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遼州戦記 保安隊日乗 殺戮機械が思い出に浸るとき 50

「ずいぶんとまあ剣もほろろね……」 

あきれ果てたという顔で安城はゆったりと隊長の椅子に体を伸ばす嵯峨を見下ろす。

「最悪の事態を考えない指導者と言う奴には俺は厳しいからね。21世紀。それまで当たり前とされてきた核の傘理論が崩壊したときの指導者の面もたぶんこんな感じだったんだろうな。考えてみればその理論自体が脳天気な楽天主義に依存していたんだ。指導者が破滅を望まなくても民衆の怒りが頂点に達すれば彼等は自滅を積極的に求めるようになる。第二次世界大戦の枢軸国家の末期を見て勉強しなかった愚か者と同じ面が見れるとは……良い勉強になったでしょ? 」 

嵯峨のいたずらっ子のような表情はこの事態をいかに他人事のように彼が見ているかの表れのように感じて安城は不機嫌になった。

「そんな一時の感情で動いている民衆に同情するつもりにはならないの? 」 

安城の棘のある調子の言葉だが、椅子から身を起こした嵯峨にはただ空虚な笑顔が浮かぶだけの言葉で自説を語り始めた。

「同情? なんで俺が……。先ほどの話の続きで言えばヒトラーと言う指導者を祭り上げて自滅に至った民衆を同情しろってことになるが……そのヒトラーは自著で『民衆は豚である』と言い切った男だよ。そいつを祭り上げるんだ……豚に同情するのはベジタリアンだけで十分だよ。それに俺はヒトラーの言葉にいつも付け加えたくなる言葉があるんだ」 

相変わらずの殺気を放つ嵯峨の表情に安城はうんざりと開いた顔で頷いた。

「豚は飼い主の破滅を望んだりはしないものだ。そう言う意味では目先の正義感で自滅を受け入れる民衆は豚以下だ。かと言って俺は人を信じない訳じゃないよ。一人一人の人間。顔を持った人間として目の前に立っているときはそれぞれに個性と魅力を持って俺の前に現われる。彼等に同情するのは尤もな話だ。でもね。彼等が民衆という集団意識の中に埋没したとき。それは同情できる人間の姿じゃない。自らの判断を放棄し、熱狂に身を任せて唯々諾々とどこで聞いたか知らないご高説を延々と説いて回る馬鹿野郎。そんな奴に同情するほど俺は酔狂じゃ無いよ」 

嵯峨はそこまで言うと安城が自分の言葉を拒絶していることに気がついて頭を掻きながら椅子にもたれかかった。

「確かに集団心理に飲まれた人間に同情するなというのは理解できるけど……」 

「ああ、その話は俺の個人的な見解だから……それより秀美さんは吉田の野郎の件で来たんでしょ? 」 

ころころと話題をすり替えておいてその責任を自分に振る嵯峨のやり口にただため息だけで安城は答えた。

「実はね。これは俺も今日になって気づいたんだけど……」 

嵯峨はそう言うと安城が首のジャックからコードを引き抜いた机の上の端末に手を伸ばした。予定表が現われ、一週間後に準備が始まる保安隊の演習の日程表が選択される。

「演習? 同盟が存続するかどうかも分からないのに? 」 

安城の皮肉を込めた言葉に嵯峨は一瞥してにやりと笑った後、日程表の中の運用艦『高雄』での離発着訓練の実行場所の部分を選択してそのまま拡大した。小さめの画面の一隅と言うこともあり、安城は身を乗り出してそれをのぞき見る。その時に襟元から肌が見えるのを嵯峨がにやにや笑いながらのぞき見るのを見て安城は鋭い視線を嵯峨に送った。

「東和第十六演習宙域……聞かない場所ね」 

「ああ、この三十年間演習の行われた記録は無い場所だ。ただし十年ほど前から東和宇宙軍の輸送艦艇が週に一便、その中央にある遠州支援センターにいろいろ物資を届けている。しかも荷物は超一級のセキュリティーが掛かっている……そこに今更俺達が呼ばれたのか……興味のある話だと思わない? 」 

嵯峨の茶目っ気のある笑顔。それが油断なら無いものだと分かってはいるが、確かに話の中身は安城にとっては興味深いものだった。


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