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遼州戦記 保安隊日乗 殺戮機械が思い出に浸るとき 47

「東和軍が……遼北と西モスレムが一触即発の時期に同盟の機関に揺さぶりをかける……同盟解体後をにらんでの布石? それとも……」 

首をひねる安城の前でモニターに着信が告げられた。

「せっかく通信遮断してたのに……」 

嵯峨が恨みがましい目で安城を見るが、安城はただ無表情にその通信に嵯峨が出るように彼の肩に手を置いた。渋々嵯峨は通信端末の受信ボタンを押す。

「ラスコー! 」 

ただでさえだるそうな嵯峨の表情が疲れで押しつぶされたような表情に変わる。モニターにはでっぷりと太ったアラブ風の男の顔面が画面いっぱいに広がっている。安城はそれが西モスレム首長国連邦の現代表であるムハマド・ラディフ王のそれであることを思い出すと興味深げに嵯峨のげんなりとした顔に目をやった。

「君とワシの仲だ! 先月から通信を続けて今つながったのも神の思し召しだ! 頼みが……」

「嫌な神だねえ……まさに神のいたずらってところですか? それに俺はラスコーなんて名前は捨てたんでね」 

安城も驚くほどに不機嫌そうに嵯峨は言葉を吐き捨てた。嵯峨の貴族嫌いは筋金入りなのは知っていた。本人は捨てたつもりでも遼南王家の当主の地位がどこまででも追ってくる。僅か十二歳で皇帝に即位して翌年には廃帝とされ、さらに36歳の時にクーデターで吉田に無理矢理皇帝に返り咲かされた嵯峨の流転の人生を思えばそれも当然と安城は思っていた。

だが画面の中のアラビア王族はそんな嵯峨の感情に斟酌している余裕などは見て取れなかった。目が血走っているのは徹夜を何日も続けてきたことの証だった。大きな顔の後ろの背景を見れば、おそらくは首長会議中に藁にもすがる思い出通信を入れてきたことは容易に想像がつく。

「誇り高き王の位は自分の意志で捨てれるものでは無いぞ! 生まれて死すまで、王は王だ」 

「その国が消滅するかもしれないところの人に言われても……説得力が無いんですけど。まあ時間が無いからこちらからそちらの要件を言い当てましょうか? 遼南皇帝として遼北に圧力をかけて講和のテーブルに着けと言えと……無茶な話だ」 

「何が無茶なものか! 大陸の半分を占める遼南の意志が……」 

慌てて捲し立てようとするアラブ人の言葉に静かな表情のまま嵯峨は机を叩いて見せた。黙り込む浅黒い顔に嵯峨は嘲笑を浮かべながら静かに胸のポケットから煙草を取り出すと火を付けた。

「俺の意志は俺の意志ですよ。遼南の民意とはまるで無関係だ。それに現在の遼南の実権は宰相アンリ・ブルゴーニュの手にある。話をつけるならそちらじゃ無いですか? 」

「アイツは話にならん! 領土……」

「それなら話はおしまいですよ。俺は一同盟組織の部隊長。それ以上でもそれ以下でも無い。じゃあ切ります……」 

「ま!……待った! 」

王侯貴族の誇りとやらはどこへやら。今、画面の中に映っている巨漢の表情にはまるで資金繰りに行き詰まって不渡りを待つ町工場の社長と変わらない焦燥の表情が浮かんでいるのが安城から見てもよく分かった。嵯峨はその無様な顔色にようやく満足したように頷くと、静かに煙草をもみ消して腕を組んでじっとモニターを睨み付けた。


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