを行なう」 
「カウラ。それだけわかってりゃ十分だ。神前。飯を食え」 
 要は満足げに握りこぶしを向けてきたカウラの右手に自分のこぶしをぶつけた。誠は一斉に出勤準備を始めた隊員達を後目に自分の朝食を取りに厨房の前のカウンターに向かって歩き出した。





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