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冷笑 5

 自転車を漕ぐと言うことは移動距離と比例した達成感を得ると言うことが目的のはずだ。それ以上でもそれ以下でも無い。でもなんというむなしさだろう。移動がもたらす景色の変化はどれも取るに足らない。俺が動いたところでそこにあるものは変わらずにある。無関係にあり続けるその物質。あると言うことの強迫観念が俺の足をさらに動かす。そして自転車を漕ぐ。
 たとえばあの納屋だ。目の前にある目的もよく分からない木箱の上の筵に転がる猫。もしこの小動物に思考というものが存在したとして俺をどう思うだろうか?晩秋近くの日中。しかも平日。自転車を漕ぐこと。しかもこんな歩道もないような田舎道をその通過点として選んだこと。それ自体彼にとっては嘲笑に値することに思えるのでは無いだろうか? そんないわれのない恐怖が俺を襲う。当然ながら猫にそんなことを考える能力はない。そして幸いにして俺は猫の言葉は分からない。分からないことは幸せなことだ。知ったところでどうにも出来ないのが世の中だ。だから自転車を漕ぐ。
 農家の庭先を覗いていると不意に視線を感じた。小型のバイクに乗った警察官がすれ違う。こちらを見ていたのか、見ていなかったのか。そんな事はどうでも良いことだ。ただ彼が通り過ぎたこと自体俺の心の中で揺らぐものが確かに存在するのが事実なのだから。後ろめたい何か。確かにこんな時間にこんな場所を一人で自転車で走っていること自体がかなり後ろめたいことだ。普通なら、彼等が俺に要求する普通なら俺は都内でビルの合間で携帯電話を片手に商談先の指定した待ち合わせ場所に急いでいなければならないのかもしれない。だが事実はそうなってはいない。いや、それも思い過ごしなのだろう。俺は今こうして自転車を漕いでいる。それ以上のことが俺に出来るとはとうてい思えない。だから自転車を漕ぐ。職務質問はそれからだ。
 また営業車が追い抜いていった。点在する工場と資材置き場を移動する彼等はまさに一刻を争うというように明らかに制限速度の倍の速度で通り過ぎていく。だが俺には関係の無い話だ。だから自転車を漕ぐ。


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