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遼州戦記 保安隊日乗 殺戮機械が思い出に浸るとき 48

「民衆が殉教者を気取り始めて手が付けられないから助けてくれってのが本音でしょ? それならそう初めから言えばいいのに……」 

嵯峨の鋭い指摘に血色の良い頬が自然と俯く。この緊迫した情勢の中でのその様子が安城から見ても滑稽で思わず吹き出しそうになる。そんな安城にちらりと目をやった嵯峨は手近にあった拳銃のカートリッジの空き箱の端にボールペンで素早く走り書きをして安城に見せた。

『この様子は録画中。そのまま遼北外務省に送信よろしく♪♪ 』 

得意げににんまりと笑う嵯峨にため息をつくと安城は画面から見えないように首筋のジャックにコードを差し込む。

「初めは法学者の指示で国境線侵犯の映像を流しただけだったんだ……情報開示が遅れているというのは常に同盟会議で我が国が指摘されてきた部分だ。それを忠実に実行して来たわけだが……」

「ただ出すだけなら良いんですがねえ……政府系の新聞ででかでかと『無神論者の挑戦』なんて見出しを出してまで発表する必要があったんですかね? あの新聞の資本を出してるのはあんただったはずだ。おそらくここまでの挑発的な記事を出すとなったらあんたにお伺いを立てないわけにはいかないんじゃないですか? 」 

明らかに見下すような視線を嵯峨はモニターに向けていた。それは一国際機関の出先の責任者が国家元首に向ける視線とは思えなかった。だが追い詰められた状況は覆すことが出来ない。王はただ黙り込んだまま次の嵯峨の言葉を待つ。

「そのまま世論は好戦的な調子を保ちつつあんたはそれに乗って国境線に軍団を集結させた。それはいい。通常兵器で軍人が殺し合うならそれは国際法上もなんの問題も無い行為だ。同盟軍事機構には悪いが俺としちゃあ好きなだけ殺し合いをしてくれりゃあいい。それでガス抜きになるならあんたも今頃はそんな顔をして嫌みな俺に通信を入れる義理もなかったんでしょ? だがあんたはそれじゃあ満足はしなかった」 

嵯峨の言葉が次第に詰問するような色を帯び始めたことにようやく王も気づいて顔を赤らめて凄みをきかせようと目つきを鋭くする。

「仕方がないではないか! 遼北は核を保有しておる。先制攻撃をされれば我が国は……」 

「じゃああんた等が先制攻撃すれば話は済むと? 二十メートルの厚いコンクリートブロックと鉛で覆われたシェルターの中のミサイル。しかも場所の特定はあんたも出来ていないとなると……西モスレムが先制攻撃をかけても数十分後には西モスレムにも核の雨が降るのはわかってた話でしょ? 人間は罪なもんだ……使えば破滅すると分かっている切り札でもあると使いたくなるものだからねえ……」 

「だがワシはまだ使っておらんぞ! 」 

「そりゃそうだ。使ってたら俺はあんたの膨張した面を見ないで済んだ。今でもいいですよ。使ってくださいな」 

嵯峨の軽口に王の顔色は青から赤へ、赤から青へとめまぐるしく変わる。だが今、嵯峨の持つ隣国遼南皇帝の位以外に王に頼る相手はいなかった。ただ自らをいかに誤魔化すかを考えているようにわざとらしい咳払いが続く。

「それにしても……優秀な西モスレムの諜報機関はどう動いてますか? ミサイル基地も直接攻撃が出来るなら通常兵器でも破壊が可能なはずですよ」 

「ほう、よくご存じで。ワシは知っておるぞ。保安隊にはお主と第一小隊の二人のおなご。それに整備士に一人不死人がおる。他にも忌々しい同盟軍事機構のシャー大尉もパイロキネシスト。他にも保安隊関係者には法術師が次々とおる」

さすがに虐め疲れたのか嵯峨がそれとなく誘いをかけてみる。王の顔は再び生気を取り戻し、にこやかに開いた分厚い唇から言葉が紡がれる。だがそれが今までの話とはまるで関係がないことが分かると安城は再びどう同情に値する悲劇の王をからかおうか考えている嵯峨をあきれ果てたような視線で見下ろすしかなかった。


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