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冷笑 3

 額に汗が浮かぶ。拭う。手を見る。どう見てもねっとりとした粘液が粘り着く感覚が気にくわない。だがそれでどうなるというわけでもない。ただ道は続く。軽トラックが隣を通り抜けていく。整備が悪いのかどす黒い煙が周りを覆う。ただそれでも道は続く。
 再び坂が始まった。突然のようにのぼりはじめた道。ただ右足、左足に力を込める。それでも坂は急になっていき次第に自転車の勢いが落ちる。俺はようやくギヤを落とす決心をする。一瞬だけの軽快さ。それも本当に一瞬のこと。今度は緩まった勢いのせいでハンドルの操作が難しくなる。右へ、左へ、足を踏みしめる度に自転車は左右に揺れる。ただ揺れる。そしてその脇を営業車が通り抜けていく。ぶつかったら楽になるのかな。そんな事を考えてみる。考えてみれば40キロも出せないこんな道での接触事故。死にはしないが障害くらいは負うだろう。ただ面倒なだけだ。死にかけたことは何度かあるが、ただ面倒なだけだった。ひと思いに死ねれば楽にはなるが、人間そう簡単には死なないものだ。だから俺は自転車を漕ぐ。ただ漕ぐ。
 気がつけば左右はクヌギ林だった。子供なら、そして今が7月のはじめならそれなりに楽しめた光景かもしれない。ただ俺は中年も中年で、今は秋も過ぎようとしている時期だ。誰も楽しいことを感じることが出来るような場所ではない。木々が珍しい都会人向けに下草を刈り込んでいる訳でもない。背の高さまで生えた笹などの雑草。ただ邪魔なだけな空間。子供なら、クワガタの産地と喜び勇んで飛び込む草むらも今となってはただの枯れ草の茂みだ。ただ視界の端を彩るだけ。俺はそれを見ながら自転車を漕ぐ。
 坂はしばらくして平らな道へと到達する。雑木林もまず栗林に変わり、そして畑へと姿を変える。生姜、冬瓜、ヤマトイモと続いて落花生畑。ボッチが風に揺れている。昔なら野焼きの香りが一面に広がっていてもおかしくないがそんな人間的な光景は今はない。ただ誰もいないだだっ広い畑が続いている。その先には間伐などとうに忘れられた杉林が倒木を何本も晒した状態で広がっている。俺はギアを再び上げた。自転車は加速していく。通り過ぎる車も視界が広がったせいで一気に加速して脇を追い抜いていく。今度の速度なら転がればかなりの確率で即死出来るが安定して自転車が進んでいる今では特にわざと倒れてみせる必要を感じない。だから自転車を漕ぐ。ただ漕ぐ。


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