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遼州戦記 保安隊日乗 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 37

「よー!仕事は順調か?」 
 定時丁度。どう見ても小学生のピンクのダウンジャケットを着た少女の声で誠は我に返った。
「姐御……隊は良いんですかね」 
 豊川警察署の古びた建物の奥の暗い部屋。そんな場所には似つかわしくない満面の笑みの上官クバルカ・ラン中佐に要が声をかける。
「おー。問題児がここに集まってくれたからな。静かなもんだよ……ラーナ。調子はどうだ」 
 昼過ぎに帰ってきてからラーナはほとんど画面から目を離さずにじっとしていた。何か本局で分かった事実があるのかどうか。誠達は気にはなったが声をかけられる雰囲気では無かった。無表情を顔に貼り付けたまま黙って各移動車両データを検索している。
 緊迫した表情のラーナを見つけたランも、ただ苦笑いを浮かべるばかり。手にしていた袋から缶ビールを取り出したあと、静かにプルタブを引いて口に運ぶ。そんな小さなランの視線の先では画面から目を離さない緊迫したラーナの姿があった。
「いいのかよ、餓鬼が部下の出向している警察署で飲酒してるぞ」 
「余計なお世話だ馬鹿野郎」 
 要にチャカされてもランは上機嫌にごくりごくりとビールを飲む。誠は彼女が戸籍上は39歳であることを以前書類で見せられたときの衝撃を思い出した。確かに物腰や貫禄はその年齢の方がふさわしいところがある。確かランの前の実働部隊長の明石清海中佐も39歳だったはずなので年功序列を重視する東和軍の影響力の強い司法局の人事としてはそれが的確に思える。
 そんな誠の考えとは別に相変わらずランはにやにや笑いながらラーナを眺めていた。
「何か良いことでもあったんですか?」 
 さすがにこういうことには厳しいカウラがさらにバッグから二本目の缶ビールを取り出すランを見て苦笑いを浮かべながら声をかける。
「まあー吉田の野郎との賭けに勝ったからな」 
「あの電卓と賭け?そちらはずいぶんと暇そうだねえ」
「そりゃあオメー等がいないのはでかいよ。アタシも自分の仕事がはかどって……毎日定時退勤だ」
「うらやましいねえ……」 
 要が思わず本音を口にしていた。戦闘用に調整された義体のサイボーグの要もその精神まで強化されているわけではない。戦闘用に遺伝子操作で生み出されたアイシャやカウラも、慣れない『待つ』と言う任務に疲れてすでに集中力の限界を迎えていた。誠が目を向けても三人とも憔悴しきっているのが分かる。それを見抜いたとでも言うような笑みを浮かべたランは二本目の缶ビールのプルタブを引いた。
「さっきの吉田との賭だが、今回の捜査でいつオメー等が正しい捜査手法にたどり着くかってのを賭けたんだ。アイツはラーナと西園寺がいつかは喧嘩すると読んでたが……茜の読みどおり西園寺は自分の専門じゃ無いことではおとなしいからな。おかげで今日は運転手付きで飲みにいける」
 あれだけ協力をしておきながらまるで信用がなかったことが分かって膨れる要。そのタレ目がご機嫌なランを睨み付けた。 
「勝手に飲んでろ!餓鬼!」 
 そう叫ぶと要は自分の席の端末に首筋のジャックからコードをとしだして差し込もうとした。だがその手をランの小さな手が握り締める。
「おいおい、根詰めすぎだぜ。これから長いんだ。今日は終りにして飲みにでも行こうじゃねーか」 
「それランちゃんのおごり?」 
 アイシャが飛び上がるようにして立ち上がる。それを見たランは満足げに頷いた。
「ならいいか!」 
 突然立ち上がる要の行動は誠達にすでに予想されていた。にんまりと笑いながら誠に絡みつく要。さすがにカウラやアイシャの目があるのが気になるが暴力サイボーグに逆らう度胸は誠には無かった。
「いいわけ有るか!いつ犯人が特定されるか分からないんだぞ!」 
 カウラの言葉にアイシャも頷きそのままビールを飲んでいる少女のように見えるランを睨み付ける。
「オメー等……自分が立てたプランをちゃんと把握しておけよ。神前、犯人が特定できたとしてどうする?」 
 ランの鋭い視線に誠は驚いて口ごもった。ため息をつきながらランは言葉を続ける。
「オメー等の資料は法的には何の資料的価値も無い代物だ。司法局のデータバンクは本来門外不出で外部に出ることはあり得ないことになっている。各自治体の法術適正結果も同様だ。オメー等が十五人を絞り込んだのはこの二つの資料をつきあわせた結果だろ?任意で出頭を求めるにしても担当は豊川署の捜査課になる。オメー等の仕事にゃならねーよ」 
「クバルカ中佐のおっしゃるとおりですね。たとえ容疑者が特定されても捜査権限は豊川駅前法術殺傷事件の捜査チームにありますから」 
 ランの言葉に頷きながら端末を終了するラーナ。そして彼女が顔を上げたときに彼女の同盟司法局法術特捜での上司に当たる嵯峨茜警視正が狭苦しい部屋に入ってきた。
 いかにも珍しそうに古ぼけた机や痛んだ壁を眺める紫色の着物が似合いすぎる茜に誠達は見とれていた。
「皆さん……あまさき屋は抑えましたわよ。急ぎましょう」 
「けっ!」
 明らかに場違いな格好と上品な物腰は対極に立つ要の声と同調して全員をアフターファイブモードへと切り替えていた。
「じゃあ……ラーナちゃん。先に着替えてるわよ」 
 アイシャはそう言うと恐る恐る端末を終了しているカウラを引っ張って廊下に向かう。要もニヤニヤ笑いながらその後に続いた。
「クバルカ中佐、神前曹長。ちょっとラーナと話がありますから」 
 遠慮がちにつぶやく茜の言葉に棒立ちの誠の腕を撮ってランが誠を廊下に連れ出した。
「あいつ等も色々あんだよ。とりあえず着替えて来いや」 
 そう言われた誠は不承不承定時ということで更衣室に向かう事務職員の流れに続いて建物の奥の男子更衣室に向かった。
 明らかに異物のように思われている誠。それぞれに楽しそうに雑談を続ける署員から離れて一人更衣室で着替えをしていれば、さすがにホームだった保安隊の隊舎が恋しくなってくる。
「それで……うちの家内がな……」 
 嘱託職員のような白髪の男性署員が年下の巡査部長に身の上話をしていた。最年長が46歳の嵯峨と言う保安隊では味わえない空気を感じながらジャケットを羽織る誠。そんな中で突然派手に扉を叩く音が誠の耳に飛び込んできた。
『出て来いよ!神前!』 
 あまりの激しいノックに驚く署員。そしてその視線は必然的に誠へと注がれた。驚いた誠は慌てて着替えを済ませると走り出す。
「すみませんお騒がせしました……西園寺さん!」 
「なんだよ遅いテメエが悪いんだろ?」 
 迫力のある面持ちで誠を見上げる要。その隣には髪を結びなおす途中で出てきたと思われるカウラとコートの襟を整えているアイシャがいた。
「そんなに急いでどうするんですか!」 
「いいんだよ。酒が飲めるんだから」 
「アタシはオメーのボトルまで頼まねーからな」 
 満面の笑みの要に突っ込みを入れるラン。周りの帰宅しようとしている女性署員の痛い視線が誠に向かってきていた。どれも殺気が感じられて誠はひたすら居づらい感覚に襲われる。
「でも……本当にいいんですか?」 
「何がだよ」 
 相変わらずビールを飲んでいるラン。誰も小学校低学年にしか見えない彼女を注意しないのが不思議に見える光景に誠は少し違和感を感じていた。
「だって警邏隊の巡回は深夜もあるんじゃないですか?その深夜に反応が出たら……」 
 誠の言葉に小さなランはそのまま誠の腹の手前まで歩いてくると大きくため息をついた後まるで子供のように見上げる。
「普通に犯人の反応が出てもアタシ等はなんにもできねーのは説明したろ?それとだ。警邏隊はアストラルゲージについちゃー説明なんて受けてねーんだ。異常があれば確認の連絡ぐらい入るだろ」 
 いかにも投げやりなランの言葉に誠はむっとして見下ろす。振り返るランはそんな誠を見て大きなため息をついた。
「だから焦るなって。それにだ。吉田に確認させたがあの杉田とか言うここの署長の腰巾着だが……かなりの食わせもんだぜ」
「食わせもの?」 
 カウラは得意げに署の玄関を出て行くランの後ろ姿を見ながら首をかしげていた。
「吉田がお前等に頼まれて情報を探しているときしきりに保安隊のサーバーにアクセスしている馬鹿がいてな」 
「それがあのおっさんか?……まさか」 
 要は話にならないと切って捨てるように吐き捨てた。豊川署の中庭を通り抜けそのまま裏手の駐車場に向かう。すでに六時を回れば冬の太陽は跡形もなく空から消え去って、闇だけがあたりを覆う。
「なに、本人がアクセスした訳じゃねーよ。隊長に確認したが杉田とか言う警部。外事課崩れって話だ。東都警察外事局あたりが動いていたとしても不思議じゃねーな」
「これは……また面倒な連中が出てきたな……東都警察は犯人逮捕より同盟司法局の内偵がお好きなようだ」 
 要の皮肉にランは苦笑いを浮かべる。駐車場の手前の道には吉田のワゴン車がライトを付けて止まっていた。
「っていつまでも仕事の話は野暮だな。行くぞ!」 
 誠達に手を振るとランはそのまま小走りにワゴン車の方へと走り去った。ワゴン車の後ろには白いセダン。おそらく茜の愛車だろう。
「でも本当に良いのかねえ……外野の連中が動き出しているんだろ?」 
 家路を急ぐ署員の車をやり過ごしながら要がめんどくさそうにつぶやいた。
「西園寺さん。外野って……東都警察の外事課ですか?」 
 ぼんやりとつぶやく誠を要のタレ目が見上げてくる。
「誠ちゃん。法術絡み。しかも新しい能力となれば地球諸国の研究機関も目の色変えるもの。外事課が動くも当然すぎるわね。それに同盟厚生局の時を忘れたの?地球やテロ組織。同盟非加盟国……いいえ同盟機構の内部組織の連中も今回の犯人を狙っているのよ」 
「それは分かるんですが……」 
 赤いカウラのスポーツカーが駐車場を照らす明かりに浮かんで見ても誠も要もしっくり行かない感覚が続いていた。
「逆に考えるとこれだけ注目を集めればそれぞれの組織は動きづらいだろうな。法術関連の特殊部隊の派遣は一般部隊に比べれば相当なコストとリスクが要求される。情報収集も然りだ。手駒である少ない法術師をやりくりしての調査。しかも獲物を横取りされる確率が高いとなれば手を出せる勢力は相当限られてくる。今回の法術師は直接的な破壊力がある訳じゃない」 
 カウラはそう言うとそのまま自分の車のドアを開いた。いつものように助手席の扉を開いてシートを倒すと後部座席に乗り込む要。
「低威力で高精度の兵器みたいなもんだからな、今回の法術師は。法術師のいない地域ではまるで役に立たないんだから地球での勢力争いに夢中な連中にはリスクに見合う見返りは無いだろうからな。そうなると食いつくのは遼州での活動を優位に進めたい『ギルド』と東モスレムの原理主義者連中……それにゲルパルトのネオナチくらいのものか?」 
 そう言いながら要は後部座席の自分の隣に誠を無理矢理引きずり込んだ。
「まあ遼州での利権獲得を目指す国なら手を出すんじゃないの?」 
 アイシャの言葉に要はしばらく考え込む。
「いっそのこと杉田のじいさんにどこの国が動いているか教えてもらうか?土下座でもすれば教えてくれるかもしれねえぞ」
「馬鹿なことを言うな。車を出すぞ」 
 いつの間にか覚えたカウラの苦笑いが誠の目に飛び込んでくる。ヘッドライトに照らされた駐車場。車は静かに走り始めた。
「要ちゃん……いつものは無しにしてね」 
「なんだよいつものって……」 
 要に伝説の流し目を向けるアイシャ。呆然と誠は二人を見つめていた。
「誠ちゃんのビールにウィスキーを突っ込んだりすることよ」 
「ウィスキー?アタシはウィスキーは飲まないぞ」 
「ジンでもウォッカでも同じよ!」 
 飲むと暴れる。誠の酒癖は有名だった。当然要は面白がって遠慮しながら飲む誠のコップに細工をする。そして出来上がった誠は何度となく全裸で寝ているところを目撃されていた。
「僕もお願いしたいんですが……」 
「何を?」 
 要は相変わらずとぼけていた。カウラは苦笑いを浮かべながら大通りへと車を進める。次第に冬の空は黒味を帯びて町を闇へと導いた。
「なんだか不気味な感じがしないか?」 
「なんだよカウラ。ずいぶん感傷的な物言いじゃねえか。オメエも少しは進歩したんだな」 
「酷いわよ、要ちゃん。私達だって心が有るんだから」 
 人造人間であることを指摘されるたびに嫌な顔をするアイシャが振り返る。要は隣で小さくなっている誠を突付きながら苦笑いを浮かべていた。
「でもこの街に例の犯人がいるんだ。しかも誰にも知られず次の悪戯を準備している……」 
「悪戯?そんな簡単なものかよ……」 
「簡単に感じる人種もいるんでしょ」 
 加速するスポーツカーの中でアイシャは珍しく真剣な表情を浮かべてそうつぶやいていた。



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