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遼州戦記 保安隊日乗 番外編 (2) 75


 先ほどの邪魔なコード類をパージする作業で多少は減っているコードの数だが、相変わらず多い。

『シャム!早くしろ』 

 吉田の声が響くがシャムはひたすら貧弱なカバーが取り付けられた端子を避けながら這い続ける。

『俊平……意地悪で急かしてる』 

 口を尖らせてなんとか第三小隊隊長である嵯峨楓少佐の機体のコックピットの前にまで出た。

 作業の関係上、コックピットの前では調整作業や先ほどアンに施したようなシミュレーション訓練のための端末を置くスペースがあるのでケーブルの数が減って立ち上がることが出来る程度の余裕が生まれる。

『シャム!』 

「俊平!何度もうるさいよ!」 

 そう怒鳴った後大きくため息をつくシャム。この面倒極まりない障害物競走の後には3キロ走が待っている。法術を使おうが使うまいが3キロは3キロ。空間を切り裂いて瞬時に移動することも出来るがそんなことをランが許すはずも無い。

「これも訓練、訓練」 

 自分に言い聞かせるようにしてシャムはそのままコードの森に再びもぐりこんだ。行きのあまり急がないで進んでいたときはそれほど邪魔に感じなかった定期的に出現する緑色の冷気を溜め込んでいるように煙をたなびかせているパイプが今度はやけに邪魔に感じる。

「アン君!」 

 シャムは退屈紛れに叫んでみた。

「中尉、早いですね」

 意外なほど近くからのアンの声にシャムは驚くと同時に自然と笑っていた。

「アン君が遅いんでしょ?急がないとランちゃんに怒られるよ」 

「中佐が怒るのは慣れましたから。それより中尉の方が吉田少佐に冷やかされるんじゃないですか?」 

 行く手をさえぎる一本の大きなケーブルの向こうで振り向いているアンの姿がシャムの目にも見えた。シャムは苦笑いを浮かべながら黙ってそのケーブルに手をかけた。

「急いで急いで!」 

「了解」 

 かなり遅れて出発したはずのシャムが真後ろまで来ていることを改めて確認するとアンはせかせかとコードの洞窟を進んでいった。

「西園寺大尉の機体が見えました」 

「報告は良いから急いで急いで」 

 退屈紛れのアンの言葉にシャムもさすがに飽きてそうつぶやいていた。



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